●救いなき箱庭で 世界は、少年少女と庇護者の運命を救ってはくれなかった。首を落とされた神はもとより彼らを救う事などあるはずもなく、平等に見届けるだけで終わらせた。 世界を繋いだ守護者は、そんな神にも祈りを捧げた。そう、それだけの結末だったはずなのだ。 しかし、不出来な位階の構成は、そんな世界の綻びにだって従順で恭順で無残で無様。残された彼女たちの存在証明すら、無形の悪夢に変えてしまうだけだった。 世界は今日も、誰も救わない。 ●偶像と夢の終わり 「『女神様(マザー)』ってフィクサードの話は、聞いたことあるか? 覚えてるか、の方が正しい奴も居るかもな」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の問いは、その場に揃ったリベリスタの何名かを驚愕させるに足る問いであった。 『女神様(マザー)』。かつてアークに倒されたフィクサードであり、彼女が庇護していたノーフェイス数名がリベリスタ達の尽力により討伐された過去がある。その後アークの処理班により、ノーフェイスの亡骸は確保され、人知れず葬られたわけだが……そう過去の話ではない。 「あいつの根城だった『ガーデン』、要は廃教会なんだが……あそこの首がない偶像がな、E・ゴーレムとして革醒したらしい。増殖性革醒現象にしては随分のんびりとしたもんだが、ヘッドレスじゃそんなもんだろうな」 首がないことと革醒が遅れたことに因果関係があるのかどうかは兎も角、『ガーデン』が再び戦場になるというのも、奇異な偶然もあったものである。 「まあ、奴はヘッドレスだからな。シーレス、ヒアーレス、ついでにトークレスだ。音や見た目じゃ左右されないかもな? 人が信じられない神も偶像もあるだけ無駄だ――下らないボーナストラックなんてブレイクしてやれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月01日(水)00:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●終わりを始める、ということ 偶像は、「そう」作られたことことが全ての発端であり存在定義であり宿命であった、という認識がある。 神の現身(うつしみ)である以上、望まれることも疎まれることも或いは存在を否定されることもあるだろうという意識がある。 故に。この世全てが闇に落ち、淀んだ未来を携えて立ち上がったその日からずっと願っていたことがある。 救済の時は、来たれり。 誰もいない壇上に一人、頭を喪った「神」の造形のまま、腕を広げ、声なき声でただ叫ぶ。 ●心せよ、神の歪みは深く昏い (形あるもの故に、人の手か時の流れによって朽ち往くは仕方ない事ですが……こんな形で歪み喪われるのは、見たくないものです) 千里眼を通して見た情景を、如何様な言葉で表現すればよかったのか――その歪みは、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)の胸に去来する想いを締め上げる。 嘗て死力を尽くして勝ち取った勝利がその側から穢されていくその錯覚。心の痛みを、その穴を異物で埋め尽くされる不快感。 なればその不快感を、もう一度勝利の快哉にて埋めねば割りに合わない。 「敵は、中央最奥、壇上で何事か行っているようですが……恐らく、意味のないことです。距離は、遠距離攻撃であれば一息で有効射程に迫れますが、接近するには先手を譲る必要はある、と思います。背後にステンドグラスがありますので、星川さんはそこから突入すると思われます」 そんな彼女に気遣わしげな視線を向ける『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は、得物の調子を確認しつつ深く頷き、決意を確かなものへと練成する。 (世界が人を救わないなら、俺が人を救って見せる) 必ず。傍らの友諸共、救えるものは救うと誓った、それが彼の矜持である。 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の持つ想いは、拓真のそれと近いものがある。誰かの前に立つことで、その背中で誰かを護る。過去にあった出来事、救いのない結末に想いを馳せることは、救えなかった何かの痛みを背負うこと。ならば、彼に出来ることはこれから広がる悲劇を止めることだけだろう。 背中に背負う誰かを守るために。それこそが彼を戦場へと導く理由だった。 「縋る事で救われる方がいるのであれば偶像崇拝を否定する物ではないのですが……」 「『その者が生きた証』となるものを壊さねばならないとは、悲しいものだ」 『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)と『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)に去来する想いも、複雑極まりないものだ。方や、神への祈りを糧に生きてきた少女の願いと。他方、『敵』の定義が複雑に絡み、深い懊悩を背負う物の感情。戦い一つで出る結論ではないが、今を思えばこそ、その身の糧になることだろう。 『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)の想いは、もっと単純で、且つ純粋なものだ。世界の底、『ボトム・チャンネル』であるこの世界の祈りを聞き届ける神が、果たして居るのかどうか。答えは否。神を否定することと、立ち塞がる敵を打ち倒すことは彼女にとって大きな差異など存在しないのだ。 対し、「鰯の頭も信心から!」と意気込む『素兎』天月・光(BNE000490)のような人間も存在することは忘れてはならない。信じ、祈ることを信じること。即ち祈るという感情を否定させない、という決意のひとつなのだろう。 『星守』神音・武雷(BNE002221)、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)、『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)の三名の感情は、それらの感情とは、恐らく深く縁を結ぶことはなかったのかもしれない。或いは、内奥に秘めて、戦いに全てを捧げることを決意したのかもしれない。こと、戦闘後に想いを馳せるレイチェルは些か気が急いていると思わないでもないが、年頃の少女らしい、素直な感情なのかもしれない。 《こちらの準備は整いました。十数えた後、突入します》 悠月のハイテレパスが、別働隊として動いていた『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)と雪白 桐(BNE000185)へと飛ぶ。ステンドグラスの影に潜んで機を伺っていた天乃は、訪れた戦いの機会に全身を身震いさせた。恐怖など、彼女には無い。ただ、目の前に立つ敵を打倒したい。より命を燃やし、削りあう戦いがしたい。自らが望む高みを得るために、ただ只管に、戦いに真摯である彼女の想い。 カウントが半分を割る。皮肉だと、桐は思う。誰かの悲しみを癒すために作られた神の偶像が、悲しみを広げる愚物へと堕したことに。或いは、それを与えた運命に。 悠月のカウントが、零を刻む。 歪みに現出した神の現身は、果たして守護者との接敵を果たしたのである。 ●運命を背負い、信仰に嘆く者たち 救いあれ。 天乃の一撃がヘッドレス・アイドルに届くより僅かに早く、その手のひらはレイチェルへ向けて掲げられていた。くい、と手のひらを上にして持ち上げたのと時を同じくして、レイチェルは片膝を衝く。救いを騙った殺意の波は、予備動作すら感知できないままに「終わっていた」のだ。 ――圧倒的な先制攻撃だった。少なくとも、一撃で全てを終わらせるほどではないが、しかしその体力を半ば以上奪った威力は決して看過できるものではない。 「なんて威力だ……想像以上に厄介な相手だな!」 「厄介……けど、倒さない、と」 天乃の背面攻撃を受けても微動だにしないヘッドレス・アイドルと、激しく咳き込むレイチェルを背に、武雷は薄ら寒いものを覚えた。彼の鉄壁とも言える護りを以てすれば耐えることはできる。だが、長期戦になったらどうか? 何かの手違いでレイチェルを欠いたとしたら、カルナ一人で戦い抜くことは出来るか? 想像を上回る事態を前に、彼に出来るのは護ること、そしてなにより、己の技能でその能力を見抜くこと。 「往きます……拓真さん、光さん、気をつけて!」 「問題ない!天月、行くぞ! 合わせろ……っ!」 「大丈夫だよ、やっちゃって!」 長椅子から長椅子へと飛び移りながら、光と拓真は自身の力を高め、有効射程へと近づいていく。中央を陣取る朱子と快は、自らへと攻撃を集中させんが為に正面から愚直に前進し、狙い易い印象を与えようとする。 その背後、一息で魔弾の射界を確保した悠月のそれは、練り上げた魔力を以て偶像を打ち据える。折り重なる様にして卯月の気糸も放たれ、その注目を得ようとする。だが、それらの一撃を受けて尚、偶像は身に纏った余裕を崩すこと無く、悠々と前進する。背後から追う天乃より、正面から来る敵たちを悠然と迎え撃つ。偶像が偶像たる救いを顕現するために。 カルナ、そして自身の癒しの波動を以て何とか窮地を脱したレイチェルだったが、彼女の目から見ても、その状況は芳しくないものであった。 快と朱子、二人の重々しい一撃が偶像の胴を揺らす。拓真の連撃に身を揺らし、しかし次いで放たれた光の連携を悠然とかわし、窓から姿を現した桐の一撃を無視し、腕を広げる。 「不味い、全体攻撃だ……っ! 備えろ!」 拓真の直観からくる叫びが早いか、偶像は腕を交差させて振り下ろす。波打つ波長は、偶像が志向した方向、最もメンバーが集まっている方向へ向けて、各々の夢を括り千切ろうと舞い踊る。一拍早くレイチェルを庇うことに成功した武雷は、エネミースキャンを通して見えた事態の深刻さに喉を鳴らした。 「アイツ、的を絞りきれてない以上、まとめて倒すことを優先してるんじゃないのか……!?」 「何だって……!」 全力で一撃を受け止め、自らを的にかけさせようとしていた快にとって、それは想定外の事態であった。 攻撃を集中させるために、自身の身を差し出す――近接攻撃、或いは単体攻撃を主とした敵でさえあれば、その数が多ければ多いほど効果的であったのかもしれない。結果として的を絞りきれず、ダメージの分散が可能であったのだから。 だが、相手は射界に捉え、存在を認識すればすべての敵を攻め立てることのできる能力を持つフェーズ2。的を絞れないなら、ただ悠然と蹂躙することを選択するのは当然の流れだったのだ。それが、彼らにとって一つ目の誤算。 カルナの歌が、足りなければレイチェルの癒しがメンバーの継戦能力を高め、アラストールのブレイクフィアーが穢された運を浄化する。全員の攻撃を集中させ、一の回避に五の有効打を重ねる形で、順当に偶像の勢いを削いでいく。だが、拓真が連携を意識して放ったところで、光、そして桐の連携意識のズレが、圧倒的優位に揺さぶりをかける。身を翻し、腕を刃に変えて振り下ろされた首刈りの一撃は、天乃の胸元を強かに切り裂く。運命を燃やすには至らない。全身を波打つ血流はいや増して、彼女の精神を加速させる。 「もっと……もっと、戦おう?」 苛烈に、しかし年齢にそぐわない妖艶さをかいま見せ、天乃は笑う。望んでいた、と。その戦いを心から楽しむ、その瞬間を。 大きく跳躍し、範囲ぎりぎりを見極め――放たれる刃の乱舞。偶像の全身を切り刻んだその傷口は、無知全能の不遜な名乗りを打ち崩すに相応しく、仮初の命を漏出させる。赤く染め上げられたそれが石膏像を濡らす様は、確かにある種の奇跡の具現。 全力を以て圧し、或いは圧され、一進一退の攻防は続く。事実として、彼らの被害値は想定の範囲を超えることはなく、善くコントロールされたダメージにより、カルナの負担を減ずることもできた。 だが。 それすらも神の見えざる手に招かれた必然の掌上だとすれば、それはとても残酷な結論。 戦線の崩壊が迫る状況を察知し、武雷が前へと駆ける。拓真が振り向きざまに叫ぼうとしたし、平時であればその警句は間に合ったはずである。 大きく、偶像が両手を広げる。その位置を中心に巻き上がる風は、その身を削り中空へと舞い踊らせる。――そう。ヘッドレス・アイドルが持ちうる最大の一撃、『石槍百雨』の準備行動。本来であれば、十全たる猶予を与えられるべき大規模行動。しかし、運命の女神はリベリスタへと微笑まない。準備を本来の数分の一の時間で終わらせた偶像は、幾許か軽くなり、薄くなった腕を掲げ、 指向するすべての対象へと、終焉を招き寄せた。 『ガーデン』に、数秒の沈黙が訪れる。偶像の正面全て、その内壁を打ち崩した石膏の槍は幾千。その猛攻を凌ぎ切ったのは、鉄壁の身を以て守り切った武雷、朱子、辛うじて戦列を離れた快と彼により庇われたカルナと、脅威の反射神経を以て回避しきった光、そして背後へ回っていた天乃……以上、六名だけであった。 「倒れる訳には……いかんのでな!」 だが、リベリスタ達にはその限界を超える手段がある。権利がある。運命を燃やし、或いは燃やさずとも運命の寵愛を受ける権利が、彼らにはある。拓真が、悠月が、卯月が、己の限界を寵愛に還元して立ち上がる。全てを燃やして、残された戦いの権利を振り絞る。 最大の一撃を振り絞った偶像が、全ての槍を自身に還元して元の強度を取り戻すには残すところ二十秒。リベリスタ達の全てがそれを打ち崩すには、十二分に与えられた猶予であったといえよう。 斯くして、頭部を喪った神の現身は、元の姿を取り戻すこと無く、粉々の石塊となって終わりを告げたのである。 ●終わりゆく夢へ 偶像の及ぼした破壊は、『ガーデン』を完全な廃墟へと変えた。だが、それはある意味、その身を呈して不可侵の地へと変えんとした、必死の抵抗だったのかもしれない。 アークの処理班により搬送される数名の仲間を視界に収め、残されたメンバーは忸怩たる想いで戦場を見つめる。 (……もしも本当に、神という者が居るのであれば何れ俺も裁かれるだろうな) 拓真は思う。敵であろうと味方であろうと、正義であれ悪であれ、自らが手を汚して成し遂げたこと、そのつけをいずれ己は払うことになると。同様の懊悩を、全てのリベリスタが抱えるべき明白な業の一つとして彼は受け止める。 「祈る神、もいないけど……手を合わせるぐらい、の事はしても、いい」 天乃は、そう言って偶像の残骸へと静かに手を合わせた。神が為ではなく、終わりを悼む己のために。死力を尽くして打ち倒した勝利の残滓を、今はただ深く祈る。 リベリスタ達が去ろうとしたところで、もう一度悠月は『ガーデン』を見上げる。 歪みの破片を全て喪い、再び廃墟と成り果てるその地。偶像があるべき位置、その足元に刻まれた文字。 『己自身で助かるべし』と、最後まで彼女は、願ったのだと知る。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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