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<剣林>剣風帳 ~金剛棍牛頭親分~

●求道武術団『剣風組』
 ――九美上九兵衛、曰。
 ――奥義を継ぐに足る肉体、魂、運命の全てを備えた者にのみ、九美上の技は伝承される。
「つまりワシにこそ九美上の技は相応しいというワケよ」
 牛のような顔、というより牛そのものの頭をした男が、黄金色に光る棍棒でずしんと大地を叩いた。
 鼻息は荒く足元の草を倒し、筋肉に押された軽鎧はぎちぎちと今にも破裂しそうだ。
 彼に酒を酌していた男がパチンと膝を叩く。
「当然でございましょう! 牛頭親分はかの九美上秘奥義がひとつ『勧善勧悪』を習得していらっしゃる!」
「おお、おお。そうだとも。ゆえに――フンッ!」
 片手で棍を投げる牛頭。
 棍は部屋の隅で目を凝らしていた男の額に突き立ち、西瓜のように打ち砕いた。どうやら彼はエネミースキャンをかけようとしていたようだ。
「この技を盗み見ようなどという輩は潰さねばならん。その上で、残る全ての技を我等の手に納めるのだ。さて、一体誰が継承しているやら……おい、表を持て!」
「ヘ、ヘイ親分!」
 料紙を紐止めしたような書物を、小柄な男が運んできた。
 途中で小石につまずいてすっころび、無様に顔を打ちつける。
「うひゃあ!」
「何をしているんだ八兵衛。グズはいつまでたってもグズだな」
 転んで額を切った男(八兵衛と呼ばれた)を軽く蹴り転がすと、本を拾って牛頭へと開いて見せる。
 そこにはリベリスタやフィクサードの道場がずらりと書かれていた。
 いくつか墨汁で塗りつぶした跡があるが……。
「この富船道場は前に潰した。地球割りは良い技だったが伝承者はおらなんだな。それに九美上の技でもない」
 そう言って別の男から筆を受け取ると、道場の名前をべたりと塗りつぶしていく。
「では次は……ふうむ、ここにするか」
 筆の反対側でトントンと叩く。
 そこは、リベリスタの道場であった。

●金剛棍の牛頭親分
「主流七派がひとつ剣林には『剣風組』と言うフィクサード組織があります」
 いくつかの資料を提示しつつ、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はこちらへと振り返った。
「彼等は失われた秘奥義をコンプリートすることを目的としており、その一環として小規模リベリスタ組織の道場を襲う計画を立てているようです」
 剣林と言えば主流七派でも武闘派として有名である。そんな彼らの中でも技と強さに固執した剣風組が如何なる強さを見せるものか、想像するだに恐ろしい。
「この組織は既に別の場所へ避難しています。皆さんは道場内で待ち伏せし、彼らを撃退して下さい」

 まずは牛頭親分。
 彼は『剣風組』の小隊長に当たる存在で、金剛棍という金色の棍棒を自在に操る天下無双のビーストハーフ、だと名乗っている。
 彼は七名程度の部下を従え、道場に乗り込んでくるだろう。
 部下も皆戦闘力の高いフィクサードらしく、そう簡単に破れる戦力ではない。
 小細工は抜きにして、全力で戦わねばならないだろう。
「熾烈な戦いになると思いますが、皆さんならきっと……。どうか、よろしくお願いします」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月22日(金)00:09
八重紅友禅でございます
時は現代神秘の時代。
社会の裏で蔓延る悪と、剣風帳の大一番。
さあ、お手を拝借。

●牛頭親分
だいたい説明の通りです。
冒頭にもありましたが、スキャンされることをえらく嫌がるようです。

部下は七名。(八兵衛は外で車用意する係です。戦力外のパシリです)
彼等もそれぞれ別々の武器を手に襲い掛かってくることでしょう。
割と強い連中なので、へんな搦め手を使うよりは正面切ってぶん殴った方が安全です。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
覇界闘士
テテロ ミーノ(BNE000011)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
プロアデプト
山田 茅根(BNE002977)
覇界闘士
四辻 迷子(BNE003063)
★MVP
覇界闘士
四十九院・究理(BNE003706)
ソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)

●求道武術団『剣風組』の道場破り
 無慙一心流道場。
「頼もう!」
 扉が撃ち破られる。
 ずかずかと土足で踏み込んでくる牛顔のビーストハーフ。
 鼻息も荒く、ふんぞり返って仁王立ちする。
「貴様等、無慙一心流の者達ではないな……何者だ」
「アークなのっ!」
 ずんと仁王立ちして見せる『おかしけいさぽーとじょし!』テテロ ミーノ(BNE000011)。
 テテロは牛頭親分の風圧にも負けずびしりと指を突きつけた。
「きょうは、いじといじのぶつかりあいなのっ! ミーノもいちばんじしんがあることを、するのっ!」
 テテロが戦う気を見せた瞬間、周囲のリベリスタ達の雰囲気が若干変わった気がした。
「『九美上の技』……と言ったかの。心当たりはないが、有名かのか?」
 長い煙管をカツンと灰壺へ叩き込む『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)。ぶわりと煙が浮き上がる。
 それまで体育座りしていた山田 茅根(BNE002977)がゆっくりと片足を伸ばす。
「技を見て覚えるなんてよくあることだから、いいとは思うけど……力尽くで奪おうとするのは問題だよね。殺し合いの技を殺し合いで覚えるのは理にかなってるかもしれないけど?」
「フン、貴様等には関係の無い話よ」
 咳払いでもするように鼻から荒息を吐く牛頭親分。
 部下の武術家達が斜め前を固めるようにずずいと前へ出た。
「ええい貴様等頭が高いぞ、ここにおられるのはかの九美上が九奥義『勧善勧悪』を正式継承した牛頭親分様にあらせられるぞ!」
「そこまで誇示しておいて、でも技を覗かれたくないと」
 胸の前で緩く腕を組む『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)に、胸を張って威張ろうとしていた牛頭親分は額に血管を浮かせた。
「なんだと小娘」
「本気で秘匿したいなら山にでも篭っていればいいんです。自己顕示欲の塊みたいな男」
「そう……強さを求める気持ちは分かるけど、力が強ければいいわけじゃない」
 『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が刀の柄に手をかける。
「姉さんから教わったんだよ、これも」
 ビリビリとしたプレッシャーがぶつかり合い、剣風組とアークリベリスタ達の間で見えない火花を散らし始めた。
 そんな中。
「おぉい、その前置きはまだ続くのかよ……なあ、なあ」
 壁に寄りかかっていた『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)がどろんとした目で牛頭親分の方を見た。
「何でもいいんだよ、殴らせろよ……フィクサードよぉ」
「そーそ、所属とかいいから、目一杯やりあおうぜ!!」
 トンファーをがちがちぶつける『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)。
「その下品な棒きれぶち折ってやんよ」
「この金剛棍をか……フン、小僧のくせに生意気な」
 金ぴかの棍棒をズドンと床に突き立てる牛頭親分。
「剣風組の力を見せてやるがいい。やれい、野郎共!」
「「応!!」」
 一斉に飛び出す剣風組の武術家たち。
「むかえうつの、とつげきかいしっ!」
 翼の加護を展開しつつ、針を指揮棒のように振りかざすテテロ。
 武将を追い抜く武士達の如く、リベリスタたちは剣風組を迎え撃ったのだった。

●武術家の意地
「テメェがクソみたいな理由でやりたい放題やってる豚かぁぁぁ!」
 火車のパンチが武術家の顔面に命中。
 転倒する武術家だが、跳ねかえって火車の顎を強烈に蹴り上げた。
 のけぞる火車。
「何だ、ああ!? テメェらのいう強さってのは」
「決まっている、万人がひれ伏す――」
「ああ居る居る!」
 火車は相手の脚をふん掴み、乱暴にぶん回した。
 壁に激突する武術家。
 更に首に掴みかかると、火車は拳を振り上げた。
「テメェの器に収まりきらないデケェもんに振り回されて喜ぶクソがぁ!」
 拳炸裂。
 武術家の頭が道場の壁にめり込んだ。
「ひゅー、やってるー」
 一方、夏栖斗は口笛でも吹きそうな気軽さで敵の三節根を撃ち払う。
「細かいのはいいんだよ、裏世界に蔓延る悪はぶち倒さないとな!」
 言ってる内に背後から青龍刀を構えた武術家が飛び込んでくる。
 それもトンファーで打ち払う。
 反動を受けて若干仰け反った武術家たちを前に急に身を屈める夏栖斗。
 両腕に焔を灯して振り上げた。
「じゃまだあああぁ!」
 アッパーカットで繰り出された棍が武術家二人の顎や胸に激突。
 類焼して転がる。
「今日の僕は好戦的だからな、近づいたらそのまま焼いちゃうから気を付けとけよ!」
「調子に乗るなよ小僧!」
 独鈷杵を両手に握った男が勢いをつけて突撃してくる。
 そこへ割り込んだのは彩花だった。
「退けい女!」
「退く? こうですか」
 彩花は相手の前足を蹴り退けると、そのまま相手の肘の付け根をぐるんと捻った。
 横反転して頭から地面に叩きつけられる男。
 腕を捻じり上げて腰を踏む彩花。
「それで、その後はどうします」
「貴様を血祭りにあげてやるのよ、挟みこめ!」
「応よ!」
 左右から覆いこむように飛び掛ってくる武術家たち。
 彩花は片手で髪を払うと、その手に紫電を纏わせた。
 無言で一閃。
 周囲に放たれた電撃に武術家たちはビクンと痙攣した。
「ぐああっ、貴様等、貴様等ぁ……女のくせにぃ!」
「了見の狭い奴じゃ。名乗っておくか、四辻迷子じゃ。奥義とやらに興味はないが、遊ばせてもらうぞ」
 ひらりと音がしたかと思えば、男の背後に迷子の姿があった。
 肩に手刀を叩き込まれる。男は斜め回転して地面に背中から激突。更に、晒した腹に迷子の踵がどすんと撃ちこまれた。
 内容物を吐瀉しかけて口を覆う男。
 迷子はその口の上から煙管をガツンと叩き落とした。
「なんて強さだ……これがアーク!」
 仲間の戦いを横目に、しなりの効いた木棒を振り回す武術家。
 その周囲をセラフィーナと茅根がひらひらと舞っていた。
 舞っていた、という表現で間違いなかろう。
「私はかつて姉に追いつく為強さを求めました、けど今は違う。あなたに負けてあげるわけには行きません。本当の強さを見せるためにも」
 ひゅんひゅんと風を鳴かすが如く武術家の周囲で目まぐるしく動くセラフィーナ。幾度も攻撃を浴びせようとしても、彼女は全て紙一重で避けてしまうのだ。もとより高い回避性能に咥えてテテロの強力な支援がついている。並の相手ではセラフィーナに触れることすら適うまい。
 幾度めかの攻撃が空を切った頃、茅根がにこにこしながら男の頭に影を落とした。
「じゃ、そろそろおしまいにしましょうね?」
 気糸が男の首に絡みつく。
 反射的に指をかけようとしたが、それよりも早く彼の両手首を糸が固定していた。
「周りを飛び交われてイライラしたでしょう? こういう戦い方、素敵でしょう? あなたたちみたいな人には、本当に効果絶大なんですよ」
 きゅっと指を引く。
 すると男の手や首筋に何本も輪状の裂傷が走り、大量の血を吹いて気絶した。
「『小賢しい』って、良い言葉だと思いません? あ、聞こえてませんか」
 茅根は白目をむいた男の顔を覗き込んで、にっこりと笑った。

「っ……っとお」
 ここで、一人の少女について述べておく。
 『じゃじゃ虎ムスメ』四十九院・究理(BNE003706)。覇界闘士、レベル9。今このメンバーの中で、彼女ほど脆弱な者は無い。
 しかし。
「私が目指すのは猛虎だ。猛虎になる」
 究理は目の前にぽっかりと空いた人垣の穴を見た。
 夏栖斗や彩花たちが武術家たちとぶつかり合うなか、今まさに牛頭親分への道が開けていた。彼らが、弱い究理を無視しているのだ。
 それが究理は我慢ならない。
「――ナメるな!」
 床板を踏み抜かんばかりに蹴って突撃。
 究理は一直線に牛頭親分にぶつかった。
 ぶつかった、という表現は相応しくない。
 なぜなら攻撃する直前に顔面を棍棒で突かれたからだ。
 頭蓋骨が砕けたのかと思う程の衝撃が走る。もはや衝突事故だ。
「フン、威勢だけの雑魚めが。俺様の相手をするのは百年早い。夜伽役にも不十分だ。帰って寝ておれ」
「……るな」
 ぴくりと牛頭親分の鼻が動く。
「ナメるなあ!」
 顔面に埋まった棍棒を片手で掴むと、究理は全力で牛頭親分めがけて棍を叩き込んだ。しかし微動だにもさせていない。
「今の私は止められない、それが誰であろうと」
「フン、そんな寝言は実力をつけてから言うのだな。世は力。力無い貴様に発言権などないわ」
 究理の首を掴み上げて地面に叩きつける。体力が一気に底をついた。フェイを削って堪える。
「倒れない、斃れるものか……私はもっと、もっと……!」
 地面に手をついて起き上がろうとする。
 その頭を牛頭親分は思い切り踏みつけた。
「がぁっ!」
 顔半分が床板に埋まり、更に背中を貫かんばかりに根を突き下ろされた。
 脊髄をへし折られたか。人間なら死んでいた。
「雑魚のくせに粘りおったな」
 究理の足首を掴んで放り上げると、金剛棍でもって思い切り打った。吹き飛び、壁に叩きつけられる究理。
 ごろんと床に転がり、力なく四肢を投げ出した。
「あっ、キューリ! てンめぇ……!」
 部下の武術家たちを蹴り倒し、夏栖斗が牛頭親分へ突撃する。
 左右を固めるように迷子と火車も後に続く。
「早い者勝ちじゃ、やらせてもらうぞ。お主は強いのか。剣八よりも、士郎よりも上か?」
「無論!」
 振り下ろした迷子の煙管を根の先端で弾いてみせる牛頭親分。
「実力は確か、か」
「だからどうしたぁ!」
 炎をあげて飛び掛る火車。
 三方向から囲うように夏栖斗も飛び掛る。
 しかし――。
「甘いわ小僧ォ!」
 牛頭親分は黄金棍を高速で振り回す。
 激しい烈風が巻き起こり、夏栖斗達は地面にばたばたと転がった。
「しまっ……戦鬼烈風陣……」
「だいじょーぶ、いまかいふくするの! ぶれいくひゃー!」
 針をぶんと振り回し、テテロが三人の回復にかかる。
「あの小娘は邪魔だな。血祭りにあげてくれる」
「できるものならやっててろみーのなの!」
「それ誰の入れ知恵!?」
 がばっと顔を上げる夏栖斗。
 その上を飛び越えて彩花が牛頭親分へと向かい合った。
「『勧善勧悪』でしたっけ、そのチンケな技……受けて差し上げます。ご安心ください? 分析も解析もしませんから」
「フン、その手には乗るか」
 牛頭親分が突撃してくる。
 巨体からは想像もできない素早さと身こなしである。真っ直ぐに突き出された棍棒をギリギリでかわし、彩花は魔氷拳を叩き込む。
 胸に命中。氷が広がるが……。
「投げの姿勢からフェイントをかけるか小賢しい……だが、フンッ」
 胸に気合一発。装甲を内側から弾かんばかりに盛り上がった肉体が氷を跳ね除けてしまった。
「このワシに小細工は通用せん!」
 いつのまにか背後にぴったりついていた茅根が糸を牛頭親分の手首に絡めていたが、それを無理やり引きちぎって棍棒を振り回した。
 一瞬で薙ぎ倒される二人。
 そこへセラフィーナが立ち塞がり素早く抜刀。アル・シャンパーニュを繰り出した。
「させませんっ」
「高速型か。邪魔だ」
 金剛棍を扇風機のように回転させ、高速連突が悉く弾く。
「体力勝負なら。いや……全てにおいてワシが上なのだ!」
 スタミナが切れかけ、隙の生まれたセラフィーナの腹に蹴りを叩き込む牛頭親分。
「死ねい!」
 トドメをさそうと棍棒を振り込む牛頭親分。
 だが棍がセラフィーナに届かんとしたその刹那、夏栖斗と火車が間に割り込んでいた。
 二人はトンファーを前面に翳して棍を受け止める。
「お前の姉ちゃんには命助けられたからな。守られるのはすきじゃないかもだけど……」
「あぁ? お前だけじゃねえよ世話ンなってんのは。俺の身体くらい張らせろや」
「……あ」
 セラフィーナは上半身を起こして彼らの背中を見た。
 これが、姉の『強さ』か。
 死して尚消えぬ『力』か。
 ……しかし、相手は金剛棍の牛頭親分。じりじりと二人は押され、踵が徐々に下がって行く。
「どうしたどうした、貴様等の言う『身体を張る』とは目の前でへし折れる芸のことを言うのか? ン?」
「かずとん、くわっしゃん、がんばって!」
 鼻息を荒くして笑う牛頭親分。
 脚をたんたん鳴らして応援するテテロ。
 だが二人の男が文字通り折れるのは時間の問題だった。

 そんな時、牛頭親分の両目が大きく開かれた。
 
「ばかな……そんなわけがない……」
 はっとして目を見る二人。
 彼の眼球には、壁際でむっくりと起き上がる少女の姿が映っていた。
 思わず振り返るテテロ。
 彼女は小さく唇を開いて呟いた。
「……すごい」
「そんなこと、ないよ」
 頭からは血を流し、癖のある茶髪はどろどろになって頬や肩に張り付いている。
 お世辞にも美人の様相ではなかったが。
 少女、四十九院・究理は世にも美しく立ち上がった。
「嘘だ、立てるわけがない。この手でトドメを刺した筈」
 にやりと笑う火車。夏栖斗と協力して牛頭親分を蹴飛ばした。
「あぁ? 舐めんな、『百人に九人できること』だぞ。今日のあいつがその九人だっただけだ。奇跡でもなんでもねえよ、強いて言うなら――」
「根性だ!」
 ずだん、と床を踏み砕かん勢いで飛び上がる究理。
 否、床板は激しく粉砕されていた。
 天井すれすれまで飛び上がり、飛び過ぎて若干身体をそらして棍棒を振り上げる。天井を擦って火花が散る。
「この手で破る、牛頭親分!」
「く、来るな!」
 力任せに金剛棍を振り込む牛頭親分。
 究理の持つ『ただの棍棒』が激突し、凄まじい衝撃波を生んだ。
 ばりばりと空気が振動し、牛頭親分は思わず歯を食いしばる。
 そして、金剛棍から思い切りメッキが剥がれ飛んだ。
 顔を起こした茅根が世にも残念そうな顔で呟いた。
「あれ……うわあ、鉄だよ。鉄棍棒にメッキ塗って金剛棍とか名乗ってたんだこの人……うわあ……」
「なっ、き、貴様……貴様貴様貴様……!」
 鼻息を極限まで荒くし、血管が切れん程に浮かせる牛頭親分。
「ワシは最強だ、剣風組最強の武術家、金剛棍の牛頭親分! 今証拠を見せてやる――かかかかっか、『勧善勧悪』!」
 強烈に繰り出される棍の一撃。
 究理の頭に激突し、今度こそ彼女を昏倒させる。
「ははははは! ははっ! やってやったぞ、これぞワシが最強である証、九美上九兵衛が遺した九奥義がひとつ……」
「いや、今の集中したデッドオアアライブなんだけど」
「………………」
「………………」
 茅根がぽんぽんと肩を叩いた。
 にっこり笑って。
「う・そ・つ・きっ」
 牛頭親分の全身に気糸が絡みつく。
 びしりと動きをとめられる。
 更に、横から回り込んできた彩花の魔氷拳が頬に思い切り叩き込まれる。
「実戦は演武とは別物なの、ご存じだったかしら。次から奥義自慢は演武で済ませて下さいね。……あ、奥義じゃなかったかしら?」
「ぐぬ――!」
 怒りに震える牛頭親分。
 そんな彼に夏栖斗と火車が殴りかかる。
「要するにテメェらの強さは借りモンの偽モンってことだなおいィ!」
「その棍同様メッキが剥がれたワケだ! ぶち折る!」
 拳を構える火車と夏栖斗。
「本物を見せてやる、コレが『オレ等』の――」
 火車の業炎撃と夏栖斗の虚空が交わり、牛頭親分の棍をへし折った。鎧に十字のヒビが走る。
「がっかりさせてくれたな、牛頭親分。もう用はないわ」
 迷子の業炎撃がそのヒビに炸裂。鎧を砕き、牛頭親分は思い切り吐血した。
 それどころでは済まず、床に吐瀉物をまき散らす。
「そんなばかな、ワシが、このワシが、金剛棍の……」
「せらふぃーなちゃんいまなの!」
「はい、みせてあげます。私の奥義!」
 それまでじっと集中を重ねていたセラフィーナが牛頭親分へ突撃。
「セブンスレイ・シャンパーニュ!」
 凄まじい練度で繰り出されたアル・シャンパーニュが牛頭親分を滅多突きにし、ついには立ったまま気絶させてしまった。
 パチンと刀を収めるセラフィーナ。
「誰かを守るための、力……」

●八兵衛という男
「アッ、親分負けちまったんですかい!? あちゃあ、やっぱり偽物だったんだなァ、あの奥義……」
 扉からひょこっと顔を覗かせる男。事前に報告のあった八兵衛という使いッパシリである。
「『勧善勧悪』は『不殺(ころさず)の変幻自在超打撃』……ナンバーズでもない牛頭親分が持ってるわけがなかったかァ」
 ぺちぺちと自分の額を叩く八兵衛。
 ふと、夏栖斗や火車の方を見た。
「あのー、親分たち連れて帰ってもいいすかね。そちらの怪我人さんにも手出ししないんで」
「ええと……」
「どうぞ」
 そっけなく言う彩花。
 ちらりと見やると、迷子がじっと腕組みをしたまま黙っていた。
 彩花は続ける。
「どうせ組に帰ってもお払い箱にされるでしょう。嘘偽りの達人なんて」
「うへえ、その通りす。参った参った、あっしも職にあぶれちまいますよ」
 茅根とセラフィーナは究理を看病しつつ、黙って剣風組の武術家たちを運ぶ彼を見た。
 ワゴン車に全員重ねるように積み込み、ばたんと扉を閉める八兵衛。
「アッ、じゃあ失礼しますんで。どうも!」
 やがて、エンジン音が遠ざかっていく。
 振り返るテテロ。
「いいの?」
「ああ……」
 自分の拳をじっと見つめていた火車が、横目で迷子を見た。
「やったのか?」
「ああ、スキャンはした」
 頷く迷子。
「だが、読めなかった」
「はあ?」
 目を細める迷子。
 読めない代わりに、どこか懐かしい感覚があったのだ。
「路六剣八……『土俵合わせ』」
 そうして迷子は、目をつぶった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
魂の輝き故に、究理さんにMVPを差し上げます。