● 窓の外で雨がしとしとと柔らかく降り注ぐ梅雨の始まり。 生温かい空気が肌をなぞるそんな時、女は一人ぼんやりと空を眺めていた。 時間とは水の様だ。知らぬうちに流れていく川は思い出を攫って行く。 「私は、幸せになれるのかしら――」 呟いた言葉は単純なものであった。簡単なマリッジブルー。 結婚式を控えた女の、ちょっとした不安。 「ああ、私は――」 その言葉の続きを紡ぐ事はない。 咽喉の奥で言葉が防波堤の様になって息が詰まる。ひ、と咽喉の奥からやっとのことで飛び出したのはその一声のみだった。 窓の外、現れた大きな蜘蛛は其の足でとんとん、と窓を叩いていた。 その蜘蛛の体は1メートルを超えているだろうか。 巨大な『ソレ』は間近で見つめるにしてはなんともグロテスクなもの。 長い脚でもう一度トントン、と叩いた『それ』は窓を突き破り糸を吐いた。 ● 「言い表せない程の幸せを頬張る筈が、なんてことなのかしら」 眉間に皺を寄せた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は自身の視た物を忌々しげに思いだして口元を押さえる。 「私、虫は嫌い。E・ビーストがでたわ」 詳細はまとめておいた、と顔を青くした世恋はいう。 体調は1メートルと50センチ程の巨大な蜘蛛。 その蜘蛛が連れている体は巨大蜘蛛の三分の一程度のこれまた小さな蜘蛛。 「今回私が視たのは六月の花嫁の家に現れたこの巨大蜘蛛」 吐き出す糸はその未来をも絡め取ってしまいそう。 長い脚は彼女の運命を引き裂いていきそう。 配下の蜘蛛も相まって、家に乗り込んで来られるとなると気色悪い光景である。 「……ま、あ、蜘蛛の攻撃は単純だけど、花嫁さんを護ってあげてほしいの」 彼女の部屋に蜘蛛が突入する瞬間に丁度出くわす事になるだろう。 彼女の部屋は一階の角部屋、外からは良く見えないが、庭先から応戦も可能だとは考えられる。 が、数が其れなりに居る為、部屋の中に残っている彼女が狙われないとは言い切れない。 「裏口の扉は何時も開いてるみたい。其処からなら彼女の部屋はすぐよ」 不法侵入もお手の物でしょ?と世恋は楽しげに笑った。 「甘くてとろける幸せの夢を壊す害虫なんて、夢にはいらないでしょう?」 さあ、目を開けて、幸せの夢の続きを。 彼女はそう笑って、リベリスタたちに手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月09日(土)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 幸せ、幸せ。 「幸せ、って素敵な音」 心の中へと暗い影を落とす、その不安をも消し去る綺麗な音色。 未来と言う名の途の先の素敵なその幸せの為に頑張ろうとフォルティア・ヴィーデ・アニマート(BNE003838)は銀髪を生温かい梅雨時の空気に揺らし笑った。 「素敵なモノのために、こんな所で終わらせない!」 「ああ、幸せ間近の素敵な花嫁。ここで散ってもらう訳にはいかねぇな!」 その声に頷いたのは『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)であった。 握りしめた懐中電灯。じめじめとした6月――梅雨の空気を身にまとい、リベリスタ達はそっと花嫁の住まう家を目指す目指す。 「花嫁、そうだね。結婚を邪魔する無粋な蜘蛛は退治しないとね」 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は特撮ヒーロー風のゴーグル、ARK・ENVG[HERO]を装備し、その意思を固める。 幸せになるはずの美しい花嫁を殺すわけにはいかない。 それがリベリスタ達の気持である――だが、蜘蛛だ。 「大きい蜘蛛とか、震えます……」 へにゃりと犬耳を下げた『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)は想像した蜘蛛の様子にぞわりと体を震わせる。 大きな顎、目、ぞわぞわと動く足。ただ想像上でも気色の悪い其の生物に小さな子犬は瞳に涙をためて呟いた。 「で、でも、花嫁さんを狙う蜘蛛は放置できないのです」 ぞわり、と動く蜘蛛。それを連れた小さな蜘蛛。きっと子供だろうけれど、ご飯を食べて大きくなろうとしてるだけだろうけど。 ――でも、其のご飯って。 「花嫁さんの幸せを祝えない蜘蛛さんには、絶対負けるわけにはいきません」 ぐっと拳を固めた子犬の隣ではリオン・リーベン(BNE003779)が呆れた様な表情を浮かべながら空を見上げていた。 「マリッジブルーにつけこむ蜘蛛か、腹でも空かせていたのか」 どちらにしたって厄介でしかない。倒すしかないだろう、とでも其の表情は語っている。 だが、マリッジブルーという言葉に反応した『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)がふわわと小さな欠伸をして笑う。 「マリッジブルー?あたし、知ってる。五月病と似たようなアレ」 つまりはその瞬間に行き成り出てきただけの気まぐれ。 「それはさておき、そんなところに現れる蜘蛛。空気を読んだのか読んでないのかわかんねーですが」 「読んでないだろ」 ぼそりと呟いたリオンの言葉はスルー。小路は楽しげにステップを踏んで一つ演技を。 「『彼女に手を出すな!』『あ、あなたー!』みたいな。旦那さんが一緒に居る時ならよかったのですが」 その様子に蜘蛛におびえていた壱和がくすりと笑う。ヘッドフォンから漏れ出る楽しげな音色。フォルティアもその様子を見て「素敵なリズムだ」と笑っている。 「ま、しかし、旦那いないので、あたしが出なくてはいけないわけなのですね」 「旦那がいたらでないのか」 リオンの呟きに小路はさあ、どうでしょう?と言う様に肩を竦める。 「働きたくないー!ふぁっく」 「まあ、でも6月の花嫁は、まさに女性の憧れではないですか」 何処か苦笑した『空泳ぐ金魚』水無瀬 流(BNE003780)は幼いながらも6月の花嫁――ジューンブライドを想い浮かべうっとりとした表情を浮かべる。 だがしかし、そんな幸せで幸せで仕方がないはずの花嫁の未来を邪魔する輩がいる。 「彼女の未来を邪魔する輩は成敗して遣りますっ」 うんうんと頷きあう幼いリベリスタ達の様子を見つめ、幸せ、幸せと『鷹蜘蛛』座敷・よもぎ(BNE003020)は呟く。 「幸せになれるかどうか、か」 よもぎならば相手を幸せにすると意気込む所だ。フォーチュナが序でに憂鬱を雪いできてといっていた。 何を話すか、その考えが脳内をぐるぐる、ぐるぐると。 「……まずは、花嫁の安全を確保してからだ」 よもぎは蜘蛛だ。それ故に蜘蛛を相手にするのは少しばかり気が引ける。頑張ろう、と小さくつぶやいた。 リベリスタ達がたどり着いたのは一軒家。しんと静まった場所で疾風は千里眼を使用し花嫁や蜘蛛の位置を確認する。 頷きあった彼らはそれぞれの遣るべき事へと走り出した。 ● 「裏口からですね」 「うんうん、行こうか!」 フォルティアと小路は二人揃って裏口から突入する。暗がりではあるものの、はっきりとわかる場所を其のまま走りこんでいく。 聞こえてくる通信を聞いて、状況と位置関係をはっきりと把握した小路は止まれの交通標識をしっかりと握りしめた。 部屋の扉を開け、へたりこんだ女の背中を見つけたフォルティアはフィンガーバレットを構え、ヘッドフォンのコードを揺らす。 「はーいはい、夜蜘蛛は倒しちゃおうね!」 滑り込んだ彼女は窓を割った蜘蛛を追い出す様に大胆な一撃を喰らわせる。 其れに続いて窓際に駆け寄った小路は後ろでへたり込んでいる花嫁の目の前に立ち、普段の面倒くさがりな面を忘れさせるかのように眠たげな眼を大きく開く。 「しっかりするです!ここで何かあったらマリッジブルーどころじゃないでしょー!」 「え、え、あ、はい」 「結婚相手がまってるんでしょうが!」 泣き出しそうな女性に対してかけた言葉は何処か必死。彼女ら2人では抑えきれない蜘蛛。 ふわりと翼が揺れる。 庭先から飛び上がった流が其の身を蜘蛛との間に割り込ませた。軽やかに表れた彼女は武器を構え蜘蛛の進行方向を阻止する。 「何が何でも、ここは通しません!」 彼女の認識はその戦場全てを見通すものになっている。展開した結界は周囲の住民に気付かれない秘密を行うためのもの。 振動で割れてしまっただろう窓。其の奥からのぞく蜘蛛と流の背中。 ふと安心したフォルティアと小路は一度花嫁の様子を仰ぎ見てから、しっかりと武器を持ち直した。 十字の光が大蜘蛛の体へとブチ当たる。足がわさわさと動き、その顔はしっかりとエルヴィンを見つめた。 「理想通りだ」 にやり、と口元を歪ませた彼の狙いは怒りの付与。うまく行ったことに笑みを隠しきれないまま、ミセリコルデを構えて蜘蛛を誘った。 彼のもとへゆっくりと蜘蛛が来る前に流の張った結界をさらに強固なものへと変える。マイナスイオンを出し、安らぐその場の空気を作り出した。 近づく蜘蛛を確認した疾風はスマートフォンを握りしめて、宣言する。 「花嫁と運命の糸で結ばれるのは花婿だけで十分だ!変身!」 現れたのは正義の味方、変身ヒーローだ。室内で花嫁が無事な事を確認し、流れる水の如く攻防自在の動きを其の身に宿す。 走りこんだ壱和は戦場を見渡す視野を手に入れ、小さな蜘蛛を見つめる。 怖い、そうは思う。だが、負けるわけにはいかないのだ。拳のいろはをぐっと握りしめ、子犬は戦意を高めた。 蜘蛛が吐き出した糸がリオンに絡む。だが、彼はそれに惑う事はない。 防御動作の効率化をし、仲間たちへ守りの力を与える。 「来たか、行動を開始する」 冷静な瞳で目の前の蜘蛛を見つめる。五匹の蜘蛛。これでも十分にでかいのだが――子供の様だと最初行っていた壱和の声を思い出す。 「子供だろうが容赦はしないがな」 其の身に風を宿したよもぎは今だ庭先できょろきょろと周囲を見回している蜘蛛を見つけ、ブロードソードを構える。 「気が引けるけどね、此方においで」 各々が蜘蛛をブロックする。勿論室内にいる二人も花嫁の前に立ち、蜘蛛の動向を見つめている。 蜘蛛が吐き出した糸を受けたエルヴィンには麻痺は聞かない。小さく笑みを浮かべて彼は再度十字の光を放つ。 「余所見してもらっちゃ困るな、もっと喰らい付いて来いよ!」 リベリスタ達はそれぞれ一体ずつの蜘蛛を相手にしている。外の様子を見守っていた小路が振り返り花嫁の手を取った。 「さ、ここから逃げますよっと」 後退し、扉の前に立つ小路にフォルティアは頷く。首元で揺れるヘッドフォン。にんまりと笑った彼女は花嫁の手をぎゅっと握る。 「大丈夫、みんなが倒してくれるから安心して、ここから言ったん避難しよ!」 ね?と笑った彼女に手を引かれて花嫁は廊下へと連れ出される。 困惑した彼女の手が確かにフォルティアのやや色黒の掌をぎゅ、と握りしめた。 「面倒ですが、此処は通してやらねーですよ?」 仲間たちも背中が見える。押されて室内になだれ込んできた仲間たちの背中を見つめながら彼女は広い視野を得る。 部屋へと押し込まれそうになった流の目の前にいた蜘蛛に圧倒的な速力で雷撃を纏った舞踏を疾風が繰り出す。 その動きはまるで踊る様で。持ち直した流は其のまま大きく息を吸い込んで、こちらにいらっしゃい!と叫んだ。 集まる蜘蛛達にリベリスタ達も続く。庭先に集まった蜘蛛達は全面を流と小路、疾風。背後をリオン、エルヴィン、壱和、よもぎに囲まれている。 花嫁の退避を確認し、ほっとしたエルヴィンは目の前で蠢き自身を標的とする大蜘蛛の攻撃を盾で受けながら仲間たちと頷きあった。 可変式モーニングスター[響]を使用した舞踏は集まった蜘蛛達を傷つけて行く。 蜘蛛だからと気が引けていたよもぎはお荷物になるわけには、と一度呟いて高速の残像を作り出し、蜘蛛達を蹴散らす。 大蜘蛛の吐いた糸はエルヴィンに絡みつくが彼は「きかないな」と笑って其の攻撃を受け流した。 「お腹空いてるなら、こっちはどうですか? そのお腹、拳で満たしてあげましょうか」 にんまりと笑った壱和に群がる蜘蛛。指揮官達の強み――言葉により自らを標的にするリベリスタは仲間を信頼し、其の身を標的に幾度も幾度も繰り返す。 壱和に対して足を振りあげた蜘蛛の目の前にリオンは割り込む。 同じく標的となっている流は目の前の敵を殴り付け、小さく笑った。 「そちらが勝っているのは、手足の数だけのようですね?」 勿論手足の数は蜘蛛と人間、全く違う。だが、此方は確かに優勢である。 彼女がふ、と体を逸らす。窓辺へと近づいてきていた小路が周囲に不可視の刃を繰り出し、蜘蛛達を切り裂く。 リベリスタに囲まれた蜘蛛達は手も足も出ない――嗚呼、あんなに数があるというのに。 ぽつり、ぽつりと空から雨が降り出した。梅雨時だからだろう。ざあ、と降り注ぐ雨にリベリスタ達は怯む事もない。 髪を掻き上げてにやりと笑ったエルヴィンはジャスティスキャノンを大蜘蛛へと放つ。 蜘蛛がいやいやをするように首を振り糸を吐く。絡む絡む糸。小指に絡むものであればそれは赤い糸だと言えるだろう。 だが吐き出されるのは白い糸。アッパーユアハートにより怒りを付与され、周囲を囲まれた蜘蛛達はリベリスタ達の攻撃で疲弊していく。 ヒーローは蜘蛛達の中心で舞う。その剣裁きは美しいもので蜘蛛達を圧倒していった。 大蜘蛛が超音波を放とうと身構える。だが、其処によもぎの澱み無き剣戟が突き刺さり、超音波を放つ事が許されない。 ひたすらに蜘蛛からの攻撃を受けていた壱和の膝が笑う。体はふるふると震えた。 「だけど、ここは一歩も退きません……!」 「ああ、その意気だ!」 回復を施したエルヴィンが安心しろと笑う。彼の歌は仲間たちを癒し、まだ、立っている気力を与えた。 背後に下がった疾風はMP7A1C[空牙]で鋭いカマイタチを繰り出す。小さな蜘蛛達はもはやその場には立っていられなかった。 ふるふると震える足は其のままに今だに動いている蜘蛛に対して、小路が放った精度の高い刃が切り裂く。 「殲滅仕切るまで戦い続けるですよ」 にんまりと笑った眠たげな少女の言葉はリベリスタ全員の思いと一緒。 残るは大蜘蛛のみとなった時、蜘蛛は其の足を振るい、目の前にいたリオンへと向かっていく。 「ああ、いらっしゃい」 余裕綽々に笑った彼は背後へと飛び、避ける。 仲間たちの放った攻撃は大蜘蛛へと突き刺さり、その動きを止めてしまった。 ずん、と蜘蛛はその場に倒れる。蜘蛛を其の身に持っているよもぎは何処か寂しげに瞳を伏せた。 ● 室内の奥、廊下では今だ混乱している花嫁の隣でフォルティアが優しく微笑んでいる。 「いきなりでびっくりだよねー。大丈夫?」 「え、あ、はい」 だが、しかしその返答は今だ状況を飲み込めないもの。悲しそうな表情の彼女の隣に座り、まだ年若い少女は優しく笑う。 「……?なんだか不安な旋律」 もう虫は来ないから、大丈夫、とその手を握り笑うフォルティアの優しい表情にふう、と花嫁は息を吐いた。 彼女は膝を抱え語り出す。雨が降っていて、結婚式が怖くなって、どうしたらいいのか分からない時に蜘蛛が出た、と。 「そっか、結婚するんだね、おめでと!」 幸せだね。彼女のヘッドフォンから漏れ出す音楽は優しげなもの。 不安、結婚式が怖くなるという不安。隣に座り、共に膝を抱えながらぎゅっと手を握りしめる。 「不安、なの?少し吐き出しちゃいなよ、聞いてあげるよ?」 フォルティアの掌をぎゅっと握りしめ、花嫁は膝を抱えて泣いた。 其処にふわりと安らぐ空気がやってくる。戦闘が終わったのだろう、とフォルティアは思った。 「大丈夫、だったか?」 マイナスイオンを発したエルヴィンを見つめ、ピースサインを送るフォルティアと隣の泣きじゃくる花嫁。 「やあ、可愛い花嫁さん」 その目の前にしゃがみこんだよもぎは花嫁の頭を撫でて、首をかしげた。 「きみがパートナーと一緒に居て、一番安心するのはどんな時だい?」 其れはきっと不安な時、泣きたくなった時、誰かが傍に居てほしい時。その顔を見るだけで、香りを感じるだけで、胸がじんわりと熱くなる。 「その時の事を考えて御覧、きっと心が安らぐよ」 続く未来が不安だろうけれど、その未来を不安がっていては先に来る安心を手に入れる事は出来ない。 例え今が不安でも、切り拓く未来に其の人と手をつないで笑いあう事が出来るならば。 「何も怖がる事はないさ」 よもぎは笑う。髪を撫で、優しげにその頬に触れる。泣きじゃくる花嫁の涙は、更に量を増し、しきりに彼女は頷いた。 「何も今全てを背負いこむ事はない。もしどうしても気になるなら」 それなら一緒になるその人と共に背負うといい。君が幸せになる未来を。 「僕も心から祝福するよ」 「ねえ、花嫁さん。旦那さんとの思い出話、聞かせてください」 丸い瞳を向けて微笑んだ壱和に彼女はたくさんの思い出を語る。泣きじゃくり、赤くなった鼻を恥ずかしそうにしながら。 始めてであった日、始めて手を握った日、始めて好きだと思った其の時。 「幸せですよね。きっと、大好きな人と一緒なら、どんなことだって乗り越えて行けると思うのです」 其の人と一緒だと笑顔になれるなら、大丈夫。その涙を止めるのはきっと旦那さんの役目だから。 壱和の言葉に花嫁が小さく笑う。 ええ、でもあの人は不器用だから。 「幸せを自ら掴み取っているんだな。幸せになれるか不安になるなら、自分で努力べきである」 其の微笑みは幸せを掴み取った証拠だろう。だが、これから先が不安だと泣くのであれば、もっと努力してみればいい。 「幸せだと思える時を増やす様に努めればいい」 自分にとっての幸せとは何か、其れを考えればいいだろう。好きならば、そんな心配は不要だ。 何処か、緊張した面立ちでリオンが呟く。柄にもない、とぷいと逸らした視線。 「……幸せが一つでも多く見つかる事を願う」 くすり、と花嫁が笑ったのを見、流は胸に手を当てて、微笑んだ。 「未来って誰にも分からないのです。けど、不安がっては損です。貴女は六月の花嫁」 幸せな花嫁さんなのだ。幸せになれる?そうではない幸せになる!その気持ちを持って、と少女は激励する。 「愛する人が傍にいるのですから、大丈夫です」 ね?だから、幸せになって。幼い少女と花嫁は指切りを交わす。不安そうな表情は少しばかり晴れやかになっていっていた。 「なあ、世界ってのはさ、意外と脆くて、不安定でさ」 天秤の様にゆらゆらと揺れる世界。その中でも幸せは直ぐに消えてなくなる泡の様で。 だが、エルヴィンは花嫁の瞳をまっすぐに見つめて笑う。彼なりの幸せを、描く様に。 「だからこそ、幸せになりたいって意思は、何よりも強くて尊い。なれるなれないじゃなくてさ」 なる為に君が選んだ未来なんだろ―― その言葉にハッと花嫁が目を見開く。 「頑張れよ、相棒と一緒にさ」 「花婿になる男性を愛してるんですよね、その気持ちがあれば不安も乗り越えられますよ。二人なら、きっと」 疾風も頷く。ほんわかしたその空間に手をつないでいたフォルティアは明るく笑った。 「色んな音と混じり合って其の人の楽譜は完成する。けど、いつでも一緒に奏でてくれる和音って何より素敵な音だと思うから」 その五線譜に並んだ自らの素敵な曲の為に。その素敵な音と奏でる望む未来の為に。 「不安なら、全部僕らが聞いてあげる。不安なら僕のお気に入りの曲を聞かせてあげる」 何より欲しいのは君の笑顔だよ。 花嫁は頷いて微笑む。私、きっとしあわせになる。誰もが彼女のその顔を見て白いドレスを着、愛しい人と手を取り合う場面を想像しただろう。 そうだ、と流は振りむいて口元に指先を当てる。今日の事はご内密に。 ああ、どうか、幸せになれます様に |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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