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なまむぎなまくびなまほうそう

●なんてなまいきなやつだろう
「だから、カツラではないと言っているだろう!」
「そりゃもう毎日実に黒々と同じ形をしてはりますもんなあ!」
 今日のゲストは失敗だった。
 そう思い、プロデューサーがもう幾度目になるかわからないため息を吐いた時だ。
 ずるり、と司会の頭皮がずれる。
 いや、違う。
 カツラだ。
 ゲストに来た、傍若無人で売り出し中の若手芸人が、カツラ疑惑のあった司会の髪を掴んだのだ。
 一瞬にしてスタジオは水を打ったように静まり返り、やがてどこからともなく失笑が漏れ、それが爆笑に変わるまでには時間を要さなかった。

「おまえらなんかに……」
 若手芸人には何が起きたのか分からなかった。
 ごとり、と何かが頬にぶつかって、そっちを見ようとしても体が動かない。
「おまえらなんかに……!」
 声を上げたのは司会だ。彼がもう一度、叫ぶ。
 若手芸人はゆっくり考える。
 体は動かない。
 すべてが見上げる高さにある。
 笑い声が、ざわめきが、すべて静寂に変わり、スタジオ中の人間が自分を見ている。
 プロデューサーが青ざめた顔で、椅子から転げ落ちて後ずさる。
 その横にある画面に映っているのは、ああ、見るんじゃなかった。
 倒れているのは、俺の、身体だ。
 だから、画面の中で、机の上に転がっている、あの黒い塊は。
 だから、それを横で聞いてるのは、いろんなものを、見上げているのは。
 もう何も考えられなかった。

「ヅラの気持ちが、わかってたまるかあああ!!」

 若手芸人の首を切り落としたカツラは宙を舞いながら、次の犠牲者をプロデューサーに定める。
 切り落としたばかりの首が噴き出す血潮を浴びて、司会の鶴見生麦は、悲痛ともいえる声で、吠えた。

●アーティファクト名・無冠の冠
 深夜のブリーフィングルームにて。
「生麦事件。Do you know?」
 リベリスタの答えを待たずに『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は言葉を続ける。
「江戸の終わり、大名行列の中を馬で歩いてみせた異国の男が斬り殺された事件だ。
 相手の文化にrespectを持たなかったために起きた、とも言えるね」
 机上に投げだした書類に目もくれず髪を掻き上げる伸暁には、寝不足の疲労が見え隠れしている。
 カツラは宙をU.F.O.の様に飛び回り、標的の首を切り落とす。
 何もしなければ、明日の朝には鶴見のカツラはスタジオ内の人間15名全員を殺害してしまうのだ。
 それだけでも充分大惨事なのだが、彼によれば、先の映像は生放送として全国に流れると言う。
 いくらなんでも、それはまずい。
「事件が起きるのは、明日のAM9時ちょうど。
 8時半からのTVショウの撮影をするために4時に起き、5時にはスタジオ入り。それが彼の日課だ。
 ……なんとしてでも、彼のカツラを引き剥がしてくれ」
 リベリスタたちは時計を見る。
 日付が変わるまであと5分。
「で、どこのTV局へ向かえばいいんだ?」
「……大阪だ」
 三高平から大阪まで、車で4時間半。
 リベリスタたちは時計を見る。
 日付が変わるまで、あと、5分。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月27日(金)23:46
鶴見言うたら鶴見緑地線やろ、と返すあなたは関西人。ももんがです。

●行動できる時間が短いです
あまり特殊な準備はできません。
移動時間内に電話で伝えて準備できる程度のことであれば、伸暁も頑張ってくれるかもです。
サポートの方のみ、事前に関西にいたとしてもかまいません。
それでも、時間が時間ですので、限度があります。
なお、道路交通法は守りましょう。

●無冠の冠
アーティファクト、無冠の冠は使用者の命に従います。
この場合の使用者とは、最後に長時間着用していた人物となります。
使用者の望み通りかつ最も威厳を得る事の出来る形状となります。
本来は王冠となるのが普通ですが、今回はカツラになり、自然な着用感と生え際を提供しています。
また、これを着用した人物は「これがなければ自分ではない」ような気分に陥ります。
普段は奪われないように慎重でしょうし、奪われたとしたら何としてでも取り戻そうとするでしょう。

●戦闘能力
回転スライス:出血、ブレイク
単体に向けてぐるぐると回転しながら飛んできます。予知内で首を切り落としたのはこれ。
細い髪の毛が意外と痛く、切り裂いてきます。

なお、自律行動はしていません。殺戮や戦闘は鶴見の意思のままに行動した結果です。
しかし、己が破壊される可能性を感じると、一度だけ全方位に向けて全ての髪の毛を飛ばしてきます。
その際には、使用者の安全は考慮されていません。

浮遊中には攻撃があたりにくいです。部位狙いほどではありませんが。

●成功条件
・神秘の暴露を防ぐ
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
クロスイージス
★MVP
深町・由利子(BNE000103)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
覇界闘士
龍音寺・陽子(BNE001870)
覇界闘士
恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)
プロアデプト
ウルザ・イース(BNE002218)
ホーリーメイガス
救慈 冥真(BNE002380)
デュランダル
クライア・エクルース(BNE002407)
■サポート参加者 2人■
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
マグメイガス
雲野 杏(BNE000582)

●豹柄のシャツはオバチャンの夢を見るか?
 旅行と言うのは楽しい物だ。
 己の知らぬ空気、世俗、言葉の響き。
「おじさん、とりあえずビールと串揚げ、追加ね!」
 そして食べ物。
 高架下の立ち飲み屋にて『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は深夜の大阪を存分に楽しんでいた。
 実にKYな呼び出し音が鳴るまでは。

 アークから借りてきた9人乗りのワゴンの車中は満員である。
 8人ではなくあくまで9人。運転席に座るはアークのスタッフ。
 誰も運転を申し出なかったのは深夜の強行軍に対し体力の消費を抑えたかったからか。少なくともわらわはそうじゃと宣言していち早く座席を占拠した『伯爵家の桜姫』恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)は既に半分夢の中だ。車内でもいつも通りの小袿姿は助手席のスペースを目いっぱい使っている。
「TV局に入るパスが欲しいんだよ、局内に入れなきゃ元も子もないから」
 ポニーテールを弄りながら携帯でそう訴え出る『戦うアイドル』龍音寺・陽子(BNE001870)の耳に、やたら爽やかな笑い声が届く。
 伸暁いわく。インディーズバンドのヴォーカルにアイドルが頼む内容じゃないだろ。
 さっきから車窓を眺めている褐色の美少年は『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)。
 彼はイーグルアイを駆使して道路状況を見通そうとしているのだが、どう頑張っても車窓からの見通しは山や他の車に遮られてしまっている。
「髪が無いのが恥ずかしい……ですか。
 恥と思いやりを重んじる日本文化は素晴らしいと思いますが、こういう事まで恥ずかしいと思ってしまうのは……如何なのものでしょう」
「まあ、薄毛脱毛は全男性の永遠の議題だ。こればっかりは軽視できねーなぁ」
 金髪碧眼の見目麗しいシスター『贖罪の修道女』クライア・エクルース(BNE002407)がロザリオの先に吊るされた十字架に触れながらしんみりと疑問を口にし、黒髪糸目の白衣姿『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)が、何か思うところがあるのか苦々しく返す。
 二人とも長髪である。件の鶴見生麦氏の目の前で同じことを言った日には強烈な嫉妬を買いそうだ。
 最後部の座席には、生身の左手、その薬指に鈍く光る指輪を見つめる『サイバー団地妻』深町・由利子(BNE000103)の姿があった。
「どうかされたんですか? 車酔いとか……」
 七布施・三千(BNE000346)はお人よしな性格ゆえに我慢しきれず、由利子に声をかける。
 車に乗る前、一番やる気を見せていた由利子の沈黙は、皆言葉にせずとも気にかけていた。
 車内が少しだけ静かになる。正直に話した方が良いと考え、由利子は少し哀しげに笑うと紫の髪をゆっくりと左右に振った。
「心配させてごめんなさい。……ウチの人のことを、思い出したのよ」
 由利子の夫は、ナイトメア・ダウンで亡くなっている。
 少しの間、沈黙が車中を支配する。
 空気が重たくなりかけた時、はい、と明るく大きな声で手を挙げる者がいた。
 黒い手袋の右手、ウルザだ。
「ホームセンターに行きたいです!」
 深夜2時。
 高速道路。
 土地勘ナシ。
「「「「「「「「無理」じゃ」だよ」です」だな」です」よ」だ」
 8人(運転手含む)から一斉に、最初の2文字が同じ言葉が返された。


●大阪城ブルース
 AM4:35
 道に迷わず、渋滞に巻き込まれず、目的のTV局に着くことができたのは予測通りの時間である。
「あそこです」
 そう言って道を進む『深き紫の中で微睡む桜花』二階堂 櫻子(BNE000438)のオッドアイが示す先。
 まだ暗い夜空を見上げてから翼を広げ、周囲を確認しようとクライアが飛び上がる。
 ――大阪城。
 その天守を守るように広がった森の中には、いくらか広めのスペースが存在したのだった。
 櫻子が先行して探し回り見つけた場所に、強結界を準備していた鬼子は深く頷いて見せる。

「おまえ、カツラなんだってなあ?」
 広場の中央に佇む『Gimmick Knife』霧島 俊介(BNE000082)の赤い髪と、顔に入ったタトゥー。
 鶴見生麦は戦慄した。
 いつも通りに局に到着したところで、大きめ強気系おっぱい、どどーんと包容力熟女系おっぱい、腰のあたりがいい感じな蕾系娘とそろい踏みしてサインしてくれとか、お願いちょっと来て、とか言うから着いて来てみたら。
 ――なんという美人局。
「何のことだ。……私はこれから収録なんだ。金なら今はない、車は局にある。
 私が戻らなければ、マネージャーやスタッフが探しに来るだろう」
 通勤前のサラリーマンからお茶の間の奥様方まで、安定した人気をかっさらう大物司会者の一声。
 こんな状況であっても、人前に立ち続けることに慣れた人間特有の自信に満ちた態度は揺らがない。
「隠すから恥ずかしいし、隠すから周囲も笑うんだよね。だったら隠さなければいいんだよ」
「歳をとれば抜けますし、抗癌剤治療の副作用でも髪は抜けます。
 文化を発信するお仕事なのですから、つまらない事を恥じる文化は間違っていると、身をもって示して頂けませんか」
 ウルザの美声が、クライアの静かな声が。夜明け前の空気に響き渡る。
 話すことなどないとばかりに、鶴見は無言で踵を返した。
 そこに飛び出した三千が必死の形相で両手を広げ、その行く手を遮る。
「今日ゲストに出る予定の芸人さんが番組中、あなたがカツラかどうか証明するって、そう意気込んでいるらしいのです!」
「ええい、煩い!」
 苛々と声を張り上げる鶴見に向かい、制服が土に汚れることも厭わず三千はその場に膝を着き、頭を地面にこすりつけた。
「お願いです! どうか、話を聞いて……」
「狭ぇんじゃねーかなぁ。器とかそういうのがさ。いや、失敬。頭髪がある面積の間違いだったか?」
 もう説得は無駄だ。そう踏んだ冥真が、三千と鶴見の間に割って入る。
「なに……?」
 鶴見の声は既に怒気を孕んでいる。
「例え髪がなくてもそれがなんだ! それが鶴見サン自身なんだ!
 カツラなんかあるから、おまえ自身が苦しんでいるんだ……ならばいっそそんなもん捨てちまって楽になろうぜ!!?」
 今が好機と、俊介は一気に畳み掛けるように熱の籠った声を上げる。
「鶴見さん、洋画の俳優みたいに、渋くてカッコイイじゃない!
 もしカツラをネタにしようとする奴が居たら逆にそいつをネタにしてやれば良いんだよ!」
 本気でそう思っている目を向け、陽子が熱弁する。
 一方、冷めた空気で成り行きを見守っていたのは、鬼子だ。
(わらわにはカツラに頼る気持ちはわからぬ。励ましの言葉など、空虚)
 杏と櫻子は説得には加わらず、不測の事態に備えるために静観している。
 鶴見は、自分を取り囲む顔ぶれをじっと見まわし、ひとつ、大きな息を吐いた。
 見守るリベリスタたちには――沈黙は、随分と長いように感じられた。
「そうだな……」
 幾人かの表情が、喜びと安堵に緩む。
 それが狙いだったのだろうか。鶴見生麦は凄絶な笑みを浮かべ、吠えた。

「そんなにカツラかどうか知りたいなら――おまえらの首に教えてやろう!」


●残酷なかつらのテーゼ
 鶴見の怒号とほぼ同時に、カツラが――否、無冠の冠が、ふっと飛翔を始める。
 それは説得が通じなかった場合は攻撃を誘発させるという、リベリスタたちの作戦通りでもあった。
 しかし。
「――速い!」
 このチーム中で最速を誇る陽子が咄嗟に流水の構えを取り無冠の冠に掴みかかるが、するりとすり抜けられてしまう。予想外の速度と機動性に、コンセントレーションの準備が間に合わなかったウルザが遅まきながら己の脳の活性化を図る。
 最前へと飛び出した鬼子の旋風脚が、空中で回転を始めた冠を見事に直撃しその軌道を少しズラし。
 冠の突撃に対しあえて前に突撃していた三千はその斬撃に脇腹を掠められたが怯むことなく――あろうことか、鶴見に飛びついた。
 尻もちをついて倒れこんだ鶴見の頭を抱き抱え、三千は勝ち誇る。
「これで、無冠の冠が戻ってきても鶴見さんの頭には戻れないですよね!」
 それを聞いた鶴見が、一瞬の驚愕の後、馬鹿笑いあげた。
「ははははは! 馬鹿め、それでどうにかなるものか! まずはおまえからだ!」
 その言葉に従ってか、三千の周囲を窺うかのように飛び始めた無冠の冠。
 それを確認し、蹴りを放った体勢を戻していた鬼子は眉をしかめる。
 このアーティファクトが鶴見の意思に従っていることは、ブリーフィングの時点からわかっていた。
 しかし。
「はあぁっ!」
 三千を狙うべく旋回を続ける冠に、俊介が強い意志を込めた気合とともに眩い光を放つ。
 その光に鶴見は一瞬怯えたが、俊介は鶴見を敵だと認識していない為、神気閃光は無冠の冠だけに強い衝撃を与えてみせる
 ぐらりと傾き、高度を落とす冠。
 そこに由利子の義手から打ち出される十字の光、櫻子と冥真の詠唱が生み出す魔力の矢、杏の魔力弾が続けて打ち出された。
 特に冥真のそれは活性化された魔力によって強化されており、当たれば大きな威力を持っている。
「抜けたのが早いか遅いかだろ。あんま騒ぐなよ」
 当たりにくい的を狙いながらも、冥真は鶴見の挑発を忘れない。
「長い髪のおまえに何が分かるというんだ!
 今は若さに任せていようとも、いつかはおまえも分かる日が来る!」
 苦しみが迸り出過ぎて振り絞ったような鶴見の声に冥真は小さく、そりゃごもっともで、と呟いた。

「うああっ!」
 三千の肩を斬りつけた無冠の冠。その怪我の酷さに櫻子が慌てて駆け寄った。
 陽子の斬風脚が巻き上げた無冠の冠の中心に、ウルザの精密な気糸が命中する。
 ぎりぎりでかわされた己の旋風脚の構えを解き、鬼子は考え込む。
 低い位置を浮遊する冠に俊介のマジックアローも交えた後衛陣の集中砲火が浴びせられ、クライアがオーララッシュをかける。
「ああ……っ! 私の、私の頭が……!」
 鶴見は、少しずつ確実に毛髪をすり減らす無冠の冠に、悲痛な声を上げている。
 冥真はその鶴見の様子を横目で見て――
「へ?」
 その視線の先、泣きそうな顔を浮かべた鶴見の真正面に、少しかがみこんだ鬼子がいた。
 伸び上がりながらカウンター気味に放たれる鬼子の拳。
 それは吸い込まれるように、鶴見の鳩尾に突き刺さった。
「操り手であるこやつの意識を奪えば、冠も動きを止めるはずじゃ!」
 そう快哉を叫ぶ、鬼子。
「がひっ」
 鶴見がくの字に身を折り曲げた。
 気絶を狙った一撃である。手加減をしているため殺す事は無くとも、傷つけるには充分すぎた。
 横隔膜への衝撃により呼吸困難に陥ったらしく、泡を吹いて崩れ落ちる。
「鶴見さん!」
 慌てて介抱しようと屈む三千。
 しかしその三千に影が差す、走りこんで来た俊介が、三千ごと鶴見を突き倒しのだ。
「あぶねぇっ!」
 冠は確かに鶴見の意思を受けて動いていた。鶴見の悶絶と共にそれが途切れたのも狙い通りだ。
 ただ、無冠の冠は意思は持たずとも、主を失った際、最低限の自己判断をする機能があった。
 周囲には己に攻撃を重ねる能力者が複数。そして主人は物理的な要因により意識を喪失した。
 このままでは己が破壊される。そう判断するには充分すぎる材料が揃っていたのだ。

 どががががっ!!

 射出された鋭い毛髪の群が、周囲一面を埋め尽くし――やがて、静かになった。
「二人とも、無事か!?」
 その身を呈して鶴見をかばった俊介が、三千と鶴見に問いかける。
「僕は大丈夫です、それより鶴見さんが!」
 俊介と三千の二人が応急処置をしようとして、
「かつらが!」
 焦りを含んだクライアの声が響き、意識のある者全員がハッと顔を上げる。
 見れば丸裸になった無冠の冠は既に上空。再び毛を生やしながらも主を諦め、逃走に移っていた。
「逃がすかっ!」
 陽子の斬風脚は空を切るが、俊介と冥真、そして櫻子のマジックアローが放たれる。
 3本の矢は折れる事無くアーティファクトに突き刺さったが、その存在を打ち砕くにはまだ足りない。
「浮かんだって無駄さ。逃げられないよ」
 ウルザのピンポイントがすっかり毛の減った鬘を打ち抜く。
 溜まらず少し速度を落とした冠に翼を広げて迫ったのは、クライアと杏の2人だった。
 クライアの必死に伸ばした指が冠に届く。
「捕えました!」
 だが。

 ──ブチリ。

 それは鈍い音だった。重い音だった。大切なものが抜け落ちる音だった。
 途方に暮れた表情でごっそりと抜け落ちた毛髪の一束を握るクライアを見て、杏は小さく呟く。
「持ち主だけじゃなく、カツラまでハゲたか……」

●鶴見生麦に花束を
 結局、鶴見生麦は意識こそ取り戻したものの、痛みと喪失感に気力を失い――リベリスタたちの手には、負えなかった。
 足を一歩進めるごとに苦痛に顔を歪める鶴見は生放送に向かうこともできず、最寄りの病院へと運ぶことになってしまったのだった。

『次の話題です。夕刊はどこもこれ一色ですねぇ。
 鶴見生麦氏、生放送前に襲われる!
 いやぁ、いったい何があったんでしょうね?』
『話によると、鶴見さんは気絶させられたうえでカツラを盗まれたという――』

 ブツン。
 病院のベッドの上に横になった鶴見は、不愉快そうな表情でTVの電源を落とした。
「紛い物でさえ、あれだけの喜びを感じる、自分自身の惨めさを……
 そう易々と受け入れられるなら、誰が、カツラなどに頼るものか……!」
 そう言って震える拳を握りしめる鶴見の病室に、由利子が入ってくる。
「怪我はそう大したことはないそうですよ」
「帰れ! 私を……騙しおって!」
 少し傷ついた表情を浮かべながらも、由利子は引き下がらなかった。

「……騙すような事をしてごめんなさい。でもファンだというのは本当です。
 貴方のお陰で、私達主婦が退屈な日々をどれだけ楽しく過ごせているか……
 カツラを被る事がどれだけ悩んだ結果の事なのか、その気持ちは私には解ってあげられない。
 でも、外見なんか気にしないで欲しいんです。
 カツラを被って負い目を持って振舞うより、毛が薄くたって、堂々トークで皆を楽しませる貴方が、かっこ悪い司会者のはずがないじゃない」

 鶴見は、泣いた。
 みっともないと思う程に、泣いた。
 カツラなどなくとも、自分を受け入れてくれる人はいたのだ。

「ひとつ……聞かせてくれ。
 どうしておまえは、そんなに、熱心に気にかけてくれたんだ?」
 一頻り泣いた後、病室を去ろうとする由利子に、鶴見が声をかけた。
「……亡くなったウチの人にも、昔同じような事を言ったの」
 由利子は少し頬を染め、悲しげに笑った。

 後日、TV画面には美しいほどのハゲ頭で、視聴者に心配をかけたことを謝る鶴見の姿があった。
 その顔は酷く晴れやかで――以前より、誇らしげでさえあったという。

<了>

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
今回の目標はアーティファクトの回収ではありませんので、成功です。
お疲れ様でした。

MVP:
このままではヤケになり世界の神秘についてぶちまけそうだった鶴見をなだめてくれた深町さんに。
ただカツラの否定をするのではなく、受け止めた上で前向きに諭してくださいました。