● 「長かった……長かったな……」 「ああ……これで、俺達の望みが……」 その機械、神秘の産物、アーティファクトを目の前にして感極まった様子――いや、最早夢見心地の呆然とした様子で立ち尽くすのは、両手の指を超える程度の男達。 皆一様に白衣を着る彼らは、フィクサード組織『六道』所属。 己の道を追い、他の何よりもそれを尊ぶ者。 「思い返せば長く辛い日々だった……特にこれ、このパーツ! このアーティファクト!」 そっとアーティファクトを撫でた一人が、何の変哲もない石をびしっと指した。 「あああああそれ私立女子高の生徒が拾ってそのままロッカーに放り込んでたやつだろ!」 「回収すんのどれだけ手間だったか!」 「侵入向きの能力持ってるの俺らいなかったもんな……!」 しみじみと苦労を思い出すように。 涙を零すものさえいる。 「金払えば何でもやってくれるって言うから地獄一派に頼もうとしたら虫見るみたいな目されたし……」 「何だよあいつら気持ち悪い怪物の素体にする為の幼女は攫う癖に女子高生のロッカーから石は取ってきてくれないのかよ!」 「知ってるか……? 地獄連中って親子もいるんだぜ……?」 「子供いるとかリア充じゃねえかよ、何が、『六道の最下層』だよヒエラルキー的に最下層は俺らだろおおおお!?」 すげえどうでもいい愚痴まで零れた。 ぐいっと頬を伝った涙を拭い、男の一人が両手を広げる。 「だが、それももう終わりだ。諸君」 目は、澄んでいた。 視線は、聖母へと向ける崇拝の如く。 「起動させるぞ、――『俺の嫁』!」 ● という所を最後に映像が途切れた。 『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は大変微妙な顔をしている。 「えーと。分かりましたか?」 分かるか。 無言の非難を受けて、一つ咳払い。 「あー。ブレイン・イン・ラヴァー。まあ所謂脳内妄そ……、……心を強く保つ為のエターナリィパーソン、永久の恋人と会話できるスキルの事は皆さんご存知と思いますが」 極力表現を柔らかくしてお伝えしております。 「ともかく。それを実体化する機械、というのに心血注ぐ方々がいてですね。別にそれ自体は構わないんですけど、構うといえば構うんですが細かい事はさて置いて構わないんですが、何の運命の悪戯か、完成しまして」 切り替わる映像。 可愛い女子高生にベンチで膝枕して貰ってる男やら、穏やかな雰囲気の女性に窓辺で花を渡している男やら、椅子に座って幼女にアイスをあーんってして貰ってるのとか、キツめの美女に腹蹴りされてるのとか、まあ色々。 『もう、お昼休みそろそろ終わっちゃうんだからね』 『可愛い花束ね、玄関に……ううん。私の部屋がいいかしら。見る度貴方を思い出せるもの、ね?』 『おにーちゃん、あーん』 『私の前でそんな無様な顔を晒すなって言ったでしょう、豚』 以下略。 「……お分かりの通り、E・フォースです。戦闘能力はなく、周囲の空間に少々幻影的なものを発生させる事ができます。彼らの脳内妄想に従いタイプは異なりますが、可愛い、もしくは美人な推定年齢十歳から妙齢の女性まで、……いやまあ脳内ですから十歳でもいいんですけどね、ええ……」 すげえ微妙な顔だったが、気を取り直したのか常の薄笑いに戻りリベリスタに向き直る。 「難点は――E・フォースを生み出すというそれ自体にもありますが、もっと切羽詰った問題として彼らではなく、『他の六道派のフィクサードがこれに目を付ける』という可能性の存在です。彼らに全くこれっぽっちも戦闘に流用する気がなくとも、これは要するに『望んだE・フォースを作り出す』ものです」 悪意ある六道の者によって応用や改良を施され、戦闘能力を保持するものが量産されるとしたら、近頃の六道の動きからして世界に悪影響を及ぼす物に変貌する危険性が高い。 故に、今の内に手を打っておかないといけないのだ。 なんかの弾みで二回も三回もこの映像見る事になったらキッツイなあとフォーチュナが思ったせいじゃないのだ。 「アーティファクト名は『俺の嫁』、……彼らが付けたんですよ。で、この俺の嫁自体は大変丈夫、破壊しようと思えば多大な労力を使うのですが――能力自体は別のアーティファクトの力を増幅・拡大するものであり、『核』であるそれが存在しなければ稼動しません」 そして、このアーティファクト自体は核に合わせて開発・調整されたものなので、核を別のアーティファクトに置き換えても何も起こらない、正しくガラクタと化す。 つまり。 「核である『願いの小石』さえ引っこ抜けばもうこのアーティファクトが悪用される危険性はありません。ただしまあ、流石に彼らも黙って見ている筈はなく――長年研究を続けてようやく『嫁』を得た彼らの気合は特筆に価します。殴っても殴ってもうっとおしいレベルで立ち上がって邪魔して来るでしょう」 意志の強さも半端ではない。数で押せば当然奪えるのだが、そこまでこの依頼に人員を割く必要性も感じられない。なので。 「で、そこで皆さんには、彼らの立ち上がる気を削いで貰います。脳内嫁で」 何て言った。 「つまり彼らの意思の強さや気合は嫁に準拠する訳で。その根底には『俺は嫁を愛している』という信念があります。それを揺らがせるには、更なる脳内嫁への愛を見せ付けてやればいいという案が。ほら、半径三十メートルに入ると強制的に『俺の嫁』の力で脳内嫁が出現してしまいますし」 誰だよその案出したの。つうか今聞いたよ後半。 要するに、だ、負けたと思えば彼らの嫁は消滅する。 そうすれば意気消沈した彼らは止める気力もなくし、悠々と持ち帰る事ができるだろう、と。 ほんとかよ、という胡乱気なリベリスタの視線を気に留めた風もなく、ギロチンは笑う。 「あ、報告書は十歳前後のリベリスタも見る可能性があるので年齢制限系の愛はアウトですよ」 はい、妄想デート、開始。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月01日(日)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ここがどこか、なんて事は関係ない。 そうだ、ここは聖域(サンクチュアリ)。 俺の嫁が幻という触れない現実を乗り越えて現れる場所。 尊く甘酸っぱく時にセンチメンタルな、そんな場所――。 まあ実際は白衣の男達が妙な機械の前でスクラム組んでる訳ですが。 ● 唐突だが、時間を少し巻き戻そう。 ブリーフィングルームで依頼の説明を受けた直後、『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)は悩んでいた。 「んー、楽そうなバイトだったんでノコノコ来たっすけど……脳内嫁って縁がないんスよね」 楽に生きたいとは思っているが、妄想にそれを見出す性質ではない。 とは言えぶん殴って取り戻すのが難しいと言われればどうにかせねばならないのだが――。 そんな計都の救いとなりそうだったのが、『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)である。 妄想の激しい彼女の事、脳内嫁ともなれば公序良俗に反する姿であろう、ならば自分が百面相でイケメンの王子様になるからそれでリアル恋人のふりをして心を折ろうじゃないか。簡単な仕事になるぞ! と、いう事で一応話は纏まった、はずだったのだが。 「……って、っちょ、おま! なんで脳内嫁を盛大に吹き出してるッスか!?」 「え?」 なんかマントを翻した計都が現地で出現したのは、盛大な誤算であった。 そんな悲鳴を横に、沈痛な面持ちの『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)がざっと前へ進み出る。 「出会いが違えば、私達、友達になれたかもしれないね……」 その姿を見て、誰かがはっと声を上げた。 「あれは……まさか、結城・ハマリエル・虎美……!?」 「馬鹿な、エアカップル選手権で審査員をドン引きさせたあの……!?」 なんか彼女の名声はこの界隈(ブレラヴァ業界一部)では変な方向に轟いているらしい。 が、虎美はそんな囁きを聞かず、でも、と呟くと同時顔を上げた。 「ブレイン・イン・ラヴァーは私が一番上手く使えるんだッ!」 くわっと見開いた目に妥協はない。 道具に頼るなど邪道である。あくまでも『脳内』でありながら、そこにある……じゃなかった、居るのを感じる事ができてこそブレラヴァのプロ! なんだろうプロって。 そう、今日でこそ『俺の嫁』の影響で実体として出現してはいるが、普段の彼女はエアお兄ちゃんにだってぺろぺろできるプロ。ブレイン・イン・ラヴァーの実力者。なんだろう実力者って。 ざわめきをものともせず、彼女は嫁である兄の姿をした相手に擦り寄った。 「ね、お兄ちゃん。ちゃんとお仕事終わらせて帰ろうね」 『そうだな』 「帰ったらどうしようか、お兄ちゃん? 私にする、私にする、それともわ・た・し?」 『飯』 「んもう、そっけないんだから。うふふ、でもそんな所も大好き☆」 ねえお兄ちゃん私お兄ちゃんになでなでされるの好きだよあっもちろんペロペロしてもいいんだよあっお返しに虎美もお兄ちゃんペロペロしちゃうんだからーお兄ちゃんペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロえっお兄ちゃんもうギブなの、じゃあキス……しようかえっできないってどういう事他の子には簡単にちゅっちゅとか言ってるのに私にはできないってどういう事なのしてよしなさいよ……あっごめんお兄ちゃんの事になるとちょっと興奮しちゃってもうおでことかじゃだーめほらぎゅっとしてうふふお兄ちゃん大好き離さない私にはお兄ちゃんだけでお兄ちゃんしかいないものそれがあれば他には要らな、 ガダァン! 白衣の男がが盛大に膝を付いた。その背後で可愛い系の制服女子の姿が薄れて消えて行く。 「畜生……! 実妹だと世間体的にやっぱマズイかなあと血の繋がってない妹設定にした僕はまだ甘かったというのか……!」 「やべえ、益川が越えちゃいけない壁を越えそうだ!」 でも虎美はその辺全く無視してお兄ちゃんちゅっちゅとかしていた。 実の所、『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)はさして乗り気でもなかった。 「他人の前でいちゃつくだとか、嫌いなのよね」 別にそれは自身のクールなイメージに反するから、とかそういうのではない。それは二人だけの侵されざる空間で行うべきあり、そしてそこは聖域なのだから他人など必要ないのだ。 だが、そんな彼女の前にも脳内嫁――幻影は現れる。色黒の肌の少年。彼女の恋人。 『何でそんなに離れてるんだよ、もっとこっち来いよ、こじり』 「やば、かっこいい……」 スピリチュアルな感覚が体を駆け巡ったこじりは(ファントム)夏栖斗と見つめ合う。 普段は少年らしさを残している笑顔が、今日は凛々しい。抱き寄せるべく腰に回された腕が男らしい。ああ、報告書をお読みの御厨夏栖斗さん(本物)、私は一足先に貴方の幻影と大人の階段を――。 「な訳無いでしょうこの駄椅子」 『ぐはぁっ!?』 鳩尾拳からの流れるような後ろ回し蹴り。決まったー! 夏栖斗(幻影)ノックアウトー! 消滅をぎりぎり免れた夏栖斗(偽)の背にこじりは座る。 「全く、本当に貴方と言う人は油断も隙もないわ」 気付けば知らない女の胸や尻をふらふら目で追って。でも大丈夫よ、私の考えた洗の、性格更生プログラムで一人前の男にしてあげるから。そうね、真っ白な部屋で拘束して、何から何までやってあげる。ご飯は美味しい? 美味しいわよね、一杯食べてね、ちゃんと食べないと体が持たないでしょ? はい、あーん。ほらしっかり噛んで。どうしたのその顔。動いてないからお腹空いてないなんてそんな事ないわ、生きるだけで人間はエネルギーを消費するのよ。あ、分かった、実はこれ苦手だったんでしょう。仕方ないわね、それも矯正してあげる。いいのよそんな遠慮なんて。何も心配する必要はないわ、ありとあらゆる事、全部私に任せて。 『それって家畜じゃ』 「馬鹿ね、家畜だったら〆て食べてしまうわ」 何をそんな当たり前の事を。ああ。やっぱり偽者は駄目ね。本物じゃないと。 「貴方は要らない」 立ち上がり様、頭に一発。戦闘能力のないE・フォースは消滅するしかない。 「……え、何これリアルヤンデレってこんななの、怖い……」 「ゆんちゃん(脳内嫁アダ名)の病み顔可愛いもっとその顔曇らせたいいいぃい!! とか叫んでた石田が引いてる……!?」 虎美からこじりへの流れで、また一人脱落した。 だが、この場にヤンデレしかいなかったのか、と問われれば無論そんな筈もない。 「俺の恋人は櫻子だけだ」 「私の恋人も櫻霞様だけですわ」 展開されるLLA(らぶらぶあいしてる)フィールド。 そう、『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)と『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)はリアル恋人。嫁? 目前に本物の恋人がいるのに何故に脳内の妄想に頼らねばならないのか。 櫻霞は櫻子を抱き寄せてその小柄な体を膝へと乗せ、その白い耳と尻尾でふさふさと遊ぶ。櫻子も当然抵抗せずそれに身を任せた。普段からやっている事ならば特に抵抗もなく、恋人の甘い指先に目を細め、胸に頭を擦り付ける。 恋人の耳の毛の元に指先を埋めながら、櫻霞はニヤリと笑った。 「妄想しかできないフィクサードには縁のない光景だろうな?」 「ふん、今は我らにも嫁が、」 「そんなに虐めたら可哀想ですわ、哀れな方々なのですから」 「聞いてねえー!! これだからリア充は嫌いなんだよ!」 きらきら笑顔を振りまく櫻子に、一人がずしゃあっと膝をついた。何か嫌な事でも経験してたのか。ちなみに櫻子は可哀想とか全く思ってない。やだリア充怖い。残酷。 後にも先にもお前以上に俺の事を分かってくれるパートナーなんて存在しない、ふふ、櫻子も櫻霞様以上の存在なんて居ませんの、あいつらの脳内の妄想は俺達を超えられると思うか、そんな事ありえませんの、あ。 軽く額に触れた唇に顔を赤らめた櫻子は、膝から降りると彼の隣に座り込む。 にっこり。満面の笑顔で、自分の膝をぽふぽふ。 「ふふっ、櫻霞様の大好きな膝枕をして差し上げますぅ♪」 「ああ、頼む」 ここは風の吹く草原か、それとも二人きりの部屋か何かか。そんな勢いでごく自然に膝枕の体勢に移った二人は、視線を合わせ微笑み合う。櫻霞の髪を梳きながら、櫻子は自身の尻尾をぽふりと乗せた。 「櫻子の尻尾は櫻霞様専用の抱き枕ですのよ」 「尻尾だけか?」 「いえ、勿論櫻子の全部は櫻霞様の物ですわ……♪」 ぽふぽふもふもふらぶらぶいちゃいちゃギリギリギリ。最後はフィクサードさん方の歯ぎしりです。 「ずっと櫻子を離さないで下さいませね……」 「離すも何も、お前を誰かに渡すつもりはないぞ」 覗き込んだ櫻子の頬に、櫻霞は掌を這わせて笑う。 「畜生、自分達が幸せだとか自覚してるリア充なんか滅べばいいのに!」 「でも自覚しないで幸せを当然の如く甘受してるリア充も滅べばいいのに――!」 あ、叫びに血が混じってきた。 そんな美男美女の隣、凛々しい騎士と、幼さの残る容貌の姫が見詰め合っていた。 一目でわかる、鍛えられた肉体。すらりとしながらその肢体は決して軟弱なものではなく、武器を取り戦い護れる守護者の姿をしていた。 対する少女は儚げで、憂いを含むように騎士に向ける視線は、それでも信頼に満ちている。 「くっそ、あそこもリア充かよ、何なんだよ嫌がらせかよ!」 「あれ、でもあれ両方ともE・フォース……?」 幾らアレな研究をしていようが、腐っても彼らもフェイト持ち。 運命ありとなしの差くらいは分かる。誰かの嫁として顕現する筈のE・フォースが何故に互いにいちゃいちゃしているのか。首を傾げた一人が、ふと何かを見付けて口を開く。 「あれ、あのあそこに何か体育座りしてるのって」 「本体ー!?」 そう。 美男美女の騎士と姫の隣、座りこんでそれを見守っているのは、騎士によく似た『ナイトオブファンタズマ』蓬莱 惟(BNE003468) その人である。 え、何で嫁二人も出た上にお互いでいちゃついてんだ、アレか、NTR属性とかそんななのか、探究心の強さだけは六道所属らしい研究員はざわざわと騒いでいるが、なんだろう、惟の常時活性しているダブルキャストが妙に働いたんだろうか。 神秘とは実に不思議なり。 「これに修行が足りないという事か」 一人ぽつりと呟いた惟の視線は、騎士の己に。理想の嫁に相応しい理想の騎士である己。未だ、現在の自分では姫の隣に並べないのだ。 『望みは、何だったろうか』 『望むなら、ずっと夢を見続けていたいと思っていた』 噛み合うような、噛み合わないような、惟には全てを理解できる会話を、騎士と姫が繰り広げる。 心中に存在する、二つの面。 欲しかったのだ、理想の嫁を守る事のできる、妄想ではない強い肉体をもつ己が。 その努力は惜しまなかったはずなのだが。 「理想の騎士への道は険しいな」 しみじみ。 さて、冒頭で出現した脳内計都は瞑を口説きに掛かっていた。 『つぶつぶ、可愛くなるのは構わないけどさ、気をつけろよ? これ以上可愛くなったら、嫁にもらっちまうぜ?』 ご本人様が聞いたら誰だよと突っ込みそうなというか今リアルで突っ込んでいる台詞も、今の瞑には聞こえない。負けてなるものかと、計都も百面相でイケメンへと変貌。 「瞑、キミの金銀妖瞳は百万ボルトさ」 「……ハッ」 必殺爽やかスマイルは鼻で笑われてスルーされた。 「HAHAHA! オレのマッソウがオマエをハニャーンにする!」 鍛え抜かれた肉体(スタイルチェンジ)でポーズを取り、瞑の前へ。 沈黙。 「ガン無視かよ!?」 『喚くな九曜計都……この脳内計都! いずれ本物にとって代わる存在……』 「つぶつぶの中であたしどんな存在になってるんスか!」 『つぶつぶを籠絡し、そしてアークを乗っ取り、そして世界までも支配する』 「いや、つぶつぶ籠絡しただけじゃ無理ッスよ」 冷静に突っ込んだ計都だが、何だろう、何でこんな脳内の自分に負けなければならないのか。というか脳内嫁として自分を出すくらいなのに、本物じゃなくて偽物に骨抜きになっている瞑もどうなんだ。そんなに好きならばホンモノの自分にくればいいのに。 それこそ脳内でぐるぐる考えた計都は、スキルを解除し普段通りに眼鏡を掛ける。 嫌いじゃない、と言おうとして、口ごもる。それでは足りないのではないだろうか。更なる逡巡。迷いは一瞬。 「あー、もー、はっきり言ってやんよ! 好きだよ、好きっ!!」 あれ、何だろう。もう一人の計都が、好きだと言っている。 これで満足か、なんて言ってるけど、瞑から見たらその顔は真っ赤。傍らで傲岸不遜に笑っている脳内計都とは違う。全く。瞑の表情が緩んだ。全くもう、うちがいないと駄目なんだから! 「しょうがないわね、うちも好きよ、計都!」 『なん……だと……』 脳内計都が薄れて消えていく中、我に返って叫びだす瞑。 公開告白に血を流す勢いで唇を噛んでいた研究員が膝を抱えだした。 「先輩っ! あ、わたし来るの遅かったですか? ごめんなさい」 『いや、まだ早いだろ?』 「はい、まだ時間前ですけど、先輩がいたから焦っちゃって……」 周囲に展開されるのは、町の一角。走り来た『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)は、恋人である『先輩』が自分の頭を軽く叩くのにえへへ、とはにかんで笑った。 『何で遅れたと思ったんだ、迷子か?』 「ち、違うんです、その、迷子じゃなくて、色々準備とか……」 視線をそらしてもごもごと言う壱也に、悟った彼は何気ない調子でそのワンピース似合うな、と口にした。 「は、はいっ、かわいいですか、嬉しいです」 先輩に褒めてもらうのが一番嬉しいですから。照れたように笑って、壱也はその隣に並ぶ。 「ここはみんな白いワンピース着てますね、流行ってるのでしょうか?」 「白衣だよ!」 「すげえ脳内補正掛けてやがる畜生!」 「みんなワンピース好きなのですね」 『そうだな』 「ちげえー!!」 はぐれないように手をつなごうか、わわ、は、はい、手、つなぎます、先輩の手、温かくて好きです、それは良かった、ここは変わった品物が色々ありますねえ、金属っぽいのとか石っぽいのが多いな、何か欲しいものは? え、いやいや、大丈夫ですよ、欲しいものなんて、だって。 「わたしは先輩がいるからそれで幸せなのです!」 照れくさそうな、それでも幸せいっぱいの笑みを壱也は彼に向けた。確かに今の彼はE・フォースに過ぎないが、その存在自体は幻ではない。愛しい本物がいるからこそ向けられるまっすぐな愛情に、数人の研究員が何か眩しいものを見るかのように目を逸らす。 と、微笑んだ彼は、そっと壱也の額に唇を下した。 「ひゃ、お店です、ここ……! 誰も見てなかったみたいですけど、は、恥ずかしい」 「……見てるよ……」 「つうか見せつけられてるよ……」 ここまでの流れで最早怨嗟の如くなっている研究員の声も、今の壱也には聞こえない。恋する乙女兼お腐れ様である彼女のフィルターは並以上である。 今日もらぶらぶしましょうね、幸せです、と頬を少し染めながら腕に抱き付いた壱也に、とうとう残りの研究員が膝をついた。 「くっそ……甘酸っぺえよ……」 「何で俺らは……ああいう青春が送れなかったんだよ……」 「制服デートとかさあ……自転車横にして一緒に帰るとかさあ……」 「今更制服着たってコスプレじゃねえか……!」 外見年齢が若いまま止まった研究員だって、あの学生の時分特有の空気はもう出せっこない。遠い遠い、幾ら嫁を描こうが最早空想の中にしか存在しない思い出。 彼らの心を完膚なきまでに打ち砕いたのは、もう戻ってこない『青春』の二文字であった。 ● この後、お兄ちゃんセンサーに何か引っかかったらしい虎美が恐ろしい速さで駆けて行ったりとか理想の相手を描くだけではなくその理想に相応しい人間になるよう努力せよという惟の大変建設的な意見が述べられたにも拘わらず&とかorzの体勢になっていた駄目研究員は聞いていなかったりとか最初から最後まで変わらずいちゃいちゃしていた櫻子と櫻霞がやっぱりいちゃいちゃしながら手を繋いで帰ったりとか計都と瞑がまだ何か言い合ってたりとか本物の恋人に会いたくなったこじりと壱也がさくさく帰ったりとかあったけれど無事に願いの小石はリべリスタの手によって回収されましたとさ! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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