●老兵去りて 「――本当に現役を退くってえのか?」 「ええ、さすがにそろそろ疲れました。年寄りは大人しく老後に入ろうかと」 「何が年寄りだ。まだまだ一線級の実力だろうが」 見事な日本庭園を望む和室。そこに二人の人物が向かい合い、座っている。 一人は白髪混じりの短髪に白虎の耳。藍染の着物に黒い紋羽織。彼こそ主流七派の一つ、剣林の首領である剣林 百虎である。 向かい合い座する一人も初老に片足を突っ込んだ男。中年と初老の境目と言えるその絶妙な外見年齢に、七割方白髪と化した長髪を首の後ろと腰あたりで縛り、柔和な表情を浮かべている。 その人物は威圧感を表に出す百虎とは対照的に、穏やかな気配に身を包んでいた。 だが、外見で侮ることは出来はしない。彼もまた、武闘派と言われる剣林に所属する古参の一人。『四神』、『装甲割り』、『武機破壊』等、様々な異名を持つ男なのだ。 一口に武闘派と言っても、威圧と暴力を武器にするのだけが武闘派ではない。その呼び名にはもう一つの側面が存在する。 力を頼り、力を操り、力によって人へ取り入り、力を使いて日銭を得る。『武侠』もまた、武闘派の一つの側面と言えるだろう。 そしてこの男……『四神』諏訪 清十郎もまた、武侠の者であった。 「桜の字も抜けた。その上テメェまで抜けるってのはどうなんだ? あん?」 「そういう時期なんですよ。世代の変わる時が来てるということですよ」 百虎の言葉に清十郎は杯を傾けつつ、答える。剣林屈指の達人であった一菱 桜鶴がリベリスタとの交戦の後離脱し、今同様に古参である清十郎も抜けようとしている。時代の節目、というのも妙な話ではあるが。清十郎にとっては、確かにそういう時期なのだろう。 「わかった。勝手ばかりだったテメェだが、最後まで勝手な奴だ」 「いやぁ、申し訳ない。後任の奴はもう決めてますんで、私の仕事は全部彼に任せますよ」 「どこのどいつだ、そいつぁ?」 「私の孫なんですがね。実力は確かな奴ですよ。不完全ながらも私の『動』の奥義を扱える程度には」 清十郎が『四神』と言われた理由はその技にあった。彼の奥義はそれぞれ四神の名を冠した技で、どれを取っても強力であった。それの一部を受け継ぐと言われる、後継者。 「面を通しておこうと思いましてね、連れてきてるんですよ。源四郎、入りなさい」 その言葉と共に、障子を開き一人の男が入ってくる。二メートル近い巨体に隆々とした体格。清十郎の細身とは対照的に、剛の印象を与える男。 燃えるような赤髪に、獰猛な笑みを浮かべたその人物。清十郎の孫にして後任、諏訪 源四郎である。 「じいさん、待たせすぎなんだよ! いい加減飽きて帰る所だったぞ!」 ――開口一番これであった。 「首領の御前だ、控えなさい」 「おっと、申し訳ねえ! 俺は清十郎の爺さんの孫で、源四郎って言うモンだ! 百虎の大将、これから爺さんの分もバリバリ働くんでよろしく!」 ……百虎の視線が剣呑になってきているのは気のせいではないだろう。だが、清十郎の手前我慢をしてくれているのか、押し殺した声で源四郎へと問いを投げかける。 「テメェの祖父、清十郎は剣林の為にかなりの貢献をしてくれた。その恩義はあるが、テメェの態度一つでそれは全て台無しになる事もある。テメェは祖父の面目を守れるか?」 「任せといてくだせえ! 腕っ節には自信があるんですよ、さっそくそれを証明してきますわ!」 自信満々に胸を叩く源四郎。その頼もしげではあるが危うい態度に、百虎は一抹の不安を感じながら問う。 「ほう。どう証明するってんだ?」 「今からアークに挑戦状叩きつけてブチのめしてきますわ!」 「――なんだと?」 堂々たるその態度に、一瞬呆気に取られる百虎。その僅かな瞬間に、源四郎は踵を返して邸宅より飛び出していく。 慌てて何人かの構成員が追いかけるが、体力だけは有り余っている源四郎。あっという間に姿が見えなくなり、追いつくことは叶わなかった。 「腕は立つんですけどね……頭がちょっと弱いんですよ」 にこやかに言う清十郎に、百虎は恨みがましげな視線を向け……構成員を呼びつけ、伝えた。 「――あの馬鹿に誰か、頭の切れる奴をつけてやれ」 ●ブリーフィングルーム ――上記の理由をもって自分、諏訪 源四郎はアークへと決闘を申し入れる。 所定の日時に所定の場所にて尋常に勝負を願う。 なお、来なかった場合はアークについての噂をあっちこっちにばらまいてやる。 「……という挑戦状が来ましてね」 まるで子供のような脅しの記載された挑戦状。それを手に肩を竦めるのは『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)。どうにも呆れたような表情を浮かべ――半分隠れてはいるが――四郎は言葉を続ける。 「差出人は諏訪 源四郎。剣林で用心棒のような仕事をしていた達人、諏訪 清十郎の孫にあたる人物のようですね。源四郎自身もひとかどの実力者として名が知れています」 その源四郎がアークへと挑戦状を送りつけてきた。上記の理由とはすなわち、剣林の首領への実力の証明ということらしい。 噂をばらまく、というのは風評被害ではあるが実際はたいしたことではないだろう。だが、四郎がこの話をリベリスタにまで回してきたのには、当然理由がある。 「噂を広める先がね、神秘界隈も一般人も問わないっぽいんですよ。信じる信じないという点はともかく、あまり言いふらされるのもよくないのですよねえ。範囲も予測出来ませんし」 神秘は秘匿されるもの。そこを突いたのか偶然なのかはわからないが、源四郎の果たし状に記載された一文はアークにとって無視するには問題のある情報なのであった。 「というわけで、アークはこの挑戦に乗ることにしました。皆さんには彼らとの決闘に向かって頂きます」 むざむざ要求に乗るのは癪ではあるが、行くだけで未然に防げるのであれば行かない理由はない。 「先ほども言いましたが、源四郎は相当な実力者です。決闘である以上、よほどの事はないとは思いますがくれぐれも気をつけて下さいね」 そうリベリスタを心配するそぶりの四郎は……完全に面白そうな見世物を楽しみにするような表情であった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月26日(火)00:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●不死鳥頭 「実力を示す為にアークに挑戦状ってどんな発想なんですか!」 決戦の場へと向かうその道中。四条・理央(BNE000319)は憤慨と、少々の呆れを込めた調子で怒鳴り上げていた。 リベリスタ達は現在、総合グラウンドへと向かっていた。別にスポーツをしに向かっているわけではない。その場所へと来るように挑戦状が届いた為である。 「力試しに利用されちゃうぐらい凄いってことでしょ? 良い会社入ったなー僕ちゃん♪」 軽口を叩くように相槌を打つのは『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)。実際バロックナイツの一角を落としたアークの評価は鰻上りである。さらに七派の活動を次々と阻止して回る以上、実力の証明として利用できるのは間違いがない。 「只の挑戦状なれば、望む所と言わせて貰う」 『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)もまた、挑戦に対しては異論はない。戦いに身を置く者として、力比べは気になる部分である。そこに他意がないならば、歓迎する者も多いだろう。源一郎や甚内はそういった人種である。 「まあ他の所に被害が出ないから助かるのは確かだけどさ」 助かるとはいえ、きてほしいわけではない。理央のぼやきもまた御尤もである。 雑談を行ううちに、戦場となる運動公園へ到着する。何度か公園より人払いを行う剣林の構成員とすれ違うが、目配せをするだけで交戦する事はない。元より彼らは戦うためにいるのではない。本命となる交戦者はこの先にいるのだ。 剣林の古参、剣豪の諏訪清十郎。その直系であり技を受け継ぐ男、諏訪源四郎。その男こそがグラウンドで待つ挑戦者なのだ。 やがて視界にグラウンドが広がる。挑戦者はここで待ち受けている。『不死鳥』と呼ばれる男。剣林の次代を担う若手のホープ。 ――その『不死鳥』が、露骨にテンションが下がっていた。 「おう、きたかリベリスタ。ちょっと聞いてくれよ、連理の奴がよ。挑戦状とか出してんじゃねえよってすげぇ怒るんだよ。なんとか言ってやってくれよ」 隆々たる肉体を目に見えて縮みこませて、源四郎が恨みがましげに相棒に視線を送っている。リベリスタにフォローして貰おうとしている。 「考えなしにホイホイやってんじゃねえって言ってんだよ、尻拭いに回された俺の気持ちわかるか? ああ?」 一方目線を送られた相棒……スマートなシルエットのカジュアルスーツに身を包んだ男、猪熊連理は相棒にガンを飛ばしていた。 「……あのさ、アークも暇じゃないんだけど」 その様子に『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が露骨に柳眉を吊り上げ、文句を言う。 呼び出されて来たのに、呼び出した本人が喧嘩していたらそうだろう。誰だって呆れる。 「大体何、その慌ててパジャマで来たみたいな腑抜けた格好。『四神』はあんたに剣の一振りも持たせてないわけ?」 綺沙羅が指すのは源四郎の手にぶら下がっている得物。どうみても角材です本当にありがとうございました。 「ああ、これな……いや、剣がないわけじゃないんだがよ」 源四郎が手にした角材をぷらぷらと振る。どうみてもただの角材なのだが。 「家を出た時によ……こいつが仲間にして欲しそうな目でこっち見てたんだよ」 ただのアホである。周りを固める構成員達もフォロー出来ないとばかりに頭を抱えている。 「馬鹿の下についたのが運の尽きという奴だ」 「おい、あんまりはっきり馬鹿って言うなよ! 泣くぞ!?」 構成員達に僅かな憐憫と共に突き放した言葉を吐く『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)。その言葉に源四郎が抗議を飛ばす。だが、満場一致なので誰もフォローをする事はない。 「……相手にとって不足はない、が。アークとは軽々しくぶちのめせる組織ではないという風に認識を改めてもらおう」 気を取り直した『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)が装着した鉤爪をキシリと鳴らす。 「おお、そうそう! 決闘しようぜ決闘、名の知れた奴も多いし楽しみだな!」 思い出したように源四郎が角材を振り回す。基本的にこの男もバトルマニア、武闘派の剣林の中でも特に戦う事を快楽にする人種なのだ。 「左様。アークへ直に挑戦状を送りつける気概、気に入った。汝とは良き戦を行いたい」 ずい、と前に出て拳を握る源一郎。決闘者たる者の矜持、それ故に彼は宣言する。 「我は無頼が一人、古賀源一郎。尋常に勝負也」 その言葉に源四郎の口角がニィと釣りあがる。 「知ってるぜ、鬼の一撃を受け止めたんだろ?」 角材を無造作にぶら提げ、名乗りに対し応じる源四郎。その口調は自信に満ちており。 「だが、俺は諏訪源四郎。お前の名前の四倍、つまり俺はお前の四倍強いんだよ!」 どこまでも馬鹿だった。 ●鉄砲玉 「っしゃあ、行くぜ!」 開戦の合図と共に駆け出そうとする源四郎。だがその眼前に何かが飛来する。 それは光の塊。開幕と同時に綺沙羅によって投擲されたその光球は、激しい閃光を発し炸裂する。 「ぐあっ!?」 閃光を直視した構成員の幾人かがのけぞり、足を止める。だが源四郎は構わず閃光の中を駆け抜ける。巨体に似合わぬ俊敏さで迫る源四郎。その前に立ちはだかったのは、遥かに小さな人影だった。 「砕いて見せて下さい、ねじ伏せて見て下さい。この絶対鉄壁を!」 そう嘯き、身構えるのは『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)。その身を覆うほどの扉を盾とし、巨体が放つ重圧ごと相手の進軍を押さえ込まんとする覚悟を放っている。 「随分小さいが、耐え切れんのかよ!」 「アークでも一分以内で倒せる人はいませんよ。アナタはどうなんでしょう? まさか逃げませんよね?」 「上等! ならばまずはお前からな!」 丁々発止のやり取りと売り言葉に買い言葉。へクスへと向かう源四郎はリベリスタの思惑通りではあるが、元より源四郎にそのような思惑はない。真っ直ぐいってぶっとばす、それで十分。 角材が唸りを上げ、へクスへと叩きつけられる。凄まじい衝撃がヘクスを襲い、防御の上からも衝撃が突き抜ける。 一撃の威力の重さ。だが、膝を折るわけにはいかない。簡単に膝を折っては絶対鉄壁ではないのだから。 一方、閃光で怯んだ構成員達へリベリスタは一斉に襲い掛かる。 「さて、まずは喧嘩前の露払いっスね」 閃光弾の炸裂を待ち、速効駆け出して構成員へと肉薄する『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)。その肉体がぶれ、残像を生み――その全てが実態を持つかのような連撃が構成員へと襲い掛かる。 ハイ・バー・チュン。リルが模倣し会得したその技は、手にしたタンバリンのような形状をした刃をより引き立て、構成員を刻んでいく。 「さあ、狩りを始めよう」 龍治の銃が火を吹き、構成員達を打ち抜く。古風な火縄銃ではあるが、それは雑賀の代名詞。現代に置いても使い手の技量と合わさって現在も現役の殺傷力を誇る。 高精度の一撃は的確にターゲットを貫く。対象は二人。リベリスタの作戦は最小限の撃破を行って相手を封じていく作戦である。 「ほら、負けたくないじゃん? こっちも必死で作戦っての使うわけよー」 へらへらとしながらも的確に鋭い一撃を入れていく甚内。手にした矛が構成員を穿ち、刃を伝う血を吸い上げていく。 「義桜葛葉、推して参る!」 鉤爪が冷気を伝わせ、構成員を刻むと同時に凍りつかせていく。動きを縛り上げ、狙いを集中し。迅速なる排除を狙い。 凍りついた所へ、綺沙羅によって符より生み出された大量の鳥が襲い掛かる。嘴が、鉤爪が、構成員を刻み、さすがに構成員も膝を付き、地に伏す。 終始リベリスタのペースで進む序盤の攻勢。だが、その状況は一変する。 「自由に伸び伸びやってんじゃねえよ、アーク!」 唐突に響く怒声は連理のもの。他の面々よりやや後衛に立つ連理の手より伸びるのは奇妙な黒線。それが地面を這い、知らぬ間に戦場中を覆い尽くしていた。 「カンダタを釣り上げるお釈迦様ってのはどんな気分だったんだろうな? 案外遊び感覚だったの――かもなッ!」 連理が糸を繰る。『因縁絡み』と呼ばれる繰り糸がわずかな操作で地面より跳ね上がり、リベリスタ達に絡みつく。亡者に希望を持たせ、墜落させた蜘蛛の糸の如く、リベリスタの運命を操るその糸は、その身と運命を刻み、縛り上げる。 「おお怖い怖い! 僕ちんは罪人だとしても釣り上げられる謂れはないですよっと!」 辛うじてその拘束を逃れた甚内が、連理の干渉などないかのように矛を再び眼前の構成員へと突き立てる。何はともあれ危険の排除。作戦通りに粛々と。 倒れた構成員の側を駆け抜け、同じく拘束を免れたリルが連理へと飛び掛る。手にした刃が氷の粒子を撒き散らし、振り回され叩きつけられる。 「出し惜しみはなし、全力で舞うッスよ!」 「ちょろちょろすんなよチビネズミ!」 紡がれた繰り糸が網となり、刃を絡み取り防ぐ。防がれながらもその身は舞い、さらなる一撃を。繰り返される連撃はじわじわと網の隙間を抉じ開け、刃を捻じ込んでいく。 「おい、誰かさっさとこのチビどけろよ!」 「ああん!? こっちは今忙しいんだよ!」 「テメエには言ってねえよ、脳筋!」 絡めとられつつもなお立ち塞がるヘクスを只管殴りつける源四郎の言葉に、助けを要求した連理が怒鳴る。一方残る構成員達も、リベリスタの対処に終われ満足に対応出来はしない。 「ああ、畜生! 意地出せっての、剣林だろうが! いつも通りのアレで行けよ!」 連理の指示に残された構成員は一瞬顔を見合わせ……目つきが変わる。腹を括った、覚悟の込められたその目。そして変わる構えは腰溜めに構えられた一振りのナイフ。 それは世間一般で言う、鉄砲玉の如き姿。 全体重を乗せた一撃が眼前のリベリスタへと突き込まれる。愚直なナイフが深く肉体を抉り、臓腑を抉る。 構成員を足止めしていた理央が、源一郎の状態が、一瞬ぐらりと傾き……踏みとどまる。強烈な一撃ではあった。だが、まだ倒れるわけにはいかないのだ。 「……御免、理央対処よろ」 絡みついた黒糸を無理やり引き剥がした綺沙羅が声を上げると同時に……再び光球が投擲され、弾けた。 仲間をも巻き込むその閃光は構成員の目を潰し、その足を止める。いかに括られた覚悟も、不意の閃光と轟音の前には崩され、乱される。 「っ……! 無茶言うね!」 構成員が怯んだ隙を突き、理央も拘束を引き千切って手にした杖を振るう。放たれた光がリベリスタ達を縛り上げる黒糸を緩め、解いた。拘束より解き放たれたリベリスタが駆け出し、一気に押し返そうと攻め立てる。 かくして戦いは第二幕へ。 ●朱雀天翔 「嬉しいぞ、かの剣林。その次代を担う者と拳を交えるのはな──全力で、お相手する!」 「そんな大層なモンじゃねえよ!」 拘束から解き放たれた葛葉が連理へと駆け寄り、冷気を纏った爪を振るうと連理はそれを足元の糸を引き上げ絡め防ぐ。 始めは源四郎へと照準を向けていた葛葉ではあるが、この場において認識を改めていた。作戦上最適な相手に当たるとは言え、眼前の連理は決して悪い相手ではない。むしろ彼にとって今相応しい相手である、そう認識していた。 「戦いに興じようぞ、猪熊連理!」 「結構そういうノリ嫌いじゃないけどな!」 爪と糸が交錯し、火花と氷を散らす。柔と剛の相反する性質を持つ武器が互いの間を飛び交い、傷つけていく。 やがてそのうちの一撃が連理を捉え、凍りつかせる。自由を奪われた連理は纏わりつく氷を振り払い、撒き散らすが再度氷が連理を包む。一方連理の黒糸も葛葉を絡めるが、即座にそれは理央の撒く光によって解かれる。束縛のループは結果として、両者の動きを戦場から切り離していた。 「人里に飛び出た猪は狩られるものだ」 龍治の銃が火を吹き、源四郎へと打ち込まれる。半数の構成員が倒れた事により、戦場はよりコンパクトにされていく。煌く火閃は狙い違わず源四郎を抉る。だが、その挙動は止まることなく手にした鈍器は振るわれ続ける。 抉った傷から火の粉が舞い、遠く離れている龍治すらも焦がす。傷つければ傷つけられる、炎の守り。不死鳥と呼ばれた男の性質である。 「この瞬間を楽しみにしていたッス。不死鳥殺しなんて出来たら凄くワクワクッスね」 「はン、出来るモンならな!」 連理の対処を葛葉に任せたリルが背後をつくように飛び掛る。振り抜かれた刃を角材で受け止め……たかのように見えた刹那。それはわずかな手首の動きで絡め取られ、逸らされて僅かに掠めるのみとされる。 「汝のような敵を待っていた。血が滾るとはこの事よ!」 源一郎もまた、自らのブロックを外し源四郎へと飛び掛る。類似した名前を持つ二人ではあるが、片方の性質は炎。一方の源一郎の振り回す拳は冷気を纏い、強かに源四郎を打つ。 炎と冷気。真っ向から相反する属性がぶつかり合い、蒸気を上げた。 「すわわーい! 僕ちんの超上位互換!」 さらに襲い掛かるは甚内。的確に急所を狙う矛の一撃もまた、源四郎は角材で逸らすように防ぐ。何の変哲もないただの角材が、真っ向からリベリスタの武器と渡り合う。確かな高い技量の証ではある……角材なのだが。 「おいおい、大人気だなぁ! 俺様こんなモテていいのかよ! なんか野郎多いけど! 多いけど!」 何故だか切実である。言う言葉はいい加減ではあるが、その最中にも角材は振るわれリベリスタを傷つける。角材が振るわれるたびに炎が散り、リベリスタを焦がす。 だが、多勢に無勢。さすがの実力者であろうとも複数のリベリスタに包囲されて無事で済むわけがない。幾度となく凍り付いてはその氷が炎で水蒸気をあげ、溶ける。振り回す角材がリベリスタを打ち据えるが、同様にリベリスタの攻撃も源四郎を傷つける。 「源四郎さん!」 残った構成員がフォローに回ろうと駆け寄ろうとするが…… 「通しませんよ! 今度はアナタがヘクスの絶対鉄壁を破ってみてくださいよ!」 「あんまり邪魔はして欲しくはないんだよね」 ヘクスが、理央が、その進路へと立ち塞がる。ディフェンダーである二人を突破することは一筋縄ではいかない。構成員達も決して弱くはないのだが、それでも二人の防御力は持て余す。 「畜生、使うしかねえか……この技、俺も熱いからあまり使いたくないんだけどよ!」 源四郎が吠えると同時に周囲の熱量が上昇する。その巨体から凄まじい熱が巻き上がり、振り回す角材が炎を生み出し翼の如き爆炎を舞い上げる。 美しさを伴うその炎は、同時に本能的な危機をリベリスタ達の直感へ伝えていった。 「これが、南天朱雀の――」 「なるほど、こんな感じかー……!」 「これが先輩の妙技。余さず魅せて貰いたいッスけど……」 綺沙羅が、甚内が、リルが。その一撃の一挙一動に至るまで余さず見抜こうと凝視する。 だが、理解するのはその凄まじさと高度な技量。現状で再現するにはほど遠く――ただ、脅威を感じるのみ。 「燃え尽きろよ! ――朱雀、天翔ッ!」 角材が一閃し、不死鳥が舞う。火の鳥の如き炎の波がリベリスタ達へ襲い掛かり飲み込む。 源四郎の身も、手にした角材も。全てを飲み込み吐き出された炎がグラウンドを赤く染め、舐めあげる。大気の熱量も上昇し、枯れた草が炎を上げる。 残心。熱量を持った吐息を吐き出し、源四郎が呟く。 「……やったか?」 だが、それは世間一般にはフラグとよばれるものである。炎の消えたグラウンドに立つのは、いまだ無事なリベリスタ。否……無事に『された』リベリスタ。 「――残念でした」 理央の杖が輝き、福音を響かせる。燃え尽きんとする先に、理央の癒しが最後の最後でリベリスタを立ち続けさせたのだ。 「全てを出し切り戦いたかった。勝ち負けではないが……だが、勝つ!」 まだその身を炎に包まれたままの源一郎が肉薄し、源四郎へと拳を叩きつける。凄まじい蒸気があがり、打撃と共に一瞬源四郎の視界を塞ぎ…… 「……マジかよ」 蒸気の隙間から、源四郎が見えたものへと嘆息する。そこにあるのは銃口。迷いなく突きつけられた、雑賀の銃口。 火縄が燃え尽き、銃声が響く。アーク随一の精度のその一撃は炎の残滓と源一郎の拳より生まれた蒸気の隙間を突き抜け……源四郎の額へと叩き込まれた。 ●終劇 かくしてアークへの挑戦劇は幕を閉じる。 源四郎は死には至らなかった(銃弾が貫通しなかった)為に生存はしたが、決定的な負けを享受した。源四郎が倒れては剣林もそれ以上の戦闘は望まず敗北を認め、立ち去った。 だがこれが最後の挑戦とは思えない。 脳筋が居る限り戦いは存在し、これからも挑戦があるのだろう。様々な形で。 あるいはどこかの戦場で出会うかもしれない。 その時はまた、力を持って決着がつくのかもしれない。力はわかりやすい正義なのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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