● 僕らは君が大好きなおじいちゃんから君への贈り物だった 君は僕らを使って画用紙や、チラシに色んな絵を描いたよね。 机や壁にまで描いちゃってお母さんにこっぴどく怒られたこともあったっけ。 君が一杯使ってくれたから僕らとっても小さくなってしまって、無くなっちゃうのが嫌だからって君は僕らを取っておいてくれたよね。 代わりが来ても、最初に貰った僕らを大事に時々取り出してくれる君が、大好きだったよ。 だけど、何故か君は突然にいなくなってしまった。 君の代わりにお母さんは、君が遠いところへ行ったんだよって、僕らを悲しそうで、懐かしそうな顔で取り出すようになった。 どうして君が居なくなったのか、遠い所ってどのくらいなのか、僕らには全然分からない。 でもね、大事にしてくれた君が、遠くからでもまた僕らのことを見てくれるように、絵を描こうと思うんだ。 色んなところに、一杯描くからね。また君に手にとって欲しいなって思うから。 今の僕らには自由に動ける体があるんだから。 ● 「今回の任務は発生したE・ゴーレムの討伐」 その手にスケッチブックをもった『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が ブリーフィングルームに集められたリベリスタ達に告げる。 「目標は巨大化したクレヨン達が12本。手足がはえて絵本に出てくるみたいな姿をした幼稚園児くらいのサイズ」 手に持ったスケッチブックを開いて図解で注釈を付けてくれるイヴに和むリベリスタ一同。その温い視線にイヴはやっぱ今のなしとスケッチブックを閉じてから説明を続ける。 「クレヨン達は基本的に色に応じた付与効果を持った単体近接攻撃を行う。また、空中に簡単な絵を描くと、同様の付与効果をもった攻撃を範囲に対して行う神秘に属する攻撃もある。こちらは一度に一体だけが使用。個々の力は低めだけど数と特殊能力が多岐にわたる分、油断したら危険だから」 姿もやり口もファンシーだけど甘くないから、とイヴは付け加える。 「彼らは今は路地裏なんかで人目を避けながら落書きを繰り返してるみたい。見つかると逃げちゃうかもだけど、彼らのらくがきに手を付けようとすると逆上して襲ってくる」 地図に彼女の予知したEゴーレムが次に現れる地点に丸をつけながらつぶやくイヴの表情が一瞬曇る。どうしたのか聞くリベリスタにこれは必要な情報という訳じゃないけれどと言いながら理由を口にする。 「彼らの絵は持ち主である男の子に向けたものなの。でも、それを見せたがってる男の子はもうこの世にはいない」 本当にこれは余談だから、どう対処するかは任せる。そういうとイヴはリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:今宵楪 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月09日(月)23:07 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 青空の絵、森の絵、海の絵、星の絵、草原の絵、山の絵、車の絵、灯の絵。色んな色んな雑多な絵。君が描いた想い出色。僕らがまた描く、新しく描く。君のために。 ●思いをはせて 「想いの籠った道具がやがて意志を持つこういうの日本じゃ九十九神、でいいんだっけ?佐助殿」 「……ああ、九十九神。それだったらよかったんだけど」 もう居ない少年のために絵を描くE・ゴーレム達。それを妖の類になぞらえて語る『フェイトストラーダ』ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784)に『そまるゆびさき』土御門 佐助(BNE003732)が曖昧に返す。それだけ大事にしていたのだろうと察するのは容易だが、だからといって放っておくことは出来ないのもまた事実。だからこそ、ままならないねと佐助は物憂げにつぶやき、自らの手がなす事を考えていた。 「持ち主である少年は既になく、ただ彼らは彼への想いから一心に…。彼らの想いは死した少年に届くのでしょうか?」 自分達がその彼らを葬るために、そう理解していても彼らの想いの行方を見た目は小学生の『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)は考えていた。その言葉に応えられる者は仲間達にもなく、ただ、ただ考えていた。 「動機そのものは決して責められるものではありませんが、落書きというのは褒められた行為ではありませんよね。何より、こうなってしまった以上速やかに持ち主さんと同じ世界へと送ってあげなくてはなりません」 対して見た目は麻衣と同じくらいながらこちらは本当に幼い『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)は彼女なりの優しさをもって、E・ゴーレム達への対応を覚悟していた。 「そうだな、せめて知らぬまま思い出と共に安らかに散る方が良いだろう」 そして『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003324)は彼らの戦うべき相手が死を理解していないことを察し、言葉を繋ぐ。せめて安らかに眠らせよう……。リベリスタ達それぞれに考えがあれども皆が倒そうとそう決めていた。 ● 『ミス・パーフェクト(大学1年)』立花・英美(BNE002207)の千里眼によりリベリスタ達はE・ゴーレム達に気付かれぬま位置を把握し、接近していた。 「数は12、揃っているわね」 路地の角から一心不乱に壁に落書きをするクレヨン達を見つめながら『ネメシスの熾火』 高原 恵梨香(BNE000234234)が冷静に観察した事実を述べる。彼女の張った結界により一般人の眼に移る可能性も既に低く抑えられている、故に彼らは安心して神秘の力を行使できる。事前にリベリスタ達は自らの力を高め、万全の状態で奇襲を掛けることが出来たのだ。 「落書きは駄目だ。そんな事をしなくても、ご主人様に会える方法を教えてやるぜ?」 そういって飛び出した『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)の姿にクレヨン達が一瞬びくりとし、悪戯が見つかった子供のように逃げようとする。しかし、アウラールの手が咄嗟に絵を消すふりをすると、それだけでクレヨン達の雰囲気が変わる。子供から、自分の意にそぐわぬ者を排除しようとする怪物のそれへと。 しかしクレヨン達が動く前にチャイカの全身から伸びる気糸が固まっている所を狙い撃つ。その力が桃色のクレヨンを中心に的確に体の自由を奪い、行動をさらに遅らせる。 「塵は塵に。灰は灰に。死者を求めて彷徨う存在はアタシの炎で焼いて、あるべき所へ送ってあげる。アタシは『ネメシスの熾火』。一片の容赦もありはしないわ」 そこをさらに追い打ちを掛けるたが恵梨香の生み出す炎である。破壊的な力が一気にクレヨン達の体力を奪いさっていく。しかし、この程度では一体として倒れることはなく、ただ、ただ目の前の敵を排除する、その意志だけが感じられた。 そしてその意志は着実に実行される。最初に標的と成ったのは彼らにとってのタブー、絵に手を出そうとしたアウラールだったのは必然だった。アウラールに対して一気に色とりどりのクレヨンが殺到する。赤が担うは炎の色、水色描く氷の礫、緑は穏やかな色合いで力を奪い、灰は不運に導いて、そして黒が全てを塗りつぶし、その身を呪って意志を弱める。 「くっ………やるな、でもこの程度じゃ俺は倒せない、俺の背後にだって届かせないぜ!」 アウローラはいくつかの状態異常には耐性があることもあり全ての力が十全に作用はしない、それでも一度に集中攻撃を受ければいかに前衛として立つだけの耐久力があっても傷は浅くない。それでも彼は意地を通す、自分の背後には愛しい人が居るのだから。 「ここにあなた達の居場所はない。地に生まれしかりそめの命、父の弓で浄化し天に送りましょう」 天に上がったその先でこそ、貴方達の描くものが届くのだから、そう英美は想いを込めながら業火をまとった矢を天より打ち下ろす。その矢は正確にクレヨン達全てを貫き、彼らの命を奪っていく。 「ほんとう。実物は、なんだかすごくファンシーだねえ」 そんなのんきな感想を述べながら、桃色のクレヨンへと呪詛を飛ばしその自由を奪い去ったのは佐助である。幾重にも重なる呪詛は狙いを外さずリベリスタ達が最も危険視した同士討ちの危険性をしかして確かに封じて見せた。 「敵の数が多い、囲まれないようにな!」 そういってユイトが投擲した神秘の閃光弾の放つ光が、最初にチャイカによって動きを鈍らされたクレヨン達をさらなる拘束を加える。痺れさせ、衝撃で動きを鈍らせる、クレヨン達も使うその力は重ねただけ戦力を奪いさるには十分なのだ。 「アウローラさん、今回復致します」 麻衣の放つ癒しの力を込めた風がアウローラの受けた傷を癒していく。先に周囲からマナの力を拾い集めた彼女の治癒は、彼の命を長らえさせるには十分であった。 そうやって癒えた傷を再びえぐろうと残ったクレヨン達が動こうとする。しかしそのうち半数はユイトや佐助の放った攻撃によって動く力を奪われ、ただ睨むことしかできなかった。 残りの半数もアウローラだけではない妨害者に眼をむけた。リベリスタ達は確かに範囲攻撃を警戒して互いの距離をとってはいる。しかしある程度の広さの路地裏であっても距離の限界は存在し、どうしても相手の攻撃の範囲内に入らざるを得ないこともある。故にこそリベリスタ達の範囲攻撃は効果も高かった、しかし其れはクレヨン達にとても同じ有利な条件であり、身をもって体験することになる。 「皆、黄色からの攻撃が来るぞ」 行動に移るのが遅いが故に戦場全体を広く見渡していたシビリズが皆に声を掛ける。同時に黄色のクレヨンが空中に描いた稚拙な雷駆け抜ける。狙われたのはアウローラの次にクレヨン達を攻撃したがチャイカを中心とした後衛達数名であった。それだけで壊滅的な被害を受けるわけではないが雷の残滓は放って置けば少しずつ彼らの命を蝕んでいくだろう。 「仲間の災は照らして祓ってみせようではないか」 しかし其れをさせないように前へ進み出たシビリズが邪な者を退ける神聖な光をもって皆のコンディションを整える。一番の被害者であるアウローラも多くの不調から回復し、リベリスタ達は体勢を立て直す。 「ああほらユイト。余所見したら危ないよ?」 「余所見するほど油断してないぜ、佐助殿」 攻撃を受けてしまったユイトに対して佐助がからかうように忠告するとユイトも強がるように返す。この攻防もただの初手、まだまだ戦いは始まったばかりである。 ● 「これで、五体目白も終わりよ」 淡々とした言葉とともに恵梨香の放つ四つの魔を秘めた光が白いクレヨンを染め上げ貫いていく。リベリスタ達が優先すると決めた五匹目。範囲攻撃に注意を払っているとは言っても前衛が二人しかいない状況ではいかに狭い路地裏とて数に勝るクレヨンを完全には止め切れず、彼女もまた浅くない傷を負っていた。 「まだまだここからだ、勝負が簡単に終わっちゃ面白くないだろう?」 前衛に立ち続け、最初に絵を消そうとしたが故に誰よりも傷を負い、それでも立ち上がったアウローラが残りのクレヨン達を見据えながらそうつぶやく。思い通りにならないことを泣くことすら出来ない彼らに、ご主人様が居ないことを分からない彼らにどこか同情するように。 「炎の花よ! 浄化の炎と舞い散り踊れ!」 その言葉に同意するように、英美の放つ容赦のない炎の矢が再びクレヨンへ降り注ぎ三体のクレヨンが溶けていく。補助の多い今回のリベリスタ達の中で恵梨香と英美、チャイカの放つ複数を巻き込む高威力の攻撃は攻め手の数の少なさを感じさせない効率の良さを発揮していた。 苦し紛れに赤いクレヨンが描く炎の絵。味方のクレヨンすら巻き込んでユイトと佐助を炎が包むも、二人とも炎を振り払って立ち上がる。 「可愛らしい見た目とは裏腹に、本当面倒だねえ」 「まったくだ、でもまだまだ倒れちゃいない。……お前らはここにいちゃダメだ」 「そう怒りも悲しみもすべて忘れて、もう、ゆっくりとおやすみなさい?」 だってお前たちが一番絵を見て欲しい人は、もうここにいないんだぜ、そうつなげながらユイトの構えたライフルからまた1つ、クレヨンを砕く弾丸が撃ち出される。そして佐助の呼び出した鴉もまた1つのクレヨンを砕いていく。 皆が受けた傷すら麻衣の歌と福音がいやしていく、残るは一体、黒色クレヨン。最後に残った一体は、逃げるでもなく自分の、他のクレヨン達の描いた落書きを庇うように背負ってリベリスタ達に向かい合う。されど見逃すことは出来ない故に。 「彼と過ごしたその日の刹那は、もう二度と帰っては来ないのだよ。だから―――」 塵へと砕けろッ!前に進み出たシビリズ。その気迫の込められた大上段からの打ち下ろす大槍の一撃は、過たず残った一体のクレヨンを叩きつぶしたのだった。 お互いに絡め手を持ち合うリベリスタ達とクレヨン達、その差異は絡め手を治癒する味方がいるかどうか。ただただ絵を書き殴るだけしかできないクレヨン達と味方との連携を重視したリベリスタ達とでは戦い方に差が出るのも当然だった。 ●想いを描いて 戦いの後倒れたクレヨン達の破片をチャイカは集めていた。E・ゴーレム達の描いていた絵と合わせて少年にたむけるために、出来ることとして彼女が思いついたことだった。此処にいてはいけなかった、でも確かに存在していた彼らのことを悼むために。 「E・ゴーレムに魂はあるのでしょうか。あるなら、天で『君』に出会えるのでしょうか」 「俺はまだ生きているから、よくわからないよ。でも、そうだな……。今、言えるのはすぐ傍にエイミーがいるこの場所が、俺にとっては天国で、二人で生きていることを幸せだと思うよ」 アウローラと英美の二人は寄り添い、素直な愛情の込められた言葉を交わす。死語は分からないけれど、きっと今が幸せなことは、祝福されるべきことなのだ。 それを遠目から見ながら恵梨香は自分の子供時代を思い出していた。自分もあんな風に子供の頃絵を描いただろうかと。同時に蘇る失った家族の顔に一瞬だけ遠い目をのぞかせる。しかし今の自分へ戦士としての自分へと戻るために忘れようと、その想いを振り払うように頭を振り、すぐにいつもの感情を抑えた瞳へと戻っていた。 クレヨン達の描いた絵はシビリズの死者たる彼らの手向けに残す花はこの絵がふさわしいという言葉にみなが納得し、そのままにすることにした。いつか誰かに消されるかもしれないけれど、其れまで残っていくだろう、と。 遊び終わった玩具は玩具箱へ。いつかまた会うその日まで。『君』に出会えるその日まで。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|