● お話をしよう―― そこから始まるのは簡単な御伽噺であった。まるで喜劇であるかのように語る悲劇に耳を澄ませて。 一羽の鳥が空を待っている。 何処か黒い羽根を羽ばたかせ、赤い頭が印象的な鳥であった。 「なんて、綺麗なんだろう」 そう呟いた『僕』の声が森の中で静かに反響して耳朶を擽る。 森の中なんて、簡単に歩けるよ、なんて嘘だった。 僕は嘘つきだった。 母さんの為に森の中で一番きれいな花を取ってくるよ。 ―――『待っててね?』 それが嘘になるだなんて誰が思っただろうか。 頭の上から帽子が落ちる。 鋭い嘴が何度も何度も僕へと突き刺さった。 ● 「嘘とはショートケェキのように甘美で、生クリームの様に喉に絡む」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタの前で一人のフォーチュナは謳う様に言った。 咄嗟に飛び出た言葉ならばまだしも、約束までを反故にするとなると、途端に胃に重たい甘い物質となるもの――『嘘』。 「さあ、甘くて少し胃には重たい夢をお聞かせするわ」 さあ、その目を開けて。 そう笑ったフライエンジェの少女――いや、厳密には『少女』とは言えない――は頭を垂れる。 「新米フォーチュナとして働くことになった月鍵よ。宜しく、素敵な皆様」 うっとりするように告げた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は直ぐに前を向きモニターを指さす。 「この薄暗い森。昼間でもあまり日光は降り注がない暗い場所なの」 その場所に居ると言うE・ビースト。小さな鳥型だというがその形状はまるで。 「そう、キツツキ」 木に足をつけその真っ直ぐ伸びた嘴で木々へ穴をあける。そんな小さな鳥だ。 「3匹のキツツキのE・ビーストがいるの。もう犠牲者はでてしまっている」 ぐっ、と拳を固めた世恋はモニターに数人の写真を映し出す。子供、老人、青年。年齢層は様々な4人の人間。 犠牲者である4人の人間もE・アンデットとなり果て、森の中を徘徊している。 「少し森の奥に言った所に、綺麗な花が咲いているの。そう、丁度そのあたりが広場になっていてね」 ――そのあたりかしら。その辺りで犠牲者たちはキツツキに殺されてしった。 「犠牲者たちは、まるで甘い夢を見るかのように、それぞれ約束をしてきたわ」 ――母に、恋人に、妻に、友人に。 『噂で聞いたとても綺麗な花を摘んでくるよ、待っていて』 その言葉は嘘になった。三匹の小鳥の所為で。 「甘い夢は甘い侭で。犠牲者がこれ以上出ない様に、力を貸して?」 小さなフォーチュナは優しげな桃色の瞳をリベリスタに向け、祈る様に呟いた。 コンコンコン、其の心に穴をあける様に。 ぽっかりと、嘘を其処に埋める様に。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月09日(土)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● さあ、まずお話をしようか―― 薄暗い森の中を進む『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)はその青い瞳を伏せり、胸に浮かんだ夢に誘うフォーチュナの言葉を思い出す。 「甘い約束……、甘い夢……ね」 嘘と云えば甘い。とても甘く、咽喉に絡む。本来であれば果たされるはずの約束。 何の意味もない、日常。其れは甘いショートケーキなどではなく、ただ素朴な味をしたパウンドケーキの様な、そんな一幕。 「……そんな日常を奪った奴は、倒さないと」 ね?と彼が仰ぎ見たのは『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)の赤茶色の瞳であった。 「ああ、初めから嘘だった訳ではなく、嘘にされてしまった、という事か」 何処か年相応とは言えない彼の言葉はどこか、哀しげなものである。 嘘は他者へ告げるからこそ成立する。自身に嘘をつくだけでは其れはただの暗示。唯の、自己満足。 「待ち人への約束を反故にしてしまった無念」 其れと『嘘吐き』にされてしまった怒りが胸に沸々と湧き上がっているであろう犠牲者を想う。 ただ、何気ない日常、其れを壊したのは一匹の鳥。 「無念も、怒りも、オレ達が変わりに晴らしてやろう」 そう、彼らリベリスタは力なきものを救う事、力なきものの無念を晴らす事、其れこそが仕事なのだ。 たった一匹の鳥―― 「キツツキなら大人しく木をつついてりゃいいのよ」 さらり、と明るい金糸を風に揺らした『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)は呆れたように呟く。 木をこんこん、と突く鳥。其れだけで有れば愛らしく、其れだけで有れば良い。 だが、そんな鳥が突いているのは木ではない。 「人様突き殺してちゃあ正真正銘化け物よ」 こんこんと突くのは人。 ふわ、と小さく欠伸を漏らし、跳ねた金の髪を撫でつけた『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)が歌う様に言う。 「嘘をついて、木をついて」 眠たげな瞼をうとうととしながら開き、その眸が映す色は呆れ。 「肉を抉ってさようなら、と。やれやれですね」 こんこん、こんこん。突くは木ではなく人。嘘を吐いて、突いた。 面倒くさいと彼女が思うのは人を突いたキツツキの所業。彼女の手を煩わせる事になった要員。 働きたくない、とぶつくさと呟いた少女に倒さなきゃねと雅はその黒い瞳を向ける。 「はいはい、こうなったのは過失も過失」 さて、と一つ伸びをして少女たちがたどり着いたのは小さな広場。 「不幸な事故処理ってやつですね」 いっちょやるしかないでしょう、リベリスタ達は、目の前に咲く花を見つめた。 ● 耳を澄ませて、目を閉じて。 『フラッシュ』ルーク・J・シューマッハ(BNE003542)はどの方向から現れるか分からない敵に最新の注意を払っていた。 物音、羽の音、影、視覚と聴覚を最大限に利用して警戒を怠らない。 「なんか、普通の森、じゃないね」 広場をぐるりと見回した彼は何処か感じた肌寒さに其の身を捩る。 「……嘘にされた想いが、この森に縛られているから……?」 花を持って帰るよと、約束。帰ってこなかった、嘘。どうして?どうして?とまるで森が泣いている様で。 「そうかも、しれないな」 暗視を使用し、薄暗さをカバーしている雪白 音羽(BNE000194)はルークの言葉に小さく返して、周囲を見渡す。 ふと、前を向いた雅と綾兎がぴくり、と反応する。 「……羽ばたき音?……来たっ、気をつけてっ!」 雅が振り向きざまにリボルバーから放った早打ちが何かにぶち当たる。ギィ、とゆるく鳴いた何者かが一度怯んだ様にも見て取れた。 『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)が羽根を揺らし、上空から流れ星を草むらへと放った。 木々の間からぽっかりと抜ける空の青。其処に舞うワタリガラスの翼がふわり、と地へと落ちる。 その声にいち早く反応した小路は自身の周囲に浮かばせた刃を草むらへと放ち、切り裂く。ざくざくと。 何かが呻く声が聞こえ、暗視を使用した『闇狩人』四門 零二(BNE001044)が武器を構える。 勢いをつけて飛び込んできたのは赤い頭をした三羽の鳥――『嘘吐き』にしたキツツキだ。 飛び上がった音羽は仲間たちの背後へと移動し、複数の魔法陣を展開させる。 キツツキの背後から現れた犠牲者たるアンデットに綾兎はImitation judgementを構え、剣を振るった。 「可哀想……とは、いわないよ。運が悪かった、とは思うけれどね」 彼の瞳は揺れる、哀しげに、ゆらゆらと。 現れたアンデットは4体。幼い子供、まだ年若き青年、優しげな老人、明るく染めた髪が印象的な少女。 ふらふらと、飛び出してきた彼らは前方にいた零二の腕を殴りつける、が彼は其のまま輝くオーラを纏った一閃を繰り出した。 「……お前たちの今の姿は『嘘』だ」 そう良い、放った一撃にふらついたアンデットへ背後から早打ちが飛んでくる。 全体を見回した福松はどのアンデットが『回復』を持っているかと目を凝らした。 「面倒ですけど、やらねーといけませんからね」 だが、その眸は眠たさにだけ支配されているわけではなかった。小路のもつ攻撃の為の効率動作を共有し仲間たちの攻撃力が瞬時に向上する。 ふわりとワタリガラスが空から降り立つ。 「ねえ、あなた」 仲間たちの背後に其の身を隠していたアンデットへと問いかける。 その声音は優しげで、そして、何かを確かめる様な其の言葉は逃がさないとでも言うようで。 「あなたに帰りを待つ人はいますか」 その言葉が分かったのだろうか、それが返答の為の行動か分からないが小さな少年はゆるゆると首を横に振る。 「……あなたは、約束を護れませんでしたか……?」 再度した問いかけに彼はもう一度首を振った。 ――嘘吐き。 ヴィンセントの意図を分かっただろうリベリスタ達は一斉にその幼い少年へと攻撃を向ける。 森の中、荒れ狂う雷が、アンデット達を包み込む。 ばさり、と白い羽が揺れる。 「約束を破った、待ち人を悲しませた罪悪感に心が苦しいだろ?」 死しても尚、嘘吐きのままでいるだなんて、悲しすぎる。 ふらつく足取りで、それでも、木々の葉を刃の様に使用しリベリスタ達を攻撃するアンデット達。 ざわざわと荒れる森の木々のざわめきが彼らの鳴き声のようにも聞こえた。 ――ざわり。 木の葉はルークと小路の頬を掠める。 ――ざわり。 嗚呼、なんて哀しげな風の音だろうか。 命中率を高め、背後から状況を見ていた小路の目の前で放たれた早打ちにアンデット達が痛みにのたうち回る。 回復手だと思わしきアンデット――それは小さな少年だ――を狙うリベリスタ達は誰も哀しげな表情をしている。 「もう、寝てしまいな」 雷が彼らを打つ。優しげな表情を浮かべた音羽の言葉。 幼い子供。母親との約束を果たせぬまま『嘘吐き』になった子供。 「お前の所為じゃないよ」 其のままでは、辛いでしょう?雅はその意思を其のままに暴れる蛇へと込めた。 蛇は殺意に溢れ、アンデット達を巻き込み、飲み込む。 彼女の強さを、望む強さを込めた攻撃。少女の気持ちはまだ甘ったるいショートケェキの様にふわふわとしているかもしれない。 だが、誰かが犠牲になった以上は負けるわけにはいかない。 「さっさと退治されなさい!」 その言葉を投げかけ、前を向く。残された三体は今だ攻撃の機会をうかがっていた。 ふと、キツツキがばさりと翼を広げて大きな声で鳴く。キイイイイッと気色の悪い程の高音が鼓膜を打撃する。 耳を塞ぐものの間に合わず其の体の向きを仲間の方へ向けた綾兎とルークを見つめ、雅はキッと目を吊り上げる。 「鳥風情に良い様にやられてんじゃないわよ!」 その言葉とともに光が邪気を打ち払う。 軽く礼を言った綾兎は浮かべた優しげな微笑みのままにアンデットへと残影剣を放った。 その眸は優しげ、その眸は悲しげ、その眸は―― 「しんどいでしょ、だから、送ってあげる」 ほら、お休み?彼の剣戟は彼の信じる結果の、彼の為すべき事の為に下された審判を明確に表す。 其れこそがImitation judgement――誰かにとっての正義だ。 「オレはお前たちを狩る……」 目の前を見つめた狩人はもはやふらついている老人へとその剣を振りおろす。 その死は嘘ではない、与えられた死は明確な真実。言葉のままに、ただ、狩る。 それは彼の決意、其れは彼の言葉、其れこそが狩人である彼だ。 「この決意、『嘘』にできるかどうか、試してみろ……!」 振るった剣は彼の思いを其のままに伝えていく。庇おうと前に走りこんできた少女の体へ星屑が降り注ぐ。 黒い鴉はただ。一心に犠牲者たちを見つめて、優しく、哀しげに微笑んだ。 「約束を守れなかったのは、あなた方の嘘――罪ではありません」 ただ、その約束を成し遂げなかった事は嘘ではない、罪ではない。 ただ、愛する人に、大切な人に帰らぬ人を待つ辛さを与えてしまったのは罪かもしれない、と彼は思う。 ふわりと上空を舞い、木々の間を飛び回る。 キツツキの羽ばたきが飛んでくるが彼はその翼を以て、其の攻撃をかわした。 「その罪を雪ぐのは僕たちの仕事です」 その仕事を全うするように彼が落とすのは空からの星。明るく注ぐ星屑はアンデット達の罪を雪ぐ様に落ちてくる。 老人の体が揺れる。そのころ合いを見計らい、福松はルークへと視線を送った。 もう消えかけた小さな翼。ルークが与えた小さな翼は天使のもの。まるで、アンデット達を安らかな世界へ送るかのような天使たち。 「……ごめん」 哀しげな表情で剣を振るうルーク。Luke――その刃に乗せた希望を、Sid――その刃で未来を切り開く。 望んだ未来は明るいもので、優しい彼は本当に寂しげに、寂しげにその刃を振るった。 「アナタ達の思いは嘘じゃなかった、絶対に、証明するから」 だから、早く寝てお終い。 空から天使が落とす雷が、優しい兎の放つ剣戟が、アンデットの体をぼろぼろにする。 にんまりと口元に笑みを浮かべた面倒くさがりは刃を空中から放った。 「寝ている方が絶対に楽ですよ。さっさと昼寝でもしてるといいです」 あたしも早く寝たいですから。 その言葉とともに刃を身に受けたアンデット達が倒れる。 最後に残っていた青年が悪あがきの様に振りまわした腕は雅によって止められ、其のまま地面へとついた。 羽ばたく音がする。舞うはキツツキ達だ。 リベリスタ達が囲んだキツツキ3匹はどれも全体攻撃を受け、少なからず弱っている。 一匹が逃亡の素振りを見せた所に、にたりと笑った雅がその手でキツツキを掴む。 「さんざ暴れまわってはいさよーなら、ってーのは虫が良すぎるんじゃないかしらね!」 逃がしはしない、と笑う彼女が手を離すと、其処へ零二の剣戟が喰らわされる。 「フッ……鳥は籠の中に、だ」 大人しく鳥かごに居るといい。 鳥たちがあげた鳴き声に体がふらつく感覚を覚えながらも綾兎はキッととりをにらみつけた。 「彼らを『嘘吐き』にした罪は重いよ?命で贖ってよね」 木々の間から放たれた雷撃は確かにキツツキ達を痺れさせる。音羽の翼がばさりと揺れた。 「人じゃなく普通に木をつついてればよかったのさ」 ――他人に不幸をばらまきすぎたのだから。 嘘吐きを作り出す、嘘吐きの翼は、得てはいけないものだった。 倒すという意思はウソにはならない、そうルークは思う。攻撃は確かにキツツキ達へと与えられていった。 「お前たちはこんなこと、したくないのだろう?」 ぎり、と唇をかみしめた零二の言葉は強かな水の様に其の心にうちつける。 「ならそれを『嘘』に変えよう」 そう、それが嘘だと言うならば、この薄暗い森の中から放とう。この蒼い空を飛ばしてやろう。 ――本当の、魂の翼で。 嘘吐きの鳥は最後に正直に一度だけ鳴いた。 ● 「あーあ、働きたくないです」 息をするのも面倒なのに、と小路が何処か拗ねた表情で言う。 だが、彼女の目の前にあるのは一輪の花であった。 「犠牲者埋めるから手伝ってくれる?」 「まあ、それも仕事のうちですよね、しゃーねえです」 よいしょ、と腰を上げた彼女は雅と共に埋葬を始める。 共に手伝うと福松は雅に声をかけ、共に穴を掘った。掘る、深く穴を。 眠らせるための穴を。嘘を、其のまま嘘にしてしまうほど掘り下げて。 「ねえ、花、供えたいね」 小さな広場に咲いている花を綾兎は摘む。彼らの愛しい人に、大切な人に届ける事はきっとできないけれど。 嘘を吐いた彼らへの手向けにせめて。 「いいわね、丁度花を供えようと思ってたの」 「じゃあ、還れなかったあの人たちの墓標代わり。キレイに咲いてあげて?」 雅と綾兎は顔を見合せて笑う。 遺留品を回収し待ち人の住所を調べてきたと音羽は笑う。 「花を手向けにするなら、遺留品を持っていってやるのはどうだ?」 其れが待ち人との約束を果たせる事になるかもしれない。 「なあ、それで替わりになるか分からないが、眠ってくれ、これぐらいしかできなくて悪いな」 花を届けた糸も持っていると音羽が振り返る。其れに零二は頷いた。 「この花も、彼らの思いも嘘じゃなかったのだから、ね」 「いや、あえて持ち帰りたくないです。遺品だけで」 この場所の事はなかったと、嘘をついていたい。彼らの思い出にしまいこむように、そっと。 森の中の美しい花なんて嘘です、と。 嘘を嘘で隠す。 「そうだね、でも、花を届けたいのも、嘘なのかな、それでも」 ルークは空を仰ぐ。 花を添える、そこからは各々が花を摘んだ。それから―― 「嘘なんて面倒ですね」 揺れる花を見て小路は小さく欠伸を漏らす。ふわりふわふわ、揺れる花。 さあ、嘘吐きはだぁれ? |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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