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<六道紫杏>Maggoty Magenta

●六を冠する我が姫へ
「――如何でしょうか、私のキマイラ『心臓マゼンタ』はッ?」
 ラボ。最上級の椅子に座す姫へ、白衣の男は緊張と得意を混ぜたような顔で訊ねた。
「……」
 ところが、六道の兇姫こと六道紫杏は椅子に座し、両手に持った紙へじっと視線を落としている。その機械の尻尾が機嫌よく揺らめいている。
 何だろうあの紙は。少なくとも自分が提出した資料では無い。質の良い紙、筆で清水の如く書かれたらしい達筆な文字。自分は筆で資料を書いた覚えは無い。手紙、だろうか?
 あの、と問いかけた言葉を飲み込む。やけに、やけに幸せそうな紫杏の顔、雰囲気――尤も彼女が感情を隠す事なんてまず無いのだけれど――サテどうしようか、完全に自分は蚊帳の外だ。
 ややあって、文を大事そうに仕舞い込んだ紫杏は彼を見る事無くただ一言、
「『テスト』に移りなさい」
 その言葉に対し、果たして『仰せの儘に』以外の何が言えただろうか?
 あれはきっと、恋文に違いない。そして今彼女が書いているのはそれの返事に違いない。認めたくないが紫杏には恋人がいるのだ。確か……そう、逆凪の、凪聖四郎とか言う男。
 おのれと心の中で舌打った。聖四郎。あの男の所為で我らが姫はこっちを向いてくれやしない。
 ならば実力でこちらを向いて頂くのみだ――その為には、この『テスト』で素晴らしい功績を上げねばならぬ。
 今に見ておれ、胡散臭い魔法使いめ。魔法より科学が優れている事を見せ付けてくれる。
 まだ『作品』は完全ではないが――テストの中で『完全』にすれば、『完全』な結果を得られれば、それで良いのだ。
 嗚呼、全ては我が姫の為に!

●アークにて
「サテ――求道系フィクサード派閥六道の『兇姫』こと六道紫杏が率いる『エリューション・キマイラ』の出没を感知致しましたぞ」
 事務椅子をくるんと回し『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)がリベリスタ一同へ言う。
 キマイラ。ここ最近神秘界隈の裏側で蠢いている謎の存在――アザーバイドでもなく他のエリューション・タイプにも当て嵌まらぬ、不気味な研究によって人為的に作り出された生物兵器。僅かでも耳にした事もあるでしょうとフォーチュナは此度の説明を始めた。
「キマイラの名は『心臓マゼンタ』。肉塊と血を寄せ集めた様な赤い液状のキマイラなのですが、これをフィクサードがその身に寄生させておりまして。 
 彼の名は『悪夢蛆』フレッド・エマージ。紫杏様の手駒にして研究者でございます。この『心臓マゼンタ』は彼の作で――正気の沙汰とは思えませんが、自らの心臓及び血液に寄生させ、半一体化しとります。
 それによって彼の身体能力は、まぁ、化物のそれですな。自動回復能力もあり、しぶとい感じでしょう。
 更に『血液に触れる』事によって自律行動する小型の蛆虫状ゲルも作り出す事も出来ます。蛆虫自体の個体力はそれほどありませんが、御油断なく」
 今回の任務はこのフィクサード及びキマイラの撃退か討伐であり、曰くフィクサードは一定以上のダメージを受けると撤退すると云う。
 そしてモニターに映し出されたのは暗い暗い路地であった。横に並べるのは3人ほどか、足場はしっかりしているようである。
 そこに――真っ赤な何かが、ぶちまけられている。真っ赤な。何だ。人だ。人だったものだ。
「……フレッド様はリベリスタの皆々様を誘き寄せて戦う事が目的のようでして」
 この惨劇はその為か。惨たらしく八つ裂かれた人の過去形。元はどんな性別だったのか、何人殺されたのか、推し量る事すら難しい。出来る事ならば食い止めたい、が――間に合わないのですとメルクリィは俯き首を振った。
「今回は今までのようにどこかから研究者が監視している、ということはないようです。
 ……研究者が自ら『実験体』となっているので、まぁ可笑しい話ではないのですけれど」
 されど単身で出ている以上、それ相応の危険性はあると言う事だ。お気を付け下さいねとの言葉の後、メルクリィはリベリスタ一同を見渡して。
「さて、説明は以上です。それではお気を付けて行ってらっしゃいませ!」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月10日(日)23:06
●目標
 フィクサード『悪夢蛆』フレッド・エマージ及びキマイラ『心臓マゼンタ』の討伐or撃退

●登場
フィクサード『悪夢蛆』フレッド・エマージ
 フィクサード主流七派『六道』に属する研究者フィクサード。メタルフレームの男。
 心臓マゼンタを自らの心臓に寄生させ、半一体化している。
 非戦・一般戦闘スキルあり
 心臓マゼンタと半一体化している事で身体能力などが上昇しており、タフネスで常時ブレイク不可のリジェネレート効果を持つ。
 また、自他問わず触れた血液から蛆虫を作り出す能力をもつ。作り出す数は血液の量に依存する。
 一定以上の被ダメージで撤退します。
>主な戦法
 マゼンタα:近複、致命、必殺
 マゼンタβ:近範、連、流血
 マゼンタγ:遠2、弱点、流血
 マゼンタΩ:全、ショック、ブレイク
 EXベルゼビュートの召使い:遠範、HP吸収、呪殺
 など

キマイラ『心臓マゼンタ』
 フレッドの心臓及び血液に寄生し、彼と半一体化している液状のキマイラ。
 フレッドの意の儘に動く様だ。

蛆虫
 心臓マゼンタが血液から作り出した蛆虫状の赤いゲル。大きさは人の頭部ほど。
 個々の能力は低め。飛びついて動きの阻害・噛み付きによる持続ダメージを行う。
 開始時は10体いる。

●場所
 町の隅の路地。横に3人ほど並べる程度の広さ。
 時間帯は夜。
 足場はしっかりしているが外灯などは無く、暗い。
 一般人の惨殺死体がぶちまけられている……

●STより
 こんにちはガンマです。
 六道キマイラ。
 宜しくお願い致します。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
プロアデプト
山田 茅根(BNE002977)
スターサジタリー
リィン・インベルグ(BNE003115)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
プロアデプト
シメオン・グリーン(BNE003549)
レイザータクト
日暮 小路(BNE003778)

●あ(か)い
 湿った空気、陰鬱な夜の空気、首に纏わり付いて鬱陶しい。ある種の背徳感さえ感じさせる街の裏側、十字架を手に神に祈りを捧げるのは敬虔なる狂信者。
「主よ、我らにご加護を」
 これが初陣。『祈りの弾丸』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)にとって、生命、それもエリューションを人の手で作り出す事などとても正気の沙汰に思えなかった。
「なんておぞましい存在なのでしょう。生命と我等が父への冒涜です――何としても殲滅します」
 排除こそが信仰。Amen、と十字架と聖書の代わりに二丁の銃をその手に持つ。主よ、どうか罪なき人の子をお守り下さい。
 そんな信仰者を、暗い路地を明るく照らし渡したのは翼によって宙に浮いた来栖・小夜香(BNE000038)が放つ光、大きな十字架を携えるその様はさながら天使の如く。
「自分の心臓と一体化させるとか信じられないわね。まあ、無関係の人に植え付けたりするよりはいいんだろうけど……上手く捕まえたいけれどちょっと厳しいかしら?」
 ま、まずは撃退から頑張りましょうか。言葉と共に己が魔力を活性化させる。皆が心置きなく戦えるようにするのが彼女の役目。
「好きな相手の気を引きたいために頑張る。これは愛ですね、愛。素晴らしい、応援します!」
 ニッコリ笑って山田 茅根(BNE002977)はぐっと拳を握り締める。しかしその口から出たのは反対の接続詞。
「……と、普段であれば、微笑ましく見守る所なんですが。問題は彼等がフィクサードであり恐らくは、非道な実験を繰り返しているという事でしょうか?」
 残念です。言いながらもその顔は笑顔。
「ウジ虫、クソ蟲、ゴミ虫……闇に蠢く虫フィクサードを踏みつぶして銭もらうお仕事でさぁ」
 ほな、ウジ虫掃除しやすかぁ。『√3』一条・玄弥(BNE003422)は首をコキリと鳴らして気儘に一歩、されど意識に油断はない。
「蛆は引きこもりの天敵なんですよ。ゴミをほっといたら沸くんです。マメにゴミは捨てないといけません。つまり蛆を沸かすこいつはゴミです。あたしはこれを駆除しなくては。だってゴミですもの」
 背中の布団を背負い直し、『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)はキッパリと言い切った。
「最近の六道の活動は目覚しいものがあるね。おもしろ……じゃない、うらや……」
 こほん。『落とし子』シメオン・グリーン(BNE003549)は言葉を濁し、「いっぱんじんをころすなんてゆるせない」と我ながら酷いやと思う程の棒読みで一言。バイクから降り、自らの集中力を高める。
「自らの肉体を養分にして実験とは、研究者の鑑だね。彼自身にそんな殊勝な気持ちなんて全く以て無いのだろうけど。
 しかし、僕等を実験道具として呼び出すとはね。その代償はしっかりと払って貰うとしよう」
 ヘビーボウを手に薄笑み、『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)は血の臭いが増してきた彼方を見澄ました。

 しゃわしゃわ。
 しゃわしゃわ。

 音が聞こえる。暗闇の向こうで何かが蠢く音が。
 それと共に鼻を吐くのは鉄臭さ、血の臭い、死の臭い。
 『三高平の狂拳』宮部乃宮 火車(BNE001845)が強結界を張ると共にL2D-1000lm・改によって暗闇を照らしてみれば――ぶちまけられた大量の肉片、飛び散った血液、蠢く蛆虫、赤い液体をその身に纏ったフィクサード『悪夢蛆』フレッド・エマージが視界に映った。笑んでいた。
 それを鼻で笑い、火車は拳を鳴らして前に出る。
「人の為とか、自己犠牲とか、嬉しそうに囀ってるけどよぉ?
 結局ソレって自分の為じゃねーかよ。なぁ?」
「……業炎撃の、宮部乃宮か。何だ? 文句あんのか? 我々個々の努力が姫の幸福に繋がるのだ」
「へっ。自分勝手に人の為とか言って自分を犠牲にしたりして、一体どんな押し付けだ?
 笑っちまうぜ……都合良く使い潰されて逝けや」
 拳の業炎が、開幕の合図。

●マゴットリ
「し、死体如き怖いことあらひぇん」
 最早形を成していない血肉の塊に恐怖を感じる嘘素振りを見せつつ、玄弥は全身より出した漆黒の闇を無貌の武具としてその身に纏う。
「せんてひっしょー、面倒なのでとっととやるです!」
 言葉通り、先ず攻撃に出たのは小路だった。不可視の刃を思念の力で転移させ、切り裂くものはフレッド――ではなく、その離れた場所で地面を這いずる蛆虫達。液体の詰まった風船が破ける様な音と、それの材料となった血液が辺りに飛び散る音。フィクサードはその手の甲にまで飛び散った血で新たな蛆を作りつつ、口角を気味の悪い程に吊り上げて。
「全く、もう少し人目の付かないところでやって欲しいね。正義の味方は取り繕う事も仕事だからさ」
 仕事は少ない方が良いだろう?死体をちらと見遣ったリィンは超精度を誇る技巧で呪いの矢を放つ。
「さあ、思う存分可愛がってやるとしよう」
 命中して爆ぜた呪詛を見、くつりと笑った。
 リベリスタを見据えるエマージ。そして全員に襲い掛かる衝撃波。骨が軋み、脳が揺れる。衝撃。次の瞬間、それを塗り替える様に瞬いたのはシメオンが放った厳然たる聖光だった。殺す。殺して奪う。他人から奪うのが一番であると謳うかのバロックナイツの様に。そんな殺意を笑顔の裏に潜ませて、落とし子は研究者に問うた。
「……今の衝撃波も、マゼンタによるもの?」
「見りゃわかるだろ……って、お前アレか、『ノーマン』の時の」
 周囲の蛆が破壊されていく中の会話。リベリスタよりの攻撃を手より出した赤い液体を盾の様にして受け止めて、エマージがシメオン。彼は過去のキマイラ事件にて『遠くから監視を行っていた六道研究員』の一員だったのだ。からかう様に笑い、嫌に親しげに声をかける。
「スタンリーの旦那に俺達の仲間入りしたけりゃお仲間のリベリスタぶっ殺しからにしろって言われてたんだよな。どうした、やらんのか? まさか今更リベリスタらしく振舞うってのか? お前はどっちかっちゅーと『こっち側』だろーに」
「ノーコメントで。……マゼンタの安全性と完成度について教えてくれるかな?」
「これが答えだ!」
 マゼンタβ。荒れ狂う血液の爪が更に赤を作り出す。飛び散る血液はエマージが触れれば蛆となり、しゃわしゃわという音が大きくなった。もう一つの質問――『覚醒者に寄生させた場合のフェイトの有無』だが、これは見れば分かる。彼にはフェイトがある。なので、次。
「マゼンダ単体での活動時間は?」
「お前に教える義理はない。お喋りは仕舞いだ、『フィクサード』!」
 皮肉と共に大きな踏み込み、マゼンタα。エマージの手から溢れ、赤い柱となった心臓マゼンタがシメオンの頭部に直撃する。ぐしり、と何かが拉げる嫌な音。されど彼は先を消費し踏み止まり、柔らかな笑顔で尚も質問を。
『移植は可能?』
 テレパシー。仲間には聞こえぬ声。それにエマージはこう答えた。
「『テレジア様』が居なけりゃ、てめーらにキマイラは扱えねーよ!!」
 哄笑、衝撃、それ以上の質問にはもう答えないと態度で語る――その横っ面に、火車が渾身の業炎撃を叩き込んで。
「いよぉ 三枚目の大根役者! 舞台にすら立てない気持ちはどうだい!」
 纏わり付く蛆は完全無視、寧ろ行動がてら踏み潰す。邪魔はいらない。防御も要らない。攻撃、攻撃あるのみだ。オレに集中してろよ?大俳優!そう吐き捨てた言葉と共に炎の鬼爆で襲い掛かる。応戦と、エマージが放つのは爪状にしたマゼンタにより切り裂き攻撃。炎と血、二つの赤が散る。
「コレって アンタのテスト ……じゃねぇんだろ? テメーの心臓に居る テメーとは別のヤツのテストだろぉ?
 自分自身で勝負もしねぇ! んなヤツぁ六道紫杏っつぅ頭の螺子ぶっ飛んだようなヤツの目の端にすら……居ねぇだろうなぁ!」
「ほざいてな、坊主! 今すぐ八つ裂きにしてやるよ!!」
「ああ上等だ好きに攻撃してろよ! 代わりと言っちゃあなんだがよ!
 全部燃やしてやっからよぉぉおぎゃはははははははははは!!!」
 蛆も、敵も、邪魔なモンは全て燃やせば大解決。至極簡単な事だ。

「私が居る限り、そう簡単に思い通りにはさせませんよ?」
 くふふふ、と胡散臭い笑みを漏らし、集中力を高めた茅根は飛び掛かって来る蛆から後衛を護りつつその糸目を僅かに開いた。エネミースキャン。測る。図る。人でありながらクリーチャー。血管中に悪意が脈打っている。眉根を寄せた。それ以外は分からない。複雑怪奇すぎる。
「気を引きたいのは分かります。しかし、それを目的に研究を行うのは研究者としてどうなのしょう?
 手段と目的が入れ換わってるような気がするんですけどねえ」
 そんな呟き――その視界の隅では小路が道に布団セットを広げていた。死体の上。血を隠して蛆の生産を防ぐ為。
「この後布団買いなおさないとですね。ちくせう」
 ただでさえ濃密過ぎる血の臭いに頭が変になりそうだ。
「は~怖い怖いほんま怖いわーよう言わんワァ生きたまま蛆まみれとかぞっとしやせんぜぇ」
 一方、露骨に嫌そうな顔をして玄弥は金色夜叉を振るい、放った暗黒で蛆虫を片端から潰してゆく。と、人外めいた力でブロックの火車を押し退け中衛陣へとマゼンタを振り上げるエマージ。
「くけけっ、そうはいかのおろし金! 生きたままぬいちゃるわ!」
 潰してやる、蛆が怖いと演技の掌を返し、魔閃光にて相殺を狙う。されど暴れ狂う赤が彼の身体に赤を生み出したが被害は最小限。直後、「余所見してんじゃねぇボケが」と火車がエマージの後頭部を強烈に殴り付ける光景。炎。それに便乗して、玄弥はくけけっと笑った。
「汚物は消毒。始末は徹底して完璧な処理をするんやでぇ。……きっちり焼却までしちゃるきに」
 強欲な爪に赤い欲を滲ませて。

「ご加護を……!」
 エマージの放つ衝撃波に持って行かれそうになった意識を、リリは運命を使って無理矢理繋ぎとめては銃口を前へと向けた。
「主よ! この血を捧げます――Amen!」
 凛とした声と共放った流星の弾丸が飛び掛かって来る蛆虫達を次々と射抜いてゆく。リィンとは左右に布陣し、彼と同じ技にて蛆がこちらへ寄って来るのを赦さない。とにかく数を減らさねばならぬ。
「良い音を立てて弾けるね、おかわりは要らないけど!」
 邪魔ものはとっとと片付けておきたいしね。リィンとリリの放つ光が闇を照らした。

 蛆の掃討に当たる者が多い。更に小路の発想に因って、その数が鬱陶しさを感じる程に増える事はなかった。
 されどエマージは血液に触れさえすればそれを作り出す事が出来る。結果、蛆に気を取られエマージへの火力不足は否めない状況となっていた。
 倒れる者も出る。されどリベリスタは退かない。運命を燃やしてでもフィクサードの前に立ちはだかる。

「福音よ、響け」
 小夜香が紡ぐ清らかな旋律が、シメオンの放つブレイクフィアーと共にリベリスタを癒してゆく。小路もブレイクにめげる事無く、攻防二種の教義を皆へ施しその戦いを支えていた。それだけではない、血を流す仲間へ包帯を使ってその血を吸い、吸った包帯は遠くへと投げ捨てる。周囲を観察する。努力あってか、それに加えエマージがジョジョに蛆を作り出す余裕が無くなって来たからか――蛆の数はもうじき零になってくれるか。一時的かもしれないが。等、思考を巡らせているとエマージと目があった。丁度良い、言いたい事があったので言ってやろう。面倒臭いが。
「……恋路も別にかまわねーですがね。あたしの面倒を増やしたことだけは許さねーです」
 働きたくない。それに尽きる。

「チッ」
 舌打ち。そろそろ退き時か、とエマージは思った。一歩飛び下がらんと――した、その足を射抜いたのはリリの1$シュート。集中を挟んだ執念の一撃。六道は一人でも多く滅ぼさん。
「神の裁きを!」
 言い放った言葉と共に、小路のファントムレイザーによって蛆虫達が掃討される。今だ、今こそ、好機。
「祝福よ、あれ」
 小夜香が紡いだ清らなるものの慈愛を顕現する詠唱に因って傷も消えた。
 エマージは脚に受けた傷の所為でバランスを崩している。されど睨み返すその視線には苛立ち、握り締めた拳を前方へバッと広げた。彼の手首の下の皮膚が蠢いたかと思えば、溢れ出てくる大量の蝿。赤い血の蝿。リベリスタ達の血液を殺意と共に貪り喰らう。貪った血をエマージへ供給する。
 それは玄弥の大方予想通り。放つ暗黒で襲い来る蝿を、そしてエマージを狙った。
「必殺技に警戒せんのは愚かな事でさぁ!」
 回復などさせるものか。ここで殺す。必ず殺す。
「……おっといけねぇ 二枚目半ってとこか……?」
 ふーっと息を点く音、エマージの肩を骨が軋む程に掴む者一人。振り返った。その先。鬼爆の文字。ドラマを支配し、金剛の気を纏った火車が、
「はっはぁー! 逃がす気ねーぞ? そんじゃ始めっかぁー!?」
 殴るぞ殴るぞ。腕をぐるぐる回して振り被り。
「おらぁ一枚 心臓ごと燃し潰してぶっち抜いてやらぁ!!」
 零距離轟々、ありったけの力を込めてその顔面に叩き付ける業炎撃。
「ぎゃっ、ぐぎゃぁああああぁアアア!!?」
 ジュウッと肉の焼ける音。顔を押さえてもんどりうつエマージ。呻きつつ、炎に焼かれた顔を押さえて、されど彼は脚の膂力を弾けさせて横に跳ぶ。壁を蹴り、跳び上がる。あっと言う間に建物の上。これもキマイラを寄生させている事に由来する身体能力か。顔を抑えた手の隙間からは焼け爛れた表情、忌々しげな睥睨。
「く、そ、……覚えてろ、リベリスタ共め!」
 言い残して、闇夜に消える。

●ヨルオワリ
「どうか安らかに――神の御許へ行かれますように」
 リリは十字架を手に犠牲者へと祈りを捧げる。小夜香もアークに連絡を付けた後、彼女の傍にて黙祷を捧げていた。
(防げない犠牲だったとは言え、それぐらいは……ね)
 と、立ち上がり振り返ったリリと目があった。信仰者は小夜香だけでなく、皆をぐるりと見渡して。
「……今回は、未熟者の私をサポートして下さって本当にありがとうございました」
 深く感謝。アークのリベリスタとしては初めての戦い。緊張しなかったと言えば嘘になる。ようやっと息を付いて、『安堵』を噛み締めた。

「研究は完成しなかったようですね。良かったような残念なような?」
 茅根の見遣る彼方には雲に隠れて朧な光しか見せない月一輪。
 同じくリリも空を見上げ、銃と十字架を手に誓うのだ。

 六道がある限り、神と生命への冒涜が繰り返される――

「根絶やしにします、必ず。例えこの身に代えようと」
 吹き抜ける風が、彼女の黒い髪を揺らした。



『了』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
メルクリィ:
「お疲れ様です皆々様、ご無事で何よりですぞ! ゆっくり休んで体の疲れを取って下さいね!」

 だそうです。お疲れ様でした。
 如何だったでしょうか。
 お疲れ様でした、ご参加ありがとうございました!