● 「あら、ステキよ。ええと、とっても良い色ね!」 一人の女――魔女服を其の身に纏った女が楽しげに人形遊びをしている。 薄暗い部屋の中、蝋燭の光だけを頼りに女が手にしたのは櫛であった。 「貴方のこの髪の色、とってもとっても素敵!」 椅子に座らされた男の人形はだらりと手を下ろしたまま女を見つめている。 ――ガタンッ! ふと背後で鳴り響いた音に女は振り返り、その顔に満面の笑みを浮かべた。 「ああ、お待たせしちゃってごめんなさい。ええと、冬村・蔓(ふゆむら・かずら)さん」 背後で寝そべった女が纏うのは特務機関アークの制服。リベリスタの女だろうか、殺意を込めた瞳で魔女服の女を食い入る様に見つめている。 「冬村さん、貴女の恋人はこんなに素敵なお人形になったわ」 貴女もお人形にしてあげる、そしたらずっと一緒ね! 振り返った女が冬村に近づき、手にした杭を二度、彼女に打ちつける。 咽喉から出る筈の声は痛みによって堰き止められ、ただ、見開かれた目から涙が流れ出す。 「ッぅ、ぁッ」 辛うじて彼女の咽喉から出たのは痛みへの喘ぎだけだった。 「大丈夫、この杭はね、ええと、『蝋人形の契』ってお名前なの。直ぐに貴女をお人形にしてあげるから」 誰かを強く恨んでいる力あるもの――そう、『私たちを怨んでるリベリスタ』の方が強くて綺麗で素敵なお人形になるのよ。 ね、感情って素敵でしょ?憎悪って素敵でしょ?さあ、もっと痛みに絶望して!! 彼女は笑い、もう一度強く強く、彼女へと杭を打ち付けた。 「ミス・マテラメテロ」 背後で聞こえた呼び声に魔女服の女は振り返る。 「御機嫌よう、名前はもう忘れてしまったわ、ええと、興味がなくて」 首をかしげた彼女に声をかけた男は小さくため息を吐く。 「どうですか、そのアーティファクトは」 「ええ、とってもとってもとっても、素敵!ええと、素敵で素敵だわ」 女は、楽しげに笑った――ああ、早くもっと強い方がいらっしゃらないかしら。 ● 「ごめんなさい、すぐに向かってほしい所がある」 ブリーフィングルームに到着したリベリスタを待ちうけていた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は開口一番そう言った。 「敵は六道派のフィクサード。二つのアーティファクトを所有している」 モニターに映し出されたのは齢17程度に見える女である。 写真に添えられたのは通称ミス・マテラメテロという名前。 「彼女は『人形の館』にすむ魔女。入口からいたるところにマネキンが鎮座してる。気持ち悪い場所」 出入り口から人形が並んだその場所は何処か異質な空気が漂っている。 「彼女が手にしてるのは『蝋燭人形の契』というアーティファクト。詳細は資料に書いておいた」 差し出された資料に目を通すリベリスタ達にイヴは口頭で補足していく。 蝋人形の契――杭の形をしたアーティファクトで、5回打ちつけることでその人間を自身の言う事を聞く人形にしてしまうというもの。 「この『蝋人形の契』は憎しみの感情を持てば持つほど強い人形を作る事ができる。 けど、何処に隠し持っているのかは、わからなかった」 そこまでは判らなかったと頭を下げるイヴにリベリスタ達が静まりかえる。 「まてよ、人間から人形を作る事ができるって……ドールハウス、だよな?」 「ええ、其処に居る人形はすべて元・人間でしょうね」 リベリスタの問いにイヴは冷静に返す。つまりは館に入った時点で敵の戦陣のど真ん中に行ってしまうのと同意なのだ。 「彼女は大広間――そこまでは一本道だしすぐつく。其処に居る」 しかし背後からも人形が襲い来る可能性はあるのだ。 十分注意して進まなければ、囲まれて動けなくなる可能性も十分にある。 「到着時に、一人、まだ人形になっていないリベリスタが居るわ」 名前は冬村蔓。ヴァンパイアのレイザータクト。まだ新米の彼女は恋人とペアを組み、この屋敷の調査に来ていた。 「……もしかすると助けられるかもしれない、いえ、助けてやってほしい」 大広間の真ん中に血を流して倒れているリベリスタ。 まだ、消えていない命を救ってやってほしい、と彼女は言う。 「性質の悪いアーティファクトを持った性質の悪い奴ら。リベリスタの確保をお願いする」 どうか、おねがい、とイヴは頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月23日(土)23:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 鴉の鳴き声が耳を擽る。 ぎぃ、と嫌な音を立てて開いた大きな扉の先、廊下に並んだマネキン人形の顔を視界の端に捉えた『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)の表情は大きく歪む。 目の前にずらりと並ぶ人形は全て『元は生きていた同じ人間』――全員を助けたい。難しいかもしれないけれど、全員を。 自分の指先から離れた友人たちの笑顔。護りきれなかった命。もう誰の命も諦めたくない、と彼は思う。 七布施・三千(BNE000346)の施した翼の加護により、仲間たちはゆっくりと一本道を進んでいく。 「人形が動くアトラクション付きなんて、マダム・タッソー館だよねぇ」 「マダム・タッソー館?」 首をかしげた三千に『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は小さく笑う。 「言うなれば恐怖の部屋に無料サービス?」 「ああ、本で読みました」 恐怖の部屋、簡単に言うなればお化け屋敷だろう。美術館の特別展示。ギロチンの模型や首、罪人の拷問――どれをとってみてもエグい代物。 歌う様に語った葬識に読書を好む三千は頷いた。まあ、アトラクションとかどうでもいい、と葬識は千里眼で先を見通す。 ふと、廊下の端でカタンッと小さな音がした事に先頭を進む『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が反応する。 動き始めた人形たちがリベリスタの行く先を遮ろうと首を傾げ、腕を上下させてその存在を主張する。 行く先を阻むもの。 炸裂脚甲「LaplaseRage」のブースターが稼働する。J・エクスプロージョンで繰り出した圧力は人形にぶつかり、其の体をいともたやすく壊していく。 蹴りあげた胸元は中の空洞を覗かせるが、その一体だけではない。一体を壊せばまた一体――いや、数十体の人形が歩み寄ってくる。 「追撃……お願いしよう!」 その声に答えるように『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)は自身の名前をつけた刀を振るう。 「どいてええええええ!!!!!」 声を荒げ、人形の足元を狙った攻撃は、彼女の体を激しく上下させる。手の届く距離の命を守る。其れはこの人形たちにも適応されるのだろう。 命の違いはない、再確認し彼女は剣をしっかりと握りなおす。 「立ち塞がるなら、我が槍をもって貫くまで!」 『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)のConvictioはその信念のもと目の前の人形を貫く。 先行するオーウェンの後ろを走るノエルと壱也、其れに続くリベリスタの中でも後方に位置する葬識はじっと壱也の背を見つめる。 「守るってことは覚悟、だよ?」 「分かってる。私のこの手が届く範囲で助けたい」 恋人の人形だけ救うなんてエゴかもしれない。でも、大切な人を目の前で失わせるなんて、できない。 その小さな背中への問いかけに葬識は小さく笑った。 「位置関係、伝えるよ」 何も言うまいと、一度つぐんだ口。彼はもう一度口を開いて仲間たちへと位置を通達する。 目の前の広間の扉。『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)は魔術書を開き、扉の前で蠢く人形を自らの血液を鎖で絡め取る。 「お人形遊びは子供のする事だよ」 ふわりとウェスティアの黒い羽根が揺れる。やや仲間たちから浮き上がったその場所から、扉の目の前が突破できる事を悟った彼女は、仲間たちへと視線を送った。 『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)は走っていた足を止めることなく頷く。 「一刻も早く、救いださなければなりません……」 L・J・Mシールド(2H)は全てを守る決意を出す様に、きらりと煌めいた。 先頭のオーウェンの手が扉へとかかる。ぎい、と重い音をさせて開いた先、口元を綺麗に歪めた女が立っていた。 ● 眩い光が大広間を包み込む。オーウェンの放った強烈な閃光により、広間の人形達の動きは止まった。 ――が、奥で楽しげに笑い声を漏らした女・ミス・マテラメテロまでは届いていない。 「先手必勝」「ええと、それって、私には届いてないみたい」 その声に重なる様に、魔女が笑う。魔女の隣では、翼を揺らした男が何食わぬ顔で立っていた。 葬識の見たとおり、魔女より離れた所、フラッシュバンの範囲内になるだろうか人形たちの足の間辺りに倒れている女の姿がある――リベリスタの冬村蔓だろうか。 悠里へと輝く鎧を付加したリサリサは不安げな主立ちで広間を見回す。 絶対に守りとおす。救い出す。その気持ちで胸が一杯になる。護り抜く、護りたい――その決意は誰にも負けない、そう彼女は信じている。 直ぐに回復を、と詠唱で具現化した息吹を蔓のもとへと送る。彼女の体はボロボロだ。一回きりの回復では間に合わないのだろう。 ウェスティアは直ぐ様に飛び上がり、蔓の周りで蠢いている人形を鎖で絡め取る。 其の隙をついて悠里とリサリサは二人で彼女のもとへと向かう。動きを止められた人形がじっと彼らを見つめているが、其れに構う時間はなかった。 小さな翼を揺らし、人形を避け切った悠里とリサリサは無事に倒れていた女の傍へとたどり着く。 「君を、君たちを助けに来たよ」 「冬村様、もう大丈夫です」 蔓の手を取り、其の侭仲間たちのもとへとリサリサは戻る算段を立てる。 「あら、その子を助けに居らっしゃったの?ええと、仲間思いね、リベリスタ!」 まるで可笑しな動きをする玩具を見つめるかのような魔女の言葉。其れを睨みつけたのはノエルだ。 「己が嗜好と実験の為にアーティファクトを濫用する、実に六道らしいですね」 お褒め頂き後衛、と笑った観月。彼女と観月の間に、未だ動いていた人形が滑り込む。 蠢く人形たち。フラッシュバンで動きを止めた者も多いが、次第にその動きをはじめてしまうだろう。 ノエルは迷うことなく自らの剣で人形を破壊する。 「さて……お相手いただきましょうか!」 「喜んで、お嬢さん」 その手はまだ届かない。彼女の眼前に迫るのは人形たちである。戦況は1対1の戦いなどではない。乱戦だ。 室内に滑り込んだ葬識は直ぐに広間の扉を閉める――が其れも長くは持たないのだろう。どん、どん、と鈍く扉を叩く音が不気味に響く。 「恋人の人形は!?」 問うた悠里の言葉に蔓はゆるりと首を上げて恋人の人形を指さした。 「設楽くん! 恋人の人形は!?」 「それが恋人の人形だ!」 大声で聞いた壱也へと設楽は直ぐに蔓の指さした人形を指す。明るい茶髪をした男の人形。 彼女はその人形を護ると決めていた、タックルし、其の体を倒す。傷つける事は出来れば避けたい。恋人人形の前に立ったまま、彼女が見据えるのは翼をもった男だ。 「……わたし、あんたみたいなの好きじゃない」 「リベリスタのお嬢さんは手厳しい」 目の前で剣を構え睨みつけるノエル、人形を庇った姿勢のまま見据える壱也。観月は楽しげに指先でルービックキューブの様なもの、アーティファクトを弄ぶ。 オーウェンがリーディングでアーティファクトの効能や隠し場所等を読もうとするが出来ない。彼女らは唯、目の前に出てきた新しい獲物の事だけ考えているのだ。 動き始めた人形が蔓を庇った姿勢のリサリサと悠里を殴り付ける。背後ではもはや古くなっていたであろう大きな扉を開いた人形が傾れ込んでくる。 「マレフィキウムの鉄槌を俺様ちゃんが落としてあげるよ」 楽しげに笑った彼の背後から迫る人形をウェスティアは縛りあげる。その間にも戦場中ほどにいた蔓に付き添って悠里とリサリサは仲間たちのもとへと合流した。 「冬村さん!ワタシの尊敬する仲間の皆様はすごい方たちです…」 だから、絶対に助けますから。 そう祈る様にリサリサは呟くが、蔓は浮かない顔をしている。気を制御し、戦闘の準備を整える悠里の背中を見つめ、大丈夫です、とリサリサはもう一度呟く。 その隣、三千を庇う対処を行い、人形を相手にしていたオーウェンが蔓をちらりと見た。 「相方は、もう元に戻らないかも知れない」 だが、と一度その言葉は止まる。恋人の居る彼だからこそ、もしも自身が人形になってしまった場合どうするのだろう、と考えての言葉だった。 彼の言葉を遮る様な殺人鬼の声がする。何処か楽しげに笑う彼は壱也を指さしてあの子が護るよ、と言った。 「アークにくれば戻れる方法があるかもしれないねぇ~」 ふと、蔓が目を見開く。恋人の『人形』を庇う?――いや、其れ自体はおかしくない、可笑しくないというか嬉しい事である。だが、人形なのだ。 今はミス・マテラメテロの蝋人形の契というアーティファクトで『操り人形』にされている其れを庇う……? 掠れる声で彼女は呼びかける。壊して、と。操られているのだ。目の前の魔女が、唇を楽しげに歪めて、指を動かした。 「っ……!?」 壱也の足に恋人人形の手が絡みつく。大事な人形。傷つけたくないものではあるが、敵。メガクラッシュを叩き込む前に、彼女の目の前にもう一体の人形が踊りでる。 絶対に守ると決めていた、だが、此れは傷つけなければ彼女自身が危なくなる。 「壱也さん!」 ウェスティアは手を伸ばす。彼女の攻撃は今、扉からなだれ込んだ人形の対処に追われており、壱也の補佐に回るわけにはいかなかった。 悠里が雷撃を纏い、武舞で圧倒する。人形の足元を狙った其れは、彼らの優しさ故であるが、甘さにも繋がっていた。 倒れ込んだ人形が彼らの足を掴む。壊す事を厭わないノエルの周りには人形の残骸が、壊す事を躊躇っていた悠里の周りには未だに蠢く人形が。 「救う事、護る事は、ええと、とってもとっても難しい!けれど、天晴れ、リペリスタ!」 魔女服がふわりと揺れる、彼女はその両手を広げ、まるで糸を操るかのように指先を動かした。 「そんな『戻せるか分からないお人形』までも護ろうとする気持ち!素敵、嗚呼、素敵よ!」 けれど――手の届く範囲でなければその望みは大きすぎて、叶う事が出来ないのかもしれない。彼女の指先から飛び出した糸は呪縛。 糸釣りマリア。そう名付けられたミス・マテラメテロの糸は彼らを絡め取り、まるで操り人形のように踊らせてしまう。 「折角得た魔術を人を弄ぶ事に使うなんて赦さない……!」 ぎっと見つめた彼女の鎖は入口からなだれ込んでくる人形たちを縛り付ける。魔女の前には無数の人形が居る。勿論観月の前にもだ。 ふと、超直観で葬識が感知したのは観月の奇妙な動き。 「逃がすわけないよね!」 放った暗闇は観月とその前にいた人形を包み込んでしまう。その動きに気付いたのはノエルも一緒だったのだろう。 「絶対の力と言えども関係はありません。全て、貫くまで」 ぎっと睨みつけて、彼女は刀を振るい、観月の腕諸共に飛ばしてしまう。その腕が飛んで行った先にいたのは、漆黒を纏った魔女。 嬉しそうにまだ幼さの残る顔に笑みを浮かべて拾い上げたルービックキューブ。 されるがままであった観月の放つ攻撃は空刃葉――全てのものを空を舞う神秘の葉で切り裂いていくものだった。 その攻撃に、人形たちの相手をしていたリベリスタたち全員が巻き込まれる。慌てたように回復を施す三千により仲間たちはすぐに体制を立て直す。 人形が扉から続々と入ってくる。上空に浮いていたウェスティアも人形たちの遠距離攻撃がぶち当たっていった。 「お口がないから喋れない! なんて、寂しい戦場かしら!」 大きな声で笑った魔女に反応するように人形たちの口はカタカタと動く。気色の悪いその光景。だが壊す事はやめたい。 例え偽善者だと言われても自身のやるべき事は護る。その事なのだ。臆病であった彼は大事な友人たちとであった、何より大切な人を見つけた。 その人を護るために、彼は周囲を囲む人形へと攻撃を繰り出す。 観月と対面しているのはノエル唯一人だ。其処にたどり着くには傾れ込む人形たちで間に合わない。 蔓を庇っていたリサリサは人形たちからの攻撃に耐えるべく必死に歌い続けているが、数にして劣勢。彼女は広間の床に膝をつく。 「だ、大丈夫!?」 「ええ、大丈夫、絶対に護ります!」 苦しげな顔でにこりと笑った彼女の肩へと人形が放った攻撃が突き刺さる。倒れ込んだリサリサを庇う様に周囲を見回すが、冬村蔓にはもはや戦う力は残っていなかった。 くるりとリサリサの運命が燃え上がる。 「絶対に、護って見せますから…っ!」 蔓を庇う様に移動した三千はもはや切れかけた翼を仲間たちに再度与え、リサリサ諸共護るように立ちはだかる。 ――だが、戦場は乱戦なのだ。前方から掛ってくる敵だけではない、扉から入ってくる人形もいる。ウェスティアが幾ら人形に対応するといってもそれにも限りがある。 背後から襲い来る其れに葬識の暗黒が迎撃する。襲いかかる敵からオーウェンが三千を庇いながらもリーディングを続ける。 「わたし、やっぱりあんたみたいなの、好きじゃない!」 魔女の目の前の人形は彼女を護るかのように位置している――が、観月の目の前は人形を迷うことなく壊したノエルによってガラ空きであった。 周囲の人形を振り払い、観月へと走り込む。 「好きじゃない? なんて冷たい!」 背後で魔女笑う。其れを見越したように、ノエルに与えられていた傷そのものを壱也へ与えるかのように呪いを与える。 彼女の目の前に人形が現れる。その行く手を阻むものを彼女は足を狙い避けるが、未だ観月に手が届かない。 とどめは出来ればさしたくない、だが、ささなければ――その優しさが命取りだった。未だ彼女の手は観月に届かない。 「絶対に、逃がしたりしない! 僕はもう、誰も諦めない!」 この手が届くならば、誰だって救う、それが僕だ! 設楽悠里は周囲の人形をも護るその大きな決意を胸に、未だ観月に近づけずにいた。足を攻撃しても残る手で人形たちは悠里を捕まえてしまう。 「‥‥俺は、決して正義ではない!」 地面を這うように動く人形たち――これ以上数が増えると危険となる。ぎり、と唇をかみしめたオーウェンはそう呟き人形たちを破壊する。 例え自身が悪鬼と言われようが、其れが彼の覚悟なのだ――魔女を許すわけにはいかない。 深い憎悪をこめた攻撃は人形たちを壊し、魔女への一本道を開く。 が、其処に背に持った翼で飛行した観月が合流してしまう。魔女と並んだ観月。 その周囲には人形が集まっている。 「さあ、踊って! 踊って!」 壊さないままの人形達の攻撃により悠里の体力も限界に近づく。勿論、他の仲間たちもだ。必死に回復を施す三千の回復も間に合わず、庇い続けていたオーウェンが膝をつく。 「とっても素敵! まるで、ええと、操り人形ね!リベリスタ!」 正義ってとっても重たい、とっても素敵ね、とってもとっても――愛らしい。 だが、猛攻するノエルは魔女と観月のもとへと走り込む。未だ倒れない人形が彼女の足元へと絡みつく。其れを振り払うだけで消費する手番すら惜しい。 壱也の背後にいた恋人人形。護り切れては居る、がその分彼女は彼から攻撃されるリスクも得ていた。 周囲の様子を的確に判断しているウェスティアも、入り来る人形によって一度は倒れてしまっている。 運命を燃やし、立ち上がる彼らの目の前には、楽しげに笑う魔女がいた。 「人形はどれだけでも増える! 壊さないのなら、その分多くなっていくのよ?」 壊さないままの人形の動きは止まらない。人形たちがダンスをするようで、とても面白いと魔女は嗤う。 「リベリスタ、ええと、とても楽しいわ! でも、そろそろショーも終い!」 「……っ、待て!」 瀕死の体で背後へと飛行した観月は魔女のその手からルービックキューブを奪い、息を整える。 その翼による飛行を制限しなかったのはリベリスタだ。飛び上がった彼を見て逃げ出すと悟ったリベリスタ達の遠距離攻撃が二人へと飛ぶ。 悠里は人形を振り払う。ボロボロになった体を引きずった壱也は懸命にその手を伸ばす。 走り込んだノエルの一撃は観月の体を切り裂いて、その服を赤く染め上げた。 だが、間に合わない。一手足りなかったのだ。其の侭掻き消える様に消えた観月。 残った魔女へとリベリスタ達は攻撃を繰り出す。 葬識の暗黒に魔女は包み込まれる。蝕まれるその体に叩き込まれた雷撃は彼女の命をいとも簡単に止めてしまうもの。 「ぃっきゃあああああああああああああああああああ」 ――魔女は倒れた。だが、未だに動き続ける人形たち。出口は一本道の向こうだ。 拾い上げたのは蝋人形の契。魔女の懐から転がり出たものだ。 武器を構え直したリベリスタ達は蔓を庇う様に其の道を戻っていく。 「冬村さん、恋人の人形は――」 「壊して、いいの」 泣き出しそうなほどにその顔を歪めた壱也の放ったメガクラッシュは冬村蔓の恋人の腹を粉砕し、その身を転がした。 何時か死んでしまうなら、護ってくれると言った貴女の手で壊してほしい。 「護る……」 呟いた悠里の声は人形たちの群れにかき消された。 ● かくんかくん、と操り人形が揺れる。 「危なかった」 かくんかくん、と操り人形が頷いた。 深い森の中、血の匂いは周囲に広がった。ばさり、と翼が広がり、男は笑った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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