●機械の獣たち 神奈川西部から静岡県東部にかけて存在するその山に、異形の動物たちが闊歩していた。 体毛の代わりに体を覆っているのは、鈍く輝く鋼。 金属製の獣たちが山中を我が物顔に駆け回っている。 その数はおそらく10体以上もいるだろう。種類も狼や熊、猿などさまざまだ。 無論、木々の合間をかけていれば、峠道へと飛び出すこともある。 タイヤが地面とこすれる甲高い音が山の中に響いた。 急ブレーキを踏んだトラックだったが、突如目の前に飛び出してきた相手を避けることはできなかった。 「うわぁっ!」 運転手が悲鳴を上げる。 トラックの前部がひしゃげる。 ふらつきながら出てきた運転手は、きしむような唸り声を聞いた。 今しがた轢いた金属の熊が、まるで傷つくことなく立っている。 「ひっ……」 振り上げられる、巨大な鋼鉄の爪。 本物の熊をはるかに凌駕する力でもって振り下ろされた爪は、運転手の男の首を用意にもぎとった。 ●ブリーフィング 集まったリベリスタたちを『ファントム・オブ・アーク』塀無虹乃(nBNE000222)が見回した。 「皆さん、お疲れさまです。エリューション・ゴーレムが発生しました」 金属製の獣という姿をしたゴーレムたちは、三高平市からもさして遠くない静岡県の山地に姿を現すらしい。 「どうやらゴーレムたちは、動物型のロボットのようです。いったい誰が何のために作ったのか、どうしてエリューション化したのかはまったく不明ですが」 以前、人型ロボットがエリューション化した事件の報告などもあったが、どうも同じ製作者の手によるものと考えられるということだった。 「誰が作ったものか気にはなりますが、それよりも無軌道に暴れまわるエリューションを放置しておくわけにはいきません。退治してきてください」 何体かは山を抜ける道路に姿を現して、車両と接触事故を起こすらしい。 そうでない物にしても、山の動物たちを惨殺したり、木々を倒したりと暴れまわるという。 「敵は4タイプ存在しているようです。合計で10体が出現します」 まずは狼型が3体。速度に優れており、高速で襲いかかることで動きを鈍らせてくるという。また、ただでさえ高速であるのに脚部に仕込んだブースターでさらに加速することもできる。 それから、猿の姿をしたロボットが4体いる。枝を伝って弱点をつき、混乱を引き起こすトリッキーな動きで攻撃してくる。防御力を弱める酸性の液体を吐き出して、範囲に攻撃してくることもあるようだった。 さして強くはないが、猿たちはサイズが小さい分見つけにくく、群れて行動しているらしい。 イノシシ型が2体。鋭い牙を頼りに突進してくる。牙に貫かれれば大量に血を失い、ショック状態に陥ってしまう。背中にはミサイルが仕込まれていて、視界内をまとめて撃つこともできる。 「最後に、一番の強敵である熊の形をしたロボットです」 爪を振り下ろせば、その威力は優秀なデュランダルにも匹敵する。 咆哮は超音波となり、周囲にいる者を敵味方関わりなく薙ぎ払ってくる。音波に惑わされれば、まるで呪われたかのように不運に見舞われ、しかもそこから脱するのが難しくなるのだという。 防御フィールドを展開し、防御力を上昇させてくることもあるらしい。 今回、猿以外の敵はばらばらに行動している。 「各個撃破のチャンスです。ただ。敵はしばらく山の中にいるでしょが、時間をかければどこに行くか万華システムでさえ予測が困難です」 敵を探すときは、そこを念頭において計画を立てなければならないだろう。 「もしかすると、製作者やその仲間が付近にいるかもしれません。こちらから接触しなければ、手出しをしてくることはないと予測されますが……」 もし見つけ出して捕らえられれば、目的などを聞きだすこともできるかもしれない。もっとも目的はあくまでゴーレムの排除であり、余力があったらという話になるが。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月23日(土)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●峠道 神奈川と静岡を結ぶ峠道を、リベリスタたちの乗る車が走っていた。 今のところはまだ、鋼の獣たちは姿を見せていない。 「さてはて、面倒な相手ですね」 本当に面倒くさそうに言ったのは『働きたくない』日暮小路(BNE003778)だった。 「誰の仕業かなんて存知ねーですが、事故がおきると面倒くさい。面倒くさいと仕事が増える。働きたくない。さてさて、ばっちり始末しましょー」 華奢な少女は、息をするのも面倒くさいと思っていた。金髪の髪についた寝癖を直す気もまったくない。 とはいえ、広い山の中から敵を探すことを考えれば小路に同意する者も少なくはない。 「確かにめんどくさいわね。山の中にいるとか。ま、潰すだけよね」 眠たげな目つきをした『出来損ないの魔術師』シザンサス・スノウ・カレード(BNE003812)は銀色の髪を指先ですいていた。 探すのは大変そうだ。 だが、一般人に危害を加える前に倒さないといけない。 「こんな面倒なものを作った人達にいいたい事が山ほどあるけれど見つけることは出来ないかしら?」 広い山、どこに敵がいるのか……今のところは見当もつかない。 けれども万華鏡の予測は外れない。10体の動物型ロボットは確かに山中に潜んでいるのだ。 「鋼鉄の獣、か……巨大ロボ、を思わせる相手」 ツインテールの女性、『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)以前にもエリューション化したロボットと戦ったことがある。 形は異なる。だが、万華鏡の映像で見た敵は、かつて戦った敵と同じような雰囲気が感じられた。 「以前と同じものであろうか? それとも違うのか……」 天乃と同じ印象を『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)も抱いていた。 だが、2人はすぐに思索を打ち切る。 「繋がりが、あれば面白い……けど、まずは撃退。それだけでも、十分楽しめそう……だね」 「うむ。今は、戦場。そのような事は重要ではないな。目標を駆逐する」 天乃に頷き、ウラジミールは綺麗に刈り込んだあご髭を撫でた。 「話を聞く限り少なくない数の敵が居ますし、排除に全力を注ぎましょう」 ツリ目の女性が静かに告げる。 もっとも、『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)の表情は、少々気負いがあるようにも見えたが。 「動物退治、というとおとぎ話みたいですが、ロボットではそうも言ってられません、ね……」 「ああ、一般人が巻き込まれる前に殺す。これは守るための戦いだ」 眼光鋭い少年が応じる。 (俺に貴女の代わりができるとは思えないし思わないけど。貴女の残した仕事、しっかり引き継ぐぜ) ここにはいない誰かに『Beautiful World』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)は心の中で語りかけ、密かに気合いを入れ直す。 山中から道路へと一直線に駆けてくる敵を最初に見つけたの、ウラジミールだった。 「任務を開始する」 コンバットナイフをシースから抜き放ち、頑丈な軍用ハンドグローブを牽制するかのように構える。 「7連戦か。全戦全勝と行くとしようぜ」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は不敵に笑い、双眼鏡から手を離しリボルバーを抜いた。 「鋼鉄、か。山育ちのボクを草と位置づければ鋼は相性が悪いけど、はてさてどうだろうね?」 緑の髪に黄色いメッシュを入れたターシャ・メルジーネ・ヴィルデフラウ(BNE003860)は、リベリスタの能力なしでももうはっきり見える敵を観察する。 狼に似せてはいる。だが、草木の緑に鋼の狼はどこまでも不似合いだ。 「さあ往こう。すべてを殲滅せしめようじゃないか」 蛇のペンダントを手に、ターシャは仲間たちに声をかけた。 ●飛び出して来た獣たち 影継は加速する敵にリボルバーを向けた。 狼は高速で突撃してくる。 「そんなスピードじゃ、方向転換もろくにできないだろ」 瞬く間に大きくなる敵影に向けて引き金を引く。 装填している弾丸は衝撃で動きを鈍らせる効果があった。吸い込まれるように着弾する。 鈍っていてなお狼は素早かったが、突進攻撃を佳恋の刃が受け止める。 防御が間に合ったのは弾丸の影響か。だが、衝撃だけで佳恋が揺らいだ。 天乃の気糸とシザンサスのナイフが相次いでひらめく。 「コレがボクの解、ディフェンサードクトリン!」 ターシャが仲間たちと、佳恋が攻撃を防いだ動きを共有する。 小路も視野を広く持って仲間たちに指示を行う。 「気をつけろ、もう1体来る!」 警告を発して、ウラジミールが守りを固めてもう1体の狼をブロックした。 ユーニアが放った暗黒の気から、鋼の狼が飛び出してくる。 敵は弱くはなかったが、8対2では及ばない。 加速する敵の牙も、ウラジミールの守りを破るほどではなかった。鮮烈に輝くコンバットナイフがまず1体を切り裂いた。 そして、もう1体の狼に影継はうなりをあげるチェーンソー剣を構える。 「これからまだまだ敵が待ってるんだ。さっさと倒れてもらうぜっ!」 全身の闘気が爆発し、鋼の体をねじまげる。大きくへこんだ胴へとさらに力をこめると、鈍い音がして分断された狼ロボが道路に転がった。 最初の戦いを終えたリベリスタたちはさらに道路を移動する。 小路は面倒そうに木々の奥を覗き込んでいた。 実際面倒なのは事実だったが、だからと言ってやらないわけにもいかない。 探索には当然時間がかかるため、スキルを維持しておけないのも面倒な話だった。メタルフレームのように自動的に回復するならまだしも。 「……来るわ」 呟いたのは天乃だった。 ガードレールがひしゃげる鈍い音が聞こえた瞬間、彼女は宙を舞う。 軽々と飛んだ彼女のスカートの中身がわずかも見えない。いったいどれほど鍛練すればあの動きが身につくのだろう。 (あたしにはとても真似できねーですね) 姿を見せた猪の進路に、小路は『止まれ』の標識を立てた。 敵の全身から血……いや、オイルが飛沫をあげる。 「さあ、面倒くさいから、さっさと片付けちゃってくださいよ!」 仲間たちへと呼びかける。 天乃の気糸が幾重にも縛った敵にシザンサスのナイフが分身をともなって突き刺さった。 小路の指示が仲間たちの攻撃を効率化する。 瞬く間にリベリスタたちは猪を追い詰めていった。 「言われなくても、さっさと片付けてやるさ」 ユーニアの闇の気が敵を飲み込む。 鋼の猪が侵食されるのを、眼をこすりながら小路は眺めていた。 ●森の中の戦い 道路を一通り見回った後で、リベリスタたちは山の中へと入っていった。万華鏡の予測した事故が起こるのはまだ先のようだった。 天乃は斜面を音を立てないように登っていく。 音と匂いを察知するスキルを持つ彼女は、一行の耳であり、鼻だった。 「機械仕掛けとはいえある程度は元の動物の行動に倣うのかね」 本物の獣たちの行動パターンから予測しているものの、なかなか見つからない。 全員が固まって探すには、山の中は意外に広かった。 布団を背負った小路が眠そうにしている。 「途方にくれそうよね……探すのに手間がかかるわ」 シザンサスがうんざりした声を出す。 それを、無言で手を伸ばして天乃がさえぎった。 「……あっち……音がした」 木の上から聞こえた小さな音を天乃は聞き逃さなかった。 森の匂いに混ざって、オイルの匂いもかすかに漂っている。 近づけば敵には察知されるだろう。まっすぐリベリスタたちは音の元へと向かう。 「来るよ!」 銀色をしたロボット猿が枝葉を散らして木から木へ飛ぶ。ターシャが即座に反応していた。 距離があるうちに、小路が不可視の刃で敵を切り裂いた。 弱点を狙う猿の手を天乃はクローで受け止める。 仲間たちよりも、幾分前進していたウラジミールを猿の腕が薙ぐ。 シザンサスと佳恋は奇襲を受けて惑ったようだった。 影継の手にしたリボルバーが銃声を放つ。一発だけではない。立て続けに放つ銃弾が、4体の猿たちを穿つと同時に枝を断って地面に落とした。 漆黒の気で敵を包むのはユーニアだ。 天乃が木の幹を蹴る。 本物の猿と同等以上に身軽な敵。忍術由来の戦闘技術を用いる彼女にとって心躍る相手だ。心の中の楽しみが、表情に表れることはなかったが。 両方の技が直撃して弱った1体に、飛びかかった彼女の爪が触れる。 「……爆ぜろ」 爪自体では鋼の体は傷つかない。けれど、植えつけたオーラの爆弾は鋼鉄を食い破り爆破した。 佳恋は輝きに包まれたのを感じた。 奇襲攻撃に惑わされた彼女とシザンサスを、いち早く混乱から回復したウラジミールが癒してくれたのだ。 白鳥の羽を思わす刃に爆発的な気を集中させる。 薙ぎ払った一撃が猿を吹き飛ばした。 2体は後衛の仲間たちへ敵の吐き出した酸が雨のように降り注ぐ。 けれど、吹き飛ばされた1体は戻ってくるのが精一杯だった。 そして戻ってきた瞬間、その1体は影継の銃弾に貫かれて動きを止めた。 ターシャが酸に焼かれながらも仲間たちに指示を出す。 鋭く突き刺さったシザンサスのナイフが猿の首を落とした。 最後に残った1体を天乃の気糸が縛り上げた。 佳恋は純白の長剣を鋭く薙ぐ。 動きの止まった敵をデュランダルの技が断ち切っていた。 「連戦、ですね。消耗に気をつけないと」 剣を鞘に戻して、彼女は息を吐いた。 猿を撃破したリベリスタたちはなおも探索を続ける。 「少しでも回復を早めよう」 ウラジミールが生命の力を付与したおかげで、猿から受けた傷は徐々に治っていた。 敵の数も減り、探索も難しくなっていく。 ユーニアは仲間たちから離れて、単身で探索していた。 (俺はガキなんでね。いつまでも仲良く探しものなんて我慢できるかよ) もちろんアクセス・ファンタズムでいつでも連絡は取れるようにしてある。 リベリスタとしての能力で異常なまでに目端の利く少年は、やがてなにか重い存在が歩いた痕跡を発見する。 「本物の獣……じゃねえな」 感じ取ったのは無機質な違和感。ユーニアはその痕跡を追っていく。 果たして、その先には鋼の猪がいた。 「来るなら来いよ。ま、来ないならこっちから行くけどな」 ペインキングの折れた棘を加工した得物を構える。 借り物の武器だが、すでに扱い慣れていた。 突進してくる猪に対し、棘が赤く染まる。それは今や、敵の血を吸い取る魔具と化していた。 仲間にはアクセス・ファンタズムで連絡した。駆けつけてくるまで耐えねばならないのだ。 鋼の牙に貫かれながらも、ユーニアは棘を突き立てる。 受けたダメージに比べれば微々たる物だが、仲間たちが来るまで持ちこたえなければならない。 突き刺さった棘からエリューションのエネルギーを吸い上げる。 貫かれた傷口がふさがり始めていた。 やがて、仲間たちが駆けつけた。佳恋とウラジミールがユーニアの隣に並ぶ。 「礼は言っておくぜ」 「気にしないでください。おかげで敵が見つかりました」 短期決戦を狙ったのだろう。横に回りこんだ佳恋が雷鳴の宿る刃で猪を切り裂く。 ミサイルの雨が降り注ぐ中で、リベリスタたちは猪へと攻撃を集中する。 ゴーレムが倒れるまで、さして時間はかからなかった。 ●ベア・アタック 少し開けた場所から、遠くに鋼の熊の姿を見つけたのはウラジミールだった。 「悪い状況だ。熊がもうすぐ道路に出る」 双眼鏡を持ってきていた者たちもそれを使って確認する。 山の中をリベリスタたちが走り出す。 シザンサスは急ブレーキを踏む音を聞いた。 トラックと鋼の熊が衝突したのだ。 背中の翼を羽ばたかせ、音が聞こえた場所へと急ぐ。ユーニアが舌打ちをしていた。 全員が固まって行動したほうが戦いでは有利だったが、その分探索には時間がかかってしまったようだった。 万華鏡の予測は外せなかったものの、エリューションを放置しておくことはできない。 (作った人たちに言いたいことが増えたわね) 敵は強力だ。回避を優先することを意識しつつ、シザンサスは敵に接近する。 リベリスタたちの姿を見て、白銀の熊は防御フィールドを展開した。 だが、そのフィールドはすぐに砕けることになった。 影継が闘気を爆発させ、ユーニアが赤く染まった刃を振りぬく。 その間にウラジミールが意識を集中して、振り下ろされた爪を頑丈な軍用グローブで受け止める。 「熊殺しを訓練でなく行うことになろうとはな」 鮮烈に輝くナイフが一閃し、防御フィールドを切り裂いていた。 フィールドが消えたところを狙って、シザンサスは動いた。 「……舞うように刺す、ただそれだけよ」 彼女が使うのは近接格闘との複合魔術である『舞』。舞うような動きで、高速戦闘を行う。 幻惑する動きで、鋭く鋼の外皮の弱点へとナイフを差し入れる。 仲間たちに比べるとまだまだ力の足りないシザンサスだが、その一撃は浅からぬ傷を与えたようだった。 ターシャは突然最後の1体……鋼の狼が乱入してきたのに即座に反応した。 クリソプレーズでできた緑がかった蛇のペンダントに触れる。 「多少の延焼はご愛嬌サ!」 ピジョンブラッドの瞳が敵を睨みつけると、飛び出してきた狼を爆炎が包んだ。 範囲攻撃は仲間を巻き込んでしまうため、回復役のいない今回のメンバーでは使いにくかった。だが、木々を巻き込んでしまうのは仕方がない。 小路の不可視の刃も敵を切り刻んでいた。 天乃も音で接近を察知していたようだった。鋼の熊を足場に宙返りする。重力を無視したかのようにスカートは微動だにしない。突進してくる狼を全身から放つ気糸で幾重にも縛る。 「狼も来てるよ! 気をつけて!」 ターシャの声に応じて、影継とユーニアが熊から距離をとる。狼を視界に入れて、銃弾の乱舞と暗黒の気で2体の敵をまとめて攻撃するためだ。 熊の超音波がターシャたちを包むが、狼が動けなくては不運を呼ばれても意味がない。 相次いでの広域攻撃が捕縛から逃れるよりも前に狼を撃破していた。 ウラジミールは背後で狼との戦いが行われている間にも熊から目を放さない。 防衛役である彼にとって、最優先すべきは強敵を自由に動かさないようにすることなのだ。 はめているグローブは軍用の対テロ戦兵装だ。優れた防御性能を持つそれはシールドと遜色ない効果を発揮する。輝く防御のオーラとターシャの支援で強化したそれは、鋼の爪をよく防いでくれた。 「獣たちが連携してくれば苦戦したであろうな。だが、獣の姿をしているからといって動きまで獣では、各個撃破の的にしかならん」 爪は強力だったが、歴戦のクロスイージスである彼を簡単に倒すほどではない。影継のショック弾で動きが鈍っているからなおさらだ。 もっとも、移動中にいくらか回復していなければ危なかったかもしれないが。 狼を片付けた仲間たちが攻撃を集中する。 天乃が気糸で敵を捕縛する。 奇跡的に直撃を避けたのは敵が獣並の生存本能を持っていたためか。暴れまわってそれから逃れた熊は、再び防御フィールドを展開する。 悪あがきに過ぎなかったが。 「こいつで最後だ! さっさと片付けてやろうぜ!」 気合と共に振りぬいた影継のチェーンソー剣が、敵の回復を阻害する。警戒しつつ放った佳恋の刃もその傷を広げた。デュランダルの攻撃はフィールドをものともせずに痛打を与えていた。 黒死の呪いを帯びたユーニアの武器が敵の体力を削り取った。 「そろそろ倒れて欲しいですね。もう帰って寝たいんで」 小路が気だるげに操る真空刃が弧を描いて鋼の外皮を切り裂く。 ウラジミールはグリップまで鋼鉄製のコンバットナイフに破邪の力をこめる。 フィールドを切り裂いた刃の先端に鋼の手ごたえを感じた。 さらに力をこめると、鋭い刃は外皮を切り裂いて内部の機械部品を露出させた。間髪いれずにその傷口へナイフを差し入れると、刃は背部まで貫き通っていた。 ●山に日が落ちる 戦いが終わったころには、太陽はもう山に沈みかけていた。 「なかなか面白いオモチャだったな。作った奴の顔が見たいもんだぜ」 動かなくなった熊と狼をユーニアが見下ろす。 「まだ探しものですか……あたし、ここで寝てていいっすか?」 小路は背負っていた布団を下ろしかねない様子だった。 「探すにしてもあまり時間がないね。もうすぐ日が暮れる。ボクは夜に動くほうが好きだけど、その誰かはそうじゃないだろうし」 夜行性のターシャは縦に割れた瞳孔で隠れかけている太陽を見上げた。 残念ながら探索に時間がかかりすぎていたらしい。 「エリューションを確実に倒すのが最優先だ。仕方ないな」 いちおう日が沈むまで探索が行われたが、時間が短かったこともあり成果は上がらなかった。 薄闇の中で、ウラジミールは倒したロボットたちの部品のうち、重要そうなものを回収する。 後の始末はアークに任せておけばいいだろう。 「……解析してみなければわからんが、やはり前に戦った敵と似た部分があるな」 「そう……だね。作った人がわからないのは残念だけど……また出てきたら……楽しめそう」 天乃の淡々とした声には、かすかに期待が混ざっていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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