● 少し昔話をしよう。 かつて『Ripper's Edge』後宮・シンヤ(nBNE000600)という男がいた。 その男は己の崇拝した伝説の殺人鬼、『The Living Mistery』ジャック・ザ・リッパー(nBNE001001)に付き従って、命を落とした。 それが今から、およそ半年ほど昔の話だ。 その男の下に、自らを狗と読んではばからない女が、かつて、いた。 大阪でアークに撃退された後、アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)の手によって命令系統を植え付けられたエリューション・ゴーレム『南瓜の電車』を使役しようとした女、七海。電車はアークとの交戦によって命を落とした七海の遺骸に己の核といえる部分を移し、女性の姿を得た。 彼女は不安定になった三ツ池公園で王女を名乗り、臣下を集めはじめた。 そんなことが、あったのだ。 ● 「三ツ池公園に居を構えた、南瓜の姫――プリンセス・オブ・ザ・パンプキン。知ってる? 南瓜の電車が変化した、自称お姫様。彼女がついに動きを見せた」 開口一番、『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が放った言葉が、それだった。 机に置かれた過去の資料は何度もめくられたのだろう、少しよれている。よく見ればイヴの顔にも少し披露の色があるようだ。そこに書かれているのは、フェーズ3のE・ゴーレムに関する報告書だ。 ――今は車体とプリンセスとの二つに分かれているが、元をたどればひとつのE・ゴーレムだという。 「起きたことを順に言っていく。 まず、地下に潜って勢力を強めていた電車の、車体部分が、地表に姿を表した。 次。以前確保したフォーチュナ、元町・健太郎がアークの保護施設から逃走した。 最後。万華鏡が、電車の、プリンセス部分の思念を拾った」 「思念?」 今回の資料に目を落としていたリベリスタが顔を上げ、イヴを見る。 「……おかしいことが多かった。 以前の結果から考えれば、プリンセス・オブ・ザ・パンプキンはアークを襲撃するだろうと思われた。 健太郎が逃走したのも、不自然。奪還することを目的としていた――魅了はしていても、健太郎の自由意志を尊重していたように見えた。健太郎が自分から電車に向かえばいいのなら、今までアークの保護施設でおとなしくしていたことに、説明がつかない」 どこか口惜しそうにイヴが呟き、モニターを切り替える。 映しだされたプリンセスの表情は、以前の、どこか人形めいた無表情に近いものではなく。 「……七海」 誰かが呟く。 遺骸を使われた女フィクサードのよく浮かべていた、薄っぺらい、張り付いたような笑顔。 「何があったのかなんて、はっきりしない。 ただ、今の間――電車が地表に姿を表している間、どういうわけか、電車は全く動こうとしない。 今がチャンス。逆に、もし見逃して、運転士と合流したら、今度は、そのまま市街地に向かってしまう」 臣民――プリンセスが魅了し、使役する多くのエリューションたち――をのせたまま。 「そんなわけには、いかないから。どうか、ここで」 倒して。 ● 私が電車だった頃。 私には結局ただの1人の乗客も乗ってくれなかった。 人間は、乗客にもならず、よってたかって私を暗い倉庫に押し留めた。 私が目を覚ました頃。 運転室には運転士が、そして2人の乗客が乗ってくれた。 だけど乗客は連れ去られ、その後現れたのは私の心と身体を縛る支配者。 私の、私の為に乗っていてくれたのは、結局、彼だけで。 それが、私の力で強要したものだったのは、自分でも分かっている。 けれど。 それでも。 私には彼だけで。 私に望める光は、一つだけだと分かったから。 私の為の光は、もう、彼だけで良い。 ――あら。貴女/私、本当にそれでいいのかしら? 空気を揺らさずに聞こえた言葉に、私は頭を抱えた。 混乱を広めなきゃ。あの人の望みどおりに。伝説のお手伝いをするの。 穴なんてどうでもいい、あの穴がどうだっていうの、私はあの穴に興味はない。 あの人たちが亡くなったなんて、私は認めない。私がそのあとを引き継いででも、あの人の望みを。 助けて、王子様。助けて、私が私でなくなる前に! ● 「……どこや、ここ」 あかん、迷った。 なんかようわからんねんけどな、めっちゃ呼ばれてる気がすんねんわ。 それで、慌てて病院抜け出してきた。 助けてーって、言われてる気がするねんな。 んでまあ、いてもたっても居られんなってな。 助けが必要なら、助けたらなあかんやろ。行かな! 思て。 で、それはええとして、ここどこやねん。 あ、看板あったわ。なになに――三ツ池公園閉鎖中、立入禁止。 なんやねんそれ。せやかてこの向こう側っぽいんよなー……ま、ええか、行ってまお。 わし呼ばれてんねん! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月04日(水)00:33 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●2011/10/15 「あー、腹へった……」 健太郎の呻きに、車内のランプがちり、と点滅した。それを見て健太郎は首を傾げて、考えこむ。 「今どないなってるんかしらんけども、電車は、ほんまやったら動くのに電気いるやろ? あれを、人間はな、ものを食べることで、なんとかすんねん」 電車の反応を見た健太郎が、電車が自分の言葉の何を疑問に思ったのか、推測し、説明する――本当はそんな手間さえ必要ない。エリューションの持つ魔力で意思疎通をすれば、言葉さえ必要ない。 だが、電車の、後にプリンセス・オブ・ザ・パンプキンと名乗ることになる意思はそれを嫌った。 孤独を嫌ったのだ。 「せやで。人間てな、充電式やねん。電車の、電気にあたるのが、食べ物やな。 ……うう、話してたらもひとつ腹減ってきたわ。わしの母ちゃん、南瓜の煮物よう作っとったんやけど、それがまた下ッ手でなあ、甘すぎやってん、いっつもいっつも」 鳩のようにぐぐっ、と鳴る喉。その声色には、思い出し笑いよりも郷愁の色が強く。 「……また、食いたいもんやな……」 車窓に映る鳩の顔。 ●2012/7/3 12:00 時刻は正午。 三ツ池公園の北門付近の駐車場は、半年を過ぎた立入禁止処置の結果、人の手入れもなく、草がアスファルトを割って伸びてしまっている。 その中の一部が、駐車場ではありえない形に整えられているのを見れば、ここが新たな戦場に選ばれたことは一目瞭然だった。 その形状は、一言で言えば駅のホーム。 少し高くなったその場所に、黒い南瓜のような物が寄り添うように待機している。 リベリスタたちが近づくに連れて、臣民たちが騒ぎ立てる。中には襲いかかろうとしてくる者もいたが、それらは行動に移ろうとした瞬間に、びくりと動きを止める。 そこには、確実に何者かの意思が介在していた。 ――おそらくは、誰かを確実にその地へと呼び寄せる為に。 それでも、その『誰か』が、今近づいているリベリスタたちではないことは、確かだった。 「――! お前たち、何をしに来たというのだ!」 ホームのベンチでうずくまっていた『彼女』が、朗々と拒否を示す声を上げたのだから。 「随分人格が板についてきたようだが、エリューションはエリューション。 普通同情すべき相手なら今までにもいくらも見た……俺には関係ない。 逃がした相手がまた何かやろうというのなら、ここできっちり潰さんとな」 煙草を取り出し、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が呟く。その視線の先は電車から降り立った『盾』。彼とてかつて倒そうと挑みつつも逃したプリンセス・オブ・ザ・パンプキンに興味が無いとは言い切れない。だが、確実な勝ちのためには、湧き出る雑魚を見逃すことなど決してできない。 ならばあちらのエリューションは思い入れや執着のある人間に任せて、自分は露払いに徹するというのも、ひとつの大事な任務だろう。 気糸に何重にも締め付けられ、捻れたマリオネット人形の様な姿勢となった猫型のエリューション・ビーストが悲鳴を上げる。 「元々雑魚の相手の方が得意な身だ」 糸の出所である鉅は咥えた煙草に火をつけた。 「――我が臣民をッ!」 自分を庇おうとしていた『盾』を倒され、焦りの中に怒りを混じえたプリンセス・オブ・ザ・パンプキンが掌から生み出したパンプキンシード――その縁はナイフのように鋭く尖っている――を、切り裂くように振り回す。遠目に見れば、その種子の軌跡は殺意に荒れ狂うオロチのようでもある。 一人に向けられるには過剰な攻撃を受けながら、鉅は見た。 プリンセス・オブ・ザ・パンプキンの瞳から光が消え、唇に酷薄な笑みが浮かぶのを。 「なんて、本当はオウジサマ以外、どうでもいいくせにね?」 さっと視線を走らせ、見覚えのある顔を確認するとどこか恍惚とした表情で『彼女』は掌を突き出した。 「見覚えのある人がたくさんね? 殺しがいがあるわ」 次々と現れては射出される、種子。神速の抜き撃ちにも似たそれは中衛に位置していた『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)と『サイバー団地妻』深町・由利子(BNE000103)、『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)の3人を次々と狙い撃つ。 活性化した魔力が体内を循環するのを感じながら、俊介が問いかけた。 「よォ姫ちゃん! 覚えてる?」 自分を『姫』と呼んだ俊介に訝しげな表情を向けた『彼女』に、由利子は確信を持った。 「姫ちゃん、死んだ奴等の意思を継ぐのはいいけどな、助けてってどういうことなん?」 そのフィクサードと俊介は、直接顔を合わせたことはなかった。だからだろうか。 「貴方、誰?」 その言葉に、『彼女』は眉間に皺を寄せ、明らかな不快を示す。 ――今度は、『プリンセス・オブ・ザ・パンプキン』ではない。『七海』だ。 「二重人格みたいなもの――そうよね、七海さん?」 目を丸くした俊介の前で、由利子が『彼女』に呼びかける。その言葉に、薄い笑顔が僅かに引き締まった。 「懐かしいわね。貴女のことはよく憶えてる……お久しぶりね?」 そう言って『七海』は自分の胸を、右手の指先で押さえるように示して嗤って見せる。 よく見れば、そのあたりの肌には引きつったような筋があった――由利子の義手に接続されたエーデルヴァイスが貫いた、その痕跡。 由利子への言葉に、その仕草や表情に。ある者は驚きを浮かべ、ある者は胸に確信を抱き。 その時、リベリスタたちの頭上から炎が降り注いだ。彼らの頭上を旋回するように飛ぶ冠が放ったものだ――冠にとって、主の言動が『誰』のものであるのかは些細なことのようである。 「初めましてかなお姫様。そしてお久しぶりです七海さん。二名様、お迎えにあがりました」 正鵠鳴弦をきりきりと引き絞り、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が叫ぶ。 「姫! 愛した人を奪われた同士もっと本音で語り合いましょうよ?」 彼――便宜上、今は桐月院と呼ぼう――の言葉に、彼女の顔に浮かぶのは驚きと悦び、そして憤怒と悲哀の表情。 「奪ったのは、貴様らだろう!」 二つの表情に、続く言葉はひとつ、プリンセスの絶叫のみ。思わず握りしめたのだろう拳は、爪が掌に食い込み兼ねないほど――否、もしかしたら食い込んでいるのかもしれないが、滴る血の持ち合わせなど彼女にはない。操る姫は電車の意識であれど、体の七海は既にこの世ならざる者なのだ。 リベリスタたちには、この状態を説明する言葉の持ち合わせがあった。 黄泉帰った死体、エリューション・アンデッド。 死体が動いたのを姫が操ったか、姫が操るうちに屍体が動き出したかは――今は些細なことだろう。 「もう一年近くにもなるのか……」 電車のE・ゴーレムが逃走したという事件が怒ったのは、昨夏のこと。それを思い返し、ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が僅かに目を伏せる。変質した神経系を伝った彼のエネルギーがその体表を覆い、触れなば傷つかん程のオーラと化していく。 「ずっと二人が気になってた。 秋に向かったときは、おっちゃんを助ける事に必死で、お前の事どうにかしてやれる余裕は無かった」 二人。 そのカウントに、プリンセスが僅かに怪訝な表情を浮かべる。 「なぁ聞いてくれよ。俺、決めてる事があるんだ……」 だが、ツァインはそこで口をつぐんだ。まるで、今はそれを言うべき時ではない、とでも言うかのように。 「他の皆さんのように強い思い入れがある敵、というわけではありませんが――!」 機械の足で地を蹴りつけ、巨大な白い長剣――白鳥乃羽々を振りかぶった『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が、雷気に変換したオーラごと無冠の冠に斬りつける。 既に充分な腕前をもってはいても、佳恋がアークに参加したのは今年の春のことである。この電車たちと対峙するのは、初めてのことだった。ただ世界の為に、世界による自分の変質に納得するために戦う彼女にとって、エリューションの討伐は全力を尽くすに値するものだ。 その斬撃にゆらぎ傾いだ冠の下に降り立ち、佳恋は剣を構え直して、宣言した。 「さて、行きましょう。私も及ばずながら全力を尽くさせていただきます」 由利子は皆への十字の加護を乞いながら、冠が振りまいた炎に何人が苛まれているのかを確認する。無意識に右腕の大型神装兵器に左手で触れると、かち、と薬指の輪が由利子を励ました。 「ねぇ、『お姫様』? この歪んだ物語のせいで沢山の人が泣いたのかしら? ならば私は悪い魔法使いでいい――何度だってその夢を壊してあげるから」 由利子のその呼びかけは、しかしその実、彼女と七海の過去の会話を想起させ――忠実な狗でありたいと願った『七海』は、不愉快そうな表情を隠さない。 「電車、好きだよぉ。でも今回はちと厄介だねぇ……というわけでおとなしくしてもらうか。くくく」 群れを求めた狗の表情に、遥か先祖の革醒の影響を現代に受け、己の属す群を滅ぼした『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)が狼の歯を覗かせ、闘気をみなぎらせる。 「――自我を取り戻したのだな、七海よ」 目を細めた『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)は、いつか撮られた見合い写真よりも遥かに溌剌とした表情で己の限界を外してみせる。 「骸のままならば回収して弔ってやろうとも思ったが、自らの意思を以て其処に居ると言うのなら話は別だ。 さぁ、決着を付けよう。これ以上、勝ち逃げは許さん」 「あら。私、勝ち逃げてたの? 確かに、負けた覚えもなかったけれど」 自分に対する最終的な評価を、七海は知らない。驚いた顔が、素直に嬉しそうなものへと変わる。 「また出たわね、季節外れのハロウィン電車。今度こそ逃がしはしないわよ。覚悟なさい」 ティアリアには、七海というフィクサードに対し何の思いも存在しない。ただ取り逃がした敵がそこにいるというだけのこと。彼女は自らの魔力を高めるべく、周囲の魔的な要素を取り込み始めた。 見た目の邪悪な黒いハルバード、アンタレス。抜き放ったそれで真空刃を生じさせ、冠を切りつけた『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)はいつものように明るく笑ってみせる。 「これで3度めかー、電車も恐らくはななみんもー。何か縁とか付いてんのかなー? ……でもそれも終わりにしよっかー。決着付けに行くぜー、アンタレス!」 プリンセス・オブ・ザ・パンプキンは岬の、以前とは違う制服に目を留めた。年月の経過を示す、その衣装。時間を重ねることが劣化でなく成長につながる若さに、口元を歪めたのは彼女の中のどちらだろう。 ●2012/7/3 12:04 「次の盾の臣民が出てくるまでに、先に出現した臣民を倒せればそれが一番ではあるが……」 思うほどにはうまくいかないのが、現実だった。 踊るように踏み込んで、スローイングダガーが仕留め損ねた『盾』ごと新たな『盾』を切り裂く。 『盾』と呼称されただけあって姫を庇いに行こうとする臣民たちには丈夫なものが多く、鉅のデッドリー・ギャロップが一度当たった程度では倒れない者がほとんど。その逆に、当たれば一撃で『剣』を葬ってみせるものの必ずしも成功するとは限らないのが、御龍のデッドオアアライブである。 「くくく、我の血が、狼の血がうずく。なん人とたりとも我を止めめられるものはいない……!」 御龍はそう言って哄笑するが、余裕があれば姫も狙うつもりだと宣言していたのが、実際には殆どの時間が『剣』の対処で過ぎてしまっている。 互いが互いのことに注力し過ぎたために、たまに出来る余裕も、うまい一手につながらない。 「許さんぞ、貴様らああ! 臣民と同じ数だけ、貴様らの仲間を八つ裂きにしてやる!!」 悲鳴にも近い怒号を上げながら、『南瓜姫』が暴れ大蛇で前衛を嬲ることに執着するのも宜なるかな。 痛みを感じた様子を見せない御龍などは一度運命を燃やしていたが、まるで愉悦の色を隠さない。 さらに。 「あら。もしかして、体で道を塞いでるつもり? だったら――舐めないで」 目の前に立ちはだかる美散に『七海』がにこりと微笑んで見せ――そのまま意にも介さず、美散の腕や首の隙間を縫って撃ち出される種。七海の抜き打ちの技術からすれば人のカラダの造形が作る隙間から撃ち抜くことは造作もない、ということらしい。 回復手の多い中衛の急所を執拗に狙う『七海』や、炎を撒き散らす冠のせいで、中衛に位置するティアリア、俊介、由利子の怪我は、運命さえも消費しながら、回復に追われる状態が続いている。 ティアリアが皆を癒すための福音を響かせ、同じ福音を喚ぶ俊介が空元気を見せつけた。 「よーし、皆! 頑張ってこいよな!! 俺も頑張る!!」 だがしかし俊介の背中で燃えている炎は、演出ではない。俊介以外にも、何人かの肌を今も焼こうとする火。由利子は、それらの仲間を苛む異常を払うブレイクフィアーを準備しながら、期を図る。 「最初は……カツラだったかしら? あらあら、随分立派になっちゃって」 本当はその火や痺れなど、すぐに払ってやりたいのが、人の情。 だが、情を越えた先で悪意を撒く存在が相手なら、効率よく立ち回ることも必要になってくる。 苦渋を感じるのは後で良い。これが"執着の終着点"ならば――今は必要なことを成さないと。 「さあ……彼女に因縁を持つ人が、決着をつけられますように」 由利子の視線が仲間たちの間を慈しむように流れていき、最後に桐月院の元で止まる。 「姫、貴女のことは嫌いじゃない。正直応援したい位そのいじらしい恋心とか好きですし。 だけど――この日が来る前に自分もその火を放ちたかったのに!」 厄介な冠を先に狙うことは、ブリーフィングルームで決めたことだった。その厄介な攻撃を、敵に向けて放つことが出来れば、どれだけ戦力が違っただろう。 呪詛を込めた矢で冠を射抜きながら、桐月院は唸り声を上げる。もし既にインドラの矢をつがえることができたなら、彼女と話す時間を――話す内容はともかくとして――作ることができたかもしれなかった。 ブロードソードは破邪の輝きを帯びて、長剣は刀身に雷気をまとわせて。ツァインと佳恋はそれぞれ冠を斬りつけ、叩き落す。 地に近づきかけた無冠の冠を、『生きていた伝説』にとどめを刺した深紅の槍(ミストルージュブレイカー)が輝くオーラを纏いながら貫き通した。 しぶとく落ちない冠の、貫通させた穴の向こうに『七海』を見て、美散の口の端が上がった。 「七海、"伝説"は既に終わりを告げた。最早存在しない」 自分が、その終わりの立役者の一人となったこと。 それが言葉ではないどこかから伝われば良いとばかり、その槍を『七海』へと向ける。 言葉はなかった。 だが、女の顔は、どこか泣き笑いにも似た形を作る。 死体の体からは、涙は流れない。 それが物理的に乾いたからなのか、心理的に乾いたからなのか、『戦闘狂』には読みきれなかったが――全て、伝わったのだと。確信する。 「それでも"伝説"を続けたいと言うのなら、付き合ってやる」 (最後の最期まで……トコトン、な) 美散の飲み込んだ言葉は、誰にも届くことなく、ただ彼の心のなかに重石として残る。 七海もまた、その重石には気づかぬまま、いつもの笑顔を作ろうとして。 「貴方達は、本当に――。七代先まで、祟ってやる」 その言葉は、七海渾身の冗談なのが透けて見えた。 その間にも、甲高く鈍い音が響く。空間その物を切り裂く様な、少し耳障りな音。 「丈夫なヅラもそろそろ退場のお時間だよー」 アンタレスを振り下ろした姿勢のまま、岬はあっけらかんとそう言った。 「……? え?」 『彼女』が、何かに気がついたのか、戸惑った声を上げる。 ハルバードの振り下ろされたその少し先、中空を舞っていた破界器は、その動きをぴたりと止めていた。 やがて動きを再開し、よろよろと、まるでふらつくような動きで、揺らめきながら辿り着いた先は、プリンセス・オブ・ザ・パンプキンの足元。頭部を飾るはずの冠は、ひれ伏すかのようにその床に着き。 そしてぱきりと音を立てて二つに割れた。 由利子が小さく息を呑む。俊介が目を見開く。 それは誰よりもハルバードの扱いに優れた岬の放った真空波の、余りの鋭さが起こした珍事か。あるいは――何れにせよ、リベリスタ達の手を数度にかけて逃れ続けたアーティファクト無冠の冠は、ここに紛れも無い最期を迎えたのだ。 「……ご苦労であった」 二つに分かれて地に落ちたそれを見下ろしそう呟いたその声色は、臣下を労う者の声。 その唇はいたわりをかけた形のまま、不安にわななき、音もなく言葉を紡ぐ。 王子様、どこにいるの。 その様を目にして、ツァインは思わず叫んでいた。 「ハトのおっちゃんはこっちに向かってる! もうすぐだからそんな女に負けんなっ!」 その言葉を耳にしたプリンセスの瞳に、生気が宿る。僅かに戦慄した表情で、彼女は声の主を見る。 「王子様が……?」 その視線をまっすぐに受けとめ、ツァインは頷く。 「どうしてあの方が――じゃあそれまでになんとかしないと」 驚きに満ちた声が、不遜なものへと取って代わられ、また薄い笑みが浮かぶ。 幾人かのリベリスタは確信を持ってその変化を受け入れた。 先の、美散との会話もそう――彼女の体は、徐々に『七海』が主導を握る比率が高くなっている。 それでも、否、だからこそ、己の言葉に意味があったと、ツァインは信じる。 ●2011/10/30 無冠の冠、と呼ばれたのにはそれなりに理由がある。 それが作られた時、本当は王冠の形を取るように作られていたはずだったのだ。 ――だが、それが冠としての用をなすことなど、ついぞなかった。 向けられた敵意に対し攻撃を返す金属塊を一人の職人が冠にし、それを受け取った王は、不運にもそれを眺めているうちにエリューションと化してしまった。不幸の象徴、もしくは呪われた宝飾品として飾られた冠を戴くものなど現れず、やがて国とともに失われたのだ。 発見された時には、出自の分からない冠など必要とされない時代となっていた。 元の形のままで、全ての実力をいかんなく発揮できる主など見つけられないまま、形を変え、持ち主を転々としていて――そして、彼女と出会ったのだ。 「……お前、所有者(あるじ)がいないのか。似てるな、私と」 人の形を手にしたばかりの、そうと名乗る以前のプリンセス・オブ・ザ・パンプキンと。 いつしか人の頭髪の形ばかり取っていた姿は、本来の姿を取り戻した。 その王冠を面白がって、『南瓜の電車』は、その姿も、意識も『姫』となった。 全力を振るうことのできるこの姿を取ることは――この主を失えば、もうないだろう。 ならば、この主が、最後の所有者(あるじ)で構わない。ただ己の本領を、全力を持って全うする。 この姫を護ろう、最期の時まで。 ●2012/7/3 12:05 がさり、と音がした。 この事態を警戒していた由利子が、その音の源へと駆け寄る。 「お? 広いとこ出た!」 健太郎が、鳩が豆鉄砲食らったような顔で周囲を見回し、間の抜けた快哉を上げ、それからようやく目の前に立った由利子の存在に気がついたようだった。 「あ、えーともしかして、公園の管理人さん?」 「王子様!」 健太郎を見つけて叫んだ姫の振るった四肢は、二度、大蛇のようにリベリスタ達の前線を蹂躙した。 全体的な戦局を見据え後衛を狙うフィクサード七海の意志と、幼く単純な戦意で暴れ回る南瓜姫。 二人の戦略のずれが生んでいたダメージの分散はこの事態に、瞬間、収束してしまった。 「……おのれ」 そして鉅が倒れ伏す。佳恋と美散は踏み止まったが、それは運命と引き換えの、辛うじてのもの。 そうでない残りの者も、傷が深い。 新たに車内から降り立った『剣』を迎え撃つにも、前線の中からさらに一人割く必要ができてしまった。 王冠の破壊により優勢になったかに見えた戦況は、しかし全く予断を許さない状況となったのだ。 「すんまへーん、そこ退いてぇなー!」 「ごめんなさい、王子様……まだここを通してあげるわけには行かないの」 理由の一つは、癒し手である由利子が健太郎を抑え、同時に守る事に手を割かれている事だ。 そしてその状況が、新たな破綻を生む。 「主には恨みはないが、その十字架は背負ってやる」 その斬撃は、微塵のためらいも無く、残酷で冷酷。そして冷静。 「例え皆に恨まれようとも構わないわ」 そして魔法の矢は、鋭く、しかし迷いなく射抜く。 御龍は決めていたのだ。 現れた健太郎を殺すと。これ以上の被害を出させないために。 ティアリアもまた、覚悟していたのだ。 間に合わぬなら、駆けつけてしまった彼を殺し、あわよくば南瓜姫の怒りを己に向けようと。 だから、2人は魅了されたフォーチュナにその殺意を向けた。 その結果、想定外の集中攻撃を受けて崩れ落ちたのは、健太郎を庇った由利子だ。 「あら、有難う。これで邪魔は無いわね?」 そこに響き渡ったのはプリンセスではなく、フィクサードの声。 ずっと注視していたプリンセス・オブ・ザ・パンプキンの視界では、全ての事態が把握できていた。 残ったリベリスタたちの攻撃をあしらい、受け流し、傷ついて、『彼女』は笑う。 殺戮の希望に。殺害の絶望に。 「貴方がいるとお姫様が元気になっちゃうみたいなの。だから、死んでね」 二度、続けて健太郎に向かう不可視の殺意。 由利子は倒れた。前線で、彼女が無理な時は己がと考えていたツァインも、その場所にたどり着くことはできても、盾として身を挺するのは間に合わない。岬もまた、ツァインと状況は全く同じ。 美散の身体だけは射線を塞ぎきれないことも証明されている。 今度こそ死が、鳩の眉間を捉え、 「させるかあああああ!!!」 轟音の如く、裏返るほどの大音声。すぐ近く、飛び出したのは赤髪の少年。 「おっちゃぁん!! 聞けよ!! 電車には乗るんじゃない!!」 「い、いや、それ所やないやろ大丈夫かボウズ!? ちょ、ボウズー!?」 「乗るな……!」 背に二撃を受け、倒れ行く俊介はしかし最後まで健太郎に語りかけ続けた。 「あら、残念ね。けど、これはこれで楽しいことに――う、ぅぐ……王子、様ぁ……っ」 回復手を二人失ったリベリスタ達を見て笑う七海の声が、途中から健太郎の身を案じるものに変わる。 肉体の支配権を取り戻した南瓜姫は、これまでのどんな時よりも精彩を持った表情で顔を上げる。運転士の存在と健在がその原動力になっているのは、誰の目にも明らかだった。 「王子様、良かった、お会いできました、王子様……!」 そしてそれは、七海がまた押し込められたと言う事であり。 「たかがE・ゴーレム風情がそいつの声で喋るな!」 美散の苛立ちが、叫びとして炸裂した。 ティアリアは少し逡巡しながら、御龍は迷いなく、改めて健太郎を見据え。 岬がフォーチュナの元に走ろうと身構え。 健太郎が俊介と由利子の容態を見ようと慌てて屈み込んだその時。 「やめろ!!!!」 ツァインの叫びが戦場を凍らせた。 「アンタ達の事知ってから決めてた事がある! アンタが電車に戻ったら、うちの街の路線で走ってもらうんだ! 運転手は鳩のおっちゃんで……街の奴等を乗っけて毎日走るんだ!」 続いたのは夢物語だ。 エリューションを知る者であれば誰もが目を伏せる、実現し得ない理想。 だと言うのに、それを語るツァインの声は確信と決意に満ちている。 ――運命の加速が、何かを僅かに歪ませ始める。 己をも滅ぼしかねない黙示録、それと引き換えに望む未来。 「だからもう終わりにしよう……そんでまた始めるんだ……!」 踏み出したその一歩は、誰の目にも留まらぬほどに速く。 「出来るッ! そういう未来で……視えてんだよぉぉーッ!!」 体当りするかのように突き入れたブロードソードは、七海の胸を貫いていた。 ――彼女自身が由利子に指し示した、引きつったような傷の痕を。 血の出ないはずの傷から、何かが吹き出す。 それは光り輝くようにさえ見える、命の根源、生命力――オーラ。 それは長く通電していない電車を、もう何も食べられなくなった屍を動かしていた、超常の、神秘の力。 ツァインの一撃によってその体から押し出され、鼓動にも似たリズムで吹き出していく。 徐々ににその量を減じ、やがて何も見えなくなった時、リベリスタたちは付き出た切っ先近くから何かがこぼれ出たのを見た。 金属の結晶のような、何か。 ぱきりと割れたそれが姫の『核』だったのだと、何故か、見た者全てがすぐに理解できた。 ●2011/10/4 土の中を泳ぐように逃げた時、紺色のマーメイドドレスに合わせて選んだヒールが脱げてしまったことに気がついた。逃げたことは恥とは思っていないが、裸足で歩くのは、何故か屈辱的な気がした。 ――狗を名乗っておいて、何を執着したものか。 自虐に、即答で反論が浮かぶ。あれは自分で買ったものではない。行き倒れていた私を拾ってくださったシンヤ様が、この街で身を隠すならと買ってくださったものだったのだから。宝物だったのだ。 それにしても、あの子――二つ頭の犬を失ったのは、損失だった。どんな叱責を受けるものか、今から楽しみでさえある。ご主人様に苛まれるのも嫌いではないが、どうせなら褒められたい。頭を撫でて欲しい。 深夜の公園で、ベンチに一人腰掛けた姿は、途方に暮れた様にも見えただろう。 「……ねえさん、さっきからずっとそこおるな。って、服ボロボロやで、どないした!?」 がさり、と、近くに身を隠していたらしいハト頭のビーストハーフがおそるおそる声をかけてきて、七海の身なりにぎょっとした表情をうかべて慌てだした。 「ど、どないしたええんや、ひゃくとーばんか、いちいちなな……はちゃうやろ、それは時報や! せやかてわし、こんな、ハトやし、いちいちきゅーしたところで、どないしたら……」 勝手にオロオロした鳩頭を見て、七海は革醒したばかりの、行き倒れる寸前の自分を思い出していた。 シンヤがどのような気まぐれで自分を拾ったのか、七海自身はまったく知らない。 側で仕え、どのような内容でも、どのような方法でも構わないから役に立つことが全てとなっていた。 ――いつか、余裕ができたらお聞きしてみようかしら。 忠実な犬は、そんなことをわざわざに聞かないものだと思いながらも、考えることは止められない。 思考を切り替えようと、『狗蜘蛛』梓・七海は、見かけたリベリスタたちの顔を思い返す。 同じ名だと言った青年がいたことを思い出した時、ふと口の端にいつもと違う笑みが浮かんでいた。 ――また遭う機会が、あるものかしらね? ●2012/7/3 12:05:30 ツァインのブロードソードが引きぬかれると、『彼女』はたたらを踏んで数歩後退し――倒れることはなく、そのまましっかりと二本の足で立ったまま、リベリスタたちの方を見た。その表情は、『七海』のもの。 その時、ホームに停められていた電車が突然ライトを点滅させ始めた。 何が起きたのというのか咄嗟にわからないままのリベリスタたちの前で、今まで呆然と『七海』を見ていた健太郎が、はっとした様子で顔を上げた。 「呼んでる、あの子や!」 その視線は、電車の車体の方を向いている。 意識のあるリベリスタたちは顔を見合わせて、倒れた者の他に数人をその場に残し、電車の方へと駆け寄った。苦しむかのように揺れる車体から、我先にと『臣民』だった者たちが逃げ出していく。 「……なあ、あの娘さん、なんやったん?」 健太郎が、不思議そうな表情を浮かべて、近くにいた佳恋に聞いた。 「正体をご存知では、ないのですか?」 佳恋もまた、健太郎の言葉に疑問を抱いた。彼は、姫に呼ばれていたのではなかったのだろうか。 「いや、そりゃ顔は知ってるけど。せやけど、昔殺されたねえさんとは、あれ、なんか多分違うんやろ? わしのこと、王子様とか呼ばれたことあらへんし。何より王子様とかガラちゃうしな」 その様子を注意深く見ていたティアリアは、ひとつの仮定に思い至る。 「呼んでる、と言ったわね。誰に呼ばれたのかしら?」 「そりゃ、あの電車や。中のAIみたいなもんは、女の子やねんで? あれ」 迷いなく指差す健太郎に、意識を取り戻した体に鞭打って近づいた鉅が、なるほどな、と呟いた。 七海の体を奪ってから、健太郎は一度も電車に会っていない。 姫が『姫』と名乗りだしてからのことを、彼はまったく知らないまま、ここに来ていたのだ。 「えらい苦しそうや……もう、助からへんのやろ?」 悲しげにうなだれる健太郎の肩を、慰めるように、そして電車に近寄らないようにツァインが軽く抱く。 「……わしも、病院で色々教わったで。あの子は、生きてったら、あかんねやろ? せやのに今、あんな苦しんでんねやろ? ……頼む。見てられん。一息に、やったってくれ」 リベリスタたちが頷きを返す。鳩の瞳に、大粒の涙が浮かんでこぼれ落ちた。 ●2012/7/3 12:05:40 「……あはは。せっかく体が私のものに戻ったと思ったのに。もう、まともに動きもしないわね」 ゆっくりと指の開閉を繰り返すのを見つめる七海の口元は、相変わらず、薄っぺらい笑みを浮べている。 「もう、あれだけ撃ち回った南瓜のタネも出てこないみたいよ?」 言う必要のない言葉をわざわざ口にして、肩をすくめてみせた七海の手に、美散が、地面に落ちていたパンプキンシードを一枚拾い上げて無理やり握らせる。 「俺はお前と決着を付けに来た。お前で無ければ無意味だ」 その言葉が今、どれだけ虚しく響いているのかは、おそらく美散自身が一番よく知っていた。 酷使されすぎた死体は、もう、あとどれだけの破壊に耐えられるかわからない。 今すぐにでも壊れてしまいそうにも、いつまでも消えないようにさえも見える。 「さぁ、俺と戦え! 我が"敵"よ!」 それでも美散の挑発に、七海は種を、断罪の魔弾として投げようと握りしめる。 岬が困ったように眉根を寄せて桐月院の手を握り、黒白の剛弓をしっかりと掴ませる。 破魔矢よりも何よりも射るべきものを射抜け。桐月院がその弓を持つ時、そう呟いたのを聞いたことがあったのだろう。 「いい加減覚えよーよ、こんくらいで倒せるとか見くびりすぎだろー……」 そう言葉にした岬自身も、この一手で、全てが終わるとわかっている。 「始め七海さんの体が姫になったのを知った時は悔しくて叫んで情けなくて憎くて憎くて堪らなかったのに今はそうでもないんだよな……」 頷き、桐月院の番えた矢は自分の羽で作られたもの。 「七海さんを連れて帰れるならここで燃え尽きたっていいと思ってたんだ。 その後のことなんて知らない思いつかない」 「デッドオアアライブ――これで伝説の下へ送ってやる」 「私のことを買いかぶりすぎよ、ふたりとも。そのうちもっと良い相手が、見つかるわよ、絶対」 七海の言葉は二人それぞれに、しかし同じ音と文字列で、一度で済ませた。 三人、同時に攻撃を繰り出した。 七海の脚が、己の振るう腕の勢いについていけずに落ちる。 獣化した結果の黄色と黒の縞が描かれた細い腹部を深々と貫通する槍。 いつか触れかけた首に刺さり、引きちぎりそうな勢いで突き抜ける矢。 それぞれが致命傷となっていた。 ●2012/7/3 12:10 王国の崩壊をアーク本部へと連絡したリベリスタたちは、医療班や回収班と合流した。 公園の中はいつも通りの、危険なエリューションたちを見かけることのある危険地帯へと戻っていた。 「電車、どうなるんだろ。……走らせてあげたいなァ」 手当を受けながら呟いた俊介の言葉に、ツァインが頷く。 「後で室長に土下座で頼み込む」 さおりんに聞いてみるか、と軽く言いかけた俊介の言葉が、真剣なツァインの前で宙に浮いた。 ぺちぺちと、いたわるように車体の名残を翼で叩いていた健太郎が、少し考えるような顔で目を閉じる。 「――こいつは走られへんよ、もう。足に当たる部分が、いろいろ摩滅しとる」 「ええっ!?」 慌てて確認に向かおうとしたツァインを、健太郎は掌(というか羽)で制した。 「こいつそのものは無理でも、車体の中で使えるとこはありそうや。 そこを頼み込んだほうが、うまくいくと思うで? ……わしかて、こいつには走って欲しい」 「ホントだよな!? よし、おっちゃん、どこが使えそうか教えてくれよ!」 「任せとき!」 騒ぎから少し離れたところで、桐月院は別の申請をしていた。 E・アンデッドの回収も回収班の仕事のうち。そっちの手伝いをすることに問題はないはずだ。 今度はちゃんと連れて帰る。これは誰にも譲らない。 「七海さん。王子様が不在なだけで場面も出番もすでに終わってるです。 さようなら――自分が大好きだった人」 桐月院七海は、自分の手に残ったチョーカーに触れ、そう呟いた。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|