●廃村 山の奥にある、小さな村だが、少し前までは人が住んでいた。 しかし、今はもう、誰もいない……。 ダムが建設されることになり、この村は廃棄された。村人は皆、此処から去っていった。 誰もいなくなった村に、人の声はもう聞こえない。聞こえるのは、虫や鳥の鳴き声、川の音に、風が揺らす木の葉の音くらい。自然の音しか鳴り響かない。 ただ1か所、村にある唯一の学校を除いては……だが。 ニ階建ての小さな、本当に小さな学校だ。 その学校から、夜な夜な子供の笑い声が聞こえてくるのである。 クスクス、という小さな笑い声。それから、校舎の中をあるく小さな影。 月夜に照らし出されたそれは、10体ほどのぬいぐるみであった。 うさぎや、熊、犬に猫などの動物をモチーフに作られたぬいぐるみ。 それらが列を成して、夜の校舎の中を歩き回っているのである。 そんなぬいぐるみの先頭を進むのは、小さな女の子。髪の長い、色白の少女だ。紅いワンピースを風に揺らしながら、明りのない廊下を歩く。反対側が透けて見えているのは、彼女が生者ではないからだろう。 かといって、死者でもなければ霊でもないわけだが……。 校舎の残された子供たちの想いから生まれた、E・フォースである。 彼女は、村中に忘れられ放置されていたぬいぐるみを集め、夜の校舎を彷徨い続ける。 いつかまた、子供たちの笑い声が村中に響く日を夢見て、ずっと。 ●想い出 「子供たちの想い出から生まれたE・フォースが今回のターゲット」 うさぎのバッグを抱えながら『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がそう言った。 「廃校舎の中を少女は彷徨い歩いている。それと、ぬいぐるみが10数体」 大して大きいぬいぐるみではない、とイヴはうさぎのバッグを持ち上げた。恐らく、校舎内を徘徊するぬいぐるみはそのバッグと同程度の大きさなのだろう。 「ただ、面倒なのが少女の能力。こちらの身長をぬいぐるみと同程度まで小さくする能力を持っている。この能力は学校に近づくことで発動。回避は不可能だと思われる。少女の元に行くには、その小さくなった身体で、ぬいぐるみの妨害を受けながら校舎内を捜索する必要がある」 少女に戦闘能力はないから、そっちは捕まえれば終わり。 と、イヴは言う。 「要は、遊んであげればいい。鬼ごっこみたいなもの。ただし、割と危険だから」 気をつけて、とのこと。 「少女は逃げるだけだし、ぬいぐるみも妨害してくるだけ。けど、こちらの身長も小さくなっているから、ぬいぐるみの攻撃や、校舎内にいる虫とか鼠の類、それから探索の際も気をつけないと大けがするかも。朝になったら少女は姿を消すから、日が昇るまでに捕まえて」 今回はタイムリミット付き。 少女は、触れることが出来れば退治することが可能らしい。 「ちょっと危険な鬼ごっこ……。ぬいぐるみ相手でも気を抜かないようにね」 そう言って、イヴはうさぎのバッグを抱きしめたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月24日(日)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●廃墟とぬいぐるみ 床には埃、天井には蜘蛛の巣、廊下の端には鼠の空けた穴、割れた窓ガラスが床の上に散らばり、差し込む月の光を反射させる。 廃校舎、である。 暫く前までは、子供たちが遊び、学んでいた廃校舎。しかし、今は誰もいない。村ごと潰され、後はダムの底に沈むのを待つばかりとなった。忘れ去られるのを待つばかりの、朽ちた学校。 もう二度と人が踏み込む筈のない校舎に、子供の笑い声が響く。同調するように、廊下をなにかの影が歩き回る。影の正体はぬいぐるみであった。熊やパンダ、犬などの動物を模したぬいぐるみ。その昔、子供たちがそうしていたように、廊下を駆けまわり、飛び跳ね、遊ぶ。 そんなぬいぐるみ達を引きつれて回るのは、薄く透けた女の子だった。クスクスと楽しそうな笑い声が校舎の中に木霊する。 女の子は、楽しそうに廊下を駆け、階段を昇り、そして不意に姿を消した。 久方ぶりの遊び相手が現れたことを感じ取ったのだ。 今日は思いっきり遊ぼうと決めて、少女は逃げることにした。ぬいぐるみ達も思い思いに散っていく。 月明かりに照らされた校舎は、どことなく寂しそうでもあった……。 昇降口に辿り着く頃には、すでに身長は本来の五分の一以下にまで縮んでいた。校舎内を彷徨うE・フォース(少女)の能力によるものだ。昇降口には8人の人影。アーク所属のリベリスタ達である。 「なんだかとっても不思議の国! ……夜の校舎こわっ!?」 苦笑いしつつも、楽しそうに窓ガラスに映った自分の身体を眺めているのは『骸』黄桜 魅零(BNE003845)だ。普段ならなんてこともない靴箱も、今の縮んだ身長ではビルのようにも見える。 「夜の廃校舎、ホラーの定番。普通お化けとか出そうで怖いって思うんだけど、今日は怖がりはいるのかしら?」 緑と蛍光ピンクのオッドアイを光らせながら『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)が首を傾げる。なんとなく楽しそうなのは、アニメのマスコットの気持ちはこんな感じだろうか、と考えているからだ。 「子供の遊び心がエリューション化した相手って事ですか。誰もいなくなった学校の寂しさも関係しているかもしれませんねー」 アゼル ランカード(BNE001806)が、廊下を見渡しながらそう言った。耳を澄ますと、廊下の奥からなにか小さな物音が聞こえてくる。 「AFでの連絡は常時できるようにしておきますね」 眼鏡をかけ直しながら『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)がそう呟いた。手にしたバスタードソードを使う機会が無ければいいと、内心思う。 現在校舎内には、複数のぬいぐるみが徘徊している。人とのふれあいに飢えた彼らは、リベリスタたちを見かけると、じゃれついてくるだろうことが予想されている。しかし生憎とこちらは身長が縮んでいるのだ。ぬいぐるみがじゃれついてくるだけでも、怪我をする恐れがある。 「まずは班分けして区画ごとに捜索だね!」 子供と遊ぶ時は全力で! をモットーとした『エアリアルガーデン』花咲 冬芽(BNE000265)は、そう言って壁にかかった校舎の見取り図に視線を向けた。少々表情が引きつっているのは、夜の校舎の雰囲気に飲まれているからだろうか……。 「子供の夜遊びはメっなんだよ!! ぜーったい捕まえてやるんだからねっ!」 ツインテールを揺らしながらそう意気込むの『三高平高等部の爆弾娘』蓮見 渚(BNE003890)だった。暗視ゴーグルを装備し、夜間での廃墟探索は準備万全といった風である。 なにはともあれ、4班に分かれての真夜中の鬼ごっこが開始されたのだった……。 ●ぬいぐるみと少女 「おにごっこだお。敵は強いみたいだし、こっちも本気出していくお」 2階東側の廊下で、小さくなった『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)が面白そうに、辺りを見渡す。小さくなった身長では、階段を昇るのも一苦労だったのだが、そんなこと気にもしていない様子。 「おにごっこをしてあげるだけで満足してくれるなら、喜んで付き合うよ。最後くらい楽しく遊んであげたいしね」 低空飛行で廊下を飛ぶのは『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)だ。前進し、また戻る、という行動を繰り返しているのは、飛行能力を持たないガッツリを気遣ってのことだろう。進路の安全を確認しているのだ。そんな彼女の動きに惹かれたのか、廊下の先から鼠が姿を現した。 「……割とでけーお」 鼻をひくつかせながら鼠が歩み寄ってくる。体長数センチほどの鼠であるが、今の彼女たちにとっては中々の大きさである。ガッツリは、鼠に向かって手を伸ばす。 「協力して貰うお」 ピクン、と鼠の身体が震え、動きが止まる。ファミリア―という、小動物を支配するスキルが発動したのだ。鼠はやがて、元来た道を逆走していった。 「虫とかは触りたくないし、お任せしますね」 と、セラフィーナは言う。そんな彼女にガッツリは頷いて見せた。この調子で、支配する小動物を増やし、少女捜索に協力させるつもりなのだ。 「おっ! なにか来たお」 背後に視線を向けるガッツリ。視線の先には、教室の出入り口から半身を覗かせ様子を窺う犬のぬいぐるみの姿があった。キラン、と熊の目が光る。 「ねぇ、私と勝負しない?」 セラフィーナがそう声をかける。それを合図に、犬のぬいぐるみが床を蹴って、駆け寄ってくる。ぬいぐるみの割には、なかなかの瞬発力と速度だ。動物がモチーフだけのことはある。 「あちきはぬいぐるみと戦う趣味はねーしお……。なによりあちきは非戦闘員だおーん」 そう言って、ガッツリは一目散に駆けだした。ぬいぐるみから逃走にかかる。しかし、動くものを追いかけるのが、犬の習性なのか、ガッツリの後を追いかける。 犬の真横に、セラフィーナが近寄る。 「貴方が1回のジャンプで私に触れたら貴方の勝ち。なでなでしてあげるね。その代わり、私が勝ったら……」 と、セラフィーナが言い終わる前に犬のぬいぐるみが綿の詰まった腕を大きく振りまわす。空気を押しのけ、布製の腕が迫る。セラフィーナは、慌てて急上昇し、それを避けた。後を追って、犬がジャンプ。腕が触れそうになった所を、間一髪で回避した。 床に降り立ったぬいぐるみが、腕を顎に当て首を傾げるような動作をする。なんでとどかなかったんだろう? とでも言いたげな動き。 「思ったより手ごわそうですね」 「少女追っかける方が優先だお」 遊び相手に飢えたぬいぐるみの相手は、なかなかに手ごわそうだった……。 一方その頃、1階西エリア。 月明かりに照らされた壁に、津布理が張り付いていた。スキル一人ぽっちを使用して、小動物をやり過ごしているのである。 「瞑さん、がんばって女の子見つけて捕まえましょうねー」 そんな彼女に、上空からアゼルが声をかける。その声に反応して、鼠が動きを止めた。余計なことを、とでも言うような目で、津布理がアゼルを睨みつけた。しかし、鼠はすぐに廊下の向こうへ消えていった。 代わりに……。 「歩く姿が可愛いのです……」 ハッ、と息を飲むアゼル。廊下の先からやってきたのは、パンダと熊と、犬のぬいぐるみだ。空を飛ぶアゼルを見つけ、駆け寄って来た。埃が舞い上がり、津布理が咳き込む。パンダの視線が津布理を捕らえた。津布理が頬を引きつらせ、その場から一気に走り出す。 「ほんとは遊んであげたいんだけど、ごめんね。後で迎えに行くから一緒に遊ぼうね!」 と、声をかけるが相手は遊び相手に飢えたぬいぐるみ。聞く耳持たず、後を追ってくる。いつの間にか、津布理の横に、アゼルが降りてきていた。 「かわいいけど、でも捕まりませんよー」 追いつかれるかどうかの駆け引きを楽しんでいるのか、アゼルは実にいい笑顔。調子にのったのか、熊のぬいぐるみが地面を蹴ってジャンプ、跳びかかって来た。咄嗟に、アゼルと津布理は横に転がってそれを回避。埃が舞って、床が揺れた。左右に別れた2人に、今度は犬とパンダが跳びかかる。月明りが遮られ、影が落ちる。 防御態勢をとった津布理と、床を蹴って飛び上がるアゼル。その動きが面白かったのだろう、熊が飛び跳ねて悦びを表現する。 「そこまで痛くないけど、衝撃が……」 床に倒れたまま動けないでいる津布理が、冷や汗を浮かべて苦笑い。そんな彼女を助けるために、アゼルは床に降り立つのだった……。 「あたいたちも、捕まるわけにはいかないんですよー」 同時刻、2階西側の廊下にて。 蓮見と黄桜の2人は、埃の積もった廊下を走り回っていた。 「一緒に渚サンがいてよかったー。だってこんな怖い場所で1人とか、黄桜泣いちゃうもん!」 小さな物音に驚いて、黄桜はビクリと身体を震わせる。そんな黄桜に、蓮見は笑ってみせた。 「魅零、一緒にがんばろうね!」 小さ身体では、思ったように動けない。それでも必死に足を動かし、前へ前へ。少女の影を探す。しかし、見つかったのは自分たちの方だった。ロッカーの上に居た猫のぬいぐるみが2体、彼女たち目がけ飛び降りて来た。 「ぬいぐるみからは全力で逃げる!」 蓮見の言葉に、無言で頷く黄桜。そして、背後から迫る猫のぬいぐるみ達。いつもと違う感覚に戸惑いつつも、足元のガラス片や小石を避け、逃げる2人。 そんな2人の前に、巨大な蜘蛛の巣が張られているのが目に入った。 「小さいからって舐めんなぁー!」 大太刀を抜いて、それを振りまわす黄桜。廊下を駆け、蜘蛛の巣に迫る。恐怖を感じたのか、巣に張り付いていた蜘蛛が、慌てて壁へ移動する。キラリと月光を反射した大太刀の刃が、蜘蛛の巣の端を切り裂いた。 「お、おにごっこで捕まってなるものかっ!」 蓮見は背後に視線をやって、ぬいぐるみとの距離を図る。思ったよりも接近されていた。相手はぬいぐるみだが、獣の俊敏性も兼ね備えているのだろう。片方の猫が、床を蹴ってジャンプする。 「ちょっ……はやっ!?」 焦った声を上げる黄桜へと、猫が跳びかかる。蜘蛛の巣を破り、圧し掛かって来た。綿のたっぷりつまった柔らかい腹の下敷きになる黄桜。彼女の上からぬいぐるみを退けるため、蓮見がメイジスタッフを構えた。しかし、そんな蓮見目がけ、もう片方の猫が腕を振り下ろしてくる。 「わっ、きゃっ!」 ボスン、と空気の弾ける音。肉球部分と、蓮見の身体が衝突し、大きく弾き飛ばされた。床を転がり、壁にぶつかる。肺から空気が押し出され、一瞬意識が途切れた。 「渚サン!? ちょ、絶対負けてなるもんかっ!」 ぬいぐるみの下から這いだした黄桜は、大太刀を構え、猫たちに向き直る。ぬいぐるみを傷つけるつもりはないし、正直夜の学校はかなり怖い。それでも、蓮見が動けるようになるまでは、時間を稼ぐと決めて、彼女はぬいぐるみと向かい合うのだった……。 そんな彼女の視線の先、ぬいぐるみの向こうにクスクスと笑う少女の姿が見え……そして、消えた。 「ひゃわきゃわー!!」 同時刻、1階東側の廊下で大きな悲鳴が上がった。声を上げたのは花咲だ。彼女の隣では、仁科がバスタードソード方手に後ろへ下がる。 なんとはなしに入った教室の中に、都合9体ものぬいぐるみが集まっていたのである。パンダ、熊、犬、猫、その他狐であったりたぬきであったり、よく分からないハムスターのようなものであったり、何かのアニメのキャラクターであったりと、多種多様なぬいぐるみの群れ。そのボタンで作られた目が、一斉に2人に向けられたのである。 ポトリ、と花咲の手から懐中電灯が落ちた。それを合図とするかのように、2人向かってぬいぐるみが殺到する。仁科は、スキルによる加速で持って、ぬいぐるみ達の接近を回避。花咲は、翼を広げて宙に舞い上がった。 花咲を追って、熊のぬいぐるみが飛び跳ねるが、しかし届かない。何度も何度も、床を蹴って跳ねる。 その様子を上から眺めていた花咲の表情が、ふいにほころんだ。 「……あ、攻撃が届いてなくてぶんぶんしてるクマー可愛いっ♪ これならあまり怖くないかも?」 深呼吸を1回、翼を動かし高度を下げる。振りまわされる熊の腕を避け、その頭部に飛び付いてじゃれる。そんな花咲目がけ、猫のぬいぐるみが跳びかかった。 「あ、遊んでる場合ですか?」 バスタードソードの腹で、パンダのぬいぐるみの攻撃を受けていた仁科が焦ったような声をあげる。数が多い上に、こちらの身長も小さくなっているため、思ったように行動出来ないでいるのだ。 「じゃれつきすぎもよくないよね」 と、ほどほどで切り上げ熊から離れる。空を飛ぶ花咲を追って、ぬいぐるみが跳ねるが届かない。注意がそちらに向いた隙をついて、仁科も全力疾走でもってその場を離脱。しかし、後ろから追ってくる②ぐるみは意外と素早く、降り切れないでいる。 「ちょーっと失礼」 急降下してきた花咲が、仁科の脇に腕を通し、持ち上げた。そのまま上空へ避難する。ぬいぐるみの群れを振り切る為、一旦はその場を離れ、身を隠そうと言うのだ。 しかし、事はそう上手く運ばなかった。 『こちら1階西グループ。少女発見しましたー。東側へ逃走中ですー』 仁科のAFから声が聞こえる。それは、アゼルの声だった。 「こっちに来るんですか……」 よりにもよって、と言いたげな仁科と、困ったように苦笑いを浮かべる花咲。2人の視線が、自然と廊下の先へ向く。闇の中から現れたのは、髪の長い少女の姿だった。 「全力で追いかけっこだねー。まてー!」 翼を上下に動かし、急降下。花咲は少女へ向かって、仁科を放ったのだった。 ●おにごっこ 「せっかくの鬼ごっこ、鬼が強すぎてもいけませんからね」 なんて、仁科は呟いて壁を蹴る。窓枠やロッカー、花瓶を足場に少女へと駆け寄っていく。仁科の接近を見て、少女は嬉しそうに笑った。彼の下を潜るように少女が走る。そんな少女の後を追うのは、津布理とアゼルだ。 「きっと捕まりそうで捕まらない時が一番楽しくて、笑いが漏れちゃうものなのよ。それで最後は、つーかまーえたっ、で良いと思うの」 「全力で鬼ごっこのお相手をするのですー」 そう言いながら、2人は少女の後を追う。そんな2人の背後には、3体のぬいぐるみ。津布理が少女に飛びかかるが、少女は難なくそれを回避する。相手は少女だが、普通の人間サイズである。しかし、こちらはぬいぐるみ程度の大きさでしかない。一歩で動ける距離が違う。 「楽しいですかー?」 アゼルが問う。少女は、クスクスと小さく笑う。 「前! ぬいぐるみが沢山いるんで、気を付けて!」 2人の背後に着地した仁科が叫ぶ。しかし、既に手遅れだ。少女は階段を駆け上がって行ってしまい、津布理、アゼル、仁科の3人はぬいぐるみの大群に挟まれてしまった。 3人の見送る先で、少女は2階に上がって行く。それを追って、花咲も2階へ飛んでいった。 東側2階には既に蓮見、黄桜、セラフィーナの3人が集結していた。どういうわけか、ガッツリの姿は見えない。なんとか3体のぬいぐるみをやり過ごしていると、そこに少女が現れる。その後ろから花咲の姿も。少女は3人に気付いて、不意に足を止めた。 ここぞとばかりに、花咲が接近。少女前方からは、セラフィーナが迫る。 「みーつけたっ! 捕まえちゃうよー!」 前後から跳びかかる2人。少女はクスリと笑って、すぐ傍の教室に飛び込んだ。 「え、っちょ!」 「あぁ!?」 勢いの付きすぎていた2人は正面からぶつかり、床に落下。そこにぬいぐるみが跳びかかる。 「待ちなさいよねぇー!」 「気持ちはちゃんと、分かってるから」 黄桜が叫ぶ。その横では、蓮見が光弾を撃ち出し、少女の足を止めにかかる。全力ダッシュで少女に駆け寄る黄桜と蓮見。途中で蜘蛛を蹴飛ばしたが、気にせず駆け寄り抱きつくようにして少女に飛びかかった。少女は、そんな2人を見て「楽しい」と呟く。 ぴょんと、少女が机の上に飛び乗った。それだけのことで、2人は少女に手が届かなくなる。床で飛び跳ねる2人を見降ろし、少女は笑った。 その時……。 『捕まえた!』 少女の背後から声が聞こえる。驚いたような顔で、少女はそちらに視線を向けた。しかし、そこに居たのは背中に携帯電話を括りつけられた1匹の鼠だ。驚き、目を丸くする少女。 どうやら、さっきの声は携帯の着信音のようだ。意味が分からず、首を傾げた少女に向かって、迫る影が1つ。窓の外から飛び込んできたのは1羽の蝙蝠だ。 「囮だお! 捕まえたおー!」 蝙蝠の背からジャンプしたのはガッツリだった。予め、校舎の外に身を隠し少女の隙を窺っていたらしい。ガッツリは少女の頭に飛び付くと、その髪を優しく撫でた。 「負けちゃった」 少女は呟き、悪戯っぽく舌を出す。そのまま、闇に溶けて、消えていく。 「楽しかった?」 黄桜が問う。少女は「楽しかった」と答えた。少女の姿が薄くなるに従って、リベリスタ達の身長が元に戻っていく。少女が消え、完全に元通りになった頃、津布理たちが追いついてきた。 「私達も、楽しかったよ」 虚空に向けて、黄桜が言う。 「終わったなら、ぬいぐるみを迎えに行くわ。暗い所に一人ぼっちは嫌だもんね」 足元に転がっていた熊のぬいぐるみを拾いあげながら、津布理が笑う。 誰もいない校舎に、子供の笑い声が響き渡った、そんな気がした……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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