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<逆凪>風紀委員会 ~秩序の鉄槌~

●正義と秩序の名のもとに
 眼鏡をかけた少女が街を歩いていた。
 黒髪の三つ編み。
 前髪は直線。
 優等生じみた恰好とは不似合いに、歩く街はとても汚れていた。
 ゴミと小さな虫が地面に転がり、道端には血色の悪い男がニヤニヤしながら座り込んでいるような……正にジャパンスラムと呼ぶべき闇通りである。
 そんな場所を歩いていれば当然……。
「なあ、待てよ」
 肩をぽんと掴まれた。
 たちまちどこからかわき出した男達が前後左右を取り囲む。
 腕から覗くタトゥーの後。手首の乱雑な注射跡から、彼等がマトモな人間でないことは見て取れた。
「こんなとこ歩いてちゃ危ないぜ?」
「安全な所まで送ってやるからさ」
「そこの車乗れよ、な?」
 拒否権などなく、まるで小動物を楽に狩るかのように背中を押した。
「ほら、歩けよ」
「…………」
 けれど、少女は無言で前を向いたままなのだ。
「あァ? 耳聞こえてんのか?」
 顎をつまむように持ち上げる。
 強制的に目を合わせてやれば大抵の小娘は怯む。そうやって言うことを聞かせてきた。
 今回も同じように目を合わせて……そして男は硬直した。
 男の両目に、少女の顔が映る。
 彼女の小さな唇がゆっくりと開いた。
「汚い目。相手を蔑んだり、見下したりする目ね。悲しいことだわ」
 澄んだ目をした少女だった。
 どこまでも曇りなく。
 そして真っ直ぐだった。
 本当に悲しいのだと言う風に目を細め、自分の肩に置かれていた手に触れる。
 直後、男は急激に反転。頭部をアスファルトに強打して身悶えた。
「ウ、ウグァ……!」
「てめえ何してん――」
 別の男達が掴みかかる。
 だがそれより早く相手の足を軽く蹴り、少女は涼しい顔で投げ落とした。
 頭を打つ者。肩を外された者。容態はそれぞれ違うが、皆戦意を失ってよろよろと道の端へと逃げようとしていた。
 それまで硬直していた男がようやく我に返り、じりじりと後ずさる。
 懐からナイフを取り出して脅そうとして……ふと、気づいた。
 少女が眼鏡を中指で押し、とても冷たい目に変わったのを。
 そして、男達は既に何者かに取り囲まれているということに。
 小さな唇がゆっくりと開く。
「freeze(動かないでね)――貴方達には麻薬常習犯並びに昨今連続している少女誘拐及び暴行の容疑がかかっています。証拠は今、押さえました」
 掌を振る少女。
「……な」
 男は周囲を見回す。
 ヘルメットと戦闘服に身を包んだ十数人の男達が、銃を構えて油断なく囲んでいる。
 抵抗すれば殺される。
 チンピラ風情にすら分かる程、明確な殺気がいたる所から突きつけられていた。
 玉の汗を流し、ナイフを捨てる男。
「わ、悪かった。出頭するよ。はは……」
「出頭ォ?」
 少女の形良い眉が大きく、左右非対称に歪んだ。
「この街の風紀を乱す者は誰であろうと赦しはしません。たとえ神でも悪魔でも、正義のもとに銃殺刑」
 片手を高く掲げる。
 パチン、と指が鳴った。
 風の音。
 蟲の声。
 遠くをよぎる飛行機の音。
「条霊執行」
 全ての音は、銃声の中に消えた。

●超違法規的治安組織『風紀委員会』
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が並べたのは数枚の望遠写真と報告書のみであった。
 風紀・四条。
 主流七派がひとつ逆凪に所属するチームであり、千葉市蘇我エリアを中心に治安活動を行っている『風紀委員会』のリーダーとされる人物である。
 外見的には大人しそうな少女なのだが、屈強な逆凪の兵隊を大量に抱えており、スリや万引きといった軽犯罪から麻薬密売や違法工事といった重犯罪に至るまでをサイレントメモリーや千里眼といった神秘調査で厳しく取り締まり、独自に私刑を与えている。
 対象はフィクサード犯罪者が大半だが、中には(冒頭にある通り)一般人も多く含まれている。
「犯罪は決して許されることではありません。ですが、だからと言って法を越えてまで殺す必要はない筈です。なので今回は、一般人犯罪者のグループが係るこの事件を止めて下さい」
 『この事件』とは冒頭で紹介した麻薬密売チームの事件である。
 これは未来に起こる筈の出来事で、執行前に割り込めれば一般人を死亡させずに済む。
 逆に言えば、このまま放って置けば確実に死亡すると言うことである。
「細かい判断や方針は皆さんに任せます。どうか、宜しくお願いします」
 少女の写真。
 それは、望遠であるにも関わらずカメラに視線を合わせていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月23日(土)23:34
 八重紅友禅でございます
 『お前の正義は間違っている』『おまえのやっていることは悪党と一緒だ』
 そんな言葉は長い歴史の中常に言い合ってきたことで、何を今更と言う話なのかもしれません。
 一番大事なのは、今あなたが何をしたいのか、なのです。

●風紀四条と『風紀委員会』
 詳細な戦闘力は不明のフィクサードです。逆凪フィクサードなことは間違いありません。多分かなり強力です。
 十数人の部下を従えており、彼らはクリス・ベクターSMGという威力の高いサブマシンガンを装備しています。ですが個体戦力はとても低いでしょう。
 四条は逆凪という兵力の潤沢な組織に属している割にはかなり地道な性格であるらしく、多少チームに被害が出たり、このまま戦闘すれば多大な被害を蒙るだろうと判断した場合あっさり引きます。
 何にせよ、実力を示してやるのが一番ということですね。

●想定戦場
 裏路地
 さほど背の高くない建物に挟まれた裏路地です。
 最近はチンピラの巣窟になっていて、安価なドラッグをさばく若い売人がフラフラしているスポットでもあるようです。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
安西 郷(BNE002360)
ナイトクリーク
宮部・香夏子(BNE003035)
★MVP
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ダークナイト
高橋 禅次郎(BNE003527)
ダークナイト
鋼・剛毅(BNE003594)
レイザータクト
恋宮寺 ゐろは(BNE003809)
ダークナイト
御堂・霧也(BNE003822)

●善と悪は戦わない。正義と悪は戦えど、善意はいつも歴史に弾かれている。
 例の場面である。
 ケチなドラッグ売人たちが大量の風紀委員会メンバーに囲まれクリス・ベクターSMGを一斉に向けられていた。
 威力と連射性に優れた銃である。こんなものを全方位から向けられてマトモでいられるような人間は居ない。
 風紀四条がゆっくりと手を上げ、指を擦り合わせようとした、その時。
 バスン、と銃弾が四条の腕と頭の間を通り抜けた。
 長い髪が風圧に舞い上がる。
 次の瞬間、エンジン音を嘶かせ二台のバイクが飛び込んできた。
 売人と風紀員会の間に割り込むようにブレーキ。車体をスライドさせギリギリで止めると、『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)と『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)がそれぞれ銃剣と大剣を敵陣に向けた。
「フィクサード同士で潰し合うならいい、だが一般人相手なら別だ。いくらクズでも問答無用ってのはやり過ぎだな。ま、正義なんてのは主観に過ぎないわけで?」
「正義の対極にあるのは他人の正義。力なき正義は無力、力こそ正義……ならば、ぶつかり合うまで」
 言い終わるのを待たずに、風紀委員会の一人がザッと足を前に出した。
「貴様、リベリスタか! 邪魔をすると言うなら――ぐわっ!!」
 前のめりに転がる。
 他の者が不思議そうに彼を見やったが、そうした者もまた同じように前のめりに転がった。
 背中を切られてだ。
「正義……へえ、正義、いいですなぁ」
 しわがれた声と草鞋の音が混じり、ゆっくりと近づいてくる。
「この声……一条玄弥!?」
 SMGを構えた一人がはっとして振り返った。
 そこにいたのは、確かに『√3』一条・玄弥(BNE003422)である。
「やりすぎるからこそ正義。蹂躙して辱めて正義。踏みにじって正義。総べるからこそ正義。力なき正義はゴミでさぁな」
「貴様ッ……!」
 制御の効かなくなった男が玄弥に発砲。
 しかし銃弾は彼から昇る黒い煙に巻かれて消えた。
 煙草を消しもせずに道端に捨て、玄弥は手の中の小銭をじゃらじゃらと鳴らした。
「ほな、正義はゴミ箱にすてまひょか」
 玄弥から漏れだした暗黒が風紀委員会へ襲い掛かる。
 半狂乱になった男達が玄弥めがけて銃を乱射しようとするが、それは途中で割り込んだ『断魔剣』御堂・霧也(BNE003822)によって悉く弾かれてしまった。
 一般人を血煙に変える程の銃撃ではあったが、霧也の剣を前にしてはコンクリート壁に豆鉄砲を打つかのごとき無力。
「正義正義と言うは易しってなもんだ……そんな簡単なモンじゃねーよ正義ってのは。だから俺は、正義って言葉は嫌いだ」
 綺麗に組まれていた円陣も今や崩れている。その穴を突っ切って霧也は怯えて丸くなった売人たちを背後にやった。
「犯罪は許せねーけど、何でも俺らが裁いていいってもんじゃねえ。この場は俺たちが預かってやるから、出頭すんのを勧めるぜ」
「わ、悪ぃな……!」
 へらへらと笑いながら逃げ去っていく売人たち。
 どこか特徴的な青いニット帽の男だったが、そんな彼は逃げ去る途中で襟首を掴みとられた。
「うお!?」
 掴まれたことに驚いたのではない。
 掴んだ相手がびっくりするほど奇抜な白ロリータに身を包んでいたからである。その上中身は色黒の女子高生なのだ。
「なんだよっ、薬なら後にしろ!」
「ちがくて」
 ぎろりと男を睨みつける『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)。
「死にたくなかったらサツ言って全部喋ってきな」
「え、誰がンな馬鹿なこと……」
「ASAP!」
 男の尻を蹴飛ばすと、ゐろはは腕組みして不機嫌そうに顎を上げた。
 そろそろと建物の陰から出てくる『第27話:サボってました』宮部・香夏子(BNE003035)。
「あれ? なんか反応変じゃないです?」
「んー、一応魔眼使ったんだけど……一般人じゃなかったかな、ステルスしてたかも」
「あからさまに怪しいけど、追ってる時間はない的な、あのーそれでー」
 シリアスなことを言おうとして失敗する香夏子。
 そうしていると、風紀委員会の男達が一斉に発砲してきた。
 敵とみなされたのだろう。今更ではあるが。
「貴様等、我々の正義を愚弄する気か!」
「鉄槌を――」
「うるさいな、もう」
 パンッ、という破裂音と共に男の額に穴が開いた。
 仰向けに倒れる男。
 煙の向こうから『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が銃をリロードしながら歩いてくる。
「正義なんてまじめに考えたことないけど、子供を殺したことはあるよ。たぶん、あの時の感じがそうなんだろう。いつもそんなこと考えてたら、私みたいに悩んだりしないんだろうね。強いんだろうね」
 途中から駆け足に変わり、別の男へ照準。
「だから、その強さを押し付ける」
 破裂音。
 額を咲かせて倒れる男。
 その上を駿馬のように飛び越えていく『愛の宅急便』安西 郷(BNE002360)。
 鋭い蹴りで別の男を蹴り倒すと、地面をかるく回転しながらブレーキをかけた。
「お仕事御苦労さん、お嬢さん。さがチョットやりすぎだ。こーゆーのは一般人同士でやるべきだろ。気持ち良い、まっすぐな目してるのにもったいねぇなあ」
 郷は男達のずっと向こうにいる、風紀四条の顔を見た。

 ここまで、風紀四条は一言も言葉を発しなかった。
 腕を緩く組んだまま、リベリスタ達の言い分を聞いていた。風紀委員会のメンバーが暴走して陣形を乱している様も、黙って見ていた。
 喧嘩を始める子供を、ギリギリの所まで見守ってやる親のような目だった。
 なんとなく察する。
 彼等は独善的ではあるが、少なくとも正義を信仰しているのだ。
 だが個体が無力であるがゆえ、社会に何もできずに歯噛みしている。そんな連中だ。
 風紀四条はそれを群集という力でまとめ、彼等を消化させているの……かも、しれない。
 群衆による私刑。それが風紀委員会の本質か。
「本当、もったいねえな」
 郷は自分に向いた銃口を敵の身体を盾にして防ぐと、相手に身体ごと押し付けて蹴飛ばした。
 三方向から銃口が向く。さすがにかわせないかと思っていると、その内の一人が首から血を吹いて倒れた。
 背後に回っていた涼子が切り落としたのだ。
 どちらを狙えばいいか迷った残り二人を、キックと銃撃でそれぞれ倒す。
 ちらりと別の仲間の様子を伺う。
 剛毅が巨大な剣を構えて周囲を見回していた。
 数人の男がぴったり囲んでいる。
「やむをえん……疾風怒濤フルメタルカイザー発進!」
 剛毅から無数の暗黒が立ち昇る。一斉射撃をある程度耐えると、手元の大剣に暗黒を纏わせ更に巨大な剣に変えた。
「闇に飲まれよ、ダークネスセイヴァー!」
 自分ごと巻き込んで剣をぐるんと回転させる。
 自身へのダメージもあった、それ以上に男達は脆かった。
 ばたばたと倒れていく。
 が、それは剛毅の力だけというわけではなかった。
「お……っと」
 次々倒れる男のラスト一人に、背後からハイキックを入れたゐろはがいた。
 どうやら一人一人にバックアタックをかけていたらしい。
「ったく、風紀とか言ってていよく弱い者イジメしてるだけじゃない?」
「そういうものよ。群衆の本質は『弱い者イジメ』にある」
 それまで黙って見ていた四条が漸く口を開いた。
「分かる? 元は彼等も弱者側。そして今あなたたちにもてあそぶように蹴散らされてる。力こそ正義とは良く言ったものだわ。でもね、だから、私がいるの」
「ええっと、シリアスな所すみませんけどカレーの風紀は香夏子が守ります! 風紀の意味わからないですけど!」
 うりゃーと言ってグリモアールで殴りかかる香夏子。
 それ自体はさらりとかわされたが、香夏子はその瞬間にはもう全身のエネルギーを解放していた。
 戦場全体を香夏子のエネルギーが乱れ飛び、男達を蹂躙していく。
「どうですかっ、香夏子はカレーの為ならたまには働きます。カレーの風紀は香夏子にまかせてですね、ここは引いた方が……あのえっとあれです、とくさつですよ?」
「得策ね」
「それです!」
 右手で髪をいじる四条。
 香夏子の攻撃は当たっている筈なのだが、ろくなダメージになっていない。と言うより、気にしていない様子だった。
「でも彼らは収まらないようだから。仕方ないわね……」
 右手を掲げる。
 そして指をパチンと鳴らした。
「『条霊執行』」
 途端。
 風紀委員会の男達が顔色を変えた。
 否、目の色を変えたと言った方が正しいかもしれない。
 実際に瞳孔を赤く光らせ、それまでどこにそんな力があったのかと言う怪力で香夏子を殴り飛ばしたのだ。
「えっ、わうっ!?」
 地面をてんてんと跳ねて転がる香夏子。
 まるでお手玉でもされるように男達に蹂躙された。
「指揮スキル……なるほどね、『風紀』の『四条』ってわけ」
 四条に向けて皮肉げに呟き、ヘッドショットを狙ってみる。
 しかし銃弾は片手でキャッチされていた。
「ネックは本人か。ハッ、単純だな。女神さま気取りか!」
 銃剣を近接用に構えると、禅次郎は四条へと突撃した。
 間に風紀委員会の男達が割り込んでくる。
 先刻随分な数を倒したはずだが、どこからかわらわらと沸いて出て来るのか一向に数が減る気がしない。
 禅次郎は状況を読みつつ挑発を続けた。
「街をきれいにしたければゴミ拾いでもしたらどうだ。案外犯罪が減るかもしれないぞ」
「してるわよ。週に二回」
「お利口さんなこって!」
 間に割り込んだ男達に暗黒をショット。だがこれまでのように簡単に倒れてはくれない。力強さもあるが、固さもまた上がっているのだ。
「恐怖によって保たれる秩序なんて御免だね。どうせ本音は殺したいだけだろう!?」
 男たちは驚くべき威力で銃を連射してくる。禅次郎はその中を無理やり掻い潜って銃剣をつき出した。
 男達の銃がクロスされ彼の剣を阻む。
 そこへ、玄弥がずかずかと近寄って行った。
「あっしは別にかまいやせんぜ。ここに居るゴミどもが居なくなればあっしの商売もしやすくなるんで……くけけ」
 玄弥の強さは並大抵のものではない。
 周囲の男達を黒煙で押しのけ、てれてれとした軽薄な足取りにも拘らず圧倒的な威圧感で迫ってくる。
 無理矢理掴みかかろうとした男を片手で止め、首に手をかける。
「オラオラ、ゴミ虫っぽく泣いて見ろや」
「貴様などに……俺の正義」
「あーん?」
 胸にクローを突き刺すと、そのまま下方向に掻っ捌く。大量の血と悲鳴が上がった。
「うっさいんじゃぼけ。風紀なんぞ風俗で充分じゃ」
「……」
 攻撃もせずに見ている四条に、男達が小声で話しかけた。
「委員長、一条玄弥を相手にするには分が悪いです。奴は我々にとって刺激的すぎる。噂通りに」
 それでも沈黙を続ける四条に、霧也がビッと剣を突きつけた。
 周囲の敵は無理矢理に薙ぎ払ってある。
「続けるってんなら相手になるぜ。でもお前らそうじゃねーんだろ。アンタが退くってんなら、俺らは追わない。また一般人相手にするってんなら立ち塞がるが、ここはもういい」
「約束のつもり?」
「誇りにかけて」
「……風紀四条よ。名前を聞かせておいて」
「アーク……じゃないか、御堂霧也だ」
 彼の名前を聞いたか聞かないかというタイミングで、四条は踵を返した。
 ふわりと髪が舞い上がる。
「退くわ。でも風紀活動はやめない。何度邪魔しに来てもいいけど、あなた達自身が付き合っていられるのはいつまでかしらね」
 つかつかと歩み去る風紀四条。
「期待は、しないわ」
 男達もある程度警戒しつつも撤退を始めた。
 撤退中に仲間を回収するのも忘れていない。
 その間際、ゐろはは四条の背中に語りかけた。
「アンタさ、この辺の人なんでしょ」
「……」
「ヤマンバギャルみたいなヤツ知ってる? フィクサードで」
「初富の孫でしょう。あなた達には関係ないわ」
「……そ」
 風紀委員会はどこからか現れた白いバンに乗り込み、どこかへ走り去っていった。
 その背を、霧也たちはじっと見つめていた。

●風紀委員会
 元々が製鉄所で潤っていた地区であるだけに、この近辺の治安はとてもアンバランスだ。金の沸く泉を囲んで様々な人間が集まり、所々に空いたエアポケットには奇妙な人間たちが巣食うようになるのだ。
 綺麗な場所と汚い場所が入り乱れている。だからこそ、逃げ道や裏道も大量に存在して、逃げた者を追うというのが難しい地形だった。
 元々追いかけるつもりが無かった霧也たちにはさして問題でもなかったが。
「これからどうする」
「え、カレーの風紀さえ守れれば香夏子はどうでも」
「だからそのカレーの風紀ってなんだよ」
「……ス、スパイスとか」
 徹底抗戦のつもりもなかった分、香夏子を含め彼等はあまり大したダメージは負っていない。
 だがあそこで深追いしていたらどうなっていたことか。
 涼子は嫌な想像をして首を振った。
「とにかく、今回はもうこれでいい」
「そうだな。と言うか、俺は最初からどうでもよかったんだが……」
 バイクに跨り、両手を頭の後ろで組む禅次郎。
「正義は勝ーつ! ぐわっはっはっはっはっは!」
 そんな中、剛毅だけが快活に笑っていたのだった。
「あなた達『には』……か。フーン」
 ゐろはが、菓子をかじりながらぼうっと暮れなずむ空を見ていた。

 同刻。
「あんだけタンカ切ったからには薬の売人を他にもあぶりだして然るべき場所に突き出してやらないとな」
 郷は裏通りと呼ばれる辺鄙なエリアを、配達業を装って(というか本職だが)うろうろしていた。
 すると妙な話声が聞こえてくる。
「なあ兄ちゃん、イイ薬試してみねえかい。最初の一回だけお試しってことで、五円でええわい」
「……っと」
 建物の壁に背を付け、そっと覗き込む。
 金を食い物にするようないやらしい横顔が見える。
 只者ではないことは一瞬で分かった。純粋な戦闘力では郷より上だ。
「まずいな、フィクサードか。ここはいったん引いて」
「……おい、そこで見てンの。ちょっとこっち出て来いや」
 煙草の臭いがすぐ近くでする。
 危ないと思って身を引きかけた途端、向こうから引っ張り込まれた。
「やめろ、俺はアークのリベリスタだ! ここで事をおこせ……ば……」
「あ……」
 相手は玄弥だった。
 二人の視線が絡み合う。
 気まずい沈黙が流れかけ、『じゃあそういうことで』と逃げようとしたので郷は玄弥に掴みかかった。
「何やってんだ、麻薬密売人ってお前だったのか!?」
「いやいや、あっしはただの小者でさぁ」
「小者が風紀委員会に名前をマークされるか! やってるんだな、日ごろからやってるんだな!?」
「まさかそんなこたぁ……コレだってほれ、さっきの売人連中から取り上げたヤツで。相当品質のイイ薬だったんで売りさばこうとしたんだが……いやあ、この辺じゃアホみたいに安く売り裁かれてるみてぇで」
「……で?」
 麻薬に関して詳し過ぎる、と思ったが郷は気になったので続きを聞いた。
「どっかの誰かが薬を浸透させようとしてんのかもしんねぇなあ……ま、そのうち価格が高騰する筈だから、その時にでもふっかけて」
「まてぇい!」
 薬をひったくる郷。
 そして、側面に書かれた名前に目が行った。
「……『天元』?」

 日は暮れ、ひとつの事件は収束する。
 ひとつの事件は。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
ある意味で最強のアンチだった玄弥さんにMVPを送ります。