●梅雨の紫陽花園 「あじさいを見に行きませんか?」 一年の間で、この時期だけ賑わう庭園があるんです。 そう言って、マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)は写真付きのパンフレットを皆に見せた。 「紫陽花が沢山あって、すごく見事なんですよ」 梅雨の時期以外は逆に閑散として誰も訪れない様なその庭園は、梅雨に入ったのもあって、ちょうど紫陽花が咲きはじめたところらしい。 これから半月から一ヶ月くらいが見頃なのだそうだ。 青や紫、白色など、庭園内には様々な色の、そして種類の紫陽花が咲き誇り、梅雨の季節を彩っている。 その紫陽花に囲まれるようにして建つ東屋では、お茶や御茶菓子を楽しむ事もできる。 「ちょっと数日は雨が続いちゃうみたいですけど、でも折角ですしその方が雰囲気が良いと思います」 ちょうど、新しい傘と長靴も買ったので。 笑顔で少女はつけ加えた。 レインブーツじゃなくて長靴な辺りに。 でんでんむしを探しますとか言ってる辺りに、子供っぽさが漂っている。 けれど、たしかに童心をしげきする何かがあるのは事実で。 同時に、落ち着いた穏やかな雰囲気も感じられて。 「良かったら、いっしょに如何ですか?」 マルガレーテはそう言って、笑顔で皆を見回した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月19日(木)22:29 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 25人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●いちばんに二人でみつけよう 雷音は、ヤミィにこっそり耳打ちした。 ひっそり紫陽花と共感して、それを見たヤミィに人差し指をたててウインクしてみせる。 傘を揺らして探しながら、言葉を交わす。 「可愛らしくてお気に入……ではなくて兄がボクにかってきたから、仕方なく使っているのだ」 別に使うために雨の日を待ってなんかいないぞと力説して。 「マルガレーテはいつもヤミィと仲がいいな」 (……少し妬けるのだ) 視線の先にシロを見つけて、頭を撫でる。 その傍らで、同じなんですと後輩の少女は説明した。 「ヤミィさんも、自分は皆と一緒に戦えないなって……」 返事をする前に裾が引かれ、ヤミィが口元に指を立て紫陽花の袂を指さしてみせる。 そこに、のんびりと動く蝸牛を発見して。 「また、ヤミィの発明品が使いたいな」 雷音は少女に、笑顔で伝えた。 「ヤミィと一緒に戦っている気分になれるのだ」 そあらは東屋でいちご大福を頂きながら外の様子を眺めていた。 「雨は苦手なのです」 (耳もしっぽも髪の毛も、湿気でむわんとなるのです) 「でも、さおりんと一緒の傘でらぶらぶ歩けるのでしたら雨も良いなと思う乙女心なのです」 そんな彼女の視線の先には、雷音やヤミィ、マルガレーテ、シロたちが楽しそうにカタツムリを探す姿がある。 そあらさん、大人なので見守る係。 (おねいさんなので保護者なかんじなのです) 「けして濡れたくないからではないのです」 ともかく、外から帰ってきた人のために。 (タオルとお茶とお菓子を用意しておいてあげるのです) 「いちご大福は残ってないかもしれないですが」 呟きつつそあらは、外の元気な子たちを見守り続けた。 ●でんでんむしと、紫陽花と 「でんで~んむ~しむ~し♪」 「でーんでんむーしむし♪」 「どこどこ~?」 ミミルノも輪も、かたつむりを楽しそうに探す。 「まるがれてーちゃん、こっちにもたくさんいるよ~」 「おーすごいね? ミミルノちゃん」 元気にしっぽを揺らしながら、少女は楽しそうに紫陽花の一角を見つめて。 「にふふ~かたつむりきょうそう、やるの~♪」 かたつむりを葉っぱの端に同時に乗せて、どっちが早く反対側に到着するか。 「ほゎ~」 のびて、ちぢんで……すこしずつ進んでいく2匹をミミルノは楽しそうに、じーっと見て。 輪も嬉しそうに、でんでんむしをつんつんして。 「やーん、かーわーいーいー」 カサカサ系も大好きだけれど、ヌメヌメ系も結構いける。 虫が大好きな彼女も、本当に楽しそうに……でんでんむしの一挙一動を笑顔で見守って。 のんびり、ほんわかした時が、その一帯を包みこむ。 「おや、マルガレーテ・マクスウェルちゃん御機嫌よう」 偶然知己を発見した亘は、笑顔で少女に呼びかけた。 青色の傘とレインブーツで、あっちにふらふら、こっちにふらふら。 紫陽花を、幸せそうな顔の皆を見ながら、亘は庭園を散策していたのである。 晴天も好きだけれど、雨も好き。 長く続くとアンニュイな時は、雨が降ってる時だけの楽しみを見つけるのだ。 いつもと違う何かを見れたら面白いから。 「ふふ、綺麗な傘と靴ですね」 実は新品なんですと自分の傘とブーツも見せて。 「もし貴方が良ければ、愛称で呼んでいいでしょうか?」 頷いた少女に少年は、自分も名前で呼んでくださると嬉しいですよと付け加えた。 ●紙上の紫陽花たち 「うっとうしい雨も、紫陽花の背景としては風情に思えるのですから不思議なものですね」 東屋の隅っこで、いつになく真剣にスケッチブックとにらめっこして。 光介は紫陽花園の風景をスケッチしていた。 シエルの方はというと、先ず心を整えるように硯で墨を摩りおろす。 それが終わると和紙に筆を向けた。 「失敗が許されないから何だか集中できるのですよね……こういうの」 水墨画風にさらさらと、和紙に紫陽花を描いてゆく。 「わぁ……! 淡い紫陽花、素敵ですね」 途中、彼女の絵をのぞき見た光介は小さく歓声をあげた。 和紙に雅な水彩画。 「何か素養がおありのようで、感心させられてしまいます」 賞賛を受けつつ、シエルは紙の左下隅に紫陽花の絵を描く。 それを終えたのち右上隅に和歌を記し……完成。 「花に露、それに映える月は昔から詠み人に好まれましたが……紫陽花の露に映える 月を詠ったのを私が知ったのはこの先人の歌でした……」 少女は藤原俊成の歌を謳ってみせた。 時が合わぬのは、御愛嬌。 「歌も絵も感じるものであり、目の前の景色は切欠に過ぎませんもの」 語り終え、少女は光介の手元へと視線を向ける。 「え、ボ、ボクですか? その、絵は大好きなんですけど……野生のピカソがとか、何かの特殊記号とか言われてしまう始末でして」 緊張した面持ちで、光介はシエルへと自身の絵を差しだした。 「ど、どうでしょう? いや、抽象画ではないのですよ?」 ●変わりゆくもの 「ここには山のような紫陽花がある。つまりでんでん虫も山のようにいるということだ。先に10匹見つけた方が飯を奢るとするぞ!」 「奢りを賭けての勝負か面白いじゃないか! いいだろう、この山のような紫陽花の中からでんでん虫を見つけて行こうじゃないか」 優希と翔太がそんなやりとりをしたのは、少し前の事である。 やる気を出して先を歩いていく優希の少し後に続くように、翔太は道の反対側を探しながら進んでいた。 優希は見つけた数を声に出して数えつつ、小さく鼻唄を歌いながら探す翔太に話しかける。 「紫陽花は色を変え、でんでん虫は、殻が外れることで名前を変える。面白いものだな」 「あぁ、面白いよな。変化していくことで変わっていく、それもまた見ごたえもあるというのもな」 形あるもの命あるものは変化し、移ろうもの。 (翔太との友情も変化していくものであるならば、今よりもより強固になっていけるといい) 口には出さず、確と思いながら……優希は紫陽花の住民たちを探し続けて。 「よーし、10匹目だ!」 どうなってるかなと翔太は優希の側へと向き直った。 (正直に言ってしまえば結果なんて関係ない、こうして優希と色々とやっていけるのが楽しいからな) 結果は翔太の勝利。 優希は潔く奢ろうと宣言して。 笑顔で応えながら、翔太は願った。 この友情が強固に変化していくように、と。 ●変わるもの、変わらぬもの 雨の庭園を、ルアとジースは歩いていた。 「こうしてると、小さい頃思い出すな」 (俺がリベリスタで、ルアが一般人だった……幼い頃の思い出) 「子供の頃……私は何も知らない、幸せな子供だった」 ジースの言葉に、ルアは続けた。 辛い事や大変な事は、全てジースが引き受けてくれていたから。 お互いが自分の「一番」だった。 お互いが相手の「一番」だった。 手を繋いで家までの道を歩いた。 紫陽花の様な花が咲いていて……一緒に眺めて。 「じーす おはな きれいだね」 「ああ、キレイだな」 (頭を撫でたジースの手や頭には包帯が巻かれてた) (俺と同じ赤い、まっすぐな髪を撫でて……ずっと、俺が護っていくんだと思ってた) 「そうね、思い出すの。ジースはいっつもケガして帰ってきて……すっごく心配だったんだからっ」 今は、ルアにも分かる……リベリスタになったから。 「ありがとね。護ってくれてたんだよね」 ぎゅうと抱きついた姉の髪を、今は黄緑に変わった髪を撫でて。 「ああ、あの頃は自衛なんて出来なかったしな」 胸にぬくもりを感じながら……ジースは口にした。 「この手で護ってあげたい子が居るんだ」 その為なら、俺は……無茶も、承知。 傷だらけで夢を見る杏里の笑顔を護りたいから。 「俺はアイツを倒すんだ」 その端に、何かが滲んでいるような気がして…… 「……無茶しないでね」 ルアの言葉にジースは頷いた。 護る為に、戦うんだ。 ●過去から、今へと あの頃は、雨が体を洗ってくれていた。 地面の水面は、姿見の代わり。 倒れた木々が、椅子であったり台であったり。 軽装で雨に身をさらし散策していたシェリーは、目に映る光景にふと過去を思い出し苦笑した。 大自然に体一つで修行に赴いた時のこと。 (今となっては、妾のものでない 良き過去でしかないのだ) 「如何な、雨の日の香りはどうも昔を思い出させる」 シェリーは呟くと、紫陽花の先に佇む東屋へと視線を向けた。 「今日はゆっくり茶菓子でも食べるとするか。 大量に」 ●東屋の風景 「雨ぇってぇのはさぁ、うっとうしいもんだけどさぁ、こうして見ると情緒があるよねぇ」 (紫陽花もこうしてのんびり見ると乙なもんだぁ) 水無月をもっきゅもっきゅ食べながら御龍は呟いた。 「うーん、おいしいぃ! 甘すぎずのど越しもさわやかぁ。上品な味だねぃ。やっぱり和菓子はいいよねぇ」 紫陽花を眺めながらのんびりと味わう。 「紫陽花かぁ。確か土の特性で色が変わるんだってけぇかぁ。赤に青。梅雨の代名詞だねぃ」 しばらく眺め、物思いにふける。 「雨の日も、まぁ悪くはないかぁ。運転する時は厄介だけどねぃ」 片隅で煙草をふかしながら、御龍は呟く。 「おーす! うわ、シロかっぱ姿かわいいっ」 そう言ってシロを撫で、ツァインは同行者たちにも挨拶した。 女の子に傘、濡れ紫陽花に蝸牛。 風情を感じつつ、ふたりと話す。 「んー、外回りが日課だからなぁ、雨はちょっと苦手かな。あと蝸牛も……ははっ」 でもまぁたまにはいい……話をしつつふと、彼は浮かんだ問いを投げかけてみた。 「ところで愛称はマルコで決まりでいいのか?」 笑ってからかってから、ヤミィにも話題を振る。 「ヤミィは開発室なんだろ? すげぇよな!」 上手くいかないならアシュレイとかに教えて貰ったらという言葉に少女は、あの人は凄過ぎてと苦笑して。 しばし会話を楽しんでから、青年は手をふって一行と別れる。 「お嬢さんたちは、元気だねえ」 私みたいなのは、ゆったりとお茶を楽しむに限るよ。 「お茶も、お茶菓子も、大好きだしね。ん。美味しい」 楽しげな風景に目を細めつつ、佐助は心地好いひと時を楽しんで。 「……おや。カタツムリ」 お茶を飲みつつ、じぃと観察し紫陽花と共に写真でもと考えたものの…… 「………駄目だ、使い方分からない。諦めよう」 AFをしまい、目の前のそれの動きを、ゆっくりと目で追って…… 「………、……おっと、いけない。うとうととしてしまった」 雨の日は……ひどく、足が軋む。 けれど、ゆったりとした時が持てるのは、とても素敵だ。 「……雨が上がったら、虹でも見れると、なお良いね」 足をふらふらさせながら。 青年は、空を見上げて呟いた。 ●水入らず 「あ、双葉一口いるー? あーんっ」 差し出された水饅頭をほお張った双葉は、お返しに水羊羹を一口差し出す。 あーんと壱也もほお張って。 「えっへへー、嬉しいなー」 「……えへへ」 「最近わたし忙しかったし、ゆっくりするのは久々だね!」 ふたりは東屋で、のんびりお茶を楽しみながら会話を弾ませていた。 久しぶりに姉妹水入らず。 色々話せば話すほど、話したい事が増えていって…… (なんで腐ランダルとかなってるの、とか言いたい事はあるけど……ここはやっぱ彼氏について質問) 馴れ初めとかどこが好きなのか、とか……恋愛、それも身内の事。 「え、え? わ、わたし? な、なな慣れ始め?」 動揺しまくる姉と、興味津々の妹。 「いや、あの、その……大学で同じ研究部で……夏の南の島で、誘われて一緒に……その……遊びに……行ってから、かなぁ……」 照れながらも幸せそうな壱也を見て、双葉も嬉しくなる。 「あっ、そういえばこないだわたしの部屋の本が動いてた気がしたんだけど、双葉、見た? ってゆうか過去にも見たことあるでしょ?」 「そりゃ、部屋で見た事ぐらいは……でも表紙だけだよ!」 照れ隠しなのか急に話題を変えた姉に、妹は慌てて返答した。 「腐ってもいいのよ?」「ほんとだよ!」 ぎゅむっっとしてくる壱也に、お姉ちゃん好みのカップリングとかよくわかんないし! と双葉は必死に反論する。 はしゃいだり、にぎやかしたりしながら……ふたりの時間は続いていく。 ●それぞれの花 「故郷では市場で食用のものしか見ていなかったので、小さい子達を見るのは初めてなのです」 でんでんむしの歌を唄いながら、チャイカは二人と共に各所を散策していた。 「雨って、いいですよね……雨音とか、曇って暗くなる所とか……落ち着くと思います……」 濡れるのは少、困りますがと、紫陽花を見ながらリンシードが呟く。 (梅雨なんて暑いしジメジメするし屋内退避するに限るけれど……) 「こういった楽しみを提供されるのなら悪くはないわ」 お気に入りの傘を差しながら、糾華が感想を口にした。 (雨音も嫌いじゃないけれど……古傷が痛む時があるから早く過ぎて欲しい季節だわ) 「紫陽花も綺麗です……これなんか、私の髪の色と、似てますね……」 「わ、本当ですね。綺麗な空色です。知ってますか? 紫陽花の花の色って、土によって変わるんですよ」 リンシードの言葉にチャイカが応え、糾華も加わる。 同じ土でも微妙に株ごと違っていたり。 (同じ人間でも境遇によって変わるのだから花も違っているのも道理よね) 「綺麗な空色。リンシードの色。綺麗な白色。チャイカさんの色……私の色って何かしら?」 「……糾華お姉様は……情熱の赤……でしょうか……?」 表面は、すごくクールですけど……内面は、すっごく、あったかいです。 真っ直ぐに瞳を見て言われ、言葉に詰まった直後。 「あ、お姉様、チャイカさん……濡れてませんか、大丈夫ですか……?」 私は濡れても大丈夫なのでと、リンシードは予備の傘やタオルを出す。 「言われてみれば、ずいぶん濡れてしまいましたね。少しはしゃぎ過ぎたみたいです」 そう答えはしたものの、梅雨そのものが初めてのチャイカには、それもまた楽しみのようなもの。 「そう言えば……さん付けって、ちょっと他人行儀ですよね?」 自分は呼び捨てで構わないので、二人もリン、アザカと呼んで構わないかと問うチャイカに。 「えと、呼び捨て、ですか……? 私は、全然、構いませんよ」 自分が呼ぶのは苦労するかもと思いつつ、リンシードは……ぼそりと名を呟いて。 「好きに呼びなさい。私も好きに呼ばせてもらうから」 チャイカってね。 糾華もそう、肯定した。 ●梅雨の味わい 「茶の湯の心とは、自由自在であるべきだ」 用意すべきは、朱傘に茶碗と茶筅、茶杓に茶釜。 「故に、基本的なそれらさえあれば十分さ」 そう口にする竜一に、快は素直に驚き、感心した。 (まさかあの竜一に茶の湯の心得があるなんて) 「まあ、俺は観光客用の作法しか知らないんだけど」 ちなみに快の服装は、ポロシャツにジーンズという普段着。 竜一の思想を体現したような格好である。 「知ってるつもりの仲間の意外な表情ってのは驚くもんだな」 フツも素直な感想を口にした。 (結城が催してくれるとは言え、本格的なお茶会なんて参加したことがなかったから緊張してたんだが……) 「説明を聞いて安心したぜ」 なるほど、本来自由自在であるべき、か。 自由に、思いのままに。 「もともと茶の湯ってのはもてなしの席なんだから、ちがう事なんて無いんだ。素直にお茶とお茶菓子を楽しめばいいんだよ」 「なるほど……そういうものですか」 マルガレーテにそう話しつつ、快は周囲を見回した。 木々の空気と鮮やかな紫陽花に囲まれて。 「野点のロケーションとしては最高だね」 「風流だなー」 ベルカも、うきうきしながら周囲を見回した。 濡れたり魂が鼻から飛び出しそうになったり等々色々あったものの、それらは既に過去の事。 「……って、随分本格的な席になってるな」 快の言葉は、竜一が用意したさまざまな物に対してだ。 茶菓子も、そのひとつである。 紫陽花をあしらった生菓子の中味は、すっきりさらりとした漉し餡。 (酒飲みが居るし甘すぎない方がいいだろう) 葉を象った寒天砂糖の細工に、梅雨をイメージした細切りの錦玉羹が乗り……季節感を漂わす。 「驚いたよ。茶菓子も雅だし」 後は、抹茶を点てればよい。 (形式ばった作法は、俺の目指す茶の道とは程遠い) 「自然を楽しむべき野点で、自然体でないのは不自然だからね!」 皆の邪魔をせず、茶と菓子と風情を楽しんでもらえるように。 竜一はただ、そこに在る。 色々と説明などを聞きながら、ベルカが器に手を伸ばした。 「……はふう」 こんな日にぬるいお茶を飲むのもまた格別なり。 (私は見た目がアレだから、好きな飲み物はボルシチなんでしょ? とか良く言われるが……) 実際は既に、彼女は日本での生活の方が長い。 冬はおこたでみかんを頬張り、夏もおこたでアイスを食べるそうである。 もちろん、今回は異なるが。 ちょっと見た事のない和菓子を、不思議そうに頬張って。 「ほふう……何と言う……」 「おお……このお茶菓子ウマイな……なんつーの、すげえ上品な味がする」 舌で味わい、目で楽しみながらフツが呟く。 エリスも紫陽花を象った和菓子を、点てられたお茶と共に。 周りの雨音を、聞きながら。 きっと雨が上がれば、世界は……夏らしく、暑く……光と緑に満ちた季節らしい風景に変わる。 それもまた楽しみだけれど……今はこの、雨に濡れた紫陽花の色合いを、他の人たちと愛でたい。 (それは……今しか……楽しめない……ものだから) 「いやはや、いい席だった。結構なお点前で」 快は竜一へと礼を述べる。 茶を一口飲んで、一息ついて。 「周りを見るまでは気づかなかったんだけどよ、全部が、この『場所』に合ってんだな」 似つかわしいっつーのかね、と……フツは呟いた。 (お茶菓子も、お茶も、雨も……多分オレ達人間も) 「これが、空気を感じる、季節を楽しむってことなのかね」 すべてを見つめ、感じ、味わいながら。 フツは穏やかに、口にした。 「いや、いいもんだな、こういうのって」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|