● 男はどうっと大地に倒れ伏す。 今、自分の目の前で起きている光景が信じられない。リベリスタとして、それなりの戦いは繰り広げてきていたつもりだ。それでも、目の前の少女には太刀打ちできなかった。 ここは某県にあるリベリスタ組織、「パイロ」のアジト。組織と言っても10人規模の小組織だ。そして、少女は数名の仲間と乗り込んできたかと思うと、見事に「パイロ」のリベリスタ達を叩き伏せてしまったのだ。 男が起き上がれないでいる中、少女は大きく深呼吸をするとのん気そうにノートに何かを書き入れている。年の頃はミドルティーンといった所であろうか。男が睨んでいることに気が付くと、明るい笑顔を返す。 「おじさん、中々強かったよ。帰り際に救急車は呼んであげるから、じっとしていてね」 少女はポニーテールを揺らすと、汗を拭いて、刀を鞘に納める。とても先ほどまで激戦を繰り広げていたようには思えない。 「えーっと、倉庫はあっちかな? 中のものはもらっていくから」 少女が言っているのは「パイロ」の武器倉庫のことだろう。その中にある神秘の力を持つ武器防具を、彼女は戸棚の中のケーキでももらうかのような口調で持って行こうとしている。 そして、男の方にそれを止める手立てはない。だが、最後の気力を振り絞って、せめてと少女に向かって言葉を吐き出す。 「……お、お前達は……一体、何なんだ……?」 「そっか、名乗るのを忘れていたもんね。それじゃあ、教えてあげる」 男の言葉に少女は立ち止まると、顔に太陽のような笑顔を浮かべ、指をまっすぐ向けて答えた。 「剣林派が一、武蔵トモエ(たけくら・―)。今は剣林百虎の弟子を目指し、いずれは彼を超えるもの。覚えておきなさい」 ● 次第に暑くなってきた6月の頭、リベリスタ達はアーク本部のブリーフィングルームに集まっていた。そして、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は、メンバーが揃っていることを確認すると、依頼の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、リベリスタ組織『パイロ』の救出と、彼らが所有しているアーティファクトの保護だ」 守生が機器を操作すると、「パイロ」のアジトを示す地図が表示される。彼らはアークと協力関係にあるリベリスタ組織で、付近に現れるエリューションと戦っていたらしい。そして、そこにフィクサードの襲撃があることが予測された。 「警告をしようとしたんだが、連絡手段が断たれていた。今から向かえば、戦闘が終了したタイミングでの到着になるはずだ。幸い、トドメを刺されてはいないようだな。よろしく頼む」 「パイロ」もリベリスタ集団である以上、当然武器・防具・アクセサリーを所有している。フィクサードはそれらを奪おうとしており、フィクサードの手に多数の武装が渡るのは避けたい事態だ。 そこで、話を聞いていたリベリスタの1人が、相手のフィクサードが何者なのかを質問する。すると、守生は一瞬言いよどむが、ごくりと息を呑むとその質問に答えた。 「襲撃を行ったのは、剣林のフィクサードだ。人数こそ少なめだが、全員実力は高い。直前に戦闘している分の疲労はあるが、強敵だ。十分に注意してくれ」 今度はリベリスタ達が息を呑む番だった。 『剣林』は主流7派の中でも武闘派で知られ、その実力は折り紙つきだ。個々の戦闘力は随一とされ、真っ向から戦って無事で済む相手ではない。無意味な殺生を好むタイプでないのは救いだが、それでも話し合いで穏便に付き合える連中でもない。 「説明はこんな所だ。資料も纏めてあるので目を通しておいてくれ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月17日(日)23:56 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
● 「アークだ! 動ける奴は怪我人担いでアジトの中へ!」 「こちらはアークのリベリスタよ、救援に来たわ! ここは私達が持たせるから、今のうちに中へ!」 戦いの終わった「パイロ」のアジトに、数名の男女が駆け込む。アークのリベリスタ達だ。 増援が来たことを察し、身構える剣林のフィクサード。 「こんにちは、紅茶でも飲みますか?」 「喉乾いているし、それも悪くないんだけど、仕事終えてからの方が良いかな~」 そんな相手へ『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)は優雅に挨拶をする。しかし、和式の手甲を装備し、古武術の正装に身を包んだ、本格的な戦闘姿だ。それは見る者を圧倒する。フィクサード達のリーダーである武蔵トモエも軽く応じつつも、相手が侮れないものであることは感じていた。 そして、リベリスタとフィクサードが互いをけん制し合い、睨み合いを行う中、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)とツァイン・ウォーレス(BNE001520)は、怪我した「パイロ」のリベリスタ達をアジトの中へと避難させる。フィクサード達にしてみれば隙だらけの姿だが、相手の力量が読めない。何よりも「武闘派」剣林の看板が、無防備な相手へ攻撃することを許さなかった。 互いがにらみ合う中で、1人のフィクサードがぽつりと呟く。 「……おい、あそこにいるの、雪白・桐(BNE000185)とツァイン・ウォーレスじゃないか?」 「マジか?」 「あぁ、間違いないよ。ほら、あの話は聞いているだろ?」 「ふ~ん、それはちょっとうれしい誤算かもね」 名の知れたリベリスタの存在に、警戒を強めるフィクサード。「パイロ」のリベリスタを背負いながら、彼らの会話を耳にして、ツァインは苦虫を噛み潰したような顔になる。 「ちょっと待っていて下さい。貴方達も心置きなく状況の方が良いんじゃないでしょうか?」 「パイロの人達は戦闘に巻き込まないで欲しいな」 桐はフィクサード達の反応などどこ吹く風で、巨大な剣を地面に突き立てる。 『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)ははっきりと主張した。死合いじゃないなら死人は出さない方がいい。もっとも、相手から感じる威圧感に足は震えていたが。 「その言い方だと、戦うこと自体はオッケーなのね。だったら、構わないよ。こっちもアークとガチバトル出来る機会は逃したくないしね」 トモエは微笑みを浮かべると、警戒を解く。少なくとも、避難が終わるまでは戦闘は始まらないと判断したのだ。同様にまだ戦いは始まらないと判断すると、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は怪我人の様子を見ながら、トモエに問いかけた。 「貴女たちは、アーティファクトを狙っているようですが、ここにあるものをなぜ狙うのですか? 唯の点数稼ぎですか?」 「そういうことになるかな。もちろん、強い武器とかがあればグーだけど」 「なるほど、噂に聞く剣林とはこんなコソドロなのね。物資に困って強盗だなんて、哀れで泣けてくるじゃない」 のん気そうなトモエに対して冷ややかな目を向けるミュゼーヌ。彼女のフィクサードへの憎しみは深い 対してトモエは笑顔で答える。リベリスタもフィクサードも、互いに「強者」でしかないと考えるがゆえに。 「自分の得物は自分で手に入れろ的な所だしね。それに……百虎さんからは、弟子になりたいなら土産持って来いって言われちゃったしさ」 さらっとトモエが出した名前に場が凍りつく。 剣林百虎。 武闘派剣林の首領にして、国内最強の呼び声も高い革醒者だ。 それが土産と言うからには、別にアーティファクトそのものが目的なのではあるまい。アーティファクトを手に入れるだけの才覚と実力があることを証明して見せろ、ということだ。 「何れは剣林百虎を超える者、か……。 一度吐いた唾は飲めんぞ、武蔵トモエ。小娘の戯言と嘲笑う連中も多い事だろう」 くつくつと笑う『戦闘狂』宵咲・美散(BNE002324)。 だが――それでこそ、だ そうそうない強敵と出会えた喜びに、美散の体が震える。 「それでこそ武闘派、それでこそ『剣林』よ。 その『志』こそ俺が求める『敵』に相応しい!」 「やる気十分みたいね、お兄さん。あたしも楽しみだな」 緊張で乾いた唇を舐めるトモエ。臆したわけではあるまい。戦いの予感が身を走ったのだ。 そこにリベリスタの避難を手伝っていたツァインが戻ってくる。その瞬間、場が殺気に満ちる。 もう、気兼ねはいらないと。 もう、目の前に並んだ極上の料理を食しても構わないのだと。 その合図のように、『勇者を目指す少女』真雁・光(BNE002532)は名乗り、尋ねた。 「ボクは勇者を目指す真雁光です」 戦闘の構えを取る、最強を目指すフィクサード達に臆する事無く。 「なぜ、あなたは強くなりたいのですか?」 ● 轟! 衝撃破が大地を駆ける。 慧架は足元を走る大地の亀裂に目をやり、冷や汗を流す。さすがに全ての衝撃を受け流し切ることは出来なかった。一歩間違えば、一撃でやられかねない。それほどの破滅的な威力の一撃だった。 「性格通りですね。真っ直ぐで良い剣です。ですが、私も負けていられません。鈴宮慧架推して参ります」 言葉を発すると同時に、慧架はポニーテールを揺らし、トモエの間合いの内側に入る。 「ハァッ!」 そして、トモエの2撃目の勢いを利用して、思い切り地面に叩きつける。 しかし、トモエはそれに怯む事無く、後方へ転がると姿勢を立て直す。 トモエが立ち上がり、姿勢を正す瞬間を美散は待っていた。 確かに相手は万全と言える状態ではないのかも知れない。それでも、自分の中の修羅を満たす機会を中途半端なものにはしたくなかった。 「宵咲が一刀、宵咲美散。いざ、尋常に勝負!」 「剣林が一、武蔵トモエ。その勝負、受けて立つ!」 互いの吐いた気合と共に、互いの刃がぶつかり合い、剣風が渦巻く。 心得の無いものであれば、巻き込まれただけで意識を刈り取られてしまいそうな。 「おい、かわい子ちゃん。足が震えているぜ」 ガントレットを装備した覇界闘士が声を掛けたのは智夫。フィクサードの言う通り、彼の足は震えている。 「剣林の皆さん、強そうだから。でも、頑張る」 智夫は足の震えを止めようとはしない。強敵に恐怖を覚えるのも、間違い無く自分自身だから。 そして、アークで激戦を生き抜いてきたのも、間違い無く自分自身だ。強烈な剣気に当てられながら、「強そう、怖い」で済んでいるのが何よりの証拠である。 智夫の手から放たれた強い光が後ろにいたホーリーメイガスの身を焼く。フィクサード達の強力な前衛を防ぎ、補給を断つのがリベリスタ達の作戦だ。 「小細工なしでぶつかり合って追い返すのです。れっぷーじぃぃぃぃん!!!」 フィクサード達の動きを封じるべく、きらびやかな剣を振り回す光。 さすがに乱戦の中では有用に働かないものの、覇界闘士達の体を捉える。 そして、剣を振り切った光の胴に、フィクサードの掌底が叩き込まれる。 「ぐっ……」 重たい一撃に光の足が鈍る。 「これが剣林ですか。その理不尽を許す訳には参りません。早々に阻止させて頂きます」 強い意志を込めてフィクサード達を睨むと、凛子は高位存在の力を借り受け、癒しの力を顕現させる。続けて『おとなこども』石動・麻衣(BNE003692)が、癒しの福音を響かせた。 癒し手達は全力を尽くす。 それでもなお、回復が間に合わない。 リベリスタ達の緊張の一方で、後衛の動きを見たクリミナルスタアが、リベリスタ達の中を突っ切ろうとする。フィクサードも後衛の支援を残しておくことのまずさに気付いたのだ。しかし、それは叶わない。 「踊りの相手は私よ。貴方の破滅への舞踏だけど」 ミュゼーヌの武器を銃だと判断していたフィクサードは、虚を突かれた形になる。そのせいか、彼女の背面を取ろうとする動きは甘いものになり、皮一枚を切りつけるに留まる。 前衛で銃と格闘を組み合わせて戦うのがミュゼーヌのスタイル。下手な前衛以上に、近接戦闘には手慣れているのだ。 「まぁ、向こうも向こうで、中々に燃える戦い方するホリメさんですね」 回復よりも攻撃を優先させるホーリーメイガスの姿を見て呟く桐。回復を行わないわけではないし、前線に出てきて攻撃するような無茶はしてこないものの、その動きには驚きを隠せなかった。少なくとも、攻撃に逸るような熟練度の低いフィクサードには見えないのだが。 しかし、相手が何であれ、自分は自分の役目を果たすだけだ。 大剣を構える桐。 手の中にあるのは、「まんぼう君」という気の抜けた名前ではあるが、超重量を秘めた危険な武器だ。 自身の細身に合わないその凶器を掲げると、桐は全身のオーラを雷に変える。 そして、そのまま一筋の雷へと姿を変え、後衛のホーリーメイガスへと切り込んでいく。 止められるものなど、いるはずがない。 ● そうした戦いの中で、ツァインの動きは若干の精彩を欠くものとなっていた。理由は自分を見た時のフィクサード達の反応だ。 あの反応からも、彼らが剣林百虎の片腕とも言われた『雨四光』一菱桜鶴の腕前に惚れ込んでいたのは分かる。 かつて、自分は一菱桜鶴と戦い、その末期を汚すような真似をしてしまった。 あの日の自分が間違っていたとは思わない。 しかし、あの人が満足出来なかったのは事実。 その事実が、鎖のようにツァインの体を縛る。 お陰で反応が遅れる。 後ろを取ろうとする敵の動き。見慣れているはずだ。ここで目の前から消える奴が、どのような攻撃をしてくるのか。 しかし、間に合わない。 ツァインの目に映る己の血は、さながら赤い雨のようだった。 ● 相手の回復役から潰す。 相手が範囲攻撃を使えない状況を作る。 リベリスタ達の判断は何一つ間違っていない。それは戦術の基本だ。 しかし、それはあくまでも基本の戦術。 1戦を終えた直後で、数に劣るフィクサード達の判断は違った。 あえて自分達の戦術を攻撃に偏らせることで、戦力差を強引に埋めに来たのだ。 「さすがに強いです、気を付けて!」 掌底を受けた腹を押さえつつ、智夫は仲間に声を掛ける。膝をつかないようにするのが精一杯だ。 それでも、窮地の仲間を救うべく、必死で勇気の光を輝かせる。 「貴方達には鉛玉がお似合いよ、遠慮せず持っていきなさい!」 ミュゼーヌの放った弾丸が戦場を覆い、フィクサードの拳が戦場に荒れ狂う。 ここで押し切られるわけにはいかない。なんとしても、押し返してみせる。ミュゼーヌの意志と怒りを込めた弾丸がフィクサード達に突き刺さる。 フィクサード側の主たる攻撃はやはり、近接戦闘だ。それ故に、支援を行うリベリスタ達にほとんど被害は出ていない。その分、前衛側の被害はかなり大きなものとなっている。 「まだです。しっかりして下さい」 凛子の癒しの力がリベリスタ達に力を与える。強大な癒しの力を何度振るったことだろう。魔力を循環させているために、彼女自身の疲労はそれ程でもない。しかし、攻撃に転じる余裕がないほどに、フィクサード達の攻撃は苛烈だった。 「単純に強い力というものは、下手な策よりも脅威となりえます。さすがは……」 『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)は、冷静に感嘆の声を上げて敵を評価する。しかし、だからと言って引くわけにはいかないのだ。 気糸で乱戦に向かって攻撃を行う。ここまで来ると、一刻も早く終わらせるしかない。 「まだやるのでしたらお互い事切れるまでやり合いますが、どうしますか?」 ホーリーメイガスを切り伏せた桐は、大剣を構えたまま油断なくフィクサード達を睨みつける。 まだリベリスタ達の側が立っている数は多いが、それは運命の加護があればこそ。実際の所は薄氷の上を歩むような戦場であることに違いはない。 「冗談! まだ倒れていないのに、逃げるとかないでしょ」 顔についた血を拭い去ると、トモエは笑って答える。戦いの興奮からか、出会った当初に比べると、目つきが鋭くなっていた。 「ならば、どちらかが倒れるまでやりましょう!」 桐は素早く切り替えると、戦場に飛び込んでいく。 激化する戦いの中で、光は先ほどのトモエの言葉を思い返していた。 強くなりたい理由を問うた時、フィクサードの少女は「守りたいものがあるから」と答えた。 正直、フィクサードの口からそのような言葉が出るなどとは思わなかった。そんな……自分が勇者を目指すのと同じ理由で、最強を目指すなどとは。 トモエの真意はよく分からない。でも、確かなのは自分は多くの人を守れる勇者になりたいということ。 そのためにも、戦うだけだ。自分の中途半端は百も承知。それでも、やりたいことはある。 「いかずちよ!! 敵を打ち払え!!」 放たれた雷が戦場を焼き尽くし、確実にフィクサード達の体力を奪っていく。 その時、閃光の中から伸びた腕が、光を突き飛ばす。フィクサードの拳だ。 耐え切れず、光は倒れてしまう。 お互い、短い戦闘時間とは思えないほどに体力が削れていく。乱打戦、といった所だろうか。 そして、慧架はその短い時間の中で感じたことを正直に述べる。 「戦ってみて分かったけど、やっぱりいい人ですね、トモエさん」 「そうかな? それに、褒めても手加減しないよ? 戦ってる真っ最中だし」 トモエは裂帛の気合を出す直前の溜めの動作に入っている。短期戦を決めるため、だろうか。彼女の戦い方はひたすらに極大の火力をぶつけてくるというもの。性格が出ている、といられても文句は言えまい。 「それはそれ、これはこれ。敵でも種族が違っても友達になれる。それを私は知っているから」 「……そうかもね。実はちょっと気が合うかなって、思ってたんだ」 慧架は気息を整え、攻撃を迎え撃つ構えに入る。 トモエは顔に微笑みを一瞬浮かべる。だが、この場にいる剣鬼の気配にすぐさま引き締め直す。 「敵は武闘派『剣林』、相手に取って不足無し! 最強を超えるという言葉に偽りが無いのもよく分かった。なれば、俺も全力で向かうのみだ」 美散も槍を構え、気合を乗せる。歪夜十三使徒第七位、ジャック・ザ・リッパーを撃った槍が、禍々しく深紅に染まる。 剣林百虎、『雨四光』一菱桜鶴、『四神』諏訪清十郎。剣林には伝説と言えるクラスの達人がおり、その現実を前に、志を枉げてしまうものも多かろう。そんな中で若さに似合わぬ力量を持ち、志を曲げぬトモエの姿勢は、美散にとって好ましいものだ。そうそう出来るものではない。これほど「酔える」相手に出会える機会など、滅多にない。 「ク、クハハハハ! ちくしょう……あー痛ぇ……」 その時、先ほど倒れたと思われていたツァインが立ち上がる。まだ彼とてやられたわけではない。 人を戦わせるのは気力である。 気力が尽きれば、どんな技の達人だろうが戦えない。しかし、気力が続くなら、永遠に戦い続けることも不可能ではない。 ツァインは気力を取り戻したのだ。自身の手で、縛る鎖を断ち切ることで。 「痛い目みないと踏ん切りつかない辺り、俺もまぁ大馬鹿もんだなっ」 最初から答えなど決まっているのだ。 恨まれてようが、罪に感じていようが、勝負に全力を尽くす事以外に答えなどありはしない。 だから、全力を出す。 「フ、ハハハ……お待たせした。アークがリベリスタ、ツァイン・ウォーレス。全力でお相手するッ!」 剣を構えるツァイン。 まだ若い戦士である彼は、少年とも青年とも言える年だ。 だが、この瞬間の彼は「男」の顔をしていた。 その様子に剣林のフィクサード達も笑う。強敵が増えて嬉しい。少なくともここにいるのはそのように考える人種だ。 そして、その場にいる戦士たちは、最後の一撃に向かって、一斉に己の武器を振るうのだった。 ● 結局、ちゃんとした形では決着はつかなかった。 ホーリーメイガスに続いて武蔵トモエを倒すまでに至ったものの、その時点でリベリスタ側も多くが倒れており、これ以上の戦いは危険だと「パイロ」の方が判断したのだ。 この判断が正しかったかは分からないが、続けていれば取り返しのつかない犠牲を払うことになった可能性は高い。 「今度会ったら、きっちり決着つけるからな」 「おぅ、いずれまた戦場で!」 凛子に手当をされながら、ツァインは手を振る。 トモエは背負われた状態で、ノートに何やら書きつけている。 「その様子なら心配ないな。鍛練を重ねて強くなれ。その時は再び相見えよう」 「そうだね。お互い達者でね」 美散としては今日の戦いだけで満足できるものではない。より強い「強敵」が得られるのなら、それが一番ありがたいのだ。 「今は難しそうだけど、これ持って行って」 「これは?」 慧架から渡された魔法瓶を繁々と見つめるトモエ。 「最初に言ったでしょ? 紅茶でも飲みませんか、って」 トモエは一瞬、きょとんとした表情をしたものの、すぐにいつもの笑顔に変わり魔法瓶を受け取った。 剣林。 そこは武を信望するフィクサードの集う場。 どれ程の剛の者が、鳴りを潜めているのか。 リベリスタ達は、その想像に身を震わせ、ある者は胸を高鳴らせるのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|