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<相模の蝮>Ripper's Edge - 300seconds Battle -

●『Ripper's Edge』
 無頼者には無頼者なりの仁義というものがある、らしい。
「ハッ、バカらしいですね」
 いつの時代のヤクザ映画ですか、と『上』の厳命を笑い飛ばす。蝮だかハブだか知らないが、どうにも五月蝿くてかなわない。
「パーッと騒げばいいんですよ。斬って殴って撃ち殺して、血がどばーっと流れて。それで人がどっさり死んだら」
 もう最高じゃないですか。
 結局のところ、彼にとって命令なんてものは何の意味もないのだ。頭を占めているのは、これからどんな殺人芸術を披露することができるのか、その一点のみ。

 ――まあ、子供狙いなのは私の趣味ですけどねぇ。

 ジャックナイフを弄びながら、くつくつと男は笑う。

●『万華鏡』
 集ったリベリスタ達に構わず、『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)はしばらくの間、床の一点を見つめていた。どれほどの間そうしていただろうか、ふ、と彼女は顔を上げ、痛いほど張り詰めた沈黙を破る。
「フィクサードが現れるの。人を痛めつけて殺すのが大好きな、命乞いをさせてそれを裏切るのが大好きな、そういうフィクサード」
 イヴの語った事件の概要は、実に簡潔なものだった。常軌を逸した八人の快楽殺人者が、白昼堂々、幼稚園を急襲する。放っておけば後には幼児の拷問死体が残る、そういう筋書きだ。
「全部で八人。リーダーは、シンヤって男。ちょっとしたアーティファクトを持ってる。――けど、他の仲間と絶対的な力の差があるわけじゃない」
 そして、またイヴは言葉を紡ぐのを止める。リベリスタ達は待った。倒してきて、というこの天才フォーチュナの託宣を。しかし、彼女が発した台詞は、彼らの予想を根底から覆すものだった。
「今回頼みたいのは、五分間だけ、シンヤ達を足止めすること」
 彼らはつかのま絶句する。そして、倒してこいじゃないのか、と当然すぎる質問を投げかけた。だが、いっそ残酷なほどに冷静なイヴの声が、リベリスタ達を打ちのめす。
「それは無理。彼らは、一番力量が低くても、多分皆の中で一番強い人と同じくらいか、それ以上だから」
 しん、と沈黙。ざわめきがぴたりと鎮まる。その沈黙を切り裂いて、幼稚園の子供たちが避難する時間を稼いで欲しいの、とこのフォーチュナは続ける。
「襲撃のタイミングも、場所もわかってる。けれど、相手は馬鹿ではないわ。だから事前に避難させたりしたら、予定を変更して他の幼稚園を襲うだけ」
 だから、この幼稚園を囮にして、足止めを――できれば、しばらくはおとなしくするような痛手を負わせて欲しい。そう言って、イヴは筒のようなものを差し出す。
「彼らが来たら、誰かが非常口横で発煙筒を焚いて、非常ベルを押せばいい。小さな幼稚園だから、避難の時間はそれほど長くはかからない」
 子供たちが避難するまでおおよそ五分。流石にネジの抜け落ちた殺人狂でも、周囲から丸見えのオープンな場所でことに及ぶのは躊躇うらしい。目的地に煙が上がり、どうやら獲物に逃げられた上にリベリスタ達に阻まれたとあれば、シンヤたちは無理せず撤退を選ぶだろう。
「……でも、気になる。シンヤが何を考えて、こんな派手なことをするのかわからないけれど」
 そこまで説明して、ふとイヴは、立て続けに起こったフィクサードの事件に思いを馳せた。――一つ一つは偶然でも、多く積み重なれば、それは必然になる。
「どうも、おかしい。フィクサードの事件は毎日起きてるけど、一度にこれだけ感知されたからには……何か事情がありそう。今、アークの方でも調査をしている所なんだけど」
 とりあえず、頑張ってきて。リベリスタ達を送りだしたイヴは、巻き起こる嵐の予兆を確かに感じ取っていた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月可染  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月28日(土)01:54
 弓月可染です。
 全体シナリオ参戦です。以下詳細。

●成功条件
 戦闘開始かつ幼稚園の建屋内での発煙筒使用から五分間、全てのフィクサードを戦場に足止めすること。

●状況説明
 フィクサード達は、山に繋がる幼稚園の裏門からの侵入を目論んでいます。この集団のフィクサード達はどれも人殺しそのものが大好きというタイプですが、決して馬鹿ではありません。目指す幼稚園に人気がなかったりすれば、近づかずに他の施設を襲うでしょう。
 イヴの示唆通り白煙筒を使用した場合、園児達や教諭は全て正門側(裏門とは建物を挟み反対側)に避難します。裏門側に人が来る危険はありません。
 なお、発煙筒を使いに向かった人は、戦場に復帰するまで一分間必要です。

●『Ripper's Edge』シンヤ
 二十四歳。チンピラ風の青年。
 吸った血を自分の活力に換えるというジャックナイフのアーティファクト『リッパーズエッジ』を所持しています。

 【攻撃詳細】
 ・テラーテロール(A:神近単)
 ・ナイアガラバックスタブ(A:物近単)
 ・リッパーズエッジ(A:物近単、追:HP回復)

●フィクサードの皆さん
 シンヤ以外に七人。武器は不明です。
 それぞれホーリーメイガス二人、ナイトクリーク二人、クロスイージス、マグメイガス、プロアデプト。ただし、誰がどれかは外見では見分けにくいでしょう。

●サポートについて
 参加者のバランスを鑑み、長期戦を耐えるために必要な能力を持った方にサポートしていただけると有効だと思います。

 それでは、皆さんの粘り強いプレイングをお待ちしています。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ソードミラージュ
ジェスター・ラスール(BNE000355)
プロアデプト
天城・櫻霞(BNE000469)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
プロアデプト
鬼ヶ島 正道(BNE000681)
デュランダル
降魔 刃紅郎(BNE002093)
ソードミラージュ
安西 郷(BNE002360)
プロアデプト
アシュレイ・セルマ・オールストレーム(BNE002429)
■サポート参加者 2人■
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ホーリーメイガス
秋月・瞳(BNE001876)

●0:00
 握る拳から突き出した異形の刃が、赤黒いジャックナイフを受け止めて金属音を響かせた。
「いいですねぇ、実に素晴らしい」
 赤いスーツの男、シンヤが喉の奥を鳴らした。蝮の言いなりというのも癪ですが、と言う彼の顔は、だが喜悦に歪んでいる。
「子供を殺すのもいいですが、ちゃんと遊べるというのはもっといい!」
「ええ、オレも楽しみっすよ」
 対するは『新米倉庫管理人』ジェスター・ラスール(BNE000355)。隙あらば虎の左手で引き裂いてみせる心算だったが、男はそんな思惑を許してはくれない。それでも、と彼もまた笑みを浮かべる。
「戦うなら強い相手の方が楽しいっすから」
 じっとりと汗を吸う頭のタオル。速さを極めた自分よりなお速い敵――いや、だからこそ血が騒ぐのだ。
「先にあたし達と遊んでもらうわよ!」
 高いヒールに似合わぬ無骨なコート。にも関わらず『薄明』東雲 未明(BNE000340)の姿が猫を思わせたのは、跳ねた髪もさることながら、その紫の瞳に宿る力の賜物だろうか。
「何が起こっているかはわからない、けど」
 紫の鞘から大剣を引き抜き、高く飛び上がる。指揮官であろう男を狙う未明の一閃。だが、彼はわずかに身を捩り、剣筋を外す。手応えは浅い。そして。
「必ず、守りきって……きゃあっ!」
「こ、子供、おでが、貰うんだな」
 身の丈八尺、丸々と太った巨体が力任せに振るった棍棒が、芯で彼女を捉えた。
「子供扱いするんじゃないわよ……っ」
 苦しげに身を起こす未明。――敵は、強い。

 突如としてフィクサード達は現れた。何の策もない、正面からの攻撃。『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が、質量を伴った黒いオーラに身を打たれつつも、甲爪の青年の行く手を遮る。
(あちらも中々、人材豊富なご様子で)
 同じ陽動作戦でも、微笑ましいものからえげつないものまで様々ですな、と『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)は鼻を鳴らした。陽動作戦。嬉々として自分達に襲い掛かってきたことからも、敵の目的が幼児殺しそのものでないことはわかる。
「まあ、真正面からつきあう必要はないですからな」
 くい、と彼が左手で眼鏡を直すと同時に、後方に控える黒衣の聖職者風の男を気の糸が絡め取った。
「短い間ですが、お見知りおき願います」
 ジリリリ、と背後でベルが鳴る。

「らしくない、とは思うが」
 アシュレイ・セルマ・オールストレーム(BNE002429)はほろ苦く笑う。リベリスタの役目とはいえ、こんな鉄火場に飛び込む自分が信じられない。だが、まんざら悪い気はしなかった。
「上手く逃げろよ、子兎ちゃん達」
 白煙が立ち込める中、非常ベルのボタンを押す。けたたましく騒ぎ立てる警報音を背に、彼女は走り出した。

「あいつがクロスイージスだ」
 冷静な声。敵を走査する『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)が指差したのは、敵の最後方に立つワンピースの少女だ。
「そうか。では――始めよう」
 片眼鏡に隠された金の瞳が輝く。進み出た『深闇に舞う白翼』天城・櫻霞(BNE000469)が紋様の入った手を翻せば、糸を張り巡らした罠がその姿を現し、少女を雁字搦めに拘束する。
(楽しいから、面白いから……そんな理由で、弱者を殺すのか)
 可憐な少女であることなど頓着もせず、いっそ冷酷に締め上げる櫻霞。その心中は、静かにしかし激しく燃え滾る。
「ふーん、けど、こんな糸で防ごうなんて甘いんじゃない?」
 だが、少女は小馬鹿にした笑みを浮かべ、易々と糸を引きちぎる。手には不釣合いな拳銃。無造作に放たれた弾丸が、彼の右脚を貫いた。
「こんにゃろう!」
 報復とばかりに踊りかかる『まごころ暴走便』安西 郷(BNE002360)。逆立てた金髪にツナギとピアス、古き良き時代の暴走族を思わせる彼の武器は、装甲で重さを増したその脚だ。
「子供達を狙う卑劣な奴らめ! くらえ! ソニックキィィィィック!」
 狙うは防御の要たるワンピースの少女。だがこれを予想してか、少女を守るべく野球帽の少年が立ちはだかる。
「足止めだなんて生温いことは言わねぇ! どけっ!」
 高速の蹴りが何度も何度も浴びせかけられる。流石に全ては避けられず、郷の脚が少年の腹にめり込んだ。だが、少年は怯まない。
「おじさん、わかりやすい動きだねー」
 そして、一瞬の隙を見逃さない。突き出した厚刃のナイフに『吸い込むように』、繰り出された右脚をざくり切り裂く。
「こんな暴挙を……許してはいけません!」
 いつになく力強く叫ぶ『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)。常は慈母の笑みを絶やさず仲間を支え続ける彼女が、今日ばかりは怒りに身を任せていた。
「主よ、我ら全て善なる者、御力もて救いを与えん」
 ありったけの魔力を汲み上げるこの天使は、それでも穏やかなる賛美歌を響かせ、癒しの力を行使する。
(私がここに居る理由――)
 それは彼女にとっても容易い事ではなかったが、弱音など吐くはずもない。
「大儀である、カルナ」
 貴様に我の背中を任せよう。そう言い残し、『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)がナイフの少年へと迫る。少年の詰め将棋のような先読みは、彼が狙うプロアデプトのそれだった。
「貴様らが何を企んでおるかは知らぬ」
 いっそ堂々と歩み寄る彼の手には、破壊だけを使命とした蛮刀。膨れ上がる闘気が、得物に収束していく。
「だが幼子を狙うとは、畜生にも劣るわ!」
 むしろ鈍器のような音を立てて、少年の肩を砕く一閃。だが次の瞬間、束縛を逃れた聖職者の十字架から吹く風が、傷口を癒していった。

●1:30
 事態を動かしたのは、『十人目』のリベリスタだった。
(……スプリーキラーどもめ)
 さぞや楽しいのだろうな、と吐き捨てるアシュレイは、門を迂回し、建物の陰に身を隠していた。それが、決して手練とは言い難い自分を最も高く売りつける方法。彼女は自分を愛してはいたが、自分自身を過信してはいない。
「許せない、私の前でそんな所業――絶対に」
 その口調は怒りに塗れ、しかし口の端はにやりと曲げて。一直線に放たれた気糸が、ナイフの少年に突き刺さる。
「横から失礼。あまりにも隙だらけだったものでね」
 少年の注意が、側面から現れた新手に向く。それは一瞬のことではあったが、その一瞬を見逃さない者が居た。
「絡め取れ、不可視の糸よ」
 一時前衛に出るも再び距離をとった櫻霞が、見えざる罠を張り巡らせる。それはすばしっこく動く少年の一瞬の隙。ぎち、と音がした。彼の動きが不自然に止まる。
「へぇ、やるじゃない」
「狂ったお前達の思い通りに事を運ばせるつもりは、毛頭ないのでな」
 少年を盾にして難を逃れた、扇情的なドレスの美女が嫣然と笑う。冷たく返す櫻霞。より一層美女の笑みは深くなり――次の瞬間、雷の奔流が音を立てて放たれた。

(どういうことなの……?)
 目の前の老人は、どうやら暗殺者の名に相応しい腕前の持ち主らしい。影が伸び上がり、何度も未明を斬りつける。
 彼女にはわからない。何故、敵は襲撃を放棄し、総出で格下のリベリスタ達を倒しに来るのか。単に戦うのが好きというわけでもあるまい――ならば、何故?
「騒ぎたいんでしょ? なら、ここで暴れてて頂戴!」
 いずれにせよ、迷ったら負ける。疑問を頭の隅に追いやって、未明は背丈程の大剣を叩きつけた。
「義理は果たさないといけませんからねぇ」
 悪くはないのですが、と含み笑い。禍々しいナイフを振るい、シンヤは強引に突き進む。
「これより先は行かせないっすよ!」
 その行く手を阻むジェスター。速さと注意力を備えるこの男だからこそ、真っ先にシンヤに反応できたのだ。速さでは、負けない!
「いいですねぇ、いい動きだ」
 握りこんだ刃を、拳を振る要領で突いていく。見慣れない剣筋が、幻を生むほどの速度を伴ってシンヤに吸い込まれる。
「でも、年をくった男より、女の子の方がいいですねぇ」
 ジェスターを受け流し『睨んだ』先は、ひたすらに癒しの歌を響かせるカルナ。凶悪なる魔力の視線は、身体から活力を根こそぎに奪ったが――それ以上に影響が大きいのは、彼女を棒立ちにさせた、精神への衝撃。
「あ……う……」
「すみませんね、遅れましてございます」
 その前にす、と立つ正道。続いて少女の放った銃弾をまともにその身で受け、苦痛に顔を歪ませる。
「ろくでなし相手に倒れては、何をされるかわかりませんからな」
「いいえっ……!」
 だがカルナは知っている。この親子ほども年の離れた男が、自らの身を削って魔力を注いでくれていることを。
「大丈夫です、必ず、護り抜いてみせます」
 未来を紡いで行く光──その全てを。正道のくたびれた背中に、彼女は強く頷いた。

「外道どもめ、殺しを遊びか芸術と考えておる」
 尊大な態度を崩さない刃紅郎。だが、対するナイフの少年に加えて、艶かしい美女の雷撃までもが彼を襲う。下がる後方など既にない。カルナや瞳の支援を受けてなお、その身は限界を迎えていた。
「度し難い愚者め、王の戦いを見るが良い!」
「もう、だめよ坊や」
 だが、非情なる美姫は杖を掲げた。艶やかな四色の輝きは、マグメイガスだけが自在に操る破壊の光。
「それじゃ、おやすみなさい」
 四本の魔光に貫かれ、ついに膝をつく刃紅郎。だが、その目の光はまだ消えてはいない。そして、諦めぬ戦意にこそ運命は微笑む。
「我は王! 王は退かぬ!」
「それでこそアークの一員だぜ!」
 その姿は、老人の抑えに回った郷の胸にも火をつけた。すまねぇ、だがもう少しだぜ、と呟いて、彼は脚甲の重みを感じさせない小刻みなステップを踏み始める。
「いくぜ! 幻影シュゥゥゥゥト!」
 刻む速度とフェイントの妙。老人の意識の外から放つ鋭い蹴りが、重い衝撃を与える。
「時間稼ぎっていうけどさ――蹴り殺したって構わねぇんだろ?」

●3:40
「み、みんな、おでの歌を聴け~」
 棍棒を振るい続けていた巨人が、突如手を止めてだみ声を響かせた。それは癒しには程遠い騒音だったが、それでも塞がっていくフィクサード達の傷。よりによってこいつかよ、という呻きは誰のものか。
「遅いわよまったく。手をつけた者勝ちの個人戦だからって!」
 拳銃の少女が毒づきながら放つ、こちらは文句なく清浄なる光。絡みついた気の糸が、あっけなく消えていく。もちろんクロスイージスを先に倒さないといけないことはわかっていた。ただ、最後衛の彼女の元までは辿り着けなかったのだ。
(個人戦……?)
 そして、未明が聞きとがめたのは少女の言葉。個人戦。そう、彼らはほとんど連携らしい連携をとっていない。効率を追って攻撃を集めれば、自分達は三分すら耐えられなかったはず。
(義理は果たす? ばらばらに戦うことが? それって……?)
 何かが、かちりと音を立てた。

「ここで始末しておきたいところですが……」
「おいおい、余裕だな旦那ァ」
 青年の爪が正道を襲う。アーマーごと引き裂かれるワイシャツ。防具と篭手さえなければ、どこにでもいる窓際サラリーマンにしか見えない。だが、その眼光はどこまでも鋭かった。
「楽はさせてもらえませんな」
 地味ながらも戦線を支え続ける正道。いままた、刃紅郎のサポートに回った快の代わりに青年を抑える。敵味方乱れ飛ぶ不可視の糸の中、狙い済ました拳の一撃がフィクサードの腹にめり込んだ。
「流石に強いっすね」
 苦しげに、あるいは楽しげに呻く。元より全身が傷だらけのジェスターだが、今日増えた傷は数え切れないほどだ。流れる血よりも赤黒い刃。シンヤの握る血錆のナイフが、嬲るように彼を刻む。一度は力尽き、けれど心まで折れなかったのは、奇跡といってもいいだろう。
「でもまだ、負けないっすよ。だって、こんなに楽しいんすから!」
 意識を脚に集中し――くん、と姿を消す。疲れた身体に鞭打って生み出す、残像を残すほどのスピード。握りこんだ異形のダガーが、抉るようにシンヤや棍棒の巨人を刺していく。
「貰うぞ?」
 気をとられる大男の背を、櫻霞の牙が襲う。生来のものではない白い髪が、大男の肉に埋もれる。彼の美意識が許容するのかは、表情からは判らないが――。
「出来る限りの事をやらせて貰おう」
 強敵であることは彼も判っていた。なりふりは構っていられないのだ。左耳の蒼い光と、これも後天性の両の目の光、三色の輝きが冷たく敵を射る。

 戦いは乱戦と呼ぶに相応しく、回復役を接近戦から守るのが精一杯の状況になっていた。仲間の血によって購う安全。その事実に、カルナは強く唇を噛む。
「私も……っ!」
 自制のたがが外れ、一歩踏み出したカルナ。だが、その瞬間に降り注ぐ、視界を白く灼く稲光。
「っ!?」
「……この我が盾になるとはな」
 黒い影。雷光を、瞳の支援で持ち直した刃紅郎が身体で遮っていた。
「思い上がるな十四位。我は、背中を任せると言ったのだ」
 振り向かない背中が、貴様の出来ることをやれ、と語っている。有翼の少女はつかの間動きを止め――頷いて、再び清らかな歌を紡いだ。
 ――一秒でも、一瞬でも長くこの場を支えてみせましょう。
「大丈夫よ、今のうちに立て直して!」
 隙ありと迫る老人に、未明の大剣が強かな斬撃を見舞った。細い体からは想像できない力で弾き飛ばし、戦場のエアポケットを生む。その間隙を、逆立つ髪の郷が切り裂いた。
「大した願いも持たないで、許さねぇ!」
 狙うはナイフの少年。眼鏡が飛ぶのも気に留めず、郷はインラインスケートで疾走する。その後ろから狙いをつけるアシュレイ。
「宅急便お届けだぜ!」
 止まらない連続攻撃。二度、三度と続く蹴りが少年を打ちのめす。
(……ふん、そうだ)
 人殺しとは楽しいものでなくてはならないのだ。まったくもって羨ましく、憎らしい。高揚する精神。
 劣る実力を自覚していたアシュレイが選んだのは、徹底した連携。そして、またとないチャンスがここにある。
「だから、止めるんだ」
 ホットパンツから伸びる脚ほどには彼女の目に生気はない。その空ろな視線が射るのは、限界を超えたであろう少年。冷徹なる糸が伸びる。胸を貫かれた少年が、ばたりと倒れた。

「はい、そこまでです」

 突如、シンヤの声が響く。集まる視線。十分判ったでしょう、と一人ごちた彼は、肩をすくめて笑ってみせる。
「流石にやられるとは思いませんでした。思ったよりも厄介です――今日のところは帰りますよ。子供は逃げちゃいましたし、何より目的は果たしましたしねぇ」
「なんだと、ふざけ――」
 激高する郷。だが、彼は金縛りにあったように声を止めた。シンヤの雰囲気が、違う。
「――でなければ、今度は『死ぬまで』やりますよ」

 フィクサード達が視界から消えた途端、リベリスタ達は道端に倒れこんだ。身体を包むのは、疲労と、子供達を守りきったという大きな達成感。
 そして、隠し切れない『敵』への危機感だった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 最大の敵であるシンヤがまるきり放置されているなど(ちなみに最弱のプロアデプトの少年の五割増しくらいの強さでした)、問題がなかったわけではありませんが、いろいろとプレイングが噛み合って後押しし、勝利となりました。単純な集中攻撃を採らなかったのは良かったと思います。
 全てを描写したわけではありませんが、サポートの方も渋く活躍していました。敵の前衛ホーリーメイガスと後衛クロスイージスはかなり罠だったのですが、エネミースキャンがクリティカルに決まって残念。とはいえ、特定の誰かを狙うのであれば、狙うための環境づくりも大事ですね。
 ご参加ありがとうございました。楽しんでいただけたら幸いです。