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君に捧げるヤンデレソング

●マルチデッドエンド搭載
「ねぇ、こたえて……こたえれるよね?」
 アパートの一室。窓辺から外を見ればじりじりと日差しが入り込んできてとにかく暑い。まだ本格的な夏でもないのに……昼間だからしょうがないのか。
「こたえてよ……こたえろ!」
 現実逃避しても無駄か。

 視線を正面に向ければ女が一人。恋人の千鳥だ。
 長い黒髪に水色の瞳。色白の肌は透き通るようで、その顔は十人が十人振り返るほど美しい。
 付き合い始めた頃は皆に羨ましがられたし、俺も自慢だった。
 付き合うまでは携帯も持っていなかったのに、俺には何度もメールを送るのが可愛かった。大人しくて人混みが苦手なくせに、俺の側を離れようとしないところも可愛かった。
『お前の彼女おかしいんじゃないか?』
 友人のやっかみだと聞き流していた。

 周囲から友人が消えた頃にようやく気がついた。
 そそくさと皆距離を取る。一体どうしたんだ――問いかけようと近づけば誰もが背を向けた。
 ――視線を感じて振り返ると彼女がいた。
 笑っていた。

 携帯のメールを確認する。
 可愛らしい文面の彼女のメール。
 整理する。
 フォルダ:友人『91件』
 フォルダ:千鳥『7642件』
 5月分――

 最初に離れていった友人に連絡を取った。
 躊躇しながらもそいつは携帯を見せてくれた。
 千鳥からのメールが来ていた。
『れおんに近づかないで』
 簡潔なメール。
 1時間の内に百通。

 千鳥に電話をする。
 問い詰めようと口を開く前に。
「なあに? なあに? 私を呼んでくれたのれおん。そうよね、れおんが私以外を呼ぶはずないものね。私の名前だけ呼んでくれてたらいいの。他の女の名前なんて間違っても呼ばないで。私の体は目と口も含めて全部あなたのものなんだから、あなたのものも私のものなのよ。ね、でしょう?」
 電話を切った。

 千鳥からの連絡を一切断った。
 大学で会わないようにした。
 バイト先で新しい彼女を見つけた。
 自然に縁も切れるだろう。

 そして今。
 千鳥は俺のアパートにいる。
「れおんは優しいの。愛してるって言ったのよ。ずっと愛してくれるって言ったのよ。ねぇ。愛してるでしょ?」
 黙っていた。黙っていたが千鳥は俺を許してくれそうにない。
 千鳥の口調がきつくなってきた辺りで、意を決して千鳥の言葉を否定する。
「そうなの……? じゃあ、あなただぁれ……? れおんじゃないの……? だぁれ……? だぁれ……? だれなの……?」
 俺はどうやら選択肢を誤ってしまったらしい。
「れおんが千鳥の知ってるれおんじゃないって言うの……。じゃあこのれおんは誰……? れおんに見えるこれはれおんじゃなくてれおんじゃない人……? れおんの真似してるの……? れおんに成ろうとしてるの……? 駄目だよそんなの……。れおんはれおんじゃなきゃ駄目だよ……?」
 千鳥が近づいてくる。その手には包丁。
 対して、俺は手足を縛られている。どうしようもない。出来る事は考えることだけだ。
 俺はどこで選択肢を誤ったのだろうか考えた。
 先ほどの回答? 友人に連絡を取ったこと? それとも――
 千鳥との出会い、そのものか。


●そんなことよりヤンデレしようぜ!
「ま、今回の依頼とはあんまり関係ないんで本題に入りマースけど」
「おい……。いや、おい」
 さっきの話は何?
「そのアパートの近くでE・フォースが現れマースので退治に行って下サーイ」
 え。まぢで関係ないの?
 マー全くないとは言いませんケドーと呟き、『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)は説明を始める。

 現れるE・フォース。これはなんとヤンデレの精神が集合したモノだという。
「世の様々なヤンデレな感情で出来ていマース。チョー強いネ」
 フェイズ2の中でも強力な部類。それが観測されたE・フォースの力。
「強敵だな……」
「ところが、ある条件で弱体化することもわかっているのデース」
 ヤンデレには種類がある。
 スイッチが入った時、想い人を殺して自分だけのモノにしようとするタイプ。
 スイッチが入った時、ライバルを消して想い人を自分だけのモノにしようとするタイプ。
「ヤンデレはヤンデレにやられるパターンが多い。言い換えればヤンデレはヤンデレに弱いということデース」
 Nice boatと親指を立ててロイヤー。
 つまり?
「より強いヤンデレを見せつけると弱体化することがわかっていマース」
 ヤンデレろと。つまりそういうことか。
「Miss.Mr.リベリスタ。YOU達の最高のヤンデレを見せてきて下サーイ」
 ウィンクで送り出そうとするロイヤーに。
「E・フォースを倒せばカップルの男も助かるのか?」
「え? 関係ないよ?」
 きょとんとした顔で答えた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:BRN-D  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月04日(水)00:17
●成功条件
 E・フォースの撃破

●場所
 小さなアパートの裏の駐車場。周囲に人はなく、物音を聞きつけて来る人もいません。
 アパートにはカップルしかいない上、それどころではないので人目を気にする必要はありません。

●人物
 ・茶請怜恩(ちゃうけ・れおん):カップル男。毎日が選択死。

 ・黒江千鳥(くろえ・ちどり):カップル女。ヤンデレ。

 今回の依頼とこのカップルは全く関係ありません。一般人です。エリューション事件ではありません。だから気にする必要はありません。

●敵
 ・Eフォース『ヤンデレ塊』:フェイズ2の強力なE・フォースです。ヤンデレの精神の集合体です。
   非常に強力ですが、より強いヤンデレを見せつけられるとどんどん弱くなります。
   [絶対者]を持っていますが、これは一定量の弱体化が進むと消滅します。

  戦闘能力
  ・包丁突進 (物遠貫、超威力、状態異常:[失血] [隙] [ブレイク] ) ヤンデレタックルです。

  ・包丁乱舞 (物近範、高威力、状態異常:[流血] [弱体] [ノックバック] ) 荒ぶるヤンデレの踊りです。

  ・包丁乱れ投げ (物遠複、中威力、状態異常:[出血] [重圧] [連撃] ) とにかくヤンデレです。

●補足
 タイトルがブレンディの別作品のパロディなことに意味は全くありません。

 多くの者がレベルの高いヤンデレを見せつければ戦闘はイージーレベルに落ちます。
 そのまま戦えば厳しい戦いになるでしょう。
 それではよろしくお願いします。

 登場人物の名前? 関係ないよ?

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
神谷 小夜(BNE001462)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
インヤンマスター
九曜 計都(BNE003026)
プロアデプト
離宮院 三郎太(BNE003381)
レイザータクト
水無瀬 流(BNE003780)
マグメイガス
羽柴 双葉(BNE003837)
ダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)

●わたしのなまえをきざみましょう
 器用に振るわれた包丁が俺のシャツの胸元を大きく開いた。まるで指を滑らすように、千鳥は胸元を刃先でなぞっていく。
「――っ」
 ちくりとした痛みに思わず声を漏らす。傷ついた肌からはぷっくりと血の玉が浮き出ていた。
 血と俺の表情とを見比べていた千鳥が、薄く微笑んで傷口にそっと指を添えた。血の玉は割れ、千鳥の指に付着する。その指が俺の胸元に文字を描いていった。
 恐らく『千鳥』と書きたいのだろう。もっともこの程度の血では線の一本も満足に書けはしないが。
「……ねぇれおん。私の名前を刻んだら、れおんは私のモノになるよね」
 ――もっともっと血を出せば、れおんの全身に私の証が刻めるよ。
 大きな瞳を見開いて。大きな唇を歪ませて。千鳥が笑ってる。千鳥が――


 とまぁ、関係ない話はさておいて。
「……ほんとに、二人、関係ないの!?」
 冒頭からのヤンデレ展開に突っ込みを入れた『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の叫びも虚しく、まずは依頼を優先しましょう。

 小さなアパートの駐車場。人気のないそこに、複数の男女がたたずんでいた。
 幼めではあるが年齢もばらついている。性別の統一もない。服装にいたっては巫女、着物、ゴスロリ、フォーマルとなんでもありだ。
 何の共通点も無さそうな面々であったが、この場にあって一つだけ統一されていることがある。
 ――皆、目が死んでいた。

 大なり小なりヤンデレの事ばかり考えてたらそうなる。
「ヤンデレって割と最近漫画とかで見るけど、いまいちピンと来ないんだよね」
 形だけならそれっぽく出来るかなと魔法少女な羽柴 双葉(BNE003837)。そも魔法少女でヤンデレって新しくね? 頭冷やすのくらいじゃね?
「うーんやっぱり気になる」
 さっさと終わらして見に行くんだからと魅零。二人は声を揃えて気合を入れた。
「よし、依頼頑張るよ!」

 なんだか爽やかな組もいれば、ひたすら困惑している者もいる。
 薄い本に目を通して、顔色を赤に青にと切り替える離宮院 三郎太(BNE003381)だ。しばしの後、本を閉じてうなだれる。
「や、やんでれ……これはボクには無理です……」
 ――というか男はボクだけじゃないですか。涙目の男の子美味しいです。じゃなかった、最近はヤンデレ男子も流行よ?


 さて、ここまでライトヤンデレユーザー。
 ここから深界。

 頑張ってヤンデレよう的な空気を寄せ付けない異質の空間。
 日記を手に虚ろな目でぶつぶつ呟き続ける者。ありのままでオーラを纏い放つ者。ありのままにSAN値の高い笑顔を浮かべる者。
 ――なんか三魔将みたいなのがいる。
 演技なのかわからないが、そもそも演技でも自分の世界を作り出せてる時点でレベル高ぇ。
「愛は人を狂わせてしまうのですね! うーん、勉強になります」
 何の勉強かは不明だが『空泳ぐ金魚』水無瀬 流(BNE003780)の声が響く。
 綺麗な顔を明るくほころばせる流。「精一杯頑張りますよ!」元気よく叫ぶ彼女のその手にはマグロ包丁。
 その手にはマグロ包丁。


 空間が歪む。駐車場の裏に突如実体化し始めた何か。
 まず最初にあったのは肉。膨張し瞬く間に人以上の質量となったそれは、傷口が開くように全身に亀裂が走る。その一つ一つから狂気の笑い声が響き渡った。それは傷口ではなく、口そのもの。
 この肉がエリューション・フォース。ヤンデレの精神の固まりである。

「ふーははははっ! ヤンデレEフォース恐るるに足らずッ!」
 Eフォースを指さし駐車場に高笑いを響かせた『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)。マグロ包丁を凝視し、あれに刺されるのかぁーみたいな生暖かい笑顔が垣間見えた気もするけどきっと気のせい。
 そう、今回の彼女……いや、彼には重要な役割があった。百面相とスタイルチェンジの力を使い、今の計都は線の細い母性をくすぐる系イケメンである。
 ヤンデレをヤンデレたらしめるのに必要不可欠な存在。そう、今の計都は……『愛と誠』の使者!
「男性名としては『まこと』とでも呼んでくれるかい?」
 未来が一つしか見えない。


●あなたのいろにそまりましょう
 幸せそうに笑っていた千鳥の表情が険しいものに変わる……いや、激昂と言ってもいい。
 諦めたように反応を見せない俺を見て、千鳥が指の腹を俺の傷口に強く押し当てた。
「――ぃぎ!」
 急な痛みに自分でも滑稽な声を漏らす。途端に気を良くして、千鳥が指先を動かす。回す。爪を刺す。
 その度に切り替わる俺の表情を、至福の笑顔で見つめていた。
「無視しないで。私を見てれおん。私の声をかけて。私にだけ反応してくれればいいんだよ」
 流れる血に、千鳥が愛しげに笑っている。
 浅黒い俺の肌と、真っ白な千鳥の肌。けれど、血に染まった俺の肌と、血に染まった千鳥の指は同じ色で……それが嬉しいのだという。
「お揃いね私達」
 爪が赤く染まっていく。指が赤く染まっていく。俺の白いシャツが、鮮やかな赤に染まっていく――


 まぁどうでもいい話は置いておこう。
 すでにEフォースとの戦闘は始まっている。

 肉の塊には足がなく、だからこそ動きが予想もつかない。
 空中を漂っていたはずが一瞬で眼前に迫ったそれに、三郎太は反応できなかった。
 激しい衝撃が三郎太を吹き飛ばす。激しい突進。激しい痛み。やはりかなり強力なエリューションだ。
「大丈夫ですか皆さん!」
 起き上がり後方を振り返る。突進ゆえ後ろにいた仲間も被害を受けているだろう。それを確認し――
 ……目を疑う。
 果たして敵はいた。止まっていた。
 対峙しているのは『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)。深い、深い笑顔を向けて。
 まだ言葉一つ口にしていない彼女に、しかし怯えたようなEフォースは力を発揮できていないようだった。
 (……もしかして、弱体化って個人個人に対してですか)
 呼吸を整えながら、三郎太は仲間のヤンデレをサポートするべく指揮を執った。


 Scene.1 深い深い水底乃迷宮

 ――大好きなあの人がもし他の雌を追いかけたら?
 別に気にしないわ。最『期』に勝つのは私だから。
 ――もし私を避けたら?
 全く気にしないわ。一旦距離を置きます。

 乙女の恋は一撃必殺。
 じっと耐えるの……真実のアイは彼がもっとも困難な時に明かされるの。

 彼の顔が好きなの? 彼の心に惹かれたの?
 彼の顔が潰れたら諦めるでしょう? 彼の心が壊れたら諦めるでしょう?

 それでも雌はいくらでも湧いてくるから。
 大切な自分の花園にそっとしまっておくのが良いの。
 迷宮を作るの。そこには彼と、私だけ。
 迷宮を何時頃作れるかは愛次第。
 ――私? うふふ……順 調 よ。

 Eフォースの身体の一部が裂け、絶叫と共に血を撒き散らす。
 沙希の念話が……より強いヤンデレ力がEフォースの存在を弱めているのだ。
 深い深い笑みを向けて――水底乃蒼は深く輝いている。



「もう、どこからでも包丁が飛んでくるから危ないったら」
 双葉、魅零の身体を幾度も包丁が傷つける。元より打たれ強い方でもなく、遠近問わず攻撃を仕掛けてくるEフォース相手では負傷は絶えない。
「計都さん準備はいいですか?」
 流の言葉に計都が頷く。早期決着こそ被害を抑える方法ならば、攻撃は最大の防御なりである。


 Scene.2 Nice boat

「流ちゃん、一晩遊んだだけで彼女面しないで欲しいな」
 計都……まことが薄っぺらな笑顔で吐き捨てる。
「さっ、E子ちゃん行こうか? 良いお店があるんだよ」
 流は去っていく男の背中を虚ろな目で見やり、取り出したそれのさらしを外せば立派なマグロ包丁がきらりと光った。

 ――貴方はその女がいいんですか?
 他の女と出会ったから可笑しくなってしまったんですよね? 生きているから他の女と出会ってしまうんですよね?
 だったら殺せばいいのです。
 そうすれば貴方は誰とも出会わない。
 うちだけの――

「は、はは、嘘に決まってるじゃないか」
 まことの慌てた声。乾いた笑い。けれど耳には届かない。
 虚ろな瞳がまっすぐ突き刺さる。同様に、包丁をまっすぐその胸に向けて。
「冗談だよ、冗談! 僕が一番愛してるのは君だよ」
「どうして? 私を愛してるって言ったよね?」
 横手からの声。ハイライトの消えた目、口元に笑み。双葉はゆっくりと杖を向ける。
「どうしてそんなひどい事するの? そんな人……もういらない」
 杖の先に火球が灯る。破壊の、破滅の、滅びの、炎。
「あなたなんて邪魔。うふふ……燃えちゃえ。全部。皆、みーんな、灰になればいいんだっ!」

「ひ、ひいいい!」
 腰を抜かしたまことが助けを求めて手近な者にすがる。魅零だ。初めて会う子なら自分を殺したりしない。
「ねえ、見た瞬間……好き、かも」
 まさかのスピード恋愛。
 ――あのね、あなたの声、聞きたいな?
 ねえ、しゃべって? しゃべってくれないの?
 なら、いたくすれば、いいかな? かな?
 ねえ、どこがいい?
 ねえ、きざくらのいうこと、きけない?
 ねえ、きざくらきらい? ねえ、きざくらきらい? ねえ、きざくらきらい?
 ねえ、ねえ、ねえ――

 包丁が。火球が。大太刀が。
 ――怯える表情も痛がる表情も独り占め。
 大丈夫ですよ。流は虚ろに微笑んで。うちは貴方のこと……『死んでも大切にしますから』
「ぎゃああああああああっ!!」
 そしてまことの断末魔が響き渡った。
 Nice boat。



 激しいヤンデレ力にEフォースの身体が千切れ大量に血を吹き出す。
 大きなダメージを受け、手負いとなったそれが滅ぶ間際の激しい抵抗を始めた。
「――ぅあっ!」
 幾度目かの突進に三郎太の身体が弾き飛ばされ地に転がる。強く身体を打ち付けられ、そのまま彼は意識を失った。
「あいたた……まだやれるんだからっ」
 同様に地に倒れ伏すも、双葉と魅零は運命を燃やし攻撃を続ける。
「そっちに行ったッスよ!」
 全身モザイク必須状態のまことの姿から代わって計都が叫ぶ。あ、ヤンデレ力の影響で計都は大した怪我はしていません。味方の心臓刺すとかアレだし。ね。
 Eフォースは少女に跳びかかり――


 Scene.3 鏡に映るストーカー

「貴方が私のおにいちゃんを誑かす悪魔ね」
 笑う。少女が笑う。『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が笑う。
「お兄ちゃんは私だけのモノなのに……貴方みたいなの『ストーカー』って言うんだよ?」
 ストーカー。精神病。妄想癖。境界人格障害。犯罪者。悪。悪。悪。
「だからもう、消えてくれないかな?」
 剣が抜かれる。使い込んだ。使い古した。
 ――お兄ちゃんに近づくゴミ虫達はみぃーんなこの剣で斬り捨てたんだ。
 剣は傷を、血を、死を振りまくもの。自分だって例外ではない。
 けど。お兄ちゃんが心配してくれるから。大丈夫かって言ってくれるから。
 だから。怪我したことも、嬉しい。殺したことも、何もかも全部どうでもよくなっちゃうんだ。

 Eフォースの攻撃は届かない。リンシードは避けてもいない。ヤンデレ力の格の違いが攻撃を寄せつけていないのだ。
 笑う。少女が笑う。歪んだ笑みを浮かべて。
「私だけのモノだから……お兄ちゃんのために、貴方を殺す」
 剣は斬る。刻む。抉る。穿つ。ザクリ。ざくり。ざくざくり。
「シネ、シネッ! アッハハハハ!」
 身体にのしかかり剣を幾度も突き立てる。
 瞳は相手の瞳を映す。鏡のように、瞳に自分が映ってる。
 虚ろに。虚ろに。笑ってる――



 崩壊が始まっている。
 これ以上のヤンデレ力に耐えられそうにないEフォースは、最後の突破口へと全力で突進を始めた――


 Scene.4 day

 16日
 告白して、よかった

 17日
 彼には私が居ればいいんだよ
 だから周りにメールしたの
 近づいたら すって

 18日
 彼と喧嘩した
 でも本気の喧嘩じゃないよ
 カレー、食べてくれたもん
 睡眠 で寝てる彼を縛るのは簡単だった

 19日
 ほどいてくれ、って彼は言うの
 食事も、トイレも、体を拭くのも
 全部私が面倒見るのにね

 20日
 彼が部屋から無理に出ようとしたから
 足首を しちゃった
 これでずっと、一緒に居られるね

 21日
 私のこと
 もう愛することができないって
 ユーモアが全然面白くないよ
 錐で口の横を しちゃった

 22日
 錐を すの
 声を上げてくれる、私を見てくれる
 やっぱり、一緒が一番

 23日
 彼と一緒に買い物に行こう、と思ったの
 でも彼はぐったりしてる
 だから私1人でスーパーまで行きました

 24日
 彼が笑い出すの
 なぜだか判らないけど、ずっと笑ってて
 私もそれで幸せ
 お話できないのは寂しいけど、彼が幸せならそれでいいの

 25日
 彼が何も言わなくなっちゃった
  しても首を めても何も言ってくれない
 こんなの、彼じゃない
 本当の彼を、探しに行かなきゃ



 朗読を終えて。
 手にした日記帳をそっと降ろし、『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)が目線を上げる。
 その先で。
 言葉も無く。断末魔も無く。
 来た時と同じように、Eフォースは空間で捻れて消えてしまった。


●ずっといっしょねわたしたち
「終わりましたね」
 小夜が癒しの力を注ぎ仲間を癒していく。献身によって目を覚ました三郎太も、痛みに顔をしかめながら立ち上がった。
「こんなものが力を持って実体化してしまうなんて……恐ろしい世の中になったものです。日常に潜む狂気、とでも言うのでしょうか……」
 ヤンデレを見聞きし経験したこと。この経験はきっと今後の三郎太の人生に何かを与えてくれるはず……
 ホントかよ。

「さて、お疲れ様でした……ん、演技、ですよ?」
 返り血を拭い、リンシードは仲間を振り返る。
 怪我を癒したリベリスタの一部は、どうやらカップルの結末を見に行くらしい。
 リンシードと、念話で仲間を労っていた沙希はそれを見送る側だ。
 (我関知せず。仲間の行動は止めないけど、色恋沙汰に水をさすのは趣味じゃないの)
 恋愛は当事者間の問題。それが切った貼ったであろうとも。
「つまり、ですね。人の恋路に下手に割り込むと痛い目に合いますよ……ってことです」
 二人は笑ってる。深く、深く。
 ――さあ、それよりも早く帰ってあの人の写真を……
 もはや終わったこと。沙希は自身の心を占めるものに想いを寄せて、駐車場を離れ帰路についた。


「――れおん」
 千鳥の呼びかけ。ぐったりとしたまま、俺は返事を出せたのだろうか。
「愛してるって言って」
 俺はなんと答えたのだろうか。
「ありがとうれおん。大好き。愛してる」
 どうやら千鳥が喜ぶ選択肢を選んだらしい。
 千鳥が俺と唇を重ねて――音を立てて結束バンドが外される。
「跡、ついちゃったね」
「あー。いいよ、もう慣れたし」
 千鳥が用意していたタオルで俺の胸元の血を拭った。
「今夜はレバーだよれおん。血を沢山出しちゃったから、いっぱい食べないとね」
「ん」
 笑ってエプロンを身につける千鳥。一緒に暮らしてもう1年か。
 一緒に暮らしていればそれなりに喧嘩もする。……喧嘩とは言わないか。
 俺としても、スリルを味わいたくてわざと彼女が反応するような選択肢を選んでしまっている自覚があるし。

 俺の彼女はヤンデレだ。だから毎日が新鮮で。毎日デッドフラグが立って。
 ――毎日飽きない、充実した生活を送っている。


 計都が。流が。魅零が。双葉が。
 全員言いようのない表情でカップルの様子を覗き見ていた。
 通報に、突入に、参考に、あるいは身体を張った血塗られ劇場で。
 カップルの惨劇を止めようとしていた彼女達は、誰もが言葉を失って見守ることしか出来なかった。
 誰であったか。震える手で通信を繋げたのは――

「エー? だから関係ないって言ったジャないデースか」
 携帯からは彼らを送り出したフォーチュナの呑気な声が響く。
「大学云々はもう1年前の話ですよ? あれから二人は猟奇的な毎日を送りながらも、結局今の感じに落ち着いてるわけデースね」
 イヤー幸せの形は人の数だけアルってホントデースね。
 白々しいフォーチュナの声に。
 一同、死んだ目で通信を切ったのであった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
今回の依頼とは関係ないっていったじゃナイデースか。
アパートにはカップルしかいないとは言ったけど、あの話が最近の話だなんて言ってないジャナイデースカ。
……おっと、物を投げるのは禁止だ。

まぁ……
慣れればそれなりに幸せなんじゃネーノ?

ご参加ありがとうございました。