● 町から離れた薄暗い林の中にひっそりと建つ、朽ちかけた廃屋。 その埃臭い建物の中を進む3人の少女の姿があった。 「真琴……もう探検ごっこはいいから、早く帰りましょうよ……」 メガネをかけた少女が、忌々しそうに髪の毛に掛かった蜘蛛の巣を払いながら、先頭を歩くボーイッシュな少女の背中に呼び掛けた。 「なんだ麗奈? お前怖いのかよ? 案外だらしねぇな」 振り返った少女――真琴は余裕綽々といった体でニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。 「ち、違うわよ! 怖がってるのは結衣よ!」 たちまち顔を赤くして怒鳴る麗奈。 「ひーん、今にもお化けが出そうですぅ~」 その麗奈の陰に隠れるようにしがみついている黒髪ロングの少女、結衣は涙目で恐怖を訴えていた。 ● 「町外れの廃屋にE・アンデッドの出現を確認。リベリスタによる速やかな掃討作戦の実行をお願いします」 三高平アーク本部、召集に応じてブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を前に『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がいつもの様に流暢に切り出した。 「E・アンデッドはヒューマノイド型――いわゆる腐った死体、ゾンビと呼ばれるタイプです。常に飢えており、生者の肉を欲しています。知能は低く、動きは遅いですが、非常に力が強くタフで一度獲物とみなした相手をしつこく追いかける習性がある様です。噛みつかれたり引っ掻かれると、麻痺や毒の影響を受けるので注意して下さい」 例によって和泉はてきぱきとリベリスタ達に作戦概要を説明する。 「現在、ターゲットは廃屋に迷い込んだ3人の子供を追っている模様。子供達を見失うか殺害するまでは屋外や町へ移動する事はないと思われます」 そこで和泉は一旦言葉を切り、視線を泳がせた。 「……子供達の安否は作戦に優先しません。最優先事項はターゲットの殲滅。子供達が死亡した場合は事故として処理しますが、気分はあまり良くないですね……個人的なお願いになりますが、救助していただけるとありがたいです。それではご武運を」 そう言うと和泉はリベリスタ達に向かってぺこりと頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:柊いたる | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 1人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月26日(火)23:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 1人■ | |||||
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●洋館 町外れの林の中、ひっそりと人目を避けるように建つ洋館の前にリベリスタ達は集まっていた。 「探検ごっこなんて懐かしいわね。こんな廃屋があったら探索したくなるわよね。わたしだってそうだわ!」 蔦に覆われ、雰囲気たっぷりの荒れた洋館を見上げながら『蒼震雷姫』鳴神・暁穂(BNE003659)が感慨深そうに言った。 その横で神妙な面持ちで頷くのは『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)。 「お盆はまだ先よ……怖い話をすると、本物が来るって言うけれど……そういうの、間に合ってます……」 フライエンジェである彼女は幻視を纏い、その背の翼を覆い隠て突入の準備を整える。 同じく『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)も同じく幻視で翼を消して、異形の姿を子供たちに見せない様に正体を隠し、その横ではアイリシェルテ・御雷・ランセル(BNE001543)がトントンと手にした剣の重さを確かめる。 「こう見えて、私は子供好きなんですよな」 ネコの着ぐるみ姿でやってきたのは『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)。 見るからに異様な姿だが、普段のフード姿の怪人姿よりは子供たちに見られてもショックは少ない事だろう――おそらく。 「待っているが良い子供達よ。直ぐに急いで迎えに行きますぞ」 そう語る九十九の言葉にどことなく危ない雰囲気が漂うのはきっと気のせいだろう。 「おはよーと言い合いながらまた今日が始まる――そんな明日を三人が迎えれるように、頑張ってたすけるのですよー」 そう言うのはアゼル ランカード(BNE001806)だ。彼らに与えられた任務はゾンビの討伐。人命はその次でよい。との事であったが、彼らはその人命を優先する事にしたのだ。 「探検ごっこにゾンビが出たのが予想外ね。急ぐわよ!」 暁穂の声に『ティファレト』羽月・奏依(BNE003683)が周囲に人影のないことを確認し、探索中に不意の訪問者の乱入が無い様に周囲に強結界を展開する。 「子供達はバラバラになっているようだから、こっちも三班に分かれて捜索しよう」 『24時間機動戦士』逆瀬川・慎也(BNE001618)の提案に従い、リベリスタ達は3人ずつの三班に分かれ、それぞれ子供たちの捜索にあたる事にした。 そして静かに朽ちかけた扉が開かれる―― ●台所 「ゾンビだらけのゴーストハウス、熱くなるわね!」 不謹慎とは思いながらも、戦士の本能か『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)は胸に高鳴るものを感じていた。 とはいえ、犠牲者を出さずに済ませたいというのが一同の総意。 効率良く子供たちを捜し出す為に三班に分かれたメンバーは、それぞれ館の別の方向に歩みを進めた―― 麗奈を捜索する台所班は、アゼルが付与した翼の加護で僅かに身体を浮かせ、床に空いた穴や散らばった障害物に足を取られる事も無く、滑る様に薄暗い廊下を移動する。 「メガネってば、ゾンビに喧嘩売ろうとしてるって話じゃない。急がないと! おーい! メガネー! メガネー!」 静まり返った廊下を大声を上げながらミリーが疾走し出す。 「おっと、さっそく聞きつけて集まって来ましたよ!」 「その角右!気を付けて!」 集音装置で聞き耳を立てていた九十九とアゼルが警告を放つと同時に、廊下の角出た所でゾンビとはち合わせになったミリー。 あわやという所でミリーは伸ばされた爪を掻い潜り、ゾンビの胸板に向かって土砕掌の掌打を当てると同時に気を叩き込む。流れ込む猛烈な破壊の気を受け、ゾンビはばね仕掛けの様に現れた方角と逆方向へ吹き飛ばされた。 ゾンビは派手な音を立て、床材を撒き散らしながら叩きつけられるが、頭や手足を変な方向に向けながらもノロノロと気味の悪い緩慢な動作で立ち上がり、再び手を伸ばして襲いかかって来る―― 気が付けば、戦いによって引き起こされる激しい騒音に引き寄せられ、一体また一体とゾンビ達が集まって来るではないか。 「麗菜さんを見つける前の戦闘は避けたかったけれど、これじゃ仕方ないね……」 マナサイクルで体内の魔力を活性化させながら、暗がりの中を身体を揺らしながら集まって来るゾンビたちの姿を見ながら、アゼルの表情に焦りが浮かんだ。 予想外の乱戦の中、うっかりすれば聞き逃しそうな悲鳴を聞きつけたのは九十九だった。 「この声は? これはいけませんぞ!」 声の方に視線をやれば、群がるゾンビの向こう側で包丁を振り回すメガネの少女――麗奈の姿が見えた。一般人のしかも子供。いくら勇ましくてもこの乱戦下では危険極まりない。このままでは彼女の命も風前の灯に等しいというのは、誰の目にも見て取れた。 「子供の前であんまり惨い光景とか見せたくはないんですけどなあ」 九十九はそう言いながらも、命には代えられないとスターライトシュートの光弾でゾンビの群れを薙ぎ払う。 即座にアゼルとミリーが麗奈の元に駆け寄り、その背に彼女を庇った。 「人がいた~、なんか変なのが一杯いるのですよー、逃げよう、逃げよう?」 「あ、あんたたちは……?」 うるうる目を潤ませるアゼルにぽかんとする麗奈。 「あんた達を助けにきたのよ!」 仲間たちに麗奈を確保した事を連絡しながら、ミリーが状況をかいつまんで説明する。 「でも真琴と結衣が……それにこいつらいっぱいいるし……」 「大丈夫!ミリー達強いのよ!」 不敵な笑みを浮かべながら、ミリーがガッツポーズを見せつける。 「それでは強行突破ですな」 ミリーが麗奈を背負ったのを確認し、九十九がピアッシングシュートで進路を塞ぐゾンビを怯ませる。 同時に全員で走り、ゾンビの群れの間を玄関に向かって強引に割って通る。 「どけどけー!」 麗奈を背負い、手が塞がったミリーは進路に立ち塞がって手を伸ばすゾンビたちを蹴倒し、モーセが紅海を割る様に突き進む。 存外タフなゾンビはその程度で行動不能には陥らないが、今は脱出までの時間さえ稼げればいいのだ。 「ドアの影から一体! その次左!」 アゼルの戦闘指揮、九十九の追撃のフォローで絶え間なく襲い来るゾンビをかわしながら一行は狂気のホラーハウスを疾走した。 ●屋根裏 一方、屋根裏捜索を担当する、あひる・暁穂・アイリシェルテの三人。 「誰かいますかー……! 助けに、きたよ……っ!」 蜘蛛の巣だらけの屋根裏にあひるの声が響く。 しばしの沈黙の後、それに応じるように姿を表したのは少女ではなく、低い唸り声を上げるゾンビだった。 「まず先にこっちを片付けてからね」 暁穂が流水の構えを取りながら、実戦経験の少ないアイリシェルテの前に出て、流れる様な体術からメガクラッシをゾンビにお見舞いする。 「あなた達を、帰るべき場所へ案内させてもらうわ!」 暁穂の手にした蒼く輝く武甲・蒼雷の直撃を受けたゾンビは見るも無残な状態で吹き飛ばされるが、即死してもおかしくないそのダメージを受けながらも、千切れかけた身体を引きずりながらゆっくりと身体を起こす――非常にタフだとの和泉の言葉がリベリスタたちの脳裏に思い起こされた。 あひるはグリモアール・絵本 みにくいアヒルの子を開き、魔力を高めて仲間の傷を聖神の息吹や天使の息で癒し、後方から戦線を維持する。 こちらに現れたゾンビはそう多くはなかった。ほどなくそれらを撃退したリベリスタは屋根裏部屋の奥にクローゼットを見つけると静かにそれを開け、そこに隠れていた涙目の少女、結衣を発見した。 あひるは結衣の視界にグロテスクなゾンビの残骸が入らないように身体で遮り、震える結衣の身体を抱き締めた。 「あなた達が居ないって聞いて、探しに来たの。あひる達が来たからには、もう大丈夫……! ここから出ましょ」 ランプの明かりとあひるのマイナスイオンが結衣の心を落ち着かせ、一行は素早く階下へと移動を始める。 「しっかり守ってあげるから、わたし達から離れちゃダメよ」 暁穂が笑顔で結衣の頭を撫でたその時、アクセスファンタズムに通信が入り、暁穂の表情が険しくなる。 「他の班がゾンビに囲まれて手こずってるらしいわ。結衣ちゃんを外に出したら援護に向かいましょう」 それを聞いて不安そうな顔をする結衣。大きな目に再び涙が溜まるのに気が付いたあひるがそれを慰める。 「大丈夫、大丈夫…!皆がついてるからね」 屋根裏捜索班が一階に降りると、すでに屋敷の奥では激しい戦闘の音が響いていた。幸か不幸かゾンビはその物音に引き寄せられて集まっているようで、こちらの脱出を邪魔する気配はなく、容易に外へ出ることができた。 あひるは、結衣を建物から離れた場所に案内し、後の2人を連れ帰るまで隠れているようにいい含めた。 「もう少ししたら、仲間がお友達を必ず見つけてくれるから。外なら安全、ここで待っててね……」 頷く結衣を残し、リベリスタたちは再び館の中へ突入し、仲間の援護へと向かう。 「遠慮無く行けるなら、あんたら如きに負けはしないわ!」 結衣を巻き込まない状況であれば気兼ねする事も無いと、群がるゾンビを暁穂は壱式迅雷でぶっ飛ばす。 ●地下室 その頃、慎也・奏依・シエルの班は地下室へと向かい、大きな声で呼びかけながら少女を捜索していた。 地下は湿っぽい空気に満たされ、何とも言えない不快な瘴気を放っていた。 しかし運のいい事に地下スペースはそれほど広いものではなく、捜索を始めてすぐに真琴らしき少女を発見した。 「早く麗奈や結衣を見つけないと……」 リベリスタたちのすぐに外へとの説得になかなか応じない真琴。 「……大事な友達なんだよね、心細くても一人だけでこんなオバケだらけの屋敷うろついてたくらいだ……よし分かった、じゃあ一緒に探そう……」 慎也の譲歩に笑みを浮かべ、真琴はようやく同行を同意した。 「その代わり……ここで見たこと、起こったことは君と友達だけの秘密にすること、どれだけみんなに話したいことが起こっても、絶対に誰にも言わないこと……これ、おねがいしてもいいか?」 頷く真琴。 そして奏依がアクセスファンタズムで他の班と連絡をとり、他の2人は上階にいるという事で、一行は来た道を戻ろうとしたのだが、地上への階段は声を聞きつけてやってきたゾンビたちによって塞がれていた。 「危ないからここは俺たちに任せて」 慎也は真琴を庇いながらヘビーアームズを構えて前に出る。 「さーておそーじだよー?」 奏依が暗黒の瘴気を放ってゾンビたちの力を奪い、シエルが後方から仲間を支援する。 討ち漏らしの無い様に倒した敵の数をカウントしながら、着実に一体ずつ始末していく。 慎也の脇をすり抜け、真琴に向かって襲いかかるゾンビを奏依が体当たりで弾き飛ばした。 地下からの唯一の脱出口をゾンビに塞がれ、このままでは危険だと判断したシエルがアクセスファンタズムで別働隊に連絡をとるが、彼らもまた現れたゾンビに手こずらされ、なかなか援護に来られないでいた。 ならば強行突破するまでと、奏依が漆黒解放で闇を纏い、己を強化した上でゾンビの群れに切り込む。身に付けたレガースが奪命剣で赤く染まり、距離を詰めて来た先頭のゾンビの頭部を蹴り抜く。生ある存在であれば致命傷であろう強烈な蹴りも、この悪夢から抜け出て来たような死に損ないを永遠の眠りに着かせるには足りないようだ。ねじれた頭で奏依を見失いながらも、壊れたおもちゃのようにバタバタと獲物を求めて暴れ回る。 そんな見当外れの暴走ゾンビを慎也が魔落の鉄槌で踏み砕き、今度こそ動けないまでに破壊し尽くす。 数と打たれ強さを武器にゾンビは押してくるが、シエルがマナコントロールで自らの魔力を高め、天使の息や聖神の息吹で味方を癒して戦線を支える。 なんとかゾンビの猛攻を押し戻し、地上へ戻ったところへようやく別働班も駆け付け、今度は挟撃する形でリベリスタたちの反撃が行われた。 ゾンビの攻撃をガードでしつつ、機会を窺がっていた慎也がカウンターでヘビースマッシュ でゾンビを蹴り飛ばすと、脆くなった壁を突き破ってゾンビは吹き飛ぶ。 全員が集まったリベリスタの前に、いかにしぶとい相手とはいえ、それ程頭の回る敵ではないゾンビが駆逐されてしまうのも時間の問題だった。 ● 「廃屋探検って、すごく勇気いるわよね。それをできるのは、凄い……! でもね……稀に、本物がでるから……危ないから、メッだよ……! お祓いもどき、しとこう……破ァ! なんちゃって……」 静かになった館の前で、再会を喜び合う子供たちを前にあひるが言う。 大人しい結衣や落ち着いた麗奈は神妙な顔をして頷いているが、真琴は映画の様な脱出劇に興奮冷めやらずといった様子。町まで彼女達を引率していく間、口止めと説教が続く事になるのだが、暗闇でゾンビを相手にするよりはリベリスタにとって楽な仕事である事を祈るばかりである―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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