●とあるソバ屋にて。 向かいに座った二人組の男の人が、何となく見た感じ怖そうっていうか何か、「ムカついたら殺しちゃうかもしれないけど、いいよね」みたいな、雰囲気とか目つきをしてそうに見えたので、とりあえずあんまり目を合わせないようにしよーとか、佐藤はさりげなく下とか自分の腕とか、見ていた。 そしたら、頼んだお蕎麦が届いて、どん、とか置かれた瞬間、ぴちょーっと飛んだ熱い汁が、向かいに座ったおかっぱ髪の男の人の方へ飛んで行き、わーとか思ってる間にも頬の辺りに着地し、着地し、着地した。 瞬間。 ぎろ、っと厚めの瞼の下の瞳が、店員を睨んだ。 とか全然気づいてない店員は、「あ、七味はここにありますんで」とか何か、凄いくっだらない事を、凄い暢気に言っていて、でもわー凄い睨まれてますよー、とか思ってたら、「おい」と、おかっぱ髪の人が、もー言った。 「え」 とか、間の抜けた返事をしている店員に、 「テメー、雑なんだよ、こら」 って、わー相席なんて言われても断れば良かった、どうしていつもこう間が悪いんだ、あーどうかこちらには飛び火しませんよーに、とか何か考えてる前で、殺すぞ、とか言い出すんじゃないだろうか、みたいにおかっぱの人が立ち上がりかけた。 瞬間。 「やめとけよ木星」 とか、隣でじーっと座っていた短髪の男の人が、わりと静かに、言った。 いや絶対それでは収まらないですよ、やめとくわけないですよ、とか思ってたら、チッとか言ったおかっぱの人が、わりと素直に座ったので、驚いた。 思わず、あ、とか言い掛けて寸での所で飲み込む。絶対に巻き込まれたくなかった。でも、多分目が、あって言ってしまってたっていうか、気付いた時にはもー何か、おかっぱ頭がこっちをガン見していて、愕然とする。 「何見てンだよ、お前」 「い、いえ、別に」 「見てただろうが、思いっきり見てただろうが。何だよ、文句あんのかよ」 「いえ、文句は別に」 って、しどろもどろになりながら答え、あー黒滝は何処に言ったんだ、一体どうしてくれるんだ、何でトイレになんか言ってるんだ、っていうかそもそも食べ終わったんならさっさと店出てけよこのやろー、とか何か考えてたら、まず、短髪の人が「おい、木星いい加減にしろ」とか、また、注意をしてくれた。 続いて、トイレから出てくる黒滝の姿が、見えた。 「んだよ金星。お前さっきからうるせーぞ」 「煩いのはお前だ。目立って困るのは俺達だぞ」 そして短髪の人は立ち上がる。そのまま、サングラスをかけ、店を出て行く。 おかっぱの人は、絶対納得してねー! みたいな、不服そうな表情ながらも、やっぱりサングラスをかけ、後を追うように出て行った。 そこへ、黒滝が戻ってくる。 「あー疲れた」 とか、トイレに行っただけで一体何が疲れたのか、椅子に腰掛けながら、呟いた。 むしろ僕の方がよっぽど疲れたのだ、と言いたかった。 「あれ何その不服そうな顔」 目ざとく気付いた黒滝が、まーあんまり興味ないんだけどね、くらいの調子で、言う。 「最低。トイレ行くタイミング最低」 「いやトイレくらい自由にいかせてよ」 「一人きりで残されてどうしようかと思った。相席の向かいの人ら、がんがん怖かったよ。殴られるかと思ったもん」 「でもそれって俺が居て、どうにかなったの」 「若干、心の安らぎには、なったかも知れないじゃない」 「ふーん。じゃあ、何かごめんね」 「いやそんな何か全く思ってないです、みたいな顔つきで謝られても」 「でも、例えばさ」 「例えばさ?」 って、いきなりこの状況で、例えるべき何かはないような気がした。「何、例えばさっていきなり」 「うん聞いて。例えば、あの二人は、やばい仕事をしてる人でさ」 「やばい仕事?」 「そう、始末屋とか」 「始末屋? え、何を」 「いろいろだよ」 「浮気の証拠とか?」 って、まー絶対そんな事はないだろーとか思ったけど、思い浮かんだので口にしてみたら、じーとか、美形の顔にガン見され、何か、負けた。 「ごめん、続けて」 「でさ、やばい組織に所属しててさ。二人はわりと凄腕なんだけど、それでもうっかり仕事をしくじっちゃって、しかも、それがしくじっちゃいけない仕事をしくじっちゃってさ」 「んー。そういう仕事程しくじっちゃう時って、あるんだよね、人間」 「で、敵対する組織は、そうして彼らが組織から離れてるこの隙をついて、弱らせて捕まえようとするわけ。彼らの所属する組織的には、二人を失うだけならまだしも、寝返られると更に困った事になるだろうし、とにもかくにも、敵対する組織はこれを格好の機会と思って狙うべきだからね」 とか、どんどん話を広げていく横顔を、何か茫然と見つめる。 「はー」 間延びした返事をした途端、ゆっくりと、黒滝が振り返った。 ウェーブがかった顎くらいの長さの黒髪の間から、切れ長の瞳が、じっと佐藤を見つめる。 「とかいう状況だったとするじゃない」 「するじゃない、ってその仮定がもう既に、良く分からないんだけど」 「と、するならば、例え君を救いたい気持ちがあったとしても、ここで俺なんかがしゃしゃり出たら、いけないと思わない? 今度は二人を追う組織から、俺と君が狙われちゃうかも」 「それは」 バカバカしいことを言っているのに、妙な威圧を醸し出している美形を、ぼーっと見つめ返す。 「果てしない言い訳だね」 「要するに、何事も騒いで問題を起こしたりしたら、後から予期せぬ事に遭遇してしまうかも知れないってことだよ、大人しくしてるが吉。それに別に君は殴られたわけでもない」 「そうだけど」 何だか、全く納得できないけれど、言いくるめられてしまった感があったので、佐藤は蕎麦を見つめながら、言う。 「だって、怖かったんだもん、とにかく」 「俺が居ても怖さはきっと変わらなかったよ」 「でも、殴られてたら、助けてくれた?」 「殴られてたらね」 携帯電話のボタンをぽちぽち、とやりながら黒滝が言う。 って、明らかにもー、助ける気なんてなかったよね、みたいな感じだったけれど、それはそれとして、とりあえず佐藤は、蕎麦を食す事にした。 ――黒滝より本部。 フィクサード「始末屋」を発見。 弱らせて捕縛するか、討伐してしまう格好の機会の到来を予知。 以下に遭遇した際の所見と、予知の概要を添付する。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月17日(日)23:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「居るんだろ」 林檎園の一角まで歩いてくると、辺りに視線を走らせたフィクサード金星が、徐に、言った。 「出て来いよ」 フクロウが鳴いている。夜の林檎園に、その鳴き声が不気味にこだまする。 辺りは一瞬の間、静まり返っていた。 と。 突然、とーう! とか何か言いながら、木の陰から『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が飛び出し、っていうか上空へと飛び上がり、そのまま上空で、「これ以上犠牲者を増やす訳にもいかない! 変身!」とか何か言ったかと思うと、ズサっと、金星の前に立ちはだかった。 「リベリスタか」 「おうよリベリスタだよ、良かったな」 挟みこむように、『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)が木の陰から姿を現し、シニカルに笑う。「お前ら、始末屋なんだって? 一体何をどう始末してたんだか知らねえけどよ、悪いことした奴でも、決まった罪の償いかたがあんだからさ。勝手に始末しちゃダメだろ」 「それが仕事だ。俺達は言われた仕事を遂行するだけだ、それが何を始末することでもな」 「フン、しくじったくせによ」 「悔いている」 「しかし始末屋、金星さん。君達の仕事によって罪の無い人々が犠牲になってた可能性もあるんだ。正義の味方としては、見過ごしておけない。覚悟して貰いますよ!」 そこで、強い風が吹いた。 疾風の真紅のマスクド・マフラーが、凄い勢いではためいた。 「と、いうわけで」 今度は、対になった林檎の木の陰から、『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が姿を現し、金星の隣に並ぶ木星の背後に、立った。 「投降をお勧めします。別に貴方方を討ちとっても構わないのですが、こんな所で命を賭けても無駄死にでしょう。身の安全は保証します……箱舟は、貴方達を追っているらしい組織とは、違いますからね」 「馬鹿にしてんのか、てめえ!」 とか、どういうわけか無駄に殺伐とした空気を発する木星が、クローを構え、すっかり戦闘態勢になって叫ぶ。 「残念だけど。俺達は、お前たちとは、違う」 金星が、ヌンチャクを構えた。 また、強い風が、吹いた。 あと、何でもいいけど、疾風の真紅のマスクド・マフラーが、凄い勢いではためいている。 「そうですか」 更に今度は、対になった林檎の木の陰から、雪白 桐(BNE000185)が姿を現す。 で、木星をじっと見据え。「では、始めましょうか」 って、言おうと思ったけど、思わず疾風のマフラーがはためき過ぎてて気になって、ちょっと何か一瞬、見た。 ハタハタハタハタハタハタハタ。 そしたら木星も見て、金星もやっぱり見て、気付いたら何か全員、ちょっと、見た。 「何だろう、凄いはためいてるね」 その頃、E・アンデッドの出現にも備え、余力を残すためにまだ木の陰に隠れていた『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)は、思わず、隣に居た『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)に向かい、呟いていた。 「はーまーすげえっすね。何つーか、奇跡的っすね」 でもわりと、返って来たフラウのリアクションは薄くて、むしろ、どーでもいーじゃん、くらいの感じだったので、 「え、でも凄くない?」 って思わず涼はフラウを向き直り、わりとさっきまで男子なんじゃないか、とか勝手に思ってたその顔が、間近で見ると妙に何か、少女に見えた気がして、一瞬、固まった。 え、どっちだったの? と、思った矢先、瞬時に、女子にモテたい脳が発動した。 でもこれ、女子なんだとしたら、マフラーの話とかしてないで、ここで一発格好つけとくべきなんじゃないのか、とか、ここはうってつけの格好つけタイミングなんじゃないか、とか、っていうかむしろ何だったら俺もあの風にレイヴンウィングの裾とかはためかせてくるべきなんじゃないのか、とか、物凄い色々考えた。 「え、何っすか、うちの顔に何かついてるっすか」 「う、うん、えっとあの」 でも、女子だという確信が持てない。 だけど、男子だという確信も持てないのだ! 「くそう! 俺は今まで女子の何を見て来たんだ! 何で分からない!」 「え。何すか。どうしたんすか。え。涼? 大丈夫っすか?」 とかいきなり頭を抱え出した仲間の姿に、フラウはちょっとだけ、面食らう。「えなになにこれ、どうしたらいいの」 そこで、「おい」とか何か、AFから、『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)の声が聞こえて来た。 「おい、聞こえているか。後方から、E・アンデット発生だ。直ちに討伐に向かう」 「了解っす!」 フラウはAFに向かい応答しておいて、とりあえず頭を抱えている涼に向き直り、その肩をばしばし叩いた。 「ほら、早く! 行くっすよ! 出遅れっすよ! 出たっすよ! E・アンデット!」 「え、あ、うん」 「早く! ほら、早、く!」 既にちょっと走り出しながら、フラウが手招き。 だ、駄目だ。集中しろ。俺! 「よし、真面目に真面目に。行くぞ、少……」 で、結局のところどっちなのよ! とか叫びたい衝動を動力に、トップスピードで涼は走り出す。「行くぞ、フラウ!」 「さあご婦人は、自分の後ろに」 そうして、雷慈慟に誘導されながら飛行する、『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は、癒し手として、戦場での自らの立ち位置を再度確認していた。 前方には、E・アンデットとそれをブロックするために動く、涼、雷慈慟、フラウの三人の姿がある。 そして後方を振り返れば、フィクサードと、それに対応する、桐、疾風、牙緑、ユーディスの姿が見えた。 この仲間達の傷を癒し、存分に戦って頂くため影ながら支援するのは、私の仕事。そしてそれが私の価値。 「魔力よ集え……」 彼女は、そっと胸に手を置き、マナコントロールを発動する。 「魔力の円環に錬気……我が身全ての力にて幾度でも皆様を支援致します……!」 ● 真っ先にまず、金星が動いた。 トップスピードを発動する素早い動きで、疾風に向かい走り込んでいる。 このまま体当たりでもするというのか。 流水の構えを発動した疾風は、腰元に装備したMP7A1C[空牙]に手をかけるタイミングを見計らう。 しかしそれならそれで、迎え撃ってやるだけだ! けれど、その間近で、金星はガクンと軌道を変更した。そのまま、林檎の木の間へと走り込んで行く。 「逃がさないぞ!」 すかさず疾風は、斬風脚を発動し、その脚元を狙った。 鋭く地面を削って行くかまいたちを、バシッと木の枝を掴み回転した金星が、飛ぶように避け、そのまままた軌道を変えて走り出そうとした。 その先に、今度は、牙緑が立ち塞がる。 「テメーは挟まれてんだっつの」 疾風居合い斬りを発動すると、彼の巨大な剣から、重みのある真空刃が飛び出し、突撃! するのにも構わず走り込んで来た金星が、牙緑の頭を狙いヌンチャクを振り抜いて来た。 「……くっ!」 腕でこめかみに受けるはずの大打撃を受け止め、反対の手で、剣を振り抜く。後方へと飛んだ金星に、今度は、背後から、可変式モーニングスター[響]を構えた疾風が飛び込む。 ドン! とその背中の辺りを強烈に打撃した。 がん、と金星は地面に打ちつけられ、這い蹲るも、すぐにごろごろと回転し、少し離れた所に立ち上がった。 「やりますね」 響を構え小さく息を上げながら、疾風が呟く。 「いや、いっぱいっぱいだ」 こちらも若干息を上げた金星が、ヌンチャクを構え、呟いた。 「それにしてもよ、一つ聞かせてくれよ」 三角形を描くように対峙した牙緑が、剣を杖のようにして寄り掛かりながら、言う。 「何だ」 「何でこんなとこに死体埋めてんだよ。すぐ発見されそうじゃねえ? よくいままで気づかれなかったな。っていうか、ここのリンゴ園のオーナーは誰なんだ、よ!」 バチバチバチバチ! そして次の瞬間、牙緑はギガクラッシュを発動する。 金星は咄嗟に後方へと飛び跳ねたが、距離が間に合わず、電撃を纏う牙緑の一撃に鳩尾を突かれ、うっ、と足をついた。 「金星!」 離れた場所から木星の声が飛ぶ。 「貴方の相手は私達ですが?」 血の味のする唾をぺッと無表情に吐き出した桐が、冷たく、木星を見据える。 ● 金星が動き出した頃、ワンテンポ程ずれて、木星も動き出していた。 そのブロックに当たる桐は、最初にリミットオフを発動し、一気に決着をつけてやる気でいた。自身の肉体の制限を外し、生命力を戦う力に変え、猛撃してやる。 けれど、そのこちらの意図を知ってか知らずか、すかさず木星が苦無を投げつけて来て、集中が削がれた。 チッと舌打ちをしながら、彼は、マンボウをそのまま薄くしたような巨大な剣「まんぼう君」をぶんぶん振り回し、飛んでくる苦無を叩き落とす。 木星はその隙に、とばかりに、重ね合わせた両手を開くと、即座に守護結界を展開した。 その隙をついて背後から、ヘビースピアを構えたユーディスが飛び込んでくる。 槍の先を木星の背に定めると、ジャスティスキャノンを発動した。飛び出した十字の光が、ドン、とその背中を撃ち抜く。 撃ち抜かれた木星は、衝撃にドウッと前へと飛んだ。 顔を顰めながらも、空中でクローを構える敵の顔が、桐の元へと飛びかかってくる。 その顔面を、まるで蠅を叩くかのように、バーン! と、まんぼう君でぶっ叩いた。林檎の木にガンッ! と激突する木星。けれど、すぐに寝そべった状態のまま、自らの呪力を解き放ち、陰陽・氷雨を発動した。 魔的な鋭い氷の雨が、硬い音を立て辺りに降り注ぐ。 間にも体制を立て直し、身構える木星へと、雨の中へ構わず飛び込んだ桐が、差し迫る。まんぼう君を振り抜く。木星が、上体を逸らしその攻撃を避ける。ブウン、と空振りした剣の起こす風圧が、林檎の木の葉をざわざわと揺らす。 切り返すように、すかさず木星の手から繰り出されたパンチが、その美しくも無表情な桐の横っ面へ、炸裂! ザッと引っ掻かれた頬から伝う血の味が、口の中にもわっと広がる。 「女性の顔に何ということを!」 怒り心頭! みたいな勢いで、飛び込んで来たユーディスが、木星の頭へとヘビースピアを思いっきり振り抜く。ガッ! とぶっ叩かれ、敵はガクンとその場に膝をつく。 「いえ、女性では」 瞬時に体制を立て直した、やっぱり無表情の桐が、一応言っときます、みたいに訂正をした。 「え」 その時だった。 「金星!」 と、木星が離れた場所で戦う金星を見て、声を上げたのだ。 「貴方の相手は私達ですが?」 血の味のする唾をぺッと無表情に吐き出した桐が、冷たく、木星を見据える。「回復する暇は与えませんよ」 ● 一方、涼は、トップスピードを発動し、甦った死体達の対応を行っていた。 その後ろをフラウが、ハイスピードを発動し追いかけていく。 「ぬー! 先輩、やっぱはええっす! でもうちも負けねえっす!」 「ほらほら、ちゃんとついて来いよ、後輩!」 声を上げながらも、紅の刀身を持つ片刃の長剣「斬魔刀・紅魔」を構えた涼は、前方に差し迫った死体へ、残影剣を発動する。 余りのスピードに、幾重にも重なって見えるその痩身の残像が、たむろする敵へ、敵へと、次々に紅い刃を振り抜いて行く。 「お前らはここでお引き取り願おう!」 「そうっす! 何処の誰かは知らないっすけど、死人風情がうちの邪魔をするんじゃねーっす」 遅れて追いついたフラウも、ナイフを構え、残影剣! 涼の駆け抜けて行った軌道を辿るように、小柄な体が、挟み込むように立つ死体を斬る、斬る、斬る! その間にも、二人の攻撃を免れた残りの一体が、「ガアアアアアア!」と意味不明な雄叫びを挙げながら、フィクサードと戦う仲間達の元へと突進していた。 そこへズサっと、木の陰から歩み出たのは、雷慈慟で。 「諸君等の恨みも当然の事だろう……しかし!」 すかさず、ピンポイントを発動すると、全身から放出した気糸で精密にその脳を撃ち抜いた。 瞬間。ボタボタ、と、汚らしい唾液を垂れ流しながら、死体は動きを止める。何が起こったのかすら認識出来ていないような表情のまま、バッターンと後ろへ、ゆっくりと倒れ込んだ。 「死体はこんなもんっすかね」 「あとは、フィクサードだな、行くぞ!」 涼とフラウが、その場を離れ、援護に向かう。 雷慈慟もその後を追おうとして。 ふと振り返り、見た。 木々の影に最早、ゴミのように横たわる死体達を、ブワアっと眩い光が包みこみ、焼き払うのを。 「聖なる光よ……人の理外れし者達に裁きを……そして、安らぎを」 神気閃光を放ったシエルが、両手を合わせ、呟いていた。 ● 「お前たちに心配されなくても、俺達には俺達なりのきちんとした仕組みがあって仕事が成り立っていた。オーナーには金が入る。問題はない」 鳩尾を押さえながら立ち上がった金星が、荒い息を吐き出しながら、言う。 「ああ、そうかよ。何にしろ、まだ生きててくれて嬉しいぜ!」 そこへズサーっ! と、涼が、トップスピードで駆けつけた。 更に遅れて、到着したフラウが、 「気に入らない気に入らない。うちより速いのが気に入らない。だからアンタはさっさと倒れろ!」 ぐわ、と目を剥き、拳を突き出し、金星へと突進する。 殴りかかってくる拳を避け、避け、避けながら背後を確認する。涼が居る。更にその斜め横の辺りには。 「お仲間の到着だ。いよいよお前らも終わりだよ」 牙緑が、退路を断つように位置し、構えている。 「いつでも捉える準備は出来てますからね」 疾風が、AFから拘束具をダウンロードした。 「ではこちらもそろそろ決着をつけましょう」 シエルの回復を受けた桐が、頬の辺りをさっと撫で、まんぼう君を構えた。 その背後では、ユーディスが、そして、対角線上では雷慈慟が、木星の動きに対応すべく、構えている。 「分かりますよね? もう、逃げられません」 「うわああああああああ!」 木星が、叫び声を上げながら、やけくそのように飛び込んで来た。 桐は、カッ! と目を見開くと、ギガクラッシュを発動する。 「トドメを指さずに削るというのも面倒ですが、まあ仕方ありません」 そしてその血にまみれた細腕で、まんぼう君を振り抜くと、電撃を帯びる剣の腹で、思いっきりその体をぶっ叩いたのだった。 ● 「どれ程の腕利きでも、失敗してしまえば今度は自分が追われる側に回る……始末屋というのも因果な商売なのですね。……本当、皮肉な話です」 拘束具をつけた二人のフィクサードを見下ろしながら、ユーディスが呟いた。 「裏街道を歩いて来たなら、いずれこうなる事は予想していたでしょう?」 冷酷なまでに無の表情で問いかける桐の足元で、血を吐く木星が、ちきしょあああああ、と、言葉にならない感情の迸りを叫んだ。 隣で拘束された金星は、静かに地面を見つめている。 「さっさと殺せ。俺達は仕事をしくじった。殺されることは覚悟の上だ。どうせ俺達は、お前達のようにはれない」 暫くして、呟く。 「人それぞれの生き方とはいえ……孤児院の子供達には貴方達のような大人にはなって欲しくない、その思いは確かにあります」 シエルが、ゆっくりと踏み出し、言った。「人生は因果応報でございます。貴方達は今ここで、その命を落としても仕方のない生き方をなさって来たのかも知れません。……それでも、法に依り裁かれる権利はあると、私は信じます。故に……今。私達は貴方達を捕縛します」 感情の読めない瞳で、金星がじっとシエルを見上げる。 何かを言おうと口を開き掛けたその時。 「トラックの準備が完了した」 AFから雷慈慟の冷静な声が流れ出し、その場に、響いた。 荷台から涼とフラウが降りてくると、そのドアは、牙緑と疾風の手によってゆっくりと閉じられていった。 その隙間からシエルは、悲しんでいるような、それでいて達観しているような表情で、中の二人を見つめる。 「貴方達が死ななかったのは天意なのでしょう……そして後は貴方達次第」 ガタン、とそこで、荷台のドアは完全に、閉じる。 「貴方達次第なのです……」 もう聞こえないと知りながらも、シエルはそう、呟いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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