● きゃっきゃ、と、響くのは子供の笑い声。 人気の無い夜の遊園地。 数人の子供達は楽しげに、けれど何処か不安げに、そこに座っていた。 動かない乗り物。ただただ静かなそれは、見た事が無くて、だからとっても楽しいけれど。 静か過ぎて、暗すぎる夜は、何だかとても怖かった。 「……まだかなぁ」 「まだだよ、もう少し待ってよう」 言葉少なになった子供達から、囁く様な声が漏れる。 大丈夫だよ、大丈夫。そう囁き合う彼らはしかし、一様にそわそわと、落ち着かない様子で辺りを見渡していた。 「そろそろ時間だよね」 「……あ、あそこだ……!」 子供達の声に応える様に。 夜の空は唐突に揺らいで、不意にぽかりと穴を開ける。 丁度0時。何処かで聞こえる鐘の音。 子供達は一斉に立ち上がって。その背の羽根でふわりと、空へと舞い上がった。 ● 「どーも。……今日は『運命』って言うよりは、個人的なお誘いってことで。夜だけで良いから、時間あったりしない?」 大した資料を持つ事も無く。常よりは幾分気楽げな表情で、『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は話を始めた。 「ワンダータイム静岡、って言って、あんたら分かるかしら。あの時村財閥の遊園地ね。 そこに、アザーバイドが出現する。因みに夜。……彼らは遠足でこのチャンネルに来たんだけど、引率者とはぐれて帰れなくなったの。 こっちで言う小学生低学年程度らしくてね、自分でゲートを開く事が出来ない。あ、因みにフェイト持ちね。 で、一応、引率者、っていうか、『あっち側』のアザーバイドが帰還の為の穴を開いてくれるから、帰ってくれれば丸く収まるんだけど……」 ふ、とその表情が曇る。 何かあるのか。そう身構えるリベリスタに目線を戻して、フォーチュナは溜息混じりに続けた。 「穴が開くの、真夜中の0時なの。……彼らが置き去りになるのは21時くらいだから、彼らは実質3時間くらい、誰も居ない、遊具も動かない遊園地に居なきゃならない。 ……ちょっと、可哀想でしょ。それに何かあったら困るし……そう言う訳で、あんたらにお誘い、って事」 夜の遊園地で、アザーバイドの子供の面倒を見て欲しい。 要はそう言うことらしい。漸く伝わった話に安堵しながら、フォーチュナは話を進めていく。 「アザーバイドは全部で8人いるんだけどね。あたしらが面倒見るのは5人だけ。 ……彼らは妖精の羽根だったり、天使の羽根だったり。色々な羽根を持ってる小さな子供の姿をしてるわ。 とても大人しい子達で、あたしらが行かなければ不安げに膝抱えて、穴が開くのを待っててくれるような子達よ。 あんたらは兎に角、一緒に遊んでやったり、何か問題が無いか見ていてくれればいいわ。……まぁ、それさえしてくれれば、自由に遊園地で遊んでくれていい」 夜の遊園地、なんて中々経験出来ないでしょ? そう楽しげに笑ったフォーチュナに、残りの3人は? と質問が投げ掛けられる。 「ん、嗚呼。そっちはちょっと、って言うかかなりやんちゃでねー。 あたしじゃ手に負えないから。……丁度、目の合った草薙サンにお願いしちゃった。彼良い人よねー、どうしても、お願い。って言ったら頷いてくれたのよ。 そんな訳で。……あたしと子供と一緒に、遊園地で一晩遊びましょ」 夜で良かったわ、良かったら宜しく。其処まで告げて、フォーチュナは酷く楽しげにブリーフィングルームを後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月21日(木)00:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「はろー、こちらの世界へようこそ! みんなを代表して歓迎するのですよー!」 「あたしはエレオノーラ。0時に穴が開くまで、一緒にここで遊んでみない?」 肩を寄せ合って居た子供達へ、『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)の明るい声がかかる。 続く、『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)の穏やかな誘いに振り向く、5つの頭。 同じくらいの背丈に、背に生えた翼。親近感を覚えたのだろう、警戒心の薄まった様子の子供に、リベリスタは次々と挨拶をしていった。 異世界に遠足。考えてみれば何と凄い話だろう。子供達に笑顔で挨拶と、名前つけをしながら、『風華の陰陽姫』神宮寺・美雪(BNE001984)は思う。 そこにどんな理由があるのかは分からないが、兎に角、可愛いお客様に素敵な思い出を与えたい、そう、優しく微笑む彼女の横では、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が子供の数を数えていた。 「以前、来た事あったな。受け持ちの子供は5人かな」 真夜中に置き去り、何て可哀想だ。そんな彼の思いを知ってか知らずか、大人しく話を聞き始めた子供達を見つめて。 自己紹介を終えた『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は、ぼんやり思考を巡らせていた。 心細い。心の機微には疎いけれど、淋しい、は、少しだけ分かる気がした。 折角、楽しい思い出作りに着た筈なのだから。楽しいまま、送り返してあげたい。 思い出を持たない自分の分も。そうは思うものの、小さい子とどう仲良くなれば…… 「あ、……あめさん、たべる……?」 差し出したのは、色とりどりのキャンディ。那雪が首を傾げれば、子供達は一斉に群がった。 「あめさん! あまいの? おいしそう!」 きゃっきゃ、喜んで包みを握る子供達に、次に声をかけたのは『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)。 「はいはい。私は先生。ソラ先生よ。ちゃんということ聞いてね」 「え、先生ちっちゃ……「そこ!! 殴るわよ」 いやほんとどっからどう見ても教師ですよ。子供と同じ目線に立てる教師って褒められたこともあるし。 ソラ先生。その目線は物理的な意味での気がしなくもないです。 少年の1人が、面白がってソラの周りをぐるぐる回る。緊張の解れて来た様子の子供達を確認して、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)はひとつ、手を叩いた。 「他の3人なら大丈夫、別のメンツが探しに行ってる。そんなワケで、だ」 せっかくここまで来たんだ、思いっきり遊んでこうぜ? 人好きのする笑みが与えるのは、安心感。大丈夫かな。でも、大丈夫って言ってるよ。そう囁き合う子供達は、漸く意を決した様に顔を上げて。 「い、一緒に遊んでくれるなら、お願いします」 リーダーの少年――リベリスタがつけた名で言うなら、アーサーの言葉と共に、先ずは園内一週が始まった。 深呼吸をひとつ。 各々別行動になった状況を確認して。 らしくないな、そんな気恥ずかしさはとりあえず頭の隅に追いやって、『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)は子供達を見送る響希に声をかけた。 「今夜は子供達は勿論、響希にも楽しんで貰いたいんだ」 よければ自分と遊んでくれないか。 投げ掛けられたエスコートの申し出に、響希は驚いた様に瞬きし、けれどすぐに楽しげに表情を崩す。 「喜んで。……私、遊園地って殆ど来た事無いのよねー。だから全部任せるんで」 格好良い所見せてよね。伸ばされた手が、零児の腕を掴んだ。 「遊園地と言えば絶叫マシン!! 絶叫マシンしかないでしょ!?」 「そうだな、よし、じゃあ俺らはアレ行こうぜ!」 そう言ってエルヴィンが指し示したのは、最強絶叫系マシン『ハイパードリンドライバー』。 2人の間、零児から貰ったパンフレットの該当箇所を確認したアーサーの顔が、若干引き攣る。 「え、あ、あの……あれ? あの、すごい高い奴ですか」 控え目に。敬語を交えて尋ねる彼に大きく頷いて見せたソラは、にっこり、いい笑顔を浮かべて見せた。 「反論は認めません。あなた男の子でしょ? リーダー格なんでしょ?」 怖い訳無いわよね? 男のプライドと言う奴を刺激する言葉に思わず頷いてしまったアーサーを半ば引き摺るように、3人はジェットコースターに乗り込んだ。 がたがた。ゆっくりと、見える景色が高くなっていく。 それに合わせて青ざめる顔。安心させる様に、エルヴィンがアーサーの手を握った次の瞬間。 「っああああああああ! 落ち、これ落ちてるううううう!」 急転直下。捻りを加えて一気に下へと駆け下りるそれに、心からの絶叫が上がる。 一瞬、目の前を人型の何かが横切った気がしたけれど。そんなの目で追う暇も無かった。 「ハイパードリンドライバーひゃっほー!!」 「は、はは、やべぇこれすごい。怖いのに笑いが止まらな……っ」 ソラ先生、ちょっと余裕有り過ぎです。 確り握った手はそのままに、笑っているのか叫んでいるのか分からないエルヴィンと共に、アーサーも悲鳴を上げ続ける。 最強絶叫系マシンの名は、伊達じゃなかったらしいです。 ● 「私もここへ来るのは初めてなので、オススメとかご紹介できないのです」 自身と同じ髪の色を持った少女の手を優しく握って。 チャイカは出来得る限りゆっくりと、少女の気持ちを汲み取らんと首を傾けていた。 折角来た遠足先。臆病で楽しめない、何てそんなのはあんまりだろう。 容姿のよく似た、まるで妹の様な少女が、この遠足を目一杯楽しめるように。 その心の内を、引き出してやろう。そう尽力する彼女を見上げる、紅の瞳が不安げに揺れる。 「だから、好きな所へ行きましょ? おねーさん、どこにでも喜んで行きます」 自分の意見を求めている。気がついたのだろう、酷く不安げだった少女の表情が、驚きに彩られる。 すきなところ。そう小さく復唱する少女の瞳はふらふら、彷徨って。 「……、なか、いっぱい見たい。……いいの?」 ノリモノと言う奴にチャイカは乗りたくないのか。遠慮がちに発せられた声に、チャイカは微笑む。 答えの代わりに手を引いて、歩き出してからふと、彼女は思い出した様に立ち止まった。 見上げるのは、遠くて高い夜空。 晴れて澄んだ其処に広がる煌めきに目を細めてから、ディアナに上を見て下さい、と声をかける。 「私の世界では、こんなにもステキな星空が広がってるんですよ!」 きらきらと。優しい光を溢す星。 夜は暗くて寂しいばかりは無いのだ、それを教える為に両手を広げて空を示したチャイカの手の先を見上げて。 「ホシ……?」 少女の首は、不思議そうに傾けられる。 お空できらきらして居るものですよ。そう教えてやれば、少女はゆっくり空を見渡した。 「お星様って、宇宙って言うものすごく遠くて寒いところにあるんです。あの光は、長い長い時間をかけて私たちのところに来てるんですよ」 分かり易く丁寧な説明。星座、と言うものもあるのだ、と話してやれば、漸く少女の顔にも笑顔が浮かび始める。 あれはなぁに。これはなぁに。その質問に、ひとつひとつ答えてやりながら。 並んだ銀色の後姿は暫く、空を見上げたまま動かなかった。 「ねえ、お化け屋敷いってみない? 怖いの苦手かしら?」 自分と那雪の間。興味の向くままちょろちょろ動き回るクリスを連れ歩くエレオノーラは、目の前のそれを指し示した。 怖いものならドリンドライバー? そんな言葉は聞こえない。 身長制限で乗れなくって時期酒煽った? そんな過去の記憶なんてもうとっくの昔に何処かにやったのだ。 過去は振り返らない。それが男らしさだ。エレオノーラの外見で男らしさと言うのは酷い違和感だが。 お化け屋敷? と少年が首を傾げれば、建物内を怖がらずに抜けられたら勝ちという遊びだ、と教えてやる。 「おもしろそう! やりたーい!」 きゃっきゃ、楽しそうな少年に、緩々笑みを浮かべるのは那雪。 自分も初めてな那雪にとって、未知のお化け屋敷はとても楽しげに見えるようだった。要するに彼女は多分きっと5%の内の一人なのだろう。 一歩、足を踏み入れれば、ひんやりとした……否、少し、生温さを含んだ空気が肌を撫でる。 あと、聞き覚えのある声も。あれ可笑しいな無音なんだけ、ど…… ぱたぱたぱたっ。 何も居ないはずの廊下を、駆け抜けていく足音。びくっ、と少年の肩が揺れる。 「……怖かったら手を握っていいからね?」 「ええ……那雪も、ぎゅってしてあげる、わ……」 両隣からかかる声にも、頷くのが精一杯。 だがしかし。エレオノーラも若干何時もと調子が違ったのは気のせいだろうか。否、気のせいにしておきたいらしい。 足を進めれば、いきなり飛び出す女。息を飲んだ少年を那雪が抱き締める横で、彼は引き攣りかけた表情をなんとか真顔に保っていた。 顔には出さない。プライドあるし。心の中が幾ら阿鼻叫喚になったって、この程度、潜り抜けた修羅場に比べたら全然どうって事無い、筈だ。 「楽しかった、わね……?」 那雪の声に返るのは沈黙。何でそんなに平気そうなのか心の底から聞いてみたい。 何か飲もうか。そんな話をしている3人の目に、見知った2人の姿が飛び込んでくる。 お化け屋敷に入るのだろうか、楽しげに言葉をかわす様子に、浮かぶのはちょっとだけ悪戯な笑顔。 微笑ましいなぁ。そんな事を思いつつカメラを構える辺り、那雪は中々強かである。 「……あれ、なにしてるの?」 「ほら、大人の仲良しを邪魔しちゃ悪いじゃない」 少年の疑問には、笑顔でしー、として見せて。エレオノーラもやはり、微笑ましげに其方を見る。 何もしません。大丈夫、黙っていてあげるから。 でも正直、その微笑ましげな目線が一番、恥ずかしいと思います。 ● 「ハヤテ、ハヤテ、あれかわいかった!」 船の上で。きゃっきゃ、と声を弾ませる少女が指差す先。 ((´・ω・`)) 震えているのか踊っているのかはさておいて。 非常に愛らしいドリンの姿に興味津々の少女を舟から降ろしてやりながら、疾風は優しく目を細めた。 喜んでくれるだろう、そう思って連れて来た甲斐があった。一度休憩をしよう、と手を引いてやれば、少女は大人しくその後に続く。 「そちらの世界はどんな所なの?」 ベンチに腰掛け、美雪が作った弁当を広げた疾風が尋ねれば、ハンバーグを頬張ったエスタはうーん、と首を捻った。 説明が苦手なところも子供らしいと言うべきか。暫く考え込んだ末に、あ、と少女は声を上げた。 「もっとなんにもないの。でも、とってもきれいなの」 ハヤテも、遠足に来たらいいのに。きらきら、純粋にそう望んでいるのであろう少女の瞳が輝く。 面白そうなところだねぇ。互いの世界の違いについて会話を弾ませる二人の前を、手を繋いで歩いていくのは美雪とバート。 口数こそ多くは無いが、この少年は案外、好奇心旺盛なようだ。美雪の好きなもの――絶叫系、ドリンドライバーを3回。次はVTSプロト。 少々凝り性らしい様子に、思わず微笑ましげにその目が細められる。 「……ミユキ」 「なぁに? 何か、乗りたいものがあった?」 唐突に発せられた声に、優しく応じる。 ふるふる、首を振った少年は少し考えて。遠慮がちに、美雪の抱える鞄を指差した。 「……ミユキのおべんとう」 たべたい、と続いた言葉。あちらの世界の様子が全く分からないから、とよく考えられた献立を詰め込んだそれを広げてやれば、少年は瞳を輝かせる。 黙々と。あれもこれも、と皿に取る姿は、此方の子供と何ら変わらない。 「好きなだけ食べてね、嬉しい」 表情が緩む。美雪は甲斐甲斐しく、少年の世話を焼いていく。 きらきら、と。星がよく見えるベンチに腰を下ろして。 満足行くまでアトラクションを楽しんだのだろう。常よりずっと機嫌良さげな響希は、同じく隣に座る零児に視線を向ける。 「ドリンって可愛いのね。メルヘンワールド、結構面白かった」 一番最初。零児に誘われるまま乗った舟のアトラクションの感想を漏らせば、零児もまた頷く。 「お化け屋敷も中々だったな、完走率5%も頷けたよ」 お化け屋敷。その単語ひとつで、響希の顔が若干青ざめたのはまぁ勿論気のせいではない。 誰にも言わないで頂戴ね。そう、ぼそりと漏らされた含みある台詞に小さく笑って。零児は満足げに、星空へと視線を投げた。 未熟な自分。それがどうしても嫌で、鍛錬ばかりに明け暮れるようになっていたから。 それら全てを忘れて楽しむこんな時間は、本当に久々だった。 「いい思い出出来たわ、楽しかった。……ありがとね、飛鳥クン」 少し気恥ずかしげに笑った彼女へ、気取った言葉のひとつでも言えれば格好良いのかもしれないけれど。 どうにも、そんなものは出てこない。 「ありがとう響希、楽しかったよ。また今度、付き合って貰えるだろうか?」 率直に。告げられた言葉に、響希は少しだけ驚いた様に瞬きして。 微かに開かれた唇が、その返事を告げようとした瞬間。 がさっ。背後で聞こえた小さな音。木の影から覗く銀色に、立ち上がる零児。 「……チャイカだな?」 「見つかっちゃいました!逃げますよっ!」 こんな事も楽しいのだ、と声を潜めて見守っていたチャイカが、慌てて、隣の少女の手を握った。 きゃっきゃ、楽しそうな笑い声と共に駆け出す後姿を追う気にもなれず見送る零児の後ろで。 面白そうに笑う響希はとんとん、とその肩を叩いた。 振り向けば、少し低い位置にある瞳が、緩く細められる。 「……今度もまた、エスコートしてね」 さ、戻りましょうか。微笑む響希と共に、零児もまた、集合場所へと歩き出した。 ● 「う……ううう……のりものよいが……」 「ソラ先生、大丈夫ですか?」 おろおろ。観覧車の中で、青い顔をしながら椅子に身を投げ出すソラと、それを心配する少年。 どれだけ勢いが良くとも、そしてソラの見た目が子供に近かろうと、本物の体力には敵わない。 随分表情の解れて来た少年を見遣りながら、エルヴィンはそっと安堵の吐息を漏らした。 とても真面目そうな少年の事だ、今回の事に責任を感じ、気を張り詰めていたのだろう。 そんな彼の重荷を少しでも下ろさせてやりたい、そんな思いは、見事に達成する事が出来たようだった。 「……お、あそこに何人か居るぜ、見てみろよ」 頂点付近。ふ、と目に留まった、恐らくはやんちゃな3人組を追い掛け回しているリベリスタを指差して。 エルヴィンが少年に手渡したのは双眼鏡。初めて見るのだろう、恐る恐るレンズを覗いて、少年は感嘆の溜息を漏らした。 「すごい、……わ、あいつまたあんな事して……これ、すっごいなぁ……」 覗いては顔を離して目を凝らし。再び覗いて、大きく頷く。 気に入ったのだろう。色々なものをレンズ越しに眺める様子に少しだけ表情を緩めて。 「気に入ったならコイツはプレゼントだ。……他の皆にはナイショな?」 頑張ったご褒美だとでも言わんばかりに。告げられた言葉に、少年はその瞳をぱちり、瞬かせる。 プレゼント。繰り返された言葉に頷いてやれば、少年は宝物の様に、双眼鏡を抱き締めた。 エルヴィンが手を貸して、観覧車を降りてみれば。 時間より少し早めに集合した仲間達が、3人を待っていた。 もうすぐお別れ。その空気を敏感に感じ取ったのだろう子供たちの表情が、少しだけ暗くなる。 「写真撮ろうぜ、今日の記念にさ」 そう言ってエルヴィンが取り出したのは、インスタントカメラ。 写真を撮ろうとしても表情の晴れない子供たちを、エレオノーラはそっと撫でてやる。 「写真を撮るなら、ほら笑顔で、ね」 子供たちも、リベリスタも。思い出の写真に、悲しい顔なんて似合わないから。 アーク職員がカメラを請け負ってくれる。はい、チーズ。映ったのは、どんな顔だったのだろうか。 「……おほしさま」 別れ際。チャイカから貰ったリボンをしっかりと握り締めて、少女は呟いた。 どうしたんですか、優しくチャイカが尋ねれば、少女はぱっと顔を上げて、チャイカを見上げた。 「おほしさまみたいにとおいけど、またくるから」 だからまた、いっしょにあそんでね。 紡がれた声は小さくて、けれどはっきりと、チャイカの耳へと届く。 気付けばもう0時。漸く合流した残りの3人を確認してから。 お別れに、と美雪は全員の身体を確りと抱き締めてやる。名残惜しい。けれど、永遠の別れではないと信じて。 「どうか、みんな、元気で……なの、よ」 「またね、今度は其方の面白い話も聞かせて頂戴ね?」 那雪が、エレオノーラが、別れを告げる。 行きたくない。そう言いたげだった子供達はしかし、漸く、その翼を広げ空へと舞い上がった。 エルヴィンが手を振る。零児が用意しておいた花火を上げてやれば、子供達は大きく手を振り返す事で応えてくれた。 異世界への遠足。迷子と言うアクシデントに見舞われたものの。 幼い子供達は、普通では絶対に得られない素敵な思い出と共に、自身の故郷へと帰って行く。 ゲートが閉じた後。満天の星空だけが静かに、灯りの消えていく遊園地を照らしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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