● ずんだ様は、恥ずかしがり。 ずんだ様は、正直者が好き。 ずんだ様は、良い子が好き。 ずんだ様は、光が嫌い。 ずんだ様は、皆殺しが好き。 ずんだ様は、闇。 「ずんだ様を本当に、呼べると思ってるの?」 「思ってる。だからみんなでやるんだよ?」 ランドセルが似合う少年少女が拾ったのはひとつの禁忌。とあるアザーバイドが封じ込められた、大変危険な書物だったとか。 不思議と子供でも読める絵本の様なそれは、あたかも『呼び出してくれ』と言わんばかり。 呼び出してはいけなかったのに。 拾ってはいけなかったのに。 時に、子供の好奇心とは落ちれば死ぬ崖の上でも笑うくらいに恐ろしいものがあると言えよう。 ● 「目覚めてはいけないモノを、眠らせて欲しいのです、永久に。 それと、できれば被害を抑えて欲しいのです」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は集まったリベリスタを見据えてそう言った。 「とある3階建ての小学校で29人の児童がバラバラになった遺体で発見される事件が起きます。それは勿論、神秘の世界の事件です。 ……あまりにも、肉体が細切れなので現実世界の事件として処理するにはちょっと派手過ぎるのです」 そう言って手渡した資料。 ――ずんだ様、と強調されて書かれていた。 「忌むべき上位の厄災的存在。言葉にすれば『祟り』がお似合いでしょう。 けれど光が苦手。懐中電灯、発光、なんでもいいです、あればあるほど良い方向へ向かうと思いますよ。これも闇の存在だからでしょうかね。 今から行けば、ずんだ様が児童を追いかける寸前で相対することができるはずです。お急ぎくださいませ。 児童はパニックです、出口に直行する子もいれば、勿論腰を抜かす子も居るでしょう。ほかにも、親友を探す子とか……それをゆめゆめ、お忘れ無きよう」 ● 休みを迎えた静かな校舎。 夜と言えど、月明かりが眩しい夜だった。 カーテンや継ぎ接ぎのダンボールで窓を覆った、真っ暗な教室で見真似の陣を描いて、蝋燭が雰囲気を作り上げる。彼等、総勢31名の少年少女は結果的には呼び出してしまったらしい、異界の存在を。生贄である白い兎が引き千切られていたのだから、きっと成功はしていたのだ。 だがそのずんだ様はなかなか彼等の目の前に現れてはくれなかった。 「ずんだ様は恥ずかしがりやだよ」 そうでした。 ならばとクラスのリーダー染みた少年が気弱な少女を教室に独り閉じ込めた。ただ己がずんだ様とやらを見たいがために。 「一人を狙うんだよな! ならこれでいいじゃん」 「何、しているの!!?」 閉じ込められた少女の親友たる少女は血相を変えて抵抗した。クラスメイトという壁を押し退けながら、友の手足で塞がれた扉を必死に必死にこじ開けた。 中を見れば――誰もいない。 彼女の絶望が脳裏に過ぎった。もしかしたらずんだ様に隠されてしまったのではないかと。 「真悠? 真悠!!!?」 「……凛?」 しかし、そういうことは無かった。教壇の下、隠れるように身を縮めた彼女――真悠が居た。親友――凛は彼女を抱きしめて、『良かった』の四文字を連呼し続けた。 なんだただの友情物語か。いえ、それは違うのです。 次の瞬間。 ――ガタン!! 教室の窓が一斉に轟音を立てて揺れたのだ。何か、何か嫌な気配がする。開けてはいけない、パンドラの箱。見てはいけない、襖の奥。 「逃げよう!! やばいよ、これもう!!」 凛は真悠の腕を引っ張った、だがその彼女に突き飛ばされ、扉の外へと凛は飛ばされてしまったのだ。 何故、一緒に逃げようよ?! ――否。それはできるはずがない。 そして真悠は、扉を自ら閉めていった。優しい瞳で、閉めていった。 「大丈夫、ずんだ様は良い子は好きだよ」 「駄目!! 駄目だよ、一人になっちゃ――真悠!!!」 ――パタン。 閉められた扉に耳をくっつけ、凛は真悠の安否を聞いた。すれば、扉の奥から低い男の声が響くのがやっとこさ聞こえる程度。 「オマエ、イイコダナ、ホシイモノヲヤロウ」 「いらない」 「ナゼダ?」 「――」 その後の声はよく聞き取れなかった。そして真悠がどうなったのかは誰にも解らない。ただ――彼女の心配をしている暇が無くなったというだけのこと。 見たい。見たい。 少年少女は扉を開けた――魔の居る扉をその手で。凛は止めたが、静止が叶う数では無い。 ――形なんてない。大きな漆黒の渦の中、無数に浮かんだ赤い瞳が一斉に此方を見た。これが、ずんだ様。 「オマエラ、オモイダセ」 凛は思い出す。喉が渇いて、汗が落ちて、身体が震えて。 「ずんだ様は……皆殺しが好き!!!」 そこでやっと、恐怖という二文字がやってきた少年少女に明日は無いのかもしれない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月08日(月)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●一番光った人が優勝 ぎゃああああ!とか、きゃあああ!とか、他にも言葉にならない声達が一斉に上がった。 本能的には、逃げなければと六感が騒ぐ。だが所詮、彼等――子供達は今まで普通というぬるま湯に浸かってきた者達だ。ただ、ずんだ様を見上げて「はは」と乾いた笑みを零しながら、死の予感の確実性に絶望を強いられる子がほぼであった。 よくわからないと言えばそれまでだろう。教室の中に何か詰まってら。 暗闇の中に浮かぶ無数の赤い瞳。 実態の無い化け物。 異界の住人。 ――ずんだ様。 伸びてきた、真っ黒の触手。それが震える少年の方へ向かった。 少年は涙を撒き散らしながら、強く、強く、目を瞑った。衝撃に備えて体が強張る……解るのだ、殺されると。 だが、運命はまだ彼を見放してはいなかった。 ふわり、香ったのはとてもいいにおい。少年は固く閉ざした瞳を開けた。そして銀髪が目の前で揺れているのを見た。 「ここは……てんごく?」 否。まだ現実。 幻想天国と現実の狭間で思考が揺れる少年。 だって今、殺されようとしていて。 だってだって、秘密でやった儀式だった。 だってだってだって、助けなんて、こんな正義のヒーローみたいに都合よく来るはずなんて――!!! 「そんな、はずが……」 あるんだよ。この世界、運命は時に大きな味方をしてくれるらしい。 「今のうちだよ! 逃げて! 外の月明かりの下なら、ずんだ様手出ししにくい筈だから!」 その声が、どれだけ少年の心に光を与えた事か。ずんだ様の触手を両手で掴んで、それでいて笑う『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)を始め、リベリスタ八人が惨劇を止めるべく到着したのだった。そしてアーリィは周りを見て人数把握しつつも、逃げろと声を荒げた。 ガッシャーン!と硝子が盛大に割られ、ついでに窓を塞いでいたものを吹き飛ばす。 そこから入ってきたのは、風? ――いや、人。もっと詳しく言えばリベリスタ。 颯爽と、顔の知らない少年少女の間を駆けた金髪がさらりと揺れて、アーリィが掴んでいた触手が脅えるように本体へと逃げて行った。 『ヒカリダ、ヒカリ……!! マブシィィイイ!!! キライキライキライキラキラキラキラ!!!』 「うっさいな、それ以上にうちはあんたが嫌いだよ」 『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)の周囲。未だ刻まれた時の跡、氷やその結晶がキラリと光った。 盛大な建築物破壊だが仕方ない。時村家につけておこう。 盛りに盛って派手に蹴り破った窓を満足気に見たのは一瞬だけ。そこから漏れたのはずんだ様が一番嫌だって言っていた月明かりである、なんてこったい。 「なんか予想以上にでかいっすな」 フラウはすぐにずんだ様を見上げ、そして楽しげに口の端が上に上がった。 さぁ、スーパー嫌がらせタイムはっじまーるよー★ ――刹那、ずんだ様が叫び声を大きくしたかと思えば、その目の前で全身が光り輝くフラウであった。 嫌いなものを目の前におかれる苦しみって相当だと思うんだ。しかもずんだ様って目たくさんあるしね、どうしようねこれ。 しかしだ、光がフラウのそれだけと思ったら大間違いだ。教室の外から「カチ。」という音――。 「悪い子のお出ましだ」 ――『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は、広角射光電燈を設置していた。これはどこぞの武器屋で販売しているらしいが、売り切れていた人気(?)の品。 それが一つでは無い。この普通の少女、複数のそれを教室をこれでもかと照らさんばかりにあちこちに設置している。これでは悪い子のお出ましがレベルアップした、意地悪な子のお出ましだ。 そしてその期待は裏切らない。更に叫び声の音量がぐぐーんと上がったずんだ様、これはたまらない。 『ガアアア!!! マ、ブシイイ!!! ミエナイ、ミエナイイイイ!!!』 「良い声だ、もっと叫ぶといい」 ユーヌの口端もにやりと横に裂けたという。 発光となんかやたら凄い明りに続き、まだだ、まだ終わらんよ。 「子供を苛める悪い子発見デス。お仕置きの時間デゴザイマス。………思った以上に苦しんでいるヨウデスガネ」 「ずんだーずんだー、はいこれあげるー、ぴかーん」 カチ。カチ。 『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)と『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)。二人の手の中、暗視の無いリベリスタなら一度はお世話になったことがあるであろう、懐中電灯が握られていた。流石だ懐中電灯、いつだってどんなときだって、例え目の前に鬼や楽団や七派やバロックナイツが居たとしても、明るくしてくれるという絶大な信頼がそこにはある。 更に小梢は自身が光った。発光?いいえ、パーフェクトガードです。 神秘を身に纏い、しかもそれ光ってる。 『キサマラ、キサマラ、ユルサヌ!! ユル、サアアアアアヌウウウウウウ!!!!!』 「怒らした、えへへ、ぴかぴかー」 小梢は悪びれる様子無く、怒るずんだ様に、めんどくさいことしたかな?と疑問に思いつつ、光ることをやめないのだった。 沢山人が居る。本来なら羞恥でちゃっちゃと闇に隠れる。 が、もはや嫌いな光をたくさんあてがわれて、怒りが羞恥を乗り越えて声色音量MAXなずんだ様でお送りします。 凶悪なラインを見せる断頭将軍をその手に。アンドレイは武器の先端をずんだ様に向けつつ、攻勢補強のドクトリンを放った。 「さぁ戦争でゴザイマス。大胆不敵痛快素敵超常識的且つ超衝撃的に勝利シマショウ」 ●嫌がらせタイム、その間 四人が光源を作っている、その裏舞台。同時進行で此方は奮闘していた。 子供の津波は厄介であった。次から次へと走ってくる子供の顔が変わる。 アーリィの様に、逃げろと叫ぶ少女がもう一人いた。 「落ち着いて欲しいの! 校庭へ行くの、出口に向かって走って!!」 『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)はその言葉を何度も繰り返しながら、迫る子供達へを出口へ見送った。 自分の声、本当に彼等に届いているのだろうかと疑問に思える程のパニック状態だ。だがそれでもいい、それでも生きてさえくれれば。きっと全員救ってみせると意気込んだその心は行動にも表れているのだろう。目の前で一人の少女が転び、そのすぐ後ろを走っていた少年が少女に躓いて転んだ。はっとしたルーメリアはひとつの癒しの魔法を彼等に届けながら、優しく微笑んで言うのだ。 「助けに来たの、大丈夫……出口まであと少しなの」 『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)は子供の波を掻き分けて前へと進むが、向かってくる子供と何度も衝突しては時間をロスしていた。 そこで見かねた『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は一つの詠唱をなぞった。すれば、ふわりと浮いた正太郎の体。 「ありがとな、これで前に進める」 「いえ、お礼される程では。私にできる、当たり前のことをしたまでですよ」 凛子の守護を受けて、ニッと笑った彼はずんだ様の隣の少女へと向かった。それを見届けていた凛子は、己の白衣にぶつかった少女の頭を撫でながら、一言。 「落ち着いて、慌てずに出て行けばいいのですよ」 「先生、ほけんのせんせい?」 「そうです……ここの学校の者ではありませんが」 「せんせい、あれ、どうにかできる?」 少女が指差したのは、ずんだ様。 もはや自分たちではどうにもできないのは解っているのだ。だからこそ、手に負えない存在をどうにかしなければと焦っていた。 「はい」 その二文字だけで、少女の顔は些か明るくなったと言えよう。 「ごめんなさい、ごめんなさい、せんせい死なないで、みんなを助けて」 ――ええ、そのために来ました。と、凛子は少女の背中を押して、出口へと向かわせた。 ●まだ見ぬ先 先の翼の加護により、飛び込んだのは闇の中。 照らす懐中電灯を避けるようにその場だけ闇が消え、その光の先に少女を照らした。正太郎は「凛か?」と問えば、少し情緒不安定に「は、い」と返ってきた。 「此処は危険だから、出口に行こう?」 そうは言ってみたものの、凛は首を横に振ったのだった。 ――何故? 先までは逃げようと親友に言っていたはずなのに。 「どうしてずんだ様が良いのですか?」 凛子は凛へ問う。 「良い訳じゃ……無い」 「そっちに行ったっすよ!!」 ふと聞こえたフラウの声にハッとし、正太郎は凛の背に隠して断罪の刃をその身で受けた。だがその攻撃は凛を狙ったものではない。 「大丈夫よ……だって、ずんだ様は正直者が好きだもん……」 「何故、解るのです?」 そしてまた凛子は問うた。どんな返答でも彼女を傷つけないように、そして彼女というものを受け入れて、知るために。 心を開いてくれた暁には、きっと手荒をしなくても逃げてくれると信じていたから。 アーリィはその会話を聞きながら回復を行っていた。ふと、疑問に思う、好かれたから、殺されないとでも言うのだろうか? (そうだよ。だって……) 思い出して欲しい、現にこの教室の生徒の人数は31。だがフォーチュナが言っていた死亡の数は29。2人、生きたとしたら、それは凛とあと誰だ。 (真悠ちゃんが、どこかにいるんだね) アーリィは誘導する手を止めないが、闇の奥を見た。 「ここ」 そして凛は何も見えない『闇』を指差した。その『先』を辿る正太郎。 「真悠ていう、親友が居るから……お兄ちゃんたち、助けて、お願い、あの子、大切な子、だから――」 だから、この場を離れられないのだと。 凛は言葉を捻り出すくらいに脅えていたが、冷静だ。 もはや神秘的現象が目の前で起こっている今、助けに来た正太郎が切り裂かれようが、すぐに凜子の詠唱で傷が治ろうが驚きはしなかった。 ただ、その瞳は『助けて』では無く、『助けてあげて』と言っていた。良い子ってこういう事ですか。 「……解ったぜ、絶対助けて返すから、だから外に行ってくれないか?」 「大丈夫ですよ、私たちは強いですから」 「約束だよ、おにいちゃん、白衣のせんせい」 ありがとうはまだ言わない。彼等がきっと助けてくれると信じて、凛は駆け足で月明かりの下へと駆けて行った。 『最終手段、魔眼は必要無かったって事なの?』 「使わないで済むならそれでいいんだ」 飛んで来たルーメリアの声がAFから聞こえた。それに正太郎は頷く。 凛が消えたその教室付近は既に真悠以外の全ての生徒の避難が終わっていた。既に戦闘は始まっていたものの、ここからが本番だ。 ●我、不迷 熟練された剣の動きを魅せるフラウ。速度と相成っては無数の瞳を切り裂いた。 まるで化け物退治。ぶっちゃけ大きい的すぎて何処に攻撃を当てればダメージが入るのか手探りな訳だが、着実にダメージは入っているはずだ。 「この木偶。さっさとクタバレ」 『コシャクナ、コノズンダヲコケニスルナ!!』 反撃か、飛び込んできた触手はフラウに向かう。だがフラウの目の前でその動きが止まった。 「子供を狙うは、ロリコンか?」 ブロックを影人に任せつつ、ユーヌが呪印を巻いて触手を止めたのだ。この二人、速度では圧倒的、先手を誇った。そして光に照らされ、弱ったずんだ様が二人の速度に勝てる事は無い。 「あれくらいかわせたっすよ」 「まあ、そう言うな。私の見せ場が減る」 洒落で済めばそれで良しだった。だがこの小学生の遊びは度を遥かに超えた。あとで説教だな、生徒達にと思いつつ、ユーヌは呪印の札を巻く手を止めない。 「ずんだ様はルメが嫌い、かな?」 癒しの詠唱を行いながら、そう呟いたルーメリア。その真横を触手がズドンと振り落された。うん、嫌いだそうだ。正確には光を当ててくる存在全てが嫌いなのだろう。 その隣でアーリィは叫ぶ。 「真悠ちゃんはまだずんだ様の中にいるんじゃないですか……?」 ミエナイ先に声をかけて。きっとまだ彼女は生きているとアーリィは願って止まない。 「真悠ちゃん、どこにいるの!?」 同じくルーメリアを声を荒げた。 なんでもいい、ここに居ると合図でも声でも出してくれたのなら、そこへ向かうから。 『クハハハハハ!!』 「テメェ! 真悠をどこにやりやがった!!」 だが真悠からの返事は無い。蛇の様にうねりながらも、正太郎は怒号を吐く。 光の十字を放つ小梢も真悠の姿を探した――だが、最悪な状況が頭に浮かぶ。もし、真悠は既に憑依されているのであれば……それは殺さなくてないけない。 だがまだ確信がある訳ではない。小梢は心底からめんどくささを感じながらも、今夜カレーが盛られるであろう皿で攻撃していた。 「グギギ……デ、ゴザイマス……!!」 無数の目に睨まれて動けなかったアンドレイも、動けぬなりに身体を精一杯動かそうともがいた。 そしてほぼ同時に凛子が詠唱し、それを展開した。 「シャラクセェ!!」 そのためあってか、シャウト効果と共に再び武器を振り上げ、光をずんだ様へと向ける。 凛子たち、回復手による厚い回復と、弱ったずんだ様。そのためか戦闘はリベリスタに大幅有利であると言えよう。続いたフラウの刃と、ユーヌの呪印。更に重なる小梢の十字の光と正太郎の拳。 「巻物とは笑わせる。トラップだな、見たら死ぬ……みたいなな」 「人の心理から必ず怪異には弱点がついてくるものなのですよ」 ユーヌは尤もな考察をし、凜子はそれに頷いた。誰でも読める禁忌、触れてはならないとはそういう事かと。 「お願い……戻ってきて!」 「……貴方を心配してる友達だっているんだよ!」 アーリィとルーメリアは諦めなかった。きっとこの言葉に反応してくれる、そう信じていた。 追加で振り落されたアンドレイの斧――負けるものかという意思で闇を切り裂いた……その先!!! 「見えた!!」 ルーメリアは指差した――裂いた闇の奥、人の形。すぐにユーヌが引きずり出しに走り出そうとしたが……何かがおかしかった。 『コノオオオオオオオオオオオ!!!!』 ずんだ様が怒り狂ったその訳は、きっと自身の終わりが近づいているのが解っている証拠か。 「なに!? 闇が……!!」 アーリィが見上げる、それ。風船が縮んでいくように、急激に闇が一点に吸い込まれていくのであった。その吸い込み口。 「ふざ、けんなよ……」 正太郎が、拳を握った。爪が食い込んでは肉を抉ってそこから血が流れ出た。だが痛みは感じない、代わりに感じたのは。 『――約束だよ、おにいちゃん』 思い出した、あの言葉。心に、激痛が走った。 闇を吸い込んだ掃除機は紛れもない真悠であった。口を大きく開けて、入れ食い状態。そう、彼女は既にずんだ様を混じっていたのだった。 「やっぱりかーめんどくさいてんかいだー」 小梢は皿を噛む。さて、ここからどうしようと。 予想したくないものが的中した。小梢は十字の光を放つために力を練り上げる、その先。 『キサマラァ!! この身体は攻撃できまい!! ……で、でき、まい……!?』 少女の声で、違う意識が嗤っていた。しかしだ。 「お、やるー?」 「はい、ヤリマスデス」 小梢はそっか、と言った。 ガション、と。機械の足を前に出したアンドレイはそのままガションガション進んでいく。彼は迷わない。軍人たる者、例え何を犠牲にしてでも与えられた任務は遂行すべし。 「我が名はアンドレイ。冥土の土産に持って逝け」 ずんだ様への怒りは武器に込めた。例え子供の好奇心で呼び出されただけであっても、そこから後の所業が気に食わない。 「勝利してやる。徹底的に攻撃あるのみ」 もはや彼を止められるものは無いのだろう。 まるで止まらないバルカンの様。 踏み込んだ足、振りかざした断頭将軍。 あと一度、切り裂けば終わるから――!! 『ま、マテ、マテ、このカラダハ、ダッテ、ダッテ!!!!?』 「ураааааа!!!!」 一般人の身体の耐久性なんて解りきっている。そこからの戦闘が終わるのに数十秒といらなかった。 「嫌な、事故でしたね」 そう、凛子は自身の仕事を思い出す。その足は校庭へと急いだ。 「――真悠」 月明かりの下。広い校庭の中央で、親友の消滅を察して凛は一人泣いていた。 恨まない、助けてくれるとお願いした彼等の事は。 だって、こうなる原因は自分たちのせいなんだから。 それでも、親友の死に悲しみくれる事だけは止められなかった。 ● 数日後。 「いけーずんだを倒せー!」 「パリーン! 窓ガラスを割って、正義の味方登場!」 「落ち着いて逃げて! 弱点は月明かり!!」 キャーキャー!!と騒ぐ教室。 ダンボールで機械の足を作ってみたり、剣や斧を作ってみたり、ジャンプで飛行を真似てみたりしている生徒達が騒いでいた。 わずかな記憶、30人が共通して霞んだ記憶で思い出されるキーワード、ずんださま。 「今日もうるさいんだから、もう。ね、真悠?」 ひとつだけ、空席の机に花瓶を置いた少女がその光景を見ながら、遠慮気味に笑っていた。 「真悠、そっちに行くまで楽しい人生送ってみせるよ。だから待ってて、見守っててね」 ――絶望するからこそ、人は強いのでゴザイマス。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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