●序 「やめてくれ……」 男は必死で懇願していた。 うつ伏せの状態で、二人がかりに押さえ付けられた彼は動くことも許されない。 次々と目の前で殺されていく、自身の家族。 殺しているのは闘いによって高揚しきったリベリスタ達。 彼は押さえ付けられたまま、必死に足掻いていた。 リベリスタとの戦いで吹き飛ばされた左手、もはや手首から上は残っていない。 最後の一人、最愛の妹も、やがて抵抗しきれずにリベリスタに嬲られるように切り刻まれていく。 「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉっ!!」 ●承前 神奈川県横浜市――西口五番街。 真夜中、シャッターが降りた狭いアーケード内を逃げるように歩くリベリスタ。 身体のあちこちから血を流し、満身創痍といった姿をしている。 彼女は此処でとあるフィクサードと相対し、そして逃げ回っていた。 突然現れ、リベリスタを攻撃して追いかけてきているのは、巨漢の異丈夫。 異質な事に、両手ともその手の平は『右手』だった。 もうひとつの右手を持つ異丈夫の左腕は大きく異質な機械の様な変貌を遂げており、相手がフェイトを持つメタルフレームである事を一目瞭然にしている。 追いかけてきたのに気づいた彼女は、その場から脱出しようと異丈夫に背を向けて駆け出そうとした。 だが、流血がひどく身体が思うように動かない。 ヨタヨタと歩くリベリスタの背後から、どんどん近づいてくる異丈夫。 異丈夫の右手が肩を掴み、踏み込んだもうひとつの右手の一撃は、そのまま彼女の胸を大きく貫いた。 「リベリスタ、死すべし」 言葉と共に手にした肉塊を一気に握り潰す。同時に天を仰ぎ、倒れるリベリスタ。 異丈夫は睨みつける視線を、倒れた相手へと向ける――それは、復讐の狂気に燃える瞳。 ●依頼 緊急事態だと言われて集められたリベリスタに対し、『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000024)が慌てて掻き集めた資料を元に説明を行う。 「今夜、リベリスタが一人フィクサードによって殺されます。場所は横浜駅西口のアーケード街」 倒されるはずのリベリスタはアークに所属する調査員、猫村愛(ねこむら・あい)。 倒すはずのフィクサードはメタルフレームの左腕を持ち、道着に身を包んだ強烈な印象を持つ異丈夫。 「彼は元『剣林』のフィクサード、名を『運命を狩る者』皇天牙(すめらぎ・てんが)といいます」 天牙は元は単なる覇界闘士だったのだが、とある事件をきっかけに組織を離脱して以降、その異名の通り各地でリベリスタを抹殺し続ける様になった。 この異丈夫が持つもうひとつの右手は、『復讐の右手』と呼ばれる危険なアーティファクトだという。 「皆さんは現地に急行し、直ちに天牙を撃退して下さい。それが今回の任務です」 かなり危険な存在である為、まずは撃退して犠牲となる予定だったリベリスタ達を守ることが最優先だと和泉は告げる。 カレイドシステムに映った天牙の瞳は、復讐と憤怒に彩られた光を放っていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月15日(水)21:03 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●決意 横浜駅――西口五番街、アーケード内。 真夜中、シャッターが降りた狭い路地で対峙するリベリスタとフィクサード。 フィクサードは巨漢の異丈夫。異質な事に、両手ともその手の平は『右手』である。 「……リベリスタだな?」 皇天牙(すめらぎ・てんが)は確認する様に尋ねると、機械の左腕の先にあるもうひとつの『右手』をグッと握り締めた。 対する猫村愛(ねこむら・あい)は相手の異様な雰囲気に圧倒されている。 もちろん、相手の顔は今まで一度も見たこともない。 それでも圧倒的なまでの禍々しい闘気を前に、自身と段違いの実力を持った相手だと理解できていた。 天牙は前進し、そのままもうひとつの『右手』を愛へと向ける。 「リベリスタ、死すべし」 だがその一撃を見舞う直前、二人の間に割って入った『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)。 愛を庇うように立ちはだかったリンシードが、視線を天牙に向けたまま愛へと告げる。 「アークです、助けに来ました……早く逃げてください」 突然現れたリンシードの後方からは、次々と新たなリベリスタ達がこちらへ合流しようとしていた。 『華娑原組』華娑原甚之助(BNE003734)は自身の速度を生かし、素早く天牙の背面へと回り込もうとする。 「リベリスタへの憎悪、か。リベリスタってそもそも何だろうな?」 ナイフを抜くと、先制とばかりに鋭い光の飛沫を散らして浴びせかけた。 突然の乱入者にも慌てることなく、僅かに体位を反らしてその直撃から逃れる天牙。 「リベリスタこそ、我が『復讐』の存在」 「世界を救うために妹をも殺した連中、か。木を見て森を見ずたァよく言ったモンだ」 冷静に今の回避から実力を推し量った甚之助が、再びナイフを構え直す。 やや遅れて『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)がリンシードと同じく愛の前に立ち、そのまま天牙の正面からセインディールで刺突を放つ。 「同じ目をした人を視た事がある……その想い、間違ってるとは言いません」 彼女はとても言えないと思っている。それが人というものなのだから。 刺突から飛び散る光のシャワーを天牙は見切って僅かに反らす事で、やはり甚之助の時と同様に直撃を免れている。 再び僅かに反りのある、青みがかった細身の刀身を天牙に向けてリセリアは言葉を繋ぐ。 「けれど、だからこそ……『運命を狩る者』皇天牙。貴方をこのままにしておく訳には――いかない」 天牙は眉間に海溝の様な皺を寄せ、正面へともうひとつの『右手』を繰り出した。 「戯言を」 だが愛へと向けた一撃はリンシードによって庇われ、その攻撃を一身に受けた彼女の虚ろな表情が微かに動く。 本来の自身の防御がまるで無かったかの様に軽々と突き破られ、その身体に直撃したのだ。 「復讐する意味って……なんなんでしょう。妹さんにお願いされたんでしょうか……?」 天牙の無言の返答を見て取り、リンシードは言葉を続ける。 「それは無理ですよね、死人に口無しです……。では、自分の苦しみを他人にぶつけるため……?」 その問いに天牙が答える刹那、後方に滑り込むように入ってきたバイク。 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)はそのままバイクを捨てて前進して、愛の下へと駆け寄った。 「大丈夫ですか?」 間一髪、最速で合流した事で愛の傷は、リンシードが代わりとなって受けている。 それを確認した凛子は、手早く天使の微風を彼女へと送った。 視線をそのまま天牙へと移動した凛子はふと思う。 復讐に憑かれた人は復讐に疲れた時に、死んでしまう運命なのだろうか? と。 だとすれば、とても悲しい事だと彼女は思う。 『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)は天牙たちから大きく距離を置いた後方に位置し、手早く自身の周囲に複数の魔法陣を展開させていく。 「……天牙さんの気持ちが、一切判らないとは言わないよ」 けれども、復讐は人を殺す免罪符になんてならない事を彼女は知っている。 だからこそ、絶対に罪を償わせなきゃいけないとも。 (ノーフェイスになんてさせやしないよ。亡くなった人の為にも、天牙さんの家族の為にも、そして天牙さん自身の為にも……) 『復讐』者として死なせる訳にはいかない。それがウェスティアの出した答えでもあったのだ。 やや遅れて飛び込んだ『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は天牙の真正面に立ち、リンシードとリセリアの更に前へと立ちはだかる。 「リベリスタなら――ここにいるぞ!」 快は手にしていた砂蛇のナイフに一点の曇りもない輝きを放たせ、大きく天牙へと振り下ろした。 鮮烈な一撃を見切ったように身体を僅かに捌き、天牙は正面の男へと視線を集中させる。 「次々と……復讐すべき対象が現れるとは」 「復讐の前に、省みるべき自分があるだろうが……!」 次の天牙の一撃に備え、鋭く言い返した快はそのまま両手を大きく交差させた。 その間隙を縫うようにして、天牙の側面へと姿を現す『蒼き炎』葛木猛(BNE002455)。 「よぉ、随分と荒れてるじゃねぇか、皇天牙さんよぉ──!」 疾風にも負けぬ圧倒的な速力を武器にした猛は、雷撃を纏った武舞を次々と天牙へと繰り出す。 天牙は突然の強襲にも関わらず、冷静に身体を反転させて武舞の直撃を反らしていった。 『復讐』という二文字に縛られる存在は、猛の知己にも確かに存在する。 「復讐なんざ、碌な結末に終わりやしねえ」 だがその果てに待っているのは、空虚な終着点である事は明白なのだ。 「この『復讐』に結末等、ない」 構え直す猛に敢然と言い放つ天牙。それでも猛は言葉を続けていく。 「行場を失った感情をぶつける先を求めて、行きつく所まで行きつくか」 天牙の応答は十分に予期できた内容だったが、この戦闘の終結時までその矜持を保ち続けているかは定かではない。 猛は今回のメンバーがそれを覆すに足る仲間たちであると確信していたからだ。 「さて……お前はどうなんだろうな? 皇天牙よ」 『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)は凛子、ウェスティアと同じ直線軸には並ばないよう、意識して位置取りを行っている。 輝く光のオーラを鎧に変え、天牙と真正面に対峙する快に纏わせた。 復讐を口にする天牙に対し、レイチェルはそれが自己満足にしかならないと強く思っている。 本当に復讐したい相手ではなく、無関係のリベリスタを手にかけ続けた所で自身の心が満たされる事は決してないだろう。 帰結する所、彼の復讐は自身が破滅するまで延々と続くのだ。 だからこそ速攻で事を終わらせなければならない。 フェイトをその『右手』に食い尽くされノーフェイスと化してからではなく、人間のままで。 (そうじゃなきゃ、可哀そうすぎるよ……) 哀れむレイチェルの脇に布陣した『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216) 彼女は脳内にいる兄と書いて恋人と読む存在に語りかけていた。 (お兄ちゃん、死んだらだめだよ? あんな風に私、なっちゃうから) そう告げつつ彼女は二丁拳銃を構えて、正確に天牙の左腕を撃つ。 だが反射神経の塊のような動きで天牙の左手は振り上げられ、弾丸はその場を素通りしていった。 不安げにリベリスタたちを見つめる愛を見つけ、軽く声を発して感心させる。 「久しぶりっ、助けに来たよ!」 「虎美さん!」 知った顔と声に少し安堵の表情を浮かべる愛を見て、小さく頷き返した彼女。 続けて天牙に向けて虎美は挑戦的な言葉を投げかける。 「そんな妹さんみたいにか弱い相手狙うより、力のある私達狙った方がいいんじゃない? じゃないとまた奪うかもしれないよ?」 「……小癪な」 返しつつも、半包囲された状況を冷静に見て取り、天牙は意識をリベリスタたちへと集中させた。 『不屈』神谷要(BNE002861)がこの戦線に加わったのは、これ等のやりとりからやや遅れての事である。 全身のエネルギーを防御に特化させた彼女は、快と並んで立つ事で天牙から愛を守るように視界を完全に遮った。 弟の仇を取りたいという『復讐』心。それは要自身も否定してはいない。 (天牙さんはきっと、私のとり得た道の一つを歩いているのでしょうね……) 彼の行動を間違っている等と言う心算は毛頭なかった。 気持ちを整理するのに必要な行動なのだと、彼女は自身の経験から知っていたからだ。 だがそれは決して赦されざる事に違いはない。 故に、要は短く一言。天牙に告げる。 「――止めてみせます」 それは彼女たちリベリスタ全員の、はっきりとした決意表明でもあった。 ●帰結 既に最初の標的であった愛は、リセリアの手引きによって戦闘圏外にまで脱出させられていた。 追撃を阻むようにして快と要が真正面に立ちはだかり、側面からリンシード、甚之助、猛、そして愛を脱出させたリセリアが取り囲む。 アーケードの壁を背に背面からの攻撃を絶った天牙だったが、流石にこれらの多方面からの攻撃をすべて交わしきるのは不可能だった。 その一方で後方から援護を続けるウェスティアと虎美。 度重なる天牙の強烈な一撃も、凛子とレイチェルの癒しによって未だ均衡を崩せずにいる。 だが対するリベリスタたちも、これだけ圧倒的多数に加えて完璧に優位な戦術状況にも関わらず、未だ天牙へ深い手傷を負わせてはいなかった。 だが人と人とが戦い合う以上、何時かは決着が付くのが自明の理である。 自身の限界まで、雷の武舞を撃ち続ける猛。 「動きは止めない、身体が悲鳴を上げてもこの動きは止めねえ」 立て続けにリベリスタたちの攻撃を回避し続けている天牙だったが、流石にすべてに完全に避けられるほどではない。 僅かながらにせよ、少しずつではあるが手傷を積み重ねていたことも確かだった。 「テメェを殴り切るまでは、この拳を止めてやる訳にはいかねぇ──!」 止まらない連鎖の舞を繰り出す猛に対し、遂に雷の一撃が届いた。 思わず舌打ちをする天牙、そこからリベリスタたちの動きが一斉に加速していく。 レイチェルは立て続けに天牙の攻撃に晒されている前線へ、絶え間なく祈りを重ねて癒しの息吹を送った 悲壮なまでの『復讐』心を持って戦う天牙に対して、どうしても抱かざる得ない感情を止められないでいる。 「復讐したらいい。向かってきたらいい。 あたし達が受け止めるよ。怒りも痛みもいくらだって……」 「……何が、言いたい?」 反応した天牙に対する、レイチェルの短くも感情のこもった解答。 「あたし、あなたを見てると悲しいよ……」 それは彼女を突き動かす素直な感情の吐露だった。 言葉を引き継ぐようにして、拳銃を撃ちながら虎美は静かに問いかける。 「さっき自分のやった事、妹さん殺した相手と同じ事をやってるって気付いてる?」 そう言いながらも、虎美がもし同じ立場になれば、天牙と同様の行動をとってしまうだろう。 それ故に、天牙のように復讐に身を焦がす存在を受け入れている。 ただ彼女は知り合いである愛を、その犠牲にすることは耐えられない故に、彼を止めようとしているのだ。 その正確な射撃は、常に天牙の左脚部を狙い続けている。 いくら相手が直撃を交わし続けていても、少しずつその銃撃が掠めていく事で、足元への不安を少しずつ蓄積させている。 一方、当たらないのを見てとったリンシードは自身の速度を集中して高め、更に集中を置いてからの攻撃へとシフトしていた。 右斜め前の彼女から迸る光の飛沫のすべてを避けることはできない天牙が、その傷に小さな苛立ちを見せる。 その機会を逃さず、リンシードは天牙へと問いかけた。 「いつになったら終わるんでしょう……永遠に続けますか……?」 「終わり等、ない」 「それは死んだ妹さんが許さないでしょうか……?」 続けての問いかけに眉間を寄せる天牙だったが、それをリンシードは無視して言葉を紡いだ。 「でも前にも言ったとおり、死人に口無しです……もはや、それはただの意地のような気がします……」 「知った風な口を!」 リンシードと共に右側面をしっかり抑えている甚之助が、天牙の僅かな動揺を見逃さずに懐深くに斬り込む。 「崩界が起きれば、世に億からいる子供達が、お前の妹とおなじ目に遭う」 結局のところ、天牙の為そうとする事は自身の繰り返しを他の誰かに与える事。 それ以外の何者でもないのだと、彼は暗に伝えていた。 光の飛沫の一撃に対し、壁を蹴って上空へと逃れた天牙だったが、甚之助は更に角度を変えて連続で飛沫を叩き込む。 「……こいつ等がどんな思いで戦ってるか、その曇りがちのお目めひん剥いて見ろや」 リンシードとの問答に僅かに隙を作った天牙が、それに対応しきれずに右肩を深く切り裂かれた。 直後、左斜め前のリセリアは幻影で翻弄しながらの斬撃を狙う。 「何れ貴方は、その怒りも憎しみも……御家族への想いさえも、その『右手』に呑まれて失くしてしまう。 貴方は……そうなる為に『復讐』の拳を揮ってきたのですか?」 「それもいいだろう。どの道倒れるまで殺し合いの連鎖は続く」 反射的に屈んで反らした天牙だったが、見てとったリセリアは淡々と言葉を繋いでいた。 「貴方は優しい人なのでしょうね。その想いの強さ故に、他の道も選べない――」 だからこそ、彼女たちが天牙を止めなくてはならないのだ。 悲しみは繰り返させない為にも。 更にセインディールを振りかぶったリセリアだが、彼女に連続して攻撃を繰り出す速度の余裕はない。 だが天牙は左脚が虎美の度重なる射撃によって、ダメージが蓄積されているのを失念していたのだ。 僅かな反応が、次の回避行動を大きく遅らせてしまう。 ほぼ同時に凛子は要の傷が深いのを見て取り、天使の歌を召喚していた。 「貴男の復讐とは貴男と同じ境遇の人を作ることだったのですか?」 その言葉に対し、反論しかけた言葉を飲み込む天牙。 「復讐を否定はしません。ですが復讐すべきはリベリスタという群像でなく、貴男の妹を殺した人のはず。 それを追わずただ八つ当たりを行っているなら、それを復讐と言わないでください!」 彼女の物言いははっきりと天牙の行為を否定していた。 それは彼の心の水面に、やがて大きな波紋を起こし始めていく。 「ほざくな!」 凛子の鋭い指摘を振り払うように、もうひとつの『右手』で抜き打ちを狙う天牙。 標的となったリンシードは、人形の様な虚ろな瞳のまま、ぽつりと呟く。 「続けますか……あの時の妹さんみたいに、私を嬲るように殺すといいんじゃないんでしょうか……」 ぴくりと反応する天牙の拳にほんの少し躊躇いが加わる。 そのほんの少しの時間が、要にリンシードを庇わせる余裕を作っていた。 「今度こそ……護ってみせます」 一撃が要の防護を簡単に突き破り、その身へと達しても彼女が引くことはない。 かつて弟を助けられず、自分のみ生き残ってしまった事に負い目を感じている要にとって、今回の戦いはもう一人のなるかもしれなかった自身との戦いでもあったからだ。 天牙も要とリンシードの姿に、過去の自分たちを投影する。 本当にそうしたかった自分と、護ると誓ったはずの妹の姿を。 思わず驚愕し、動きが固まる天牙。 かつての光景の向こう側から、真っ直ぐに突進してくる快。 「ならどうして! フィクサードに堕ちた!」 光を纏わせたナイフの痛撃が、もうひとつの『右手』を襲う。 「その強さを己の為でなく誰かの為に向けられたなら、大切な人を守れたかもしれないのに!」 誰かを失ったことがそんなに悲しいなら、それを護るための力にどうして気づかないのか。 本心から快はそう思っていた。 天牙は屈みながら無理に攻撃へと移った事で左足に負担がかかり過ぎ、その一撃を交わすことはできない。 ビシィッ!! という鈍い音がアーケード内に響き、もうひとつの『右手』が大きく裂傷する。 ウェスティアは後方から、今までの推移を見てとっていた。 愛はリセリアによって安全圏まで保護されている。 天牙の前も、大切な仲間――快たちがしっかり抑えてくれていた。 その仲間をしっかりと後方から支えてくれる仲間もいる。 「なら私は仲間を信じて私の出来る最大──攻撃──を為さなきゃ嘘だよね」 彼女は決意したように自身の血を黒き流鎖へと変貌させ、天牙へと大きく放った。 「いけぇ!!」 濁流が彼の周囲を取り囲み、容赦なく身体中の傷口を開かせていく。 同時に、傷ついていたもうひとつの『右手』に対しても、深刻なダメージを刻みつける。 『右手』は物理的な防御には優れてはいたが、神秘に対してそこまでの防御力を要していなかったのだ。 既に快の強烈な一撃によって大きく裂傷していた『右手』が、その黒き鎖により砕かれていく。 それと同時に彼の心を支配していた『復讐』の感情は全て解き放たれ、天牙は思わず左腕を抑えて絶叫した。 彼が天を見上げた先に見えたものは、果たして何であったのだろうか。 そのまま気を失って地に崩れ落ちる姿を見、レイチェルはぽつりと仲間に問いかける。 「ね……人を救う、って何なのかな……」 その解答は、誰からも発せられる事はなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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