●題字:丸井あるな 「……なんだこれは」 それが会議室の前に張り出された躍動感のある、筆によって描かれたのびのびとした達筆の丸文字じみた垂れ幕を見た時の『クェーサーの血統』深春・クェーサー(nBNE000021)の第一声であった。 歓迎会である。しかも自分のものだ。 「聞いていない」 当然である。えてして当事者にとっての歓迎会とはそういうものだ。サプライズならなおさらである。 忙しなく準備をするアーク職員達。彼らはこの歓迎会の中心人物となる深春に目を向けることもなく、ひたすら設営を続けていた。彼らにとっては当事者がいようがいまいが関係はない。設営が目下の最重要課題なのだ。 それらを目にした深春は踵を返し、歩き出した。 向かう場所はひとつ。この騒ぎの発端であろう人物の場所であった。 ●執務室 「どういうことだ」 深春が問い詰める相手は案の定『戦略司令室長』時村 沙織(nBNE000500)である。 「どういうことも何も、お姫様。お前アークに馴染んでないだろ?」 ただでさえ悪い目つきをさらに鋭くし、凶眼と言ってもいい状態で睨みつける深春へ沙織はいつもどおり、すっぱりと直球に返答した。 「そんなことはない――と思う」 力強く否定した深春であったが、最初の語気は後になるほどに弱くなっていく。 実際彼女があまり馴染んでる様子はない。クェーサーは元々最小のリベリスタ集団と言われるだけあって、身内及び雇ったリベリスタとしか行動していないのだ。 そのような環境でずっと戦っていた深春にとって、アークの規模は大きすぎる。結果として、意図せず彼女は多数のリベリスタと交流する事を避けていたのだ。 「いや、完全に馴染んでないぜ? だからその場を整えてやったんだろうが。感謝される謂れはあっても怒鳴り込まれる道理はないぜ?」 深春の様子を楽しげに沙織は窺いながら、言葉を続ける。 「アークで活動する以上、単独で動けるわけじゃない。他の連中と親交を深めておくのは悪いことじゃないぜ? それに、歓迎会ではあるがお前の雇用してた連中もいい加減契約切れるんだろ? 送別会も兼ねて、と考えるとお前にも悪い話じゃないだろう」 その言葉に深春は思案顔になる。 彼女が日本において鬼を追撃する際に雇った複数人のリベリスタ。最早帰らない者も中にはいるが、無事生存した者達は契約の終了と共にそれぞれの場所へ戻ったり向かったりする予定となっている。 実際彼らの労を労うのは悪いことではない。それが自分へのあてつけのように計画された歓迎会であったとしても。深春はそう考え、頷いた。 「わかった。参加すればいいのだろう?」 「物分りのいい子は嫌いじゃないぜ?」 再び深春は憮然とした表情になる。 別に提案に不都合があるわけではない。ただ、相手の思い通りに操られている感が酷く気に入らないだけなのだ。 そこで深春は一つの問い掛けを沙織へと行った。 「ところで、この歓迎会に貴方は参加するのか?」 その言葉に沙織は苦虫を噛み潰したような顔になり、机の上を指差した。 そこには大量の書類が存在している。鬼の傷跡も癒えきっていない。さらにラ・ル・カーナなる異世界へのリベリスタの派遣まで決定した。本来の財閥の仕事も含め、沙織には仕事が山のように存在しているのだ。 それの意味することはつまり、不参加。いかに遊び好きな沙織といえども、常に遊んでるわけにはいかない。やるべきことがある以上、ホイホイと参加するわけにはいかないのだ。 「そう」 問うておきながら返答に対し、素っ気無く答えた深春は踵を返し部屋を後にする。 ――だが、彼女の内心にはガッツポーズが行われていた。 嫌がらせ程度ではあるが一矢は報いた。クェーサーに完全なる敗北はないのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月24日(日)23:29 |
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●開戦(深春の心境的に) アークの本部、その一角。 普段は会議等でのみ使用されているそのスペースであるが、現在その場所からはそれなりに賑やかな喧騒が通路へと漏れ出している。 申し訳程度の飾り付け、質素なその設営具合はホストである人物の嗜好に合わせたか、それともただのコストダウンか。そのあたりは定かではないが、確かな歓迎のムードがそのエリアには漂っていた。 その穏やかな空間はとてもとても和やかで…… 「よーこそ! ばばばばーん!」 ……やかましい。イーリスによる口クラッカーである。いつもながらテンションが高い。 さて、そんな騒がしい者も居はするが、全体的には和やかで…… 「銀河美少女、颯爽登場! ご奉仕するみゅう♪」 ……はい? 今脳の沸いたことを口走ったのはどう見ても戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫と呼ばれるアークのがっかりクィーン様にしか見えない。猫耳メイドだけど。多分そう。 「銀河美少年、颯爽登場☆」 増えた。さらに増えた。変な奴が増えた。多分この人も鴉魔とか終とかそんな名前の人。猫耳執事だけど。多分そう。 「コスプレは世界に誇るサブカルチャーだよ。良かったらやってみない? 楽しいよ☆」 舞りゅんが残念なのは今に始まった事じゃないけれど、と注釈をつける終。ご安心を。貴方達は二人ともがっつり残念です。 さておき、珍妙な二人に紅茶とコスプレを薦められている当のホスト。世界最小のリベリスタ集団唯一の残存者であり、類稀なる戦術能力を誇るクェーサーの血統。深春・クェーサーは。 ――完全に硬直していた。 コミュニケーションの円滑化が作戦成功率を上げる。それは深春も理解している。 だが、理解できる事とやれる事は違うのだ。現在彼女は立派なコミュ障であった。 「ようこそ、アーク江。深春さん」 スカートの裾をつまみ、優雅に。アリスが深春へと声を掛ける。 「あ、ああ」 「鬼の時はお世話になりました……♪ 深春さんにはお話とか色々と伺えたらと思います。ほら、あちらのお料理とか美味しそうですよ?」 答える深春だが、現状明らかに一杯一杯。そんな深春の手を取りアリスは宴席の最中へと連れ出していく。 深春が中央へと導かれると共にリベリスタ達が集まってくる。 「み~は~る~さん!」 陽菜は今回の歓迎会において一つの目的を持っていた。それは深春を笑わせることである。仏頂面でいることの多い深春。笑えばきっと可愛いに違いない! という理屈である。 「ほらそんな突っ立ってないで笑顔、笑顔!」 陽菜はあらゆる手段を使って絡んでいく。猫を抱かせる、ソフトクリームを与える、脇を擽り耳に息を…… だが深春は笑わない。むしろ目じりが釣りあがっていく。ただでさえ悪い目つきが更に悪くなっていく。漫画ならば怒りのマークがありありと見える状態であった。 「あ、あれ? もしかして怒ってる? だ、だれか助け……ッ!」 「深春さんはクールですね」 助けを求める陽菜を庇うわけではなかったが、エーデルワイスがそこに割り込むように現われる。 「デザートのアイス盛ってきたですよ。ハイ、あーん」 「い、いや。いい」 スプーンに載せて差し出されるアイスを戸惑うように拒否する深春。毒気が抜かれたのか再び落ち着きのなさを取り戻した深春、その隙を突いて退避する陽菜。 「イベントの時には一緒にさおりんを困らせてやりましょう♪」 楽しげに提案を行うエーデルワイス。その言葉に深春は緊張が解れたのか、やや穏やかさを取り戻した雰囲気で頷いた。 「そういう提案ならば乗ろう」 沙織に一泡食わすのは深春にとっても悪い話ではないのだ。今回の件のちゃんとしたお礼参りもしないといけないのだから。 「うぇるかむとぅ、あーく!」 「こんにちは、深春さん。私、セラフィーナって言います」 チャイカとセラフィーナの二人がそこへと訪れる。ウェルカムなどと言いつつも二人ともアークへは加入して間もない。時期的には深春と余り変わらないぐらいの時期だろう。 「同期の桜ってモノですね! あ、親近感がなんだか沸いてきましたよ!」 「なるほど、そうかもな」 高いテンションで捲くし立てるチャイカに深春は苦笑しつつも同意する。リベリスタとしての経験値は違えども、アークとしてはお互い新人と言って過言ではないのだ。 「良かったら一緒に皆さんの所を回りませんか? 一人だと話しかけ辛くても皆と一緒なら自然と話せますよ」 「ご一緒しよう」 セラフィーナの言葉に頷く深春。彼女も決していまのまま固まってるわけにはいかないと理解している。ならばこの誘いは渡りに船だ。 場内を巡れば声を掛ける者はいくらでも現われる。 「お話出来る事に少し緊張しています。クェーサーの名は各所で聞き及んでいましたから」 「どう? アークには慣れた?」 ミリィが、ティアリアが、早速話しかけてくる。クェーサーの名を聞き及んだ者も多い。深春の両親はかつて日本において活動し、かのR-TYPEとの戦いにおいて活躍したと言う。それ故に日本のリベリスタはクェーサーの名を聞き及んだ者はそれなりに多いのだ。 「それなりには。だが実際はこの体たらくだ」 自嘲気味に呟く深春。現状の自分を客観的に彼女は見ることが出来る。それ故に余計に落ち込んだりもするわけだが。 「先日はお疲れ様でした。次から一緒に頑張っていきましょう」 「お互い様だ」 凛子が鬼の事を労いながら近づく。深春もまた労い返す。労いと言えるかどうかはわからないが。 「ところで親御さん……ハインツさんと深雪さんでしたか? どのような方だったのです?」 凛子のその問い掛けに対し、深春の表情が硬くなる。 「強い人達だった、私より遥かに。……だけれど、敗北した。クェーサーに敗北は許されないのに。私は……その雪辱を濯がないといけない」 顰められた眉。固く結ばれた口。睨みつけるかのような瞳は剣呑であり、宴席の空気を凍りつかせるかのような只ならぬ決意を感じさせた。 「それにしても自分の後を継いでくれる娘さんが居て、御両親が羨ましいです」 そこに近づくのは茅根。若々しい姿をしてはいるが、立派な……いや、立派ではないかもしれない、れっきとした父親である。 「私にも一人娘がいるんですが、反抗期なのか私を邪魔にするんですよ。悲しいです!」 そう大仰に言う茅根の様に、呆れたような表情を浮かべる深春。結果として先ほどの緊張は緩和されたが、呆れた様子に深春がなるには理由がある。 「とても不躾な質問なんですけれど。御両親を恨んではいないんですか? クェーサーの名前さえなければもっと別の人生を歩むことが出来たでしょうし」 思いっきり横に、その噂の娘、珍粘……もとい那由他がいるからである。 「名前って呪いのような側面もあると思うんですよね」 その目線は横にいる茅根へと注がれている。ナンデカナー。 名前を呪いと言う那由他に対し、茅根はいつも通りの笑みを浮かべている。今度はこっちに緊張感が満ちている。 「私はクェーサーの家名に誇りがある。同様に他の生き方を考えた事などもない。……他人が自分の名を否定するのは別に構わないけれど」 そう言いつつ歩を進めた深春に、ぶつかりかける人一人。 「ん、失礼」 「いえ、こちらコそ」 ぶつかり掛けた相手――滸玲との間に軽く謝罪と会釈が行われる。が、滸玲はまじまじと深春を見つめ、不躾に切り出した。 「不躾なこトとハ重々承知でお尋ね申シ上げマすが、以前どチラかデお目にかかっタコとが」 「……さて、どうだか」 奇怪なイントネーションと複数の言語が入り混じった独特なイントネーションで紡がれる言葉に、深春は端的に答える。世界を回っていた深春。どこかしらで出会った可能性はあるかもしれない。だが、定かではない。それ故にこういったこともあるのだろう。 「いいなぁ、いつ見ても格好いいな、うん」 そう言って近づくのはびゃくや。尻尾を揺らしながら深春の元に近づいていく彼女に、深春は不審げに目を向ける。 そしてびゃくやがとった行動は、些細なアクション。自称千年越しの悲願たるその行為に、指を鉄砲の形に構え、深春へ向けてポーズを取る。ばきゅーん。 が、その首根っこが掴まれる。 「すいません、うちの姉が……」 掴んだのは妹のくろは。連行するように引き摺っていき、深春から離れようとする。 「悪気は欠片もないんです……」 至極申し訳なさそうに、指鉄砲のポーズのままのびゃくやを引き摺っていく。 ――その時。なんの茶目っ気か気紛れか。深春がびゃくやに対し手を向け。指鉄砲を構え、動かす。バン、と鳴らすかのように。 「こんなに楽しく食事が出来るのもおぬしのおかげ、この借りはいずれ返すとしよう」 そう言うのはシェリー。皿に一杯に積み上げられた料理を片手に、食べ歩く彼女に対し、深春は虚を突かれたかのような表情になる。 その発想はなかったのだ。まさかこの企画が立ったことで自分が礼を言われるなどとは。誰かのプラスになったのならそれもまたよし、か。そういった心境に深春がなった時。シェリーはその様子に一言付け足した。 「――? これは妾の分だ。そんなにジロジリ見てもやらないからな」 「……いや、それは思う存分食べてくれて構わない」 そもそもそんなに食べられない。 深春もゆるい空気に緊張が緩和する。そのタイミングを測ったかのようにミリィが再び声をかける。 「何か好きな食べ物とかあれば頑張って今度作ってきますので」 「物好きだな」 ミリィの提案に深春は素っ気無く答える。別に邪険にしているわけではなく、生来そういう反応しか出来ないだけだが。 「友達になりたいからです。それ以上でもそれ以下でもないのですよ」 「余計に物好きだ」 別に悪い気はしない。が、深春には快諾は出来ない。 「ええと、遅れちゃいましたけどわたしもお友達になりたいです!」 同じく手を差し出す舞姫にも即答は出来ない。何故なら友達とかよくわからないからである。リベリスタとしての活動一辺倒であった深春にとって、その間隔は遠すぎていまいちわからない。 だから、深春は。ただ、差し出した手を握り返した。 「何か無作法なことをしてる人がいたら遠慮なく手を出しても大丈夫よ」 ティアリアがそこに割り入るように言葉を発する。特に有名所には割りと変態が多いから、と。アークの業の深さは異常なので仕方ないといえば仕方ないのではあるが。 「歓迎するよ、深春たん!」 「お兄ちゃんの妻の虎美だよ、これからもよろしくね」 きた。噂の変態の一人がきた。 天下の3DTの一人、竜一である。妹の虎美も同伴である。大惨事の予感! というかすでになんか凄い自己紹介が行われていた。怖い。 「数日前に結婚式もあげたし嘘じゃないよね!」 依頼でね。 「とりあえず未成年だからお酒はダメだよ! ジュース持ってくるよ、ジュース! 何ジュースが好き?」 「あ、うん。その……」 勢いに押されて完全にしどろもどろになる深春。ハイテンションで捲くし立てる竜一にドン引きである。あとその手を離せ。さりげなく掴んでる手を離せ。すげぇにぎにぎしてる手を離せ。 「何かあったらいつでも俺を頼ってくれていいからね! あと寂しくないようにぬいぐるみを……」 バチィ。 身内からの桃印兵器により、結城 竜一死亡確認! ●傭兵達、そして戦いの記憶 この場は深春の歓迎会である。だがそれ以外の客人も存在している。 深春と共に戦った傭兵達。六人から数を減らし、残り三人。 フィクサードであり、白いスーツに身を包んだ伊達男、フォックストロット。 同様にフィクサードであり、長身で寡黙な男、青大将。 欧州のリベリスタであり司祭服に身を包む、クローセル・フィオレ。 彼ら三人もまた、契約が終了しこれから日本を離れる者達である。 「仕事とは言え、お疲れさんって所かい」 「や、どーもどーも」 烏が酒を手に、三人の杯を満たしていき、フォックストロットが気楽げにそれを受ける。 深春の護衛であり、手足となって動いた傭兵達を労う烏の言葉に皆が笑みを浮かべた。 「禍鬼の時は一緒に戦ってくれてありがとよ」 「マジで行っちまうのかよ。このまま蝮の旦那のとこでやるってのはダメなのか?」 翔太が、ツァインがフォックストロットと青大将の両名に問いかける。かつて相模の蝮の事件の時に、両者は敵対し、刃を銃弾を重ねた仲である。双方の実力はよく知っており、まさか肩を並べて戦う事になるなど予想だにしなかったであろう。 「日本は住みやすいんだがね、お偉方狙った以上は恩赦があってもやりにくいのよ。また海外で徘徊してほとぼり冷ましてくるさ」 飄々と言うフォックストロットと相槌を打つように頷く青大将。またどこかで出会う事もあるのだろうか。 「そういえばお二人が組むようになった経緯とはなんだったんです?」 七海が問うは二人がチームを組むようになった経緯。杯を傾けたフォックストロットはそれに答える……が。 「正直昔すぎる上に色々あったからなぁ、簡単には説明できねえよ。ま、時間はもう少しあるからゆっくりとね」 要領を得はしなかったが。 そこに一人の人物が近づいた。桃色の長い髪を靡かせ、かつての誰かの面影を残した少女。 「会ったのは初めてじゃないですね。……もう一年ぐらい前になりますね、わたしの姉とフォックストロットさんが戦ったのって」 「ああ、根性あったなぁ。もうそんなになるのかよ」 京子は一人の人物の為にここにきた。かつて彼らと交戦し、完全な決着をつけることなくこの世を去った姉の為に。 「『ずっとずっとまた会える時を待ってましたよ、背中を守れるくらい強くなったよ』っておねぇはそんなことを思っていたみたいです」 「光栄だねえ。こんなアウトローの為にそんな事考えるとはね」 飄々と、あくまで茶化すように。いつものスタンスを彼は崩さない。 「――ひとつお願いしてもいいですか? おねぇの事、褒めてあげてくれません?」 たった一人の姉の生き様を。認めて欲しいと妹は言い。 「……俺は、以前からあいつの事は褒めてたさ」 自らに食い下がり、ギリギリのラインで押し返し。生ける伝説に牙を突きたてた少女を、賞賛しないなどという事があろうか。 ややしんみりとした空気。それを打ち破るように喧騒が近づく。 「アンタがこんな場に来てくれるとは思わなかったぜ。だが丁度いい。約束どおり――バトルの時間だ!」 バトルマニアが宴会無視してやってきた。斜堂影継(16)中二病真っ盛りが。だが高一だ。 得物を振り回し、喧嘩を仕掛けにやってきた男。青大将もかつて戦った相手、決してそれを無碍にすることはない。 結果、何が起きたかというと……青大将が影継へ向けて蹴り上げたテーブルが空を飛ぶこととなった。先手必勝である。 「また騒がしいことを……」 乱闘の始まった傭兵側の様子に深春が眉を顰める。だが、彼らとも短い間ではあったが共闘してきたのだ。多少の羽目の外しは見過ごしてもいいだろう……そう思い。 「アノニマスと申します。どうぞよしなに」 深春は引き続き来訪者の対応に追われていた。次々と訪れる人に辟易しつつも、ある程度こなれて来たので対処が追いつくようにはなってきていたが。 「クェーサーさんなら俺みたいな奴をどう運用するか参考までに聞きたくてですね」 「……戦場において用法は変わる為、それに答えることは難しい」 用法は場によって変わるのだから仕方ない。 一方深々と会釈をするのは悠月。 「生前に父から聞いた話では、何時の代かは判りませんが、クェーサーに御縁と恩があったとか。――だから、あなたの事を知った時から、お会いしたいと思っていました」 「そう。あちらの結社は根が深いから」 共に欧州に源流を持つ双方。それぞれ家の持つ関係性はあるが、それに縛られているというわけでもない。むしろ家が中心であり、他の関係性はそれに付随する何かなのだろう。 「深春・クェーサー。この度の戦いでの助力を感謝している」 「俺からも礼を言わせて貰う。決戦での助力、感謝する」 優希が礼を言い、同行する拓真もまた謝辞を述べる。決戦において、またそれ以前においてもそれぞれ肩を並べた者同士、思うところはあったのだろう。 「こちらも、その……助かった。貴方達が適切に指示に従ってくれたからこそ、効率的に戦うことが出来た」 お互いの感謝の言葉と共に、飲料の入ったグラスがぶつかる。ささやかな乾杯。それはアークとクェーサーが同じ道を歩むという証でもあった。 「……一度言わなきゃと思っていた。ダンさん達の事」 アークにおいて守護神と呼ばれる快。だが、彼も万能ではない。守りきることが出来ない事もある。だが、だからこそより決意は強くなる。 「もし謝ることを許さないというなら、決意表明として聞いてほしい――失ってばかりの俺だけど、いつかは皆を守れるようになると」 「キッシー家、私も知っているのです。キッシーさんとはもう戦えないのです。だから、私強くなるです! もっと!」 独白するように決意を語る快と、失った者の分も強くなると誓うイーリス。リベリスタは思いを重ね、自らへと積み上げていく。彼らの分も、前へ進む為に。 「――それが貴方達の決意ならば、聞こう。そしてその手助けを私もしよう」 失われた仲間。金で雇われた傭兵であっても、一時を共にした仲間を失う事に対し何も思わないほど機微がないわけではない。リベリスタの思いを深春なりに、今受け止めたのだ。 「だがあんな無茶はもう控えてもらえるとありがたいがな」 その様に苦笑しつつアルトリアがぼやいた。鬼の戦いにおいて、凄まじいまでの矢襖に対する盾として快と共に活用された彼女にとっては切実な意見である。 「必要ならば行う。それがクェーサーの流儀」 だが、反省はない。クェーサーに反省はない。いや、本当はあるけどこの件に関して深春はしない。必要ならば行わなければならないからだ。 「そういや深春ちんヘッドフォンつけてんな。いつも何聞いてんだ?」 モノマがおもむろに深春に問いかける。アークに置いては外部フェイトとして有名なヘッドフォンではあるが、深春はいつも見につけている。当然今もだ。 彼女なりにコンセントレーションを高める道具としての音響器具なのだが、その中身の実態は判明はしていない。 その問いに対し、深春は黙ってモノマへとヘッドフォンを差し出した。モノマが装着すると同時に深春はスイッチを入れる。 ――宴席の最中に、ヘッドフォンから漏れる大音量の重低音とうがいをするような独特のボーカルが響き渡った。 小休止。そして歓迎。 外からの新しい風を受け、アークはさらに前へと進む。 今日の交流をより強い明日への力とし、進もう。戦いは明日も待っている。 ――だから、今はこのささやかな宴席でお互いの労を労おう。クェーサーの名の下に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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