● 「いやーんっ☆」 今日は一日完全オフ日にしていたのに、そんなもの聞いてしまったらオンだ、オン。 太陽光が反射するスキンヘッドを斜めに傾けながら、両の手にあるメイスを軽々振り回す男。口調は女っぽいが、所謂オネエというやつだ。 ゴシャっと大きな音をたてて、人が弾ける。溢れる笑みを返り血に染めながら、再びメイスは魂無き亡骸に振り落とされていった。 「これで十三人目よぉっ!! ほらあ! 逃げないと殺しちゃうわよんっ!!」 恐怖心に駆られた人々は本能的にか、メイスを持った殺人鬼とは逆方向へと逃げていく。 けれども、恐怖心が逃げろ逃げろと叫ぶ割には、己の足がついていかない。つい、転んでしまい、痛みを感じるよりも先に死を予感する。 嫌な汗が流れた。鼓動が高くなる中で後ろを見上げると、逆光で表情さえも見えなかったが、それでも判った。口がニタァと裂ける、その顔。 「ひ、ひい」 ゴシャッ。 「うふふ、楽しいわねえ。ほら、そっちに行ったわよぉ? 餌が」 「はいはい」 顔に着いた返り血をハンカチで丁寧にふき取る、そのかなり前方で。 とんとん、と少年がマンホールの蓋を足で叩いた。 すると蓋が開いたと思えば、中から真っ黒な液状の物体が飛び出してきたのだ。 「う、ぅああがぼぼぼっ」 それが逃げてきた人々の口へと飛び込んでいく。味はほのかな味わいの無い苦味と、臭さと、下水の風味。つまりまったくもって美味しくない。 それはさておき、飲みこんだ瞬間に体の自由が消えていく感覚が分かる。これから自分はどうなってしまうのかと考える暇も無く、目が虚ろになり、ふらふらと歩いて行った。 「公共の地下で何飼ってるのよ?」 「……色々? あれ爆発するから気をつけてね」 「あら素敵☆」 そのふらふらと歩く人が、他の一般人に抱きついた瞬間だった。轟音と共に爆発が起き、周囲の人間や建築物さえ飲みこんでいく。 動く爆弾となったあの一般人は自分が死んだことに気づいただろうか。いや、きっと気づかない。 「ねー?」 「いやんっ素敵★ アタシも頑張っちゃおおおおおおおおおおおおおおお゛お゛!!」 スキンヘッドはスキンヘッドで、超高速で走って行っては、逃げる車を跳ね飛ばしながら楽しそうにはしゃいでいた。 ● 「うわあああああああああああ」 グシャッ。 「ぎゃあああああああああああ」 クシャッ。 所変わって、ビルの中。 そのビルは内側が筒抜けになっていて、十三階建て。 「えいー」 「やだあああああああああああ」 グシャッ。 その十三階から一階へ人を落とす作業をしているのは、十代後半の綺麗な女の子。 「んー、なんか地道な作業すぎね? いいけどさー」 一階で血の海を見つめているのは男。 「やりたいからやってあげてるの。気にしないで。えいー」 ゴシャッ。 「あっそう」 その血に男の指が触れた瞬間、血は硬質化し、剣となり槍となり刃となった。 「これだけあれば十分だろ?」 「えー、もういいの?」 そんな会話が携帯ごしに行われる。その背後でビルの正面玄関から逃げていく人々。その人々を押しのけて、二人の警察官が銃を向けながら駆け込んでくる。 「け、警察だ!! 大人しくしギャッ」 「おーい、いいからもういくぞ。早く降りて来いよなー」 「う、うああああああぁあぴっ」 「はーいっ♪」 重火器を軽々と持ち上げ、少女が翼を広げて降りてくる中、男の背後では血で作られた刃に貫かれて警察が、そして人々が細切れになって消えていった。 ● 「ふんふふーんふーん♪」 適当な鼻歌を歌うゴスロリ少女が、フリルの沢山着いた傘を両手で持ちながら、スキップして進む。 街のあちらこちらで何か叫び声や爆発音が響く。ついでに、歩いていれば足元には切り刻まれた死体が転がっている。 そんなものは見向きもせずに、彼女は楽しそうに進む。 「あら? 何か騒がしい気がしますわ」 片手を頬へと当て、頭にハテナを浮かべる。すると足元に居た、切り刻まれて倒れている男性が、虫の息で彼女を見上げた。 「逃げ……殺され………るぞ」 助けてくれとも言わずに、その男は彼女に逃げるように言った。 「あらあら、それは大変ですわね?」 だが残念なことに、彼女も件の騒動を起こしたその一人。 心配そうな声色でそう言いながら、少女は高いヒールを男の顔面へと踏み落とすと、男の顔面があっけなく潰れた。 「あらいやだ、私は血を武器にする趣味はなくってよ」 ねたーっと足に着いた血を見下し、それでも口は横へと裂けていく。 近くで響く車の走行音。 逃げる一般人を乗せた車が、道の中心に立つ彼女目掛けて走ってきた。 「ど、どけえええええ!!! 轢くぞ!!!?」 「あらあら。なんて野蛮なのかしら。まあ、いいわ」 ハアっとため息を吐いたゴスロリは、再びその足を高く持ち上げ地面へと落とす。 落とされた足下の地面は大きく陥没し、数秒と経たず周囲へと広がっていく。 それは、周辺飲み込む程までに広がっていき、平行感覚を失った建物やら電柱やら、あらゆるものが倒れていった。車も横転し、ゴスロリを大きく避けて建物へとぶつかり、炎上した。 「あら? 壊しすぎたかしら。 いい? これくらい派手にやるのよ?」 彼女は後ろを振り向きながら、後方で待機していた己の弟子達もとい、親衛隊へとそう言う。 「「「はいっ! 我等がお姫様!!」」」 「よろしいですわんっ! ものども、よくお聞きなさいな! 我らは、血なまぐさい祭りの最中! 集まったのは、どいつもこいつも血に飢えた、愛すべきくそ野郎共ばかりですわぁあ! 果実を噛み潰すが如く、赤子の頭を踏み潰すが如く、弾けて楽しくお殺りなさい!! 許可は出ています。いいですか? これは薬、薬だと思って壊しなさい!! さあさ、行きましょう。おいしそうな果実は、熟して地に落ちているわ!!」 ● ザ、ザー…………。 『うらのべうらのべ! いっち! にっの! さーん! どんどんぱふぱふ。さー、今夜もやってまいりましたうらのべラジオ』 特殊な無線機から流れるのは、ある組織の構成員のみが聴けるラジオ番組もどきだ。 『DJはいつものわたし、『びっち☆きゃっと』の死葉ちゃんでおとどけします』 周波は特殊回線の123。悪ふざけのお遊びで、構成員にとってさほど重要ではないが知っておきたい情報を隠語で知らせるラジオ番組。 DJである裏野部四八……、死葉のトークの軽妙さも相俟ってこのお遊びには組織内でも意外と支持者が多い。 『あー、あー、そう言えばそろそろパーティしたいってこの前誰かがいってましたね! ちなみに○○市の××町ではところによって血の雨がふるでしょー。おでかけのさいはダンビラやチャカなどをお忘れないようお気をつけください』 おや、これは……、久しぶりの、本当に久しぶりのパーティのお誘いだ。 発案者は誰だろう? 名前を言わない所を見ると、売名をする必要が無い程度には売れてる奴が発起人のはずだけど……。 だがそんな事はどうでも良い。趣向も、内容も、未だ判らないが、この放送を聴いた血と暴力に飢えた、或いは鬱憤を溜め切った同胞達は○○市に集まってくる。 無論そんな無軌道がまかり通るのは、彼等が裏野部だからだ。 裏野部はその性質上、『壊れた』人間が多い。血だか暴力だか自分だかに酔っ払った彼等には定期的な『ガス抜き』が必要だ。それがどれ程無意味な殺戮だとしても。 どれ程の被害をばら撒いたとしても。組織を維持する為に必要な『コスト』の一環であると考えればこそ――否、理性を持つ暴力装置である一二三はきっと面白がって『縄張りの中で部下達がやらかす』事を認めているのだ。 嗚呼、偉大なるかな我等が首領、裏野部一二三。 他者に傅く等考える事も出来ない我等が其れでも御方に従うは、其の威、其の力、其の恐怖、そして何よりあの方こそが我等の最大の理解者であるが故。 そう、我々裏野部に殺戮に理由は要らない。切欠は何だって良い。 とても、とても、とてもとてもとてもとても、パーティが楽しみだ。 ● 「裏野部のフィクサードが、た、大変です!!」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)が慌てながら分厚い資料を捲っていた。 それから一度大きく息を吸っては吐いて、資料を配り始める。 「とある町が裏野部のフィクサードに襲われています……皆さんが担当するのは東地区です」 東では五人のフィクサードが暴れている。 「このままでは街中の一般人が殺されてしまいます。そうなる前に、どうか止めてください!」 フィクサードはそれぞれが別行動をしているという訳では無く、二人と二人と一人に別れて徘徊し、手当たり次第に殺人行動をしている様だ。 茜昭泰というスキンヘッドの青年と離愁という少年は街の外周を回りながら中心へと向かっている。だが、昭泰が一般人を追い込んで、追い込まれた一般人を離愁が爆発させているため、進行速度は遅い。また、爆発音はとても大きな音なので、見つけるのは容易いだろう。 また、斑目と呼ばれた青年とサクヤという少女は街を不規則に徘徊している。探すにはなんらかの対策が必要かもしれない。 最後にアリスという少女だが、彼女は地盤沈下させながら東地区中心をうろうろ歩いている。 「敵の行動は以上の様な感じです。皆さんバラバラに動いているので、移動には車を使用することをお勧めします。 けれど、逃げている一般人にぶつからないようにお気をつけて。おそらく一般人が逃げている逆方向には敵がいるはずです」 とても厄介だが、なんとかして押さえるしか無い。 「アーティファクトについてですが、離愁の『地下の隣人』。斑目の『血の刃』。アリスの『魂吸いの趣向』の三つがあります」 地下の隣人と血の刃は、特定の条件でユニットが増えるものであり、魂吸いの趣向は攻撃の3分の1の精神力が吸い取られるというものだ。 「どれもとても面倒ですね……。 リベリスタさんが到着した時点で、地下の隣人により、影の人形が四体。血の刃により、武器が五本作られています。 影の人形、血の刃は時間をおけばおくほど数を増やしますので、お気をつけてください。 厳しい戦いになりますが、交戦の仕方は全てリベリスタさんに一任しますので。 ……それでは、血気盛んなフィクサードにリベリスタの鉄槌を」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月01日(日)00:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●狂気のアリス 混乱の渦。 誰がこうさせたって。裏野部フィクサードの華やかなパーティー以外に他ならぬ。 逃げている人間の中には、訳も解らず逃げている者が多い。恐るべき力を目の前にして逃げている者もいる。 人の波の向かう、その逆方向を見据えて、『Beautiful World』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)は人差し指を行くべき方向へと指し示す。 「よくわかんねーけど、こっちが早ぇ。俺を信じろ!」 全て直感。絶対などこの世には無いのだろうが、心の奥底で疼く何かが此方だと叫んでいる。 しばらくして人の波が、屍骸の海となっていた。 「愉快犯、見つけましたよ」 「あらあら?」 『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)がAngel Bulletの銃口を彼女へと向けた。 間を置く猶予だって惜しい。今この状況でも何処かで惨劇は起こっている。 『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)がすぐに車から降り、銀の弓月に似せた己の武器を構えた。 「好き放題した事、許しがたい行い。断言しましょう、天罰が下ることを!」 ――瞬間、黒の世界が辺りを支配した。 ●地上の隣人、増える影1 影が離愁の囲む。 その姿を捉えただけで、口元が緩む『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)。発動していた千里眼に、赤の両目が煌びやかに光る。 やはり彼らフィクサードの周辺は血臭と焦げ臭さが鼻を虐める。 臭うそれに鼻を押えた『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)。車から降りた瞬間に背中で『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)を庇うのだ。 「リベリスタ来ちゃったわよぉ、離愁」 「折角の虐殺だったのに」 スキンヘッドを斜めに傾けながら、死体をゴミのように放り投げた昭泰。その横で、冷たい目線で離愁が此方を見ていた。 そんな視線を跳ね返す勢いで無視し、上を見上げる『кулак』仁義・宵子(BNE003094)。 さて己と相談だ。 正直善悪というものは判らない。目の前の惨劇も、殺人衝動を抑えるために必要な事ならば、彼等にとっては仕方ないことにも見えてきた。 けど、けど、回答なんて問う前からとっくに出ていた。 飛び出し、向かってくる離愁の影の一体。宵子の体を狙うと言わんばかりに弾けて攻撃してくる。 「気に食わないから」 突っ込んできた影を右手一本、横に振り通して払って退けてみせる宵子。 「打っ飛ばす」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の付与が響き渡った。 この戦場にはミリィの心の中に眠る何かが疼いていた。きっと、それは―― 「……護りたい」 顔も知らない、誰か。幸せを理不尽に壊されたくないから。 そのために今まで戦ってきたから。 そしてこれからもきっとそれで戦っていくから。 ●狂気のアリス2 戦闘を行うアリスの配下達。 目は見えない。しかし声が聞こえる。今はまだ時ではないと集中するユーニア。 なに、暗くたって大丈夫だ。此方だって闇の世界の対策はしなかった訳では無い。 敵のデュランダルとクロスイージスの三人が元気よく近づいてくるのを耳で感じた。それを迎え撃つためにヴィンセントが、悠月が力を放つ。 「リベリスタ! 覚悟しなァア!!」 剣が振りかぶられる闇の中で 「まだ、戦い方の、たの字も判っていないのですね」 悠月は冷静に、透き通るような声には重みがあった。 黒の導師服は闇に溶ける。されど、彼女の放つ雷は刹那、その闇をも明るく照らす。 「狩る者は同時に狩られる者でもあるという事、思い知りなさい」 光は音を残して敵を射抜いた。ホーリーメイガスが咄嗟に回復の歌を奏でるのが見え。 次の雷を用意しながら、悠月はヴィンセントを見た。だが、同時に迫る敵の影が二つ。 一つは己、悠月に向かっていた。いくら精鋭たる彼女であっても、薄い防御を貫かれるのは少々面倒だ。 「させない!!」 『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)が悠月をその身で変わり身となった。与えられたダメージは、真琴には問題無い程度だろう。 ありがとうと笑顔を向けた悠月、その横。 「手に負えない……それが裏野部だというのなら」 止めてみせる、終わらせてみせる。込めた神秘の力はその心に応えたか。 「ひっ」 まるで、魂を狩りに来た死神にでも見えたか。恐怖したデュランダルの一人が振り上げた剣を勢いよくヴィンセントへと振り下ろすのだ。 一瞬、衝撃に武器を手放しそうになったが、こんな痛み、軽い、軽すぎる。 零距離。 Angel Bulletの銃口はデュランダルの胴を押えた。それから放つ、ハニーコムガトリングは正確に精密。 ――デュランダルの二人が倒れる。崩れゆく意識の中で主の名を叫ぶが。 「あら、愛しい部下がー」 それほど大事とは思っていない彼女。 トンッと小さな音を残して跳躍したアリスは、ユーニアの頭上を舞う。 (来る!) ユーニアは衝撃に備えた。急激に接近してくるアリスのその足が、振り落とされ――。 ●地上の隣人、増える影2 ドゴォという轟音が中心部から聞こえた。 「あちらも楽しそうに遊んでるじゃなーい」 離愁の詠唱が響き渡る。それは直感で無くても解る、黒の宴。 「あら、開始早々大盤振る舞い? いいわねぇ、アタシも頑張っちゃおお!!」 「ぐッ!!?」 込めた足の力に爆風が昭泰の後方に起こる。同時に飛び出した彼は宵子を吹き飛ばし――葛葉と、その背中の星龍を吹き飛ばして行くのだった。庇うさえ、ブロックさえ、彼の前では無意味。 「ふふ、大丈夫~?」 「良いとか悪いとかどうでも善いから死になさいな?」 リベリスタをあざ笑った彼だが、その後ろから真名がクローを振り上げ、そしてそれを振り落としていた最中だった。 伸びる爪は、離愁の背中を削っていく。それはミリィの付与もあってか、今まで以上。いや、真名の持っている力以上に力を発揮する。 「ふふ、ふふふふ、良い色が見えたわねぇ?!」 「あんた本当にリベリスタ!!?」 その苦痛に歪んだ顔がもっと見たいって、真名の脳は狂攻撃にシフトされていく。 更に地面にぶち当たった身体が軋むのさえ厭わず、宵子の拳が昭泰の腹部を打つ。 浮き上がる吐き気を覚えた昭泰は少し後退しながら、リベリスタを見据えた。 「痛いじゃないの!」 「痛くしてるもの」 「野暮ったいなあ。あたしともっと遊ぼうよ」 楽しげに笑う真名と、その隣の宵子は手のひらを上にし、指だけを折って来いと挑発する。 負ける気がしない、獅子の目に睨まれた時点で彼の結末等言うまでもない。されど、後方のメイガスは既に攻撃の準備を終えた。 「時間だね」 離愁の詠唱がピタリと止む。その瞬間、彼の周辺から鎖が飛び出しリベリスタへと向かう。 それの追撃か、否、目の前の敵を殲滅するための一撃。 「排除する。全て」 早くタバコをくわえさせて欲しいもんだ。こんな血臭の中では、吸い込む煙も腐る。 放った真っ赤な炎の雨が、血が形成する黒の鎖が――両者に降り注いだ。 沈黙。 その場に居た全員の体力は、ふたつの攻撃により削れていた。炎の雨は影を貫き、鎖はリベリスタの身体を呪った。 これは誤算か、離愁の攻撃は恐るべき威力を秘めていた。当たれば呪縛。脱出する術は己の心か――闇を打ち消す光か。 呪縛。それがどれだけリベリスタ達にとって不運だったか。 休みなど無い。追撃の炎が離愁から放たれたと思えば。 「ワンサイドゲームも趣味の範囲内よ★」 「楽しくねえ趣味だな!!」 動けない身体に高笑いしながら昭泰のデュランダルスキルの最高威力をぶつけられた宵子。奥歯を噛み締め、精神だけで意識を飛ばさんと踏ん張る。 まだ倒れない。 (もう、きつ……) 葛葉がそう挫けかけたが、途中で顔を振った。フィクサードへの憎悪は人一倍。負けてなるもんかと、血が滲む程に拳を握って耐えた。 背の星龍が影を倒しつくした今こそ、チャンスなのだ。 チャンスとピンチは紙一重だというが、このリベリスタのパーティーはフィクサードに無いものを持っている。 それは単純な事。 「大丈夫。エリスがいる」 突如眩しさに離愁が目を瞑った。 奏でられたエリス・トワイニング(BNE002382)の聖なる光。呪縛を抜け出したメイガスは、仲間を救う最強の礎となるのだ。 「これだから!!」 敵にも焦りは見えた。壁は無い、攻撃は――離愁へと集中していく。 「いくよ、嘆きの連鎖、今こそ断つために!!」 敵の攻撃、連携は全て見切ったこの戦闘指揮者――ミリィ。 積み上げた計算と、己の力を武器に、戦場を奏でよう――向かう、勝利へと。 ほら。次の葬送曲は聞こえない。 「……え゛ぁ」 「こんなモン使って喧嘩の邪魔すんじゃないわよ」 離愁の足は衝撃と共に、浮く。腹部に貫通している拳を見据え、その拳には血に彩られて光るアーティファクトがある。 「ふ、ふふ……嗚呼、君と僕との差は……」 己の拳しか信用しない宵子と、アーティファクトに依存していた離愁。 差はあった。だがそれが明確な強さの差では無いが。アーティファクトは宵子の拳の中で砕け、消えていく。 「あとは、貴方一人ね? さ、死になさいな」 ワンサイドゲームは、此処から始まる。 ●そして――彼と彼女へ 「痛いのは嫌よ」 闇の中、凹んだ地面の上で、アリスが見下ろしていた。 アリスの周囲には先程まで元気に立っていた親衛隊は、今は力無く倒れている。そこまで良いのだ、ヴィンセントと悠月の攻撃は流石に彼等が耐えうる攻撃では無かったのだから。 問題はヴィンセントが離脱して行ってからだ。動き出したアリスの地面抉り、防御を無視する掌が厄介である。 豪快な攻撃は悠月の手番を回復に消費させ、更には己のアーティファクトでリベリスタの精神力を大幅に削っていく。 「苦しいのも嫌」 彼女の攻撃を受ければ受けるほど、己のスキルが出せなくなる悪循環が、綺麗に流れているのだ。 今や、彼女に攻撃を与える威力が足りない程だ。 だが、リベリスタは待っている。きっと来る。今こそ、急いで向かってきてくれているのが幻想纏いから伝わってくるから――…。 たった一人、立っている悠月の目の前にアリスは立ち、その悠月の顎を持ち上げる。 「死んだら、きっと楽ですわよ? High Priestess」 「……帰るべき場所があります」 ふうんと無関心気にアリスは言うが、響く雷を彼女は纏う。 「フォースとなって帰るのも、最高の物語だと思いますわぁ?」 繰り出される壱式迅雷が、飛び交う中だが力を振り絞り、真琴が起き上がりその間に立っては、悠月を護った。 「ねーちゃん、まだ、まだ俺等は負けてねえ!!」 抉れた地面に棘を突きたて、ゆらゆらと起き上がったユーニア。その棘が赤く染まった頃、アリスの背に棘が掠っていく。 ショックを通さない身体は幸運と言えよう。しかし、視界が定まらないまで単純に体力が消費している。 「そんなフラフラで、無理しない方がいいですわー」 「冗談じゃねーぞ!!」 「威勢が良くて、好きですわぁ!」 再び、アリスの足が浮く。これ以上精神力を持っていかれたら、最後の二人を相手にするのが難しくなる。 覚悟した時だった。 「降参よ♪」 アリスの足が後方へと向いた。 彼女は親衛隊を指導しに来ていたが、それがいなくなった今では少々その場に居る意味が薄れる。 彼女さえ命は惜しいフェイトアルモノ。パーティーだから来てみたものの、こっちが血祭りにされてしまっては楽しくない。 「ごめん、遅くなった!!」 ミリィの真空の刃が闇を切り裂いて飛んでいく。 離愁と昭泰を超えてきたリベリスタが到着したのだ。 難易度は更に上がったと言えよう。一人でも彼等の体力精神力を削ることはできるだろうが、己のキケンも目に見えた。 楽しくない。なんて楽しくない。 「……興が冷めましたの」 アリスの表情は不機嫌に眉間にしわを寄せていた。 フリルの多いスカートを両手で持ちあげ、一礼したのは降参の証。くるりと背を向け、歩き出す。 「……出来るなら、お前とは真正面から相対したかった、真祖よ」 「でも今日はここまで、ですわ」 葛葉は攻撃を中断しては、その姿を見送った。 「なんかアリスちゃん帰るとか」 「それまたなんで」 そんな中、二人は平和に和やかに虐殺をしていた。 上空から話かけるサクヤの下に斑目。 嗚呼、見つけました――そう、AFで連絡を飛ばす。 「僕らのせいでしょうね」 そのサクヤの後方。ヴィンセントが不意打ちの光弾が上空から降り注ぐ。 どこまで減らせる? いや、どこまで己がもつ? 考える暇など無い。ただ、仲間が到着するまで全力で護るまで。 「さいご?」 「これは、やってくれるじゃんか」 上空のヴィンセントを見つけた途端、今まで明るい表情の二人が更に楽しげに笑った。 きっと狙われる。だけれど下で死に物狂いで逃げる一般人を逃がせるのなら! 「射手のお嬢さん、そんなに重い銃では弾が避けられないでしょう?」 「え」 「折角の翼が持ち腐れですね。似合わない銃は捨てて逃げたらどうですか?」 「うるさい!!!」 サクヤの重火器の口が此方を向いた。来る――だが、上空では上手く防御ができない。おそらくきっとサクヤも同じだっただろう。 怒り交じりにヴィンセントへと放ったのは呪いの弾。 追撃。漆黒をその手に、斑目はそれをヴィンセントへ。 やはり、一人では少々荷が重かったか。追撃の血の刃が襲ってくるのが見えている。 目を瞑った。もう駄目だとは思っていない、次の打開策を必死に考えた。 何より、役割を果たせないかもしれないことに腹が立つ。 「ヴィンセント!!」 ミリィさん? ● 意識が飛びそうになったその身体は堕ちていく。されど、落ちた衝撃はとても柔らかいもので。 「よくやった。だが、まだ休めないだろう?」 葛葉が声が聞こえ、ミリィがヴィンセントの身体を受け止めた。一瞬の言葉を交わし、後方からエリスの治癒の光が降り注ぐ。 万全の状態からは程遠いとは言え、やるしかない今。フェイトさえ燃やしてでも、敵を打破する覚悟は既にできている。 「格好悪いとこ見せちゃいましたか……」 「いやいや、大丈夫だ!」 ユーニアが悠月の前に出ながら、笑顔を向けた。 さあ、戦闘は終盤でやっと全員揃ったというものだ。負ける気がしない、全員じゃなくても敵を超えてきたのだから。 「こいつはさっきの奴らより胸糞わりぃ気がするぜ」 ふとそう言ったユーニアの言葉。 確かに、目の前の二人からはどことなく人形のように感情が乏しいように見えて、殺戮するだけの人形のように見えて。 「沢山殺したのですか……?」 構成された刃を見て、ミリィは奥歯を噛んだ。 到着は仕方なかったとは言え、殺された数はいざ知れず。即座に開放したのは仲間を護る、防御の感覚の共有。 「――いきます!!」 奏でよう、最後の協奏曲。 血の刃の数は着実に星龍が消していく。それだからこそ、斑目を捉えるのには造作も無かった。 だがサクヤは上空30mの位置から精密に攻撃してきた。それに対抗できるのは、一人。 「一対一。どちらが先に倒れるか、勝負です」 「殺す、殺すんだ!」 ヴィンセントとサクヤの一騎打ち……とはいうものの、此方には強力な回復が居た。 そればかりに頼っているという訳では無い。ヴィンセントの精密な一撃は確実に彼女を打ち抜く。お互い防御ができないからこそ、殺った者勝ち。 「貴方の血は、どれ位鮮やかなのかしら」 「極上だ!」 此方は地上。斑目を追い込む真名。 本来ならばサクヤが出血させ、それでユニットを作る二人だが、これではそれが無理だ。 だが幸運か。噛み付いた真名のその傷からユニットを生成する。 「ま、無駄だ」 だが星龍がそれを破壊し、零れた刃を。 「おや、どうやら此処が一番楽でしょうか……覚悟なさい!」 悠月の雷が薙ぎ払っていく。リベリスタの連携は完璧だ。 「く!」 更には氷の腕が斑目の腹部を捉えた。 「もう、諦めて、尻尾巻いて逃げたらどうだ?」 葛葉の言葉が刺さる。 そりゃパーティーだ、逆にパーティーされているこの結果はなんだ。 止めてみせると相談を重ねたリベリスタ達に隙は無い。 「廻る因果は己に還る。人其れを応報と云う」 悠月が、唇に手を当て詠唱と共に言葉を紡いだ。 「そんなに血が見たいのならば」 ――存分に御覧なさい、自分の血を。 悠月の魔力の弾丸は、一直線に斑目へと向かい、その身を貫いた。 幸か、不幸か。 斑目は精神力か意地か、それを持ってして命を繋ぐ。 その表情は怒りに満ちていた。 「サクヤ!!」 「は、はひっ!!?」 殺すぞ!と言うのかと、リベリスタ達は一斉に武器を構える。 此方も精神力が尽きているものも少なくは無い。だからといって負ける訳でもない。 「逃げ……!!」 「はい! え、ええ!?」 仕方のない、懸命の判断だ。 格好悪く、なんと無様か。この恨み、いつかきっと――。 一斉に元の血となって残った刃。 その血臭は激しいものだったが、周りを見てみれば、此処にヴィンセントが到着した以降に殺された一般人はいなかった。 「……街は護れただろうか?」 誰かがそう呟いた。少なくとも、この東の被害は最小限なのだろう。 「うん、きっと――……」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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