●賢者の学院へようこそ 『賢者の学院』と呼ばれる場所がある。 創設されてまだ数年。まだ規模は小さいようだが、それはエリューション組織であり、いわゆる学校であった。 革醒し運命を手にした者を受け入れるのはアークだけではない。いくつもの組織が存在し、協力、あるいはしのぎを削っている。 神秘に足を踏み入れたばかりの者は何もわからぬひよっこだ。神秘との接触の仕方によって善悪どちらに転ぶか知れぬ存在。 リベリスタ・フィクサード双方、新人の引き込みは重要な任務でもあるのだ。 話を戻そう。 『賢者の学院』と呼ばれる場所がある。 神秘について何もわからぬまま、惰性で、あるいは騙されて組織に入ることがないように。 善であれ悪であれ、自分の意志で道を選べるように。 神秘世界に放り投げられた迷い子を導き、知識を与え、自身の意思でエリューションを生き抜けるよう送り出す。 リベリスタでもフィクサードでもない中立の学園組織。それが賢者の学院である。 ●日々研究と発見 「……いいことじゃないか?」 親切な話だ。革醒したばかりの者は知識も何もなくフィクサードに利用されやすい。同じような力を持つ者が集まり、神秘知識から力の使い方まである程度教えてくれるなら、暴走する者も減るだろう。 欲を言えば学校を卒業したらそのままリベリスタに就職して欲しいものだが、それはフィクサードも同じ事を考えるだろう。 組織に『道を自分の意志で選び取れるように』という理念があるなら、あえて無粋なことをするものでもない。 「で、この学院をどうしろって言うんだ? あ、もしかしてフィクサードが絡んでるのか?」 先の意見のように、フィクサードが経営者を脅して生徒を要求してるとか……リベリスタの言葉に、『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)は真顔で鼻を鳴らしてから、笑顔で答えた。 「リベリスタ・フィクサード両陣営の注目を集めている組織デースからネー。お互い牽制してマースし、そんなコトしたらすぐに制裁されマース。ガキでも考えつくよ」 ……なんか嫌な顔されたり毒吐かれた気もするけど気のせいか。 「じゃあなんだよ」 「出来てからまだ数年。今年、初めての卒業生が出まして、アークにも数人就職が決まりマーシたネ」 これ履歴書ネ、と個人情報をさらっと手渡す。 顔写真や種族にジョブ、誕生日や特徴など……細かいデータが載っていた。上部に『ステータスシート』って書いてあるのはよくわからないけど。 「まぁいいんじゃないか? ある程度即戦力っぽいし、何の問題があるんだよ」 ロイヤーの指が特徴欄を叩く。 確認。二人目を見る。確認。三人目。やっぱり確認。残りをざらざら――確認。 「……なんで全員『敢えて穿かない』んだ?」 「ワタシが知るかぼけ」 なんでキレてるんだよ。 というわけでこの学院は道徳に問題があるらしい。賢者の学院のパンフレットには。 一つ。学院内では下を穿かないこと。 二つ。日常生活でも下を穿かないこと。 三つ。ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン、下を穿かないこと。 「全部同じ意味じゃねーか」 更に学長の言葉。 『我々は日々新たな研究と発見を行なっている。下を穿かずに人前に出るとどこか気持ちいいとか』 さすが賢者の学院。 「このままではこの学院は『神秘の知識を得て』『自分の意思で道を選びとる』『下を穿いていない』生徒を生み続けることになるのデース」 それは嫌だ。 「で、結局何すればいいんだよ」 「直談判」 一言で。とにかく、学長を説得してこいということらしい。 学園の方針である自らの意思で云々は仕方ないとして、下を穿かないことの強制はそもそもその云々を無視してるわけで。 「殴ろうと罵ろうと好きにしていいデースし、学長は戦闘力も意思も脆弱だから余裕だと思いマース」 楽な仕事である。 下を穿かない者に何故人は下を穿く必要があるかを説くという、意味不明の仕事にはなるが。 「問題点は一つだけデース。下を穿いたままでは学院に入れないので、ワーク中は下は穿かないで行って下サーイ」 ……え? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月18日(月)00:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●BNEは全年齢です。 世界は神秘に満ちている。 人はそれを知らないだけだ。 突如運命に選ばれ、振り回される命のなんと多いことか。 わからないまま。選べないまま。道を踏み外し散る命のなんと多いことか。 世界は神秘に優しくない。悲しいほどに。残酷なまでに。 ならば、我々が道標になろう。 己の意思で選び取れるようになる日まで、神秘の道を君達に示そう。 賢者の学院は君達を待っている―― どこかオリエンタルな印象を受ける学び舎の前に、複数の男女が集結する。 ――門は開かれた。 「参りましょう」 門の先に静かな眼差しを向け、独特の品を持つ巨漢『最高威力』鎖蓮・黒(BNE000651)が穏やかに口を開く。 「参りましょう」 目を細めて学院を見渡し、スレンダーな美脚を魅せて『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)が前に出る。 「参りましょう」 キツネのビーストハーフ『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)がそれに続いた。 8人の男女が学院へと歩き出す。 使命感を胸に。決意を瞳に。幾多の戦いを潜り抜け鍛えられた肉体は鋼。心に信念の甲冑を着こみ、そして下は穿いていない。 そして下は穿いていない。 ●えっちぃのはなしだって、あんなに言ったじゃないですかー! 儚い夢を踊りましょう 賢きものが染まる夢 ――人の夢と書いて穿かないとは良い言葉だなぁ(違 「新人勧誘はルカに任せれば完璧よ」 今日も普段着のパーカー姿。見えそで見えない『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495) が廊下を歩く。目指す先は学長室だ。 露出ギリギリのラインで保たれたその格好からは穿いてるかどうかはわからない。さてどっちだろう? 「はいてるかどうかですって? STだけにはめくってみせるわ」 止めなさい。私は半ズボンの男の子にしか興味ないから。 「つまりこれはルカ的枕営業なの。大人の世界は汚いの。世の中カネなの」 あ、やめて! それ以上いけない。 「下を穿かんだけやったらアークではまだマシな部類な気がするぜよ」 ルカルカに並び、アークのリベリスタなら誰でも納得してしまう、言ってはいけない事実をさらっと吐いたのは仁太。 「まぁ、少しでも減らせるんやったら減らせるに越したことないしがんばろか」 通りすがりに教室を覗けば全員下を穿いてない。その様子をどこか仁太はしみじみと見つめる。 ――金がない時期は節約で穿いとらん時もあったなぁ、なつかしい。 どういうことだってばよ。 「甚平の上だけ着て、帯締めてめくれんようにしとったんよな。見えそうで見えない絶対領域(サンクチュアリ)で破壊力はさらに加速するぜよ」 破壊力という言葉にこんなに破壊力を感じたことはなかった。そんな彼の現在の格好は―― 「しっかしスースーして気持ちええなぁ」 お察し下さい。 「さぁ、狩りの時間ぜよ」 手分けして生徒を説得しようという意味の言葉です。だよね? ……だよね? というわけで複数の男の子達を呼び止め説得開始。 「下を穿く必要性、いうよりはメリットデメリットの説明やね」 神秘世界の先輩の言う事。少年達はメモを取り頷く。 「下を穿かない事によって何が得られるかっちゅうたらやはり破壊力があがることやな。精神的ダメージを与えられるなど攻撃面での強化は大きいぜよ」 なるほど、わからん。 困惑しメモに落としていた視線を上げると、そこに講師の姿はない。驚き見渡す彼らの背後―― 「逆に下がるのは防御力やね、こんな風に掘られやすくなる」 ぴとっと。少年の真後ろに立ち仁太は声を出す。あ、ぴとっという擬音に意味はありません。ホントだよ? 「まとめると、攻撃力が上がって防御力が下がる、性的に」 ――自身に性的な攻撃力が期待できんのやったらデメリットしか得られんぜよ。 性的にってなんだよ、というツッコミはともかく。言い切った仁太は深く息を吐き、深く渋みに満ちた表情で告げる。 「さて、おまはんらには掘る覚悟と掘られる覚悟はあるかな……? わしにはある」 少年達がお尻を隠して全力で走り去ったのは言うまでもない。 大きな音を立てて扉を開け放てば、男が一人そちらを見やる。 大きな椅子が窮屈に見えるほどの大巨漢。威風を撒き散らして腰掛ける禿頭。スーツ姿が張り裂けんばかりにピチピチしているこの壮年の男こそ、賢者の学院学長、真那羅威その人であった。 突然の訪問者に厳かに目を向け、ゆっくりと口を開く彼が何か言うより先に―― ――ゴガンッ! ルカルカが全力で拳を頭部に叩きこむ。机にめり込む禿頭。 はい、魅了入りましたー。 ぐるぐると目を回しながら顔を上げれば―― ルカルカ(15)は両サイドから下着に引っ掛けた親指を下にずらした。 はい、ここで章タイトル注目な? 「いい? これでルカははいてないと確定されたわ」 無表情のような、それでいてどこか挑発的に、ルカルカは学長と視線を合わせる。 「それでいいの? ぱんつを下ろすときにインモラルな魅力を感じなかった?」 開放感。つまりはクロスアウト。 「穿いてないにはそれがないわ」 断言。言葉はさながら鉄槌の如く振り落とされる。 ――穿いてないは否定しない。 一度目を閉じ、一呼吸置いて口を開く。 「けれどパージすることからのパッションは、なにものにもかえられない!」 ガーンと音を立て学長が硬直する……いやショック受けたらダメだろ。 いつの間にか足元に落ちていた下着を手に取り、ルカルカは微笑んだ。 「ぱんつはあげる。頭にかぶってもはすはすしてもいいわ」 ――なんなら、禁忌の扉……穿いてもかまわないのよ。 悪魔の囁きである。 学長は震える手をゆっくりと伸ばす。表情は様々に切り替わり、鼓動が張り裂けんばかりに呼吸が荒い。 その手が――止まった。 教育者の意地か。あるいは男の尊厳か……それとも。 ぴとっと音を立て、真後ろにつく仁太の為か。あ、ぴとっという擬音に意味はありません。 「当たっとる? 当ててんのよ」 ごめん、嘘だった。 ――穿いとらんと食われてまうよ? 性的に。 学長室に野太い悲鳴が響き渡った。 ●今週の隔離空間 学院の校庭を歩くのは―― 「YESYES! Oh Yeah! ここはパラダイスかしら! ワォ、ワンダフルなおしりがいっぱい!」 ものっそいスピーチは『魅惑のカウガール』プルリア・オリオール(BNE002641)のもの。彼女は既に自宅でパンツとホットパンツを脱いできている。おい、それでここまで来たのか。 「ワァァオ! BOYのBOYが並んでるわ! Oh! あのコ、ワタシのライフルよりとってもライフルしてるよ!」 捕まれ。 誰もが穿いてないこの異常空間においても、プルリアのその爆裂ボディは際立っている。 「丸出しだなんて……ナニかが起きるかもしれない……オゲレツ! ワォ! 丸出しのワタシに、生徒達は乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに! オーイエスカモォン!」 異常性も際立っている。 「でも紳士の嗜みっつーのも大事だよな」 ――ましてや交渉に行くんだぜ? 若干12歳の『スワロウ・スパロウ』出合島 白山(BNE003613)は、高尚な服装も必要ってモンさと独りごちて。 上はパーカー下は丸出しの少年紳士の誕生である。ちなみに今日は伊達眼鏡未装着。 「何だろうなー、今日はやけにオレサマに光が集まる気がするぜ!」 今日の光は徹底的に仕事をしている。 ところで、そんな白山だが校庭で何をしているかというと。 地面に腰掛け、休憩時間にボール遊びをする女学生を見つめていた。エリューションだけあって身体能力は高く、バレーボールと共に高く跳ねればスカートもひるがえる。 そんな様子を低いアングルから見つめる彼は―― 「……オレサマも此処に通うかな」 遙か故郷を思う紳士のような瞳でした。 「っとやべーおいてかれてたぜ!」 急ぎ足で白山は仲間に……いや、ぷるぷるヒップに顔面突撃した。 「oh,ママ! こりゃ鷲掴むには大きすぎるよ!」 「NOOO! Don't touch me! でも可愛い男の子だから……ゆるしちゃう」 誰かプルリアをどうにかしてくれ。 ――しかしなんだ、これは12年も生きてきたオレサマでもしらねーと言うか刺激が強すぎると言うか…… ヒップに手を添えながら白山真顔。その顔が赤く染まっていく……物理的に。 「ガイジンコエー……」 鼻血を振りまいて倒れました。 そんなこんなでようやくたどり着いた学長室。プルリアは腰に手を当て決然と叫ぶ。 「こんなハレンチなスクールライフは良くないわ!」 お前が言うな。 「淫らな異性なんとか……が増えちゃうよ! ワタシ、そんなビッチ増やすの良くないと思う!」 お前が言うな(2回目) あれ、白山がいない。 「やべーやべー見えねー何処にあるんだ?」 廊下でわざとらしくコンタクト探してた。 通りかかった女教員がコンタクトを見つけ、微笑んで屈みこむ。 ――瞬間、白山の動きは早い。 その回りこみはギャロッププレイかバックスタブか。 見事背後を取った白山が、その視線が―― 「学長! まだ続けるというならワタシ……学長のそのだらしないソレをアレしてアフンでオーイェスカモン学長のベイビーしてイェスイェスの学長のSmall Boyが無様な様になる前に! 撤廃して!」 誰かプルリアの通訳頼む。……あ、やっぱ止めて。リプレイ廃棄される。 と、怒涛の勢いで扉を開け、白山が飛び込んできた。 ――学長、体育祭の時、どうしてるんですか。 紳士の顔だった。 ――勿論、体操着。……上だけ。 聖職者の顔だった。 二人は頷きあう。差し出された入学届けに、白山は迷わず印を押した。 ●講師のお時間 ――穿かないのは色々と便利ではあるが、それなりの苦労もするのよねぇ。 どんな便利さか理解できないが、『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)に言わせるとそうらしい。 頭に叩き込んだ地図を頼りに、新任教員として体育系の部室を回っていく。回る度に増えていく取り巻き。 男子生徒を引き連れて、最後に上がってきたのは屋上だ。 「やっぱり空の見える場所が一番ね」 手すりにもたれかかり、シルフィアは空を見上げる。風が吹くとやばいよ。下に人がいるとやばいよ。 ――さて、教職を始めましょう。 「穿かないのは色々と楽だし気持ちいいのもあるにはあるが……満員電車に乗ると大変よ?」 さりげに発言が危険だった気もするがともかく。シルフィアは穿かないデメリットを説明していく。 「ミニスカ穿くとちょっとした風で見えるは、ちょっと人ごみが邪魔だったからその上飛んだら触られるは……」 そう言うシルフィアの服装は露出度の高い服にミニスカで。……この話、男子生徒には逆効果じゃないかなー。男子生徒の視線が思わずミニスカから覗く生足に集中したり。 「私は大丈夫よ。慣れてるもの……あ、ブラはしてないわよ?」 少し屈んで胸元を強調すれば――生徒達は服の裾をしっかり固定して走っていった。 (……ちょろいわね) 逆効果っていうかむしろ狙いでしたか。 ――大体、学園名がおかしいわよね。 『賢者の学院』 ――賢者どころか逆に興奮してしまうでしょう。だって穿いてないんだもの。 クールな表情に微妙なドヤ顔を混じえてこじりが呟いた。 そんな彼女の今日のファッションは……パステルオレンジのキャミソールにショートパンツという可愛らしいスタイルだ。 (下は穿いて無いのだから、良いでしょう?) はい問題ありません。 「こんにちわ、生徒諸君。アークに所属するリベリスタよ」 こじりは今、来期の卒業生が集められた教室の教壇に立っている。 リベリスタとしては最大規模の組織からの講師だ。皆が一様に緊張し席についていた。 ――貴方達は恐らく進路に悩んでいる事でしょう。 静かな教室にこじりの発する声だけが響いて。 「リベリスタとして秩序を護るのか、フィクサードとして私欲に走るのか。私はどちらでも構わないと思う」 教室がざわつく。敵対する組織でありながら、どちらでもと言ったこじりに生徒は疑問と好機の視線を投げかける。 「善悪等一方からの見方に過ぎない、そう思うから。……道を選ぶのは貴方達次第なのよ」 考える。選びとる。神秘を知り、世界を見据えて。どんな時も、意思は自分自身だけのものだから―― 「自分で考え、選びなさい。そうする権利も、義務も、貴方達にはあるのだから」 言葉が教室に染み渡る。反芻され、徐々に拍手が鳴り響く。こじりは目を閉じて拍手が鳴り止むのを待ち、設置されたプロジェクターを動かした。 「ちなみにアークのリベリスタの場合こういう特典があります」 ☆福利厚生に富んで居るので将来安泰! ☆とっても優しい先輩達が手取り足取り指導してくれます。 ……あれ、さっきまでと温度差が。 「更に先輩方の現場の声」 プロジェクターが若きリベリスタ達の写真を映す。 『DTだった僕にも彼女が出来ました! もうアークからは離れられません!』 『シュゴシンッ!』 『南無阿弥陀仏……』 『アークにきて俺と や ら な い か』 わぁーアークの名声トップ5の面々だー。ていうか彼氏以外投げやりじゃね? あと最後の誰だ。いやわかるけど。 戸惑う生徒達を手で制し、こじりは最後に「いずれにせよ」と切り出した。 「リベリスタ、フィクサード問わず言える事があります。それは、どこにも穿かない人は居るという事よ」 こじりはショートパンツを少し擦り下げる。息を呑む音とちらりと見えた腰骨に視線が集まり。 「……貴方達の将来に光るある道を願いつつ、講義はこれまでとします」 小さく礼をし、講師こじりは教室を後にした。 ……あれ、これって穿かないを肯定してるような? その後二人の講師は学長室に行き……学長を締めた。終わった。 ●嗚呼我らが学び舎我が母校。 「紳士たるもの下着は着用して行きたいのだが」 これも仕事かとため息を吐く『三高平の紳士』巴崎・M・木市(BNE003867)。紳士の心に暗示を掛ける。 「俺ははかない! はかない! はかないぞぉぉぉ!」 なんだこれ。 「この開放感! 説得しに行く俺がはかない派になるわけにはいかない……!」 何と戦っているんだこの人。 「くっ……天よ! 俺に紳士としての誇りを!」 『はかないは希少価値。少ないからいいんだよ』 大丈夫かこの天の声。 学長室に向かう道中、木市は顔をしかめる。 常識人は自分だけ。任務達成の為積極的に行動せねばな…… 考え事をして歩く木市の横を女学生が通りかかった。ウェーブのかかった髪がふわりと跳ねれば、スカートもひるがえる。 その肩に手が置かれた。「はい?」と女学生が振り返れば。 「君の下着姿が見たい」 どこの国の常識? ――鎖蓮黒。学院を母校と呼ぶ男だ。 彼は普段着から一肌脱ぎ、ネクタイをつけた正装で学長室に座っていた。ちなみに黒の普段着は全身タイツです。 懐かしき学び舎、懐かしき母校。窓から見えるは青春時代の風景か―― (――これは、センチメンタリズムでしょうか) 未だ外界を知らぬ雛鳥達。汚れを知らぬ無垢な魂を前に、世界は困難の牙を突き立てる。嗚呼―― 「あの日、わたくしは外の世界へと飛び出し様々な困難に出会いました」 言葉はか細く、けれど重く。震える声は、頬を伝う涙の証拠。 黒は泣いた。恩師を前にして。伝えるべき言葉の重みに泣いた。 学長は泣いた。手を離れ巣立った、我が子の如き者の苦悩を理解して。 脱ぎ捨てられた全身タイツ。それが答え。外の世界を生きる黒の、悔しさの滲んだ答えだ。 こんなもの妥協だ。わかっている。……目を伏せた二人の耳に、届いたのは歌声。 『さんさあら♪ さんさあら♪ ワン・フォア・オール オール・フォア・ワン♪』 生徒達の歌う校歌が響き渡る。誰もが光を信じて、自分の道を選びとる意思。その全ての肯定の歌。 世界は歌のように優しくはない。それでも―― 涙を溢れさせ、黒は校歌を歌いだす。 ――校長。世界への無理強いはなによりも公平公正中立を歌う学園組織の理想に反します。 三つの校訓を。三つの理想を。 自分の意思で道を選びとればやがて世界も穿かないことを選びます。それまで待ちましょう。 床に額をこすりつけ、どうかと黒は頭を下げた。 先駆者として、黒は孤独を背負っている。それも全ては後輩の為。巣立つ彼らのたどり着く場所に。轍を作ろう。道に迷う夜も、その大きな背中は彼らに安心を与えるだろう。 ――だから。 いまだ理解を得られない学院の理想に、自身の不徳を謝罪する黒に。 床に額をこすりつけ、学長は頭を下げた。 男は不器用だ。彼らは特に―― 二人は微笑みあう。互いの腕を取り、夕日を指差して。 歌を歌おう。世界に届く歌を――優しく響く、道を歌おう。 学院に校歌が響き渡る。 それは世界を許す歌。 未だ世界に許されない彼らが、それでも未来を信じて声にする。 『さんさあら♪ さんさあら♪ ワン・フォア・オール オール・フォア・ワン♪』 それは、世界で一番優しい歌―― 歌声が止まる。 ごとりと音を立て、力を失った学長の身体が垂直に落下する。 倒れた学長の後ろで―― 「とりあえずはけ。まずはそれからだ」 木市は満面の笑顔だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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