●三高平市沖の悲劇 何かにぶつかったらしき衝撃で船体が大きく揺れた時、彼は自分の人生は終わったと一瞬思った。 命が、という訳ではない。 もし本当の大事故なら、この瞬間自分は生きていないだろう。 船がゆっくりと沈没していくにしても、船にはボートも救命胴衣も積まれている。 だから、彼が感じた終わったというのは……自分の船と仕事が、という実感だった。 もちろん船の損傷は軽微で、保険等で何とかできる可能性もある。 だが、事故を起こしてしまったという事実は消せない。 自分だったら、事故を起こした会社に安心して仕事を頼めるだろうか? 「……いや、悩んでも仕方ない」 とにかく、現状を確認しなければ。 気持ちを切り替えて、彼は部下たちの名を呼びながら甲板へと向かい……絶句した。 鱗らしきものの浮かぶ大木のような何かが船体に巻き付き、船は音を立てながら少しずつ歪んでいく。 甲板にいた筈の部下の姿は見当たらず……次の瞬間、鉄の香りと共に雨とは違う何かが、彼の頭上から降り注いだ。 顔をあげた彼の目に移ったのは、鋭い無数の牙の並ぶ大きな口を開いた巨大な海蛇と、その口の中で原形を留めぬまでに引き裂かれた…… 悲鳴は、なかった。 何かを砕く音と、引き裂くような音。 やがて船は砕き尽くされ、もがくように海中へと引きずり込まれ……海は、表面の上の平穏を取り戻した。 ●サーペント 「元は海蛇か何かだと思います」 エリューションビースト、フェイズは2。 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう言ってスクリーンに画像を表示させた。 見た目は少々頭が大きく無骨になった蛇、という所だろうか? 現れた巨大な蛇らしき外見のエリューションは、本来の海蛇よりは猛々しく変化し、尾にもヒレの様な何かが付いている。 「全長は10m以上になります」 長い胴体を船に巻き付け、怪力で締めあげて破壊してしまうのだそうである。 もちろん巨大なタンカー等であれば大丈夫だろうが、並の漁船や中小の貨物船であればひとたまりもない。 そしてフェイズが進めば……巨大な船も同じように沈められてしまう可能性もある。 そうやって船を破壊して、中のものを捕食する。 「巻き付いた状態でも得物を見つければ、牙を剥いて襲ってきます」 頭部が発達しているので口は巨大。 顎も発達したようで、無数の鋭い牙で獲物を纏めて噛み砕く。 抵抗すれば、強靭な尾でも攻撃を行い、叩きのめそうとする。 「どちらも一度に複数を攻撃できるみたいです」 加えて牙は対象を傷つけ流血させる他、毒で獲物を麻痺させる効果もあるようだ。 尾の方は、直撃すると相手を弾き飛ばすほどに強力らしい。 「麻痺の毒を持っているせいか、麻痺に対しての耐性らしきものも備えています」 そして巨大な為、耐久力の方もかなりのものがあるらしい。 ただ、船に巻き付いた状態であるならば労せず攻撃を命中させることはできる。 頭や尾を狙うとなると、そう簡単にはいかないが。 「あと、胴の動きを鈍らせたりしても頭や尾の動きは変わらないみたいです」 巨大なせいか、エリューションだからか詳細は不明。 とはいえ1体であるという意味では同じ。 頭部か胴体が深い傷を負うか、耐久力を越えるダメージを与えれば倒す事はできる。 「船が近付けば姿を現わしますので、今回は皆さんに船で向かって頂く形になります」 船の方は既に三高平港に準備してくれてあるらしい。 充分に沖に出て周囲を移動していれば、敵の側から近付いてくる。 サーペントは先ず体当たり等で船の速度を落とすか止めてから、胴を船に巻きつかせてくるようだ。 「そうなれば……あとは、戦うだけです。危険な相手ですが、皆さんならきっと大丈夫と思います」 御武運、お祈りしています。 マルガレーテはそう言って、リベリスタたちを見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月22日(金)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●三高平の沖合で 海のクルージングを楽しむのでしたら、さおりんとサンセットを眺めながらおされにカクテルを楽しんで。 ラブでロマンスなひと時を…… 「ですが今日は蛇のお相手ですか」 ロマンスは全くないのです。 自分を夢から現実へと引き戻しでもするかのように『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)は呟いた。 「蛇は嫌いではないですけれど、これだけ大きいと放置できるレベルではないのです」 (三高平沖の漁業組合に影響が出てしまっては美味しいお魚も頂けなくなるですし) 「そういえば海蛇の皮って確かバッグとかにも使えたような……」 少し前までガッカリしていたのに、いきなりキラッと目を輝かせた精神的に逞しい彼女の近くでは、『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)が双眼鏡を手に緊張した面持ちで周囲を警戒していた。 (うう、10m以上って凄くおっきいなぁ) ちょっと怖いものの、だからといって放っておくわけにもいかない。 「これ以上被害が出ちゃうと大変だし、頑張るよ」 その言葉に小鳥遊・茉莉(BNE002647)も頷いた。 「海で船舶を沈める蛇ですか。困ったものですね」 (神話・伝説の類ではそういったものが登場しますが、最終的には地球にまきつくくらいまで成長するのでしょうか?) 「冗談はさておき、そのような脅威はさっさと駆逐して、安全にしませんとね」 思考を現実に戻した茉莉とは対象的に、『エアリアルガーデン』花咲 冬芽(BNE000265)は物語に登場する事も多い一節を思い浮かべる。 怪物と戦う者は、その際自分が怪物にならぬように気をつけるがいい。 長い間、深淵を覗き込んでいると――深淵もまた、君を覗き込む。 「……蛇って、まさに深淵の代表格みたいなものだよね」 そんな事を考えつつも、周囲に一般人がいないんだしと文字通り羽を伸ばして全身で潮の風を楽しんでみたり。 「……まぁ、それほど長い間は楽しめないだろうけどね」 だからこそ、戦いが始まる前の、束の間のクルージングを。 「んー、風が気持ちいいねっ♪」 船首側へと立って、全身に風を受けながら彼女は楽しげに口にする。 「巨大な海蛇か……中世の航海日誌に出て来そうな、ぞっとしない話だね」 (昔語のモデルになったのは、こうしたエリューションの影響を受けた生物なのかな?) 「……と、悠長に推測に耽る時間も無さそうだね」 『花縡の殉鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)も呟いて、思考を現実へと引き戻した。 船は順調に速度を上げ三高平港から遠ざかり……問題の海域へと突入したのである。 ●サーペント、現る 「命綱の事をアンビリカルケーブル(臍の緒)って言うのも納得出来るわな」 (我々の見えない命綱は、翼の加護って事になるのかねぇ?) 吸えなくなる前にとタバコに火をつけながら、『足らずの』晦 烏(BNE002858)は呟き、思いを巡らせる。 リベリスタたちは手分けするようにして周囲を警戒していた。 智夫は海に落ちた場合を考え、水上歩行の能力を準備しつつ周囲を確認する。 『三高平高等部の爆弾娘』蓮見 渚(BNE003890)も双眼鏡を使って警戒していた。 (でっかい敵を正義の拳でどーんと出来たらカッコイイよねぇ……!) 思っただけのつもりだが、どうやら声に出ていたらしい。 え? お前の仕事はそれじゃない? ケガする? 死にたいの? 「……ハイ、ごめんなさい…わかってるよぉ! ちゃんと仕事するよぉっ」 そんなやりとりはあったものの、警戒は怠らず。 茉莉は皆と声を掛け合い、定期的に皆で状況を確認しながら……沖に出て、しばしの時間が流れた。 突如、激しい衝撃と共に鈍い音が響く。 「来るです……!」 警戒の声に続くように水面が爆発でも起こったかのように弾け、水飛沫を散らしながら巨大な蛇の頭部が海中から姿を現わし、そのまま船の上を越えていった。 そあらは皆に呼びかけながら、巻き込まれないように退避する。 智夫も声をかけあいながら戦闘態勢を整え、遥紀はすぐに翼の加護を仲間たちへと賦与していく。 その際に発した食材がいらしたという呟きは、自分の店の料理に使う気満々……だからだろうか? 冗談を言えそうでない状況を考えると本気なのかも知れない……が、それはそれで……こう…… 「うわーでっかい!」 想像以上の大きさに動揺しつつ、それでも立ち向かう事こそ正義の誉れと渚は自分に言い聞かせた。 「あえて幾多もの困難に立ち向かう勇気! それこそが正義の真髄っ!!」 直ぐにでも突撃したいのはぐっと我慢。 「皆を守るために頑張るよ!」 船へと巻きついてくる大蛇を眺めながら、戦闘態勢を整える。 烏も仁義上等と見栄を切った。 (困難な状況にこそ、活路を見出す) それがプロアデプトのプロアデプトたる所以。 「三郎太いきますっ!」 離宮院 三郎太(BNE003381)も巨大なE・ビーストを眺めつつ、誓うように口にする。 冬芽はゲーデ……腰のクマのぬいぐるみっぽい姿形の影を、自分の戦いを手助けする者を創り上げると、ぐるりと回しながら大鎌を構えた。 「さてさて、それじゃあそのうす濁った目の奥にある深淵を覗きにいこうか……♪」 ●船上の戦い 智夫は左舷側、海面から姿を現したサーペントの巨大な尾の前へと移動した。 他の者たち、特に後衛たちが狙われ難いようにとできるだけ接近し、拳に冷気を纏わせる。 尾による薙ぎ払いは、威力が高い上に攻撃範囲が広いのだ。 出来るだけ行動を封じておきたい。 拳から武器へ、マントへと力を伝わせながら踏み出すと、智夫は凍気を巨大なエリューションへと叩きつけた。 直撃を受けたサーペントの巨大な尾の表面が氷結し、怪物は動きを鈍らせる。 もっとも、事前の情報通り頭部や胴体の動きには変化は見られない。 サーペントは巨大な口を開き、胴で船体を締め上げる。 「すでにもう船がミシミシ言ってるのです」 そあらは船の中央付近にて出来るだけ全員をフォローできる位置を取ると、魔方陣を展開し魔力の矢を作り出した。 見た目は小さな矢ではあるものの、それには強力な彼女の魔力が籠められている。 もっとも、直撃を受けたサーペントの方も圧倒的な体力を誇っているが。 続いて動いた烏は、智夫とは反対側、サーペントが巨大な頭を出した右舷側へと距離を詰めた。 そのまま二四式・改を抜き打ちで、巨大なエリューションの目を狙って速射する。 銃弾は精確にサーペントの目を傷つけ、大蛇は威嚇するような音を発しながら烏に牙を剥いた。 「本当に大きいね……水に濡れた鱗の質感が生々しい」 遥紀は低く飛びながら、サーペントの体へと視線を向けた。 (堅いと折角持って来た包丁が通らないな、マジックアローで抉ってでも回収するけど) 可能な限り全身を狙えるようにと位置を取って、生みだした聖光に意志を籠める。 「料理人の意地、舐めるなよ……!」 厳然たる意志の籠められた光は胴体を完全に捕えはしたものの、尾には直撃せず頭部は身を引くようにして攻撃を回避した。 詠唱によって魔力を増幅し終えた茉莉も、自身の血を媒体に濁流のような黒鎖を創り上げる。 低空を羽ばたくことで不安定な足場を避け、そのまま高速詠唱によって術式を組み上げると、彼女は黒鎖の群れたちを解放した。 すべてを捕える事は難しかったが、最優先は巨大な海蛇の胴体である。 黒鎖はサーペントの体に、尾に襲いかかり、そのまま締め付け、切り裂き、猛毒に侵し、不幸を注ぎ込んだ。 胴体と尾は動きを封じられたものの、反撃とばかりに巨大な、鋭い牙が並ぶ口が開かれ、獲物に襲いかかった。 狙われた烏は回避しきれず、鋭い牙で身を抉られる。 傷口から血が勢いよく流れだし、そこから流れ込んだ毒が彼の体を痺れさせ、自由を奪っていく。 もっとも、それさえも予定の範囲内だった。 他のメンバーから意識を引き剥がす。それが、身体を張った彼の狙いだ。 「血の臭いにでも惹かれて此方に釣られりゃぁ楽なんだけれどな」 傷の痛みを堪えながら不敵に呟き、烏は痺れる身体に力を籠めた。 戦いは、まだまだこれからなのだ。 ●戦い、長引き―― 声の届く範囲で全員を視野に収められるように。 翼の加護の援護をもらい足場の問題を解決しつつ。 「さてと海の魔物……ですか。お手並み拝見といきましょうか」 三郎太は集中によって脳の伝達処理速度を高めると、気の糸でサーペントの尾を狙い撃った。 糸は精確に目標を捕え、ダメージを与えながら対象を刺激する。 「巨大な敵? 燃えるじゃない、悪が強大な程、正義はさらに光りを増すのよ!」 後衛、三郎太の近くで渚は啖呵を切った。 「覚悟なさい、か弱き人を苦しめる巨大な悪の権化、E・ビーストォオオオッ! 天はアンタを許さないっ! 闇あるところ光あり、悪あるところ正義あり……蓮見渚参上っ!!」 拳を握りしめはしたものの、殴りかかるのは……ぐっと我慢。 茉莉と同じように高めていた魔力を使用して、彼女は魔炎を召喚する。 炸裂した炎はサーペントの胴体を直撃し、そのまま消え失せることなくエリューションの体へと燃え移った。 続くように。低空を飛んでいた冬芽はステップを踏むように甲板を蹴って勢いを付けると、サーペントの頭部へと距離を詰めながら死の大鎌を振りかぶった。 斬撃は大蛇にダメージを与えはしたものの、傷は浅く出血には至らない。 サーペントは鋭い牙を剥き出しに威嚇するような音を発し、身を震わせる。 船体に巻き付いた胴体は動きを封じられたままだったが、尾の方は激しく暴れ纏わり付く氷と黒鎖の呪縛を振り解いた。 一方で出血の止まらぬようすの烏を見た智夫は、邪気を退ける光を掌の内へとつくり出す。 麻痺からも回復した烏は自身の力を銃へと注ぎ込んだ。 生み出された無数の光弾が、エリューションの頭部と胴体を狙い撃つ。 そあらと遥紀も攻撃を続け、茉莉は魔力によって生み出した黒の大鎌でサーペントの胴体を切り裂いた。 サーペントは怯む様子もなく牙を剥き出しに接近してきた冬芽を狙い、反対側では唸りをあげて振るわれた尾が智夫を直撃する。 牙は少女の身を切り裂き毒によって痺れさせ、尾は少年の体を吹き飛ばし船へと叩きつけた。 「渚さんは攻撃に集中してください」 皆さんに任せておけば大丈夫です。 三郎太は戦況を確認し皆へと的確な情報伝達を行いながら、戦いに慣れない様子の渚に気を配る。 牽制するように気の糸で巨大な尾へと攻撃を加え、渚もそのまま魔炎による攻撃を続行する。 智夫は痛みを堪えながら再びサーペントへと距離を詰めた。 尾へは智夫が前衛として、三郎太が後衛として足止めを行い、頭部へは冬芽が前衛として、烏が後衛として足止めを行う。 その間に他の者たちが胴体へと攻撃を集中していく。 もちろん遥紀の方は、すぐに回復に専念することになった。 詠唱に応えた存在の響かせる福音が、冬芽を、智夫を、烏を、黒鎖の生成によって生命力を消耗した茉莉を癒していく。 だが、サーペントの攻撃によるダメージは強力だった。 攻撃や敵の分析を行っていたそあらも、すぐに遥紀と共にほぼ回復に専念する形となってしまう。 それによって戦いは、膠着状態に陥った。 幸いというべきか、サーペントは黒鎖によって胴体の動きを封じられている状態が多かった。 呪縛を振り解いても、すぐに茉莉が黒鎖を作り出していた為である。 それによって船体へのダメージは、当初の予定よりも大幅に抑えられていると言えた。 長期化による船の沈没の可能性は大きく減じられたのである。 だが……戦いの長期化によって、別の問題が発生した。 ●消耗戦を制したもの 智夫は尾の動きが封じられている際に聖なる光による攻撃を試してみたものの、力の消耗を考えると効果は芳しくないと判断した。 敵の動きに集中する前に尾が氷の束縛を振り解いてしまうため、攻撃の精度をあげるのが難しいのである。 とはいえ敵の動きに集中した状態で放つ魔氷拳は敵を氷結させる可能性も高くなるので、彼の負傷を減じているのも事実だった。 一方、右舷側では烏と冬芽の二人が、牙による麻痺毒や出血を受けつつも怯むことなく攻撃を続けていた。 烏は変幻自在でありながらも精度の高い射撃によって、確実にダメージを蓄積させていく。 対象的に冬芽は影と共に舞うように大鎌を振るい、かすめただけかと思えば鱗の隙間を縫うように斬撃を放ったりと瞬間瞬間で大きく明暗が分かれる激しい戦いを繰り広げていた。 リベリスタたちの攻撃によって頭部や尾にもダメージは蓄積していく。 とはいえ攻撃の主はやはり胴体だった。 茉莉の攻撃もそうだが、頭部や尾を攻撃する者も、可能な範囲とはいえ胴体も攻撃するように心掛けていたからである。 耐久力がもっともありそうなのも事実だが、船体を締め付け攻撃を避けようとしない胴への攻撃は容易さという点では圧倒的だったのだ。 実際、サーペントは攻撃によって大きく傷ついていた。 だが、リベリスタたちの消耗も大きくなりつつあった。 茉莉は収穫の大鎌による力の吸収や錬気によって消耗を抑えてはいたが、彼女の場合は使用する魔術が強力な為にどうしても消耗が大きくなってしまう。 そあらや遥紀も複数の味方を癒す力を幾度となく行使したことによって疲労が蓄積していた。 後衛の消耗に気を配っていた三郎太は、意識を同調させ渚へと力を分け与えた後も休む暇なく皆へと力を送り続けることになる。 幸いなのは尾と頭部を抑えている3人には比較的余裕があったことだろう。 それでも、後衛たちだけであっても……消費される魔力は彼の補充する魔力を上回っていた。 もっとも、それだけ力が揮われているからこそエリューションへと大きなダメージが蓄積し、敵の動きを封じたことで船体も持ち堪えているのである。 抑え役の者たちの懸命の戦いも勿論だが、それを支える二人の癒しが無ければ早々に戦線は打ち破られていたことだろう。 それらを支える為に三郎太は、ほぼ力の供与に専念する形となっていた。 だが、そうであっても……消耗する速度を遅くするのが精一杯だった。 血の黒鎖、魔力の大鎌、癒しの福音、高位存在の息吹。 ついに茉莉は防御態勢で様子を窺い、智夫が癒しの力を行使する。 烏も智夫も揺らいだ身体を、失われかけた意識を、運命を手繰り寄せることで繋ぎ止めた。 その間に三郎太が遥紀とそあらに自分の力を供与する。 「他の事は出来ないから、これくらいはしなくっちゃ!」 時の経過によって付与が失われた魔力を詠唱によって再び増幅させると、渚は幾度目かになる魔炎召喚の術式を構築する。 回避しようとしてバランスを崩した冬芽は鋭い牙と強靭な顎によって倒れかけたものの、世界の加護によって踏み止まった。 力を回復させた茉莉が再び黒鎖の濁流でサーペントを飲み込み、そあらと遥紀も癒しの福音を響かせて。 烏の放った無数の光弾を受けて揺らいだ巨大な蛇へと、冬芽は武器を振りかぶった。 何が正しいのか、誰が正しいのか。 「さぁ、ミドガルズを取り巻く大蛇のように……海の底で藻屑になっちゃえ!」 この身が沈み込むのは何処か。世界か、あるいは―― 天秤が反対側に大きく傾くように、大鎌の刃は鱗の隙間を流れるように頭部を切り裂いて。 限界を超えたサーペントの身体は、激しく痙攣すると……力を失い、弛緩する。 そして、ゆっくりと船への縛めを解きながら……海中へと沈んでいった。 ●海上よりの帰還 「塩水は銃器にゃぁ天敵だ。早い所戻って手入れしたいもんだね」 水場の仕事はやはりいかんよなぁ。 「色でもつけてくれりゃぁな……」 烏はボヤきつつ、防水パックに仕舞っていた煙草を取り出して一服した。 痛みはまだ残っているが、この終わった後に燻らす一本というのは悪くない。 「正義は必ず勝つのだー!」 「お疲れ様でした。みんなでがんばった結果です」 渚が元気に宣言し、三郎太もそんな彼女に笑顔で声をかけた。 エリューションの攻撃を受けた者たちは深い傷を負ったものの、命に別状はない。 船の方も損傷は大きいものの、即座に沈没しそうという訳ではなかった。 とはいえ航行の方は難しそうである。 もっともすぐに連絡があって、三高平港から代わりの船が到着した。 損傷した船を曳航する為の作業船も続いて到着する。 負傷した皆はすぐに休息するようにと勧められ、リベリスタたちは代わりの船へと乗り移った。 こうして三高平市沖の戦いは幕を閉じたのである。 重い疲労はのしかかるものの、無事に任務を達成した安堵と、すてきな閃きを胸に。 そあらは笑顔で呟いた。 「本部に帰ったらさっそくさおりんに、クルージングデートを提案してみようと思うのです」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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