● ジューンブライド――。 女性なら、誰もが一度は憧れるものかも知れない。 その6月に、チャペルに佇む新郎新婦――。 新郎は、オフホワイトのロングタキシードに身を包み。 新婦は、純白のドレスに色とりどりの花で飾られたブーケ。そして、長い長いヴェールで髪を飾っていた。 神父がピアノを弾く男性に視線を送ると、高らかに流れていた讃美歌の音色が幾分小さくなった。 「この佳き日に、2人は夫婦となることを誓いました。 その幸せが末永く続くよう――」 『そんなことはさせないわ――!!』 チャペルの扉が、凄まじい音を立てて開かれた。 背中から陽光を浴び、佇む女――。 女は、純白のウェディングドレスを着ていた。 「うわ……」 新郎の、上ずった声が上がる。 「よくも……私を捨てたわね……!」 ウェディングドレスを着た女は、深紅の絨毯が敷かれたヴァージンロードをずかずかと進む。 「あんたに幸せなんか上げない! 一生後悔する結婚式にしてやるわ!!」 ウェディングドレスの女は、そう叫ぶとドレスに隠れていた手に握っていたナイフを自らに突き立てた――。 ● ブリーフィングルームのスクリーンには、美しいステンドグラスがあしらわれた美しい教会が映し出されている。 「これが、今回の仕事場よ」 『もう一つの未来を視る為に』宝井院 美媛(nBNE000229)は、集まったリベリスタ達に資料を配る。 「下世話な言い方をすると……二股男が結婚するときに、捨てられた方の女が教会に怒鳴り込んできて、自殺を図った……。 と、いうところね…。ただ、自殺した彼女は、エリューション化してしまった――」 「怒鳴り込んで自殺?」 一人が疑問符を投げかける。 「嫌がらせ、かしらね。結婚した2人にとって幸せな思い出になるはずの場所で自分が自殺をすることで、その日を一生の傷にしたかったのかも知れない。 後は……忘れられたくなかったから、かしら」 思い出したくないような記憶は、時に頭から離れなくなるから……彼女は、2人の幸せの影にある自分の姿を忘れないで欲しかったのかも知れないわ。と、美媛は言葉を続けた。 「自殺したのは、氷川冴子。28歳のOLで、新郎の二階堂肇とは同僚ね。 肇との付き合いは数年に及んでいたらしいわ。当然、冴子は結婚するものと思って交際していたのね。 けれど肇は、上司に紹介された女性、三上玲奈と結婚したの」 「酷い男ね」 リベリスタの呟き。美媛は「本当ね」と返すと説明を続ける。 「幸いと言っていいのか……、2人だけで教会で式を挙げているので、参列者などは居ないわ。 皆は、冴子がエリューション・アンデッドと化し、神父とピアノ伴奏者が殺された後、現場に到着するわ。 出現する敵は、エリューション・アンデッドの冴子と、冴子に殺された神父とピアノ伴奏をしていた男性。 それから――幼児の姿をしたエリューション・フォースよ」 「幼児の姿をした?――まさか」 「そう……冴子は、肇と別れた時には、既に妊娠していたの。 別れた後、堕胎手術は受けたけど、彼女の思念が我が子の姿を作り出したのね。 その子供も襲い掛かってくるわ」 リベリスタ達の間に重い静寂が広がる。 「新郎と新婦の保護と、エリューションの全滅が仕事よ。――よろしくお願いね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:叢雲 秀人 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月09日(土)23:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 開け放たれた教会の中から響く、女の悲鳴。 リベリスタ達が扉から教会の中を覗き込んだ時、エリューションと化した神父とピアニストが、新郎と新婦に掴みかかろうとしていた。 「……一般人の保護をお願いします。私は神父を抑えます」 世界を崩界から護る為にその身を捧げた、『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)は、端的に伝えた。 彼女にとって、結婚式という言葉に思う事も、一般的には眉を顰められるような存在である新郎に思う事も、無用の物である。 けれど、感情を表さぬように言葉を紡ぐその一瞬の間から、僅かばかりの思いを感じるのは気のせいだろうか。 「任せるにゃ! 行くにゃ!」 佳恋の言葉に元気に答えたのは、『マッハにゃーにゃーにゃー!』加奈氏・さりあ(BNE001388)。 一般人の保護を担う彼女は、同じ役目を持つ『ラブ ウォリアー』一堂 愛華(BNE002290)と共に、教会の奥へと向かう。 新郎と新婦の手前には、今回の事件の根源となるE・アンデッド『氷川冴子』と、幼児のE・フォースが居たが、2人は驚くべき速さでこれをすり抜け新郎新婦の元へ到着した。 「ジャマシナイデ……」 冴子を中心に教会の中を暴風が吹き荒れる。 「にゃー!!」 「きゃー!!」 さりあと愛華は暴風に吹き飛ばされそうになりながらも、新郎と新婦を庇う。 花嫁の長い長いヴェールが風に巻き上げられ、色とりどりの花に彩られたブーケが粉々に散って行く。 「あ……あぁ……、あぁ……」 花嫁は、自らを庇うために体に覆いかぶさるさりあの腕をぎゅっと掴み、恐怖に怯え震えていた。 彼が見詰める先には、真っ白なウェディングドレスに身を包む、冴子の後姿。 「……腹いせに自殺するほど悲しいことには同情しますが、かといって、無関係な人を巻き込んでまで……というのは、看過できませんね。 氷川さんの悲劇をこれ以上拡大させないようにしませんと」 アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)は、仲間たちの攻撃力を高めるべく手を打った。 『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)は、四色の魔力を幼児のE・フォースへと撃ちこむ。 攻撃を受けた幼児は転倒したが、すぐさま立ち上がる。 そのまま、ぺたぺたと歩み寄ると、冴子をじっと見つめた。 微笑む冴子。 嬉しそうに笑う、幼児。――笑う。 どんどん高くなる幼児の笑い声。それは音の刃となり、リベリスタ達に襲いかかった。 すかさず、来栖・小夜香(BNE000038)の癒しが仲間たちを包み込む。 それと時を同じく。 幼児と冴子の間を引き裂くように、鴉が飛来する。 鴉は冴子に襲い掛かり、顔を、胸を、腕を嘴で突いていく。 「……愛しい男を失い子を喪い、妻にも母にもなりそこねた、か。 今の気分はどうじゃ? 全てが厭わしく呪わしいかのぅ?」 嘴に抗う冴子の耳に、少年の声が響いた。声は少年だが、その口調には落ち着きと重厚さが伺える。 『嘘つきピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)は、振り向いた冴子に微笑む。 式神の鴉を呼び出したことも、挑発的な言葉を吐く事も、冴子を自らに釘付けにするためだ。 特に、守りの要たる小夜香に何かあってはいけない。 咲夜は、冴子の頭から爪先まで眺めるように視線を移動しながら口元に手をやると、くすりと笑った。 「……彼を繋ぎ止められなかったのは、魅力が足りなかったからかものぅ」 「――ッ」 冴子の表情が一瞬にして鬼の形相に変わる。 そして、冴子は咲夜の作戦通り、彼に釘付けとなった。 『Fuchsschwanz』ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)は、教会奥で仲間に庇われる新郎に視線を送る。 (彼にどんな理由があったのかは分かりません。 ただ、幸せになる前にもっとやる事はあったでしょうに) 少し許せない。と、思う。けれどそんな気持ちは、個人的な事。神秘が関わる以上、一般人である彼は保護対象である。 覚悟を決めたドーラの弾丸は、冴子と幼児を狙い撃った。 しかし、射線を遮られたため、優先する標的であるピアニストに弾丸を届かせることは出来なかった。 ピアニストは、悠然と鍵盤に指を滑らせる。 その音は、エリューションの速さを高めていく。 佳恋がブロックする神父の腕が呻りを上げ、彼女に聖書を叩きつける。 佳恋は、白鳥乃羽々を以てそれを受けると、その腕ごと神父を弾き飛ばした。 後方へごろごろと転がる神父。 「今だねっ」 「今だにゃー!」 愛華とさりあが新郎と新婦を抱きかかえ、教会の扉へ向かって駆け出した。 「イカセナイ……!」 冴子が、愛華とさりあを引き留めようと手を伸ばす。 しかし、咲夜のブロックにより移動は塞がれた。 「ジャマ、シナイデ……!」 冴子が叫ぶ。その叫びは、冴子の空洞になった瞳から涙を呼び。 ピシリ、と咲夜の体が凍りついた。 「やるのう……。しかし、これしきは何ともないぞ」 咲夜が命じるままに、鴉は冴子を攻撃し怒りを齎していく。 苦しそうに喚く冴子の純白のウェディングドレスは、いつしか血の赤に染まって行った。 ● ピアノが美しい音楽を奏で、神父が聖書を読み上げる。 しかし、永遠の愛を誓う十字架の前には、新郎新婦はいない。 彼らは、今まさに教会の扉から外に出ようとしていたところだった――。 「ニガサナイワ……」 それは、新婦を抱えたさりあが、扉から飛び出した時だった。 教会の中に大旋風が吹き荒れる。 シルフィア、ドーラ、小夜香が旋風に巻き込まれ天井に叩きつけられた。 「ぐ……っ」 「あぁっ!」 教会の屋根すらも吹き飛ばしそうな風は、3人を天井に磔にしたまま更に苦痛を埋め込んでいく。 風の猛威が彼女たちを手放したとき、3人の体は天井から床に落下した。 「きゃぁっ」 「――っ」 そのダメージは凄まじく、小夜香はなんとか回避したものの、シルフィアとドーラは雷陣のバッドステータスを受けた。 そしてその旋風は――、新郎を抱えていた愛華までをも巻き込んでいた。 凄まじい風により重厚な教会の扉は閉められ、新郎は愛華と共に教会内に取り残された。 「開けろ! 開けてくれ!!」 新郎――肇は、固く閉ざされた扉を叩く。 その手を愛華がひっぱり、教会の片隅に新郎を避難させた。 「せめて視界の外にいないと危ないよ!」 (赤ちゃんまで作っておいて捨てるような最低最悪の男を守らなきゃいけないなんて。 でも新婦さんには罪はないし、お仕事と割り切ってやらなきゃねぇ……) 己の思いは胸の奥にしまい込み、愛華は自らの身を盾にして新郎の前に立つと、未だ荒れ狂う暴風から新郎を護ることに徹した。 引き離された新郎と新婦。 教会外に逃げ出した新婦の様子は判らないが、教会の隅で愛華に護られながらガクガクと震える新郎の様子はリベリスタ達からでも確認できた。 神秘と言う存在に直面しているのだから仕方ないとは思いつつも、自分より年下の愛華の体に縋り完全に盾にしている姿は如何なものか。 そしてその様子からは、外にいる新婦の事など考えていないことが容易に想像出来た。 今まで美しい讃美歌を奏でていたピアノの鍵盤が、耳障りな音を響かせる。 その不協和音は、リベリスタ達の頭に響き、心を苛立たせた。 ピアニストの音に囚われたのは、咲夜、佳恋、シルフィアの三人。 音の刃に身を刻まれ苦痛に耐えるが、シルフィアはその刃により、怒りの淵に落とされた。 その為、未だ麻痺に落とせていない幼児を攻撃の対象から離した彼女は、ピアニストへと攻撃の手を移す。 「貴様……!! 覚悟しろ!!」 怒りに自身を失いつつあるシルフィアの攻撃により、ピアニストは4種の呪いをその身に受ける事となった。 ピアニストの手が止まり、教会の中に静寂が訪れる。 「――」 咲夜にブロックされたまま、冴子はその洞穴のようになった瞳で肇を凝視する。 愛華の背中から顔を覗かせると冴子と目があった肇は、愛華の腰にしがみ付いた。 「こっち見んな化け物!!」 足をガクガク震わせながら少女の背中に隠れ、かつての恋人がリベリスタ達に攻撃される様を見ても、彼の心は痛んだりしないようである。 「……ユルサナイ」 冴子の唇が戦慄く。 しかし、攻撃に移ろうとする手首を、咲夜が抑えつけた。 「これ以上は、いかんぞ」 緩やかに首を振る咲夜。 その仕草とは裏腹に掴まれた手首は振りほどくことは叶わず、冴子は臍を噛む。 「祝福よ、あれ」 小夜香の光がシルフィアを浄化すると共に、仲間たちの受けた傷を癒していく。 回復し、戦いの体制を整えたリベリスタ達を見遣ると、幼児は怒り叫び、その怒りはピアニストの異常を打ち消した。 「振り出しに戻りました。気を抜かずに行きましょう」 ドーラが冷静に状況を告げると、Oerlikon cannonが火を噴いた。 その攻撃は佳恋のブロックする神父にも当たり、その隙をついた彼女のメガクラッシュが神父を壁際に吹き飛ばす。 神父を壁際に追い詰める体勢になった佳恋。 彼女には一つの疑問があった。 今回の事件の発端となった冴子の自殺は、新郎新婦を憎んでの事。それは佳恋にも理解出来る事。 しかし、エリューション化した後に冴子が命を奪ったのは、神父とピアニストであった。 (エリューション化した後の意識はまったく別物だったのか、それとも何らかの理由で後回しにしたのか……) それにしても、現状を見れば、新郎は教会内に居るものの、新婦は既に教会外に逃げ延びている。 そして、退路を隔てた際の行動にしても、新郎だけが残ればいいと思っていたようにも受け取れるのだ。 (私には関係の無いことですが、少し気になります、ね ) 佳恋は神父をブロックしながらも、背中側に位置する冴子の事を思っていた。 アルフォンソのフラッシュバンは、仲間を巻き込まないよう注意しながら放たれた。 光に飲み込まれたのは幼児とピアニスト。そのうち幼児が動きを止める。 神父は幼児を癒すため天へ祈りを捧げようとした。 それを止めようと佳恋は白鳥乃羽々を翻す。放たれたメガクラッシュは神父の頭を弾き飛ばし。 そして、更に――。 「神の僕が黄泉路に迷うとはな……ならば私達が直々に神の元へと送ってやろう……但し地獄の、だがな!」 シルフィアの声と共に、眩い光が辺りを包み込んだ。 「皆さん、ピアニストを狙ってください!」 シルフィアの攻撃を受けたエリューションは、冴子を除き大きなダメージを受けているものばかりだった。 ドーラは敵の疲弊した様子と作戦を鑑みて叫ぶと、ピアニストを撃った。 しかし、その直後冴子の大旋風が吹き荒れた。 まるで彼女の怒りを映し出したかのように、先ほどより勢いを増した旋風は、ドーラとシルフィアの生命力を奪い去り。 二人が起き上がることは叶わなかった――。 ● 先の攻撃でピアニストと神父が倒れ、更に幼児は麻痺したまま。 冴子は幼児を抱きあげた。 「……イ」 抱き上げた幼児の麻痺を解除する術を持たぬ冴子の頬を、涙が伝う。 「ゴメンネ……」 幼児の頬を愛しそうに撫でる冴子の手は、まさしく母そのものの優しさを持っていた。 けれど、その涙はリベリスタ達へは氷の刃となって襲い掛かっている。 小夜香が氷結を解除し、リベリスタは冴子と幼児へ向け、一斉に攻撃を放つ。 その時、教会の扉がバァン! と、音を立てて開いた。 「お待たせしたにゃ!!」 新婦を避難させ、混乱する彼女を宥め終えたさりあが戦場へと復帰したのである。 一足飛びに冴子に近接したさりあは、ねこぱんちと称するソニックエッジを打ち込んだ。 その一瞬を縫って、愛華は肇を外へ連れ出そうと試みる。 けれど、冴子は傷だらけの身を翻し扉を塞いだ。 腕にはまだ、幼児を抱いたままだ。 「イッチャダメ……」 その言葉は、肇ではなく、愛華へ向けられる。 その言葉は、まるで懇願するように彼女の心に響き、愛華の脚を止めた。 冴子は、愛華の後ろに隠れたままの肇を見詰める。 「シアワセニナルナンテ、ユルサナイ」 呟いた後、胸に抱いた幼児を更に抱き寄せた。 「デモ……、アノヒトヲ、ワタシトオナジメニアワセタラ……。 モット、ユルサナイ……」 「――!!」 愛華は、その言葉に冴子の想いを感じ取ると、肇の前から体をはずした。 「アノヒトハ、ワタシトオナジメニ、アワセナイデ……。 ……ワタシトオナジオモイヲ、モウ、ダレニモサセナイデ……。 チカエナイナラ……」 隠れる者のなくなった恐怖のあまり呼吸さえもままならぬまま、肇は冴子を凝視していた。 「チカエナイナラ――コロス――」 「――!」 冴子は、幼児を抱えたまま最後の力を振り絞り旋風を巻き起こした。 全ての力をかけた旋風は、教会の座席、ピアノなどを巻き上げるほどの勢いで吹き荒れる。 「チカイナサイ。 シアワセニナルト……。 ――カノジョヲ、シアワセニ、スルト」 冴子の声が、旋風の中、響く。 「わ、わわわわかった! わかったよ!! だから頼む――殺さないでくれ!!」 愛華の腰に痛いほどにしがみ付き、肇は叫ぶ。 その声を聴くと、旋風は止まった。 幼児を抱きしめたまま、冴子はうっすらと微笑みを浮かべる。 冴子は、佳恋へ向き直ると一つ頷いて見せた。 その顔に些かの憂いを秘めて、佳恋は冴子の眼前に踏み込む。 「貴方がエリューションでなければ、自殺しようが人を殺めようが、私のあずかり知る所ではありませんが――」 何を思っての行為だったのか、その理由は如何様なものだとしても。 エリューションと化したものは、佳恋にとっては討つべき相手。 だからこそ――。 「貴方を、討ちます。私にできることは、終わらせることだけなので」 ――冴子は、事切れる刹那。 抱きしめた幼児の命を、奪っていた。 偽りの生を受けた我が子の命を奪い、その子を大事そうに抱えたまま、冴子は二度目の生を終えた――。 「哀れだな……。男の不義理も罪だが、見る目の無かった己の選定眼もまた、罪なのだから……」 だからこそ、己の命を賭けて男に永遠の愛を誓わせたかったのか。 冴子の躯を見詰め、シルフィアは思う。 ● 小夜香は肇の前に立つと、「一つ聞きたいことがあるわ」と告げた。 「な、なんだよ……っ」 肇の声は上擦り、未だに舌は縺れたままだ。 しかし、これならば饒舌に嘘を語ることも出来ないだろう、真意を測るにはもってこいだ。 「冴子さんと付き合っていた時に、結婚の約束はしていたの? そして、それを餌にしていたことはある?」 「――!!」 言葉は発せずとも、その表情だけで小夜香は真実を読み取った。 「お仕置きしたければするといいわ」 小夜香は、肇の前から退くと腕を組んだ。 「ありがとぉ」 次いで肇の前に立ったのは、愛華。 先ほどまで身を呈して自分を庇っていてくれた子ではないか。肇は安堵したように息を付く。 しかし、それも一瞬のことだった。 「氷川さんはあんなことになっちゃったけどぉ……。 悪いのは絶対二階堂っ! お前だぁぁっ! ――氷川さんの痛みを思い知れぇぇぇぇっ!!」 本来、リベリスタは一般人にその力を奮ってはならない。 だからこそ、かなりの加減を加えていた。 「――!?」 しかし、今まで舌先三寸で危機を乗り切り、殴られたことなどない肇には凄まじい衝撃であった。 頬を抑え、眼を白黒させる肇。 さりあが腰に手を当てて歩み寄り、ビシっと肇を指差す。 「人を傷つけると自分に返るのにゃ! わかったにゃ!?」 一喝すると満足したように外に駆け出したさりあは、新婦を連れて戻ってきた。 彼女は勿論、無傷である。 咲夜は、肇と新婦――玲奈に魔眼をかける。 『今見た光景は悪夢じゃ。二人とも幸せな式を挙げておる。――安心せい』 その後、咲夜は肇にしか聞こえない声で囁いた。 「この様な悪夢を見たのは罪悪感からじゃよ。 彼女を不幸にしたと思うなら、奥方をより一層大切にしないと……。 またこの様な悪夢をみるかもしれぬのぅ?」 小夜香は肇のタキシードを引っ張ると、耳打ちする。 「その人だけは大事にしなさい。 氷川さんの分までね。 さもないと、夢と同じ事が起きるわよ? その時も都合良く助けてもらえるだなんて思わない事ね」 「――どうしたの?」 呆然とした様子の肇を、心配そうにしている玲奈。 「あ……」 その声に、肇は正気を取り戻し、玲奈を見遣った。 「なんでもない。 あ……、いや違う」 真剣な顔をして、玲奈に向き直る。 「俺は、君と結婚するために、1人の女性を不幸にしてしまったんだ。 だからこそ誓うよ。 ――玲奈だけは、絶対幸せにする」 教会を出ると、咲夜は空を見上げる。 自分の命を投げ出して、二人の幸せを願った女(ひと)は、もう居ない。 「……苛めてしまい、すなかったのぅ。 そなたは十分魅力的な女性じゃったよ。 どうか、おやすみ。 子と共に、優しい夢の中へ……」 咲夜の傍らに並ぶと、小夜香は祈りを捧げた。 その隣にはアルフォンソの姿もある。 永久の誓いを捧げた二人にではなく、天に昇った命へと。 「救いよ、あれ……」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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