●絶対 『HQよりスカイウォーカー各位へ、天気予報ならこの先の様だ』 AFからインカムを通し、戦闘服に身を包んだリベリスタ達へ伝令が伝わる。 偵察から進入、あらゆる使いっ走りを請け負う天進む者達は了解と呟く。 この日もコードネーム、EEとHEの二人は同じ任務に着いていた。 作戦目標はアーティファクトの確保、しかし、道中只ならぬ景色を見せられている。 『ねぇ? あれって、PMCって奴らの兵隊よね、何であんな事に……』 以前酷い目に合わされた女リベリスタ、SwaEが呟く。 廃工場を進む最中、至るところにズタズタに切り裂かれたフィクサード達が転がっていたのだ。 辛うじて息はあるが、動くこともままならない。 戦いを生業とする彼らがこの様、奥へと進む4人は手に汗握りながら一つ一つ部屋を確かめる。 『分かるわけねぇだろ、とりあえず気ぃ引き締めておけ』 ヘビーアームズ装備のBunEが適当な返事をしつつ扉を開けていく。 素早い脚捌きで構えたまま滑り込み、死角を確かめて、部屋の安全を確保する。 見つからない、見つからない……そしてとうとう、奥にある作業場のエリアへと到達。 『誰だい、あれは……?』 HEが奥にいる人影に気付く。 そしてEEが機械化した瞳のピントを合わせていくのだが。 『……酷い冗談だ。HQ、作戦前の資料ではフィクサードの冴崎 司郎は死んだと報告があったがどういう事だ?』 『何を言っている? 報告通りだ』 『なら何故、あそこで冴崎 司郎が立っている?』 EEの言葉に、スカイウォーカー一同が目を見開く。 目を凝らせば資料に死亡したと書かれている存在、ターゲットの運搬をしていた男が立っていたのだ。 『何かのトリックかい……?』 HEの怪訝そうな声に、EEは苦笑いを零す。 『さあな、もう気付かれてるだろうし、探ってみるとしよう』 EEはバトルライフルを構えたまま、滑る様に前へと進む。 「アークのものだ、周辺は我々が囲っている。投降すればそれなりの対応を約束しよう、武器を置き、両手を上げろ」 EEの言葉に、無表情といえよう司郎の視線が向けられ、口角だけがクッと上がる。 呼び掛けは無視、そのまま抜刀すると4人へと駆けてきた。 「正気じゃないわね」 「任せろ、ちょっと首根っこつかまえてやらぁ!」 SwaEの呟きに不敵な言葉を零すBunE。 一気に走り出すと、司郎の懐へと潜り込もうとする。 「うらっ!」 ボディーブローの先制攻撃、それを難なく避けた司郎へ逃がさんとばかりに拳のラッシュを放つ。 「うらうらうらぁっ!」 左、右ストレート、そしてフックから離れた場所を狙ってのハイキック。 だが、全ての攻撃を回避する司郎は刃を輝かせ彼の脇をすり抜ける。 「ぐ……ぅぁっ!?」 刹那、その言葉が相応しい。 瞬く間に振るわれた刃がBunEの体を切り裂いたのだ。 そう、あのフィクサード達の様に。 「大丈夫かいっ!? バンテ!」 「ど、どうにかな……」 あの惨劇を目の当たりにしたおかげで、ギリギリ致命傷は避けていたようだ。 「このっ!」 攻撃の終わった隙を狙って、ナイフを握ったSwaEが襲い掛かる。 ギィンッ! と響き渡るは刃の音、居合い抜きの如く振るわれた刀が彼女の得物を弾いたのだ。 「EE、君が当てろ!」 HEもアサルトライフルで攻撃に加わり、3重の攻撃が司郎へと降り注ぐ。 それも気持ち悪い体のこなしで避け、掠める様子すらない。 「……」 バトルライフルを構え、集中力を研ぎます。 一瞬のチャンスに全弾叩き込む、この手の相手は打たれ弱いはず、一気に畳み掛けるしかない。 HEの連射が足元を狙い、跳ねた一瞬、空中で身動きが取れないそこへ照準が合わさった。 (「終わりだ」) 胸元を狙い、体を捩っても当たる直撃軸を吐き出された鉛が進む。 しかし、司郎はそれすらも防ぐ。 目の前で刀を的確に回転させ、飛翔する弾丸を全て切り落としていくのだ。 飛び散る火花と転がる鉛が、その証拠となり、只ならぬ様子に一斉に3人が後退した。 『確認した。奴が握っている刀こそ、ターゲットのアーティファクトだ。4人じゃどうにもならない、撤退してくれ』 『逃げれればさっさと逃げたいわね』 今背を向ければ全員血塗れで地面を転がるだろう。 じりじりと後退し、距離を離そうと試みるが、司郎もカツカツと歩み寄る。 「いつもの通り、一気に仕掛けるぞ」 EEの合図で4人は飛び道具の一斉発射を開始、たまらず司郎も回避と切り払いをするのが精一杯のようだ。 「プレゼントだ、遠慮なく受け取りたまえ!」 HEが何かを投げ込み、反射的に司郎は物陰へと滑り込む。 爆発、だが広がったのは閃光と轟音。物陰から様子を伺う司郎の目に4人の姿はなかった。 ●SN1 「せんきょーよほー、するよっ!」 スカイウォーカー達の装備で録画された映像が終わると、満面の笑みで『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)が決め台詞を口にする。 傍らには翻訳兼説明補佐役の兄、紳護もいた。 「みんな、あーてふぁ……あーちふぁ……あ、あーてぇ」 「アーティファクト、だ」 噛み噛みの妹の様子に見かね、とうとう兄が突っ込んだ。 「うん、アーティファクトね! で、このアーティファクトをもってきてほしいの」 そしてリベリスタ達へスケッチブックを広げる。 クレヨンで殴りかかれたイラストには悪そうな男と、棒のような物、そして『いちばん』の文字。 「このおにいちゃんが、アーティファクトを持って……る? ん~~、うんとね、わるいアーティファクトにあやつられてるの」 つまり、先程見せられた映像にいた冴崎 司郎の意思ではないという事だろう。 「あのおにいちゃんは、もうしんじゃってるんだよ? だけど、いちばんとお約束したから、ケンカしちゃう」 ケンカ=戦うという意味、兄が補足を行いながら話は進む。 「でもね、いちばんは あのお兄ちゃんじゃなくてもいいの。いちばんは、約束してくれれば だれだっていいんだよ?」 ふと、リベリスタ達はノエルの言葉に違和感を覚える。 それは『いちばん』を人の様に扱っていることだ、言葉道理の意味であれば、使い方としておかしい。 「SN1、それがあのアーティファクトの通称だ。 とある武器工が長年をかけて作り上げた武器が革醒し、アーティファクト化したものらしい」 兄の補足で納得した様子のリベリスタ達、ノエルは暢気に隣で兄を拍手で褒め称える。 「でね、お約束はあたらないこと。そのお約束はぜったい、もしやぶっちゃったら、いちばんは、あのおにいちゃんとお別れするの」 異常なまでの回避力は、呪われた武器との契約というところだろう。 結果として死しても武器に操られると貸した傀儡と化した。 つまり、倒すには単純に攻撃を当たればいい。だがあの様子を見る限り、易々攻撃が当たるわけではなさそうだ。 「すっっごぉ~~っく、てっぽうのお上手な人でも、絶対じゃないよ? いちばんは強さ? だけじゃないの」 単に命中率を上げて当てるだけなら容易い話だが、それはあの戦闘中に答えが出ている。 EEは狙い済ました射撃をしたが、簡単に弾き落とされていた。 作戦としては『当てる為の行動』を考えねばならないだろう。 「あとね、いちばんとおにいちゃんがお別れしたら、気をつけてね? いちばんは、いちばんが気に入った人じゃないと、すごくイヤがるの」 あくまで回収であり、存在がアークにあればいいので、持ち主になる事も本作戦では認められている。 だが実力だけでは認められず、SN1が持ち主として認めねば酷い抵抗が待っている……ということだ。 「いちばんと、ノエルはお話したの。それでね? いちばんは『おれにおまえのぜったいのすべてをしめせ、すべてでおれをのみこめ』って、おしえてくれんだよ」 それが条件、だが兄も詳しくは読み解けなかったらしく、渋い表情を見せる。 「絶対が何を示すのか、ただ単に力を指しているわけでもないようだが……それでもあるような気がする」 哲学的な答えはリベリスタ達も頭を抱えそうだ。 ここまででノエルの説明が終わったようで、すっきりとしたのか、満面の笑みで皆を見つめる。 「資料とか、むずかしい事とかは、お兄ちゃんにお願いするね? ノエルは、皆がちゃんと帰ってくるのを待ってるよ~!」 至らぬところもあるだろう。 紳護は資料を配り、説明の付け加えていくのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月19日(火)23:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●開戦 廃工場の中で佇む冴崎 司郎は、一人誰かを待ちわびているようにも見えるだろう。 そんな彼の前へ、最初に飛び出したのは『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)である。 両手に握られたナイフは振るわれず、対峙したままジィッと視線を合わせてくるだけだ。 同じくして現れた、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)も彼の前で立ちはだかるだけ。 訝しげな表情のところへ、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の、鋭い狙いの矢が突き刺さろうとする。 回避は難しかったらしく、手の中で回す様にして刃を旋回させれば、矢を切り払っていた。 (「当てる事さえ考えれば……」) 何時もと違うであろう攻撃の重点に、『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)の意識は力加減へ集中する。 工場内へ踏み込むと共に、振りぬいた脚からは刃と化した疾風が走るが、コントロール重視の攻撃も当たらない。 「いつも通り、お仕事頼むな?」 『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)も、室内へ滑り込むと追い討ちをかける。 銃口の傍で踊る小鬼達が呪いの弾丸へ禍々しい光を重ねれば、どす黒い光が突き抜けていく。 サイドステップで回避をすると、『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が刃を振りかぶっていた。 煌々と輝く刃を雷の如く振り下ろし、真っ白な軌道が走る。 だが司郎は着地地点から地面を転がり、一転すると起き上がってしまう。 「これならどうだ!」 『消えない火』宮部乃宮(鳳) 朱子(BNE000136)が狙ったのは司郎の足元。 漆黒の瘴気が一瞬にして地面を這い蹲るように広がり、強引に引っ掛けようと試みる。 飛び退き、回避を試みるところへ『SUPERSTAR☆TATSU』如月・達哉(BNE001662)が2階から照準を定める。 (「どう足掻いても人という枠を持っている以上は人という枠を超えることは出来んよ」) 宙に浮いた瞬間、普通の人間ならば移動制御の手段を失っている。 細い糸が収束し、オーラの槍が散弾の如く降り注ぐ。 狙いはあえてSN1、それはそこへの被弾もカウントされるのかのテストの為。 しかし、くるりと宙で一回転しつつ地面を刀で蹴ると、強引に軌道修正し、達哉の狙撃を回避してしまう。 (「……アレは人の枠を逸脱しているのか」) その言葉は間違ってはいないが、正しくもないだろう。 ちらりと達哉を見やる司郎は小さく首をかしげていた。 「武器への被弾は、カウントされる率は低そうだ」 黙って当たれるのは嫌なのだろう、あえて避けた様に達哉には見える。 司郎にとって、今一番目に付く存在はルアだ。 先程から攻撃を仕掛けてくる際に、とにかく視野を塞ごうと体のブラインドを仕掛けていたからだろう。 しかし、囲んだ時点でリベリスタ達は初手に来るのは予想済み、各々回避行動をとり、刃を避けるのだが。 更に、反対方向から切り返しの薙ぎ払いが襲い掛かる。 連携技をあえて捨てての行動は、裏をかかれたが、漏れなく全員が直撃してしまう。 吹き飛ばされる仲間達、サンドバックに選ばれたのはルア。 右に左に体を踊らせ、寸での所で刃をいなす。 「当たらないよっ!」 今度は手足を狙ったピンポイント攻撃、これも避け、時に刃を弾き、的確な回避を重ねていく。 素早い連続攻撃から続けたのは、重たい一撃。 「ん……っ」 全力の突きを見舞うが、強引に身を捩って逃げ切る。 当たらない戦い、攻撃を全て避けきったルアに親近感でも覚えたのか、司郎はにやりと笑うのであった。 ●不意 レイチェルの二度目の狙撃も、司郎は切り払って凌いでいく。 (「私の弓なら、当てられる可能性がありますね」) 逆に言えば、他の攻撃は回避可能であり、身を守る技を使う必要が無いのだろう。 (「どうにか当たる様な攻撃で仕掛けていきませんと……でも」) 結局、敵の弱点を見つける事から始めている。それは時間の掛かることだ。 他のメンバーも一斉に攻撃を仕掛けていくが、すり抜ける様に攻撃は避けられていく。 援護に回る達哉はショルダーキーボードを奏で、メロディに合わせ紡がれる歌が仲間達の傷を癒す。 しかし、回復を施す彼の動きは、司郎の瞳にしっかりと捉えられていた。 再び司郎の攻撃が始まり、全力の薙ぎ払いが襲い掛かる。 「そうはさせません!」 司郎の前に彩花が飛び出すと、ホワイトファングを構え、両脇を閉める。 手甲の盾を形成し、ダメージを軽減すると共に勢いを殺して吹き飛ばすのだけでも阻止しようと試みるのだが。 「きゃっ!?」 執念の刃は重たく鋭い、手甲の盾を強引に崩すと彩花を切り裂きながら周りの仲間達をも切り裂く。 彩花の身を挺した防御を崩した貫通攻撃はリベリスタの意表を突く結果となり、散り散りに吹き飛ばされてしまう。 珍念、いや、那由他と呼んでおこう。 彼女だけは直撃を逃れるも、結局地面を転がってしまう。 司郎の攻撃は続く、間を挟み連続性が途切れた今、体力の減ったルアは一番の狙い目だ。 「っ……!」 黒き刃が体制の崩れたルアの脇腹を切り裂く。 そのまま喉を貫こうと繰り出された突きを、痛みに喘ぎながら身を捻って回避。 だが、がくんと膝から力が抜けるその瞬間を狙った全力の突きがルアを貫いた。 「ルアちゃ……!?」 レイチェルの声が途切れたのは、友の体が一瞬にして迫ったからだ。 突き飛ばされた体は、砲弾が迫るように彼女へと押し寄せて激突、痛烈なダメージが体に染み渡る。 続けて司郎が走り出し、後衛の仲間へと向かう。 「いかせません!」 那由他が進路を遮る様に飛び出すが、今しがた受けたダメージで上手く動けない。 捕まえようとするが、あっさりと飛び越えられてしまい、肩を踏み台に高く舞い上がる。 狙うは達哉。2階で孤立した彼を狙う。 「まさか……」 壁を走り、柱を蹴り、アクション映画の様に流れる動きで彼の前に降り立つと同時に刀を振り下ろす。 激痛が走り、意識が白黒する。 だがまだ始まったばかりだ、連続して放たれた刃が達哉の体力を一瞬にして奪い、突き立てられた切っ先だけは気合で避け、EPの回復を阻むのが限界だ。 沈む意識、しかし、運命の力を砕いて彼は踏みとどまる。 「人と道具は良い関係でなければ悲劇しか生まんよ……今の君は、まさに悲劇の象徴だ」 足元には血溜まり。 荒く浅い息を吐き、睨み返す達也の瞳からは今だ闘志は消えていなかった。 ●体を呈して 「それ以上はやらせませんっ!」 面接着を活かし、最短距離で2階へ到達した那由他が二人の間へ割り込む。 他の前衛陣も向かうが、とにかく階段へ回らないといけない。 「少しは落ち着きぃな!」 刀で受け流す様にして攻撃を回避し、弾は刃に触れていた。 本体に当たらずとも、刃に当てていき、武器を状態異常で縛り付ける作戦だ。 レイチェルは回復に周り、仲間の傷を癒していくのだがルアはダメージが深く、達也はどうにか踏みとどまっている状態故に、焼け石に水だろう。 達哉自身も距離を取りつつ回復に努めるが、それでも足りない。 前衛が到着すると同時に、司郎の薙ぎ払いに彩花が妨害に入りたいのだが、届かず振りぬかれた刃がリベリスタ達を襲う。 大分目が慣れた為か、那由他、朱子の3人は刃を回避できたが、ルアと彩花は吹き飛んでしまった。 (「負けないっ! シロウを助けなきゃ!」) 白い花の飾りを真紅に染め上げながらも立ち上がるルア、それが後に絶望となる事も知らず。 一方、司郎の手元に残されたのはユーディスだ。 サシの立会いにぎゅっと槍を握り締めるユーディス、黒く輝く刃を避けようと試みるが苦手な分類だろう。 まさに相性の悪さが見抜かれている。 避けるべき突きの一撃も、槍で受け流そうと試みるが難しい。 「うぁっ!」 柄のレールを滑り、狙いを逸らしたが肩を貫かれてしまう。 力を吸い取るそれを振り払ったところで渾身の突きが迫る。 ダメージを受け止めきれず、吹き飛ばされた彼女の体は達哉の方だ。 トドメをさされ、意識を失う達哉。 全体を回復する万能さの裏、量が少ない点が仇となってしまった結果だろう。 続く司郎の攻撃を彩花のブロックが防ぎ、横薙ぎのダメージを受け止める。 「このっ!」 刃を強引に打ち上げて逸らし、続く攻撃もどうにか潜り抜けていく。 揺れる黒髪が切っ先に触れ、短くなって宙に散っていた。 (「アレをやる前にもう一度倒されるわけにはいきません」) 再び癒しの歌声を響かせ、仲間達の傷を癒すレイチェル。 勢いを殺す為にも攻撃に転じたいが、連携攻撃の相方であるルアに倒れられたら、完全に決め手を失うだろう。 「次はこれを受け取ってな!」 椿が次に放ったのは猛毒の弾丸だ、魔術として放たれるそれは銃口から飛び出せば、まさに名の通りといえよう。 再び刀で弾き落とす司郎の反応に、ちゃくちゃくと彼女の作戦が進んでいく。 有効打が無いまま仲間を振りほどく刃の構えを見れば、彩花が防ぎに行くのだが既に読まれている。 横薙ぎを放つフェイントから一度蹴りを入れて突き飛ばすのだが、朱子の方へと蹴りやったのだ。 先程から吹き飛ばされてはいたが、仲間と距離をとっていた彼女の動きが一人だけだった分、目に付いたのだろう。 放たれる一閃は朱子にまではダメージが届かぬものの、余す事無く他の面々を切り裂いた。 再び狙いはユーディスへ、黒き刃とEPを啜る突きが彼女を切り刻んでいく。 (「せめて動きだけでも!」) とは思うのだが、この強引に体を押しやってしまう突きがそれを阻むのだ。 突き飛ばし、反撃を許さない。彼の胸倉を掴む彼女の手を振り払うように、螺旋の動きが混じった突きが吹き飛ばし、その体を中衛にいた椿へと叩きつけていく。 「くっ……すみません」 「だ、大丈夫やよ」 既にかなりのダメージを受けているユーディスの意識も危ないところだ。 お構い無しに司郎は走り出すと、二人の下へと飛び降りる。 狙いは椿、今度は連続した刃の攻撃が襲い掛かった。 「うっ!? 結構効くなぁ……っ!」 ラストの突きのモーション、そして人を紙切れの様に吹き飛ばす突きが椿を吹き飛ばす。 声すら発する暇なく、その体が飛んでいった先はレイチェルの方角だ。 ダメージと回復のバランスが崩れていき、勢いが止まらない。 飛び降りた前衛陣も、必死の攻撃を仕掛けるが、当たる様子は無い。 司郎の攻撃も止まらず暴れまわり、ユーディスの体力が全力の突きと共に消え去る。 しかし不屈の心で運命の力を削りつつ、堪えたのだ。 今度こそ捕まえた肩を離さず、刀身から赤い筋を幾つも垂らしながら……。 ●反撃 残った手数は彼女しか狙えない以上、ユーディスに向く結果となる。 強引に滅多切りにされてしまった彼女はそのまま沈むが、腕が離れないのだ。 執念の力に司郎は思わず上唇に舌を這わす。 「今だ、ここで終わらせる!」 朱子の合図と共に、全員が襲い掛かる。 「いきますっ!」 彩花の狙い済ました真空刃が放たれ、司郎へと迫っていく。 先程まで何度も狙う事にだけ集中し続けた為、渾身の蹴りは的確に胴体の軸を捉え、彩花の狙い道理な軌道を描く。 ならばユーディスを盾にと試みるのだが、気絶して捕まえている事が功を奏し、自由に振り回すほどの重さでない。 見る見る迫る風の刃、司郎は舌打ちと共にギリギリに身を伏せ、刃が頭上を通り過ぎていく。 「うちの全て……ちゃんと吟味してなっ!!」 逃さんと椿の冷気が撒き散らされていく。 今度は片手に握った刀を回転させ、冷気を打ち払う。 (「範囲攻撃も防げるんか……せやけど」) 先程の失敗となった攻撃だが、呪縛の力を打ち払わせていた。 呪い・呪縛・毒・猛毒・凍結、出来うる妨害手段を刀に染み込ませる。 「まだだ!」 紅刃剣を携え、朱子が突撃。 闘志を力に変えて宿した剣が連続して振るわれていく、右に左に、下へ後ろへと身のこなしでどうにか避けられてしまう。 だが、攻撃の途切れ目を狙って那由他が仕掛けた。 ここまで溜めに溜め続けた集中力を一気に解き放つ時! 心に浮かべる嘘の狙い、そして本当の狙いは心の奥底に秘め。 横薙ぎの刃は足元へ狙いを浮かべ、本命は胴体を狙う。 だが、響く金属音が失敗を示す。 「効かへんか……っ」 流石に武器という物体に対人として考えられた力が効力を及ぼすのは難しかったらしい。 那由他のフェイントもかからなかったのも痛いところだ。 「くっ!」 あきらめず追い討ちの突きを放つが身を捩って回避、流石にユーディスの手も力がつき、拘束が解けてしまう。 だが勢いは失わせないと、ルアとレイチェルが隠し玉を放つ。 アイコンタクトと共にルアが前に駆けると、そのまま全力の刺突を放つフリを見せる。 (「珍念さんの攻撃で分かりました、思考は読んでません」) それでは死角からの攻撃に気付けたのはおかしい、だが言葉を返せば達人の領域を突破した司郎が死角に何も気を向けていないはずは無い。 ならば確実に仕留める、そう思わせるのが彼女の役目。 「今!」 急激なアンバックでルアが司郎の視野から消える。 揺れる髪だけが残り、そのブラインドの向こうから迫る矢が辛うじて映り、ギリギリに身を捩りながらバックステップで回避すると、ルアが追い打つ。 左手のネモフィラが空を切る、だがそれはいい。 「そこなのー!!」 そちらに意識を向けている合間に懐へ潜り、斜め上から振り下ろされる薙ぎ払いが迫る。 がきりと、手ごたえが走った。 「シロウ、もう頑張らなくていいよ、おやすみなさいなの」 これで死して踊る悲しい今を終わらせることが出来た、そう思えていたのも束の間。 コンマ数秒で変わる世界、現実が目に飛び込むとルアは目を見開く。 歯で噛み付き、刃を受け止めていたのだから。 蹴りどかすと共に口からナイフが離れた。口角に傷を残すことも無い、見事な真剣白刃取り。 「侮るな。この男は己が誇りに全てを投げ捨て、俺を望んだ。貴様には分かるまい、己を支えた力を失う絶望を。失望したぞ、速さに長けた者よ」 誰よりも速く走り、誰かを護る。 けれど走れなくなったら? ゾッとした一瞬を逃さず、司郎はルアを切り裂く。 更に動かなくなった体を突き飛ばし、レイチェルへと直撃させたのだ。 「うぁっ……!?」 間接的な攻撃を何度も受け、体力の減っていたレイチェルの意識が沈みかける。 フェイトを砕いてでも立ち上がろうとした瞬間、司郎は刀を納めた。 「貴様等には失望した、貴様等から俺を殺るという気迫を感じられん。纏わりつくハイエナの様に様子を伺うばかりだ、鬱陶しい」 一足飛びで窓の方へと下がった司郎は、そのまま砕けた窓の外へ飛び出してしまう。 「貴様等の相手は時間の無駄だ」 「まてっ!」 逃がさんと食って掛かる朱子、そしてレイチェルはどうにか意識を繋ぎとめると、ゆっくりと体を起き上がらせた。 「待ってください……」 今にも飛び出し、追いかけそうな仲間達へ痛みに耐えながら彼女は言葉を続ける。 「今追いかけても、勝機は薄いです。ここは引くべきでしょう……」 回復役二人のうち、一人は倒れ、一人は重傷。 前衛も二人やられており、残ったメンバーで追い込むには余りにも難しい。 冷静に呟く彼女が一番悔しかろう、あと一歩が及ばなかったのだ。 「……アークに連絡をして、逃げた司郎の足取りを追ってもらいましょう」 彩花も言葉を吐き出して、ぐっと歯を食いしばる。 朱子の悔恨の拳が柱へ皹を走らせ、残された仲間達の心を形にするのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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