●承前 千葉県千葉市――ベッドタウン郊外の廃マンション。 かつてバブル期にこの区域の至る所で建設ラッシュが起きた。 未来都市としての構想が膨らみ、次々と住居やマンションが造られていく。 しかし間もなくバブルは崩壊し、その影響で街はゴーストタウンと化す。 この廃マンションも完成目前に建築主が多額の負債を抱えて自殺し、計画が破棄されて久しい。 時は流れ、ゴーストタウンと呼ばれた街にも人が少しずつ増えてきた。 それでもこのマンションには誰も手をつけずにいる。 街の区画から大きく外れた場所にポツンと位置していたからもあるが、建築主がこのマンション内で首吊り自殺を遂げた後味の悪さも大きな理由だった。 おかげでこの建物に纏わる噂が、時折街に広まっていた。 何かが棲み着いているのではないか。夜な夜な明かりを見たという目撃者。何か話し声が聞こえる等。 元々マンションが廃棄されて以降、浮浪者や街の不良たちの溜まり場になっていたこともあり、また誰かが勝手に使っているのだろう。と、街の人々は然して気にもしていなかった。 だがその正体は――。 ●依頼 アーク本部、ブリフィングルーム――。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は映像を交え、リベリスタたちに状況を説明する。 「この建物全体がエリューションゴーレム『アンデッド・マンション』で、かなり危険な存在です」 マンションは、ずいぶん前から自身で意志を持つ存在になっていたのだ。 思わず互いの顔を見合わせるリベリスタたち。 「マンション自体を外部から物理的に破壊することは不可能です。 ですが建物最上階にある核を破壊すれば、エリューション活動は停止します」 確かこのマンションは4階建てで、かなり大きな建物である。 外部からとなると、それこそ建物解体用の重機や爆薬等を駆使しないとまず無理だろう。 だがマンション自体が移動できない建物ある以上、外部からの侵入は可能らしい。 「このエリューションの内部はエリューションゴーストとアンデッドの巣窟と化しています。 またマンションは皆さんが核へ行くのを邪魔しようと、様々な攻撃を仕掛けてくるでしょう」 自身が意志を持つ建物の中を移動するということは、敵の体内にいるのも同然だ。 充分に気をつけて進むよう、和泉は念を押して忠告する。 「最上階にある核への移動方法は二つあります。 ひとつは入口の側にあるエレベーターですが、これは決して使ってはいけません。 もうひとつは階段をひとつずつ登る方法。これに頼るしかない様です。 ですがマンション内はもはや迷路のようになっていて、単純に最上階までは進めないようになっています」 窓もすべて鉄格子が間に挟まれていて、破壊して侵入は無理だとのこと。 面倒かもしれないが、一階からひとつずつ障害を乗り越えて進む他に道はなさそうだ。 和泉は説明を終えると、笑顔でリベリスタたちを見送る。 「皆さんできる限り途中で脱落しないよう、気をつけて進んでくださいね」 ……脱落?? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月18日(月)23:36 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●挑戦 千葉県千葉市――ベッドタウン郊外の廃マンション。 塗装もされていない剥き出しのコンクリート壁に落書きがなされ、不気味な様相を呈している4階建ての建物。 それを正面から見上げているリベリスタ達の姿があった。 『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)は早くから構えを取って戦闘に備えている。 「建築主があの建物に何を思い描いたのか、今となってはそれを知る術はないね」 流れる水の様な構えは、自身に攻防一体の力を付与していた。 『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は怖々とした様子で一行を見回す。 「やーん、何か出そうなんですけど……幽霊は出ないですよね? ね?」 彼女に視線を向けたアーベル・B・クラッセン(BNE003878)。 彼は逆にこの手のお化け屋敷が好きな方である。 「そうかぁ? 俺、こういう所に住んでみたい」 楽しんでいこう! とまでは、流石にイスタルテの手前言い辛かったが、それでも面白そうな事に変わりはない。 葉月・綾乃(BNE003850)は二人の対話に微笑しながら「それにしても」と前置きを入れる。 「今回のネタはちょっとスクープにはなりそうにない、ですねぇ。幽霊が出るマンション、とかならまだネタになったんですが……」 バブルが弾けて誰も住まなくなったマンション。 似たようなマンションは全国に点在している。それが全てエリューション化したとすれば、それはそれで怖い話でもあった。 マンションの中にいるのは幽霊ではなくエリューション。だがその理屈はあくまでリベリスタ達にしか通用しない。 単なる一般人から見たらエリューションと幽霊との違いが何処にあるのか、それを理解するのは不可能だろう。 何せ彼等が幽霊と錯覚している大半がエリューションだったりするのだから。 『Knight of Dawn』ブリジット・プレオベール(BNE003434)はイスタルテを安心させるように、此処には幽霊はいないと教える。 「幽霊マンションならともかく、相手がエリューションならば恐れる必要はありませんわね」 さっさと潰してしまいましょうと告げる彼女に対し、『ゼンマイ可動式』ミル・フランベルジュ(BNE003819)はエリューション等をマンションから追い出すのを心苦しく感じている。 (けど、やらなきゃ) 心の中でごめんなさいと謝りながらも、彼女はリベリスタの使命を遂行しようとしていた。 見上げたマンションに対し、『糾える縄』禍原福松(BNE003517)は率直な感想を口にする。 「何ともバラエティ番組のコーナーの様なアトラクションだな」 もしくはB級映画だ。と淡々と言い切った彼に対し、逆に俄然闘志を燃やして応対したのは『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)である。 「ミリーこういうアトラクション大好きよ! 全力で楽しみましょ!」 気合のこもった声に、挑戦的な笑みを返して同意した『葛葉・楓』葛葉・颯(BNE000843)。 「小難しいこと抜きにして戦って、ぶち抜いて、面白いじゃあないカ」 今回はわざわざ4階まで行って、核をしっかり破壊しなければ任務は終わらない。 そこまでの障害がアトラクションの様に待ち構えているのを理解し、『狂気と混沌を秘めし黒翼』波多野のぞみ(BNE003834)が準備の整った仲間達へ出発を促す。 「皆さん頑張って行きましょう!」 気合を入れて『デッド・マンション』へと階段より潜入しようとしたリベリスタ達。 だがブリジットだけはエレベーターで上へと進もうとする。 「急いでいる時は急ぐものです。当然ですわね」 ドアが開き、中へと飛び込む彼女は二階のボタンを押して一人ドアを閉めた。 颯が「無茶しやがって」という笑みを浮かべて見送る。 ウィーンとエレベーターは音を立てて動き出した。何故か二階をすっ飛ばしぐんぐん最上階へ。 「ちょ……え?」 あっという間に最上階をすっ飛ばし、そして天井をも突き抜けて更に上へ。 パシュッ!!(←発射音) 突然襲いかかる浮遊感。明らかに上空へと舞い上がっている感覚。 「ええぇえええぇぇぇぇぇえええ??」 現地に着いて僅か数分足らずの出来事。 彼女を載せたエレベーターは、夜空へとそのまま射出されてしまったのだ。 最初の犠牲者は、こうして星になった。 ●二階 ブリジットが夜空の向こうへと旅立った事は露知らず、階段を上がった彼等を待ち受けていたのは仕切りのないだだっ広い空間。 そこにふわふわと浮いている数多くのエリューションゴースト達。 リベリスタ達が全員階段を上った時点で、ガコンッという音が響く。 やがて僅かずつではあるが、天井が全体的に下がってきているのが確認できた。 自身の速度を最大限に高める楓の脇から前進し、ミリーはエリューション達へと大きく両手を翳す。 「お邪魔しまーす!!」 インターホン替わりとばかりに、彼女の魔術より召喚された魔界の炎がゴースト達に放たれた。 無差別に獄炎が広範囲に渡り、敵を次々と焼き尽くしていく。 そのミリーからやや引いた位置より、福松は神速でリボルバーを抜いた。 その手にした銃は、怪しい輝きを放つ黄金のオーバーナイト・ミリオネア。 「巻き込まれないよう、気をつけろよ」 複数のエリューションを狙った一撃。連続した弾丸はそれぞれの急所を正確に貫いている。 業火と斉射の連続で次々と消え去るゴースト達。 イスタルテはミリーと福松の位置をそれぞれ確認した上で、別角度へと回り込んで前に出ると神々しい光を送り込んだ。 「恐らく……1分程度で、天井は完全に落ちてしまいますね。急ぎましょう」 彼女は音がしてから即座に腕時計を確認し、今までの時間と落ちてくるスピードを単純計算で割り出している。 ここまでの三人はそれぞれの立ち位置で、できるだけ多くのゴーストを攻撃に巻き込んでいた。 彼女等の攻撃を受けながら尚も動いているエリューションを狙い、綾乃が真空刃を叩き込んだ。 「少しでも効率よく敵を倒すことを……」 激しく切り刻まれたゴーストがまたひとつ沈む。 アーベルは彼女達が取りこぼした相手へ目掛け、重火器を振るった。 「さて……当たるかな?」 凄まじい早撃ちで敵を貫きながら、援護射撃を続けている。 のぞみはタクトを振るうように、後衛から自身の防御行動を共有させて全員の防御力を高めた。 「敵も多いですので、慎重にかつ大胆に行きましょう!」 そこへ数で圧倒するエリューションゴースト達が、一斉にリベリスタの前衛へと襲いかかってくる。 ひとつひとつの攻撃はたいした事はないが、数を頼りに押し寄せられ手傷を負わされる前衛達。 行動を遅らせて前に出たクルトは、やって来たゴーストを端から順に攻撃を始めている。 「出し惜しみなしで、端から焦がし散らす!」 疾風にも負けぬ圧倒的な速力を武器に、雷撃を纏った武舞で次々と敵を焦がしていく。 一方で傷ついた前衛へ癒しの歌を捧げるミル。 「人数的に天使の息では間に合わないかな……」 この敵の量では、間もなく全体が乱戦になってしまうだろうと容易に想像は着いたからだ。 最速で猛然と前に出た颯の身体が、高速で移動して残像を作り出す。 「それじゃあ、がっつり殴ろうカ!」 分裂した残像達が次々をクローでエリューションを斬り裂き、リベリスタ達が一斉に数を減らしにかかる。 走る起爆装置と化したミリーの全体への獄炎爆撃は続き、それと福松とイスタルテの攻撃が重なった事で相手に満遍なくダメージが蓄積されていく。 取り零した相手には綾乃、アーベル、のぞみがそれぞれ各個撃破していく。 更に両端の前線からクルトと颯が敵を追い立て、完全にゴーストを追い詰めていった。 乱戦の様相を呈した状態でも、ミルが絶え間なく歌を奏で続ける。 一人欠けた9人での戦いであっても、リベリスタ達の快進撃が止まることはない。 のぞみがアームガトリングで残る敵を貫いた頃には、ほぼすべての敵が駆逐されて向こうの壁に扉が出現していた。 「流石に数が多いですね、でもそろそろ打ち止めでしょう!」 だが既に壁がかなりの勢いで迫ってきている。 颯が残る敵を走りながら残像で駆逐し、扉に辿り着いてこじ開ける。 「急げェ!」 慌てて走り出すリベリスタ達。時間の猶予はあまりない。 ミリーはイスタルテに頼んで翼の加護を分けてもらう。 「ごちゃごちゃ苦手だからエレベーターでいくのだわ!」 このまま階段を登ると迷路に直撃してしまう為、ひと足先に最上階への移動を考えたらしい。 後方のエレベーターへと移動する彼女を、アーベルは温かく見守る。 「感想楽しみにしてるよ!」 そう言いつつ、扉へ駆け出すアーベル達一行。 最後ののぞみがスライディングするように扉へ滑り込み、やがて天井は完全に床へと落ちていった。 さっきブリジットと共に夜空へ消えたはずが、いつの間にか用意されているエレベーター。 ミリーはさっさと乗り込み、最上階のボタンを押した。 あっという間に最上階をすっ飛ばし、そして天井をも突き抜けて更に上へ。 パシュッ!!(←また発射音) 突然襲いかかる浮遊感。エレベーターはやはり夜空へと射出されてしまう。 「またチャレンジできないかしらぁああああぁぁぁぁぁぁ?!」 これでは幾ら炎を撒き散らしても、翼で飛行して押さえつけても効果がない。 二人目の犠牲者は、こうして星になった。 ●三階 派手に入り組んだ迷路の様な通路を進むリベリスタ達。既にかなりの時間が経過している。 イスタルテの翼の加護によって飛行しながら対応し、落とし穴対策は万全に取っていた。 「出来るだけ飛行して移動しましょう」 彼女の声に頷く一行。既にリベリスタの数は8人となり、これ以上の欠員は避けたい所でもある。 先頭に立つ颯は、自身の直観を頼りに落とし穴を警戒しつつ進む。 「小生迷路とかってにがてなんだョネー」 ぼやきながら前進する彼女の後ろ側で、筆記用具を片手にマッピングを続ける福松。 「仕切りによって分けられていると言うことはフロアのブロック分けがしやすいはずだ……」 進んだ箇所にチェックを入れつつ、構造に変わりがないかを確認している。 綾乃が方位磁石で常に方角を確認しつつ、彼のマッピングを手伝っていた。 「もうこりごりです、こんなマンション……」 延々と続く確認作業に、そろそろうんざりした表情で呟く。 いつまでも出口にたどり着けない事に、ちょっと心配になっていたミルが福松へ声をかけた。 「こっちで合ってるのでしょうか?」 仲間たちの傷は、階段を登りながら彼女によって手当てを済ませてある。 福松はミルに頷きを返すと、正面にある壁を指さした。 「あぁ……恐らくこのポイントから先で構造が変わったみたいだ」 アーベルも後方の落とし穴を示して、彼の推測を肯定する。 「そこの落とし穴はさっき見たから、それで間違いないね」 横から福松の手にした地図を覗いたのぞみが、二人の推測を元にマッピングと現況の違いを確認した。 「うっひゃ~、仕切り板も動きまくってますね~」 壁が次々と動いて出口を阻み続けているのでは、迷路を突破できるはずもない。 やれやれと言った表情で、前に進むクルト。 「迷路を楽しむのも悪くないけど、そろそろこちらの都合で道を作らせて貰う」 目の前の壁へと繰り出したのは自身の掌打。 破壊的な気を叩き込み内部へと振動を与えて壁を突き崩していく。 マンションが慌てて新たな壁を作って、彼らの直進を阻害しようとする。 だが福松がこの上なく分かり易く真っ直ぐ行ってその壁をぶっ飛ばして破壊しながら前進し続けた。 幾ら構造を変えようとしても、既にマッピングされて最短突破を狙われてはどうしようもない。 時間はかかったものの、ようやく登り階段のある部屋の奥まで辿り着く事ができた。 後は、最上階を残すのみ。 ●四階 一行に最後に待ち受けているのは、何の変哲もない廊下と7つの部屋。 だがその中で『核』を有した建築主のゴーストが居る部屋はひとつだけ。 残りはすべてエリューションの待つ部屋へと繋がっている。 綾乃はやって来ない二人に少し心配になったのか、エレベーターまで様子を見に行っていた。 「やっぱり二人はいませ……あれ?」 彼女が廊下からマンションの裏手を覗き込む。そこには無残に上空から落下したと思われるエレベーターの残骸らしきものが二基。 「…………」 無言で青ざめた顔をした綾乃が帰還すると、のぞみは状況を確認して一同を見回す。 「それじゃ、2班に分かれて行動しましょうか」 イスタルテは「ちょっと待って」とそれを遮る。 「できれば最初に入りたい部屋があるの……404号室ね」 彼女は事前にミリーと自殺した建築主の詳細について調べを付けていたのだ。 福松はイスタルテの提案に肯いて答える。 「わかった、まずはそこを調べてみよう」 404号室の扉を開け、先頭を切って中にはいる颯。 「さてさて、居るカネー?」 奥へ進んだ先に待っていたのは、イスタルテとミリーが予想した通りの存在だった。 ぼんやりとした姿だが、このマンションの建築主に間違いない。 建築主はぽつんと置かれた椅子に腰掛け、天井から吊り下げられたロープを見つめている。 自身の推測が正しかったと理解したイスタルテが一行に補足した。 「この部屋で……建築主さんは自殺なさったんです」 悲しげな表情のゴーストは一行が訪れたのを見て、無表情に挨拶を送る。 その彼が手にしていたのは、どうやら『鍵』の束だった。 鍵にはキーホルダーが付いていて、かすれた文字で『ドリームマンション』と書かれてある。 恐らくこの名前がマンションの本来の名前になるはずだったのだろう。 それてこれが、おそらく『核』だと推測できたリベリスタ達。 無言の建築主から鍵を受け取ったクルト。 「……『夢』の末路が唯の廃墟では、浮かばれなかったのも無理もない……」 小さく溜息を吐くと、彼はその場で掌打を合わせて鍵の束を破壊する。 クルトは消えゆくゴーストに小さく頭を下げ、その旅立ちを見送った。 誰もいなくなった空間に、ミルはそっと花を手向けた。 「また、人が住めるようになるといいですね」 その言葉に静かにそれぞれ賛同して部屋を後にするリベリスタ達。 部屋を出て彼等が周囲を見回すとマンションは既に元の姿――建築途中で落書きだらけのただの廃墟に戻っている。 4階から降りようとした時、アーベルが声をかけた。 「走り回ったりして大変だったね、お疲れ様」 多少疲れたような表情を浮かべた仲間達に、彼が冗談めかした提案をする。 「階段使う? それともエレベーター、乗って帰るかい?」 アーベルの言葉に、綾乃は無言でマンションの裏手を指し示した。 一同はそこを一斉に覗き込み、誰もがしばらくの間無言になる。 沈黙の後、かろうじて絞り出すような声でアーベルは語尾を付け足した。 「……なんてね」 迷わず階段を降りる事を選んだ一行が、潰れたエレベーターの中からミリーとブリジットを助け出したのは、それから少しばかり先の話である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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