●杵築最終決戦 『マスタープラトン』。 最大で半径100mの一般人をE・エレメントに変換し、所有者の寿命と引き換えに従属させるアーティファクトである。 この所在が、とても派手な形で露見した。 瀬戸内海は小島、杵築神社上空に独特な光と共に浮かび上がったのだ。 ある者――黄泉ヶ辻『特別超人格覚醒者開発室』は至高の大隊を生み出すプラントとして。 ある者――六道『斬鉄剣客組』は戦乱の世を作る為。 ある者――裏野部『ヘビーアムズ団』は破壊と暴虐の為。 ある者――巨大機竜は自らのコアだったものを取り返すため。 其々の組織が今、一斉に現地を目指す。 『マスタープラトン』を巡り、壮大な争奪戦が起ころうとしていた。 ●完全なる『巡り目』 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はブリーフィングルームのモニターに、小島の地図を表示させた。 「突如その所在を明らかにした『マスタープラトン』を巡り、いくつかの組織が動き出しました。このうちどの組織の手に渡っても大変なことになるのは明らかです。よって我々はやや規模の大きな作戦を立ててこれを阻止することになりました」 『特別超人格覚醒者開発室』という黄泉ヶ辻の下部組織が、おぞましい方法で生み出したフィクサード。それが『巡り目』である。 「皆さんが以前戦った完成版の『巡り目』。その大隊が西瀬戸自動車道をまっすぐに移動中です。車並のスピードが出ているので、普通に追いかけることはできません。車でチェイスし、これを撃破するのが皆さんの担当です」 西瀬戸自動車道の前後は強結界等で封鎖済み。しかし道路の幅がそれほど広い場所ではない。トラックを何台も走らせるのは難しいだろう。台数を絞るなりして追いかけるか、バイクや4WD等の比較的小さな車両で戦うかだ。 「チェイスが可能なのは、彼女達が道路を離れ、海上へ出るまでの間です。……そういう進路のとりかたをしなければ運用できなかったのでしょう。このポイントに至るまで、出来る限り『巡り目』を撃破して下さい」 『巡り目』の数はかなり多く、全部を倒しきることは難しいだろう。 できるだけ多くの敵を撃破しておきたい。 「特に『315番』は強力な戦闘力を有していますから、ここで撃破しておくべきです」 ぱさり、と資料を纏める。 「マスタープラトンが彼等に渡れば、多くの人が不幸になるでしょう。その未来は絶対に、阻止しなければなりません」 ●なんでもないものたちの明日 「『ねえ、今日は何をしようか』」 顔の右半分を仮面で覆った少女が、ぽつりとつぶやいた。 潮風が顔にあたる。 しかしそれも一瞬のことで、すぐに別の風が長い髪をはためかせた。 海の上に長く敷かれた道路の橋。 少女は翼を広げ、道路の中心線をまっすぐになぞって飛んでいた。 Eフォースの力を付与された双翼は奇妙に変色し、自動車並のスピードを出している。 仮面の端には小さく『315番』とネームが掘られている。 ちらり、と左右を見回した。 同じように半分の仮面をつけ、翼を生やした子供達が飛んでいる。彼等の翼は全て黒だ。 耳に装着された小型イヤホンから声が聞こえる。 『いいかい。そうやって道路の上をまっすぐ飛ぶんだ。指示を出したら曲がって、次のポイントへ飛ぶんだよ。そのポイントにくるまでの間、もしかしたら邪魔が入るかもしれないけど……まあ、殺しちゃっていいよ。目的地についたらまた指示を出すからね』 ブツンという音とともに通信が切れる。 少女は前を向いたまま、小さく零した。 「『ねえ、今日は何をしようか』」 声は風の中へ消えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月15日(金)23:08 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●西瀬戸自動車道追撃戦 海上を通る一本の橋型道路。本州と四国を繋ぐこの道路は今、大量のフィクサードだけのものと化していた。 特別超人格覚醒者開発室発人工覚醒有翼人間『巡り目』。 彼等は夕暮れ前の道路をまっすぐに飛んでいた。 その最後尾。 ある『巡り目』は後方より接近するエンジン音に耳をぴくりと動かした。 身体を僅かに反転させる。 だがそれよりも早く彼を大量の『暗黒』が貫いた。 「こんなもんか。どうせなら戦闘無しで流したかったな、こういう景色は!」 『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)である。 彼はバイクを片手で運転しながら闇纏いを展開。空いた手(というより無理矢理空けたと言う方が正しい)で銃剣を構えると、『巡り目』を最後尾から順に次々射撃して行った。 そんな彼の凄まじい運転に身を任せ、『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(BNE003460)は彼を掴んでいた両手を離した。 大きく翼を広げるように掲げた両手には無数のナイフ。 「分からないことばかりだった……しかし、此処まで見えてきた。彼女は、315番は、必ず止めます!」 ピンポイント・スペシャリティで右腕一杯に握ったナイフを投擲。逆に暗黒弾幕を張られるが、禅次郎はあろうことか片手でジグザグ走行をして見せ、全ての弾幕を回避した。 凸凹としたアスファルト道路に大量の穴が開く。 「無茶な運転ですね」 「これからもっと無茶をするぞ、振り落とされるなよ!」 西瀬戸自動車はほぼ直線だ。変なカーブは無い。だから飛ばそうと思えばとこまでも飛ばせるのだ。 アルバートは薄く笑うと、残りのナイフを全部投擲した。 ナイフは『巡り目』の羽に突き刺さり、勢いを失った『巡り目』が次々と墜落して行く。それをやはりジグザグに回避しながら突き進む禅次郎。 「露払いにはちょうど良かったみたいだな。そろそろ皆追いつくころだ」 一瞬だけ背後をミラー確認する。 一台の4WDが猛スピードで追いついてくるところだった。 「『巡り目』、彼等ももとは罪のない一般市民でしたが、今回はそんな感傷に浸っている暇はなさそうですね……!」 ブロック型のアクセルステップを短い脚で思いっきり踏み込み、『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)は全速力で禅次郎のバイクに追いつく。 走るたび、『ゴトンゴトン』という考えたくもない上下振動が伝わってくる。 運転席の脇にセットしたタブレットを片手で操作。 「予測タイムリミットはあと100秒。それまでにできるだけ多くの敵を撃破。少なくとも『315番』は撃破すること。彼女等がターンポイントに差し掛かったらもう車じゃ追跡できません、いいですね! ……へへ、ロケットエンジンなんか弄ってるのです、このくらいは扱えるようにならないとですね!」 相変わらずの暗黒弾幕。4WDという的の大きさとチャイカの腕では耐久限界まで頑張ってかっとばすくらいしかできない。だがスペックをきっちり頭に叩き込んだチャイカになら、その限界をギリギリまで見極めるのは可能だった。 「と言うわけで、ガンガン撃っちゃって下さい!」 「お言葉に甘えてっ」 『24時間機動戦士』逆瀬川・慎也(BNE001618)が後部側の窓から腕をつき出し、巡り目の一体に向けてジャスティスキャノンを射撃。 こちらに意識を向けさせる。 「人が欲望のままに動けないのは力が無いからだ。財力も権力も暴力も知力も、でもそれが揃えば人はとても残酷になってしまう」 十字型の光を背中に喰らった『巡り目』が反転。闇で形成した剣を構えて車へ真っ直ぐ突っ込んできた。フロントガラスに直撃。ごしゃばきりというありえない音と共にガラス一面に赤黒い物体が広がった。 青ざめ、歯を食いしばるチャイカ。彼女の頭部のすぐ脇に剣が突き刺さる。 慎也は一旦身体を車内に戻してフロントガラスごとジャスティスキャノンをぶっ放した。 ガラスごと吹き飛んだ『巡り目』が車の上を跳ね転がって飛んでいく。 「力を持った人は正しくあろうとしなきゃいけない。人々が望む世界を手に入れる為に、正義でなくちゃいけない。じいちゃんはそう言っていた……」 手を一度ぎゅっと握る。 「わかるよ。『これ以上』はいけないんだ」 直後、二体の『巡り目』が車目がけて一直線に特攻を仕掛けてきた。 「……ッ!!」 速度限界一杯で走る車に正面から突っ込んで行ったらどうなるかなど誰でもわかる。 『巡り目』はそれを躊躇無しにやってくるのだ。 微弱にハンドルを切るチャイカ。車体の端に顔から激突した『巡り目』が回転しながら橋の脇へと落下していく。だが一方でフロントガラスがあった場所ド真ん中から突っ込んできた『巡り目』はあろうことか車内で呪刻剣を発動。手に持っていた剣をぶん回した。天井が悲鳴を上げて引き裂かれる。 それを待っていたかのように頭上から大量の暗黒弾幕が降り注いだ。 天井を引っぺがし、車内の全員がハチの巣にされる。 だがそれも一瞬の出来事である。 「ナナシ……おねがい」 応えないのは分かっているが、少女が小声で本に触れる。 依子・アルジフ・ルッチェラント(BNE000816)の小さな手を受け入れるように微発光し、周囲に天使の歌を展開。回復弾幕を張って暗黒を迎え撃つ。 そして依子は、眩しい陽光を見上げるかのように『巡り目』たちを見た。 これが良い事じゃないってことしか、彼女には分からない。 「このままで、いいのかな。そんな生き方で……いいのかな」 何かに頼らざるをえなかった自分とは、ある意味で正反対の彼らを見て、依子はすっと目を細くした。 「よくもやってくれたな。だが燃えるシチュエーションだ!」 拉げた天井を改めて吹っ飛ばし、『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)が身を乗り出した。 全身黒鎧の男である。 「行くぜ、フルメタルセイヴァー発進!」 目を覆うシールドが怪しく光り、闇がそこへ収束。頭上から攻撃をしかけてくる『巡り目』へと魔閃光を発射した。 「フルメタルバースト、発射!」 黒い閃光が翼を貫き、きりもみ回転しながら『巡り目』は墜落。 その段階になって、助手席に座っていた『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)はすぅっと息を吸い込んだ。 手に持った銃を弾込めしてコッキング。シートの背もたれに背中を押しつけたまま、真っ直ぐ前に狙いを付けた。 千里眼で見えているのだ。 今いる『巡り目』のその少しだけ向う。この群衆の先頭に彼女……315番はいるのだ。 「むずかしいことは分からない。未来も知らない。今がぜんぶだ。命が、揺れるだけの」 トリガーを引く。 『巡り目』の頭がスイカのように砕け、落下する。 その上を踏み越え、車は全力で走る。 「胸糞悪い」 頬にびちゃりとついた赤いものを親指で拭って、涼子は空薬莢を海に捨てた。 回転して飛んでいく空薬莢。 そのすぐ脇をすり抜けるようにして『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)のバイクが4WDに並んだ。 視線だけ寄越して片眉を上げる綾兎。 その後ろには『花縡の殉鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)がしっかりと捕まっていた。 「おにーさん、もっとしっかり抱き着けば?」 「……」 遥紀は黙って天使の歌を展開。 ダメージをしこたま食らっていたチャイカ達を回復する。 そして、『巡り目』の群れを見やった。 可哀そうだとは思う。 しょうがないとも思う。 綾兎と遥紀は、微妙にズレてはいたが、殆ど同じ気持ちだった。 「冷めない眠りに」 「そしてどうか楽園へ」 「うん、導いてあげようね」 綾兎はうっすらと笑って、知らない誰かの身体を轢き潰した。 ●魂の重さ 急激な蛇行を加えながら、綾兎のバイクは闇の中を駆けていく。 日が落ちたのではない。 まだ夕刻よりもやや早い時間だ。 周囲を覆い尽くすような闇は全て『巡り目』たちによる暗黒だった。 アスファルトを滅茶苦茶に蹂躙しながら進む『巡り目』たち。 そんな群衆の真っ只中を、綾兎のバイクは突っ切っていた。 この先に、315番が居ると知っているからである。 「おにーさん、平気?」 「……ん」 小さく頷く。絶え間なく天使の歌を発動し続け回復弾幕を張り続けている。 疲労は目に見えて激しかった。 「ここに来る前、僕ら少し衝突したよね」 「……」 「それだけ僕ら、この人達を『なんとかしたい』って思ってた……そういうことだよね」 「神薙」 「うん?」 綾兎の腰に回した手を、遥紀はぎゅっと握った。 無理をしないで、などとは言えない。 既に彼の全身は血にまみれていた。 自分のものか、相手のものか分からないが。既に綺麗な黒髪すら赤茶色に染まっていた。 だから、こうとだけ言っておくことにした。 「俺も、君を守るから」 「……うん」 綾兎はうっすらと笑ってアクセルを捻った。 何人かの『巡り目』を撥ね飛ばす。 「もう休みなよ。飛ぶのをやめてさ」 風が背後へ消えていく。 先頭の315番を射程圏内に納める為に、そして何より彼女を確実に落とすために、まずは『巡り目』の群集を突っ切る必要があった。 スピードを上げにあげたためそうそうハンドルは切りにくい。全方位から暗黒の弾幕を叩き込まれるのは必至だったし、正直に言って生きた心地はしなかった。 そんな中を抜けていけたのは、遥紀と依子の回復弾幕が絶え間なく張られていたからである。 逆に言えば、これが無かったら全滅していたかもしれない程だった。 「ぅ……う……」 何度も『巡り目』を轢き潰し、撥ね飛ばし、チャイカはハンドルを握る手を震えさせていた。 そっと彼女の肩に手を添える依子。 無言で回復を続けている。 チャイカはぐっと顎を引いた。 その横を、禅次郎のバイクが突っ切る。彼は銃剣の先をちょいちょいと動かした。先頭集団を追い抜こうとしているのだ。 「絶好のツーリング日和だな。調子に乗ってるとハードラックとダンスするかもしれないぞ?」 先頭集団を突破。 まるで雲から抜け出るように暗黒弾幕を掻い潜ると、禅次郎は銃剣を後ろ向きに構えた。315番にペインキラーをしこたま叩き込む。 全弾命中。しかし、バックミラーに映った彼女の挙動に薄笑いを浮かべた。 両手を翳し、黒い光を溜めている。 「シュヴァルツ・リヒトをバイク一台にって……冗談だろ?」 直後、膨大な光が禅次郎とアルバートを包んだ。バイクは大破。宙に放り出される二人。 その瞬間、二人の背中に光の翼が生えた。 チャイカの車とすれ違う瞬間、依子と視線が合う。彼女がくれたのか。 「車両を!」 素早くバイクを出現させるアルバート。禅次郎は空中でバイクに乗り込み、空中でエンジンをかけ、空中でウィリーすると空中の『巡り目』を踏み台にして先頭集団へと一足飛びに突き込んだ。 「はっ、まるで曲芸だ。これで食っていけそうだな!」 「まだ油断できません。ターンポイントが近い!」 アルバートはナイフを手当たり次第に投擲しながら315番を仰ぎ見た。 キン、という音がする。 ハイテレパスをかけたのだ。念話を送信しつつ、思わず喉からも声が出る。 「貴女は『あの時』、しっかりと頷きました。貴女の目的は、自ら施設に戻ったのは何故です! 貴女は――」 暗黒弾幕が全身を貫く感覚。 歯を食いしばる。 「貴女は何をしたいのですか!」 「――!」 可聴域ギリギリ声だった。 いや、念話だった。 目を見開くアルバート。 再びのシュヴァルツ・リヒト。 バイクが再び大破し、アルバートと禅次郎は激しく空中を回転しながら後方へと流れていく。それも一瞬だった。 「禅次郎さん!!」 「あいつらなら大丈夫、アクセル踏み込んで! できれば向い合せて!」 助手席から身を乗り出す涼子。 チャイカはぎょっとしたが、一か八かでハンドルを急激に回す。 地獄からの呼び声が如きスリップ音。途中で急速にギアチェンジ。バックに入れると思い切りアクセルを踏んづけてやった。 第三者視点から要約しよう。 先頭集団をぶち抜いた4WDは急速に回転。前後反転した状態で全速『後退』したのだった。 高速移動しながら向かい合う4WDと『巡り目』集団。 「んにィィィィッ、座標確定させ正確にできればこのくらいできるの、ですっ!」 チャイカはこうなれば自棄だとばかりにピンポイント・スペシャリティを乱射。315番を庇おうとする『巡り目』を蹴散らしにかかる。 とは言えやはりスピードに差は出る。 先頭の315番との距離がぐっと縮まる。 それを見計らって、慎也がボンネットに乗り出した。面接着でしっかりと脚を固定。それでも圧し折れそうになる身体を抑えながら、慎也は腕をつき出した。構えとしては『ロケットパンチ』に近かったが、攻撃方法はやや違う。 「君を先に行かせるわけにはいかない。悲劇を止めなきゃいけないんだ」 ジャスティスキャノン発射。315番の腕を貫いて半回転させる。 その直後、剛毅が後部座席からジャンプ。一度慎也の肩を踏み台にすると、そのまま大ジャンプした。 「これぞ疾風怒濤の一撃なり――フルメタル・ブレイド!」 大剣を思い切り315番に叩きつける。 大量の『巡り目』たちの群れを突き抜けて、二人は揉み合うようにして後方へと流れる。 315番の片腕から現れた剣が剛毅を貫き海へ放り投げる。剛毅は光の翼を展開して制動。 その時チャイカと遥紀、そして綾兎が同時に叫んだ。 「ターンポイントだ!」 『巡り目』たちが一斉にカーブ。 西瀬戸自動車道を抜けて飛び出した。 こうなればもう追撃は出来ない。 一足遅れてカーブをかけようとする315番。 これまでかと思いかけたその時、涼子がボンネットへと踏み出した。 否、手持ちのバイクを車内で出現させ、文字通り助手席から飛び出したのだった。 「りょ、涼子さん!?」 「勝負しよう。私の運と、執念と」 天空に舞う涼子のバイク。 涼子は素早くシートの上に立つと、そのままジャンプ。 逃げ去ろうとする315番へと手を伸ばした。 この時、彼女の視界に見えたものを述べよう。 同じ高さまで届いた315番の後ろ姿。 僅かに振り返ろうとする彼女の首筋。 背中、腰と下がって行く。目いっぱいに手を伸ばす。まだ届かない。 そして視界は急激に落ち、いっぱいに広がった海。 「――っだああああああ!」 315番の足首を掴んだ涼子の手。 銃を歯で咥えてリロード。真下からバウンティショットを叩き込んだ。 仮面がはじけ飛び、チャイカと依子の頭上を越え、道路上に転がる。 思い出したように光の翼を広げる涼子。 315番は海へと真っ逆さまに落ちて行った。 その顔は、うっすらと笑っていた。 ●「ねえ、今日は何をしようか」 双翼を羽ばたかせ、ホバリングをかけながら、涼子は眼下の海を見下ろした。 「アンタの友達はもういないけど、どこまでもは付き合えないけど……あの世までなら」 「…………」 橋の淵から身を乗り出し、依子は瞑目した。 「ねえ、貴女は……何をしたかったの?」 「君は本当に、それがしたかったのか?」 気付けば、慎也が隣にいた。 慎也は小さくかぶりを降ると、ボロボロの4WDへと歩いていく。 「急ごう。ここから飛んで行っても追いつけない。港まで飛ばして、そこから船で合流しよう」 「ですね。出遅れますけど、潰し合いはもう始まってるみたいですし……」 車を軽く叩き、もう無理だと悟ったチャイカが新しい4WDを取り出してエンジンをかける。 一方で剛毅は既に自前のバイクに跨っていた。夕日に染まりかけた空をみやる。 「あれが機竜……」 小島へと飛んで行った『巡り目』たちが、天空から降下してきた機竜というアザーバイドと交戦状態に入るのが見えた。互いに数を減らし合っている。 「さ、俺らも行こう。まだ戦ってる仲間がいるから、助けに行かないと」 バイクを発進させる綾兎。 その後ろには遥紀が静かに乗っている。 「泣いてあげればいいよ。泣けなかったあの子たちの代わりにさ」 「…………」 トン、と背中に額が当たる感覚がする。 温かみを感じて、綾兎は目を細めた。 ややあって、禅次郎の運転するバイクがターンポイントまでやって来た。 「どうしたんだ、ここに来てももう何もないぞ?」 「いいえ……ありますよ」 バイクから降り、数歩あゆむアルバート。 足元に転がった『315番』と書かれた仮面を拾い上げる。 裏返すと、そこにはカッターナイフで掘ったような乱雑さで『Read me』と刻まれていた。 ぎゅっと仮面を胸に抱く。 「貴女が伝えたかったこと……確かに、受け取りましたよ」 空をふり仰ぐ。 戦いはまだ続いている。 行かなくては。 全ての謎を明らかにするために。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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