●せかいのなみだにつつまれて 水無月から文月へと替わる頃の雨は、まだちょっと冷たく感じられる。 それなのに暖かく思えることがあるのは……何故だろう? 優しく感じられるのは、なぜだろう? 抱きしめてくれているように思えるのは、なぜだろう? それは、もしかしたら。 なみだを、隠してくれるから……かもしれない。 それとも、代わりに泣いてくれているように思えるから……だろうか? そんなことはないと分かっているのに。 世界は平等なのだ。公平なのだ。 ときに不公平で不平等だと思えるくらいに。 分け隔てなく。優しく、厳しく。 すべてを包んで。 そんな世界に咲き誇る紫陽花に。 だからきっとぼくは。自分に似た何かを、親しみのような情を。 抱いたのかも知れないから。 まあ、あまりに酷い花言葉に同情しただけかも知れないけどね? けど……そういう悪く言われまくるというのも、それはそれで魅力的かな? ……なんで思う私はきっと、まだまだお子様なんだろうな…… ●梅雨の頃 「……皆さんは紫陽花って好きですか?」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)は突然質問した事を謝ってから、落ち着いた雰囲気の場所があるんですと説明した。 紫陽花がたくさん咲き、賑わっている庭園の、ずっと奥。 別世界のように思える一角がある。 幾つかの紫陽花が道脇に、散策路の先の小庭にひっそりと咲く……そんな場所。 「寂しいくらいに静かで、でも……何か……」 気が、楽になるんです。 雨音に混じって微かに聞こえてくるのは、鳥たちのさえずりくらいだろうか? 「もし興味があったら、如何でしょう?」 フォーチュナの少女はそう言って、メモした地図を差し出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月17日(火)21:54 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 18人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●ある、雨の日に 雨が傘を弾く音を聞くと、何だか楽しくなる。 咲き誇る紫陽花を見ていると、心が癒される。 (そこで美しい貴方と過ごせたら素晴らしい一時になりますよね) 「こんにちは、マルガレーテちゃん」 少々お時間宜しいでしょうか? 亘の問いに少女は笑顔で応え、先日の礼を述べた。 話題は世間話から好きなものまで色々と変わり、紫陽花の花言葉も飛び出して。 「確かにあまり良くない意味を含まれてますね? ただ……だからこそ自分は、紫陽花は美しいと感じます」 上手く言葉に出来ないのですが人間みたい…と言えばいいでしょうかと、亘は口にした。 一面性ではなく、良いも悪いも含み隠れてる素敵なモノ。 それを見つけられたから、知れたから。 「こんなにも心を惹かれてしまうのかもしれません」 言葉に少女はなるほどと頷いて、静かに咲く花へと視線を向ける。 梅雨に咲く紫陽花は……その色合いも相俟って、どこか悲しげに見える。 「ただ……それは……見ている人の……心が……そうだから……そう……見えるのかも……しれない」 エリスは自分の想いを、小さく口にした。 周りには人影も無く、世界に居るのは自分だけと勘違いしそう、だけれど。 でも、蛙の鳴き声や鳥のさえずりが雨音に混じって聞こえ、周りには青々とした木々が映えている。 世界には命が満ちている。 独りに見えても、命溢れる世界。 「エリスは……この世界を……守るために……戦っている……ようで……逆に……守られているかも」 (命を……感じることで……元気を……もらった……気がする) 明日からも、頑張れる。 身軽な格好で雨に当たり、シェリーは紫陽花の園を散策していた。 鼻歌交じりに自然に目を配らせ、景色のちょっとした変化に表情豊かに反応して。 一言も喋らず、とても楽しそうな表情で。 彼女は自身の時を、満喫していった。 ●ぼっち そう、ぼっち。 此度の俺は、ただ一人、雨に打たれる。 その意味もわからず、ただ受け止める。 纏わりつく雨が、俺の心に絡みつく鎖に似て。 目に入る鮮やかな紫陽花が、俺に大切な者に見えて。 俺は、手を伸ばす事を躊躇っているんだ。 俺の手はきっと、もう、汚れてしまっているから。 綺麗な紫陽花を汚すわけにはいかないから。 - 結城竜一、心のオサレポエム - (ふっ、こんなオサレな俺に、マルガレーテたんは、もう、きゅんきゅん惚れるしかないはず!) 「って、こっち見てねええええええええええええええええええ!」 「……え? どうかしたんですか? ……先輩?」 首を傾げる少女に向かって大袈裟にガッカリしてみせた後で。 いいもーん……と、竜一はしょんぼりと呟いた。 雨の日の彼の、そんな一幕。 ●「まあ、偶にはこういうのも良いだろうさ」 (焔とは、そういや久しくまともに会話もしてなかったしな) 傘を差し、紫陽花を眺めながら二人で歩く。 猛は昔を思い出しながら口にした。 「もう、俺らが出会って何年になるか……お互い、あの頃とは変わったもんだな」 (あの頃の俺は不良中学生、焔は線の細い奴だったっけ) 「ああ、俺は多少は戦う力を身に着けることができたかもしれん」 ふたりの間を暫し、幾つかの言葉が飛び交っていく。 「……なぁ、焔よ」 猛は……ふと、浮かんだ問いを投げかけた。 「お前、今幸せか……?」 ……あれから、もう数年。自分は色々あったが、それでもそれなりに楽しんで今を生きてる。 (だからこそ、家族を失って復讐の為に戦うと言ったこいつの今が……どうなのか?) 「幸せか……俺には幸せなど解らん」 だが、一つだけ言うならば。 優希は少しだけ間を置いてから、答えた。 「……今ある日常は、悪いものではない。これは今まで感じ得なかった感情かもしれんな」 「……はっ、そうかよ」 その言葉に猛が笑みを返す。 (……こういう話はどうにも苦手だ) 優希は内心呟いた。 自分が幸せになるよりは、人が幸せそうな姿をなんとなく眺めている方が性分に合う。 (まぁ、葛木がまんざらでもなさそうならばそれでも構わん) 最近の戦いを思い浮かべつつ、優希は口にした。 「早死にするなよ、馬鹿猛」 心配している、等とは口が裂けても言わない。 それが、ふたりの関係だ。 ●家族の風景 「おー。あれはガクアジサイかな、丸くないのも結構好きだぜ」 「ガクアジサイか、よく知っているな」 「……ん? ああ、母ちゃんが紫陽花好きでさ、庭に植えて世話してたんだ」 「……成程、母親の影響か」 「親父や兄貴はもっと他のを植えたそうだったけれど、珍しく母ちゃんが攻勢に出てなぁ」 そう言って木蓮はくすくすと笑って……表情を、少し変えた。 「……まあ、皆死んで、家を手放した後に風の噂で枯れちゃったって聞いたけどさ」 その言葉を龍治は傘を差しながら、彼女が濡れぬようにと傘を向けながら……聞いた。 家族をエリューション事件で亡くしたというのは、前に聞いている。 けれど、こうやって話を聞くのは初めてだった。 彼女が語るままに……龍治は唯、静かに言葉に耳を傾ける。 話を聞く限りでは……普通の、幸せそうな家庭だと感じた。 事件さえなければ、彼女は今もそこで生きていたのかもしれない。 「どちらが幸せだったのだろうかなどと、論じるつもりはないが……」 「……戦えるだけの力を得て、お前に出会えて、俺様は幸せだ」 (けど、こうして思い出すと……な) 締め付けられるような感覚があって、良くない事を考えてしまいそうになって。 「龍治、お前は何処にも行くなよ」 木蓮は、言った。 「……まだ正式な意味での家族じゃないが、それでも俺様にとっては家族同然なんだ」 ぎゅうっと、しがみ付くように抱き寄せて。 ……ああ、と。龍治も彼女を抱き返しながら……祈った。 神秘の力が、これ以上彼女から幸せを奪う事のない様に、と。 ●雨の降る、日 アークに身をおいて、戦うことになって。 幾つかの失敗を経験し、より多くの成功を収めた。 別れを経験したけれど、友達も出来た。 差していた傘を畳んで雨に打たれながら……ミリィは自身の3ヶ月を思い返していた。 (私の短い人生の中でも、濃密なまでの記憶) それ以上の事を考えようとすると、チクリと胸が痛む。 (きっと、私の中の臆病虫だ) 先の事なんて、分からない。戦いはきっと、まだまだこれから。 そう、自分に言い聞かせて。 手を……一回二回と、握りしめる。 「大丈夫。私は、戦える」 戦い抜いて、みせる。 自分に言い聞かせるように、ミリィは呟いた。 皆と一緒に居る限り、立ち止まってはいられない。 「しかしこんな雨模様では、思わぬでも良い事を思ってしまいそうだな……」 空を見上げながらベルカは呟いた。 死んだ子の歳を数えると言えば、詮無い事のたとえだそうだ。 いつのまにか姉様たちの歳を追い越してしまっている。 (いや、いちばん大きな姉様はもう少し年かさだったかな……?) 「この軍服も、無理を言って仕立てて貰った時にはぶかぶかだったのだがな」 私も……ようやく一線に立つ事が出来た。 銃を手に取るたび、服に袖を通すたびに思い出す。 私は生かされている。生きなければならないのだと。 アークへの恩義は勿論の事、姉様たちの全てに成り代わって。 再び空を見上げて、彼女は頬に雨雫を受けながら、口にした。 「空が泣いているのだ」 私が泣いていても、何もおかしくはあるまい。 「その……別に複雑なことではないんです」 問いかけた凛子に、マルガレーテは上手く表現できないという表情で口にした。 凛子も相槌以上の何かは行わない。 ただ、少しでも彼女が内に抱いたものを形にできるように。 雨音を聞きながら、ゆっくりと、丁寧に。 少女が自身の抱いたものに気付ければ、向かい合えれば、それで良い。 どのように想っているかまで聞ければ、お終い。 「止まない雨がないように、晴れない気持ちもないでしょうね。」 凛子はそう言って微笑むと、今日のお礼を口にした。 「……そう、か。紫陽花が綺麗に咲く様な季節に、もう……なっていたのだな」 暫く一人で花たちを眺めた後、拓真は呟いた。 アークへと身を寄せて……もう一年以上になる。 多くの任務に参加し、様々な事件を解決してきた。 ……救えた命があったのは、間違いない。 だが、それ以上に──失われてしまった命は……多い。 どうすれば、良かったのだろう? どうすれば、彼らを救う事が出来たのだろうか? どうすれば、自分は己の理想に近づけるのだろうか、と。 「……気晴らし、とは周りに言うが」 (如何見えるかどうかは疑問だな) 「まぁ、良い」 拓真は呟いた。 俺は、俺の出来る事をするだけだ。 「これから先、生きている限り……ずっと、な」 ●雨に打たれながら 「僕はフィクサードを倒す為に街の一角の人達を殺したんだ」 一人になると考えてしまう。 悠里は傘を差さずに園内を散策していた。 選択したのは自分自身。 悲しむ事なんて許されない。 (それでも、あの出来事は僕の大きな傷になってしまった) 「……なんて身勝手なんだ」 呟きながら、人影に気付いて。 「何でもないよ。ちょっと雨に濡れたい気分だったから、かな」 挨拶するマルガレーテに、微笑む。 できるだけ、何でもないように。 (彼女は優しい子だから、きっと必要以上に気にしてしまう) 「マルガレーテちゃん。アークのみんなは好き?」 問いに少し考えこんでから、言いかけて……止めて。 少女は好きですと、口にした。 「僕も、好きだよ」 だから悠里も気付かないふりをして、そう答える。 (どれだけ自分勝手でも卑怯でも……僕は死ぬ訳にはいかない) この手を血に染めても守りたいものがあるから。 「たまには濡れるのもいいかな、と」 そんなのは、嘘だ。 本当は……涙を隠したいから。 出会った少女の傍らに立ち話すのも……目が、合わせられないからだ。 「また、失敗した」 快は、呻くように口にした。 高い目標に挑んだ結果じゃなくて、当然気づけたはずの事に気づけなくて。 (そしてまた、命が零れた) 「覚悟を以って、責務を負って臨んだはずなのに。護る、って言葉がまるで口先だけみたいでさ」 今まで積み重ねてきた全てが……崩れてしまったような気がして、青年は暗中で模索するように、言葉を探す。 怖かった、どうしよもなく。 これまでがたまたま上手くいっていただけなのではないか? (いや、これまでだって……俺は大勢の命を取り零して) 「……俺は本当に、リベリスタなのかな」 呟いてから、今度はどうしよもない自己嫌悪に陥って……青年は謝罪し、付け加えた。 「後輩の前で、みっともないね、俺」 「そんな事、ありません!」 先輩は、立派です。 マルガレーテは即座に断言した。 つらいのに、苦しいのに…… 「……それに比べて……私は、本当に……ダメダメです」 もっともっと、ずっとずっと……苦しくて、悲しい人達が……堪えているのに。 ●いのちのゆくえ、こころのゆくえ 「あいつにはじめてあったのは、砂蛇が学校襲った時でさ。あいつカッコ良かったんだぜ?」 あれからたった一年しかたってないなんて嘘みたいだな? 夏だって火車きゅんと朱子誘って遊ぼうとか思ってたんだぜ? こじりの側によせて傘を差しながら、夏栖斗は歩いていた。 「ちょっとさ、思い出話していい? 朱子のこと」 そんな風に始まった話を、こじりは何も話さずに聞いていた。 ……何も話せなかった。話せるわけが、なかった。 (御厨くんと比べれば、私と彼女の思い出など一枚の絵画とメモ程にも差がある) そんな私が、何と彼に声を掛けられるのか? (鳳……いえ、宮部乃宮朱子を救えなかった私が) ただ厳然として突きつけられる『彼女を護れなかった』という事実。 そんな少女の傍らで……少年は思い出となってしまった過去を紡ぐ。 「くっそ! まただよ。また、友達が居なくなって」 (あいつは自分の誇りを何より重んじた。だけど、納得なんかできねぇよ) 話せば話すほど……胸に穴があいて、すべてが流れ込んでいくようで。 残るのは……寂寥感と喪失感だけ。 なっさけねぇな僕、と。 無力感に苛まれながら吐き出した夏栖斗に……こじりは、静かに口にした。 「あの時居られなかった貴方が無力だとするのなら、一体私は何になるのでしょうね」 彼に当たっても、仕方ない。 人は自分の手が届く範囲でしか救えない。 手が届く範囲でも救えない。 感じてしまったのだ、死を。 人の、死を。 人は死ぬ。それでも……と、夏栖斗は小さな背中を抱きしめて口にした。 「僕はお前をおいては死なない」 「人は死ぬのよ、御厨くん」 死なないという彼に、こじりは言った。 「死ぬのよ」 振りほどいて、背を向けて……雨の中を歩き出そうとして。 「知ってる、人は死ぬ」 それでも……夏栖斗は抱きしめて、繰り返した。 「それでも僕は、お前をおいては死なない」 でも、人は無理をすれば死ぬ。 「人は死ぬのよ、御厨くん」 零れそうになる言葉を、必死に抑える。 言ったところで意味のない、虚しい言葉。 願えば願うほど、祈れば祈るほど、現実はそれを裏切るのだ。 世の中というのは、そういうものだ。 それでも……それでも込み上げてくる想いに耐え切れず、少女はかすれた声で……祈るように、口にした。 お願いだから、御厨くん。どうか、だから、だから…… 死なないで。 ●ちまたにあめの、ふるごとく 「資料でも見たか? 何でアンタが色々知ってる?」 火車は傘をさしてはいなかった。 雨に打たれたかった、から。 「見た事無い筈のオレ見てブリーフィング中に言ったな?」 ああ 貴方が 「……ってよ?」 「お察しだとは思いますが。私は……朱子の姉です」 問いに黎子は素直に答え、火車は表情を変えた。 「……今更……朱子に家族が居たってか……」 良く見れば、顔も……よく似ていた。 そっくりだった。そっくり過ぎた。 「アークとは別の組織に拾われましてね、去年末頃からあの子の周りは調べていたのです」 あの子は私が生きていたことを知らなかったでしょうが。 感情を露わにする火車とは対象的に、黎子は少なくとも表面上は淡々と言葉を紡ぐ。 「DIVAは遺品の中から譲り受けました」 どうぞ、よしなにと挨拶して。彼女は問いかけた。 「……恋人である貴方から見て、あの子は幸せそうでしたか?」 「恋人じゃねぇ」 伴侶だ。 強く断言した火車は直後、顔を歪めた。 「……どうだろなぁ……もっと幸せにしてやれたと思うし」 ……してやりたかった。 ……できなかった。何より…… 「朱子は最後まで、フィクサードを憎んだまま逝っちまった様だ」 家族居るって知ってりゃ、また違った結果だったんじゃねぇか? 「……そうですか」 (……私があの子から逃げていなければ……いえ) 「いや、そもそもオレがもっと……」 黎子の言葉を遮るように、自分の問いを打ち消すように口にして、そこでまた……火車の言葉は……向かう先を見失うように、止まる。 (……解んねぇ) どうあろうが、その決意は変わらなかったのではないだろうか? ……自分には…… 「自分を責めるのはやめてください」 「だけどよ……」 「……貴方は朱子が一生を共にしてもいいと思った男性なのですから」 「……クソ……ッ! 解んねぇよ!」 思い出す顔は、何故か……微笑んでいて。 あんなに近かったのに、今はもう……遠くて。 天を仰げば、空からの滴が……顔を打つ。 ほほを、つたう。 「……解んねぇよ……」 呟きは、灰色の空へと吸い込まれて。 雨は唯……静かに、降っていた。 天からの想いを、伝えるように。 紫陽花は唯、咲いていた。 天からの想いを……受けとめる、ように。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|