●英雄とフィクサード かつて戦いがあった。 それは歴史に残るものではない。戦国の世で小国同士の小競り合いのとき、村一つを身を呈して守った英雄の話。 野党崩れになった兵士相手に、戦う術のない村人達は逃げるか殺されるのみ。彼は村を守るために、単身兵士達に戦いを挑んだ。武器は己の身体一つ。その動き、まさに修羅の如く。血が流れ、肉が裂け、骨が砕け、そして彼はその使命を果たした。 目の端に主の姿が見える。嗚呼、私を心配して駆けつけてきてくれたのですか。下手をすれば戦いに巻き込まれて死んでいたのに。自分よりも私のことを心配する。そういうところは大好きでした。 天寿をまっとうできなかったけど、もし神様がいるなら感謝したい。最後にあの人に抱きかかえてもらえるのなら、それだけ幸せです。 これが最後の仕事。勝ち鬨の声を上げ、村の無事を宣言するのだ。それで命は尽きるけど、後悔はない。肺一杯に息を吸い込み、声高々に叫んだ。 「わおおおおおおおおおおおん」 「小汚ぇワンコだゼ」 半透明の犬の幽霊。犬のエリューション・フォースの姿をみて、その女性は蔑んだ。チャイナ服を着た一人の少女。『チャプスィ』と呼ばれる一人のフィクサードだ。 「ま、コンナのでもフェーズ2のエリューション・フォースだからナ。『キマイラ』の材料にはなるだろうヨ」 「か、勝てるんですか? 資料によるとエージェントを三度返り討ちにしたエリューションですよ」 「ケケッ! それを考慮してのこの数ネ。ついでに『煉魂陣』の使用許可もでたヨ」 チャイナ服の少女が握りこぶし大の石を持ち出す。見た目はそのあたりに落ちていそうな不恰好な石だが、エリューションの犬はそれを危険と判断して唸り声を上げた。 「発情したか、ワンコ? コッチにくれば、いろんなモンと合体できるかもしれネーゼ、ケタケタケタ!」 ナイフを構え、チャイナ服の少女がエリューション近づく。彼女が連れてきた人もそれぞれの武器を構えて包囲網を狭めていく。 数が多い。その上、練度も高い。犬のエリューション・フォースは勝てないことを冷静な部分で理解しながら、しかし戦意を高める為に唸り声を上げた。 ●英雄とリベリスタ 「おまえ達、たまにはエリューションを助けてみたくないか?」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。呼び出されたリベリスタ達は回れ右をするか、怪訝な顔をするかの二種類だ。 「たいしたことはない。サムライの介錯を願い奉るというストーリーだ。もともと死んでいるのだからピュアハートの呵責もないだろう」 「わけがわからん。話を進めろ」 「七派フィクサードの六道が、最近『キマイラ』と呼ばれるアンノウン・エリューションを使って事件を起こしていることを知っているよな?」 は? 突然横道にそれたフォーチュナの説明に、首をひねるリベリスタ。 「連中は『キマイラ』の材料にエリューションを必要とする。ノーフェイスを始めとしてビースト、ゴーレム、エレメント、アンデッド……そしてフォース」 指折り数える伸暁。要領を得ないとばかりに黙って説明を聞いているリベリスタたち。 「六道のフィクサードたちが『キマイラ』の材料捕獲の為に一匹のエリューション・フォースを捕縛しようとしている。犬の幽霊だな。そこにはかつて村があったみたいで、村を盗賊から守ったヒーローだそうだ。忠誠に生きたサムライのストーリーだ。泣けるだろ? で、そいつを倒してきてほしい。六道のフィクサードが捕縛する前に」 伸暁から転送される『万華鏡』で見た未来の映像とエリューションのデーター。そして六道のフィクサードの姿形とデーターを見て、呻きを上げるリベリスタ達。楽観できる相手ではない。 「六道のフィクサードはE・フォースを捕えることのできるアーティファクトを所持している。捕まってしまえば『キマイラ』の材料になるだろうね。そいつはヒーローの末路としてはバッドストーリーとおもわないかい? そうならないようにしてやれ。どの道エリューションの放置はできないんだ。 六道たちが捕まえる前にヒーローの魂を天に送ってやれ。アーメン、ってな。なんならナムアミダブツでもいいさ。ホールーシンボルなら各種購買部に売ってるゼ」 ジョーク交じりに肩をすくめ、リベリスタの瞳を見る。信頼と期待と、そして不安と心配を混ぜた赤色の瞳。 「六道のフィクサード達は無理に相手をする必要はない。だが確実に邪魔をしてくるだろう。油断するなよ、ヒーロー&ヒロイン」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月18日(月)00:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ケタケタケタ! こんな廃墟を守っても意味がないんだヨ。この駄犬。大人しくヤラれちまえ!」 『チャプスィ』がE・フォースを罵倒しながらナイフを振るう。 狂うように吼えるのは、ナイフの痛みか言葉の痛みか。 フィクサードとエリューションの戦いを、建物の残骸の陰からリベリスタは見ていた。 リベリスタの目的は、フィクサードにエリューションを倒させないこと。単純にその目的だけを達成しようとするなら、ギリギリまでフィクサードに『英雄』を攻撃させてトドメだけをリベリスタの誰かが刺せばいい。そのあと、戦闘で疲弊したフィクサードをおさえ込むのも容易だろう。 だが、彼らはそうしなかった。 「急急如律令。我が友と英雄を守り給え」 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が札を構えて術を展開する。リベリスタと、そしてかつてムクと呼ばれた犬のE・フォースに淡い光が瞬き、身を護る加護を形成する。 「アーク!?」 フィクサードに驚く間も与えずにリベリスタ達は動く。 「一番手はもらったぜ」 雷音の付与を合図に真っ先に動いたのは『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)だ。手にした打撃系散弾銃『SUICIDAL/echo』を、乱戦から放れて陣をとっているホーリーメイガスのフィクサードに向けて振り下ろす。光の残滓を残しながら、巨大な鈍器となった散弾銃がフィクサードの肩を強打する。 「村を救った英雄サマを、人殺しの道具になんてさせねえからな」 とある騎士から譲り受けた刀を手に『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)は白い光を放つ。光はリベリスタと、そして雷音と同じく倒すべき相手のエリューションに集い、鎧となる。身体を癒し、そして相手への刃となる堅牢な鎧に。 リベリスタがエリューションの味方をする。不意打ちも予想外だったが、それ以上にその事実がフィクサードの動きを止めた。 「ただ一人で守るべき物を守った。英雄の名に恥じぬ生き様」 『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)が二尺五寸八分の刀を手にホーリーメイガスに殺気を向ける。抜刀と同時に独特の足運びで迫り、大上段に刀を振るいフィクサードに斬り付けた。 「倒すべき敵とはいえ、その姿に学ぶものはあるでしょう」 無論、リベリスタとて任務を忘れているわけではない。だが、村を守った英雄のエリューションに、敬意を抱いているのは確かだった。 「もらった!」 赤く光る剣を手に『折れぬ剣《デュランダル》』 楠神 風斗(BNE001434)が走る。立て続けに攻撃を食らい、戦闘で疲弊していたホーリーメイガスのフィクサードが膝をつく。それを確認した後で、風斗は『チャプスィ』に向けて切っ先を突きつけた。 「また会ったなコウモリ女! こないだくれてやった傷はもう癒えたか!?」 「ケケッ、『枝』の時のヤツか。力で押すだけのガキなテクじゃ、すぐに癒えちまうのサ」 言って哂う『チャプスィ』。その笑い方を見て、剣を握る手に力が篭る風斗。 (色々思うモンはある。解消出来ねぇままだけど……) 手のひらの中には、小さな結晶。仄かに温かい結晶をしまい込み、『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が拳を振るう。その手に宿る炎が『チャプスィ』を焼き、皮膚を焦がす臭いが鼻腔を突いた。 「久しぶりだなぁクソアマァ! テメェ等本当に最高だ!」 「今度は『アンタレス』の時の拳士カ。千客万来ネ。楽しくないけどナ!」 ナイフを水平に構え『チャプスィ』が舌打ちをする。唯一の回復役であるホーリーメイガスを潰されたのだ。それを思えば気分はよくはなれない。 「おいたはそこまでだよっ!」 『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)は『チャプスィ』に叱るように声を上げながら、魔力を練る。複数の素材と調味料を適度に混ぜるように、四種類の魔力を程よく混合する。経験と感性と。相反するように見えるそれは、しかし富子にとっては同じ"自分"でもある。混ぜ合わされた魔力は『チャプスィ』の動きを一瞬封じた。 「敵とか味方とか、そんなもんじゃないんだよ。攻撃するからしないから、そんなうわべじゃぁ無いんだよ」 富子はそのあとムクを悲しそうな瞳で見つめた。エリューションである以上、滅ぼさなければならない。しかしムクを敵視してはいけない。 「応仁の乱に端を発し、戦国の世を経て六百年」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)も火のついていないタバコを咥えてムクを見る。手にした銃に神秘の弾丸が宿る。最短最速。幾度となく繰り返され、ヤニの臭いのように身体に染み付いた動き。撃ち放たれた弾丸はフィクサードたちを次々と穿っていく。 「何故、主無き廃村を未だ守り続けるか」 既に村の形すらなく残骸のみとなったこの場所で、この犬は自らの存在をかけて戦っている。何故だ。烏はそれが理解できず、その未練を断つことが重要だと感じていた。 『ケタケタケタ! こんな廃墟を守っても意味がないんだヨ。この駄犬』 皮肉なことに『チャプスィ』の言うとおりだ。こんな廃墟を守る意味はない。 しかしムクは必死になって守っている。肉体は滅び、魂のみとなってもなお。 その遠吠えが、村に響き渡る。 ● 「まずはリベリスタ達を黙らせロ!」 数合打ち合い、『チャプスィ』はリベリスタの作戦を看破する。まずはフィクサードを倒して『英雄』を捕縛できないようにした後で、エリューションを打破するつもりだ。 『チャプスィ』の言葉と共に六道のフィクサードたちの矛先はE・フォースからリベリスタに向かう。 「蜂須賀示現流、蜂須賀冴。参ります」 冴はエリューションの体力を観察しているフィクサードを見つけ、独特の足運びで間合いを詰める。チェーンソー使いのデュランダルはその動きに反応し、冴の刀を受け止めた。打ち合う鋼と鋼。十字に交わる刃越しに、二者の視線が絡み合う。 「まさかエリューションを守るためにリベリスタが動くとは思わなかったわ」 「勘違いしないでください。かの英雄は世界の敵。倒すべき存在です」 「なら何故、守る? 私たちとE・フォースを比べれば、リベリスタが最優先で討つべきはエリューションでしょうに」 揺さぶりをかけるための問答だが、冴の瞳は揺らぐことなく、 「ええ。その通りです。ですがあなたたちも世界を害するもの。私の斬るべき存在です」 刃に誓った己の正義。それを成す為に冴は刀を振るう。それが自分が選んだ生き様。故に揺らぐことはない。 「皆、死ぬなよ。俺が皆を守るから」 俊介から魔力と呼ばれる力の流れが放出される。時に歌となり、時に身を守る鎧となり。背中を押すのが自分の仕事と決め、ひたすら仲間を守るために魔力を放出する。リベリスタの正義でもない。フィクサードの悪に怒るでもない。 「死んだら終わりなんだ。みんな死なないように俺はホーリーメイガスでいる」 死は終わり。当たり前の事実は、命を癒すと言う立場であるからこそ強く理解できる。仲間を守るため、英雄と言う事実を守るため。ムクを含めて俊介は回復の魔力を放出する。 「遅いぜ、坊主!」 風斗の眼前にいたフィクサードの姿が掻き消えるように動く。気がつけば風斗の身体に傷が入り、出血が大地を染めていた。 止まらない出血。流れる血の赤よりも赤く、風斗のもつ大剣が光る。持ち主のオーラの高まりに比例してその輝きを増す破界器。それは風斗の戦意に比例して赤く輝く。 「あれはただの犬の亡霊だ。六道に有効利用されるだけの、素材だ。身体張って助けるなんざ馬鹿のすることだ」 「ただの亡霊……じゃない。ムクは優しい心を持つ英雄だ!」 「ケケッ! バカが特攻して死んだだけじゃネーカ。頭悪いワンコだゼ」 『チャプスィ』の独特の笑い声に、怒りの表情を向ける風斗。 (あの耳障りな笑い声を、二度と吐けないようにしてやる!) しかし今は数を減らすことが重要だ。風斗の渾身の一撃がクリミナルスタアを袈裟懸けに襲う。そこに、 「悪いな。あんたのほうが遅い」 ロングコートを翻し、喜平が迫る。巨大な散弾銃を鈍器のように振るい、クリミナルスタアを地に伏した。速度を軸とした殴打と至近射撃。眼帯に覆われていない目で『チャプスィ』を睨む。 「よぉ小汚ぇクソアマ。相変わらず殴りたくなる笑顔だね」 「エスの方か、眼帯。六道に来ればサービスしてやるゼ、ケタケタケタ!」 皮肉を交わしながら、喜平は破界器を振るう。裏でコソコソしてすかした顔してる奴よりも、外道一直線で前線で身体張ってますな『チャプスィ』は嫌いじゃない。まぁ、消えてほしいのは確かなのだが。 そして『チャプスィ』が動く。 奇門遁甲。方位術によりベストの『逃げ道』を察し、リベリスタとフィクサードとエリューションの乱戦から何事もなかったかのように抜け出る。ナイフを構え真っ直ぐ走る先は――ホーリーメイガスの俊介のもと。踊るように刃が走る。 「させないよっ!」 「かーちゃん!?」 『チャプスィ』が振るうナイフを庇ったのは富子。ナイフの痛みに耐えながら、『チャプスィ』に向かって笑みを浮かべる。 「俊介が倒れたらこの戦いは終わりだっ。だからはアタシは絶対に倒れない」 「ハ、マグメイガスが肉の壁とは笑えるネ!」 「そのために鍛え上げたんだよっ!」 ち、と舌打ちする『チャプスィ』。堅牢の防御力なら突破できるが、豊富な体力を削るのは得手ではない。相性の悪さに表情を歪める。 「姓は晦、名は烏。稼業、昨今の役戯れ者で御座いってな。さて、オジサンも動くとするか」 心を鋭く。全ての感覚を銃を撃つためだけに特化する烏。身体は衝撃を受け流す為に。視神経は標準を見るために。脳は風などの自然障害による弾道のブレを計算する為に。 烏の手に握られた『二四式・改』が火を吹く。弾丸はムクの周りにいるフィクサードだけを性格に射抜いていく。『チャプスィ』の刃で傷ついた腕を押さえながら、彼女が持つアーティファクトの場所を探った。 「あんなメリハリの無い幼児体型だ。不自然な出っ張りが煉魂陣だろうよ」 「ケケッ。そんなに見たけりゃ脱いでヤローカ?」 しかし、戦闘に重点を置いているため充分な観察はできない。アーティファクト発見は諦めざるを得なかった。 「物ォ隠すなら内臓が一番だよな?」 「ッ! 炎ヤロウ!?」 背後からの声に反応して『チャプスィ』が振り向けば、火車が拳に炎を宿して迫っていた。ボディブローをガードした『チャプスィ』の表情には、焦りがある。それは火車の読みが当たっている事を示していた。 「テメェ等は……!」 緋が走る。『チャプスィ』を留めることができないのなら、何度でも追う。その意気込みをこめて拳を振るう。 「オレ等の!」 左から右のワンツーパンチ。フック気味に曲線を描く左が動きを制限したと思えば、一直線に振り下ろす右が『チャプスィ』の顔にあたる。 「敵だ!」 倒れることさえ許さないとばかりに下から跳ね上げるアッパー。腹部に突き刺さる炎の拳が、『チャプスィ』の動きを止める。下腹部を押さえながら、それでも意地の悪い笑みを崩さずに彼女は哂う。 「ああ、私タチは敵ネ。この駄犬を六道が奪うかアークが殺すかの勝負ヨ」 「ムクを、賭けの賞品みたいに扱うな!」 怒りの声を上げる雷音。『チャプスィ』の与えるナイフの傷からの出血を癒しながら、彼女は吼える。 「モノのあり方、矜持を歪めて楽しんでいるお前たちなんかにボク達は負けない」 「ケケッ、弱いから歪められるのサ」 「ああ、貴女はボクより強い」 雷音は自分の弱さを嫌と言うほど知っている。この手でつかめないもの。この手で守れないもの。身にしみて知っている。だけど、 「けれどそれが信念を、想いを妨げる理由にはならない」 だけど想いはある。この手で何かを掴みたい思い。何かを守りたい思い。それは強さなんて関係ない。 そしてそれが朱鷺島雷音と呼ばれる少女の原動力。自分の弱さを知っているが故に、他人の強さでは折れない心がそこにある。 「自我を、大切な想いを失い、ただの道具になる。そんなことは絶対にさせない。 ムクはムクのまま、村を守った英雄のまま。世界の気まぐれが与えた偽りの生を終わらせるのだ!」 「思いだけじゃ何もできないネ。それを教えてやるヨ」 そして戦いは加速する。 ● 鉄風雷火。剣林弾雨。死者の咆哮が戦場に響き、鋼と鋼が交錯する。 「まだ、負けないのだ!」 「その通りだ。ここが踏ん張り時だ」 体力に劣る雷音と烏が『チャプスィ』のナイフで倒れそうになる。運命の加護を使い意識を留めるが、それでも長くは持ちそうにない。 「滾れフェイト。まだ倒れんよ」 「私の正義は、まだ折れません」 フィクサードと相対している喜平と冴もフィクサードの猛攻を前に運命を削り、耐え抜く。 「おかん!」 最初に倒れたのは、俊介を庇い続けた富子だった。『チャプスィ』のナイフに血だらけになりながら、地に伏せる。 「よそ見してる余裕はネーヨ!」 『チャプスィ』がナイフを煌かせ、火車を切り裂く。手ごたえあり、その笑みを浮かべた彼女の顔が驚きに歪む。 「こんなモンで……今のオレを、どうにか出来ると思うなぁあ!」 追い込まれるほどに強くなる。逆境でエンジンが加速する者。そういう革醒者もいることを『チャプスィ』は思い出す。火車はまさにその典型例だった。運命を燃やして立ち上がり、さらに赤く燃える拳。目に見えて一撃が鋭く、強くなっているのをその身で感じる。 「フィクサード! お前たちは己がためにどれほど奪えば気が済むんだよ!」 ここが攻め時。回復の合間を縫って俊介が放つ魔力の矢。それを受けて『チャプスィ』の足がふらつく。戦場を見回せば、仲間のフィクサードも何人か倒れていた。ここが引き時か。 「撤退するネ。丙の参で合流ヨ!」 リベリスタから視線を外さず、『チャプスィ』が後ろに飛ぶ。フィクサードたちも彼女の符丁に従い、倒れている仲間を抱えて撤退した。 「みっともなく逃げるがいい。信念も何もないお前には似合いの姿だ!」 風斗がフィクサードの姿が完全に消えるまで、逃げていった方向を睨む。残心。戦い終わってもなお戦士の心を解かずに。 「後は……」 リベリスタは『英雄』の姿を見た。村を守る犬の幽霊。倒すべきエリューション。 「さて、どうするかね」 喜平はエリューションの様子を伺う。近づかなければ襲い掛かってはこない。だが警戒の色を解くわけではなかった。 リベリスタは『英雄』に対してフィクサードから守るように行動していた。だが、完全に信用されたと言うわけではない。 「……ムクが守っているのは、『村』そのものかね」 烏はタバコに火をつけて一服する。主なき廃村ではなく、村の思い出そのもの。今だけではなく、今まで築いてきた『村』の歴史全て。人がいた頃も、いなくなる過程も、そしていなくなってからも。全てを愛しているのだ。 「もう村はない、ということは簡単だ。だがその思い出がある限り、ムクの中ではこの村は生きている」 つまり、未練を断ち切る術はないということか。 リベリスタは破界器を構え―― ● 「待て、オレが話す」 仲間の刃を手で制し、火車が一歩前に出た。エリューションの牙が襲い掛かるが、抵抗することなく言葉をぶつける。 「よぉ、大将。アンタは立派だ。尊敬すら覚える」 血が飛び、骨にまで届く牙。その痛みに耐えながら、飛び出そうとする仲間を今だ手で制しながら、 「だがよ? このままだとアンタは守った村は愚か、何もかもぶっ壊しちまう」 その言葉が理解できたのか、噛む力がそこで止まる。目に見えて、エリューションの姿が薄らいでいく。 「理解した、のか?」 「そりゃ伝わるさ。アンタ達は伝えるだけの気持ちをもってたんだろう?」 富子が満面の笑みを浮かべながら答える。こうなることを予測していたような笑顔。 「皆を守ってくれて、ありがとう。助けてくれてありがとう、君は本物の英雄だ」 雷音が消え行く犬の幽霊を抱きしめる。冷たく、霧のように実体のないその体。その顔は確かに安らぎの表情を浮かべていた。 「お疲れ様、ムク。オマエは英雄だ」 俊介が労いの言葉をかけると同時、その姿は完全に消え去った。 遠く、犬の遠吠えが聞こえる―― 『もう村はない、ということは簡単だ』 火車はほんのりと温かい結晶を握り締める。失った者を、思いながら。 いろいろ思うところはある。正直、まだ解消できない。 『だがその思い出がある限り――』 廃村となってもなおムクは村を思い、守った。 それを愚かと哂う者はここにはいない。 『ムクの中ではこの村は生きている』 故郷を失った英雄は喪失を感じながらも、その思い出を守るために牙をむいた。そしてリベリスタの心に触れて、その牙を収めた。 大事な人を失った者は喪失を感じながら―― 「へっ」 頭を振って思考を現実に戻す。比べることに意味はない。ムクはムク。オレはオレだ。 答えはまだ見つからない。 だけど―― 「いいさ……一緒にいこうぜ」 握り締めた結晶は温かかった。 「ケッ! また大目玉ダゼ」 「『煉魂陣』を持ち出しても失敗ですから、始末書モノですよ。……ところで何処に隠してたんです?」 「オンナは穴が一つ多いんダヨ。 ……クソッ。アークの奴ら、邪魔になってきたナ」 「確かに。一年前とは規模も実力も大違いです」 「シャーネ、そろそろ潰しに動くカ。宮仕えはツライネ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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