●幸福の終わり いってらっしゃい。 いってきます。 ただいま。 おかえりなさい。 そんなやりとりが出来たのは、四日間。 四日目の夜。五日目の朝。彼は帰らぬ人となった。 轢き逃げ。犯人は逃げて、彼は六月の雨の中、殺された。 ● 「お願いするのは、一般人を殺害しようとしてるフィクサードのこと」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がブリーフィングルームに集ったリベリスタ達を振り返った。 そして真摯なまなざしを注いだまま、時間を惜しむように次の句に唇を開く。 「紀井・紗綾(きい・さや)。ジーニアスでダークナイト。 ……わけがあって、一人の男性を殺そうとしてる。でも、見た以上、見過ごせない」 イヴは一人の男性の写真をリベリスタ達に提示する。 写真の下に『東方・秀一(ひがしかた・しゅういち)』とメモ書きがなされただけの、スーツ姿の男の写真。 そしてもう一枚、同年代の女性の写真が並ぶ。 「そっちは?」 「秀一の婚約者の皆井・美春(みない・みはる)。……場合によっては、彼女も標的になるかもしれない」 直に復讐が遂げられないと悟ったとき、矛先が向けられるのは彼の大切な人だろう、と。 少女は物憂げに眉を顰めた。 「紗綾が秀一を狙うわけは、彼が彼女の旦那さん……夫を殺したから」 訳を問う声に、一度、眉を顰めた少女は、表情を内に閉じて淡々と語り始めた。 雨の日の夜に紗綾の夫が、秀一の車に轢かれた。 息があったか、即死か、今となっては知る術はないが、秀一はその場から逃げ出した。 事件後に、紗綾は必死になって犯人である秀一を突き止めた。 だが彼女に法に確かと頼るほどの証拠はなく、せめて自首を願ったが袖にされ。 そして彼女の憎悪は積もり、未来へと至る。 「美春のマンション前で、紗綾は待ってる」 そう大きくも、新しい設備でもない、何の変哲もないマンション。 夜間でもいくらか車の通りのある道路に面し、居住階は二階から四階。 一階部分は広さに余裕を持たせた駐車場と、ガラスの扉で区切られた出入口になっている。 出入口の脇には、対照的に暗く狭い小路が奥に続く。人が一人、通り抜けられる程度の裏道のようだった。 「今から出て、到着は夜。天候は雨。秀一達が帰ってくるより少し前」 イヴは「どうするかは任せるから」とだけ言葉を足し、リベリスタ達の背を見送った。 ●憎悪との決着 しとしとと、雨が降る。 いつから降り出したかにも頓着していなかったが、喪服代わりの黒いワンピースは肌に張り付き始めた。 彼女はマンションの固い壁に寄りかかり、ただ、たった一人を待っていた。 その姿は表に見えれば奇異な姿だが、稀に通る人の目に彼女の姿は映らず、すぐ横を人が過ぎ去っていく。彼女も、道路の端にまばらに立つ街灯に照らされる見知らぬ人の横顔を見送るだけで、何をするでもなかった。 しばらくして、ふと。 瞼の裏に映り込んだ明るい尾灯を目で追い、無意識に彼女の口角が上がる。 微笑みを湛えたまま、腰に携えた短刀の鞘に触れた。 仕事帰りだろうか。車から降りた男女を息を殺して見据える。 女が分厚いガラス扉をくぐって手を振れば、傘をさした男がはにかんで手を振り返す。 ――ああなんて幸せそう。 積年の憎悪は音すら立てず、痛いほどに胸を焦がし、それに急き立てられた影は光へ踏み出す。 胸元に飾られた黒薔薇のコサージュに、温い滴が跳ねた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:彦葉 庵 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月28日(木)23:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 雨が降っている。さほど強くはないが、一向に止む気配はない。 一人の女が、誰の目にも止まらず、男を待っている。 本当に帰ってきてほしい人はもういない。 蛍光灯の陰で待ち焦がれる男は、愛しい人の仇。 顔を見たくもない――だが、殺したいほど憎い男を、陰欝な雨の中で待っていた。 しばらくして、そろそろかと重い瞼を押し上げる。 ちょうど一人の線の細い女性が、紗綾が息を潜める脇道へ入っていく。 雨の中、暗く狭い道へ入っていく美しい人――ステルスによって、エリューション能力を潜めた『Manque』スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)――は、相手によっては好奇の目を引いただろう。 紗綾に至っては体を避けるだけで、ほぼ目を移さなかったものの、 「きゃっ……!」 不意に派手な音がした。奥で転倒したか、物を落としたのか。 その音を確かめるように向けた紗綾の目が、大きく見開かれた。 視点はただ一点に固定されている。 「……どう、して……?」 思わず零れた声。 脇道の奥に男――東方に見える姿があった。そして顔を合わせるなり、さらに奥へ逃げた。 壁に手をつき立ち上がるスペードの脇を抜け、さらに背が遠のく。 冷静に考えるならば、不審な点は多い。 東方がわざわざ暗く細い道を、こんな時間に通るだろうか。 一般人であるはずの男が、影に潜む自分を見つけ、暗く距離もある状態で判別できるか。 どうもおかしい――だが、確証がないのだ。 たとえば犯罪行為、突然の覚醒。いくつか条件を仮定すれば、有り得る事態である。 仇に見えた。だが、確かに東方だったと、断じることもできなかった。 間違いは犯してはならない。しかし、暗器を携えた姿を見られた上で逃がせば、次を捉えられるか。 焦るほど、雨音と心音が聴くべき幻の音をこぼし、暗闇を見通す視界に雨粒の膜が張る。 思考はただ急いて、憎悪が喉を絞める。 はたして亡羊と、そして確と思考したのは何秒か。 一度、道路の車影を確かめ――紗綾は唇を引き結び雨水を蹴った。 マンション入り口のすぐ近くで、不自然に水が跳ねる。 道路を挟んだ向かい側から、二人の青年が目を細めて、あるいは小さく息を吐き、それぞれに見送っていた。 「あちらの第一段階は完了といったところか」 「おおよそ。こちらも動きましょう」 雪白 万葉(BNE000195)の静かな相槌に、スーツを纏ったリオン・リーベン(BNE003779)が傘を広げた。 レインコートを着込んだ万葉が一歩先に道路へと出る。 その視線の先では、彼らと同様に作戦の進展に動く人影があった。 入念に東方の姿を記憶し、超幻影でその幻を作り出した『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が脇道へ入っていく。それに『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が続く。 「ふん……轢き逃げ犯を守る、か」 唇を歪めリオンは一人ごちた。呟きは雨が傘を叩く音に消える。 罪のある一般市民でも守らなければならないか否か。 しかしそれは、己が決めるべきことではない、と――リオンは解への思考に区切りをつける。 間もなく、件の市民を守る役を担った万葉とリオンは、一台の車を駐車場で迎える。 「初めまして、東方さん、皆井さん」 神秘によって張られた結界の中、電灯の下にある人影は見当たらない。 雨音が耳につく。 「……悪いな、奥さん。ちょっと東方と話がある。部屋で待っていてくれないかな」 剣戟は、戦いを知らぬ者には遠く、戦いを知る者には近い。 狼狽える姿を前にして、二人は深色の瞳を眇めた。 ● 一閃。 幽鬼の如く浮かび上がる赤い刃は首を裂いた。と、同時にそれが幻影だと核心を得る。 首を裂いた感触はなく、揺らめく幻の奥で短刀がCortana――切っ先の欠けた剣と重なったためだ。 「こんばんは。私はスペードです」 名乗りに返答はない。自嘲の笑みを浮かべる紗綾に向かって、スペードは立ち塞がった。 冷ややかな眼差しが、ぐるりと自らを囲む状況を確かめる。 スペードの奥から軽快に、しかし綱渡りのように壁の上を伝ってくる少女には、猫の耳と長い尾が見える。 「さりあもいるのにゃ!」 溌剌とした声は、刺すような空気を和らげるようだ。白いスクール水着の眩しい『マッハにゃーにゃーにゃー!』加奈氏・さりあ(BNE001388)から、次は空へ目を向ける。 鈍色の天には甘い苺色の翼の少女と、純白の翼をもつ少女が構えていた。『運び屋わた子』綿雪・スピカ(BNE001104)の手にはバイオリン、『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)はタブレットPC。両極に感じる得物だが、彼女らの眼差しは共通して静謐に見えた。 最後にマンションの壁を背にして、左手の来た道を塞ぐうさぎと、その傍らの壁に登った風斗を見やる。 囲む六人――見るに、揃って相応の実力者。 誘い込まれた事実を鑑みれば、立ち塞がった彼女らの望みは想像に易かった。 駐車場にて、東方とリオンが対峙していた。 不安げな東方の婚約者、皆井を入口へとエスコートする万葉を一瞥し、口火を切る。 「東方秀一だな。俺はアーク探偵事務所のリオンと言う」 訝しむ顔に構わず、淀みなく流暢に続ける。 「ある人から君の身辺警護を頼まれた」 「恨まれている覚えがあるでしょう? 隠匿は感心できませんね、誰かが思い詰めてしまうかもしれません」 隣に立った万葉にリオンが振り返れば、皆井は部屋に入ったらしく姿がなかった。 「それはっ」 掌を前にかざし、言い募ろうとした言葉を遮る。ただそれだけでも、蒼褪めた顔で東方はたたらを踏む。 黄みがかった白いコンクリート床に、傘とレインコートが運んだ雨の染みが広がっていく。 「守秘義務によりクライアントは当然言えない。それで、中に入るか?」 気が付いているこの様子なら威風を持ち出すまでもないだろうか。 色違いの双眸でつぶさに観察する。自分達よりも幾らか年上の風体の男の挙動は忙しなく、周囲の人影を確かめ、唾を呑み込んでようやく口を開いた。 「い……いや、車か……ここにしてくれ。頼む」 護衛が付く異常事態だと気が付いているだろうに、それよりもたった一人に知られたくないと――そう示した東方に、どちらともなく息が零れた。 眼鏡の橋に指を添え、軽く押し上げて万葉は緩慢に首肯する。 「わかりました」 戦端は再び、切って落とされた。 闇の中で刃は赤く染まった。それに反応したのは、さりあ。 「よけるにゃ! ねこ、きーっく!」 不安定な壁の上、揺れる尾でバランスをかき集め、力を放つ。 鋭く放たれた風が雨を裂き、刃はうさぎの眼前で空を掻いた。 互いにそれぞれの息を探り、間合いを計る中で純白の翼が羽ばたく。 「ハンムラビ法典というものを知っていますか?」 無言を肯定ととって、識者は言葉を続ける。 では、知っているでしょう? 代名詞とも言える『目には目を、歯には歯を』、そのフレーズ。 「あれは単純な因果応報ではなく、過剰な復讐を防止するためのものです」 紀元前1700年から、人は過剰な復讐を禁じていた。そして、今も。 「ですから、我々は貴方のその復讐を許すわけにはいきません」 「っ! ……過剰、かしら」 集中を重ねられた一手はピンポイントに、紗綾の片足を射抜き動力を削る。 悪条件の重なる状態ではあったが、研ぎ澄ました精神が功を奏した。 誘導にかかった人物とは思い難いほど、静かな怒りの色が青い瞳を睨む。 「……あの人が憎いのね」 伏し目がちにスピカは弓を弦に添え、最初の一音を弾く。 宙に浮かぶ魔法陣が音によって形をなして、絶えぬ雨に入り交じり魔力が降る。 「自分だけ幸せになろうって、卑怯よね。だけどね、そうした所で何も変わらないの」 未来を喪った過去の花嫁と、過去を葬り往く未来の花婿。彼女はどちらともが愚かだと思う。 悲劇は連鎖する。復讐は誰も幸せになれない。美しく、正しい言だ。 この場にあるリベリスタにも、近しい思いを抱く者は少なくないだろう。 「……その通りかもしれないわ。でも、私はね、あなた達のように賢くないの」 過去は変わらない。いつまで待っても、帰って来ない。 変えられるのは未来。――未来を喪い捨てた女には、少女の言の葉は儚いものだった。 「……! 紀井さんっ、待って、聞いてください……!」 スペードの震える手が、紗綾の腕を掴んでも止まらない。 間近に感じる負の激情に身が強張りながらも、その力を制そうと唇を噛んだ。 己の小さな吸血鬼の牙で切れ、口内に広がる血の味が生々しい。 「そこまでの執念があるのなら、私達を倒してその熱意を証明してくださいますよね」 身構え釘を刺したチャイカから、表情は見えない。だが、緩やかに首が左右に振れた。 「私が殺したいのはあなた達じゃない」 色の失せた唇が苦しげに何事かを呟き、虚空から黒霧が生まれる。 スケフィントンの娘の腕に、有翼の識者が包まれた。 ――娘という名の黒霧に抱かれる瞬間、あらゆる苦痛が降りかかるにも関わらず、ごく微かに笑った少女の口元に、誰が気付いただろう。 スピカは急ぎ苺色の翼から雨を払い、扉の解放後の回復に備え詠唱を響かせる。 未だ、紗綾を含めた視線は数瞬の間、空に残っていた。 「スペードさん、離れてください」 声が聞こえたときにはもう、唇を交わすほど、近い間合い。 オッドアイに振り翳された特徴的なうさぎの得物――11人の鬼が視界で煌めいた。 不安定だが、即座に短刀が弾き、次の瞬間には目を見開く。 うさぎの斜め後ろの壁の上、安定した姿勢の風斗から放たれた真空刃が身を削っていた。 「あんたに罪を犯させるわけにはいかない。……俺たちはあんたを絶対に、止めてみせる!」 彼は宣言し、唇を引き結んだ。 風斗もまた、降って湧いた理不尽に家族を奪われた。だからこそ、余計に力がこもる。 真直ぐな熱の籠もった声と目の主、風斗から紗綾へ。つつ、と無表情にうさぎの三白眼が動く。 スペードに抑えられていない腕が構えた短刀と、11人の鬼とが噛み合い、ぎちぎちと鳴る。 「頑張ってなのにゃ……」 ぽつりと言葉とともに、さりあの前髪から雫が落ちた。 後方から彼女が一撃見舞えば、簡単に均衡は崩れる。 だが、さりあは尾の先を揺らめかせ、意識を研ぎ澄ましたまま動かない。 振りほどかれないよう、ぬかるみという足場でも踏みとどまるスペードの背中を見詰める。 このまま、終わってしまわないように。壁と空間で隔たれた先にも、届けとばかりに。 「……貴女は、それで良いんですか」 息を殺したうさぎが、問う。 ● 轢き逃げの事実を口に出された途端、東方は自己弁護という無罪の主張を繰り返した。 ――仕方がなかった。悪くない。違うんだ。気付かなかった―― 護衛と言うには手持無沙汰に時を過ごし、東方にリオンが言葉を挟んだ。 「俺は警察じゃない。君を強制的に連れて行くことはしない。だが、自首を強く勧める」 口上を聞けば逃避はすれど、罪の意識は推し量れた。 明瞭でいて力強い言葉に、音を為さない口を動かし、東方は後退る。 「……此方は、立証の手筈を整える予定です」 チェスか、将棋の如く。一手、確実に逃げ道を詰める。 「奥さんをずっと騙し続けて生きていくつもりか?」 東方は壁伝いにずるずると崩れ落ち頭を抱える。二人は次の句を告げず、場を後にする。 雨に交じり血臭漂う脇道へ、足を向けた。 もし、東方を殺したとき、その先の未来は。 過ぎ去り手に戻らない、それでも確かにあった、幸福の存在は。 「皆井さんは『貴女に』なる。そうしてかつての、四日間を踏み躙るのですか?」 少女達が告げた意味を、言い訳のできない感情と共に、真正面から突きつける。 「四日間だけ、けれど確かに四日間あった、幸福を。終わってしまったから、もう、どうでも良いのですか?」 傍らで、頭を撫でる人がいた。言葉を交わし、笑みを交わし。 その、ささやかで、かけがえのない幸福の日々。 喪われた。だが消えはしない、『在る』はずのもの。 「どうでもいいはず――そんな筈無いだろうが馬鹿!!」 声だけが感情を孕んで空気を叩きつける。 歯を食い縛る激情が、ぶつかり合う寸前、風斗が壁を蹴った。 降り注ぐ魔力が黒薔薇を焼き花弁が散る。 制止の利かない感情のまま、絡みついた気糸ごと泥を撥ねた。 「あんたの旦那っていうのは、人殺しを許容するような男だったのか」 赤光の線纏う大剣を、強引にうさぎの前のぬかるみに突き立て、蓄積した痛みを引き受ける。 決して折れない刃を前に、短刀の刃が零れる。 「今、あんたは人を殺そうとしてる。つまり、あんたの旦那はそういう女を嫁にしたってことだろう?」 「! フート!」 はらはらと見守っていたさりあの猫耳がぴんと立ち、ゆっくりと、息を吐きだした。 傷を顧みず、さらなる攻撃の手に出た紗綾を見れば、いわゆる逆鱗であったらしい。 後ろから組みついたスペードによってまず刺突を塞がれ、思考せず、刃を放った。 空から放たれたピンポイントが短刀を逸らし、風斗の喉を掠めるだけに終わり、後方でうさぎが叩き落とした。 「関係ないとは言わせない。あんたは失った幸福の為に、刀を持ったんだろう。それだけ大切なんだろ!」 戦意は消えていない。 だが、彼女になすすべはない。 「……教えてくれよ。あんたの言動だけが、旦那をこの世に現すことができる」 「……なによ、もう」 まるでまだ、その人が『ある』ように錯覚してしまう。 紗綾の震えた声に、うさぎは風斗を肘で小突いて茶化しだす。 二人の間ではすでに、独特の緊迫感は解けていた。 血は雨に流され続けほぼ見えないが、辛うじて息を繋ぐ紗綾に神秘の癒しが流れ込む。 驚いた顔を見せた彼女に、くすりと笑うスピカは年相応のそれだ。 「紀井さん……私にも、東方さんに自首をさせるお手伝いをさせてください」 「その件ですが、私もご協力します」 吸血鬼の青年は、仲間に声をかけ、スキルを用いてまで手伝おうと言う。 当惑に摘ままれていると、万葉の振り向き示した先、脇道の入口で人目を塞ぎ立つリオンの背が見えた。 そして、トップスピードで白スク水の少女が、その背目がけ壁の上を駆けていく。 「リオン! サヤもシューイチもミハルも、円満になりそうなのにゃー!」 次の瞬間、水たまりが派手に跳ね。紗綾は眩しげに、その光景に目を眇めた。 ● 「再犯の可能性がないなら、貴方が逃げてしまっても構わないのですが」 チャイカの目的は『事件の阻止』。それが成るなら、そう思って小首を傾げて問えば、また首を横に振った。 アーク連行に従ったのは、スペードや万葉の申し出の事もあるはず。 しかし、それだけではない。察した少女は緩慢に目を細め、そっと息を吐いた。 報告に向かう本部の回廊。 スピカとスペードが護衛に当たっていた万葉とリオンに顛末を確かめていた。 「ここから先は俺達が関わるところではない。……強く言っておいたがな」 「は、はい。それじゃあ……」 きゅっと、胸の前でスペードは緊張していた両の掌を握る。 彼女は、実行を別としても、東方に対して自首を促すための強い言葉辞さないつもりでいた。 「大丈夫そうね」 スピカは戦闘後、面と向かって東方に紗綾への謝罪と罪の償いを求めていた。 それに困惑しつつも星の名を持つ少女に謝意を示し、紗綾はアーク本部の別室に入った姿を思い出す。 誰も死んでいない。これから先も共存がなるのではと、そう願える。二人で頷き合って、微笑んだ。 彼女らを見送り、湿り気の残る髪をかきあげれば、赤紫のオッドアイが髪の合間からちらついた。 「どっちが先だろうな」 「……どうでしょう」 リオンと万葉は一定の距離を保ったまま、それ以上は語らない。 過去の清算と、花嫁と、花婿の未来の決断。 リベリスタによって書き換えられた未来が確かにある。あとは、彼ら次第である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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