●無敵に非ず 敵の有無なんてものは、テメェで決めるもんだと思っている。 だから、『無敵』なんて言葉は好きじゃねェ。 どれだけガッチガチに固めた防具、隙のない速度、絶対者なんてファクターすらも闘争の空気の前では霞むだろう。 絶対のタイミングの前ではそんなものがいくらあっても、倒されるのが関の山。 だから、『無敵』なんて語る馬鹿にはなりたくは無く。 そんな与太話を笑いながら受け入れた製作者も、同程度の戦闘馬鹿だったのだろうと思う他あるまい。 大振りの砲身、人の身長ほどの直径を持つ六輪タイヤ、如何にもなサイズの車体。 そのどれもがリクエスト通りで腹が立つほど誇らしい。 「分かってNだろ? Oレの楽しみ、邪魔しTAら殺すぜ?」 『なに、露払いの道具を寄越せといったのはお前だろうて。構うまい、使い潰すがいい、できるものなら』 ●『不敵』、出陣す 「俗に言うRCV――偵察警戒車の類をモデルにした車両と、フィクサード一名。今回市街地で暴れまわるのはこのふたつですが、そのどちらもが正直、面倒な相手だと思っています」 ため息をつきながら背後のモニターに詳細情報を写しながら、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は首を振った。 偵察警戒車といえば、二十五ミリ砲の破壊性能と高度な機動性から市街地戦闘で殊に評価を高くする類の兵器のひとつである。 少なくとも、一般歩兵と比較すれば比類ない戦力であることには違いあるまい。 条理の内にある生物が相手であれば、の話だが。 「当然ですが、このRCVはアーティファクトの類です。ここまで大型だと清々しいですがね……少なくとも、タイヤの集中攻撃だけで行動不能になることはまず無いでしょう。装輪車の癖にアーマースカート履いてますから、狙うことも至難でしょうし。何しろ、この装甲はどうやら、『不敵装甲』と呼ばれる類の装甲処理を施していると思われます」 「『不敵』?『無敵』じゃないのか?」 「ええ。このRCV、受けた攻撃を反射する性能があります。一般的な反射のそれと同等ですが、問題はそこから先。反射ダメージに、状態異常を狙った分だけ追加ダメージとして反射する、という類のもののようです」 説明がいまひとつ説明の体を成していない気がするが、より多くの状態異常を纏めて与えようとした場合、自らも大ダメージを負う、ということなのだろう。何と面倒なアーティファクトか。 「まあ、対象が機械ですので常識的な状態異常はあまり用を成さないと思います。無闇に状態異常を狙いに行けば窮地に陥ることを認識の上で、行動してください。それと、随伴するフィクサードですが」 溜息をひとつ交え、夜倉は続ける。 「主流七派『裏野部』所属、『逆真(さかま)』と呼ばれるフィクサードです。革醒時に獲得した機械部位を自ら引き千切ったという逸話持ちの、正真正銘の変人ですが……実力は高いものと見て頂ければ」 静かに頭を下げる夜倉に、リベリスタ達は呆れ気味に頭を振るのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月23日(土)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●不敵は夜嗤う ガガガガン、と地面を連続して砲弾が穿つ。 地面に掃射の痕を残したその砲弾は、従来のものと比べ、酷く太く、そして短いようにも感じられた。 テレスコープ弾、と銘打たれたそれについてリベリスタの多くは知る由も無い話だが――兵装配備すらされていない、貫通力に長けた特殊弾頭である。 挨拶がわりとは言え、それを避けきった彼らにとって、一発の威力がどれほどかは語るに及ぶまい。 その足元に立った男が軽く手を振り上げただけで掃射を止めたその車両は、現陸上自衛隊の最前線を担う偵察機動兵器とフォルムを同じくしながら、神秘を施されたそれだ。 男の方はといえば、隻腕であろうと些かもその脅威を損ずることのない狂気的な笑みを貼り付け、彼らと対峙している。 「まぁ、無敵とかだと破れるフラグにしか見えないが、不敵ならギャグか」 「ハっ……TEめェにゃ美学が分からねえかプロメースの小娘ェ。DisってバかRIじゃ大きくなれないゼ? ちんまいまま死んじまえYO」 「『不敵』……ふん、クリミナルスタアのオレに無法を挑むか」 「新鋭のガキが気張るJAねェか。挑んでるのはどっちか、挑まれてるのはどっちか、ちったA弁えろよこらァ」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の挑発も、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)の宣言も、目の前のその男――『逆真』にとっては心地よい遠吠えにしか聞こえまい。彼らの名を知り、認め、その上で軽口を叩く程度には、だ。 元より狂っている彼に、道理のうちでの言葉遊びに過ぎぬ暴言が如何程の効果があるというのか。息を吸って毒を吐く彼女にとって、そんなことはさしたる問題ではないだろうが。 「それと――Aめぇぜ小娘。鉄壁名乗るならウチのミノとDeも競り合ってな。まァ『コイツ』に目を奪われてる時点で手前ェの腐った視線は分かってんだぜ、あァ!?」 「あっ……!?」 ガァン、と。次に響いた音は双方に一発ずつ。RCVに悲鳴はない。機械は泣かない、だからこそ機械であり。 「張り合うのは嫌いじゃないですが、同じ軍用でこれだけの差ですか。羨ましい前に恨めしい」 咄嗟にその砲身を『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が弾いていなければ、欲目を出して構えていた『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)が防御では捌ききれぬダメージを負っていたかもしれない。狂っている者は、正常と異なるのではない。正常であった時の常識を捨てているからこそ、強いのだ。 無論、きなこ一人を責めることは敵わないだろう。神秘存在に『常識』――旧時代の電波制御を予測した彼ら全てに非があると言えば、それが正しい。遠隔操作であることが、事実として神秘の域に踏み込まないとは言うまい。 「手前ェのやり口だTTE大概だろうが、自重しろよ重工お付きのメイドが」 「さて。自重とは何でしょうか」 舌打ちして中指を突き立てる逆真に、しかしモニカはしれっとした様子で返す。自重しない装備を持ちだしたのはあちらが先だ。自分たちがなんであれ、その言葉を扱われる謂れはないと言わんばかりの絶対的自信が伺える。 そして、そんな逆真に真っ先に突っ込んで行った影は、相手が誰であろうと構わない、戦闘者(デュランダル)の権化の如き少女。 「あんたもデュラなら、反射程度目を瞑る奴がいるの分かるでしょうに。せいぜい、高みの見物でもしてなさい!」 「手厳しいじゃねぇか、小娘! お前みたいな向こう見ずは嫌いじゃね……ちィッ」 一足で踏み込んだ『薄明』東雲 未明(BNE000340)はしかし、正面からこの男とやり合おうなどとは端から考えていなかった、彼女の役割は本質的に、その先に居座る車両のブロックだ。接敵からの戦闘が余りに流動的、且つ急速的に始まったがために後手に回ったとは言え、逆真を間合いの外に放り出してしまえば寸暇の余裕は得られよう。その隙に踏み込んだ『空泳ぐ金魚』水無瀬 流(ID:BNE003780)が素早く指揮を出すことで、何とか守備体勢を整えるに至った、というぐらいで。 「うわー……ゲームとならよくあるけど……じかに戦車……? と戦うんだね……」 再び砲口をリベリスタたちへ照準する姿を視界に収め、『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は茫として呟いた。ゲームでそのような状況に慣れている彼女にとっても、実際にその姿と対峙するのとでは大きく異なる威圧感がある、程度のことは理解できる。 さりとて、自分や仲間が戦ってきた相手と比較すればそれが特別に強敵であろうという感覚はない。神経を静かに研ぎ澄ませ、次の一手に備える。それが彼女にできる最善手であることに変わりはない。 「相手が戦車だろうがメタルフレームでも、無敵だろうと不敵だろうと貫く」 そう宣言した『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の視界では、 普通なら脅威にすら見えるRCVの砲口の動作速度すらもスローモーションになって見える。元より根本が動かないなら、そこを狙えばいいだけのこと。 当てようとすれば、何発でも中て、穿ってみせるという決意すら感じられた。 「冗談コイてんじゃねEぞ小娘ェ……! ガキ共がちったァ群れた程度で勝てると思ってんなら目ェ覚まさせてやらぁYO」 だが、ノックバックはあくまで一手防ぐか否か、レベルの間に合わせであることは言うまでもない。無論、未明にも逆真にも理解できている。迫撃の応酬は単なる消耗戦でしかないことは、両者ともに理解しうることだった。無論、そうなれば――不利は、実力差に於いて下回る未明。そして、彼が打ち込んだ一撃は、その生死をすら司る極致。見切っていなければ、そのすべてを受け、そして大きく体力をすり減らしたであろう一撃。出来る事なら避け、早々に排除したかった危険性は、出来ないからこそ牙を剥く。 「何だ、景気よく暴れているじゃないか。子供が多くて興奮したか? ロリコン」 「……ハ、黙れよ」 ユーヌが、再びに挑発を交え、未明を突き飛ばすようにして逆真に氷の拳を振り上げる。だが、その拳が氷を貼り付けるより先に、ブロックが空いたRCVが手近な位置の何名かを弾き飛ばし、後衛へと肉薄する。守りに自信を持つきなこ、そして元よりブロックにあった福松が間合いに入るが、それでも後衛を破壊射程に入れる程度の移動だった。そう、それはつまり、戦列のド真ん中に食い込まれた状況。 「全く、邪魔で仕方ないですねフィクサードさん。名前覚える気はありませんけど。あと私の名前は忘れてください」 「……チ、うぜェな本当、そうIうトコが」 氷で動きが鈍るところを貫く銃弾に舌打ちしつつ、逆真はその威力、そしてその言葉にも辟易としたような反応を投げかける。忘れられるはずもない。神秘界隈に名を広めつつあるリベリスタのそれを知らぬ、忘れるなど、衆愚にも劣る愚かさだ。 確実に、傷は負っている。だが、その頑健たる肉体が弱みを見せる様子をリベリスタ達は観測できない。その男は、確かにフィクサード単独で立つだけの力量があるということか。 アーリィの指先は、一瞬僅かに揺れ、空を切った。それは即ち、彼女の迷いの証拠でもある。 視線の先で猛威を振るう逆真がRCVを操っている、というのはリベリスタ達の共通認識であった。間違いない、という確信はある。だが、その論拠となる操作条件が見つからない。ともすれば行動不能に追い込めたものを、しかし視えないものは例え一流の論理戦闘者でも試算には入れられない。 ならば、と返す指先はRCVへ向けられる。限界まで練り上げた気糸を放つ動作に淀みはない。が、その身を貫く痛覚は間違い無く本物だ。砲身の根元に打ち込まれた一撃は、確かに重い。だが、痛痒を感じさせぬ動作でそれは、未だ動く。 彼女の脇を抜け、流が狙いすました一撃をRCVへ叩きこむ。僅かに指先が痺れたかもしれないが、気にすることはない。前に出た瞬間に覚悟はしているし戦える。苦痛もない。即座に流れるきなこの癒しが、そんなものは些事であると、断言するのだから。 杏樹の腕が大きく振るわれ、それに伴って狙いを定めたアストライアが杭の如きクォレルを弾きだす。既にアーリィが穿った場所へ更に一撃。動きに、支障は――ある。確かに、それは徐々に成果として現れている。尤も、今の杏樹が辛うじて知りうる程度の微々たる変化だが、変化であることには間違いない。確実に、勝敗の天秤は傾きつつあった。 ひゅぅ、と息を吸い込む音。順手に持っていたバスタードソードを逆手に構え、逆真が舌打ちする。 「……冗談じゃNEェな」 「お前の存在が、か――」 ユーヌの憎まれ口が、呪印と共に切られようとしたその刹那。未明を、衝撃が駆け抜ける。大きく後方に放り出された彼女の視界には、ユーヌに肉薄する逆真。振り上げ、振り下ろされる一挙動。二撃目を受けた彼女が吹き飛ばされた背後は、そう、そこは。 「この……!」 「弾けな、運命ごと」 福松の叫びをかき消し、爆発が轟いた。 ●不敵にさんざめく 逆真の一撃、RCVへの背中からの激突、そして爆発装甲の煽りを至近で受けたダメージ。 体力に乏しいユーヌにとって、決して生半可なダメージではなかったのは確かだ。だが、それは比較論だ。敵陣のド真ん中に据えられたそれが本領を発揮するのが爆発のみなれば、そんなものは最初から露払いどころか使い捨てにされる運命だった兵装に違いない。 「あとは精々引っ掻き回されNA。俺はSIらネ」 「こんなことをして何の意味があるんですか!」 「俺が楽しイ」 流が一歩、踏み込もうとする。だが、周囲の被害状況を考えれば、そして、逆真の動向を判断すれば、自分にできることはそれではない、と分かる。瞬時に復調を促す光を纏うが、それだけでは未だ足りない。最悪とは重なるもので――度重なる攻撃で回復量の閾値を超えていたきなこは、既に立ち上がることすら出来ない状況。対して、RCVは無傷かと云えば、寧ろ逆だ。徐々にだが、確実にそのダメージは蓄積されつつあり、装甲を爆破したことから無防備なそれを晒してすらいる。そして、何より。自ら間合いへ踏み込んだそれは、包囲されることを狙ったとしか思えぬ状況ですら、ある。 故に、彼らに残された選択肢は、その状況をも叩き壊す意思と根性。 水際で戦うに値する最後の一線、その意思の発露。 「さぁ、その『不敵』の名を取り下げて貰いましょうか」 ゆるりと、しかし力強く振り上げられた未明の刃が、爆破された装甲部へと叩き込まれる。 「一点突破なら、不敵だろうと耐え切れまい。貫いてみせる」 「ここで、壊して……持ち堪える……!」 鬱陶しいとばかりに向きを変えた砲身は、アーリィと杏樹の放った更なる極点攻撃により、明確にその動きを鈍らせ始めた。がたつきが酷くなったそれは、最早照準能力も高いとは言いがたい。 追い打ちのように仕掛けられた福松の銃弾が、砲身の根元を穿ち、完全に破壊。少なくとも、それ以上の砲身部の可動は見込めまい。要は、正面にしか撃てない鉄屑に等しい。 癇癪のように炸裂させようとした装甲は、たたきつけられたユーヌの拳で爆発反応すら凍らせ、吹き飛ばされることもない。 動けず、暴れず、戦えず。不敵と呼ぶには余りにも、呆気無い―― 「どうせですからね。最後にやらかしてみましょう」 そんな、冗談のようなモニカの言葉を真に受けた者が居たかどうかは分からないが……至近に踏み込み、砲身を車体につきつけた彼女が狙っているのは、間違いなく機関部最奥。 現代戦車すら撃ち貫くそれが、少々の神秘を糊塗された程度の装甲におっかなびっくり打ち込まれるわけもなし。 ぶちぬいて、貫いて、冗談のように。 装甲も車両もリベリスタ達も何もかも、関係ないと言わんばかりに、その車両は粉微塵に爆砕する。 ……果たして。彼らの誘導が成立していなければ、一足早い地上の花火を満喫することになっていたであろうことは、誰あろう彼らが誰より知っていて。 そも、各々が大輪の花を咲かせて帰路に就くことになったなら、それはそれで運命であり、勝利であり、誇りであるのだろうか。 尤も。 肉を削り血を散らした花の色など、見飽きて久しいのかもしれないが。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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