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痴話喧嘩と討伐


「あれドライヤーって何処にあるんですか」
 って言いながら、芝池が部屋に戻ると、ソファに腰掛けたアーク所属の変人フォーチュナ仲島が、雑誌を開いた格好で、ぼーっと停止していた。
 とか、別にいいのだけれど、何か凄いぼーっと、目を開いたまま眠ってるみたいになってたので、これって声かけても聞こえてないんじゃないか、とか、今声かけても無駄なんじゃないか、とか、咄嗟に漠然と考えて、結果、芝池は、タオルを頭にかけた格好で、何かちょっと、じーとか、見ていた。
 無駄に美形の仲島は、無駄に美形だけあって、座っていても無駄に美形で、何か、置物みたいだった。
 と思ったら、突然、
「あーそれは痛いね」
 とか何か、良く分からない場所を見つめたまま、仲島が覇気なく呟いた。
「え」
 って、絶対自分に言われた言葉ではないだろうけれど、何か反応してしまったら、じーっと置物みたいだった仲島が、そのままゆっくりと首だけを動かしこちらを振り返った。
 瞬き一つしないカメラレンズのような切れ長の瞳に捉えられる瞬間は、どういうわけか若干ホラーで、芝池は、固まる。
「うん君には、言ってないよ」
 目が合うと、仲島は、言った。
「はい、そんな予感はしてました」
「っていうか俺何か言った」
「あ、はい」
「ごめんちょっと見えてたから」
「あ、はー」
「あと、髪の毛、乾かしたら」
「え、はー」
 って反射的に同じ頷きを繰り返し、繰り返した所でハッと思い出す。
「いえ、ドライヤーが何処にあるか分からなかったんで」
「あー洗面所の下の棚の中」
「あ、そうですか」
「ねーねー芝池君」
 ソファの上で伸びを一つし、また雑誌をぱらぱらめくりだした仲島が、言った。
「はい」
「俺の家のドライヤー使ってもいいけど、俺の家のドライヤー使ったら、君の家のドライヤーも使わせてよね」
「はーそれは嫌です」
「泊まったくせに」
「連れて来られちゃったんで」
「だから今度は俺も芝池君ち泊まっていいんだよね」
「そのギブアンドテイクの仕組みがあんまり良く分からないんですけど、泊まってもいいけど泊めたくはない、とかあるじゃないですか」
「どうして? 変な趣味とかあるから?」
「っていうか、見えてたって何ですか。予知とかですか」
「あ、話変えた」
「変えますよねそれはね」
「んー何か、喧嘩してる人が見えた」
「はー、喧嘩してる人、ですか」
「でもそれは人じゃなくて、どうもアザーバイドみたいで。こっちで言うとこのフェーズ……3くらいかなあ。めっちゃくちゃ本気で殴り合ってんの。見た感じ細マッチョの男子二人が、血だらけ」
「あー、よっぽど何かあった感じなんですかね」
「んー分かんないけど、シャンプーとリンスの位置変えてんじゃねえよ、とか、だったら張り付けとけよ、とか、おめーのそーゆー神経質な所がうぜーんだよ、とか、クーラーの温度下げたとか、下げてないとか、おめえが下げてなかったら誰だよ、とか何か、そんな事で思いっきり切れてる感じかな」
「あーなるほどそれは家でやって欲しいですよね」
「しかも何か喧嘩の最中にD・ホールくぐっちゃったみたいで、異世界に来ている事に全然気づいてないのよね。もうがっつり喧嘩に夢中になっちゃって、くだらないけど、フェーズ3に暴れ回られるのは、アザーバイドじゃなくても迷惑だからね。とにかく早急にお帰り頂くか、討伐して貰わないと」
「んーですよね」
「でもまー、要するに痴話喧嘩みたいでさ。たかが痴話喧嘩、されど痴話喧嘩というか。恋愛関係にあって、一緒に暮らしてる二人なんだけど、見えちゃった合わないとことかのそういう怒りがこう、爆発しちゃってるっていうね。面倒臭いっちゃ、面倒臭い状態だよね」
「あーなるほどそれは確実もう家でやって欲しいですよね」
「そうだよね。でも俺はわりと何でも受け入れられる方だと思うんだよね。で、芝池君の変な趣味って、どんな趣味なの」
「んーでも喧嘩を止めるって言っても、フェーズ3だと中々手出しもし難いと思うんですけど、どうなんですかね」
「まー全力で始末してしまうか、そうねー、あとは。何か会話の中で、やたら「甘い物の話」と「お酒」の話が出てるから、どっちかを用意したり上手く利用したりすれば、こう、何か、喧嘩止めたり、もしくは、誘導して喧嘩状態のままD・ホールに投げ込んだり出来る、かも。ついでに言っとくと、他にも敵は出てくるんだけどね。アザーバイドの影響で、あのー、E・ゴーレム化しちゃったのが居るから。フェーズは1程度だけど」
「あーそうですか」
「あとマイルドに話変えようとしてるとこ申し訳ないけど、ちょっと話戻していいかな」
「はい戻さなくて大丈夫ですそれは」
「髪の毛も乾かさない?」
「髪の毛は、乾かします」
「あ、そう」
「じゃあ、ドライヤー借りますね」
 とか、とりあえずこのまま話を続けるのは危険な気がしたので、芝池は、さっさとその場を去ることにする。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:しもだ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月16日(土)22:41
■目的■
敵エリューションを全て討伐すること。
喧嘩中のアザーバイドを何とかして送還する、もしくは討伐してしまうこと。

■アザーバイド情報■補足
見た目は、細マッチョの青年二人、にしか見えないアザーバイド。
とにかく思いっきり殴り合っている。
喧嘩に夢中になり過ぎて、異世界に飛んでしまっている事すら気づいていないらしい。

■場所情報■補足
現在は使われていない、夜の立体駐車場。
捨て置かれた車やトラック、不法投棄された電化製品などがある。
監視カメラ、監視セキュリティなどは作動しておらず、電気も通っていない。

■エネミーデータ■補足
E・ゴーレム「冷蔵庫」×4(フェーズ1)
立体駐車場に不法投棄された冷蔵庫がE・ゴーレム化したもの。
とりあえず何か嫌な匂いがする。
攻撃行動
電気コードを尻尾のように扱い攻撃してくる。
中身が入ったままの冷蔵庫もあるらしく、それを使った攻撃も仕掛けてくる模様。
何が出てくるかは、皆様のご想像と運次第。

尚、その他の一般人等は、今回の依頼には出現しません。


■STより
お目に止めて頂き、幸いです。
とりあえず、わりとゆるーい依頼なので、自由なプレイングでいろいろと遊んで頂ければと思います。
皆様のご参加を、心よりお待ち申し上げております。


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
マグメイガス
セレア・アレイン(BNE003170)
ホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
レイザータクト
アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)
ダークナイト
御堂・霧也(BNE003822)
マグメイガス
羽柴 双葉(BNE003837)
ナイトクリーク
月野木・晴(BNE003873)


 チョロッと姿を現した小さな虫が、あーもー煩いわねーみたいに、にょろにょろと逃げるようにして、コンクリートの地面の上を這って行った。
 わりとのんびりと、もそもそと移動していくその物体の行く先を、思わず、じーとか視線で追った『節制なる癒し手』、シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は、やがて虫が壁の隙間に消えてしまうと、ゆっくりと顔を戻し、前方にある四角い機械を、というか、四角い機械だったものを、恐る恐る、見やった。
 今回の敵、冷蔵庫様。
 あの中身は一体どうなってしまっているというのか、最初からわりと気になっていたけれど、今のお虫様の出現で、益々とっても気になってしまった。
 じー。
 っていうか、最早、じとー。
 と、後方からシエルは冷蔵庫を熱く見つめる。
 あの……冷蔵庫様の……中身。お虫様が出て来たということは、中身は相当……。
 なんて考えたらもう、想像は勝手にどんどん膨らんで、膨らんで、膨らんで。
 ど。どど。
 どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきど。
 と。その時だった。
 ガーーーーッシャーーーン!
 とか、びっくりするような激しい衝撃音が辺りに響いて、それは「はしばぶれーど」を手にした、『すもーる くらっしゃー』付喪(羽柴) 壱也(BNE002639)が、まさしく冷蔵庫を横からブレードでぶっ叩いて、くらーっしゅ! っていうか、とりあえず地面に倒して、何かどっかの部品らしきものがぶっ飛んで、ドーン。
 とかいう流れの音だったのだけれど、とにかくシエルはその音にびっくり仰天し、ハッとして、ひっとして、ヒヤっとして、一瞬の内に、何だかとっても我に返ったような気分。
 とかなってる隣から、ポン、と肩を叩かれたものだから、つい勢い余って、
「はい! 冷蔵庫の中身が気になりまあっ!」
 ってもーうっかり口が滑って滑って、滑ってしまった。
 色白の頬が、一気にカーッと赤くなる。
「すいません、間違えました。皆様の御怪我癒します……」
 俯いて、ぼそぼそ、と言った。
「うん」
 とか、まさしくその肩を叩いてしまった主である『断魔剣』御堂・霧也(BNE003822)は、相手の予想外のリアクションに全然どうしていいか分からなくなっていたのだけれど、でもきっと驚いたり不審がったりしてあげてはいけない気もしたので、全然普通だよ! みたいに受け止めてあげます、って感じで、とりあえずは、頷いた。
「うん。あのー……そうだよな。それはとっても重要だよな。皆、ほら、あの、シエルの回復とか、凄いあのあれ、当てにしてるし」
「はい……ありがとうございます」
「でーえーっと。何ていうか、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「あ……そう」
「はい……」
 って、わーどうしよう、何か、ここ一帯にだけ流れる、この変な空気。
 とか思いながら霧也が、ふと周りを見渡せば、アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)が、丁度、「オフェンサードクトリン!」とか発動している所で、あーそうね、戦闘中だったよね、真面目にやるべきだよね、とか、現状をやっと思い出した。
「じゃあ俺、何か前衛だから、行くわ」
 そう、つまり、行かなければならないのだった。
 あの何処からどう見てもくっさそうな、っていうか既にこの位置で若干嫌な匂いが漂っているあの冷蔵庫の元へと。
「でも、アザーバイドの仲裁するにせよ、何にせよ、冷蔵庫に邪魔されるのも面倒だし、倒しておかないといけないもんな。て俺今、凄いマイルドに冷蔵庫に邪魔される、なんて言っちゃったけど、冷蔵庫に邪魔されるって、冷静に考えたらすげー話だよな。あんま、言わないよな」
「まあ……そう言われてみれば……確かに、そうですね」
「……くそー!」
 って走り出そうとしたまさにその時。
 よたたた、と視界を塞ぐようによたってきた小柄な影があり。
「う、うう」
 最終的にその小柄な影は、そこで口元を押さえたかと思うと、よたよたよたよた。
「おいおい、大丈夫かよ」
 って、霧也の方にしなだれかかって来たので、仕方なく、肩を受け止めた。
「す、すいません。あの匂いに……ボク。こないだ……ずぼらな友人の家に行った時の、冷蔵庫の中身を思い出して……う」
「え」
 わー今、そんな中身の話なんて聞きたくない。絶対聞きたくない。
 でも。
 やっぱり、ちょっと聞きたい。
「ち、ちなみにさ。それ、何が入ってたわけ」
「冷蔵庫の……中には……ぐずぐずに、それはもうぐっずぐずに腐った、得体の知れない色の豆腐が……」
「わー! やっぱり聞かなきゃ良かったー!」
「わー! やっぱり言わなきゃ良かったー!」
 って何だか勢い余って思わず、ムギュー。


●一方、その頃の、『┌(┌^o^)┐の同類』セレア・アレイン(BNE003170)さん。
 細マッチョ……。
 いいですねぇ、細マッチョ。むしろ、細マッチョの男同士が、痴話喧嘩とか、いいですねえ。
 ふふ。ふふふふふ。
 って、完全に冷蔵庫どうでも良くて、こっちの戦闘完全無視で何やかんやと絡み合っているアザーバイドの方をガン見。
 していたのだけれど、そこでセレアさんの特殊センサーが、ビビッと仲間達の方に反応した。
 ハッ! と振り向くと、そこには。
 抱きあう、霧也と『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658)。
 ブワッ! と、ただでさえスイッチ入っちゃってた時だもんで、溢れだす、妄想。むしろ、妄想力全開で溢れだす、アドレナリン。
「俺、こんな時に言うの何だけど。前からお前の事気になって」
「え……」
「俺が、お前を守るから」
「ぼ、ボクも。ボクも貴方と一緒に戦います。守られるだけなんて嫌でなんです! ボクが、全力で貴方の事を支援します!」


●現実。
「え、なになに。何か分かんないけどやばいやばいやばい。なんだなんだ、セレアがこっちガン見してんぞなんだあれ」
「しかもマジですよ。何か分かんないですけど、どういうわけか、目が、本気ですよ!」
「やばいやばいやばい。いやおい、見んな。こっち見んなよ! 何だよ! こええよ!」
「ハッ! こっちでも、壱也さんが見てる! 凄い、どうしよう、汚れた目で見てる!」


●そしてその頃の、付喪(羽柴) 壱也さん。
「おい、あそこの彼女がお前のこと見てんぜ。お前に気があるんじゃねえの」
「違いますよ。貴方の事を見てるんですよ。だって、貴方が格好いいから……」
「な、何言ってんだよ、お前……///」
「だって本当の事だから……///」
 あら。
 あらおいしい。何なのあのツーショット。
 え、もしかして、おいしい関係?
 アザーバイドだけじゃなくて、あの二人も、おいしい関係なの! そうなの! 私の出番なの!
 持って来たビデオカメラで撮影すべきなの、今、今ここでAFからダウンロードすべきな。


●現実。
「こら! お姉ちゃん! 何してるの!」
 パシッ!
 とか、すかさず、羽柴 双葉(BNE003837)が、AFを今まさに取り出そうとしていた姉の背中を、全力で叩いた。
 って、あんまりにも姉の奇行を止める事に夢中になってしまっていたので、思わず、手に持っていたワンドで思いっきり、叩いてしまっていた。
「が、あー! いたーい! 何すんのよ!」
「あ、ご、ごめんなさい! ごめんなさい、お姉ちゃん! ついうっかり!」
「あ、そこで思わぬ事故で軽く負傷した仲間が、一名」
 タクティクスアイを発動するアルフォンソが、冷静に、言った。
「まあまあ、大丈夫ですか」
 そこへシエルが、柔らかく微笑みながら駆けよってくる。
 そっと、痛がる壱也の背中に手を置くと。
「魔力の円環に錬気…我が身全ての力もて癒しましょう。癒しの微風よ……!」
 マナコントロールで、自らの魔力を強力に高めた彼女の手から、癒しの爽やかな微風が放たれた。
 とかいう間にも、シャドウサーヴァントを発動した『紺碧』月野木・晴(BNE003873)が、「わー何あれ、半端ねー! 冷蔵庫動いてるとか半端ねー!」って、やたら高いテンションで、ガッコガコ動く冷蔵庫へと突進し、でも匂いプン~、にうってなって後退し、ちょっと離れた場所から、
「ライアークラウン!」
 シャーッ! って、魔力で作り出した、「破滅を予告する道化のカード」を投げつける。
「破滅しちゃえ、破滅しちゃえー!」
 ハイテンションで、結んだ髪をわっさわさ揺らしながら飛び跳ねる晴の隣で、彼の足元から伸びた影も、何か一緒にぴょんぴょん。
「ドーン! ほいー命中!」
 そして、影と一緒にハイタッチ。
 している横を、ド派手な原色の魔光が、ズシャーッ! って通り過ぎて行き、立て続けに更に三発程通り過ぎて行き。
 受け身も取れないまま、その魔曲・四重奏を受けた冷蔵庫は、凄まじい勢いで破裂した。
「あ」
 とか晴は、思わず茫然と破裂してしまった残骸を、見やる。
 そして後ろを振り返ると、魔曲・四重奏を放った張本人セレアが立っていた。
「冷蔵庫の中身、まだ見てないのに」
 じと。
 と、ちょっと怨みがましい目で、見る。
「あら。なに見たかったの」
「見たかった。凄い気になってたのに! だってさー、開けたらプリンとか入ってたりしてさー! くー! うん! 夢を見るのは自由だよな! 美味しいプリン、プリン、プリン!」
「でも、どうせ食べられな」
 そこで、ズシャッ! と晴は、待ったをかけるように手を伸ばした。
「いや。良く言うじゃないか! 諦めたらそこで試合終了なんだ! 諦めたら駄目だ! 夢を見るんだ!」
「ふーんそっか」
 って既に何の試合かも全然分からないけれど、セレアはとにかく頷いて上げる事にして、「じゃあ、月野木さんは、本気でプリンが入ってた暁には、きっと、美味しく食べてね! あたし、応援してるからね!」
 きゃぴ。
 って全力の笑顔で、応援してあげることにした。
「ってことなんで」
 そしてすっかり笑顔を消して、霧也の方を見やる。
「おう、聞いたぜ。頑張れよ、晴!」
 斬馬刀を振り抜く霧也が、暗黒を発動した。
「さっさと纏めてぶっ飛ばしてやんよっ! 晴のためにもな!」
 その生命力と引き換えに、体から吹き出た暗黒の瘴気が、二匹の冷蔵庫を包み、損傷させていく。
「って、え、いや、ちょっと待っえ、真面目ですか」
「真面目です、きっと」
 光介がポン、と背後から、晴の肩を叩いた。
「頑張って下さい。ボクも応援しています。回復なら、任せて下さい」
 魔導書 「迷える羊の冒険」を掲げ、力づけるように頷いた。
「いや、えどうしよう。え、真面目ですか」
「真面目です」
 とかやってるその横を、今度は、アルフォンソの放ったチェイスカッターの真空刃が通り抜けて行く。
「援護します」
「いや、しなくていいですよ!」
 でももう、時すでに遅し。放たれた刃が、次々と追い打ちをかけるように冷蔵庫を切り裂き。
 ぱかっ。
 と、すっかりトドメをさされ動きを停止した冷蔵庫の中身は。
「あ、プリン」
「わー凄い色だ……あんな色、見たことない」
「つか、くっせー。何だこの何年も食い物放置して発酵したような臭いは。あれやべーぞおい」
「ってことで、さ、頑張ってね!」
 ポン、とセレアが晴の肩を叩く。
「いやだー!」

 とかいう間にも、こちらの姉妹。
「さーて! 残るは一体ねー! 気を取り直して、冷蔵庫はさっさとくらっしゅしちゃうよー! 後つかえてんだからねー!」
 すっかり回復済みの壱也が、メガクラッシュを発動する。
「家電は静かな方が需要あるよ!」
 全身のエネルギーを集中させたはしばぶれーどを振り抜き、残った一体の冷蔵庫を一閃!
 立て続けに、背後から、その瞳と同じように赤い摩光が、双葉のワンドから放たれる。
「魔曲・四重奏!」
 入れ換わり立ち替わり、連携し合う二人の攻撃にはなす術もなく、冷蔵庫は即座に、破壊された。

「この冷蔵庫様達は……まだ使えたのかも知れないんですよね」
 シエルがそっと残骸達に近づき、手を合わせた。
「……ごめんなさい。でも、ご苦労様でした」
 そして、ひっそりと呟いた。




「だからね。好きな物があるのは、当たり前でしょ? っていうか貴方達も、相手の事好きになって一緒に暮らし始めたわけなんだからさ。そういう自分にはちょっと理解できないな、みたいな所があったとしてもさ、それを認めて受け入れてあげるくらいの覚悟はしないとさ」
「はー……」
「分かるよね、わたしの言ってる事」
「はい……」
 とか、壱也が凄い真面目な雰囲気で、アザーバイド達を説教していた。
 隣には、姉がまた変な行動を取らないかと心配しているらしい風情の双葉が立っている。

 とかいうのをぼんやりと眺めるシエルとアルフォンソは、
「喧嘩する程仲が良いと申しますが。異界人様もそうなのでしょうか……」
「まあ、そうですねえ。まあ、どこの世界にもそういったことがあるということでしょうか」
 とか何か、アザーバイドの二人を一旦、クールダウンさせるためにシエルが用意した、焼き菓子「果物ジャム付きクッキー」と、古酒「泡盛」を手に、ほのぼのと会話してたりして、でも、壱也と双葉の真面目な説得はまだまだ続いている。

「だいたいさ、わたしなんかさ、BLが好きでも、彼は認めてくれてるんだからさ。どう、凄いよね。凄いでしょ?」
「はい、え? BL?」
「ど」
 同性愛の事をライトに表現した感じの言葉です、と、これはきっと横から私が説明すべきだ、とか双葉は思ったけれど、「ど」の後がどうしても続けられなくて、挫折する。
 同性愛、なんてとても、とても。
「んーまあ、とにかくさ。それに比べたらさ。甘いもの食いすぎ! とか、お酒飲み過ぎ! とかさ、そんなの可愛いもんだと思うのよ。そんなつまんない理由で喧嘩してたら、駄目だよ、ほんっと、駄目絶対駄目」
「でも……だってこいつ、酒飲んだらすぐ他の奴口説くし……」
「お前だって、美味しいスイーツあるからって言われたら、ほいほいついてくくせに」
「なんだよ」
「なんだと」
「まあまあまあまあ」
「どうどうどうどう」
 姉妹は同時に二人を宥める。
「私もさ。本で見ただけなんだけど。同棲した途端、喧嘩が増えるパターンって多いらしいね。確かにそれだけ近くなれば嫌な所だって目に付くし、相手の事も全部そうやって見えてくるわけだから、カチンと来る気持ちも分かるけど。でも、それでも一緒に居たいと思うならさ、やっぱり、お互いに少しは歩み寄ってね。私も浮気は絶対駄目だと思うけど、相手を信じる事と、相手の信頼にこたえること。この気持ちは凄い、大事だと思うんだ。つまりさ、逆に言えば乗り切っちゃえば怖いものは何もないよ」
「信じる事」
「信頼にこたえること……?」
「何よ、双葉」
「え?」
「なに凄いいいこと言うじゃない。お、姉ちゃん泣け、泣けてくるよ、うううう」
「お、お姉ちゃん……」
 とか、若干良いムードになりかけている傍では。
「うえーやっぱり気分わりー。あんなん食いもんじゃねえよ。おえっ」
 とか、セレアに背中をさすられながら、晴が、腐ったプリンの衝撃に悶絶していた。
「んー仕方ないよねー。夢を見るには代償が必要なんだよ。頑張れ、少年!」
「うう、苦しい。鬼だ。アンタ鬼だ」
「あら、こんなか弱くて可愛い吸血鬼の女の子を捕まえて何てこと」
 で、その更に隣では、一応晴に、出来る限りの手当てを施した光介が、
「ポ、ポイントは細マッチョなんでしょうか……? それとも痴話喧嘩というところに……」
 とか何かアザーバイドの方を見やりながら呟いていて、そしたら隣の霧也が、
「ああ、なるほどな。マッチョで恋愛関係って奴な。一部の連中が喜びそうな」
 って、ふーんみたいに話を繋いできたので、ハッとして、思わず、その横顔を凝視してしまった。
 分かるのですか。
 かの、男子同士の絡みにある、「ある種の需要」について、分かるのですか……!
 と。そこで。霧也が何か、ゆっくりとこっちを振り返る。
 何か、凄い変な空気で、二人は見詰め合った。
「いや。いや俺は何も知らない」
「あ、そ、そうですよね、やっぱりそうですよね、いいです、やっぱりいいです」
 で、気付いたらやっぱりセレアがこっちをガン見……。
「うんいや見ないで下さい、ホント」


「まあそんな感じでさ。たまには喧嘩もいいけど、周りが見えないほどはダメだと思うよ。行き過ぎない所で仲直りしてさ。仲良くしなよ、せっかくのホ」
「お姉ちゃん!」
「こほん」
「ちなみに実は……」
 そこで、頃会いを見計らったように、シエルが話に割り込んでくる。
「実はここはもう、異世界なのです。貴方様が元居た場所は、あそこに見えている穴の先。遠路はるばる、こんな所にまで来てしまっていたというわけです。ですが、そろそろお帰り頂けないと私達も困りますので……。もし宜しければこの焼き菓子と古酒は御土産に持って帰って頂いて構いませんので」
 そして彼女は、無垢で慈愛のこもった微笑をふわり、と浮かべる。
「そうそう。実は異世界にまで来ちゃうくらい喧嘩しちゃってんだからさー、君ら、びっくりだよ」
「今後は、何事も程ほどに……してくださいね?」
 シエルが苦笑して、頷いた。


「元の世界で上手くいくといいですね」
 アルフォンソが二人の消えたD・ホールに向かい、ブレイクゲートを発動した。
「わざわざ私たちの世界に着てまで痴話喧嘩するようなアザーバイドには、もう出遭いたくないもんです」
 失笑と共に、穴は破壊されていき、やがて、消えた。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
そういうわけで。
結果は成功でございます。皆様ご苦労様でございました。

当シナリオにご参加頂いた皆様には、誠に感謝です。
また機会がありましたら、ご参加をお待ちしております。