●どさい 土砕掌って最強だと思う。 ――――『土砕会会長』戊・己 ●どっさいさい 「こだわりって素敵ですよね。皆々様には何か『こだわり』がありますか?」 と、いつもの事務椅子をくるんと回し『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)がリベリスタへと振り向いた。こだわり。例えば技。例えば武器。例えば服装。他にも色々あるだろう。曰く、メルクリィはこの事務椅子がこだわりなのだと。メタフレボディの超重量にも耐え得る特注品。凄いぞ強いぞ、という話はさておき。 「フィクサード主流七派が一、武闘派の『剣林』に属するフィクサード達の出現を察知いたしましたぞ」 フィクサード――成程、サテどんな悪事をしでかすと言うのか。 「皆々様との『喧嘩』を望んでいるようですぞ」 それはなんとも、予想外。曰く、己が武術をひたすら磨くが為、只の闘争を望むが為。悪とか正義とか細かい事はどうでもいいのだとか。正に我が道を往く。身勝手という解釈をすれば、フィクサードらしいっちゃらしい……のかもしれないが。 「とゆう訳でして、此度の皆々様の任務は『フィクサード達との喧嘩に勝利する』、ですな」 放っておいたらその辺で『辻喧嘩』でもおっ始めかねない、と言う。 「そのフィクサード達は『土砕会』というチームを組んでいるようでして。チーム総数は3、全員覇界闘士さんですぞ。 サテここで先のこだわり話に戻るんですが、彼等は覇界闘士の技の一つである土砕掌にこだわりがあるようでして。端的に言えば土砕掌でしか攻撃してきません。どっさいです。どっさいぶっぱです。理由は……まぁ、土砕掌が好きすぎるからでは。 しかし実力者である事は本当ですので、ご油断なく。特に会長さんの『戊・己』は他の三人に比べて実力が高く、土砕掌をEXにまで昇華しているレベルですので」 そう言って、メルクリィはモニターに広い空き地を映し出す。乾いた地面に、短い草。遠くの街灯り。行動の支障になるモノは一切なさそうだ……正に喧嘩するにはお誂え向きの場所だろう。 「現場に関しましては皆々様の所感通りですぞ。一般人が来る事もないでしょう。そして説明もこんなもんです。 難しい事は一切抜きにしたただの喧嘩……なんだか良いですな! 応援しとりますぞー!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月18日(月)00:00 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●どっさい 風が吹き抜ける。夏を待ち侘びて青々と茂る草がざわついている音がする。 剣呑な。されどそこに殺意はなく悪意もなく、気持ちは一つ。 『強い奴と喧嘩する』 「……来たか」 ゆっくり振り返った三人のフィクサード『土砕会』の視線の先、六人のリベリスタ。すでに武器を手に手に戦意万端。 「こだわりなぁ。これと一言で言うとしたら、意地は貫くって所だな。 俺はいつだって向きたい方向を向いて、そっちに突っ走る!」 咆哮搏撃。無骨な黒金属の手甲の拳を握り締め、『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)はニィッと笑った。傍ら、「こだわりでそんな所まで届くなんて」と『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)は感心の息を漏らして。 「敵ながら大したものだよ。土砕掌をEXにまで昇華してなお、先を目指すとはねぇ。 俺も同じ覇界闘士。このケンカ、敬意を持って買わせて貰う」 喧嘩、これは喧嘩。されど、『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)にとっては初めての出来事。 「いつもちゃんとした戦いでしたし……喧嘩、喧嘩かぁ。 ……偶にはそういうのもいいかもしれませんね。難しいことなしの単純な殴り合いっていうのも。 まあ、負けるのは嫌いなので思いっ切りやりますけど」 偽七式棘甲を手に、メイド服を靡かせる。 ガンを飛ばし合う一触即発。最中、ズイと前に出たのはGauntlet of Borderline 弐式を手にした『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)であった。 「魔氷拳――燃費が良く、BSの氷結も優秀だ。 だけど行動不能に加え防御無視の土砕掌に比べて見劣りする事は否めない。 だけど、それでも僕はこの技を必殺技と呼べる段階まで練り上げてきた」 拳に冷気、突き付ける。 「『土砕会』。土砕掌は好き?」 「当然だ」 「そうか。でも僕は魔氷拳を好きなんてものじゃない。もはや一心同体――そう、僕が魔氷拳だ!!」 「面白い。ならばその氷、我等が掌によって砕いてくれる!」 互いに互いが一歩出る。いつ始まってもおかしくない。その様子に『息をする記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)はビビりまくりつ双方の陣営を見比べていた。 「うわあああ何ですかちょっと皆さん暴力的すぎやしませんか!? 喧嘩ったってもっと温厚に……」 尻すぼみ、彼の言葉とは裏腹に双方の距離は更に詰まる。睨み合うそこからは火花でも迸りそうだ。腹を括るしかないらしい。 「うぐうう、いいでしょう、やってやろうじゃありませんか!」 取り敢えず爆砕戦気、戦気を漲らせて身構える。 両陣営準備完了、覚悟完了。それを見届け、加護による翼を広げ上空にいる七布施・三千(BNE000346)はAlea jacta estを握り締める。 「この戦いで回復するのは卑怯かもしれないけれど……」 言葉と共にもう一つの加護、クロスジハード。彼を見上げた戊曰く、「こちらも回復手段を持つ故に構わない、存分にやり給え」との事。攻撃が届かない事も相俟ってか、感情探査を使ってみればとんと三千に向けられている敵意はない。 寧ろ、「戦いたい」「喧嘩がしたい!」仲間からも。 ならば答えは一つ。三千は大きく息を吸い込み、上空から声を放った。 「――それでは、始めっ!」 ●どっさいさい いの一番、先陣を切って駆け出したのはモノマだった。前傾姿勢、駆け抜ければ正面にどんと三土が立ちはだかる。視線が搗ち合う。上等だ。 「売られた喧嘩は買ってやるぜ! いや、こっちから売ってやらぁっ!」 食らえ。地面を蹴って、繰り出したのはドロップキック。三土が防御の為に交差させた腕、それを固めるガントレットにぶち当たった。 「しゃらくせぇ!」 振り払われる腕、モノマは後方宙返りで回し蹴りを回避し黒の拳を身構える。 細かい事なんて関係ない。鹿爪らしくあぁだこうだ考え込む必要もない。 問題は相手が戦闘でも殺し合いでもなく『喧嘩』を売ってきたって事だ! 「喧嘩ってんなら御託はいらねぇよな? てめぇらが強いか俺らが強いか意地の張り合いだ! それなら負ける訳にはいかねぇよな!!」 流れる水の如く構えを取り、攻防一体。どこからでもかかって来いと口角を吊り上げ、互いに地を蹴る同時。 「さぁ、とことんやろうぜっ!」 拳同士がぶつかり合う音、激しい音。 細かい作戦だとかルールとかに縛られぬ、自由な乱戦。 故に味方を助ける事も味方に助けられる事もない。 ただ自分の力だけで殴りあう。 全く僕らしくない戦い方だ、等思いつ――ただ只管に、自分の力を誇示する様に。 「あああああぁぁぁぁ!!」 金剛の気をその身に宿した悠里の頭の中は空っぽであった。そう努めていた。雑念は不要。決して立ち止まらない。右の『仲間』に絶対零度の冷気を乗せて、挑みかかるは戊へと。 真っ直ぐな。どこまでも真っ直ぐな拳。 故か、戊にその拳が流水の様に受け流されて。崩れた姿勢、僅かな隙、立て直さんとした瞬間に叩き込まれる掌打。しまった。目を見開くのと、防御すら貫く破壊の気が悠里の全身を駆け巡ったのは果たして同時。 「ッ……!」 噛み締めた歯列から血が噴出す。されど踏み止まり、氷の拳を叩き付けた。魔氷拳。ひたすらに。彼だって土砕掌は使える。だけど決して使わない。 「まだまだ……ここは僕の意地を通させて貰う!」 闘志を燃やし、心を燃やし、灼熱の冷気。 一方、芙蓉土と激しい打ち合いを繰り広げているのは五月。殴って殴られて倒して倒されて。単純な事だ。何故ならこれは、 「喧嘩ですから」 「あぁ、喧嘩だッ!」 土砕掌に、土砕掌。やってやり返す。意地の張り合い。但し五月を殴ればその棘の防御陣が芙蓉土を傷つける。ならばそれを上回るダメージをと彼女の攻撃は一層の激しさを増した。激しい攻撃の閃光、一段と大きな一撃の後に互いに跳び下がる。 と、芙蓉土とヘルマンの視線が搗ち合った! 「あ えっと ヘルマンです! よろしくお願いします!」 決めていた、相手は目の付いたフィクサード。ビクビクしながらも声を上げて己を鼓舞して躍り掛かる。いやほら最初は挨拶しないとね?等と思いつつ。 攻撃方法? そんなの当然、『蹴りによる土砕掌』のみだ。 「っ!?」 腕を交差させて芙蓉土はその蹴撃を防御するも、それはガードが意味を成さぬ一撃。 「まさか、土砕掌を蹴りで行う者がいるとはな……!」 「土砕掌ってつちくだくてのひらって書きますよね。でもね、わたくしの土砕掌は誰が何と言おうと蹴り技です」 掌打と蹴撃がぶつかり合う。時々背後や横合いからも攻撃が飛んでくる。それでも、互いの技をぶつけあって。 「あくまでも蹴りなんだな!」 「えぇ、手は何かを作るもので、足は何かを砕くものって決めてるんです。 ……や、まあ、ご主人様に『手は執事の商売道具なんだから別のことに使うな』って言われたせいもあるんですけどね……」 苦笑してみたら、隙ありってぶん殴られた。痛かった。口元の血を拭う。まだ戦える。 「……土砕掌の名前を無視するなんてって思ってたりします? でも、こういう土砕掌があってもいいじゃないですか! いくら足で撃ったとしてもこれは絶対に『土砕掌』だし、んん、あー…だめですねわたくしやっぱり説明へたくそなんで!」 「ハハッ、面白い奴だ。良いと思うぞ? ぜひ土砕会に入って欲しいな――我々が勝ったら入って貰うからな?」 「それでは、わたくしが勝ったら、あなたにとっての土砕掌がなんなのか教えて下さいね!」 「おうともさ! アタシの掌打でお前の蹴りを潰してやるよ!」 「こっちだって。誠意にあふれた蹴りでもって、納得させてやりますよ!!」 純粋にやり合いましょう! クルトも奮戦、ゼロの間合いで土砕掌による殴り合い。 「こう言うケンカがお望みなんだろう! 飽きるかこっちが力尽きるまで、付き合ってやるよ!」 そう声を張り上げる彼の表情には、喜色。瀟洒な見かけに反して好戦の気がある故に。水の様に流れる動作。20数年間身体に叩き込み染み込んだ闘技を忘れる事はない。 ――土砕掌は俺も何度も使ってきた。その性質は良くわかってるよ。 故に、防御ではなく攻撃を優先。攻撃は最大の防御。 「はッ!」 裂帛の気と共に繰り出した土砕掌が三土の胴を捉え、彼を飛び退かせた。果たしてそこにいたのは戊。既に掌打を振り被り。 「やるようだな……だが、コイツはどうだ!」 凄まじいエネルギー。直感する、土砕掌ex。来る。だが、クルトは躱さなかった。真正面から受けた。一度受けてみたかったのだ。昇華したその威力を知るには、こうするのが一番だと思ったから。 想像以上だ。全身を突き抜けた衝撃に体をくの字にしながらも、しかし倒れない。 「んー。こりゃ骨いったかな。まぁいいや」 先を消費し、口元から溢れた血を拭い、優雅さすら感じさせる微笑を一つ。構え直す。 「折角の楽しいケンカだ、もうちょっと続きと行こうじゃないか!」 「面白い。さぁ、かかって来いリベリスタ!」 そこに憎しみはなく、あるのは闘争の喜び。 楽しそうだなぁ、と三千は感情探査を使った感想を胸に抱いた。フィクサード達の手の届かぬ上空で飛び回りつ、仲間へ施すのは癒しの祝詞。 「我が名の下に、汝の子等を救い給え」 宙で転がるダイス、仲間へ降り注ぐ優しい息吹。 回復手段を持つのはリベリスタだけでは無い、森羅行によって土砕会も自らの傷を癒す。 そう簡単に終わって堪るか、まだまだ楽しもうじゃないか。この喧嘩を。呆れるぐらいに単純で乱雑で最高な喧嘩を。 ますます激しさを増す戦い。愈々佳境か。 刹那、戦場を迸ったのは凄まじい焔。 立ち上がる代価にした運命を、その烈火の如くを顕すかの様に。 それは五月とモノマの焔腕。恐るべき業火をが周囲を薙ぎ払い、燃やし、叩きのめす。 「私を殴ると、たたじゃ済まないんですよ。私は、私のこの拳と焔と棘に誇りも持ってますので」 炎の中、五月の凛とした眼差し。棘と焔を纏う拳。地を踏み締めて。 「思いっ切りぶん殴っていきますよ――覚悟して下さい」 大きく踏み込み、拳を振るう。歪さを感じさせる金属に覆われた拳を。母が使っていた物の模造品。母様のように。あの面影を只管追い求めて。 「ははっ、もっとだ! もっとやりあおうぜっ!」 モノマの頭突きが三土の顔面にヒットし、そのトカゲ頭を仰け反らせた。その仰け反り反動を使って、頭突き返し。今度はモノマの頭が仰け反った。鼻血。ニヤリ。蹴って殴って、投げて投げられ、地面を転がって、我武者羅に。泥だらけ。最中、彼の身体を穿つ土砕掌。舌打ち一つ。 「土砕掌か……たしかに強えぇな。それをさらに究めようってんだから相当なもんだろう」 蹌踉めきかける。それでも、倒れない。黒い拳を搗ち合わせ。 「だが、んな事は問題じゃねぇ! 相手が強えぇのはいつもの事だ! 喧嘩の最中ににじっとなんてしてられっかよ――叩き潰してやるぜ!!」 気合、そして、根性論。 真っ向から来た三土の掌打を手甲で打つ事で軌道を逸らし、その懐に潜り込む。 拳に炎。ありったけの気力。全力で跳躍。 「これが! 俺の! 拳だぁあああっ!!」 ぶち抜く灼熱、ノックアウト。 一方で、芙蓉土の視線の先にヘルマンとクルト。 肩を弾ませ、ヘルマンは身構える。フェイトは使わない。負けたときはすっぱり認める心算。 「せ、誠意を持つってのがモットーなんで!」 「君たちのこだわりは確と見せて貰った。此処からは俺のこだわり」 ヘルマンが繰り出すのは土砕掌、同時に踏み込んだクルトが放つのは電撃の武舞――壱式迅雷。奇しくもそれは二つとも蹴り、激しい蹴撃の攻勢に膝を突く芙蓉土。 「君たちのこだわりを否定する気なんかない。でも、強さを求めるのはこちらも同じでね……此処で負けるつもりもないんだよ」 クルトの言葉に、フィクサードは「御見事」と。頽れる。 斯くして、向かい合った戊と悠里。互いに満身創痍。決着は近い。 ――僕はまだまだ弱い 拳を握り締める。振り被る。叩き込む。何度でも。 もっと! もっと強く! 全然足りないんだ、強さが! 全然、足りなかったんだ!! 脳裏を過ぎる、消えない火。 護れなかった灯。 殴り飛ばされた。立ち上がった。 その目前に掌打がある。 されど逃げず、悠里は迎え撃つ様に拳を突き出した。 多分、チャンスは一度きり。その一度で、この魔氷拳で、撃ち砕く。 実力が劣る?それがなんだ。 相手が格上?それがどうした。 バロックナイツだろうと。ミラーミスだろうと。 「凍り砕く!!!僕の拳でええええええ!!」 強くなりたい。 誰も彼もを守る強さが欲しい。 もう、失いたくない! 「僕はもう誰にも負けたくないんだあああああああああ!!」 ぶつかる拳。 決意を込めた白い拳から放たれる冷気が、有象無象を包み込む―― ●どっさいさいさい はっ、と気が付いて、跳ね起きた。 悠里の視界には自分を覗き込んでいた仲間の顔が。 「勝った、……?」 思わず漏らした呟き。と、戊が悠里の前に。 「いやぁ、負けた。……ナイスファイトだ設楽、次は負けんからな」 差し出す手、それは握手。リベリスタとフィクサード、思えば奇妙なもので。 「Danke! いい勝負だったよ」 「ありがとうございました」 思いっ切り殴り合った後は、すっきり終わり。クルトはニッと笑い、五月は頭を下げ、ヘルマンはフィクサード達と握手を。 「勝っても負けても笑顔で握手するのが、喧嘩ってもんだって聞きました!」 「うむ、良い心がけだ。……で、土砕会に入らないか?」 「「「え?」」」 そして小一時間ばかし勧誘ガイダンスが何やかんやだったのだが、まぁ、割愛で閉幕。 やがて空き地には静寂と平穏が訪れる。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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