● 「奥さんと息子、妹は殺した。姉の方は、高く売れそうだから知り合いに売った」 義紀が言うと、悟は歯ぎしりしつつ恨めしそうに義紀を見た。悟は両の手、両の足に楔を打ち込まれ、木に磔にされている。痛みは時間の経つにつれて薄れてはいったが、微動の度にやはり痛みが走った。力がまともに入らない現状では、悟はそれに耐える他無かった。 何の言葉も返さない悟をニヤニヤと見、義紀は立ち上がって尻をパッと払い、悟に近付いていく。 「何も言うことねえのかよ。薄情な親父さんだな」 罵るように言われた悟は、言葉を口に出すことが出来ない。涙を流そうが、怨嗟の言葉を紡ごうが、決して過去が変わるわけでもないし、またそれをするだけの気力が、長きに渡る拘束の末に削がれてしまっていた。義紀がこういった事実を伝えるのは、彼と自分の対面が今日限りになるからなのだろう、と悟は思っていた。もはや悟には、自分の命が次にどうなっているのかを気にかけるしか無かった。 「まあ、いいか」 義紀は肩にかけていた鞄から、一枚のお面のようなものを取り出す。悟は自身の不吉な未来を予感した。 「金城っつったな? これをあんたに付ける。それであんたはもう終わりさ。俺のことも、家族のことも、何もわからなくなる。ただこいつの囁く運命に従うだけの肉人形になる」 「二つ、いいだろうか」 上ずる声で言った義紀の言葉を遮るように、悟は訊いた。 「……あん?」 「そいつをかぶる前に、二つだけいいか、と訊いた」 義紀は面白そうに笑みを浮かべ、やがて言った。 「……ま、いいだろう」 「お前は、何をしたいんだ?」 どうも腑に落ちない点が、悟にあったのは事実だったのだが、何より彼にはやはり死への恐怖があった。少しでも長く、この世にいたいという願いはあった。だから彼にとって聞く余裕の無い答えが予想されたとしても、彼は訊くしかなかった。 「さあ、知らね」 無情な言葉を、義紀は吐いた。 「『友人』に頼まれただけなんでね。俺はこいつが何か全く知らんね。……ま、あいつのことだから、悪趣味なもんだというのは確かだな。 で、もう一つは?」 少しも急いでいないのに、義紀は煽る。表情には多少の不快が見て取れた。悟はその表情の変化の一切を無視し、言った。 「なんで、お前は笑っている」 平穏を奪い、蔑ろにし、なおも自分の前に立って、愉快に笑うお前は何だと問う。 義紀は急激に表情を変え、快楽をむき出しにしながら、言い放った。 「笑うのは、楽しいときって知らなかったのかい、あんた」 悟の視界が暗くなる。僅かに開いた穴から義紀の顔が見えたと思った時、悟の意識は既に、奪われていた。 ● 金色の仮面を纏った男が、森の中を徘徊している。両の手足には太い楔のようなものが刺さっていて、またその周辺は赤黒く染まっていた。ゆったりとした足取りで、男は木々の間を進む。 やがて木に吊るされた何かを見つける。首を吊った死体であった。世の中に絶望したのか、あるいは自身を失ったのか、定かではないけれども、それはもはや自然に任せて揺れるだけの物と成り果てていた。 男は死体の側まで行くと、勢い良く飛び上がり、乱暴に木の枝を折った。ドサリと重い体が地に落ちる。男はそれを仰向けに直すと、その胸にゆっくりと手を置き、ぐっと力を込めた。徐々に男の手は、彼の胸を押し込み、穴を開けていった。やがて男は肉の擦れる生々しい音を立てながら、手を引き抜いた。出来た空洞からは、地面がしっかりと見えた。 次の瞬間、死体は突然を起き上がった。死んでいたはずのそれが、死んだままにして意識を持った。死体は男を見、既に何をすべきか知っているように、機敏に立ち上がった。男は握っていた肉塊を近くに投げ捨て、それに続いて立ち上がる。そして死体を率いて歩き出す。 男と死体は徘徊する。新たな仲間を探して。増やして。 何処にいくでもなく。 ● 「森の中にエリューションがいます。そして増殖しつつあるようです。殲滅してきてください」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は単刀直入に言う。エリューションはとある樹海を彷徨いているらしい。 「エリューションが何か事件を起こしたとか、そういったことはないのですが、やはりエリューションですし、いずれ何か行動を起こす可能性も否定できません。そうなる前に撃退するのが無難でしょう。 エリューションのリーダー格らしいものは金の仮面をかぶっています。以前同じようなものをかぶったエリューションが現れましたが、おそらくはあれと似たような能力を持っていることでしょう。 また、あれは何者かによってかぶせられたもののようですが……その何者かについては、現状では裏野部の所属であるらしいことだけがわかっています。まだ樹海内で何かしているようですが、戦闘予測地点よりもかなり遠くにいるようです。所在は特定していますけど、どうやらエリューションの様子を見ているようでもあるので、戦闘後に行ってもきっと逃走済みでしょう。無理に気にかけることはないと思います」 あとそれから、と和泉は付け加える。 「場所は森林内で、もちろんのこと木々が多く生えている中での戦闘となります。戦闘が十分に可能なスペースはあるのですが、できれば森を燃やさないようにお願いします。さすがに山火事は後始末が面倒なので」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月09日(土)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● つまらない。どうしてこんなもの見てなくちゃならない。 それが契約というか約束というか、なのだから仕方はないのだけれど。 リベリスタ連中は全てアンデッドの方へ行ってしまった。 『わざわざ』見える位置に身を置いたのに。 まあ、その前が面白かったから、それでいいか。 せいぜい、面白いのを見せてくれよ。 ● その死体は樹海を巡る。自身も死体のみで動きながら、道中遭遇した死体を仲間にいれ、操る金仮面。それにしても、と葉月・綾乃(BNE003850)は思う。死体がごろごろある樹海、というのは、うまくすればホラー映画の題材にでも出来そうだが、ホラーというより社会現象と言った方がいいような気もする。なんにせよ、無事に討伐を終えない事には、話のタネにもするわけにはいかない。これがホラーであるかはさておいて。 怪盗ゴールドマスク。と『霧の人』霧里 まがや(BNE002983)はそう呼んでみたはいいけれど、これではどちらかと言えばピラミッドの方が似合いそうだ。ゴールドマスクが操るは安いホラーゲームのように、樹海にわらわらと湧いたアンデッド。数多の死体が転がっていた事実の方がよっぽどゾッとするのだけど。益体も無い話しか、と彼はやれやれとした風を醸し出して、依頼にあたる。 『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)はあまりいい気分がしていない。最近、フィクサードの監視下で戦闘をする機会がよくある。リベリスタとして放置できない事例なのは確かなのだが、実験に加担させられているようで、いいように扱われているかもしれないのが辛くもある。何はともあれ、まずは目の前の事件を片付ける事。そうでなければ、前には進めない。 「さて、視界や足場などあまり良い環境ではないですね。気をつけて行きましょう」 佳恋の警戒の言葉と共に、リベリスタは暗い樹海の中を進んでいく。フォーチュナの言葉によれば、エリューションに遭遇する場所はもうすぐのはずだった。暗闇に紛れたそれらの姿を、リベリスタは探す。 少し先に、木がそれほど立っていない開けたスペースがあった。一見してそれは奇妙な空間だったが、よく見てみるとその空間を取り囲むように木が倒れている。そしてスペースの中心には、暗闇でも分かるような金色が、鎮座していた。 リベリスタがそこに近付くと、金仮面をかぶったエリューションは彼らに気付き、ゆっくりと立ち上がる。リーダーの動作に、何が起こったのかとアンデッドたちは金仮面の見ている方向を向く。彼らが気付いたのと同時に、リベリスタはそこにたどり着いた。 金仮面の視線がリベリスタに突き刺さる。『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)の額から、冷や汗がどっと流れ出す。体に異常は起きなかったが、それでもそれの視線は、何の行動もしていないのに異様な不快を引き起こした。ディートリッヒは汗を拭い、肉体の制御を外す。データを取られるのは都合のいい事ではないが、好きなだけ相手をしてやると意気込んで。 「……救うなんて言うには手遅れだけど、これ以上はやらせない……まずはこの悲劇から終わらせる」 『24時間機動戦士』逆瀬川・慎也(BNE001618)と安羅上・廻斗(BNE003739)は前線に出る。ディートリッヒと佳恋も警戒しつつアンデッドに近付いていく。 金仮面は特別何の動作もせず、リベリスタの方を見ていたが、彼らが自分に敵意を向けるのを察すると、微小に頭をカクッと下げた。それと同時、アンデッドは散開し、木を利用して多面的にリベリスタを狙う。 アンデッドの一体が『紡唄』葛葉 祈(BNE003735)に向け跳躍し、やや大きく拳を振り下ろした。それは少し反応の遅れた祈の脇をスッと横切った。アンデッドはすぐさま引き返す。祈はその刹那、アンデッドの目がほぼ潰れ、ほとんど機能していないのを理解した。おそらくはここにいるアンデッドのほとんどがそうなのだろう。微かに光は入ってきているかもしれないが、それも暗闇でほぼ認識できないに違いない。彼らがこちらを認識しているのは、やはり金仮面の影響なのだろうか。祈はアンデッドたちの動きをうかがう。 「それじゃ、ちゃちゃっとゾンビ退治と行きましょうか……」 綾乃が気を落ち着かせつつ言い、防御の教義を仲間全てに伝達する。『歩くような速さで』櫻木・珠姫(BNE003776)も同じように、攻撃の教義を与えた。 「孤立しないように注意して。どこから狙われるか分からないんだから」 「ああ……来るぜ!」 ● 祈を襲ったアンデッドに続き、数多のアンデッドがどこからとも無く襲来する。 綾乃を狙った攻撃を、珠姫は咄嗟に庇い、受け流す。 綾乃はその脇から真空刃を射出し、アンデッドの脇腹を切り裂いた。 佳恋はアンデッドが珠姫から距離を置いたのを見届けると、ディートリッヒの動きを見、金仮面の方へと走っていった。 「なんとか抑えてみせますっ」 彼女と入れ違いに別のアンデッドが現れ、まがやを狙った。 アンデッドは拳を鋭く振るうが、まがやは流れるような動きでそれを避ける。 そしてすぐさま反撃に転じた。 「あの日彼女は言っていた……もぎ取れないなら刈り取れば良いと」 まがやはアンデッドの首を狙って、デスサイズを一気に振るう。 アンデッドは攻撃の反動でよろけつつも、体を傾けて直撃を避けた。 鎌の描いた軌跡が、アンデッドの首に、綺麗な溝をつけた。 それでもアンデッドは、その傷から二回目の死に至る事は無かった。 もしかしたら、首を切断してもこれは動き続けるかもしれないな、とまがやは思ったが、まだ切断には至っていないのだから、試す価値はあるだろうと考えた。 外したらやめればいい。慣れない遊びに固執する事は無いのだから。 「さ、凶器に狂気と狂喜を乗せてLetsサクリファイス」 アンデッドは祈を攻撃する。視界不良な攻撃は、曖昧ながら当たるには十分な正確さで祈を傷つけた。 同じように、アンデッドはディートリッヒに向けて拳を振るう。 慎也は、そのアンデッドに向けて、全身の力を込めて鉄球を振るった。 「相手の勢いこそ利用しろ、ってね…っ!」 思い切り振るった鉄球は、アンデッドの勢いもあって凄まじい衝撃となった。 ディートリッヒは自分を攻撃したアンデッドを、懐中電灯で場所を確認しながら慎也に続いて追撃する。 強烈な打ち込みは、アンデッドの体をぼろぼろに砕き、右腕を吹き飛ばした。 アンデッドはなくなった右腕の事を気にもする事無く、距離を取り木の陰に隠れた。 廻斗は、アンデッドを見失わぬよう追撃をかける。 そして暗黒の瘴気を立ち上らせ、それを巧みにぶつけた。 「魂など残ってはいないだろうが……構わん、滅べ」 吹き荒れる瘴気が、戦場を席巻する。 しかし突如、廻斗の身に、強烈なプレッシャーがのしかかる。それは動きを阻害する程強烈なものであり、この場所に最初に訪れたときに感じたものと似た感覚であった。 見る。その金仮面は、珠姫と対峙しつつも、慌ただしく闘うリベリスタとアンデッドの傍らで、静かに佇んでいる。先ほど立ち上がったはずのそれはいつの間にか座り、ジッとリベリスタの方を見続けている。攻撃性の全くない冷たい視線が、余計に見られるものの不安を煽った。 その冷酷さが、廻斗をその場に縛り付ける。恐怖とは違っていた。何か見えないものが彼を縛っているわけでもなかった。言うならば、動く意思を剥奪されている。それがどこから来るものなのかは、廻斗にはわからない。 金仮面は頷くように首をクイッと曲げる。 するとその場にいたアンデッドの半分程が、一斉に廻斗を狙った。 廻斗を虚ろな目でそれを見つつ、ハッとして防御姿勢を取る。 拳の雨が襲来し、廻斗の体力を奪っていく。 廻斗の足がふらつく。 「温い……まだ温い。」 しかし廻斗はアンデッドを挑発するように叫ぶ。 「もっとだ、もっと本気で殺しに来い! 俺を殺して見せろ、エリューション!」 黒色の瘴気を刃のようにくねらせ、アンデッドを傷つける。 跳ね飛んだ首が、鈍重な音を暗闇に響かせる。 アンデッドの体がよろけ、地に倒れた。 慎也とディートリッヒが素早く廻斗に近付き、アンデッドを強襲した。 アンデッドに慎也は接近し、頭蓋に向けて一気に拳を振り下ろす。 それの中に僅かに残っていた血液と共に、肉塊が飛び散った。 アンデッドは数秒程痙攣したように微小に動き、やがて空気が抜けたようにパタリと、天に向けて伸ばしていた腕を倒した。 これ以上利用させるわけにはいかないと、慎也は思っていたけれども、それでも彼の心は痛んだ。 ● まがやが振るった大鎌が、今度は首を正確に切り落とす。 人間と同じように、頭を潰してしまえば動けないのだろう。 まがやは、アンデッドが首なしで襲いかかってくるようなものではなかったことに、少し安堵した。 残り半分となったアンデッドを、さっさと倒してしまおうと、まがやは再び鎌を持ち上げる。 祈は全体に向けて福音を響かせる。 心地よい音色で、射程内の仲間の傷を癒しつつ、祈は金仮面を抑える佳恋の方を心配そうに見た。 佳恋は怪訝そうに金仮面を見る。それは立ち上がる気配がなかった。こちらを縛り付ける重苦しい視線を投げ掛けてはくるのだけれど、アンデッドに攻撃させるばかりで、金仮面自身が能動的に攻撃する様子は無い。 佳恋は警戒しつつ、しっかりと力を溜めて、金仮面を打撃する。 金仮面は少しも防御する事無く、無抵抗に殴り飛ばされた。 けれども金仮面は、先ほどとは打って変わり、不可思議な速度でヌッと立ち上がった。 そして金仮面の目と思われる隙間が、キラリと瞬くのを、佳恋は見た。 何度も瞬くそれは怒りを表しているようにも思えた。 刹那、射出された光線が、佳恋の脇腹を貫いた。 咄嗟に避けきれず、狙撃を受けた佳恋は息絶え絶えに金仮面を見た。 今まで警戒だけをしていた金仮面は、ようやくリベリスタを敵と認識したようだった。 綾乃の放った刃が、アンデッドの腹に突き刺さり、弾ける。 廻斗はそれに続けて暗黒の魔力を放ち、アンデッドを切り裂いた。 腕、足、顔の一部が弾けとんだアンデッドは、動く術を失って倒れたものの、息絶えず、何かを欲しがるように口をパクパクと動かしていた。 慎也はそれを、渾身の力で殴り潰し、果てさせた。 アンデッドのうめき声が辺りから消滅する。残るは、金仮面を残すのみとなった。 佳恋の体がふらつく。 なんとか運命を繋ぎ止めて、金仮面の前に立ち続けた。 けれども追いつめられたのは、彼女だった。 金仮面は、楔のはまったままの拳を振り上げて、佳恋に接近する。 ゆっくり、ゆっくりと、近付くそれに、彼女は恐怖した。 振り下ろされる。しかし彼女は怖じ気づくばかりではなく、きっちりと動きを見て、それをかわす。 そのとき、金仮面が彼方へと吹き飛ばされた。 佳恋は振り向く。 ディートリッヒが拳を突き出して、そこに立っていた。 「無理は禁物、ですよ……!」 綾乃が駆け寄って、急いで微風を起こして佳恋を癒した。 「……そうですね、ありがとう」 だが、金仮面は素早く立ち上がり、負けじと眩い光線を放つ。 それを受けた慎也は足の力が抜け、転びそうになるが、なんとか体勢を立て直す。 「一人で寝てられるか……悪いけど何もできない、はこりごりなんだよ!」 すかさず撃った十字の光が、金仮面の肩を撃ち抜いた。 金仮面は重苦しいうなり声を上げる。 強烈な痛みを発散し、怒りを解き放つように光線が放たれる。 廻斗はそれを避けつつ金仮面に接近し、その仮面をつかんで一気に引きはがした。 仮面が外れて、それの素顔が露になった。 そこに現れたのは、大の男が子供のように泣きじゃくっている顔に他ならなかった。 涙の筋がくっきりと現れていたが、涙はとうに枯れていた。 仮面が外れた男からは、一切の攻撃性がなくなった。 彼はただ、仮面に体を乗っ取られ、いいように扱われていただけの道具。 道具に支配されたマリオネット。 男の口が、動く。一切の声を発する事が出来ず、口の形だけで伝えようとした言葉は奇しくも、かつて彼の妻と息子が伝えたかった言葉と、全く同じ意味を持っていた。 早く、殺して欲しい。 彼が望み通りに葬られるまでに、それほど長い時間はかからなかった。 ● 気に入らない事ばかりだった。 レポートを読めば、これがかつて彼の家族が巻き込まれた行軍の続きである事が分かる。 そしてそれは恐らく、自らの悪趣味のために不幸をまき散らす輩の愚行であるだろう事も、推測が付く。 あの男が何を考えているかは分からない。けれども、いつかは必ず彼らに立ち塞がり、打ち砕いてみせる。 絶対に。 いつか、一人だけ生き残っている彼の娘とも会う事になるのだろうか。 祈は、それが最悪の形ではない事を、祈っている。 仮面をつけたエリューション。 仮面は男を操っていた。それはまさに力の源だ。 世界に仇なすエリューションは、滅した。けれども、これを引き起こしたフィクサードは未だどこかに存在している。 出来る事なら、そいつも殺したいが、今は仕方が無い。廻斗は諦める。 しかし彼らは何が目的なのだろうか。廻斗の気持ち悪さは増すばかりだった。 佳恋と慎也が、死体を埋葬する事を提案する。それは僅かな反論も無く受け入れられた。 佳恋は死体の側に寄って、静かに黙祷する。 「貴方の無念いつか晴らしてみせるから。どうか今は安らかに」 「ここまで生々しい『死』を見ちゃうと、ホラーとしてスクープする気にはなれないですねぇ」 綾乃は小さく呟いた。エリューションたちの遺品はほとんどなく、また死体は自分たちが傷つけたとはいえ、ほとんど原型を保っていなかった。 遺族に何かを返してあげたいのだけれど。綾乃はそう考えていたが、諦めた。 せめて同じような人が出ないように、『自殺防止』の記事でも書こうか。 綾乃はそう考えた。 珠姫はふと、別の視線を感じて、その方向を見る。 それはフォーチュナが、裏野部のフィクサードがこちらを見ている、と言っていた方向だった。 遥か遠く、見えた場所には男が一人立っていた。 黒色のスーツに紅のネクタイをし、灰色の髪をしていた。鞄などを携帯せず最低限必要な財布や機械類だけを持ち歩き、本当にこちらを見ているだけのようだった。 男はこちらを見て、笑っていた。愛玩動物を虐めるようにニヤニヤと。 男はすぐに立ち去っていった。戦闘が終わり、興味もなくなったのだろうか。 珠姫は思わず唇をかむ。いずれ高みの見物から引き落とすために、彼女は脳内にその忌々しい顔を刻み込んだ。 ● 「ああ、俺だ俺。うん、うん、ああ、大体そんな感じだ」 義紀は電話の向こうの男に面倒くさそうに言った。 「結果をまとめりゃいいんだろ? すぐそっちに……あ? まだ来てない? なんだそりゃ」 義紀は思わず悪態を吐いたが宥められたのか、それはすぐに収まった。 「いいから、さっさとしろよ。こんなん持ってても、俺には何の利益も無いんだからな」 電話を切る。一転して、男の顔は笑みに変わる。 「リベリスタ、ねえ……」 それの意味を理解しているのは、義紀の他に誰もいない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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