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星影、冴やか


 その店は、雨の多くなる時期、晴れた夜にだけ現れる。
 トタンとベニヤの、大き目のバラック。海の家を思わせるバラックの内装は簡素ながらしっかりと作られ、到る所に青と白の星型ライトが吊り下がっていた。
 仄明るい店内は、幻想的な空の中。
 灯りが輝くのは、店内だけじゃない。
 外にも机と椅子が並べられ、机の上に舞い降りた光が煌く姿は遠くから見れば星の海。
 街の光から離れたそれは、決して眩い派手な輝きではないけれど、傍らの人の顔を見て、微笑みあうには十分な光。
 そこかしこには精緻な切り込みの入ったアロマランプが置いてあり、防虫も兼ねて淡い香りを周囲に満たしている。

 そこで提供されるのは、色鮮やかなカクテル達。
 ただし、郊外に位置するその店が出すのは殆どがノンアルコールのものばかり。
 オレンジとレモン、パイナップルジュースの定番シンデレラ、グレナデンシロップとジンジャーエールのシャーリーテンプル、トマトジュースにレモンを添えたヴァージン・マリー、澄んだ赤とオレンジの二層が美しいローズヒップオレンジティー。パイナップルジュースとココナッツミルク、氷でできたヴァージン・ピニャ・コラーダは冷たいデザートの様だし、色鮮やかなチャイナブルーも、ブルーキュラソーシロップで。ライムとジンジャーの香りが爽やかなサラトガクーラーも、青の光に照らされて少し不思議な飲み物になるかも知れない。ローズシロップを炭酸水で割って白の光に透かしても、きっと綺麗。
 更に、ここでは『流れ星入りで』と頼めば星型のモールドで作ったゼリーを加えてくれる。
 爽やかなソーダ風味の青い星、ライチの香る透明な星、レモン味の黄色の星、ラズベリーの赤い星は甘酸っぱい風味を舌に加えてくれる。どれも澄んだ色のそれは、カクテルの中できらきら輝く事だろう。

 がっつり夕飯を、という人には余り向かないが、会話を弾ませる為に、たまの夜のお楽しみのおやつに、料理だって頼む事ができる。オイルサーディンのパスタは友達と少しずつ取り分けて楽しんでもいいし、オリーブの浅漬けにはアンチョビを付けて、ポテトチップより少し厚めにカットして揚げたポテトフライはアイオリソースとセットで。定番軟骨からあげはレモンとライムが添えてある。
 スナックならば塩にバター、チョコとキャラメルフレーバーに加えて変り種ゆず胡椒のポップコーン、チーズはカマンベールとミモレット、チェダー三種盛り合わせ。ヘルシーに行くならば野菜スティックにイチジクやレーズンのドライフルーツ。とことん甘いものに浸りたい夜は、チョコレートに始まり掌サイズの金魚鉢に入れたトリプルアイス、薄いクレープ生地を幾重も重ねて間にフルーツを挟んだミルクレープ、アイスを添えたチョコレートワッフルもある。

 闇に浮かんだ星の光に浸った夜を、始めよう。



「そろそろ気温も上がってきましたし、ちょっと夜のお出掛けに行きませんか」
『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)がいつもの薄ら笑いで告げたのは、そんな言葉。
「リベリスタの方がやっているお店らしいんですけどね、この時期にだけ三高平市の郊外で開くらしいんですよ。出張店舗みたいな感じでしょうか、で、そこ、場所的にノンアルコールが中心のメニューらしくって。一晩アーク名義で貸切にして貰ったんで、良ければどうでしょう?」
 夜の店、となるとアルコール中心の所が多い。
 でも、ここなら未成年でも十分楽しめるはずだ、とフォーチュナは軽く頷く。
「成人済みの方も大歓迎、というか女性やカップルの方が普段のお客さんには多いみたいですねえ。街の喧騒から離れて、少し幻想的な夜を、というのがコンセプトらしいです」
 大騒ぎに煩わされる事もなく、声を潜める事もなく、会話の声も夜を彩るアクセサリー。
「あ、勿論男だけでも大丈夫ですよ。じゃないとぼくが行けません。折角皆さんとご一緒できる夜なのに行けないのは寂しいから嫌です」
 差し出したのは、名刺サイズの地図とメニュー。
 誰かと行きたいと思ったならば、これを見せて誘い合って来てくれればいい。
 一人で過ごす為に来てもいい。青と白の星の光は、傍で優しく光るから。
 二人で過ごす為に来てもいい。仄かな光は、普段よりも距離を近くしてくれるかも知れないから。
 或いはもっと――友人同士で誘い合ってもいい。星の夜は、きっと楽しい思い出になるはずだから。
「一応、未成年さんで保護者さんと一緒に住んでる方は了承だけ取るのは忘れないで下さいね」
 帰ってきたら捜索願が出てた、とかは勘弁ですよ。
 そう笑って、ギロチンはひらり手を上げた。
 


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月21日(木)23:58
 お星様と飲みましょう。黒歌鳥です。

●目標
 晴れた夜に楽しみましょう。店内は全面禁煙ですのでお気を付け下さい。
 お一人様もお二人様もグループも、男女問わず歓迎いたします。

●状況
 どなたかとご一緒する場合、速やかに発見する為にフルネームとIDの記載をお願いします。
 グループで参加の場合、【】等で括ったグループ名を記載しても大丈夫です。

 暗くなり始めた頃から日付が変わる前辺りまでとなります。
 往復経路は心配しなくて大丈夫です。
 アーク一般職員さんも随時入れ替わって楽しみに来ているので乗せてって貰えます。
 リベリスタのやっているお店なので幻視等は使わずとも過ごせます。
 ただし、普通のお店ですので、『飲食物の持ち込みは禁止』です。

 メニューに関しては上に加えて各々自由に。
 ただしドリンクはノンアルコール中心です。
 カクテル名はどこかのお店のオリジナルだと黒歌鳥が分からない場合がありますが、
 ある程度は注文に答えてくれますし、炭酸やジュースそのもの単品でも大丈夫です。
 アルコール入りはシャンディガフだけひっそり置いてる様子なので、
 どうしても一杯……! という大人は其方をどうぞ。
 未成年が頼んだ場合はギロチンがこどもビール的なものとチェンジします。

●NPC
『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)がいます。
 ギロチンに何ぞ用があります場合、ID等は不要ですので名前でお呼び下さい。
 何もなければ人のテーブルのおつまみ勝手に貰いに行ったりしてます。

●注意事項
 ・参加料金は50LPです。
 ・色々と手を伸ばすより、「これをやりたい!」という一点に絞るのが良い感じです。
 ・イベントシナリオでは描写が確約されません。描写量は趣旨に沿ったプレイング優先となります。
 ・未成年の飲酒、喫煙は禁止です。
 ・違法行為や他の参加者さんに迷惑になる行為、白紙は描写致しません。

 メニューはpipiSTが色々教えて下さいました。拝む。
参加NPC
断頭台・ギロチン (nBNE000215)
 


■メイン参加者 31人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
インヤンマスター
高槻 オリヱ(BNE000633)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
デュランダル
イーリス・イシュター(BNE002051)
ソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
デュランダル
結城・宗一(BNE002873)
ホーリーメイガス
ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)
マグメイガス
首藤・存人(BNE003547)
ホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
プロアデプト
チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)

石動 麻衣(BNE003692)
レイザータクト
日逆・エクリ(BNE003769)

アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)
マグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)
   


 空から降った星の光は、街外れの広場を控えめに照らし出した。
 机の上に敷かれた白いテーブルクロスが光を吸い、更に淡い光となる。
 夜の天蓋に鏤められた本物の星も、今宵は明るく瞬いていた。
「まるでお星さまが降ってきそう……です」
 淡い青と白の夜空。シエルが頬を緩めてそう零せば、傍らの光介も穏やかに微笑んだ。思い返すのは一つの童話。子供達に語り聞かせた、星に纏わるおとぎばなし。心優しい女の子の元に、星が降ってくるお話です、読書好きだという同行者にシエルが語れば、光介は彼女が薄っすら思っていた通りにタイトルを告げてくれる。
「美しすぎるお伽噺だからこそ、そこに宿る輝かしさと儚さの両方を感じてしまいます」
「あのお話の様に……このお店でも……星が降ってくるみたいですね」
 降り注ぐ天からの恵み。癒し手として仲間を信じ祈る彼らには、童話の少女と通ずる所があるのだろうか。どこか近しい雰囲気を感じて微笑み合う。
「あ、それでしたら、」
「次のカクテルは流れ星入りで、ですね?」
 考える事はやっぱり同じで、シエルは僅か顔を赤くした。銀貨ではなく、小さな透明な星を色鮮やかな海に浮かべた二人は、そっとグラスの縁を触れ合わせる。
「そうだね、今の季節ならサマー・ディライトにジュレップ・ソーダ、すだちトニックとか」
 柑橘の香りが爽やかな品々を上げながら、梅シロップのジンジャーエール割りも捨てがたい、と快はメニューを開いてお薦めを並べて行く。酒屋の次期跡取りとして営業も兼ねて手伝わせて欲しい、という申し出はすんなり受け入れられ――鉄壁の守護神とか聞くからもっとゴツいのを想像していたよ、と笑う穏やかな若い女性店長の声なども聞きつつ、守備力と酒の知識に定評のある彼はメニューに目移りする友人知人からひっきりなしに呼ばれていた。
 その説明の横をすり抜けて、椅子を引いて些か仰々しくエスコートする竜一の仕草がいつもよりも気障に見えて、雷音は小さく笑う。
「今日の竜一は紳士だな」
「俺はいつでも紳士さ」
 頼んだカクテルと同じ、君は俺のシンデレラ、そう囁いた竜一と雷音はグラスを鳴らした。王子様のエスコートをありがたく受けようか。硝子の靴はないけれど、このカクテルが今宵の証。
「次は……そうだな、らいよんには紅茶のサングリア、俺は流れ星入りのティーソーダで」
「紅茶のサングリア……素敵な名前だな」
 喫茶店を営み紅茶に詳しい少女の為のチョイス。雷音が視線をずらせば、グラスを置いた店員の後ろ、肩越しに振り返った快が軽くウインクを返した。演出の一部を担ったであろう彼に心中で感謝して、雷音は瞳の中に澄んだ色を映し出す。
「この流れ星よりも、星空よりも、君の瞳の方が深く綺麗さ」
 ふふっと笑う竜一には揺らぐ事ないパートナーがいるし、自分にとっても兄のようなものではあるけれど、それでもこのシチュエーションでその言葉は悪い気はしない。
「素敵だな、彼女が君に夢中なのはよくわかるのだ」
「悲しいけれど一夜の夢、鐘が鳴ったら送っていくよ、シンデレラ」
「ああ、一夜だけ宜しく頼むのだ、王子様」

 大型バイクの王子様のエスコート、降り立ったニニギアと擦れ違った友人が賛美を送った。カクテルドレス姿を似合うと褒められ笑う彼女の顔を、ランディは軽く見やる。ニニギアに揃えたスーツで肩を抱き寄せても、些か元気がない様に感じたのだ。笑わない訳ではなく、無理をしているという雰囲気でもないのだが。
 きらきら輝く流れ星のシャーリーテンプルが、赤いヴァージンマリーと触れ合って澄んだ音。
「流れ星にお願いしないとね」
「うん?」
「ランディが元気で戻ってきてくれますように、って」
 ああ。瞬いてランディは彼女の憂い顔の理由を悟る。公園に開いた穴、広がる異世界。更なる事実を求めて向かうアーク精鋭メンバーに、彼も名を連ねている。
 信頼していない訳ではない。それだけ重要な任務を任されるだけの腕は確かにあるとニニギアも信じている。けれど、無謀ではなくとも無理を押し通す性格なのも知っているから。考えるニニギアの髪を、無骨な手が穏やかに梳いた。
「大丈夫、俺は必ず帰って来る」
 互いの命は互いの物。だからそう簡単に失う真似などできるはずがない。
「うん。笑顔で帰ってきてね」
「ああ。いってくる」
 少しの背伸びと、触れ合う唇は宵闇の中。
 帰還の誓いは一つだけではなく。足元にも空にも広がるのは星の海。お揃いのシャーリーテンプルで唇を濡らし、宗一と霧香は空を仰いだ。
「綺麗だな……」
「え、えっ、綺麗……?」
 少年の唇から漏れた言葉にぱっと振り向いた少女だったが、首を傾げた彼が空を示せば慌てて頷きを返す。そうだ、星だ、星の事を言ったのだ。残念だなんて、思っていない。視線を落とし甘さを飲み下す霧香の考えに気付いた宗一は軽く笑う。
「……ま、霧香も綺麗だぜ?」
「! き、綺麗だなんてそそそんな! ……コト、ないよ?」
 先程よりも激しく動揺する少女の顔の赤さには気付かなかった事にして、宗一はグラスを差し出した。
「気をつけて行って来いよ。帰りを待ってるからな」
 可愛らしいという言葉が似合う少女も、明日には異世界に旅立つ。凛とした雰囲気へと変わった霧香は、己もグラスを上げた。
「うん。ちゃんと仕事して帰ってくるよ」
 まだ言えてない事もあるから、という霧香の声にならない言葉を内に秘めた澄んだ音色が、誓いのベル。


 天上の宝石箱。
 きらめく星々がわたしを飾り立てるのよ。
 神話の世界から降りてきた女神……。
 そう、わたしはMAI†HIME。

 このシンデレラのように夢は一瞬。
 午前零時の鐘が鳴ってしまうわ。
 わたしの王子様、追いかけてきて。

 わたしはここよ!
 ああ、情熱のラブチェイサー!!

 あの銀河の星々を超えて追いかけてきて。
 天上の調べと共に貴方を待っているわ。

      ――By 戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫


 甘く静かな夜は、星に溶け。
 シャンディガフを口に運ぶ孝平は、仄かな酔いと頬を撫でる風に目を細めた。緩やかに流れる時は、心を落ち着かせる。周囲の会話も心地良く、一時身を任せるには悪くなかった。
 エリスもまた、空を仰いで弾ける果実の甘味を味わう。一気に飲み干す事はせず、今まで過ごしてきた時間と共にゆっくりゆっくり喉に通す。忘れがたい日々は、これからも続いて行くだろうから。
「大人の雰囲気とは、妾にピッタリだな」
 深紅のドレスは闇に似合う。けれどもカウンターに座ったシェリーの第一声。
「ここにある料理を全部頼む」
 ひたりと見据えて言った言葉は飢えた子供のそれであった。往々にして神秘界隈には異様な食欲の者も多くないから笑い飛ばされずに済み、彼女は今ドレスと同じ深紅のローズシロップの炭酸割りとオイルサーディンのパスタを堪能中。当然ドリンクも全制覇のつもりだ。抜かりはない。しかしこれならドレスはちょっと面倒だったかも知れないなあ、と過ぎるが抜かりはない。
 それに何より、星が綺麗だ。悪くない。
 シェリーが仰いだ空を、より本格的に味わっているのはチャイカ。
「たまにはこういうお店での天体観測も、悪くありませんね」
 外の一角、ウッドデッキが敷かれたそこに天体望遠鏡を構えてチャイカは頷いた。地におかれた星の光は淡く、空を見るのに不都合はない。ミルクとコーラのブラック・アンド・タンを傍らに、天体少女は青と白に照らされながら星を覗いた。
「こういう夜って貴重よね、この時期雨が多いし」
「そうですね、日本の雨季は初めてですけど、今までのデータと今年の経験で晴れ間が貴重なのは身にしみて理解出来ました」
 シャンディガフのささやかな酔いを目の覚めるような鮮やかな色のチャイナブルーで落ち着けて、ティアリアはその様子に軽く笑みを漏らす。オリーブの浅漬けは飲み物に手の伸びる程好い塩気と独特の風味。この夜の雰囲気を味わうには丁度良い。
「……ふふ、わたしは、貴方だけのシンデレラMAI†HIME……」
「ほら、貴女も此方に来たら?」
 椅子に深く腰掛け夜空に(一人で)グラスを掲げるドレス姿の舞姫を軽く手招いて、ティアリアはチャイカが覗くレンズの先の星を仰いだ。
「雨の後だと見易いのかしら」
「ええ、空が洗われて晴れ間の時に綺麗な星空が広がるのです」
 頂には恒星アークトゥルス、東の方角には夏の夜空の代名詞であるベガが見える。
 ティアリアは目を細め、少女の生き生きとした話を聞いていた。

 その傍らで、到って真剣な表情でポップコーンを見詰めるのはイーリス。
 ゆずの香りが風に乗って彼女の鼻腔を擽るが、油断してはならない。何故ならポップコーンは戦いだ。
「気を抜くとちゃいろのうすいやつが歯に詰まるのです」
 かしゅっと噛み砕く食感も楽しいポップコーンに置いて何たる異質な存在か。まるでボトムチャンネルに落ちてきたアザーバイドの様な存在ではないか。油断すればやられる。食うか食われるかのおごそかなたたかいである。むぎゅむぎゅ。
 ゆず胡椒の少しだけぴりっとした風味が心地良いが、それにばかり意識を向けてはいられない。何しろ敵もさるものだ。油断すればその瞬間に滑り込んで来るに違いない。精神統一だ。
「いざとなったら、フェイトを使ってでも――!」
「そんな事で使うんじゃありません」
 びすっ。更に傍らで見ていたフォーチュナがうっかり彼女の頭に手刀を落としたのは多分きっと悪くない。
「おおギロチン、クリスマスやバレンタインに向けて仕込み中かぇ?」
「時期遠い上に人聞き悪いですよ瑠琵さん」
 サラトガクーラーを掲げた瑠琵は、シャンディガフもとっくに味わえるだけの年数を重ねてはいるがそれはそれ、これはこれ。遊び心は子供のまま変わらないものだ。
「今日もぼっちのようじゃからわらわが遊んでやろう」
「わあ絶対暇つぶしだー。ありがとうございます」
「注文と会計は任せたから好きに頼むが良いぞ!」
「結局自腹というか奢りじゃないですか!」
「幾ら財布が潤ってようが、タダ飯は美味いものじゃ」
 うむ、と頷く瑠琵の行動原理が『面白いから』であれば対抗のしようもない。笑ったギロチンのシャツの裾を掴み背によじ登った瑠琵は、そこから星の光に照らされ寄り添う二人の姿を見る。
「ぼっちには辛い光景じゃのぅ」
「瑠琵さんいてくれるから今はぼっちじゃないですよ。でも頭の上に零さないで下さいね」
 ギロチンの頭に腕を乗せ、パリパリと林檎のスナックを齧る瑠琵にその言葉は聞こえていたかどうか。
「ギロチンさん、こんばんは」
「こんばんはエクリさん。それも美味しそうですねえ」
 瑞々しいパイナップルジュースに甘いココナッツミルクを混ぜてクラッシュアイスに注いだ、お目当てのヴァージン・ピニャ・コラーダ。フローズンアイスのようなそれの上で煌くのは、パイナップルに合わせた澄んだ黄色の星。さくりとスプーンですくって、エクリはギロチンの前に差し出した。
「あげる」
「え、いいんですか?」
 気遣うのはフォーチュナの仕事、常日頃薄笑いを浮かべる彼も時折顔を曇らす現実。
 消える前に願い事を三回。きっとこの流れ星でも叶うはず。何でもいいから願い事を浮かべて食べるといい、と告げた彼女に笑ってギロチンは流れ星を消す。あたしもやる、と頷いたエクリはスプーンを見詰めて願い事三回。
「友達が欲しい、友達が欲しい、友達が欲しい……笑っちゃダメだからね」
「やだなあ、笑ってないですよ」
「じゃあギロチンさんは何お願いしたの?」
「エクリさんと友達になれますように、って」
「……本当?」
「さあ、ぼくは嘘吐きですけどどうでしょうね?」
 顔を見合わせて、笑い一つ。
「あ、エレオノーラさんだ。それは……ウォッカとか入ってるんですか?」
「あたしだってたまにはお酒を飲まない日だってあるわ」
 少女の外見に見合わぬ酒豪、エレオノーラは心外だという様に透明な赤い液体を軽く揺らした。舌を撫でるのはクランべリーの爽やかな酸味。共にするのは粒の残る苺シャーベットのチョコソース掛け。
「美味しそうですね、いいなあ」
「食べてもいいから、ギロチンちゃん」
 微笑を零してエレオノーラは組んだ手の甲に顎を乗せた。
「あたし貴方の楽しい話が聞きたいわ」
 嘘ばかりを語るフォーチュナに与えるならば、それなりの対価を。
 長い時を経たエレオノーラは語る事を沢山持ってはいるけれど、同時に語らないと決めた事も増えたから。人の話を聞くのが好きな彼と、話す事が好きなギロチンならば誰も損はしない。
 悪戯っぽい笑みにギロチンも笑みを返し、椅子を引いた。
「そうですね、じゃあこの間陽立さんの仕掛けた罠にうっかり引っ掛かりそうになった話とか」
「悪くないわね」
 夜は、更けて行く。


 飾り過ぎず、それでもデートとして少し特別な格好で。
 愛しい彼女の為に入念な下調べをした三千は、考え抜いたカクテルを注文。
 ブルーキュラソーシロップとグレープフルーツジュース、サイダーを加えた鮮やかな青。見た目も味も清涼なそれは――。
「ええと、ゆ、ユア・アイズ、です」
「……まあ」
 瞬くミュゼーヌの瞳に合わせた色。微笑む彼女の頬が少し赤いのは、気のせいではあるまい。
 彼女の色を引き立てる為のコーラを上げ、グラスを触れ合わせる。
「あ、あの、ミュゼーヌさんの瞳に乾杯っ」
「……ふふ、そんな気障ったい台詞を言える三千さんの心意気に、乾杯」
 くすくすと笑うミュゼーヌだが、その心には十分な感謝を。瞳と同じ色に口付けて、彼に肩を寄せた。見上げれば、満天の星。
「ね、三千さん」
「は、はい。何ですかミュゼーヌさん」
「星は夜空って優しい黒が抱いてくれているから、輝けるのよ」
 私も雰囲気に酔ったみたいね、と笑いながらミュゼーヌは優しい黒の彼に囁いた。
 二人の顔を、白の光が淡く照らしている。
「ヘビースモーカーには少々辛いのではないですか、オリヱ」
「おや、気遣い有難う。けれど、偶にはどちらにも酔わない夜もいいね」
 常に漂わせる甘い香りは煙草か香水か。目前の青年にオリヱはやはり甘いマスクを崩して笑う。
 何がいい、何にしようか。囁き合って頼んだのは流れ星入りサラトガクーラーとチャイナブルー。
 オリヱが頼んだオレンジ色の流れ星は、彼の瞳と同じ色。
「いや、ナルシストじゃないよ。ほら、伏せた先に、生きた目の代わりに見るものがあればって」
「此方もお気遣いどうも。……気障だとは言われませんか」
 目を合わせられない存人の為に。薄く色付いたサラトガクーラーに浮かぶのは金盞花の色。
 少しの笑みで告げられた言葉に、オリヱはそうかなあと首を傾げる。気障ではなくて、皆に平等に優しいだけだと笑う彼に、存人は己のグラスを掲げた。綺麗な色なんですね。
「鏡越しで良ければ、その内に見せて下さい」
「では、その逢瀬を楽しみに」
 触れ合う音は、涼やかに。

「お嬢様、ご機嫌麗しゅう?」
「いいからまず座りなさい」
 自分の為に甲斐甲斐しく動き回る夏栖斗に、こじりは指先で前の席を示す。晴れた空の、澄んだ海の色、チャイナブルーに浮かぶのは透明な流れ星。青は挿した赤のストローでより鮮やかに。
「こういう時だけやたらと気取るわよね、貴方という人間は」
「いやほら、たまにはお洒落なのもいいよね」
「そう?」
「なんかこういうところで見るこじりって、10倍くらい美人に見える」
 一つのグラスに二本のストロー。青を含もうとすれば自然とその顔も寄った。こじりの白い肌をテーブルの上の白い星が更に艶やかに映し出し、夏栖斗はいや、普段から可愛いんだけど、などと言い訳の様に照れ隠しの弁解を紡ぐ。
「そう、薄暗闇で見る貴方はいつもより10倍色黒に見えるわね」
 闇に溶けてしまいそう、と呟いたこじりの掌が、ぎりぎり触れない位置で彼の頬をなぞった。
 余計に狭まった距離に夏栖斗の目が泳ぐ。
「あー、もう、なんかかっこつかないな」
「別に、カッコ付けた御厨くんと話したい訳じゃないわ」
 気を張った姿を見たい訳じゃない。下克上、もとい無礼講で構わないと見詰めるこじりに益々夏栖斗は瞬いた。
「あ、じゃあ食べ物を」
「要らないから、其処に居なさい」
 彦星がそこにいるだけで、もう胸は一杯なんだから。
 立ち上がった彼に上目遣いで告げた織姫に、夏栖斗はこくりと笑って頷いた。
 星空は、煌いて。
「綺麗な星空だな。翔太の生まれは北国だったか? このように澄んだ星空も見られたのだろうか」
「うん? あぁ……こんな星空の日はな、実家の近くの湖に星が映り込んだりして綺麗だったさ」
 久方ぶりの友との語らい。鮮やかな昼間の空色を手にした翔太と、微かに色付いた透明を手にした優希は揃って空を仰いだ。
 出会って早々気が合った、という訳ではない。寧ろ方針の違いから意見をぶつけ合った仲だ。だが、違う事は決して悪いだけではない。互いの信念に譲れないものを持っているのを知ったからこそ、友として歩む事ができている。背を預けられる程に、信用する友として。
「……不器用な俺ではあるが、まぁ。……これからも、宜しく頼む」
「あぁ、こちらこそな。不器用だろうが関係ない……俺は優希だから背中を預けていられるんだ」
 友として、親友として、その生き様を信じている。
 互いの人生に影響する程の出会いは、大きな意味での運命であったのか。
 多く語らずとも通じ合う彼らは、一度だけ視線を交わして再び空を仰いだ。

 星が導く一夜のお話。
「綺麗な星空だね。僕が住んでた場所ではこんなに星は見えなかったよ」
「ええ、とても綺麗です。……こうやってのんびりと星空を眺めるのは久々ですね」
 添えられたビターチョコレートを口に運び、悠里が呟けばカルナが微笑みを返した。極一般的な街に住み、普通の学生として過ごしていた悠里にとってはそもそも星空をゆっくり見上げる、という機会自体が少ないもの。
 街の明かりでまず星が見えなかった、と語る少年に、カルナも己の過去を思い返す。
 悠里に比べれば、決して一般的ではないだろう。けれど自身を形成してくれたそれを厭う事はない。
「退屈で平穏な、普通の暮らし。まさかこんな漫画みたいな事になるなんて思ってもなかったなぁ」
「ふふ、確かにこのようなお仕事をする事になるとは思いもしませんものね」
 巡り合わせとは不思議なもの。気紛れな運命が導いたのは、決して華やかなだけではない神秘の世界。けれどもそれは同時に、目の前の愛しい少女との出会いの切欠となった。
「ねぇ、カルナはどんな場所でどんなふうに暮らしてたの?」
 浮かべたライムは彼女の色。もっと知りたい、知っていきたいと太陽の目を細めた悠里に、カルナは顔を近付ける。
「そうですね……私の住んでいた所は星が良く見える──」
 紡ぐ言葉は眠る前の御伽噺より、少し長く。
 明ける程には長くないけれど、星の光が綺麗に瞬く間。


 天上から降りた星の光は、無数の物語を静かに照らし続けていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 雨の合間の星空、楽しんで頂けたのならば幸いです。
 お疲れ様でした。