●杵築最終決戦 『マスタープラトン』。 最大で半径100mの一般人をE・エレメントに変換し、所有者の寿命と引き換えに従属させるアーティファクトである。 この所在が、とても派手な形で露見した。 瀬戸内海は小島、杵築神社上空に独特な光と共に浮かび上がったのだ。 ある者――黄泉ヶ辻『特別超人格覚醒者開発室』は至高の大隊を生み出すプラントとして。 ある者――六道『斬鉄剣客組』は戦乱の世を作る為。 ある者――裏野部『ヘビーアムズ団』は破壊と暴虐の為。 ある者――巨大機竜は自らのコアだったものを取り返すため。 其々の組織が今、一斉に現地を目指す。 『マスタープラトン』を巡り、壮大な争奪戦が起ころうとしていた。 ●マスタープラトン争奪戦 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はブリーフィングルームのモニターに、小島の地図を表示させた。 「突如その所在を明らかにした『マスタープラトン』を巡り、いくつかの組織が動き出しました。このうちどの組織の手に渡っても大変なことになるのは明らかです。よって我々はやや規模の大きな作戦を立ててこれを阻止することになりました」 そして、このチームの任務は……。 「杵築神社へ逸早く突入し、マスタープラトンを確保。破壊可能エリアまで移動させ、しかる後破壊することです」 つまり、この任務は以下の二つのパートに分かれることになる。 1.杵築神社に突入。『マスタープラトン』を護っている敵をある程度撃破しつつこれを奪取。 2.破壊可能エリアまで『マスタープラトン』を持ってダッシュ。この間大量の邪魔が入る。破壊可能エリアに到達し次第破壊する。 まずは第一段階。突入から奪取まで。 『マスタープラトン』は杵築神社の最奥に奉納されている。 それを護っているのはフィクサード『ナコト』と数十体のE・エレメント。 彼等をある程度撃破しつつ目的のものを奪おう。 次に第二段階。 『マスタープラトン』は不思議なシールドに守られており、通常の手段では破壊できない。神社のさらに奥、森林地帯を暫く越えた所に祠があり、そこに納めることで漸く破壊できるのだ。 『マスタープラトン』は大人の頭程度の大きさがある正十二面体で、抱え持って走るくらいなら可能。 途中で他戦域から抜けてきた『巡り目』やヘビーアームズ団、斬鉄剣客組や機竜といった様々な敵が『マスタープラトン』を狙って襲い掛かってくるだろう。 ひったくる者、直接撃破を狙ってくる者、そのた様々……。 恐らく壮絶なフットボール試合になることだろう。 なんとかこの場を乗り切ってほしい。 ●『NACOTO-CCC』 杵築神社、本殿。 眼鏡をかけた少女が苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。 名を『ナコト』。神社を管理する立場なのか、神主のような服を着ていた。 「マズったわね……」 『マスタープラトン』をテスト起動した際、神社の屋根を突き破って空に浮き上がってしまったのだ。 事前に捉えておいた一般人をEエレメント化することには成功したが、『浮き上がって光る』などという派手な動き方をするという事実を忘れていた。迂闊だったと言うべきだ。 「なんだか、インテリ眼鏡の言葉を思い出すわね……『一人ですべてを賄えるわけではない』か」 『マスタープラトン』は自力で引っ張り戻し、再び元の位置に戻した。 天井の補強は終わった。 だが、あの光を察知した連中が大挙して押し寄せてくるだろう。 ナコトは眼鏡をかけなおし、古い本を引っ張り出した。 縦幅1m近くある巨本である。 「エネルギーを溜めるまで、まだ起動できないわ。なら、暫く持ち応えるしかない……」 パチンと指を鳴らすと、どこからか湧き出るようにして人型の怪物が現れる。 Eエレメント。数にして数十体。 大雑把な表現をするならば、半魚人のような連中である。 ナコトはためしにゲヘナの火を叩き込んでみる。 半魚人たちは炎に包まれて喘いだが、十秒程度で傷が完全に塞がった。 「『不死』……短時間における超回復能力もちゃんと機能してる。これなら、無茶苦茶な使い方をしても平気ね」 神社の外へ出て、大きく息を吸う。 「さあ……どこからでもかかってきなさい」 その、同刻。 いくつもの組織がマスタープラトンを目指して動く『個人』が居た。 神社へ続く長い長い階段の上を、ゆっくりと浮遊移動する女が居た。 彼女の下半身は魚のそれであり、一見して『人魚』と呼ばれる容姿をしていた。 斑目洞子。それが彼女の名前である。 「行かなくちゃ……私が責任を、とらなくちゃ……」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月15日(金)23:45 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●『マスタープラトン』奪取作戦 一つのアーティファクトを巡り、瀬戸内海が揺れていた。 ある者たちは人工覚醒有翼人『巡り目』との熾烈なチェイスを繰り広げ、ある者たちは機械生命体『機竜』との壮絶な空中戦を勃発させ、ある者たちはヘビーアームズ団との海上決戦に挑み、ある者たちは剣客集団『斬鉄』との全面対決を始めていた。 そんな事件の中心地。 瀬戸内海上は小島南部。杵築神社最奥でのこと。 少女が巨大な本を手に、異界の言葉で何かを唱えていた。 ぶんわりと浮かぶ十二面体は淡い光を放ち、生きているかのようにどくんどくんと脈動していた。 詠唱を途中で止め、転がり落ちる乳母車から手を放すかのように、少女は眼鏡の奥で両目を細めた。 「もうすぐ、もうすぐ、もうすぐよ。世界が壊れて、流れ込んで、新しい世界が生まれるわ。ここがここではなくなるわ。それまでの我慢よ、可愛い子供達……」 詠唱を続けようと息を吸う。 途端、後方の扉が激しい爆音と共に吹き飛んだ。 扉の前にじっと控えていた半魚人的E・エレメント『ティープマン』は、火だるまになって地面をごろごろと転がる。 「ご機嫌うるわしゅーナコトちゃん」 砕けた木片の落ちるかすかな音が、軋むような足音に被る。 確かめるように地面をトントンと足で叩くと、『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)はトンファーをしっかり持ち直した。 「デートのお誘いに来たよ」 「……悪いけどお化粧中よ。外で待っていてくれる?」 「そう言わないでさ。いちゃいちゃしよーよ」 死角の壁を三角蹴りし、ディープマンが飛び掛ってくる。爪や牙のようなものは少ないが、異常に発達した筋肉と固い鱗が風を切って唸る。 振り返ることも無くトンファーを振り上げる夏栖斗。ディープマンの薙ぎ斬るようなチョップが止められた。 『ギギッ』 『――ギッ』 奇妙な声をあげて別々の方向からディープマンが突撃。 地を這いずるような前傾姿勢から両肩を膨れさせる。 彼らの拳が夏栖斗に届く一瞬前、ぶわりと彼の腕に焔が灯った。 「退屈とか、させないからさ!」 夏栖斗は焔の灯った腕を一回転。三体のディープマンはたちどころに焼き払われ、ばたばたと地面に転がった。 しかし焼きただれる傍からうろこが剥離し、肉体がみるみる再生していく。 不老不死の能力を持ったEエレメント。マトモに相手をしていては駄目だ。 ナコトは夏栖斗のことなどもう存在ごと忘れたかのように背を向け、理解不能な詠唱を続けた。 正十二面体の光が徐々に強まって行く。 「マスタープラトン……」 軍靴を鳴らし、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)がゆっくりと部屋へ入ってくる。 ホルダーからコンバットナイフを抜き取り、どっしりと身構えた。 ナコトの傍には行かせまいと道を塞ぐディープマンの群れ。 「いつの時代も人は力を求めて争うものだ。だが世の為にならぬなら、捨て置くことはできない。……任務を遂行する」 ウラジミールは見かけからは想像もできない巌の固さで突き進むと、立ち塞がるディープマンの心臓へ正確にナイフを突き立てた。 横一文字に引き裂く。内臓物が飛び散るが、すぐに再生が始まる。 「不死身か」 抑揚のない声で呟き、強烈な蹴りを叩き込む。凄まじい速度で踏み倒し、再び胸に突き刺したナイフで今度は喉まで真っ直ぐ切り裂いてやる。 完全に死んだか……と思ったが、ディープマンはビチビチと痙攣しながら再生を始める。 この分では肉塊になっても再生しそうだと、ウラジミールは静かな悪寒を感じた。 人殺しの技術を体得しているウラジミールにとって、死なない人間ほど怖いものはない。ディープマンがもう人間の粋にあるか否かは別として。 「何を律儀に殺そうとしてるんだ。どうせそいつらは『無くならない肉壁』だぞ」 凝り固まった首を不機嫌そうにごきりと鳴らし、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は髪の先を摘まんだ。 「ガラクタのために右往左往……怪物どものバーゲンセールか。まあいい、少しくらいなら付き合ってやろうじゃないか、魚介類」 「…………ギ」 人の言葉が分かるかどうかすら怪しい様相ではあったが、ディープマンがぎょろぎょろとした目でユーヌを見た。 「どうした、気に障ったか? 悪かったな、魚介類。人間の言葉が分かるとは思わなかった」 そうしている間にも、ユーヌは相手の顔すら見ようとしない。髪の毛の先ばかり見つめている。眠りから覚めたばかりのようなどんよりとした表情もまた、一向に変わる様子はない。 一方のディープマンは今にも歯軋りが聞こえてきそうな顔つきでユーヌへ身構え、そして一斉に飛び掛った。 「空気を読むと言うのは難しいな。死ねばいいのに」 最後まで相手の顔すら見ようとしないユーヌに、骨のナイフが繰り出された。 だが刺さることはない。 なぜか? 「……ふう」 小さく息を吐く『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)。 全身鎧に三つ編みという、どこか浮世離れした彼女の手に、骨ナイフの刃が握られていた。 べきりと手の中で折れるナイフ。 「エスコート役がいると楽だな?」 「自重して下さい……とは言いませんよ。今日は」 ようやく視線をあげたユーヌに、きなこは肩をすくめて答えた。 その後ろからけたたましく飛び込んでくる『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)。 「リベリスタ風宮紫月、参ります!」 護符を素早く鴉に変えてナコトへ発射。 途中で彼女を庇ったディープマンにずぶりと突き刺さった。否、やはり肉の盾なのだろう。 ナコトはその時点においてもまだ彼等に無視を決め込み、掠れるような声での詠唱を続けていた。 「……」 あんまりにそっけない対応だと、眉間にしわを寄せる紫月。 ナコトは背を向けたまま、まるでこちらを見ているかのようにぼんやりと手を上げた。 「……解説してあげましょうか。今沢山の組織がこのマスタープラトンを狙ってここを目指しているって時に、あなた達はどうにも悠長過ぎるのよ。なんだか強くドアをノックしているのにいつまでも部屋に入ってこないみたい。ドアの向こうでショットガンでも構えていて、近づいたらズドンと行こうと待っているみたい。どうせそういうことなんでしょう?」 ゆっくりと振り返る。 「あと何人か、いるんでしょう?」 「――ええ、まあ」 きなこがそう呟いた途端、入り口側の壁が二か所、盛大に破壊された。 「よそ見なんて悲しいね、俺と仲良くしようじゃないか。仲良く、ぎゅっと!」 振り切った刀を構え直し、『合縁奇縁』結城 ハマリエル 竜一(BNE000210)が壊した壁から突入してきた。 立ち塞がるディープマンの顔面に刀を突き刺し、踏み倒して更にダッシュ。 起き上がろうとするディープマンの首に気糸を巻き付け、ビシリと締め上げる『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)。 片手でバタフライナイフを展開すると、ストンと進行方向上のディープマンに投げつけた。額に突き刺さるナイフ。傷口から血が噴き出るが、再生が始まらない。 「これで不死? 随分と誤魔化したものね」 目を細めて顎を上げる糾華。 慌てるディープマンを揚々と蹴り倒し、竜一が突き進んでいく。 「どけよ半魚人、メガネ少女と絡……じゃない、オレのプロい任務の邪魔すんな!」 そんな彼をつかまえようとするディープマンだが。 「なあ、踊ろうか? 華が無くて生憎だが」 人差し指を招くようにちょいちょいと動かすユーヌに気を取られる。 挑発にしてはどこまでもおざなりなことではないか。それ故に効きも悪いのだが。 「そろそろ邪魔よ」 ナコトがため息と共にブレイクフィアーを展開させた。 殆ど片手間の域である。 ユーヌに引き付けられていた者も、糾華に回復を停められていた者も、こぞって元通りに立ち上がる。 喉の奥から骨のナイフを抜き出し、奇怪な声を上げて襲い掛かった。 「まずい、まずいぞ……」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は糸目を僅かに開いて言った。 仲間たちのダメージを考えて天使の歌を発動。 しかしナコトはディープマンを盾にしたきり、ブレイクフィアーを時たま使うばかりでろくに相手をしようとしない。 マスタープラトンから目を離す隙すら無い。 既に気づいていることかもしれないが、これは陽動隊と本隊に分かれた作戦だった。 夏栖斗やウラジミールが殴り込みをかけ、ユーヌが敵を引き付け、きなこや紫月がそれを支える形でディープマンに対抗し、焦りを見せ始めるナコトに追い打ちをかける形で竜一、フツ、糾華といったメンバーが突入。不意打ちでマスタープラトンを奪い取る作戦だったのだが……。 「ナコトの反応が悪すぎる。いや……こちらのアプローチが弱すぎたのか」 夏栖斗がディープマンに組み伏せられ、背中にナイフを立てられる。 ウラジミールが壁に押し付けられ、腹を滅茶苦茶に捌かれる。 ユーヌはしきりにアッパーユアハートを連発しているが、片手間にブレイクフィアーするナコトとディープマン自身の抵抗力によって悉く弾かれていた。 後から突入した竜一と糾華も、数の暴力で押し切られ、両手両足にしがみついたディープマンによって転倒。今にも眼球を抉り出されようとしている。 フツときなこは必死で天使の歌で対抗しようと試みたが、それも今潰えた。 きなことユーヌは仲間と同じように組み伏せられ、フツもまた背後から二匹がかりで羽交い絞めにされた。 ゆっくりと歩いてくるナコト。 「これで八人……まあ、こんなものでしょうね。陽動がしたいなら、もっと派手にすることね。とても退屈だったわ。ごめんなさい、付き合ってあげられなくて。お詫びに殺してあげるから、許してね」 抑揚のない声で囁くナコト。 1m程ある巨本のページを捲り、そっと表面をなぞる。 「ナコト-CCC、第三章起動。焼かれる苦しみについて……」 ゲヘナの火をフツに浴びせかけてくる。 無論ディープマンも巻き込まれているが、自動回復ができる彼等には問題ない。熱さに絶叫してはいるが。 「あっ、ぐああああっ!」 だが一番苦しいのはフツ自身だ。 火炙りにされる魔女の気持ちを味わうハメになるのだから。 「千里眼で様子は見させて貰ったわ色んな組織を迎撃して、ご苦労様。おかげてとても助かったわ。肝心要のあなた達がこうして大人しくしてくれているから、マスタープラトンももう少しで機動できそうよ。あら、チャームやイロハも殺してくれちゃって……あは、急加速」 フツをじわじわと焼きながら、ナコトは初めて笑顔を見せた。魔女のような歪んだ笑顔ではあったが。 文字通りの焼ける痛みに耐えながら、フツは顔を上げた。 「お役に立てて、光栄だな……」 「余裕そうね。火力を上げる?」 「是非そうしてくれ。風呂は熱い方が好みなんだ、江戸っ子でね」 「…………」 魔方陣を展開。更に強い火力でフツを焼きにかかる。 「――――――――――――――――――!!!!」 「良い声、良い声。皆待っていてね、後で同じようにしてあげるから……」 苦悶の表情と絶叫が混じりあい、ナコトは恍惚に頬を染めた。 だから気づかなかったのだ。 彼女の背後。 それも足元の床から。 まるで幽霊のようにぬらりと姿を現した『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)の存在に! 「マスタープラトン、頂戴に御座る」 隙間風のようにそっと差し込んできた声に、ナコトは瞠目して振り返る。 幸成がマスタープラトンを片手に抱え、悠然と立っていた。 「伏兵――この期に及んで!」 咄嗟にゲヘナの火を放つが、幸成は残像を残してひらりと回避。ウラジミールたちを抑えていたディープマンは彼らを離してよい物かどうか迷い、迷っている間に口から額にかけてバッサリと切り裂かれた。 声にならない声を上げて倒れるディープマン。 ウラジミールはコンバットナイフから紫色の血を振り払い、無線イヤホンマイク越しに通信を入れる。 「マスタープラトン奪取完了。直ちに撤退。祠へ向かう」 「そういうこと、付き合ってくれてありがとね!」 夏栖斗は自らを押さえつけるディープマン達を焔腕で薙ぎ払い、そそくさと屋外へ飛び出していく。 そして幸成がラグビーボールのように放り投げたマスタープラトンを、糾華が優雅な仕草でキャッチした。 「悪いわね、負けそうだったのは嘘よ」 「あと江戸っ子なのもあれ、嘘だ」 パタパタと手を振るフツ。糾華から受け取ったマスタープラトンを麻袋に詰めて走り出した。 「ッ――!」 発作的な怒りに身を震わせるナコト。 高速詠唱で葬操曲・黒を放とうと魔方陣を展開するが、それらはきなこと竜一に阻まれた。 「おっと、もうちょっとだけ付き合ってよ。言ったろ、仲良くしようって」 「私は先に行かせて貰いますね。それではまた」 颯爽と踵を返して逃げ去るきなこ。 それに続いて、紫月が逃げ去りざまに式符・鴉発射。 本で防いでいる隙にユーヌも悠々と外へ脱出してしまった。 自動回復をしながらも顔を抑えてのた打ち回るディープマンを、ナコトは思い切り踏みつける。 「この、クソアークのマザーファッカーどもが! コンクリ詰めにして瀬戸内海に沈めてやる! ディープマァンッ!」 大量のディープマンを引きつれ、ナコトは怒りと共に駆け出した。 ●『死にたがり人魚』斑目洞子 「離してください」 細い、手首だったと思う。 『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)の目には、少なくともそう見えた。 自分の手が簡単に一蹴できてしまう程、彼女の手は小さく細く、すぐにでも折れてしまいそうなそれは、まるで彼女自身のようだった。 どこかの港町で男と静かに暮らし、何と言うことも無い日常を送るのに相応しいような。 そう、初めて彼女を知った時のように。 今まで何人も殺してきた風斗の手を振り払おうとするには、あまりに不似合いだ。 「離してください」 女は同じ言葉を繰り返した。 斑目洞子。 ゆったりとしたシャツを着た女である。 だが下半身は魚のそれだった。 その容姿ゆえに『人魚』と呼ばれている。 ずっと前の依頼で聞いたことがある。彼女を殺して肉を食えば、彼女と融合しているアーティファクト(今思えば名前すら定まっていなかった)の所有権を自らに移せると言う。 所有した者は不老になれるとも。 今『マスタープラトン』という寿命を消費して人類を神秘変換するアーティファクトの出現で、彼女の存在が急に際立った。 なにせ、リベリスタやフィクサードには年を取らない者が多く、不老そのものには価値がない。だが寿命を削られるとすればどうか。永続的に寿命が継ぎ足される彼女の性能を使えば、マスタープラトンは永久機関と化す。何か弊害はあるかもしれないが。少なくともその図式を幾つかの組織が描いているのは確かだ。 人魚を殺して新しい世界に行くのだと言っていた女を思い出す。 ゆっくりと、風斗は顔を上げた。 目を合わせようとしても、人魚は彼から目をそむけていた。 交わらない視線のまま呟く。 「あなた達は、マスタープラトンを回収しに来たのでしょう」 「……そうだ」 「なら、行ったらどうですか。あなた一人で来たわけじゃない筈です」 「問題ない。皆には断ってある。人魚と出会ったら、こうしていていいと」 「…………」 少しだけ振り返る様な仕草をしたが、人魚は再び顔をそむける。 手を放せばいつでも飛んで行ってしまいそうで、風斗は手首を握る手に力を込めた。 いつかは逃がすために、今は逃がさぬために握っている。 「勝手ですね」 「ああ、自分でも驚いてる」 瞬きをする。 「ここが戦場になることは」 「分かっています」 「責任を取る……と言っていたそうだな」 「尋問ですか」 「違……」 「答える義務はありません。神秘を使って『掘り出せば』いいじゃないですか」 風斗は小さく首を振る。感情的になりそうなのだ。 「自棄になって、死ぬつもりじゃないだろうな」 「……」 「どちらでもいい。何にせよお前を死なせる気はない。いや……全力で生かす」 それまで顔をそむけていた人魚が、キッと風斗を睨んだ。 「それは私が『可愛そうな女』だからですか。あなたは自己満足で、可哀そうな人間をさも救ったかのように振る舞いたい、違いますか? 私は今まで一度だって、助けて欲しいと、どうにかしてと、『人間に戻して』と言いましたか!?」 目には涙が滲んでいた。 目を反らすことはできた筈だ。 だがそれをしなかったのは、風斗が今一番しなければいけなかったことだからだった。 「こんなに問題を大きくして、何処か見えない所で沢山人が死んでいる筈です。それならまだいい、死ぬよりも辛い目に合っている人が沢山いる筈です。最小限の被害で済んだ筈の事を自分勝手に押し広げて、何様のつもりなんですか! あなたの所為です! あなたなんかいなければ私はもっと早く死んで――」 「いい加減にしろ」 風斗の平手が人魚の頬を打った。 しん、と辺りが静まり返る。 そよ風が木々を撫でる音が流れ込んで、今いる場所が神社裏の雑木林だと気付き直した。 僅かに唇を開ける人魚。 その時。 「おォい見ろよ。人魚がいるぜ」 すぐ近くで足音がする。それも複数だ。 反射的に振り向くと、ライフジャケットを着た十数人の男達がぞろぞろと現れた。 それも、いつの間にか囲まれていたようだ。 柄の悪そうな、軍人から零れ落ちたようなタトゥーやアクセサリーだらけの男たちが、アサルトライフルやグルカナイフを手に二人を取り囲んでいる。 ニヤニヤと笑いながら、一人の男がガムを吐き捨てた。 「それ、コロしてマワして食い散らかせばスゲー身体になれるんだろ?」 「おい殺さなくてもいいだろ変態」 「持って帰ろうぜ! 顔パンして鼻血出したトコがいい!」 手を叩いて笑う男達に、風斗は沈黙したまま腰に手を伸ばした。剣の柄がそこにある。 それにしても早い。このラインまで到達するまでまだもう暫く時間があった筈だが……理由を考えている余裕はなさそうだ。 「な、兄ちゃん。ひとけのない雑木林に女連れ込んでさ、独り占めは勿体ないぜ」 「俺たちにも分けてくれよ。別の穴でいいからさ。アッ、一個しかねえか!?」 笑いながら人魚伸ばした手が、手首の所でブツリと斬れた。 「ア、アアアア!?」 奇声を上げてたたらを踏む男。 気づけば風斗は剣を抜き、疾風居合切りで男の手首を斬っていた。 周囲の木々に鮮血がまき散らされる。 「お前と逢って話すのもこれで三度目だ。毎回碌な状況じゃなかったがそれでも三度だ!」 風斗のこめかみに銃口が突きつけられる。 腕で払いのける風斗。 「顔も声も性格も知り合った、知り合いだ!」 背後からグルカナイフが振り込まれる。 ナイフが刺さるが無視して蹴り飛ばす。 「知り合いが死にそうになっている。不幸そうなツラをしている、だから助ける! それだけだ、文句があるか!」 銃底でこめかみを殴られる。 身体がぐらつくがバランスを取って維持。 足首に容赦ないマシンガン連射が加えられた。流石に転倒する。 途中で背中を蹴られた。なんと刺さったナイフの柄をだ。 風斗はうめき声をあげてうつ伏せに倒れた。上げようとする横顔を靴で踏みつけられる。 背中に数人がかりでマシンガンの弾を叩き込まれる。 気合で堪える。口からごぼりと血が漏れたが、それでも喋れた。 人魚が風斗の目を見ている。ならば、見返さなくては。 それが、今日やるべき全てなのだろうから。 「事情はあるんだろう。色々あったんだろう! だがそんなことは知らん! 後で聞いてやる。後で考えてやる! 死ぬなら寿命で死ね!」 「うるせえなアァ!」 首筋にグルカナイフが当てられた。喉を盛大に切り裂かれる。血が吹き上がり呼吸が途中で抜けていくのが分かる。 風斗は唇の動きだけで言った。 『失いたくない』 真っ赤に染まる視界。 人魚の手首が男に掴まれ、背後からニヤニヤとした男達に押さえつけられる。 そんな光景が見えた。 失うと思った。 思ったのだ。 彼の声が聞こえてくるまでは。 「ソニック――!」 森林に轟く声。 「ドリィィィル――!」 大気を貫く声。 「キィィィイイイイイイイイイックアアアアアア!」 安西 郷(BNE002360) のきりもみキックが男の顔面に炸裂した。 中途半端な悲鳴をあげて転げていく男。人魚を掴んでいた手は離れていた。 郷はそのまま地面をごろんごろんと転がり。 「人魚ちゃん死守! 見てるか鎖ちゃ……げふっ」 血を吹いて気絶した。 「あーあー死にかけなのに無茶するからよ」 今のが何なのかと考えるタイミングすら与えず、どこからか飛んできた架空の弾丸が人魚を組み伏せようとしていた男二人の脳天を貫いた。 バイクが郷のすぐ脇でブレーキ。軽く踏んづけて止まった。 ヘルメットを投げ捨てる彩歌・D・ヴェイル(BNE000877) 。 「悪いわね。思ったよりこいつらの移動が速かったみたい。郷、生きてる?」 「瀕死みたい……あ、でも幸せそうだから放って置いてもいいですねぇ」 バイクから降りて顔を覗き込むアリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128) 。 とりあえず回復しときますねーと言って天使の息を送り込んだ。 「さっきの奴等だ!」 「ヤベェ、もう追いついてきたのか!」 泡を食って小銃を構える男達。 しかし銃が途中でバッサリと切断されているのを見てリアルに泡を吹いた。 彼等の両脇でパチンと剣を鞘に納めるリセリア・フォルン(BNE002511) とセラフィーナ・ハーシェル(BNE003738) 。 「そ、それ以上動くんじゃねえ! こいつがどうなっても……!」 男が風斗のこめかみに銃口を押し付けて叫ぶ。が、彼が屈んだのは頭上から上下反転したリンシード・フラックス(BNE002684) が降ってくる正にそのタイミングだった。 ぱすんと男の首が飛んで転がる。 「取りこぼし分は、これで全部ですか?」 「人数的にも……えーと、いいんじゃない?」 軽やかに別の男を人体切断しつつ、蘭・羽音(BNE001477) が顔を上げた。 風斗を起き上がらせるアーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082) 。 「人魚さん、守ってくれたんだね。ありがとう」 「……」 風斗は既に瀕死の状態だったが、辛うじて片目を開けた。人魚の方を見る。 アーリィは人魚に頷いて見せた。 「もう目を反らさないでね……あの時みたいに」 「いえ、目をつぶっていてくれても構いませんよ? 今から荒事になりますからね」 棘だらけの鎧を周囲の男達に見せつけて威嚇する三島・五月(BNE002662) 。 リンシードが無言で通信機を広域スピーカーモードにする。 「伝言」 『おっすおっすー、オレオレ夏栖斗。マスタープラトン、ゲットしたよ。そこにトーコちゃんいる? そこの馬鹿が素直じゃないから言ってやるけどさ、守りたいんだって。んで俺たちも同じ。不老不死に愚弄された君を死なせたくない。でもマスタープラトンは諦めて。ダメだから。それと……おい白黒』 「……なんだエロ高校生」 アーリィの回復で喉が治ったのか、風斗が息も絶え絶えに呟いた。 『あの人魚、お前が守った人魚なんだろ』 「……そうだ」 通信機の向こうで、うひひと笑った気がした。 『もう一度守り抜け。僕も手伝う』 「……『オレ達』でな」 目をつぶる風斗。 「準備はいいですか?」 残った男達に向けてスゥと身構える五月。 口の端だけで笑って、こう言った。 「残党狩り、しましょうか」 ●巡り巡る歌 糾華とフツが木々の間を駆け抜けていく。 フツが肩から斜め掛けした麻袋からは淡い光が漏れている。 先頭を走る紫月が片目を抑える仕草をした。 千里眼発動。 「祠はこっちです! まだ距離がすこしありますから、気を付けて!」 「分かった。このまま独走状態に……ならないかっ!」 フツの鼻頭がぴくりと動いたのと、紫月の肩にのせていた式神が声を上げたのはほぼ同時だった。 反射的に横っ飛びに転がるフツ。 一瞬前まで立っていた土面が爆発でも起こしたように跳ね上がった。 ペインキラーの砲撃である。 「ダークナイト……ってことは『巡り目』か!」 麻袋を腹の方に回し、抱え込むように蹲る。 地面を横滑りして糾華がガードに入り、降り注ぐ暗黒弾幕を一人で受け止めた。 白くて美しい頬や腕、膝や腰に次々と切れ目が入っていく。 「すまん……」 「本当よ。死んだらどうするの」 糾華はポケットから黒と青紫で巧妙に彩られたバタフライナイフを抜き出すと、手首を効かせてシャランと展開させた。 もう片方の手では気糸を出してくるくると手繰る。 暗黒弾幕に加え、黒い剣を翳した『巡り目』が我が身を省みぬ特攻を仕掛けてくる。 カウンターで額にナイフを叩き込み、別方向から飛んできた分には気糸で絡め取って振り落とす。 が、捌けたのは二人までだった。 真正面から突っ込んできた『巡り目』が剣を突出し、糾華の腹を貫通させる。 かくんと傾く糾華。 彼女を抱え起こそうとした紫月の前に、十数体の『巡り目』が降り立った。 黒い銃を一糸乱れぬ動きで掲げ、紫月たちに集中させる。 反射的に護符をつき出す紫月だが、これで撃ち合っても自分たちがハチの巣になるだけだ。 ぐっと奥歯をかみしめる紫月。 ……だが、絶望はしなかった。 「うわ当たるブレーキブレーキ!」 「すみません脚届かないです準備してなかったですすみませんほんとすみませうわぁー!」 4WDが横から突っ込んできた。 咄嗟に飛び退く『巡り目』。そのうち逃げ遅れた数体を撥ね飛ばし、そのまま近くの大木に正面衝突した。 運転席ではエアバックに顔を突っ込んだままチャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669) が目を回している。 器用に衝撃吸収をしていたらしい逆瀬川・慎也(BNE001618) と曳馬野・涼子(BNE003471) が前後の座席から身を乗り出して一斉射撃。跳ねられた『巡り目』たちにトドメを刺した。 まるで転げ出るように車から出てきた依子・アルジフ・ルッチェラント(BNE000816) が糾華たちに天使の歌をかけてくれた。 「ごめんなさい。とても遅れたから、沢山飛ばしてきて」 「いや、充分だ……」 ゆっくりと起き上がるフツ。 その背中めがけて『巡り目』が襲い掛かったが、横から放たれた暗黒で撃ち落とされた。 鋼・剛毅(BNE003594) がバイクで突っ込んでくる。 バイクに乗ったまますれ違い、剣を思い切り振り込む。 「フルメタルブレード!」 『巡り目』がきりもみして飛び、地面に転がって動かなくなる。 もう一体の『巡り目』が振り向いた時には、神薙・綾兎(BNE000964) がソニックエッジを叩き込んできた。 バイクのブレーキをかけて停止する綾兎。そのサブシートに乗っていた宇賀神・遥紀(BNE003750) が空に向けて神気閃光を連射した。 ばさばさと落下してくる『巡り目』。 そんな中を掻い潜り、一体の『巡り目』がフツに突撃。素早く麻袋を切り裂くと中身を引っ張り出した。 勢い余って地面を二度程バウンドした。 そうしてから、あることに気づいた。 「うわっちゃあ、バレたか」 ニヤニヤと笑うフツ。つるつるの頭を撫でまわしながら麻袋をひっくり返した。 発行体やら何やらがばらばらと落ちる。 『巡り目』の手の中にあったのは、なんとバレーボールだった。 「ハズレだ馬鹿。まんまと全戦力振り込んでくれたな」 「全戦力だ? あぁ、本当だ。マジで全員こっち来てやんのな!」 後からゆっくりバイクを転がしてきた高橋 禅次郎(BNE003527) が、若干青い顔をしながらも手を振った。 銃剣を『巡り目』に突きつける。 バイクから降りたアルバート・ディーツェル(BNE003460) が、そっと懐を撫でた。『315』と書かれた仮面がそこには入っている。 「『皆を楽にして』……彼女は、そう想っていました」 袖からナイフを引き抜く。 「その願いを叶えます。ここまで来た、責任として」 ●鋼鉄の竜 天空である。 次々と撃墜される小型機竜に混じって一匹の機竜が地上に向かって高速で降下していた。 「だあァッ、どこ行くんだテメェ!」 顔半分を血で覆った華娑原 甚之助(BNE003734) が機竜の首根っこが掴んで揺する。 「墜落ついでの駄賃だ。受け取れ」 きりもみ回転して落下してきた酒呑 雷慈慟(BNE002371) がシールドを最小展開。フリーフォールバッシュを叩き込む。 三人もつれ合って地上に激突。 大量の土煙を上げるが、機竜はまだ生きていた。 目をチカチカと光らせて起き上がる。 それまで見ていたものを回想。 杵築神社からマスタープラトンらしきものを持ちだした集団を発見。 麻袋の僧が持っていたものと思われたが先刻の共有視覚情報でフェイクと判明。 『…………』 バサバサと翼を振り、その場から離脱。木々の間をすり抜けるように低空飛行開始。 すると、全速力で低空飛行するウラジミールの姿を発見した。 即座に機銃発射。 ウラジミールは素早く反転。自分に飛来した機銃をあろうことかコンバットナイフで弾き落とした。ノーダメージである。 「どうやら厄介な相手に目を付けられたようだ」 『ナコト達にも差を開かれてますが、どうします。彼らを引き連れて追いかけますか?』 「あまり良い策とは思えないな」 通信しながらウラジミールは前方の大木に両足をつけクイックターン。機竜に向かって直線飛行……と見せかけて寸前でカクンと捻りを加えた微上昇。額から首筋にかけてをリーガルブレードで引き裂いた。 火花を散らして顔から地面に突っ込む機竜。一機では不利だと判断し味方へ敵機発見の信号を送る。 現在上空は自棄を起こしたように特攻し続ける小型機竜で覆われつつある。 それらが全て集まれば力押しで潰されかねない。 だが逆に、彼らを一手に引き付けられれば……。 「ユーヌ嬢、きなこ嬢、近くにいるか」 「不幸なことに」 両腕を胸の下でゆるく組みながら、ユーヌが樹幹の裏からするりと現れた。 現れた時には既にアッパーユアハートを発動させていた。 「ディープマンとナコトのチームには少数でのブロックや引き付け作戦は通用しなかった。引き付けたそばから解除されていたからな」 「……報告書によれば、機竜の群には他者回復の概念が無いそうで。既に仲間を大量に寄せ集めているようですから、効果は高いかもしれませんね」 別の方向から姿を現したきなこが空中に浮きあがりながら答えた。 「善は急げだ。やろう」 機竜達から度重なる神風アタックを受けたアラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024) はブラックアウトした意識の裏で、覚醒に近い感覚を得ていた。 はっと目を開く。大和からの砲撃をモロに喰らって気絶してから何秒が経ったのか。気づけば自分は頭からまっ逆様に落下中だった。 大量の機竜がまるで竜巻の収束点を目指すかのように森の一画へと集まって行くのが見える。 「……」 思考することコンマ2秒。 アラストールは光の翼を大きく広げると地上スレスレで抵抗。いくつかの草木を引っこ抜かんばかりの反動を残して再上昇した。ヘッドセット通信機をコール状態に。 「こちらアラストール。各隊聞こえますか。機竜が集まっています。近くの者は援護を――」 「言われなくてももうやってるわ」 日傘を差したまま優雅に跳ぶ宵咲 氷璃(BNE002401) 。 アラストールとすれ違いざまに葬操曲・黒を展開、発射。 「痛たたた……死ぬかと思ったー。あ、でも、下手したらコレで死ぬかも?」 大木のてっぺんからひょこっと頭を出したウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が同じように葬操曲・黒を発射。 竜巻のように集まっていた機竜たちの事である。忽ち機能停止、激突、混乱を起こして激しく飛び散った。 そんな機竜の渦の中から、まるで花弁を脱ぐ雌蕊のように飛び出してくるユーヌときなこ。 「く、空中戦って……き、きついんですね」 「何故嬉しそうなんだ?」 その後を追うように上昇してくるウラジミール。彼と背を合わせるようにしてアラストールがくっついた。 「争奪戦か。今どういう所です?」 「なんとも言えないが、引きつけたもの勝ちなのは確かだ」 「なるほど。シンプルだ」 機銃攻撃する暇すら惜しいのか直接喰いかかってくる機竜の群れ。 彼等がぎゅっと身を寄せ合って防御しようとした、まさにその時。 「退いて退いてーっ、危ないからーっ!」 ユウ・バスタード(BNE003137) がライフルを乱射しながら上空から落下。 数体の機竜を巻き込んでごてごてと落ちて行った。 一斉に停止して下を見る機竜とウラジミール達。 ユウは木の枝に引っかかってスカーフを振っていた。 「誰か手が空いてたら助けてくださーい」 「…………」 「…………」 「では、気を取り直して」 ちゃっと構えなおすきなこ。 壮絶な空中戦が、再び勃発しようとしていた。 ●ナコトとディープマン ディープマンの頭がかち割れる。 割れた傍から燃え上がり、どさりとその場に転がる。 自動回復を初めはするが、トドメを刺している暇はない。 「邪魔すんなよ、このっ!」 ディープマンを何匹か倒しつつ祠の方向へ突っ走る夏栖斗。一応地図で確認しただけあって間違ってはいないようだ。 邪魔してくる筈の機竜や『巡り目』、そして裏野部兵隊の姿も少ない。どこかで仲間が抑えてくれているのだろう。 だがそれも永遠に続くわけではない。 逸早く祠へとたどり着かねば。 頭上を見上げる夏栖斗。 「ニンジャ、そっちどうだ!」 「心配無用」 木の枝と枝を軽やかに飛び移りながら移動する幸成。 頭上から機竜急接近。群れから外れた個体だろう。幸成は空中でムーンサルト反転すると大きく開いた機竜の顎目がけて強烈な蹴りを叩き込んだ。影が変幻し墨汁で後を引いたような姿に変わる。 ついでに鍵爪状に変化させて近くの樹枝にひっかけて移動を続ける。 こんな調子で、異常な跳躍を見せるディープマンやはぐれ機竜をいなしながら幸成は祠へ着々と進んでいた。 そこは問題ない。 だが一番の問題は真後ろにあった。 「マスタープラトンを返しなさい、ファッキンリベリスタども!」 ナコトがゲヘナの火を乱射しながら追いかけてくるのだ。 他の敵にかかずらっている間に追いつかれた。 「足止めするんじゃなかったの?」 「いやー、ほんとゴメン。ディープマンってマジ数多くてさ」 夏栖斗の横を走りながら頭を掻く竜一。 「今度電話番号聞いといてあげるから許して」 「馬鹿メルアドにしろ……じゃなくて今こそ足止めする時じゃん、行って来てよ」 「えー、一人でー?」 「どうしてもと言うなら助けるのもやぶさかではありませんが」 「えっ、本当……お?」 ふと横を見る夏栖斗と竜一。 スクーターの後部荷台に足を揃えて座るモニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150) と目が合った。 工事用ヘルメットをかぶった朱鷺島・雷音(BNE000003) が運転していた。 ヘルメットの下から血が滴っている所も、かなり無理矢理スクーター(恐らく盗品)を転がしている所も、外見的には中学生かそこらの二人が堂々と運転している所も全てがシュールだった。 「元気か、愚兄」 「そっちは元気じゃなさそうね……」 「足止めなら任せて貰おうか。頭数なら何とか揃えられる」 「半数は重傷で伸びてますけどね」 「死んじゃうよ!?」 「ご安心ください。ここに取り出したる羽柴ミサイル」 何処からか付喪(羽柴) 壱也(BNE002639) を取り出した。本当に何処からか取り出した。 「うう、頭ガンガンする……」 「羽柴そのものだ!?」 「100%天然の羽柴から作られている国産の羽柴ミサイルですが?」 「俺モニカが何言ってるか分からない……けどいいや、任せた!」 「任せんの!?」 といいつつブレーキ反転をかける竜一。 刀を抜いてナコトに向き直った。 同じくスクーターを停止させるらいおん。 「さて、今日の仕事は兄の尻拭いか……」 ストンと地に足を付ける雷音。懐から取り出した護符で陰陽・氷雨を発動させた。 同時にハニーコムガトリングを乱射し始めるモニカ。 飛んでいく羽柴。 ディープマンの一人に激突して、後続のディープマンたちもろとも団子状になって転倒した。 「は、羽柴アアアアアアアアア! 本当に投げるやつがあるか!」 「まだありますよ」 鞄から(鞄から!)歪 ぐるぐ(BNE000001) を取り出すモニカ。 「ぐるぐバズーカ」 背中から(背中から!)紅涙・りりす(BNE001018) を取り出すモニカ。 「りりすキャノン」 四次元なんちゃらである。 ぽむんと肩を叩く葛木 猛(BNE002455) 。 「いいから。俺たちが何とかするからお前ちょっと自重しててくれ」 「はあ、そうですか。重傷して出番のない皆さんを配慮したつもりだったんですが」 「うん、ボクはむしろ羨ましいなー。ミサイルとかになってみたいかもー」 「言ってる場合か」 ハルバートを担いだ小崎・岬(BNE002119) と結城・宗一(BNE002873)がずずいと現れる。 ナコトは続々増える増援にもひるむことなく突撃。 大きく開いた本からゲヘナの火を乱射し続ける。 「そこをどけリベリスタ!」 「嫌だね。もっと仲良くしようよメガネちゃん!」 一直線に突っ込んで行く竜一。彼の斬撃がナコトの本に止められる。 が、直後に叩き込まれた岬と宗一のメガクラッシュに吹き飛ばされ、樹幹に激しく背中をぶつけた。 「ガッ!」 反撃……しようと翳した本が手から落ちる。 胸に深々と竜一の剣が突き刺さっていたからだ。 「ねえ、ナコトたん。君はアレを使って何したかったんだ?」 「……ハッ」 壮絶に笑って、ナコトは眼鏡を自らの顔からむしり取った。 「教えてやらない」 次の瞬間、ナコトの首はスイカのように弾けて飛んだ。 ――同刻。 「これでラストォ!」 夏栖斗は祠の前に立ちふさがったディープマンと機竜を纏めて薙ぎ払った。 そうして空いた一瞬の穴。 幸成は全力投球でマスタープラトンを叩き込む。 木製の扉を割り祠に転がり込むマスタープラトン。 強烈なパンチを祠へと叩き込む幸成。 ばきん、という激しい音と共にマスタープラトンは砕け、青い光の柱となって天に走る。 「やった――!」 それがこの戦いが終わる合図なのだと……天空で崩壊を始める巨大機竜戦艦の姿を見て、彼らは思った。 ●真相解明 とても長い話になると思う。 それでも、どうか根気強く聞いてほしい。 ある街の少女が絶望し、ある人魚の女が涙し、空を戦争が覆い、血と狂騒が氾濫し、そしてどうしようもない者どもが溢れたこの一見バラバラな事件が、今一つの場所に集おうとしていた。 だから、ほんの少しだけ、その椅子に腰かけていてくれないだろうか。 アンナ・クロストン(BNE001816) がニニギア・ドオレ(BNE001291) の手を借りてゆっくりと杵築神社へ降り立った頃には、既に全てのリベリスタ達が神社の大広間に集まっていた。 「超巨大機竜戦艦『大和』はマスタープラトン破壊に連動して消滅。紐づけされていたとみられる機竜も全て消滅を確認しました」 ぱらりと手帳を捲るきなこ。 『そうですね?』と話を振られたニニギアがゆっくりと頷いた。 「味方してくれた赤い機竜さんたちも全部壊れちゃったみたいだけど……」 「それは、今はいいとしましょうか」 「良くないだろう」 大広間の端であぐらをかいていた男がぼそりと呟いた。 振り返ってみるウラジミール。 男と目が合って双方ビクリと肩を震わせた。 なぜなら男が第二次世界大戦中のアメリカ軍服を着ていたからである。 一瞬反射的に銃殺しそうになったが、懐に銃が無かったせいでそれは免れた。 「こちらは……ど、誰だ?」 丁寧語を使うべきか迷って最終的に高圧的な方に傾くウラジミール。 アンナとニニギアが『どうしよう?』と言う風に顔を見合わせた。 なんとなく分かっているのだ。 軍服の男は手に持っていたわらびもち(コンビニ市販品)をゆるやかに突き出しつつ、フランクと慇懃さの間辺りの態度で語り始めた。 それまで置物のように座っていたので気配が分からなかったが、彼の左右には屈強な白人男性と黒人男性がいた。むっつりと黙ったまま周囲を見回している。 「合衆国竜軍第三部隊、有志三名。仮チーム名は『エンジェルガード』だ。この世界では『リベリスタ』と呼ばれる存在に転化した。仲良くして欲しい……ワラビモチは?」 「いや、いらない」 「そうか……」 どことなく寂しそうに俯くと、アンナの方を見てやけに親しげに頷いた。 反応に困って天井を見るアンナ。 「私の名前はチャールズ・スウィーニー。右の黒くてふてぶてしいのがボブで、白くて大仰なのがカニンガムだ。詳しい説明はまた後で行おう。だが期待はしないでくれ。我々は戦士であって技術屋ではない。機竜の操作方法なら応えられるが、技術は無理だ」 「あ、えーっと、あの……?」 額を赤くしたチャイカがひとしきりワタワタした後、小さな正十二面体を取り出した。ずっと前、帝国製小型機竜を撃墜した時に回収したものだ。既に黒ずみ、ひび割れた石と化している。 「これのこととかですか?」 「そうだ。我々にはさっぱりだ。機材も全て壊れてしまったからな」 「それより……だ」 座布団の上にどっかりと座ったフツが小さく手を翳した。 「オレ達は色々な方法で情報を掴んできた筈だ。今ここで擦り合わせるべきじゃないのか?」 「賛成です。今回の発端について、詳しく話してくれる人がいると……思うのですが」 紫月が控えめに風斗の方を見た。 連鎖的に隣を見る風斗。 そこには『両足』を揃えて座る斑目洞子の姿があった。 もう、人魚ではない。 「分かりました……お話します。私の知ることでよければ」 洞子は伏し目がちに呟くと、ゆっくりと語り始めた。 「異世界からの召喚技術について書かれた本がありました……『ナコト-CCC』。皆さんが倒したナコトという……」 「ああ、ナコトたん……」 「たんってお前……」 ぼーっと天井を見上げる竜一と夏栖斗。 「あの子の持ってた本に、そんな技術書かれてたか?」 「いいえ、あの少女自体が本です」 「「…………………………ほう」」 長い沈黙の後、ユーヌとリンシードが同時に囁いた。 「情報を転写記録した人間と言いましょうか……細かい説明は省きますが、彼女を使って別チャンネルから力のある物体を召喚しようと試みました。その結果こちらに流れてきたのが『マスタープラトン』です」 「……」 ある事実に気づいて沈黙する幸成。 だが同じように気づいた者も何人かおり、その中でも容赦のなかったのが糾華であった。 「今『使って』と言ったわね」 「……」 「あなたが使ったのね」 「……はい」 風斗がびくりと肩を震わせた。 彼女がとろうとしていた責任とは。 氷璃がちらりと横目で見た後、もう私には関係ない事よとばかりに紅茶に口をつけた。 トン、と盆に湯呑を置く音が静寂を割った。 チャールズである。 「話を続けよう。当局が掴んでいた情報を開示する。私の世界における最大戦力『大和』のコアが消失するという事件が数年前に起こった。当時原因は不明だったが、最近になってこの世界に流れ込んだと言うことが判明した」 「はァ……んで、そのなんとか軍は自分トコの最強兵器が横取りされると思ってこっちに攻め込んできたと?」 だらんと壁に寄り掛かった甚之助が、ギプスをした腕を邪魔そうに揺らした。 「アッ、じゃああの時すごくスキャンされてたのって、私達が機竜の技術をパクってるかどうか確かめるためだったんですね!?」 あわあわした様子でチャイカが両手を振った。どこか伸ばしちゃいけない筋を伸ばしたらしくうぎゃっと言って硬直する。 「それは分からないが……我々は帝国軍を追ってこちらに移動してきた。アレを取り戻されれば再び帝国軍が猛威を振るうのは明白だったからな。途中で別の軍に遭遇して交戦状態になってしまったが……」 「できればこっちに来る前に折り合いつけておいて欲しかったわね」 ぼうっと呟くアンナ。 「すまないと思っている。まさかこの世界では人間が飛ぶのが普通だとは思わなかったのだ。正式に謝罪したい」 「いや、普通ではないが」 そっと訂正しておく雷慈慟。 胡乱な目でチャールズを見やるウェスティアとユウ。 「って言うか……帰る家あるの?」 「無いが?」 「サラッと凄い事言いましたね」 「君達の組織……アークか。そこに協力する形でどうにか宿を得るつもりだ」 「前向きかつ建設的です。ぜひそうしましょう」 コトがややこしくならないうちに纏めてしまおうと、アラストールがとても穏やかな顔で頷いた。 ただでさえ『帝国軍が猛威を』とか『最大戦力が』とか嫌なワードが出ているのだ。これ以上関わると話が必要以上に長くなる。 「その『大和』のコアがこの世界に流れ着いて定着。アーティファクト化してしまったのが『マスタープラトン』というわけね」 「……それに目を付けたのが『特別超人格覚醒者開発室』でした」 割り込むように、被さるように、アルバートの言葉が転がった。 目を大きく見開く夏栖斗と涼子。 アルバートは手袋をした手でそっと目元を覆うと、懐から『315番』の仮面を取り出した。 「この仮面が、全て語ってくれました」 アルバートはチェイス中の僅かな時に『315番』からあることを頼まれていた。 自分を殺したうえで、仮面を回収。サイレントメモリーで中身を読み取って欲しいというものだ。 その場の仲間に協力を得つつ、彼は仮面の中身を開いていった。 『315番』は施設に送り返される際、意識の続く限り情報を摂取、蓄積していたのだ。それらを様々な方法で仮面に刷り込んだ。最終的に彼女は自意識を奪われ操り人形と化したが……。 「私との再会を暗示発動のキーにしていたのでしょう。彼女は自分の身体を使って、私達に全てを伝えてくれました」 「…………」 腕組みしたまま黙って話を聞く禅次郎と剛毅。 深く俯いた遥紀の背を、綾兎が軽く撫でた。 「じゃあ……」 顔を上げる依子。 慎也もまた、視線でその先を促した。 頷くアルバート。 「要約いたしましょう。マスタープラトンのもつ、人間をEエレメントに変換する能力とは、人間を構成すると言われる三つの要素『体・魂・霊』を裏返しに反転させることで引き起こるものでした。黄泉ヶ辻はこれと同じことをマスタープラトンを使わずに再現する計画、『特別超人格覚醒者開発計画』を立ち上げました。人間三要素の裏返しを禅道に当て嵌め、霊ありきの人間を人工的に育成、現在の『巡り目』へと行きました。それと……夏栖斗さん、雷音さん」 黙って顔を上げる雷音。 夏栖斗は顔をそむけたまま目だけを動かした。 「彼女から伝言です。『フィクサードの死は今果たされた』と。意味は、分かりますか?」 「…………うん」 僅かに頷く夏栖斗。 「では、少し話を戻しましょうか。郷さん、ヘビーアームズ団についての情報は聞いているでしょう?」 「携帯番号のこと?」 「えっ?」 「えっ?」 全身包帯塗れの郷がびくっとして振り返った。 互いに探り合うような視線が交わされる。 黙って郷にトドメを刺すリンシード。 「聞いてますよ。ヴェイルさん?」 「え、あ、ああ……」 それまでぼうっとしていたヴェイルが端末を操作してテキストを呼び出した。 「別れ際……と言うか、あの後通話で鎖さんから大体の話は聞いたの。そこまで大きい話だとは思ってなかったけど……かいつまんで話すわね」 慌てて郷を蘇生させようと電流を流すリセリアやセラフィーナたちを背に、説明を始めるヴェイル。 「『人魚』はそもそも、マスタープラトンが機竜で言う所の本体として選択した……何て言うのかしら。宿主みたいなものみたい。ヘビーアームズ団が追ってた仮称『人魚の泪』も、マスタープラトンから寿命を永久受給するための権利だったのね。つまり、人魚が使う分には寿命じゃなくマスタープラトン自体のエネルギーを消費するだけで済むのよ」 「誰かの寿命を食べてエネルギーを補給しますから、結局誰かの犠牲が必要なのは一緒らしいですけどね」 そっと付け加えるアリス。五月と羽音がちらりと洞子の顔色を窺った。 アーリィはと言うと、その顔を見ずにじっと話を聞いている。 「ヘビーアームズ団はその力があればやりたい放題だワーイって言って、人魚をリンチというかミンチにして乾杯したんだけど……血を飲んだだけで終わらせちゃったからちゃんと権利が移らなかったの。しかもすごくアンチエイジングされるわ幼女になるわでそうとう怒り狂ったらしいわ。鎖さんはそもそもマスタープラトンを使った世界征服には否定的だったからこの時点で離別してたんだけど、その間に色々コトが大きくなってたみたいね」 「……そっか」 しみじみと呟く郷。 そこへ。 「あーのー、今この空気にアタシら入っちゃってもいいワケ?」 電柱を抱えた恋宮寺 ゐろは(BNE003809) が大広間の外から(電柱で)ノックした。 この後、『私の不幸を皆味わえ! カオスになれ!』と言って荒ぶるマーガレット・カミラ・ウェルズ(BNE002553) とメイ・リィ・ルゥ(BNE003539) から魔剣お線香と魔剣スギ花粉を取り上げ、『だったら筋肉祭りでいいじゃない』と謎の主張を始めた山川 夏海(BNE002852) とティオ・ココナ(BNE002829) から魔剣マッスルと魔剣チワワを没収。『空腹と食べ過ぎが一緒になって死ぬ』と供述するイセリア・イシュター(BNE002683) と蓬莱 惟(BNE003468) からも魔剣コンビーフと魔剣から揚げ串を引っこ抜き、最終的にプリンを貪り食うラシャ・セシリア・アーノルド(BNE000576) と無駄に劇画調な災原・悪紋(BNE003481) だけが残った。ゐろはは面倒だから帰ると言いだして全員に押さえつけられた。空気を読めと怒った。色んな意味で。 まあ予告通り場はカオスに押し流されそうになったのだが、極めつけにさらっと『ホワイトマン』が普通に玄関口からお邪魔して来てお茶を飲み始め、場は混乱の極みに陥った。 「おいおい、俺が生きてるくらいで一々驚くなよ」 「黙れぃ、『俺を倒しても第二第三の俺が』とか言っていきなり出るな!」 「ねえプッチンおかわりしていい?」 「勝手に食え!」 「話、初めていいか?」 ちゃっかりプリンとわらびもちを貰いつつ話し始める『ホワイトマン』。 「そろそろ察してる頃だと思うが、俺は完全に機械化しちまった俺本体から人格と記憶だけコピーした生き物だ。『巡り目』の開発に関わってた時、なーんか嫌になって研究資料の人工コアごと持ち逃げしたのな」 「…………」 あまりにサラッと言うものだからポカーンとする岬と猛。 モニカとリリスは最初っからボーっとしていたので変化はないが、大体同じような反応である。 「で、独自に機竜みたいになれるんじゃねえかと自分の身体で色々試してたらうっかり身体が全部機械になっちまって……」 「フルメタルフレーム……あっ!」 ぐるぐが何か思い至ったような顔をした。 咄嗟に起き上がったもんだから宗一が布団に押し返す。 お腹を踏まれてうげっと喚く壱也。 「こう、人の形も失くしちまって、デカすぎるパソコンボックスみたいになったのな。でも俺の身体についてるネジがいい感じにアーティファクト化してくれて、その辺のから揚げとかにねじ込んだら魔剣になったから、遊んでた」 「遊んでた!?」 「お前だって遊ぶだろ、そんなネジあったら」 「…………あー」 否定しずらい宗一。 「長介が模造して六道の間で流通させちまったのは誤算だったけどな。どうも『あらゆるシガラミを捨てて戦うだけの生き物になりたい』っていう斬鉄達の願いを叶えてやりたかったんだそうだ。あ、ネジはもう使い切って無くなっちまったから。もう魔剣は出せねえぞ」 「うむ、と言うかもう出すな」 無表情で呟く惟。 「俺が知ってる情報つったらこのくらいかな。まあその……今までの迷惑料だ。前に全部話してやるって約束してたしな。な、ウラ爺」 「ウラ爺だと……?」 「言いましたっけ? まあ、離してくれるのは助かりましたけど」 コクンとリセリアが頷いた……そのタイミングを見計らったかのように『ホワイトマン』は立ち上がった。 「じゃ、このまま連行とかされたら嫌だから自爆するわ」 「うわーやっぱりするんだー!」 宗一に押さえつけられていたぐるぐが叫びながら起き上がった。 が、遅かった。 神社の屋根からドクロ型の雲が上がった。 ぐるぐると目を回すリベリスタ達。 その中で、さりげにプリンバリアを張っていたラシャと他数人だけがケロッとしていた。 「楠神風斗さん」 「……ああ」 洞子と風斗は向かい合って立っていた。 パチン、と風斗の頬を叩く洞子。 「私はあなたが嫌いです」 「……」 「自分勝手に私を助けて、早いうちに殺しておけば別の解決法があったかもしれないのに」 「……」 「でも、ありがとう」 風斗が何かを言う前に、洞子はくるりと背を向けた。 「港町に帰ります。あの人が、待っていると思うので……」 「……そう、だな」 ぽん、と風斗の肩に夏栖斗の手が置かれた。 振り返ると、イイ顔でサムズアップしていた。 殴り倒しておいた。 ●エンドロール ――ある一つの力を巡る、長い長い戦いが幕を閉じた。 超巨大機竜艦『大和』 アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024) ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360) ニニギア・ドオレ(BNE001291) アンナ・クロストン(BNE001816) 酒呑 雷慈慟(BNE002371) 宵咲 氷璃(BNE002401) ユウ・バスタード(BNE003137) 華娑原 甚之助(BNE003734) ――沢山の命が失われ、沢山の涙が落ち、そして戦乱は広がった。 巡り巡る声、音なき歌、何もない私達の未来。 依子・アルジフ・ルッチェラント(BNE000816) 神薙・綾兎(BNE000964) 逆瀬川・慎也(BNE001618) アルバート・ディーツェル(BNE003460) 曳馬野・涼子(BNE003471) 鋼・剛毅(BNE003594) チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669) 宇賀神・遥紀(BNE003750) ――しかしそれも過去のこと……。 暴走、ソード・オブ・ニート!(ここだけギャグ空間) ラシャ・セシリア・アーノルド(BNE000576) マーガレット・カミラ・ウェルズ(BNE002553) イセリア・イシュター(BNE002683) ティオ・ココナ(BNE002829) 山川 夏海(BNE002852) 蓬莱 惟(BNE003468) 災原・悪紋(BNE003481) メイ・リィ・ルゥ(BNE003539) 恋宮寺 ゐろは(BNE003809) ――この地に生きる沢山の人々の命は救われた。 斬鉄剣客組、最終抜刀大活劇! 歪 ぐるぐ(BNE000001) 朱鷺島・雷音(BNE000003) 紅涙・りりす(BNE001018) モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150) 小崎・岬(BNE002119) 葛木 猛(BNE002455) 付喪(羽柴) 壱也(BNE002639) 結城・宗一(BNE002873) ――戦乱の世も訪れなかった。 ヘビーアムズ団海上逆激作戦 アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128) 彩歌・D・ヴェイル(BNE000877) 蘭・羽音(BNE001477) 安西 郷(BNE002360) リセリア・フォルン(BNE002511) 三島・五月(BNE002662) リンシード・フラックス(BNE002684) アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082) セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738) ――再び、束の間の平和が訪れたのだ。 マスタープラトン争奪戦 御厨・夏栖斗(BNE000004) 結城 ハマリエル 竜一(BNE000210) 斬風 糾華(BNE000390) ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680) 焦燥院 フツ(BNE001054) ユーヌ・プロメース(BNE001086) 楠神 風斗(BNE001434) 大石・きなこ(BNE001812) 黒部 幸成(BNE002032) 風宮 紫月(BNE003411) 以上、リベリスタ52名。 ――彼らの、手によって。 千葉県、松戸研究所。髭生え放題の男の手元には、分厚い綴り資料が置かれていた。そこにはこう書いている。 『ホワイトマン研究報告』 ――未来につづく。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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