●『万華鏡』 特務機関アーク。 世界に冠たる財閥・時村家の肝煎りにより開設された、日本各地で起こる特異事件を解決するためのリベリスタ組織である。 その本部の一室、ブリーフィングルームの壁一面に据えつけられたモニターの前に、人形と見紛うほどに白い肌を持つ小柄な少女が立っていた。 少女の名は、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。フォーチュナ、と呼ばれる未来予知者である。 だが、彼女はただの予知者ではない。アークが誇るスーパーコンピュータの集積体『万華鏡』のオペレーターとして、異能の存在であるエリューション、その力を駆使する人間・フィクサード、そして異界からの来訪者・アザーバイドが引き起こす事件を感知する役目を担っており、その精度は驚嘆すべきものなのだ。 「突然だけれど、みんなには岡山に行って欲しいの」 そう切り出したイヴ。鬼ノ城が在った辺り、という補足に、ああ、と何人かのリベリスタが頷く。 「そこに、先の戦いで討ち漏らしたエリューションが確認されたから」 岡山に復活した古代のアザーバイド『鬼』。『鬼ノ城』に篭った鬼王・温羅の率いる強力な軍団と死闘を繰り広げ、決戦の末に打ち破ってから、まだ二ヶ月も経ってはいなかった。 「ちょっと待ってくれ」 口を挟んだのは、壁に寄りかかり、鋭い視線をイヴに投げる『月下銀狼』夜月 霧也(nBNE000007)だ。 「アザーバイド――鬼ではなくて、エリューションなのか?」 「うん、エリューションだよ。発見されたのは、鬼そのものじゃなくて、悪樓が呼び出したアンデッドだから」 悪樓とは、鬼との決戦の最終段階、鬼ノ城の最深部に攻め込んだリベリスタ達の背後を襲った老鬼である。 全てを腐らせる能力を持つ悪樓が率いたのは、大地を埋め尽くすアンデッドの数々。腐らされた一般人が、地の底から呼び出された古武士の亡霊が、同胞たる鬼の死体までもが、瘴気を撒き散らしながらリベリスタ達を襲ったのだ。 リベリスタの半数を投入し、苦戦しながらも悪樓を討ち取ったものの、無数とも思えたアンデッドの全てを掃討出来たとは言い難かった。 「場所は総社市、鬼ノ城から少し南の森。アンデッドは一体、二体で森の中に点在しているけれど、そんなに強くないから、苦労はしないと思う。注意しないといけないのは、群れを作っている二つの集団かな」 イヴが『視た』ところによると、どうやら森のどこかと最深部の社の二箇所に、十体近い数のアンデッドの群れが居るらしい。特に、社の方には、やや強めの亡霊武者の姿も見えるという。 「そうは言っても、所詮量産型のアンデッドだから、力を合わせて戦えば勝てるはずだよ」 「……森の中に居る連中の正確な位置は、判らないんだな」 霧也の問いに、でもそこまで広い森じゃないから大丈夫と思う、と答えたイヴは、そうそう、と机の上に置かれたコピー本を手にとって。 「そういえば、もしかしたらこの中にも、初陣の人がいるかもしれないね。アーク加入者への手引きがあるから、読んでおくといいと思うよ」 手渡された冊子の表紙には、『ようこそアーク江』と大書されていた。 ↓↓↓ これ以下は、興味のある方以外は読み飛ばして構いません。 ↓↓↓ ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ ●小冊子『ようこそアーク江』 新人リベリスタの皆さん、アークの活動には慣れてきましたか? この冊子は、まだどうやって戦えばいいか判らない、そんな方の為に、一つのやり方を纏めたものです。 もちろん、スタイルの良し悪しは個人によって違いますから、自分のスタイルをお持ちの方は、この冊子の内容にこだわる必要はありません。 ですが、もし「相談って何をすればいいの?」「プレイングが不安」という方がいらっしゃいましたら、ゲームマニュアルと合わせて参考にしてください。 ※なお、この内容は、BNEとしての公式見解ではなく、STの弓月可染個人の考えを纏めたものですので、あらかじめご了承ください。 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 1.オープニングについて ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ オープニングは、『物語の導入』として、そのシナリオ(依頼)の基本的な情報と背景を押し知らせする部分です。 どんな事件が起こっていて、皆さんに何をして欲しいのか? 登場人物はどんなことを考えているのか? そういった情報を読み取り、想像して、自分の行動(プレイング)に落とし込んでいきましょう。 =========================== ▼自分の方向性に合った依頼に参加しよう =========================== オープニングを読んで、最初にチェックしたいのは、『自分の方向性に合っているか』です。 例えば、シリアスな雰囲気を崩したくないキャラクターさんが、コミカルなお笑い依頼に参加したとします。ネタ上等で仲間が盛り上がる中で、一人切ない雰囲気のプレイングを書くのは中々難しいですよね。 まずは、「このシナリオならプレイングが書けそうだ!」「この依頼に参加してみたい!」というオープニングを探すと良いでしょう。 ※少し慣れてきたら、逆に、違うジャンルの依頼に参加してみるのもお勧めです。 きっと、STがあなたの魅力を引き出して、ぴったりの描写をしてくれます。もしかしたら、自分でも気づいていなかった、あなたの新しい面を見つけられるかもしれませんよ。 =========================== ▼高難易度の場合は、隠された情報に注意 =========================== 高難易度の依頼の場合は、語られていない情報、隠されている情報、もしかしたら嘘の情報までがあるかもしれません。その場合は、推論を重ねて対応を考える必要があります。 ですが、比較的易しい(Easy~Normal)依頼であれば、オープニングと後述のSTコメントの情報で、成功のためのキーは出揃っている場合が殆どです。 何度か読み返して、物語を楽しむと同時に、必要な情報をキャッチするようにしてくださいね。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 2.STコメントについて ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ STコメントは、『キャラクターは知らないことになっているけどプレイヤーは知っていていいし、それを前提にしたプレイングをかけていい』情報です。(キャラクターが知っている情報も含みます) 例えば、オープニングでは描写されなかったけれども、このシナリオではあと二回の戦闘が発生する、という場合は、プレイングはあと二回分の戦闘について詳しく書きますが、キャラクターは知らないので、リプレイで『あと何回戦えばいいんだ、きりがないぞ』と言ったりします。 STコメント欄は、キャラクターが知っているはずのない情報も出せるため、かなり重要なヒントであることが多いです。頼りにしていきましょう。 =========================== ▼敵の能力や特殊ルールを読み取ろう =========================== コメント欄で特に多いのがこの部分です。 オープニングでは語りきれていない、敵の詳細な能力や攻撃方法、性格、戦場の状況などが挙げられます。 例えば、オープニングでは『敵はデュランダルが三人』とだけ書いてあっても、STコメントには『一人は強くてバトラーズアバランチを使用、他の二人はメガクラッシュを使用』と書いてあれば、それを前提にプレイングをかけて良いのです。 難易度によって、細かく書いてない場合もありますが、その場合は、オープニングなどから推測してみてください。 =========================== ▼成功条件を忘れずに =========================== シナリオによっては、敵を倒す以外の特別な成功条件が設定されている場合があります。 例えば、『一般人を無事に保護する』『敵を倒せなくても、三分間耐え切れれば良い』などです。 これら特殊成功条件は、真正面から戦うだけでは達成出来ない場合もありますので、よく確認しましょう。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 3.相談について ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ シナリオ出発日時までは、この相談ルームで参加者同士の相談が出来ます。 もちろん、相談は義務ではありません。そう頻繁に見ることが出来ない方もいらっしゃるでしょうし、急用が発生することもあります。 ですが、もしも余裕があるなら、相談に参加することで、シナリオの成功率を上げるだけではなく、よりシナリオを楽しむ事が出来るでしょう。 =========================== ▼最初に何を言えば良いの? =========================== 決まりがあるわけではありませんが、自己紹介として、自分の名前と種族・ジョブを言うことが多いです。他にも、シナリオで役立つスキルなどがあれば、表明してしまいましょう。 これは、いちいちステータスを覗いて回らなくても、『誰がどんな能力を持っているか』を判りやすくするためです。 例)夜月霧也。ヴァンパイアのデュランダルだ。初級のデュランダルスキルを使うことが出来る。……よろしく頼む。 =========================== ▼相談ってどうすれば良いの? =========================== 最初は、気がついたことをどんどん言っていくだけでもOKです。 そのうちに、これはこうしたほうがいいんじゃないか、というように作戦がまとまってきます。それをもとに、後述のプレイングを組み立てていきましょう。 もちろん、慣れてきたら積極的にまとめ役になってみるのもいいですね。 =========================== ▼何を言っていいか判らないよ =========================== もし、何を発言していいか困ってしまったら、今出ている意見に『賛成』『反対』だけでも意思表示してみましょう。 もし理由も言えたらベターですが、特に賛成であれば、一言でも構いません。反対の場合は、簡単な理由があるといいですね。 =========================== ▼キャラクターとして発言? プレイヤーとして発言? =========================== どちらでも構いません。 キャラクターのロールプレイ(演技)を楽しむ人が多いようですが、相談しにくい口調などの場合は、キャラクターと相談の口調が違っても全く問題ありません。 ただ、相談はリプレイ描写の口調の参考になるということもあるので、可能ならロールプレイにチャレンジしてみましょう。きっと楽しいですよ。 =========================== ▼やっちゃいけないことって? =========================== 基本的に『やってはいけないこと』はありません。どうぞ、自由に、そして気楽に相談を楽しんでください。 ただ、現実世界と同じで、『相手の意見を無視したり、頭ごなしに否定』『ロールプレイ(演技)を超えた喧嘩腰の態度』『あまりにも大量の(例えば十連続とか)発言』は、避けた方が無難です。 お互いを思いやり、楽しい時間を過ごしましょう。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 4.プレイングについて ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ プレイングとは、(1)自分の行動 (2)自分の心情やリプレイに入れてほしい台詞を規定の文字数で表現するものです。 (1)は、『シナリオを成功させる為に必要な行動』です。当然ながら、この部分が弱いと、望み通りの結果にならなかったり、最悪の場合は失敗判定が下されます。 しかし、(1)に偏りすぎると、『あなたがどんな人か』ということが伝わりにくくなります。逆に言えば、この部分は『ポイントが必要最低限押さえられていればいい』のです。 (2)は、あなたがこのシナリオでどういうことを思ったのか? どんな台詞を喋るのか? そういう、『あなたらしさ』を表現する部分です。 プレイングはどうしても字数が足りなくなるものです。そんな時、往々にしてこちらの部分が削られがちですが、先述の通り『依頼の成功の為には、ポイントが必要最低限押さえられていればいい』のですから、出来る限り(2)の部分を確保するようにしましょう。 シナリオによって違いますが、慣れていないうちは(2)が150~200字くらいを目処にすると良いのではないでしょうか。 プレイングを書く際には、ゲームマニュアルの『戦闘について』もさらっと確認しておきましょう。 =========================== ▼お勧めのプレイングの書き方は? =========================== お勧めといったものはありません(それこそ人によって千差万別です)が、オーソドックスなスタイルとしては、次のような構成があります。 (※こう書いてくださいというわけではなく、ただの一例です) 1>依頼に関する意気込み 2>探索・雑魚戦など前半戦の行動・台詞 3>ボス戦などここぞという局面での行動・台詞 4>依頼を達成して一言 =========================== ▼プレイングのコツは? =========================== *行動も心情も具体的に書く 例えば、『敵に攻撃する』より、『前に出てきた敵を、ギガクラッシュで迎え撃つ』の方が適切な行動を取れそうですよね。 前衛、という一言でも意味は通じますが、『敵の真っ只中に突っ込んで切り開く』と、『味方の後衛を守る為に盾になる』は同じ前衛でも行動が違いそうです。 また、『目的:エリューションの全滅』と書くよりも(わざわざ書かなくてもみんな同じです)、「エリューションは放置しておけない。必ず仕留めてみせるぜ!」の方が、生き生きしていると思いませんか? *自分の行動を書く 原則として、他人の行動を自分のプレイングに書くことは出来ません。 従って、全員分の作戦や行動を細かく書くことは無意味です。仮に書かれた方のプレイングと差異があった場合は、当然本人のプレイングが優先されてしまいます。 それに字数を使っては本末転倒ですので、まず、自分の行動をしっかりと書くようにしましょう。 (ただし、『~をする時にはタイミングを合わせるように声をかける』という声かけプレイングは、STと場合によりますが有効な場合も多いです) =========================== ▼プレイングで注意すべきことは? =========================== *誰が読んでも理解できるように書く 字数を詰めようとするあまり、過度に省略した略称を使ったり、日本語として読解できる範囲を超えている場合があります。 STがプレイングを誤解してしまったら、そもそも意図した行動を取ることが出来ません。提出する前に、他の人に理解してもらうための文章になっているか、確認しましょう。 *ルールは絶対です 文字通りですが、特に多いのが、『ルール・データの勘違い』と『活性化していないスキルの使用』です。 プレイングに書いたところで、ギガクラッシュは遠距離まで飛びませんし(近寄る必要があります)、活性化していないスキルを使うことも出来ません。 また、少し違いますが、非戦スキルは戦闘の場ではあまり便利には使えません。これも場合によりけりですが、あくまでも『非』戦スキルなので、過剰な期待をしないほうがいいでしょう。 *文字数いっぱい書く 600字(イベントシナリオは300字)を全て埋める義務はありませんが、とはいえ少ないよりは多いほうが良いのも事実です。出来る限り580字以上を目標に頑張ってみましょう。 作戦はばっちりで、何も書くことがなくなったなら……そんな時こそ、みっちり台詞を書くことをお勧めします。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 5.ステータスシートについて ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ステータスシートは名刺のようなものであり、広い意味でプレイングの一部です。 この冊子では、スキルの取り方や能力値については解説しません。それらについては、コーポで先輩に相談するというのも一つの方法です。 =========================== ▼自由設定欄を活用しよう =========================== 自由設定欄は、あなたの生い立ちやアークに所属するきっかけ、好みのスタイルや詳細な容姿、性格や過去の出来事などを記入する欄です。 もし書くことに困ったら、イラストがまだ無い方であれば、この欄で容姿の主張をするのがお勧めです。例えば、髪の色『赤』が、自然な明るい赤毛なのか、それとも染めた鮮やかな赤なのか、はたまた機械の体であるメタルフレームさんならメタリックな赤なのか。そういった情報が、仲間やSTのイメージを膨らませます。 なお、この欄や通信欄にプレイングの補足を書いた場合、全て無視されますので注意してください。『行動とその依頼への心情』に関わるものはあくまでもプレイング欄に。『キャラクターの設定』に関わるものは自由設定欄に、と区別しましょう。 公式コーポには『プロフィール公式チェック』もありますので、設定が大丈夫か不安なら、利用してみてください。 =========================== ▼スキルの活性化・アイテムの装備も忘れずに =========================== プレイングに書いていても、活性化していないスキルは使用できませんのでご注意。 同様に、アイテムは装備していなければ意味がありません。 相談期間は少しだけ短めですので、思ったことはどんどん言っていきましょう。疑問点も、みんなで考えたら解決するかもしれませんよ。 それでは、よいリベリスタライフを! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月可染 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月16日(土)22:54 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●探索/1 陽の射さない、鬱蒼とした森だった。 「嫌ね、じめじめとして」 雨が止んでからそう経っていないのか、腐葉土と泥でぐずぐずと崩れる足下に、『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は溜息を一つ漏らす。 「鎮守の森というなら、もう少し爽やかでもよさそうだけれど」 一般人よりは遥かに高いレベルとはいえ、流石にお嬢様。森に全く適さないドレス姿で道なき道を歩むのは、あまり楽ではないらしい。 だが、そこまで考えて、彼女はこの森が清浄さを失っている理由に気づく。かつてこの地を埋め尽くした腐敗の軍団と、老鬼『悪樓』の齎した瘴気。 「悪樓の残した負の遺産ねぇ……一刻も早く取り除かなくては」 目障りだわ、と小さく吐き捨てる。そんな思考を、底抜けに明るい声が吹き飛ばした。 「おっけー! 上空は任せろー!」 その背には、フライエンジェとしても珍しい藍色の翼。『紺碧』月野木・晴(BNE003873)がばさり、その翼を広げて舞いあがり――枝に引っかかってばさばさと音を立てる。 「い、痛っ、ちょっ、こんにゃろっ!」 盛大に溜息をつくティアリアをよそに、強引に生い茂る枝葉を突破した晴。よっしゃー、と弾む声は、ガッツポーズを決めているに違いないと思わせる快心の叫び。 だが、その声は、ああ……、と大げさに悔しがる声に変わる。 「ごめんなさい無理でしたー!」 「それはそうでしょうね」 これだけ葉が茂っていれば、上空から見下ろすなど適う筈もない。それは、苦労して枝葉を抜ける時点で判断できそうなものだったが――戻ってきた少年の屈託のない笑みを前にして、流石のティアリアも毒気の抜けた様子である。 「しかし、余りにも緊張感がないな」 そう堅い声を漏らした『悼みの雨』斬原 龍雨(BNE003879)は、だが別に晴を咎めたわけではない。 アークのリベリスタならば、いつか誰もが経験する初陣。龍雨にとっては、今日がその日だった。 もちろん、アークに所属する前から、未熟ながらも退魔師として戦ってきた彼女だ。戦いが怖い、なんて新兵のようなことは言いはしない。 だが、しかし。 (まずは、慎重にだ) これまでと違うことがあるというなら、傍らに仲間が居る、ということ。その事実は、自分自身でも驚くほど、過剰なまでに彼女を緊張させていた。 「まだ、力は抜いていて良いわよ」 晴とは対照的な姿を見せる龍雨に、ティアリアはぽん、と肩を叩いてみせる。 「相手がフィクサードなら、こんな大騒ぎはありえないけれど。相手を見て、程よく気を抜いていても良いのよ」 狩るべき相手の知性と能力。 例えば、相手が同じ人間のフィクサードだったら。 例えば、相手が野生の直感に優れた動物だったら。 こうも大騒ぎをすれば、良くて逃げられ、下手をすれば一方的に位置を測られて苦境に立つことになるだろう。 だが、相手はたかが『動く死体』だ。知性も感覚もなく、ただ手近の動く生物に襲い掛かるだけの物体。 もちろん、アンデッドが常にでくの坊であるとは限らない。ただ、この森に潜むアンデッドがその程度のものであることは、イヴの『万華鏡』が告げている。 「……しかし、大戦の後始末程度とはいえ、逃がすわけにはいかないからな」 言いながらも、そんなものか、と龍雨は思う。彼女は気づいていない。決定的に今までと違うこと、それは、ミスが直接死に繋がる一匹狼の戦いと、緊張をほぐしながら互いの資格を補って進むアークの戦い方との差を。 「どうであれ、最善を尽くすとしよう。努めは果たさねば、な」 「うん、そうだよねー。頑張らないと!」 お姉ちゃんに負けないようにね、と一人頷く華奢な少女、羽柴 双葉(BNE003837)。彼女の戦績も、他のルーキーと変わらない程度のものだったが――顔合わせの自己紹介で、ベテラン勢は口を揃えたものだ。『あの』羽柴の妹か、と。 (……うう、慣れてるけど、やっぱり思い出すだけで恥ずかしいよ。そりゃあ、お姉ちゃんが鬼退治で活躍してたのは、報告書で読んだけど) 奉られた『あの』という冠詞は、きっとその活躍にかかっているわけではないのだから。 彼女の姉、人呼んで『ジーニア腐・腐ランダル』は腐女子である。それも筋金入りの。 危険なアザーバイドを止める戦い。その戦場のど真ん中で、リベリスタ達総登場の自作妄想BL小説(R-18)を朗読し続けたことは、もはやアークの伝説として語り継がれているのだ。 「いつも、真面目にやってくれればいいのにな」 そう言いながら、双葉は油断なく周囲に視線を走らせる。草を踏みしめる音、葉を揺らす音。相手が知性のない動く死体だというなら、音を消すなどという知恵もあるまい。 「むむ……どこだろ」 彼女を先頭に、一行は森の奥へと分け入っていく。 ●探索/2 「しっ……、あそこにいます」 腰を低く、茂る草に身を隠し、『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)はそっと様子を伺った。視界には二体のリビングデッド。随分と腐敗が進んでおり、脆そうに見える。 あてもなくふらふらと歩くそれらは、まだリベリスタ達には気づいていないようだ。絶好の位置。目立たないように留意して動いたことも、決して無駄ではない。 「夜月さんと……霧里さん。合図で前に出れますか?」 「ええ、まぁ。大丈夫ですよ」 びこ、と狼の耳が揺れる。彼の確認に『黒い方』霧里 くろは(BNE003668)が頷けば、構わない、と『月下銀狼』夜月 霧也(nBNE000007)も囁いた。 「椎名さんは?」 「え? あ、うん」 一方、椎名 真(BNE003832)は可哀想なほどに緊張を隠せないでいた。眠たげな目、やや幼さを残す面立ちと、すらりとした青年の体つき。だが、しなやかさを感じさせるその身体は、今はぎくしゃくとしか動かない。 (や、やっぱ怖い! しかも、アンデッドだなんて怖すぎる!) 効果範囲ぎりぎりの太さの木の幹越しに透視し、すぐに目を逸らす。 真は実戦の経験がない。訓練ならば十分すぎるほどに積んで来た。仲間を守るための力。その下地は十分にあると言って良い。でなければ、残党退治とはいえ実戦に出しては貰えない。 だけど。 (やっぱり、戦闘は向いていないんだよ、俺……) 恐怖心。実戦経験がないだけに、それは彼の心中で存在感を保っている。 ただ単にアンデッドという非日常の産物が恐ろしいのではない。そんなバケモノと自分が、仲間が、『命のやり取りをする』。それが、何よりも。 (……でも) 銃把を握り締める。刻まれたチェッカリングの凹凸が、掌に食い込んで。生き延びて味方を守る――そのためには、逃げ出すことは出来ないと知っていた。 「……やり遂げてみせる」 「いい返事です」 自動小銃と狙撃銃の差はあれど、同じ銃使いの親近感を星龍は感じていた。だから、揺れ動き続ける真の中にも一本の芯があると確かめて、満足げに頷いた。 「おしゃべりはそこまでだ――行くぞ」 霧也が動く。恐れる様子もなく、アンデッドの一体へと取り付き――一閃。飛び散るのは血液ではなく腐汁。そのおぞましさに、うぇ、と真が表情を歪める。 「流石に躊躇しますね……まあ、悪樓が暴れていた時も現場にいましたし、今更ですか」 続くくろは。狙うはもう一体のアンデッド。回復役の居ないこの班では、集中攻撃よりもダメージの分散を狙う――それは、彼女らが事前に決めていたことだ。 弁柄色の着物の裾を乱し、手の内から細い鋼糸を滑らせる。しゅるり、敵手の上半身に絡み付いて。 「何よりお仕事ですから、ね」 くい、と糸を引けば、腐った肉に食い込んで弾ける。おぞましい臭いが周囲に立ち込め、彼女は思わず顔をしかめた。 「……前言撤回。これは乙女の仕事ではありません」 悪樓戦で散々経験しているのだから本当に今更ではあるが、そこはそれ、気分の問題である。それでも、凛とした佇まいを崩さない辺りが流石というべきか。 違和感は否めない。隣に居るのが騒がしい姉ではない、それは確かに手間がかからなくていいことではあるのだが――どうにも調子が出ないのも、事実なのだ。 「グッド。いい位置取りですよ」 離れた位置からライフルを構える星龍。実のところ、彼にとってこの距離は、ゼロ距離で殴りあうのにも等しい感覚だ。 彼の本職は、一キロ先からでも標的を仕留めるスナイパー。それがここまで接近する唯一最大の理由は、エリューション相手では威力の減衰が激しすぎるということである。 せいぜい二十メートル。一部の強力なスキルでも三十メートルを超えれば、まともなダメージは入らない。それが、フィクサードを含むエリューションや、アザーバイドを相手取る場合の鉄則だ。 「まずは夜月さんの方、いきましょうか」 およそ狙撃銃の撃ち方とは思えない、無造作な照準。照星を一瞥すらせず、銃身の先だけでターゲットを捉え――。 「――Hit」 次の瞬間、死体の頭が柘榴のように爆ぜた。面食らう霧也。意外に脆かったですね、と一人ごちる星龍。 「……! か、勘弁してよ」 その様を見て、真の表情が凍る。この視覚的インパクトの前では、決意も甚だ心もとないのだ。 真の銃は、星龍のライフルよりもやや銃身が短い。その財力や技術力よりも当主とメイドの漫才で有名な大御堂重工が、ちょっと本気を出して改造したというアサルトライフルが、彼の相棒だった。 「う、うう……うわあっ!」 三発バーストが空間を切り裂いて奔る。離れたコインすら射抜くという正確な射撃が、くろはのすぐ横を翳め、かすった髪を舞わせる。 そして、吸い込まれる弾丸。 「当……たった……」 呆然と、吹き飛んだ二体目の胴を眺める真。これが、彼の初めて倒した敵だった。 「頭を吹っ飛ばして汁だらけにしなかったのは、いい判断でした」 くろはが心底ほっとした表情でそう言ってのける。体中染みと臭いだらけにするのは、乙女の嗜みには含まれないらしい。 ●探索/3 「ほらよ、一歩たりともこの後ろには近づけねぇぜ!」 戦場に烈風が巻き起こる。 全てを破砕する暴力の具現。決して軽くはないメイスの頭が、轟と風を捲いて唸りをあげ、アンデッドへと吸い込まれた。続いて、破裂音。 荒ぶる竜巻の中心には、『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)。 「かかってこいよ死人ども!」 望みもしないのに眠りから覚めさせられた――あるいは死者へと堕とされた――犠牲者を悪し様に罵るほど、彼は粗暴ではない。 そして、どこまでこの動く死体が、自分の言葉を理解しているかも判らない。 だが、義弘は躊躇わなかった。 眼前には二体のアンデッド。共に戦うルーキーは、死角からの一撃に特化したアサッシンと、最優先で守るべき回復の要。 「紗智子の姉さん、小太郎の兄さん、無茶はするな! 役割ってものがあるんだ!」 自分が全てを引き受ける。 傲慢と言われてもいい、それが彼の在り方であった。 「助かります。はっきり言えば、その方が戦いやすい」 無口は性分なれども、礼は言っておこうと考えたか。その声はまだ声変わり前、幼さを感じるものだ。 後方で警戒を続けていた『風魔の名を継ぎし者』風間 小太郎(BNE003579)が、いつの間にかアンデッドの後方へと回り込んでいた。 装束を染める深い紺色は、黒よりもなお夜の闇に溶けると中世の忍が好んだもの。手にした鋼の糸は黒く墨塗られ、月の光すら光らせないように油に浸されている。 「これで、一つ」 首を絡め取った刃糸が、義弘の打撃によって崩れ落ちそうになっていたアンデッドに引導を渡す。ぼたり、と落ちる重たいもの。 一人でも、一体でもなく、一つ。 ぼつりと呟く、子供離れしたその声は、やはり幼くとも陰に生きる者の覚悟か。 「もういいわよ、後は任せなさい、坊や」 からかうような声。直後、光の矢が薄暗い森を駆け抜けた。 「――お姉さんにも見せ場がないとね☆」 「……『ね☆』じゃないでしょうに」 流石に憮然とした小太郎をよそに、『母なる風の教え』緑野 紗智子(BNE002695)がVサインを決める。彼女が放った魔力の矢は、もう一体のアンデッドの胴を撃ち抜いていた。 「あはは、この歳じゃ、流石に無理があったかな?」 左手は白衣のポケットに突っ込んだまま。眼鏡越しに少年を見つめる紗智子の視線は、何故だか優しかった。 「……他の班からは、まだ連絡はないか」 判りきったことをぼやく義弘。腕に嵌めたダイバーズウォッチは、探索を開始して数時間が経過したと主張している。 「ええ、何の連絡もありません」 几帳面に通信機能付きのアーティファクトを耳に当てる小太郎に、判ってるって、と苦笑い。 「意外に広いね、この森。イヴちゃんは、そんなに広くないって言ってたけど」 「ハイキングなら、もっと速く抜けられるのでしょうけどね」 紗智子に答える少年。仮にも訓練を積んだ忍者である彼だから、その『錯覚』を肌で感じることができたのだ。 警戒を重ねて進めば、気楽に歩くよりも進行速度ははるかに遅くなる。そして、疲労も増していくのは、自明なことだろう。 「けど、この辺りの敵は、ほとんど倒しちゃったよね。さっきから全然見かけないし――」 「――気づいたか、紗智子の姉さん」 ニヤリ、と義弘が笑う。視線が下った先、河原に佇む複数の人影。 いや、あれこそが最初の関門、アンデッドの群れだ。 「聞こえますか。こちら、川沿いの河原です。座標は――」 声を抑え、小太郎がアーティファクトに呼びかけた。 ●奇襲/1 「先手必勝! いくよ、みんな」 一斉に行動を開始する十一人。自らを魔力で強化したり、身体の内に秘めた力を引き出す仲間達を尻目にして真っ先に動いたのは、意外にも真だった。 敵に気づかれていない状態、アウトレンジからの奇襲。無傷で切り抜けるためにも、ここは使い惜しみ無しだと気合を込める。 「怖いよ。怖い……けど!」 木の陰から派手な音を立て、突撃銃の引鉄を引き絞る。そのスタイルは最も難易度の高い立射――もちろん、こんなところで伏せるなど出来ようはずもない――だったが、幸いにもそのデメリットは表面化しない。 避けるとか外れるどころの話ではない、まさに弾幕が六体の死体に降り注いだからだ。 「うっわ、すっげー!」 度肝を抜かれた様子の晴。実は初陣同士ではあるのだが、そう何度も連打出来ない真の『切り札』は、グラデーションの翼を持つ少年を驚かせ、そして打ちのめした。 「……でも俺、あんなにすごいことできないよ」 手にした糸刃をじっと見つめる。 一般に、フライエンジェという種族は極めて術士向きの能力を持っているとされる。例えば紗智子がそうであるように。個人差はあれど、自分のように接近戦を志す者は、どうしても『極まった』育成プログラムを受けざるを得ない。 「違うわね」 呟きを聞きとがめたか、ティアリアが声をかける。途端、少年の身体を覆う白光。 「誰にでも、出来ることと出来ないことがあるわ。けれど、出来ないことだけを見て嘆いては駄目よ」 行きなさい、と背を押された。何故だか身体が自然と動く――そんな不思議な気分を感じる晴。踏み出した一歩は、軽い。 「い……っくぜー!」 調子に乗るな、と何度も自分を戒めた。 一人で無茶しない、それが生き残る術だと学んだ。 けれど、今なら出来る気がする。 「これが俺の精一杯だ!」 アンデッドの只中に突っ込む晴。糸の刃が、渦を捲くように四方を泳いだ。 さながらリボンを用いた華麗な舞踏のように、彷徨える死者に二度目の死をもたらすべく切り刻む。道中のはぐれアンデッドよりも相当に丈夫とみえ、まだ打倒するには至らないものの、そのダメージは小さくない。 「そうよ。やれば出来るじゃない」 普段の嗜虐的な笑みとは違う、柔らかいそれを浮かべるティアリア。その腕には、いつかの紙腕章が誇らしげに巻かれていた。 「いっくよー! みんなー、爆発注意ー!」 前衛が切り込み、後衛はターゲットを合わせて狙い撃つ。オーソドックスと言えばオーソドックス、地味でも確実な戦術。それこそが、このチームには必要に思われた。 そんな先任達の思惑を、双葉の朗らかな声がどこかに投げ飛ばす。 「さーんっ!」 きょとん、と顔を見合わせる、比較的経験の浅い面々。 「にー!」 げっ、と義弘が蛙の潰れたように呻く。 「いーち!」 「下がれぇぇぇっ!」 その時。 眩い火球が彼らの視界を灼いた。 一瞬遅れて、鼓膜をつんざく爆発音。 「しゅーとっ!」 「しゅーとっ! じゃねぇこの腐女子妹!」 アンデッドそっちのけで思わず声を荒げた義弘に、でも距離はちゃんと計算したよ? と悪びれる様子のない双葉。 彼女が使ったのは、火球を生み出して狭い範囲を燃やし尽くす術だ。その炎は敵と味方とを区別しない。そのため、術士にとって戦場を正しく認識する能力は必須である。 「ちゃんと後ろのゾンビ、狙ったもん! あと私は腐女子じゃないよ」 後方で攻撃に参加していなかった個体を狙うことで、全ては無理でも三体を火球に巻き込み、しかも巻き添えを出さないことに成功したのだ。確かに、なかなかの成果と言えるだろう。 もっとも、戦闘の中で正確に効果範囲を測ることは不可能に近い。そして、もしも双葉がもっと貪欲に敵を巻き込もうとしていたら、味方の損害は避けられなかったのだ。 「双葉の嬢ちゃんの腕は認める、けどなっ!」 振り下ろした文字通りの鉄槌が、神気を込めた一撃となって動く死体を叩き潰す。実の所、苛立ったのは双葉に対してではない。彼女が『良く見ていた』のは判っていた。 ――あのフリーだった奴が後衛に向かっていたら、どうなる。 六体もの敵を相手に、ブロックの意識がきっちり働いていたとは言いがたい。そして、自分ならばあれを引き付けることが出来たはずなのだ。 「次こそは、役目をきっちり務めなくてはな」 「まあ、そんなに気に病むこともないでしょう」 背後からかけられた声。そして、パン、と軽い音。 ヘッドショット。離れたところにいた――双葉が爆発の起点にした――アンデッドの頭が爆ぜ飛んだ。 振り返らなくても判る。星龍が片膝をついて、自慢のライフルの引鉄を引いたのだろう。千丁に一丁と名高い、偶然が生んだ名銃を。 「後衛も黙って殴られはしません。漏れてきたところで、こちらでどうにかしますよ。それより、気合を入れてぶん殴ってください」 まだ四つもいるんです、と肩を竦める。 普段外すことはないサングラスをあえて外し、スコープを瞼につけているところを見ると、彼は本当に辟易しているようだった。 ●奇襲/2 「しつこいっ!」 霧也の大剣がリビングデッドの腕を飛ばす。だが、まだその動きを止めるには至らない。むしろ、相手が生者の場合と違いギブアップがない分、往生際が悪かった。 「はぁ、地獄の門は閉めたというのに……」 うんざりといった感の漂うくろは。ぐん、と伸び上がった黒い塊がアンデッドを捉え、突如物質化して横っ面を殴り飛ばす。 「とりあえず、冥土の土産です。悪樓の所に送り返しましょう――引導を括りつけて、ね」 かろうじて耐えたリビングデッドだが、少女に逃がすつもりはなかった。間をおかず、『影の鋼糸』が放たれ、満身創痍の全身を切り刻む。操り手はくろはではなく、彼女が生んだ影人形。 「あれにとっては、案外地獄も住み易い所かも知れませんが」 ぼとり、ぼとり――ずしゃっ。 限界までダメージを受けていた動く死体が、その鋼糸を止めとして動かなくなる。バラバラ死体のようなその様は、見ていて好感の持てるものではなかったが。 「待ちに待った戦いだ……!」 構わず突き進む龍雨。森の中で出会ったはぐれアンデッド相手とは違う、確かな手応え。戦おう。戦おう。鋭い眼光が、震えるほどの剣気を孕む。 「相手にとって不足無し!」 手甲から伸びた刃が炎に包まれる。躊躇いなく突き入れれば、腐肉がじゅうと焼ける音。そして瞬く間に業火に包まれ、元より限界までダメージを受けていた死体が崩れ落ちる。 「未来を築く事が出来るのは、今を生きる者達だけだ――」 ――過去の亡霊共は永久に地の底で眠っていろ! 無表情の中に迸らせた苛烈なる感情。それは、この戦場で何よりも清冽でさえあった。 「ん、いい気合だね。私も頑張らないと……と!」 白衣の裾から取り出した祈りの媒体を手に、紗智子はふわりと笑う。何事かを呟けば、棍棒の痛烈な一撃を受けていた晴を、清浄なる風が包んだ。 「ま、私が本気を出せばこんなものよ☆」 「おおっ、痛くなくなったぞ、ありがとー!」 そんな、無邪気に騒ぐ晴を目を細めて見やる紗智子を、じとりと見やる視線。 「やはり無理というものでしょう、それは」 ゴーグルが隠す小太郎の顔は、どんな表情を浮かべていただろうか。落ち着いた物腰と丁寧な口調――けれど、彼は十歳の少年だった。 忍であると同時に、十歳の動物好きの男の子だった。 忍とは死の美。 この年齢の少年が、それだけの覚悟を決めることが如何に『ありえない』ことか、それを語るのは難くはない。 だがそれ以上に、小太郎が振るう漆黒のオーラと鋼の刃とは、雄弁なまでに見るものに訴えるのだ。 例え見習いであろうとも、彼は、『プロ』なのだと。 「これで……おしまいでござる!」 最後の一体が地に伏せる。つい漏れ出た忍者風語尾は、あるいは彼の素顔の一端なのかもしれない。 ●間奏/EX 「はい、召し上がれ」 双葉が紙コップに注いだお茶を、義弘が美味そうに飲み干した。 「さすがに長丁場だからな。助かるよ、双葉の嬢ちゃん」 「どういたしまして♪」 ここは、先ほど戦った河原から上流に遡った場所。十分に歩いてから――流石に死体の近くでリラックスできるほど慣れた者は居ないので――一行は休憩を取っていた。 川の水で手を洗ったり、思い切って浴びたりすれば、血と汗と腐汁に塗れた全身もさっぱりとした心地になる。そうして人心地ついてから、双葉が持ち込んだサンドイッチを遅い昼食に頬張るのだった。 「それにしても、紗智子」 何かしら? と首を傾げる白衣の女に、どうしてリベリスタなんかになったの、と尋ねるティアリア。紗智子は元々アークの研究職だったはずだ。革醒したとしても、実戦部隊に出張る必要はあるまい。 「……息子が居るのよ」 望まぬ覚醒、あるいは幼き戦士。息子と同じくらいの子供達が、革醒を引鉄に、無残に死んでいく。 「だから、じっとして居られないのよね」 その視線は、いつしか小太郎に、晴に注がれて。 「でも、僕は後悔なんてしていません」 最年少の――少しだけ早く、大人になることを強いられた――小太郎が、胸を張って『母』を見返す。 「僕は風魔の裔ですから」 無口な彼の、訥々とした一言。それは百の言葉を費やすよりも雄弁に感じられた。 「私も、家を継ぐためだな」 ナイトメアダウンの傷が元で引退した両親の跡を襲い家督を継いだのだ、という龍雨。退魔士の一族だ、と告げた言葉に、納得の頷きを返す一行。実力的には未熟な部分もあれど、その戦意と戦場での怜悧さは、両親譲りのものなのだろう。 「自分で選んだ道だから、後悔はしない」 胸を張る彼女は、凛とした雰囲気を漂わせて。 「俺だって別に無理にやらされてるわけじゃないぞ!」 ぷくー、と頬を膨らませた晴が、顔ほどには怒りを感じさせない声で騒ぐ。そりゃ、最初のきっかけは事故だったけどさ、でもいろんなすげーこと体験できて、面白いじゃん! そう続ける声に、痛ましさは微塵もない。 「まあ、細かいことはいいんだよ!」 「いや細かくはないだろう」 思わず突っ込んでしまう義弘。きっと折れることなく、真っ直ぐ進んでいくだろうこの屈託のない少年を、ふと眩しく感じるのだ。 (――守ってみせるさ) 革醒の記憶は、彼の心の奥の柔らかい部分をちくりと刺す。そのささやかで、けれどいつまでも消えない痛みは、託されたものと共に彼を駆り立てるけれど――。 「――無事終わったら、皆でどこかで甘いものでも食べたいものだな。そのご褒美の為に、俺は戦っているんだ」 口を衝いて出たのは、そんな言葉。 「甘いもの、ですか」 この魁偉なる男との意外な取り合わせに、目をぱちくりとさせるくろは。 姉であれば、わたしにも寄越せと大騒ぎするであろうが、少なくとも彼女は自制心を具えていたらしい。 「そうですね、そんなものの為に戦えるなら、幸せなのかもしれません」 そんな姉に引っ張られて戦いに身を投じることになったくろはは、しかし決して悲壮感を湛えているわけではない。『同類』と共に在ることを選んだ彼女には、それはごくごく自然なことなのだろう――あの、甘いおやつに溢れた屋敷で暮らすために。 「……戦わなくて済むなら、その方が良いよ」 ぽつりと零す真。口にしたのは、ただそれだけ。 ――怖いから。 何が怖い? 傷の痛みが。敵の悪意が。 いや、何よりも、誰かを失ってしまうのが怖いから。 守りたい。友達を。仲間を。 彼がアークで戦うのは、ただその思いのためだけに。 「しょうがないよね、革醒しちゃったし?」 けらけらと笑う双葉に陰はない。就職活動の一環でアークに就職した、と冗談交じりに言っていたのは彼女の姉だが、なんとなくスカウトされた双葉自身も似たようなものだ。「けど、やっぱり戦う事そのものに慣れてないからねー」 「そんな大層なものでもありませんよ」 先輩達は凄いねー、と、やや疲労の色が滲む視線を投げた彼女に、星龍は苦笑を漏らした。 戦いに慣れるという事が、どれだけむごい意味を示すのか――この少女に態々教えてやる必要はない。戦いを生き抜けば、いずれ嫌でも気づく時が来る。 「さあ、そろそろ行くとしましょうか」 アーク謹製の大きくロゴが入ったスキットルを一口呷り、彼はゆっくりと立ち上がる。 そして、森の中を細く延びる獣道を辿った果て。 石造りの鳥居。 開けた広場と、今にも朽ち果てそうな、古びた小さな社。 屯する死体と亡霊。 そして。 『ありがたや、地獄より黄泉帰り、ついに源氏のもののふを蹴散らす時が来た』 殿上に仁王立ちする、美々しく飾った武者。 いや、その亡霊。 『滅びし平家の恨み、忘れたわけではあるまいな』 紅く灼けたざんばらの髪、白く塗った戦化粧。 『我は藤原上総七郎兵衛尉景清! 惧れを知らぬならば、いざ、殺してしんぜよう!』 藤原景清――平景清、悪七兵衛(あくしちひょうえ)の異名を持つ豪傑は、すらりと抜き放った太刀を無造作に振り下ろす。 瞬間、戦場に不可視の刃が吹き荒れた。 ●悪七兵衛/1 「うわあっ!」 リベリスタ達を襲った刃の嵐――俗に言う『鎌鼬』は、咄嗟に伏せた小太郎とティアリアを除く全員に浅からぬ傷を与えた。一つ一つの裂傷はさほどでもないが、斬りつけられた痕跡は三つや四つではない。続いて切り込んでくる、甲冑を着込んだ武者の亡霊。 「平家の将の亡霊まで出てくるとはな……」 その進路を塞ぎ、錆びた刀をがっしと受け止める龍雨。ぎり、と音が鳴った。 「だが、腕が鳴るな。一気に仕掛けるぞ!」 ブレードを生やした右手に左手を添え、ぐ、と押し返す。膠着。だが、一対一で押し合っていられるほど、戦力に余裕はない。 その勢いを活かし、とん、と地を蹴って後方へステップ。そして、右脚をしならせて振り抜いた。生まれた風の刃が、近距離で武者の腹に突き刺さる。 「……手伝うよ」 得意の立射体勢を取る真。だが、その彼の肩を、飛来した矢が正確に射抜く。 「痛っ――速い!」 突き刺さった矢は瞬時に霞と消え、傷跡だけが残る。恐らくは魔力の矢、それを放ったのは敵後方に控える弓の武者だ。 少なくともこの戦いの最序盤において、リベリスタ達は場の主導権を握られていた。メンバー中随一のスピードを誇る双葉が、初手に敵の牽制よりも火力の増強を選択したこと。斬り込んで行くよりも、陣と陣とでがっぷりと組むことを選んだこと。 リベリスタ達は、先手を取ろうと意識していない。 「ど、どうしたらいい!?」 「お前を、お前か下した判断を信じろ。それは、お前が掴み取った経験だ」 パニックを起こした真の耳に届く、霧也の低い声。はっ、と息を飲んだ。その声は、彼の精神を急速に冷やし――そして、再び加熱させる。 「わかった……退かないよ。今は!」 バーストモードのアサルトライフルが吼える。吐き出された弾丸は光弾へと変わり、亡霊武者や、遅れて迫るリビングデッド達を穿った。 「すげー、なんかこんな敵出てくるゲームあるよね、ゲーセンとかに!」 続いて飛び出したのは晴。淡いグラデーションを描く紺碧の翼と髪、その先端のスカイブルーが駆ける少年を煌いて彩った。 「でも超SAN値下がるなぁ、なんだか。囲んでくるし」 指貫きのグローブに糸刃を握り、晴は動く死体の一群へと突貫する。今だ磨かれていない原石にすぎない彼にとって、多数に囲まれる危険を冒すのはチャレンジに過ぎた。 だが、今だけはそうする価値がある。 「だから、ぱねぇ感じでテンション上げていこー!」 彼の周囲を糸の刃が吹き荒れる。乱戦になれば、味方すら巻き込むこの技は使えない。だから、これは一網打尽にする最初で最後のチャンスだった。 だが、最終的に少年をそうさせたのは、単に効率だけではない。 「さっさと片付けてしまいましょう」 自らの影から『従者』を喚び出したくろはが攻勢に加わった。更に影より取り出すのは、殺意纏う黒きオーラ。 「ここからが本番ですから……いえ」 その名の由来は、革袋に砂を詰めた鈍器だという。作られた目的は唯一つ、頭蓋骨の破砕。 高く伸び上がった殺意の塊は、頭上から降り注ぎ、オリジナルがそうであったのと同じように、哀れな死者の頭部を叩き潰した。 「――いつでも本番、ですね」 「本当に頼もしいわよね、皆」 感に堪えぬかのようにティアリアが声を漏らす。戦いが初めてだというひよっ子も、一人や二人ではなかったのだ。それが、僅かな実戦を経験しただけで、お互いを補い合い、流れるような連携を決めるまでに成長している。 本当に怖いのは、あの歌舞伎役者のような武者だけだろうと彼女は見切っていた。だから、それ以外が齎した傷を癒すことは、紗智子に任せてしまう。 同い年ではあっても、見かけも性格も、何より経験が違う二人。だが、どれだけ大雑把な性格であっても、戦う理由があるならば、信じて任せられる、とティアリアは思う。 「この子たちのために、わたくし達も頑張らなくてはね」 「あら、私も駆け出しなんだけど? JK枠でよろしく☆」 軽口を叩く紗智子に肩を竦め、鎧の護りを齎すべく祈りの文句を唱えるティアリア。はしばみ色の瞳が捉えたのは、敵将と退治する義弘だ。 『一人で我と仕合おうとは、やれ、諸行無常じゃ』 「……ハッ、一人で倒せるなんて驕るつもりはないぜ」 それだけの力はない。彼我の力の差は判る。フェーズ2といってもピンきりだが、こいつは間違いなく『ピン』の方だ。 (……イヴの嬢ちゃん、ルーキーになんて奴を割り振るんだよ、まったく) 背に冷たいものが走る。ベテラン勢が出張ってもおかしくない相手――だからこそ、決して倒れてはならないと理解する。他に、この亡霊を受け止められる者は、この場には居ない。 「俺は盾だ。仲間を守る、侠気の盾」 左手の盾に眩い光が宿る。敵の前に我が身を持って立ち塞がらん――それが、『侠気の盾』たるこの男の矜持。 「それを自称するだけの働きはしてみせるさ!」 十字に広がるであろう光柱は、だがゼロ距離で景清に叩き込まれたが故に、ただの眩しい光として認知された。強き力と意志とが込められたそれが、復讐に凝り固まった亡霊の精神を塗り替える。 ●悪七兵衛/2 「大きいの行くよー!」 増幅された魔力を全身に巡らせ、複雑に印を組み合わせながら双葉が叫ぶ。 ゾンビどもが全滅し、弓の武者に直接攻撃を狙う者が出てきた今となっては、火球での援護は難しい。だが、もちろん、この駆け出し魔女の引き出しはそれだけではない。 「飛び道具とか、鬱陶しい相手はさっさと潰しちゃえ!」 艶やかな濡れ羽の髪が、風を受けたかのように浮き上がり、広がった。掲げたワンドの先で、四色の輝きが目まぐるしくその彩を変える。 「行っけー!」 螺旋を描いて四色の魔光が伸び、まさに弓弦を引き絞っていた武者に直撃する。その膨大な魔力の奔流に呑まれたか、ぴたり、動きを止める亡霊。 「源平合戦の亡霊なんて、驚きましたよ」 キャップの額に留めたアークのメタルエンブレムが、茂る木々を抜けてきた夕暮れ少し前の光を反射して時折輝く。 「折角寝ていただいていたのに、厄介ですね」 あまり饒舌に話す事がないから誤解されがちだが、小太郎はアークという組織に誇りを持っていた。幼いながらに、忠誠心を抱いていた、と言ってもいい。 (――忍は影に住まう者) 利に従って動き、なんら賞賛されることなくその生を閉じる。だが、過去の忍者達は、利益と伝統だけに縛られて闘ったのだろうか。 断じて違う。 彼らとて、理想もあれば、仕えるべき主を見出した幸せもあったはずだ。 「風魔の末裔として、エリューションは必ず倒します!」 小太郎は、主の代わりに理由と仲間とを得た――つまり、そういうことなのだろう。黒塗りの鉄線が、亡霊武者に絡んで締め上げ、折り砕く。 「やるな、お前」 感心したかのような霧也の声。先に太刀の亡霊を仕留めた彼は、最後に残った護衛を潰すべく、大剣を振り抜いて。 雷すら纏った獲物から伝わる、確かな衝撃。だが、まだ足りない。 「無駄に硬いっ……!」 「ふ、なら私の番ということですね」 遥か後方で、星龍が片足をつき、相棒を構えていた。 その銃口に渦巻くのは弾丸と硝煙ではなく、集中に集中を重ねた意志の力を媒介にして凝縮された呪詛。 「敬意すら抱いているのですよ、私は――」 例え無名であろうとも、歴史を創った、その戦いの英雄全てに。 やはりサングラスは外していた。この戦いの場に、なんらの雑音を持ち込んではならない。研ぎ澄ませ。研ぎ澄ませ――。 「祈りましょう。今度こそ安らかな眠りにつけるように」 狙撃手が引鉄を引く。スコープの中で、弾かれたように頭蓋を揺らした亡霊が雲散霧消するのが見えたのは、刹那の後のことだった。 そして。 『源氏め、変わらず油断ならぬ者どもよ』 「気をつけろ!」 義弘が声を限りに叫ぶ。 何がどう変わったというわけではなかった。ただ、明らかに『違う』。先ほどまでとは、景清を取り巻く空気が違う。 ず、と。最後に残った武者が、動く。 『我が拝領の太刀の錆となり――消えよっ!』 ●悪七兵衛/3 轟、と。 唯の一閃。唯それだけで、取り囲んでいた前衛達が、いや、離れた後衛さえもが一斉に薙ぎ倒され、木の幹に叩き付けられた。 異名の『悪』とは、『一万の敵を相手取ることができる』という意味だ。その名に恥じることのない力。リベリスタ達に戦慄が走る。 だが。 「何度でも立ち上がってやるよ」 荒い息をつき、義弘が立ち上がる。ずっと景清を抑えていただけに、その負傷も激しかったが――防御を固めていたこともあり、『侠気の盾』が退くことはない。 「何度でも見せ付けてやるよ、俺達をな!」 地よ奈落と割れよ、と手にした槌を振り下ろした。続いて、深い空の色の翼が亡霊の背後に現れる。 「すっげぇはんぱねー! うわーテンション最高!」 少なからず傷を負っている晴だったが、気分の高揚が痛みを忘れさせているようだ。構わず鈍器と紛う黒のオーラを振り下ろした。二人の打撃を受け、景清がぐ、と呻く。 「アレのように、痛みを忘れられれば楽なのですが」 くろはが世話の焼ける同居人を羨ましく思うことは珍しい。だが、痛いからといって下がるなど出来ようはずもない。悪樓との戦いに比べれば、この程度。 「お呪いします、いろいろと……」 一直線に放たれたのは、魔力でカタチを成したジョーカーのカード。鎧の表面で弾けて消えたそれは、だが魔力に込められた強烈な不運を犠牲者へと齎した。 ぐらり、ふらついた亡霊。先ほどまでの硬い護りは崩れていた。 「こうして協力し合うのは、何とも不思議な気分だな」 だが、仲間というのも悪くはないか――。ずっと一人で戦ってきた龍雨が漏らした呟きを、ティアリアは聞き逃さない。 「あら、ツンツンお姫様も、ついに友情・努力・勝利に目覚めたのかしら」 「ば、ばば馬鹿を言うな。べ、別に私は当然の事をしているだけだぞ!」 真っ赤になった龍雨が、炎に包まれた刃甲を鎧の隙間に突き入れる。くすり、微笑の波動を滲ませたティアリアの旋律が、その後を追いかけて傷を癒した。 「あと少しです。皆さん、耐えてください」 千に一つの銃というなら、今此処でその力を見せなさい――そんな祈りにも近いような思いを胸に抱き、銃弾を注ぐ星龍。 勝てる。 数え切れぬ戦場の感が、そう告げている。だが、十秒でも早く倒さねば――次にあの攻撃が来れば、ルーキー達は耐えられまい。 「――まったく、突撃歩兵のような撃ち方です」 狙撃手は片頬を歪め、また呪いの弾丸を叩き込む。 「……お姉ちゃんって、やっぱり凄いんだね」 こんな相手と何度も戦い、勝っているのなら。自分の姉は、私が知るよりも、ずっとずっと凄いのかもしれない。 「でも、それとこれとは別! 腐ったのはダメなんだから!」 またも放たれた四色の光が亡霊武者の将を捉えた。ぐ、と苦しげな声。此度は動きを封じるには至らなかったが、手痛いダメージを与えたのには変わりない。 「今度こそ、その未練を断ち切って眠ってもらいましょう」 忍は命尽きるその時まで任務達成に尽力するもの。幼き忍も例外ではない。エリューションを倒す。仲間を――護る。 「見習いだからって、馬鹿にしないで下さいよ」 練り上げた魔力。横殴りに振るわれた漆黒の凶器が、敵将を強かに打つ。 そして、ついに。 「怖い。怖い怖い怖い。もう、戦いたくない」 がたがたと震える真。その銃口は震え、狙いも定まらない。 だが。 真は知っている。退いてはいけないと知っている。仲間が助けてくれると知っている。 自分にも出来ると、そう知っている。 だから。 「怖いよ、けど――終わらせなきゃいけないんだ」 ぴたり、と震えが止まった。 遠くのコインすら射抜くという、奇跡の弾丸。それを実現させるには、動揺などしている暇はない。迷いのない視線が、揺るがない姿勢に支えられ、そして。 パパパン、と。 バースト三射の破裂音が鳴り、次の瞬間、景清の胸を正確に貫いた。 『――見事だ』 それだけ言い残し、猛将はゆっくりと森の空気に溶けていく。 いつしか、空は夕日の色に染まっていた。 かくして、リベリスタ達はその戦績に成功の星を飾った。 だがこれは、今日に続く明日、次の事件へのステップに過ぎない。 だが、この戦いで得たもの。 戦い抜く覚悟、経験、そして仲間。 今日、彼らは、信じるものを手に入れた。 それは色褪せることのない、困難に立ち向かうための宝なのだ。 ―― Welcome to ARK! ―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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