●井戸の底から 放置されて随分とたつ廃屋の庭に、小さな井戸があった。 鉄製の蓋で塞がれたその井戸の中から、時折隙間風にも似た呻き声のようなものが聞こえてくる。 その声に気付いたのは、偶然通りかかった警察官だった。 「どこから……?」 辺りを見回し、呻き声は廃屋から聞こえてくるのだとあたりをつける。事件の可能性を考慮し、警察官は駆け足で廃屋の庭へ向かった。 声の出所を見つけ、井戸の蓋に手をかける。 どうしてこんなところから? と、思わなくもなかったが、声が聞こえてくることは事実。もし自分の聴き間違いならそれでよし、万が一誰かが閉じ込められていたなら、助けないわけにはいかない。 そう思って、彼は蓋を外す。 ピタリと、呻き声が止んだ……。 「やっぱり、隙間風か?」 と、懐中電灯で井戸の中を照らす。 「………!?」 警察官の手から懐中電灯が滑り落ちる。暗い暗い井戸の底へ、まっすぐに落ちていく。 落下する懐中電灯を受け止めたのは、井戸の底にいた誰かの腕。否、何かの、と言った方がいいか。 それは、白骨化し、泥にまみれた腕だった。 半ば泥に埋もれた状態のまま、そいつは警察官を見上げる。空っぽの眼窩が、懐中電灯の明かりに照らされる。そいつは泥の中から、一本の刀を引き抜いた。 侍のような風体の白骨死体。それが、カタカタと剥き出しの歯を打ちならして笑った。 警察官は、声にならない悲鳴を上げてその場から逃げ出す。 そんな警察官の後姿を、半透明に透けた人影が見送っていたことを、彼は知らない……。 ●死霊討伐指令 「井戸の底に捨てられた侍の死体が動き出したみたい。先日の雨で、泥が流れて出て来たんだと思う」 と、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が今回の事件について説明し始めた。 モニターに映っているのは、和風の屋敷だ。荒れ放題で、庭には井戸がある。 「井戸の中から出て来たのは、白骨化した侍のE・アンデッド。それから、井戸が開かれたことでエリューション化して現れた、侍の霊、E・フォースの2体。どちらもフェーズ2」 大昔の死体。こんな形で蘇るとは、本人たちも想像していなかっただろう。 モニターに映った侍は、泥の中から取り出したと思われる兜を被っている。 「この辺りに人気はないけど、至急討伐してきて欲しい。彼らの目的は分からないけど、放置するわけにはいかないから」 急いでね、とイヴは言う。 「侍の方は刀を使った斬撃と、槍を用いた攻撃。動きは素早く、戦いに慣れているみたい。死霊は物や人を浮かせて動かしたり、相手を状態異常にする能力を持っている」 コンビネーション攻撃に気をつけてね。 そう言うイヴの目には、若干の心配の色。 「屋敷、およびその周辺の竹林、旧道辺りでの戦闘になると思うから。死角からの攻撃には十分注意してね」 じゃあ、出発。 とイヴは小さく呟いて、リベリスタ達を送りだした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月16日(土)22:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●井戸の底から……。 真夜中、虫の鳴き声が聞こえる小路に、ガシャガシャという金属の擦れる音が響く。 月明りに照らされたそいつは、ボロボロの鎧を纏った侍である。ただし、本来なら肌が見えているべき場所から覗くのは、苔や泥のこびり付いた朽ちかけの骨。錆びた刀と、塗装の禿げた槍を手に、夜道を彷徨う。 そんな侍のすぐ傍には、半透明の武士の姿が。恨みと憎悪の念によってエリューション化した、死霊である。血走った眼を闇に走らせ、怒りをぶつける対象を探す。 自分たちの身体を井戸に捨てた夫婦は、既に居ない……。それもその筈、彼らが死んで、かなりの時が流れた。井戸のあった家も潰れ、すでに無人。 やり場のない怒りと恨みを胸に、侍たちは彷徨う。 「時期の早い肝試しものですね」 懐中電灯を左右に動かしながら『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)が言う。すぐ近くを朽ちた侍が徘徊しているという事実を前にすると、注意を怠ることは出来ないでいた。 旧道を進んでいくと、やがて前方に古ぼけた屋敷が見えてくる。壊れかけの塀の向こうに、小さな井戸が覗いている。恐らくそれが、侍の眠っていた井戸なのだろう。 「んじゃ、行くぜ……。発光。発動!」 周囲に侍がいないことを確認して『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)がスキルを発動させる。瞬間、彼の身体全体が強い光を放つ。自身をそのまま光源にする、そんなスキルだ。 旧道から井戸までが明るく照らし出された。 「まったく、質の悪い肝試しだこと」 ため息混じりにそう呟いて、最後尾を歩く『鋼脚のマスケティア』ミュゼ―ヌ・三条寺(BNE000589)髪を撫でる。 「ヒュ~~ドロドロ……なのダ」 そんなミュゼ―ヌの耳元で『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)が、インコのような声でそう囁いた。見た目からしてインコそのままのカイにミュゼ―ヌは冷たい視線を向ける。 「いやアノ、ちょっと和ませようと思っただけなのダ……」 冷や汗混じりにカイが言い訳を始める。 そんな2人を尻目に『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)と『嘘吐きピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)が古井戸に近づいていく。 「古井戸はだいたい怖いよねー」 と、小崎が軽口を叩く。 「ふむ……。侍とは中々古めかしいの。いつからここで、眠っておったのか」 冷泉は井戸を覗きこみながらそう言った。 「し、殿は任せてください」 尻尾をぶるぶると震わせながら『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)が、旧道方向に視線を向ける。学ランの裾を夜風が揺らしている。 「あら……これは?」 何かを見つけたのか『空中櫻閣』緋桐 芙蓉(BNE003782)がその場にしゃがみこんだ。どうした? と、フツが不要の足元を照らす。そこにあったのは、ぬかるみに残った丸っこい足跡。恐らく、侍の具足の足跡だろう。 「お侍さん、時代劇ではよく見ていましたが、まさか実物を見れるとは思ってもいませんでした」 実物と言っても、すでに白骨ではあるが……。 それでも緋桐は、足跡を眺め感心したように頷いている。 緋桐の見つけた足跡は、侍のもので間違いないだろう。ぬかるんだ地面にハッキリと残った足跡は、まっすぐ竹林の中へと向かっているようだ。 8人は、足跡を追って林の中へと歩を進めていった……。 ●竹林での死合い……。 先頭を進むのは明るく光る焦燥院と、頭部がインコの精悍な男カイ、そして禍々しい大斧、ハルバードを担いだ小崎である。物音を立てないよう、慎重に進んでいく。 そんな3人から、少し離れて石動と緋桐が付いていく。今回この場に訪れたメンバーの中で、最も小柄な2名である。石動が懐中電灯で左右を確認しながら進んでいく。 そして最後尾は、ミュゼ―ヌと冷泉、それから伊呂波の3人だ。背後、左右、上方向と、侍の強襲に警戒しているようだ。 竹と竹との幅が、少しずつ狭くなっていく。それと同時に、竹の葉の間を縫って届く月明かりも、だんだん弱くなる。奥へ入っていくほどに、竹が密集しているのだ。 気が付くと、足の真裏に竹の根の感触を感じるようになっていた。土に埋まり切らないほど大量の竹が、この林には生えているのだろう。侍の足跡も消えていた。 「どこまで入っていくんだ……」 フツがそう呟いた。 一行に現れない侍と、蒸し暑い空気、それから途切れることのない竹林に、メンバーの集中力は掻き乱されていく。 ほう、と緋桐が溜め息を吐いた。その時……。 空気を切る、シュっという音。 それから、ガキィン……と、鉄と鉄がぶつかる音が竹林に響き渡る。 「う……」 呻き声は誰のものだったろうか。音は最後尾から聞こえて来た。振りかえるとそこには、脚を槍で貫かれた伊呂波と、冷泉の姿があった。先端を紅く濡らした長槍は、ミュゼ―ヌの脚部に当たった所で 止まっている。 彼女のメタルフレームとしての機械化部位は脚部だ。槍はそれを貫くことが出来なかったのだろう。伊呂波と冷泉が、地面に落ちる。気の葉が舞い上がって、泥が跳ねた。 槍が引き戻される。暗闇の中に、2人の血液が飛び散った。引かれた槍を追って、ミュゼ―ヌが銃弾を放つ。竹と竹の間を縫って飛んだ弾は、しかし不可視の壁に阻まれ、空中で静止する。 『鉄砲か……。厄介なものを使うのぅ』 空気を震わせ、声が届く。声の主は、侍の死霊だった。念力を使って、弾を受け止めたのである。血走った眼で、リベリスタ達を睨みつけた。弾かれたように、銃弾が空中で反転。ミュゼ―ヌへと撃ち返された。マスケットの銃底で、弾を弾いて防ぐ。 「ディフェンサードクトリン、間に合いました」 と、緋桐が溜め息を吐いた。防御に際する効率UPを仲間と共有するスキルだ。これによりミュゼ―ヌは、咄嗟の防御に成功したのである。 「せっかく井戸から登ってきた所悪いけど、地獄に送りかえしちゃおうぜ―アンタレス」 小崎のハルバードが振るわれる。その圧倒的なまでの質量で、辺りの空気を掻き混ぜ, 竹を割る。竹が折れる音、次いで、地響き。視界を遮る竹が倒れ、侍と死霊の姿が現れる。竹を割るのと一緒に、侍を切りつけようとしたのだがそっちは失敗に終わる。代わりに、侍と死霊から距離をとることには成功した。 『異国の武器か……』 死霊は、小崎のハルバードを見て目を見開いた。死霊が小崎に指先を向ける。 「え……! あ!?」 見えない手に掴まれたように、小崎の身体が宙に浮いた。空中で身動きの取れない小崎目がけ、槍が突き出される。 「くっ……。小崎さんの影に隠れていて狙えない」 マスケットを構えたミュゼ―ヌが忌々しげにそう言った。そんな彼女の隣を、2人分の影が横切っていく。カイと焦燥院だ。 「治療は私がっ!」 傷ついた伊呂波と冷泉の元に、石動が移動する。 「小崎は返してもらうぜ!」 槍を蹴り飛ばし、フツは小崎の身体を掴んで、引き戻す。 一方カイは、大上段に振りあげたメイジスタッフを死霊目がけ叩きつけた。地響き、そして、竹の割れる音が木霊する。肩口を叩きつけられ、死霊が大きく後ろによろめく。 「今のうちに隊列を整えるのダ!」 『ちぃ……。面妖な。妖怪の類か!?』 カイを見て目を丸くする死霊。一方の侍は、刀を振りあげ、カイに襲い掛かる。侍の刀とカイのメイジスタッフがぶつかりあった。力は拮抗しているのか、両者の動きが止まった。 カイに向かって襲いかかろうとする死霊の動きは、ミュゼ―ヌの弾丸が喰いとめる。その間に、焦燥院と小崎は、体勢を立て直し、仲間を庇う位置に立つ。 「望んでこの時代に動き出したわけでも無いのでしょう……」 舞い散る竹の葉が空中で二つに裂けた。緋桐の抜いた長刀の刃に振れたのだ。小柄な体で、主そうな長刀を振るう。三日月の軌跡を残して、刀は侍の死角から、兜の隙間に突き刺さった。 侍の首がずれる。カイは、その隙に侍を蹴り飛ばし、距離をとる。 『ぬう……。己ら』 ミュゼ―ヌの放つ銃弾を回避しながら、死霊が緋桐を睨みつける。 「あっ……」 「い、石になったのダ……」 緋桐の身体が、脚から順に石化していく。侍が、首の位置を元に戻し、槍を構えた。 槍を引き、力を溜める侍の前に伊呂波が飛び出す。 「昔は一騎打ちが好まれたと聞きます!」 足を震わせながらも、気丈に侍を睨みつけ、叫んだ。 「ボク一人で相手をするわけにはいきませんが、いざ尋常に勝負!」 死霊と侍の注意が伊呂波に向く。その隙に、カイは石化する緋桐を抱えて、後ろへ下がる。 「こちらへ連れてきてください! 治します!」 そう叫んだ石動の元へ、カイが緋桐を運んでいく。 「では、わしが時間をかせぐとしようかの」 そう言って、前に出たのは冷泉だった。少年のような容姿と、それに合わない老人のような口調と雰囲気を纏う不思議な男だ。冷泉は両手を左右に広げる。袖の間から飛び出した数多の呪符が、宙を舞い、死霊の周りに集まって、その動きを拘束する。 「しばし、大人しくしておるのじゃよ」 『呪術師か!! 小賢しい!』 半透明の腕を振り回し、呪符を破く死霊だったが、もう暫く時間がかかりそうだ。 小崎が、ハルバードを構え、大きく振り抜いた。真空の刃が死霊の身体を切りつける。 「ハルバードで居合い切りとか親御さんが見たらなんていうんだろうねー」 ハルバードを担ぎ直し、小崎はそう言う。 「治療は終わりました。どうですか?」 手の平を淡い光で包んだ石動が、緋桐に訊ねる。緋桐は「大丈夫です、ありがとう」と答えた。それを見て、石動は小さく笑う。2人を守っていたカイも、安堵のため息を吐いた。 一方その頃、伊呂波は木刀で侍の刀と打ちあっていた。木片と錆が闇の中に飛び散る。 「と、通しません!」 背後にいる仲間の元へはいかせない、と伊呂波はそう決めて戦っているのだ。引くわけにはいかない。しかし、相手は古の戦場を駆けた侍である。白骨化しているとはいえ、その剣技は本物だ。この切り合いがいつまで持つかは分からない。事実、伊呂波の身体は切り傷だらけだ。 息を深く吸って、木刀の切っ先を捻る。最小限の動きで刀を叩き落し、そのまま小手の間に切っ先を潜り込ませる。 「よっしゃ!」 ここぞとばかりに飛び出していったのは焦燥院だ。具足に覆われた足を大きく振りあげ、木刀を蹴りあげる。バキ、と木の折れるような音。侍の右腕の骨が折れたのだ。宙を舞い、地に落ちる。 『小賢しい!!』 怒気を孕んだ風が吹き荒れる。呪符が破れ、ハラハラと地に落ちた。死霊が手の平を、焦燥院と伊呂波に向ける。2人の動きが、ピタリと止まる。 『切り刻め!』 死霊が怒鳴る。侍は、歯をカタカタと打ち合わせながら、方手で刀を振り回す。切れ味の悪い刃が、2人の身体を切り裂いていく。血と錆が飛び散って、辺りに鉄の匂いが漂った。 「ぬぅ。2人を離すのダ!」 カイが、地面を蹴って飛び出した。 メイジスタッフを振りあげ、気迫の込もった一撃を侍の頭部へ向かって叩き下ろす。ガン、という鉄の音。侍の動きが止まった。地面に倒れた2人を、緋桐と冷泉が助け起こす。 「2人の治療を急ぐのダ!」 メイジスタッフを振るって、侍を弾き飛ばす。侍は、地面を転がって死霊の足元へ。 「冷泉さんは2人の治療を!」 混乱に耐性のある石動が前に出て、死霊目がけ光弾を放つ。しかし、立ち上がった侍が身を挺して死霊を庇った。光弾は死霊まで届かない。 「だったら、これでいかがです」 緋桐の放つ真空の刃が、侍の鎧を切り裂いていく。足の骨が折れ、侍の身体が前へと倒れていく。しかし、咄嗟に槍を地面に突き刺すことで、地に伏すことを避けた。切り刻まれ、骨を削られながらも侍は死霊を庇い続けた。 『よくもやってくれたな!』 血走った眼の死霊が叫ぶ。声は竹林に木霊し、反響する。倒れていた竹が宙に浮き、緋桐と石動目がけ飛ぶ。 「そうはさせないのダ!」 2人を庇うように、竹の射線上へカイが飛び込んできた。服の下で筋肉が盛り上がる。メイジスタッフを顔の前に掲げ、飛んできた竹を身体全体で受け止めた。カイの身体が弾き飛ばされ、地面を転がる。それでも、地に腕をついて起きあがろうとする。そんなカイに手を差し伸べたのは、治療を終えた焦燥院だった。 「手当は任せてくれ」 「助かるのダ……」 口の端から血を流しながらも、カイは笑う。 「分かたれている肉体と魂、両方纏めて撃ち抜いてあげる」 いつの間に移動していたのか。 竹林の奥の開けた場所でミュゼ―ヌが銃を構える。引き金に指をかけ、引いた。数えきれないほどの銃弾が、銃口から飛び出す。まるで蜂の大群のような弾丸の嵐。立ち塞がる侍の身体を、粉々に砕いていく。鎧が、兜が、あばら骨が砕け、地面に落ちる。 「僧もいてくれるのだし……もう眠りなさい」 銃弾の嵐が止んだ。辛うじて人の形を保っていた侍の身体が崩れ落ちる。刀も槍も、粉々に砕け、すでにない。元々朽ちかけであった所に、石動と緋桐の攻撃を受けたことで、もう限界だったのだ。 『く、敗走か……』 唇を噛みしめ、死霊が唸る。しかし、直ぐに首を振って、弱気の虫を追い払った。 念力で竹を一本持ち上げ、構える。 『逃げるわけにはいかん』 竹槍を手に、死霊の目つきが鋭くなる。 「動きをとめるかの?」 呪符を手に冷泉がそう言う。そんな冷泉を無言で制したのは、治療を終えた伊呂波だった。小さく首を振って、否と言う。 「様子を見守りましょう」 「そうじゃの。野暮じゃった」 「それじゃあ、僕が相手をしようかなー」 凶悪なデザインのハルバードを構え、小崎が前に出た。それを見て、死霊は笑う。 『坊主……。骨は拾えよ』 「あぁ。せっかく眠ってたのに、起こしちまって悪かったな」 無言のまま、死霊が竹槍を突き出す。小崎も、腰を落とし力を溜める。ハルバードにエネルギーが溜まり、淡く輝く。 「僕はスロースターターなんだよー」 槍が迫っても、小崎は動かない。小崎と死霊の距離が縮まっていく。槍がお小崎に突き刺さる。その瞬間、小崎は溜めていた力を一気に解き放った。遠心力と、腕力、それから溜めたエネルギーでブーストされたハルバードの刃が、竹槍を撃ち砕く。 周囲に、暴風が吹き荒れた。力任せに放ったハルバードと、死霊の念力が激突したのだ。 竹が軋み、葉が舞いあがる。 『………無念だ』 そう言って、死霊は笑った。闇にその姿が溶けて、消える。 パキ、と音がして、兜の中の頭蓋骨が2つに割れた……。 それが、恨みを抱いて蘇った鎧武者の最後だった。 ●世知辛い世の中から……。 「えぇと、これで全部ですかね?」 地面に散らばっていた鎧や骨を拾い集めていた伊呂波が、そう言って顔を上げる。 「そうですね。もう、全部だと思いますよ」 同じように、後片づけをしていた石動がそれに答える。 「しっかり弔ってやろうぜー」 そう頼まれたし、と小崎が言う。肩に担いだハルバードに月光が反射し、怪しく光る。 「それで? もう帰るの?」 そう訊ねたのはミュゼ―ヌだった。視線の先には、焦燥院が居る。 「いや、軽く念仏を唱えていこう」 地面に敷いたシートの上に、集めた骨や鎧を置く。それから、焦燥院は目を閉じて念仏を唱え始める。 「もう戦わなくて良いのダ。安らかに眠るのダ。ナ~ムナム。ピ~ヨピヨなのダ」 カイも、手を合わせ唱和する。少し念仏の内容がオリジナルなような気もするが、こういうものは気持ちが大事なのだ。 「おやすみじゃよ」 冷泉は目を閉じて、静かにそう呟いた。 「季節か異なりますが……。せめて」 緋桐が目を閉じる。瞬間、周囲の景色が歪み、櫻の咲き誇る武家屋敷へと変わっていく。幻想を使用したのだ。櫻の花が、空へと昇っていく。 焦燥院が経を唱え終わるまでの間、リベリスタたちは空へ舞い上がる桜を、ただじっと眺めつづけたのだった……。 世知辛い世の中から去っていく武者の事を想って、じっと……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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