●杵築最終決戦 『マスタープラトン』。 最大で半径100mの一般人をE・エレメントに変換し、所有者の寿命と引き換えに従属させるアーティファクトである。 この所在が、とても派手な形で露見した。 瀬戸内海は小島、杵築神社上空に独特な光と共に浮かび上がったのだ。 ある者――黄泉ヶ辻『特別超人格覚醒者開発室』は至高の大隊を生み出すプラントとして。 ある者――六道『斬鉄剣客組』は戦乱の世を作る為。 ある者――裏野部『ヘビーアムズ団』は破壊と暴虐の為。 ある者――巨大機竜は自らのコアだったものを取り返すため。 其々の組織が今、一斉に現地を目指す。 『マスタープラトン』を巡り、壮大な争奪戦が起ころうとしていた。 ●ヘビーアムズ団海上逆激作戦 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はブリーフィングルームのモニターに、小島の地図を表示させた。 「突如その所在を明らかにした『マスタープラトン』を巡り、いくつかの組織が動き出しました。このうちどの組織の手に渡っても大変なことになるのは明らかです。よって我々はやや規模の大きな作戦を立ててこれを阻止することになりました」 「皆さんの担当は、小島西部の海上で『ヘビーアームズ団』を迎撃することです。小島周辺は強結界によって人払い済みです。が、かなりの数の兵隊を用意していますから、全て倒しきることはできないでしょうが、少なくとも『チャーム・スィーニー』だけは撃破しておかねばなりません」 彼女は高度な戦闘指揮のスキルを持っているらしい。残しておけば後々かなり厄介な展開になるだろう。 「各部を補強したモーターボートを数台用意してありますので、こちらもある程度は戦える筈です」 資料一式をあなたに手渡し、和泉は言った。 「それと、今回の事件を嗅ぎつけてフィクサード『大切断・鎖』が現地入りしています。協力体制を取るか否かは皆さんにお任せします」 彼女はこれまで何度かアークに協力的な態度をとってきた人間である。 わざわざ敵対するひつようはないだろう。 「以上です……後のことは、どうかよろしくお願いします」 ●最後のふたり モーターボートのエンジン音が海上を滑って行く。 ボートは特殊な鉄板で補強されており、非常に頑丈な造りをしている。外敵からの攻撃を意識しているのだろう。少なくとも、瀬戸内海を走る船としては不似合いだった。 だがそれ以上に不似合いなのは、運転しているのが小学生程度の少女だと言うことだ。 しかも煙草を咥えている。マルボロだ。 それでいて赤いランドセルなど背負っているのだから、この世の不条理ここに極まれりといった所だろう。 「チッ、やっぱ慣れねえなポニテはよ……」 風に靡く髪を乱暴にかきまわし、やや遠くに見える島に目を細めた。 そして、不条理の極みである彼女が、ボートの後ろから馬鹿でかいガトリング砲を引っ張り出してきた。 GAU-8アヴェンジャー。アメリカの重機関銃である。 ボートに積むようなものではないし、ましてや携行するものでもない。まかり間違っても、小学生程度の少女が片手で抱え持って良い物ではなかった。 「俺らの目標、ちゃんと把握してんだろうな。おい山本!」 「がならなくとも聞こえておるわ、うつけが」 彼女のボートに並んでもう一隻のボートが追いついてくる。 和装の少女である。彼女は両脇に重機関銃を置いたまま、ずっしりと腕組みをしていた。 九七式車載重機関銃。重ねて言うが、携行するものでも、少女が両脇に抱えるものでもない。 ふと後ろを見ると数十隻のボートがその後ろからぞろぞろとついて来ている。彼等は古い小銃を片手に、一隻に数人ずつの割合でボートに詰まっている。相当な人数だ。 ランドセルの少女は名を、チャーム・スウィーニー。 和装の少女は、山本イロハ。 それぞれ『ちびっこヘビーアムズ団』の生き残りであり、最後の二人と言って良い。 「目標――『マスタープラトン』と『人魚』の確保じゃろう。全く、陸鮫どもに任せるからこうなるんじゃ。自ら出向けばよいものを」 「オトナは仕事で忙しいんだよ」 煙草を指でつまんで海に投げ捨てるチャーム。 「それより聞け、ナコトの野郎本当に俺らをブッチしやがった。マスタープラトンを動かす気だ」 「はあ……わしらには関係ないが?」 「あるだろうが。俺らが持ってる不老の力がごっそり抜ける。情報じゃキーラやハンナも死んだらしいしな、かなり起動しやすくなってるんだろうぜ」 くはは、とチャームは笑う。 「待ってろやナコト。ギッタギタに潰しまくって、その後はその辺の街ズタボロにぶっ壊して、最後に爆破でハッピーエンドだ。ハリウッドみてぇだろ! ハッハー!」 対して、小島芸予要塞西南砲台跡。 「あいつらも、そろそろ来るころか……」 ギザギザの歯に、凶悪な目つき。 フィクサード『大切断・鎖』は、巨大なチェーンソーを担ぎ上げた。 「こうなったのもほったらかしたアタシの責任だ。それに、アタシの愛しい世界ちゃんをぶっ壊すことだけは許せねえ」 モーターボートに飛び乗り、エンジンをかける。 ずうっと遠くに、ヘビーアームズ団の影が見えた気がした。 「来いよ元同胞。ぶった切ってやるからよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月15日(金)23:05 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●end of heavyarms 『もしもし、アナタの愛の宅配便・安西――』 「いたずら電話か、切ろう」 『切らないでお願いやめて!』 「……30秒な。取り込み中なんだよ」 『短い!? うちの万華鏡(カレイドシステム)が鎖ちゃんがやろうとしてることを予知した。アークとしても彼女達は止めたい。協力し合おうぜ! というか勝手に――』 「協力だァ? まあアンタ等の実力は知ってるつもりだ。邪魔しない範囲でフォローしてやんよ」 『え、いいの? そうだ、こっちの船は手狭でさ。一人乗っけてくれないかな』 『電話割り込むね、羽音だよ。二人のほうがダメージ分散できるし、チェーンソー使い同士一緒に暴れてみない?』 「やだ、キャラ被るだろうが。アタシの出番どんだけ少ないと思ってんだ」 『えー……』 「冗談だよ。どうせアタシはそっちより到着遅いだろうし、乗り換えの暇無いんじゃねえの? あったらあったで考えとくけど、巻き添え食ってもしらねえよ?」 『ん、わかった。じゃあね』 『じゃあねってどういうことまだ30秒経ってなうわやめ――』 通話終了ボタンを押し込み、大切断・鎖はモーターボートに乗り込んだ。 携帯電話を海に投げ捨てる。 「今回だけだからな」 エンジンがかかる。 『小島』という島が四国・九州・本州の間に存在している。 ヘビーアームズ団は小島南部にある神社を目指し九州から海路を進行。 残存兵力にプラスして裏野部の兵隊まで引き連れ、測定しきれない程の大人数を動かしていた。 そんな連中を肉眼ではっきりと確認して、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は目を細めた。 「たった一つのアーティファクトをえる為に他にもいくつもの集団が動いている……それほどのものなのですか、マスタープラトンとは」 「他の戦域では別の仲間が戦ってる。負けられないよね……姉さん」 『ここ』には居ない姉を想って刀を握る『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)。 敵との距離が高速で近く。 相手はこちらを避けようと舵を切るが、リセリアはあろうことか敵の避けた方へと舵取りした。当然ボートは斜めに拉げるように激突。 転がり出るようにリセリアは相手のボートに飛び乗った。 「なんて無茶しやがる!」 驚いた兵隊が小銃を突きつける……が、同時に自分の腕に降りかかった鮮血に瞠目した。 いや、その表現は正確ではない。 彼等のボートを操縦していた兵隊の首が切り取られ、壊れたスプリンクラーのように血を吹いていたのだ。 「な……」 足元にこつんと当たる生首。 そして徐々に大きくなる何者かの影。 何者かとは誰か? そんなことは考えなくても分かる。 「覚悟して下さい」 目をきゅぅと細めたセラフィーナが彼等の頭上で刀を抜いていた。 広がる双翼。閃く刃。 彼等のボートはたちまち血のプールへと変わった。 「派手なドンパチになりそうだとは思ったけど……」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)はボートの速度を徐々に下げ、相手の射程内へと近づけた。水上で器用にターンするボート。 敵の大将である『チャーム・スウィーニー』への射線を塞いでいた敵ボートがリセリア達によって忽ち潰された。別方向からフォローしようとするボートもあったが彼女達は容赦なく飛び込んで行き、まるで鳥に啄まれる魚のようだとはヴェイルの弁である。 ヴェイルは射線を十分に確保しつつハンドマニュピレーターを操作。拳銃型点火装置を片手で背後に向けると、正確にチャームのボートへと射撃を咥えた。 「クッ……アークの畜生めが!」 思い切り射撃攻撃に晒されているチャームはたまったものではない。 射撃を避けるようにボートを蛇行させると、ガトリングガンを引っ張り出して流し打ちした。 射撃の腕がいいのか、一応回避行動をとっているヴェイルのボートはたちまち鉛玉のドラムになった。 背中へモロに弾を食らい、顔をゆがめるヴェイル。 船の底に身をかがめていた『リベリスタの国のアリス』アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)が天使の息を発動。ヴェイルが負った傷を端から塞いでいく。 「あのヘビーアームズだんの生き残り……これが決戦なんですね。もう終わりにしましょう!」 跳ねた弾がいくらかアリスに当たりそうになるが、間に入った『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)が代わりに受ける。 全身がトゲトゲした彼女らしい装甲には、チャームの弾幕も大したダメージにならない。どころか相手に弾き返す始末である。 「海上戦なんて初めてですし、敵もこれだけ多いと大変です――ねっ!」 掠るように隣接してきたボートから兵隊が飛び込んでくる。 狙いは先刻回復を担っていたアリスだ……が、そのくらいは既に察している。 アリスは本を翳して銃剣を受け止める。彼女の脇を回り込むようにして五月が掌底を繰り出し、兵隊を海へ突き落した。 チャームのボートへと距離が縮まる。 ……と、そんなヴェイル機の横を『愛の宅急便』安西 郷(BNE002360)のボートが高速で駆け抜けていった。 「行くぜチャーム、久しぶりだなァ!」 腕に括り付けたカタールをすれ違いざまに振り込む。 咄嗟にガトリングでガードするチャーム。アヴェンジャーはいい。細長い構造故にこうして細長い鈍器としても使える。 が、その分視界が塞がるのが難点で。 「うふふ、つかまえた」 ボートの先端にいつの間にか立っていた『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)に一瞬気づかなかったりもする。 見たくないものを見たという顔をするチャーム。 「とっくにくたばったと思ってたんですが……会いたかった、ですよ」 「こっちは会いたくなかったよ!」 零距離でガトリングをぶっ放す。リンシードは爪先だけで跳ねると空中で独楽のように回転。チャームの細腕を得意の大剣で斬りつけた。 「クソッ……!」 歯噛みするチャーム。ガトリングを思い切りぶん回しハニーコムガトリングをばら撒いてくる。 対して、ターンしてきた郷のボートが横付け。ひょこっと顔を出した『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)がすれ違いざまに天使の歌をかけて行った。 テメェ何しやがると銃を向けられ、再び船の床に顔をひっこめるアーリィ。 「あの人たち、人魚さんと関わりがあるんだよね……でも」 今は目の前のことに集中しなくては。 アーリィはよしと気合を入れて、ボウガンをがっちりリロードした。 そーっと覗き見ると、リンシードとチャームが格闘戦を展開している。 かなりの命中率で銃弾をばらまくチャームと、ひらひらと飛び回りながら斬りつけるリンシード。実力的には拮抗していたが……。 郷が振り返らずに叫ぶ。 「もう一度つける。飛び移れるか!?」 「任せて。絶対に彼女をマスタープラトンのもとへは行かせない」 どるん、と音が鳴った。 エンジン音である。 だがボートのそれではない。 『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)の振り上げたチェーンソーによるものである。 チャームとリンシードが激突中のボートへ僅かに接近、羽音は薄い表情でボートを飛び立った。 空中で身を捻る。 チェーンソーのエッジが上を向き、光の加減で羽音の顔が隠れた。 「――!」 その時羽音が、そしてチャームが何と言ったのか聞き取れた者はいない。 畜生とか、クソとか、地獄に落ちろとか、そんなことを言ったのだと思う。 どるん、と音が鳴る。 羽音がボートの床に降り立った時には既に、チャームの身体は上下二分割されていた。 それは破壊と享楽だけを求めた者にとって、どこか相応しい最後であったように見えた。 ●crash crash crash 鎖が合流した頃には既にチャームは死んでいた。そのことに鎖は特に驚かない。それだけの実績を彼らは今まで示してきたからだ。 「でもアイツら、微妙な所で詰め甘いんだよな……いいぜ。フォローしてやる。今日だけな」 鎖は煙草を咥えたまま呟くと、腰に巻いた簡易爆弾を一本抜いて火をつけた。 投擲、爆発。チャーム達を集中攻撃していたが為に楽々アークの迎撃部隊をすり抜けてきた裏野部の兵隊達のひとつがフラッシュバンでボートごと沈黙した。 「それと、オマエな」 チェーンソーを担ぎ上げ、ギザギザの歯で笑う鎖。 「山本イロハ」 「懐かしい顔じゃな……サリー」 そして、現ヘビーアームズ団最後の一人となった山本イロハは、両手に九七式車載重機関銃を両手に構え、足でボートのハンドルを踏みつけた。 「退いてもらう!」 チャーム撃破に集中していたリセリア達だが、何もイロハを忘れていたワケではない。 文字通りジャックした敵のボートを駆り、別のボートに無理矢理接近。転がり込んで運転手から先に斬り殺し、最後の一人まで食い散らかす。そうして更にジャックしたボートを使ってまた別の……と、逃げようとする敵兵を次々追い落としていた。 とは言っても同じボートで、速度にさほど違いはない。既にイロハを初めとする兵隊たちは大半が全速力で陸地へ向かい、既に追いつけない所まで逃げ切っていた。 彼らの事は別の仲間に任せるしかないだろう。小島西部を移動している斬鉄組と鉢合わせにでもなれば潰し合ってくれるだろうし、今更躍起になることはない。 セラフィーナが次々首を斬り落としながら『あなたのリーダーは既に死んでいますよ?』と問いかけたが、彼らはむしろ笑顔で『それなら持ち逃げするまでよ』と言い切る始末。忠義心の欠片も無い傭兵ばかり残ったのだろう。 それより今優先したいのは……。 「山本イロハ。ここで倒して――『捕獲』します」 リセリアは血塗れのボートで突入圏内まで接近。 どうやら鎖がボートを無理やり叩きつけてくれたおかげでイロハは足止めされていたようだ。 船の淵に足をかけ、刀を水平に構えるセラフィーナ。 「貴女はその銃で何人殺してきたんですか」 「お主は今まで食べたパンの数を……っと、これは陳腐じゃったかなあ?」 機関銃の一丁を鎖に、もう一丁をほぼ無防備のセラフィーナに向けて射撃。 大量の弾がセラフィーナ目がけて飛ぶ……が。 間に入った影があった。 人型の海栗か山嵐のような何かである。 それは鎧と手甲の間から両目を覗かせ、あろうことかイロハの銃弾を何発か打ち返して見せた。 それでも止め切れなかった分は装甲をぶち抜き、肉を抉って貫通せずにとどまっている。相当痛い筈だ。 「五月さん!」 「お構いなく、盾役は得意です。それより攻撃を」 これまでアリスたちの分も庇ってきたのか、五月の体力は相当落ちている。只管敵陣に飛び込んでいたリセリアと同様、既にフェイトを削って立っている状態だった。 深く頷いて天使の歌を発動するセラフィーナ。 そんな彼女のボートを追い越すようにしてヴェイルのボートがイロハに接近。 牽制射撃どころではない弾幕を張られるが、ヴェイルは器用にジグザグ走行してかわして見せた。どうやらイロハは威力型で、命中率は低いらしい。 「ここは一人も通さない、なんて言えればよかったけど無理そうね。あなただけは抑えさせてもらうから。アリス!」 「はいっ!」 アリスはボートから身を乗り出し神気閃光を発射した。 「山本イロハ。あなたはアークに連行します。知っていること、全て吐き出して頂きますよ!」 「なんじゃと!?」 アークは潤沢なリベリスタ組織だ。一度連行されればありとあらゆるスキル漬けにされて持ちうる情報を全て引っこ抜かれるだろう。勿論その後は面白楽しい死刑タイムである。はっきりいって死んだ方がマシだ。 歯噛みするイロハ。 そこへ追い打ちをかけるように、郷のボートが真正面から突っ込んできた。 「鎖ちゃんやっぱり来てくれたんだな!」 「黙って戦えボケ!」 ひたすら連射されている銃撃を巨大なチェーンソー(スポーツカーに積むようなV8ターボエンジンで動いている狂気の武器だ)でガードする鎖。その間もボート同士ががつがつとぶつかり合っているおかげで足止めが効いている。 郷は意を決してそのボートに突っ込んだ。 「こンの……!」 イロハは緊急性を感じて機関銃を両方とも郷のボートへ向けた。全力射撃。 「リンシード、羽音、でもってアーリィ! しっかり捕まっててくれよ!」 「無理ー!」 銃弾の向かい風を浴びながら突っ込む郷。大量の弾丸が郷を貫通。歯を食いしばってフェイトを消費。 そしてボートが激突。 押し出されるようにリンシードと羽音がイロハへ襲い掛かった。 「貴女で最後です、覚悟して下さい」 「言うべき台詞全部言われちゃった? まあいっか、死なない程度に死んでねーっ!」 と言いつつ首目がけてフルスイングされるチェーンソー。 イロハはそれを屈んでかわす。 それを見越していたかのようにリンシードが身を限界まで低くして剣をフルスイング。 イロハは鮮血を噴き上げて跳ね飛び、鎖のボートへ転がり込んだ。 身を越そうとした途端、膝をボウガンの矢が貫通。床に縫い付けられた。 「なっ……!」 顔を上げれば、郷のボートから顔を出していたアーリィがぐっとガッツポーズをとっていた。 「今だよ、アリスさん!」 「そうはいくか――!」 腕を振り上げるイロハ。手首をくるりと返すと、手に小刀が握られた。 それを鎖は無表情で見下ろす。 あ、と思う暇はあった。 だが思うだけである。 手を伸ばす暇も、アリスが何かを打ち込む暇もない。 イロハは自らの腹に刀を突き立てる。 「うぐっ」 それでは足らぬとばかりに横一文字にぶった切り、勢い余って刀は海にぼちゃんと落ちた。 内臓が思い切り引き裂かれ、ボートの床に流れ出る。 「死ぬ方を選んだか。相変わらずプライド高ぇなイロハ」 「……はっ」 口から血を吐き出しながら笑うイロハ。 アーリィとセラフィーナが慌てて駆け寄って回復をかけるが、イロハはそれを拒絶した。 「強さに溺れて奢るなよ、アークのいい子ちゃんども……ぬし等の玩具にされるくらいなら、喜んで死んでやるわ」 綺麗な和装がぐちゃぐちゃに乱れ、赤い液体が鎖のボートを満たしていく。 その中で、鎖は静かに目を閉じた。 すとん、と脇に立つリンシード。 「最後に、言いたいことは?」 「……無い」 山本イロハは死亡した。 ●『○○○○』 ヴェイルが通信機を耳に当てる。 「ボート数隻分の兵隊、及び指揮官クラスのチャーム・スィーニー、山本イロハの死亡を確認しました。兵隊は銃火器を所持し、広範囲攻撃が可能な模様。個体戦力は非常に低いですが、数で攻められれば危ない相手です。気を付けて。では……」 通信を切る。 ボートはやがて港へ到着し、アーリィは仲間の手を借りながら陸地へと上がった。 「今も他の場所でみんなが戦ってる……大丈夫、かな」 「気になるなら行く?」 前髪をぱさぱさと直しつつ、セラフィーナが問いかけてきた。 控えめに頷くアーリィ。 リセリアが剣を収めてその場に座り込んだ。 「少し出遅れることになるかもしれませんけれど……それに、私はもう戦力になれそうもありません」 「私もです。焦ったイロハさんに集中的にやられて」 アリスは座り込みはしなかったものの、両手を組んで大人しくしている。 その横で、同じように負傷した割には元気そうな五月がちらりと振り返った。 やや遅れてボートを陸付けした鎖が上がってきたのだ。 イロハの遺体は海に捨てた。戦闘終了とみるや即決だった。 そんな鎖に羽音がちょこちょこと近寄って行く。 「ねえね、訊きたいことあるんだけど」 「あン」 「郷のことどう思ってるの?」 「ぶっ殺したいと思ってるけど?」 「……えっ」 そう言うと、満身創痍でフラフラ上がってきた郷の襟首を片手で掴み上げた。 「えっ、何!? 今度は何!?」 「そういやお前の携帯、アタシの番号メモリーしてあったよな」 「それなら着信履歴でばっちり保存……」 「よし沈めェ!」 鎖は郷の唇を自らの唇で一瞬だけ塞ぐと思いきり振りかぶって海へ投げ落とした。 「証拠隠滅」 「……ひどい」 「これでアークとの癒着は疑われない……筈だ。今争奪戦起こってるんだろ。アタシは興味ないから行かないから、アンタらだけでさっさと行きな」 「…………」 リンシードは暫く鎖の顔を無表情で見ていたが、突然にひゃっと笑ったかと思うとすぐに踵を返した。 「これで、終わり……ですね」 最後に呟いた言葉がどんな意味なのか、それは分からない。 だが戦いはまだ終わっていない筈だ。 最も大きな戦いが、この後に待っている。 ――舞台は杵築神社へ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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