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<裏野部>煌めきは死の兆し<砂塵舞う>


「ねぇぼく」
「なぁにわたし」
 がらんとした地下空洞の片隅で。
 膝を抱えて座る2人は、言葉をかわす。
「ちゃんと来るかな」
「きっとくるよ」
「楽しい一日になるといいね」
「大丈夫、きっととっても楽しいよ」
 くすくす、くすくす。全くずれない笑い声が、空洞を満たしていく。
 彼は待っていた。彼女も待っていた。遊び相手がやって来るのを。
「あのひとには感謝しないとね。ねぇ、わたし」
「そうだね、こんなに楽しい遊び場を用意してくれるのはあの人以外にいないよ。ねぇ、ぼく」
 わたしはぼく。ぼくはわたし。
 どちらが話しているのか。そもそもどちらがどちらなのか自分達でも曖昧に。彼らは言葉をかわし続ける。
 忘れないように。ぼくのことを。わたしのことを。互いが互いであるために。
「ねぇぼく」
「なぁにわたし」
 終わりの無い遣り取りは延々と、続く。


「揃ってるわね。……さ、今日の『運命』よ。急を要するから、どーぞよろしく」
 珍しく背筋をぴんと張って。『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は、リベリスタを確認次第即座に口を開いた。
「あんたらには話が終わり次第すぐ、とある都市の地下に向かって貰う。……ぽっかり空洞になってるのよ、そこ。
 理由? よく分かんない。そんな所に街を作った奴等も結構アレだと思うけど。まぁ、旧軍の地下壕とか、元々の地形の関係らしいから、その辺は置いておいて。
 今回、あんたらに向かって貰わなきゃいけない理由はひとつ。
 敵が、この地下であんたらを待ってるから。……爆弾仕掛けててね。来なけりゃ都市ごと沈めてやろう、って言う心算みたい。全く、良い趣味してるとしか言いようが無いわ。
 急を要するって言うのはそう言う事。悠長に待ってくれそうに無いから、多くの人員を裂いて作戦を練って、何て事は出来ない。
 ……要は、あんたらに命懸けでその誘いに乗って貰おう、って話よ。此処まで大丈夫ね?」
 何度も説明を繰り返す時間も惜しい。
 そう言いたげに首を傾げたフォーチュナは、手早く手元の端末を操作していく。
「地下空洞には敵がうようよ居るけど、とりあえず其処は気にしなくて良い。フォーチュナを信じて、指定の道を進んで貰えれば大丈夫。
 ……ただ、その後はあんたらに任せるしかない。状況は最悪でね、爆弾は4箇所ある。……その全てに、爆弾を護る奴等がついてるわ。
 これが爆発すれば、都市は沈む。……3つ以上爆発するか、あたしが担当する地点と、名古屋さんが担当する地点が両方爆破されても、都市は完全に沈むから。
 あ、因みに断頭台さんと逆貫さんのところが両方、でも結果は一緒ね。……ほんと、話してるこっちの気が滅入っちゃう」
 肩を竦めたフォーチュナの瞳にはしかし、ふざけた様な色は欠片も無い。
 操作を終えた端末が導き出した、空洞の深部のある地点を、その長い爪が示す。
「此処。あんたらが向かってもらう場所ね。……此処には、『二連星』ミザールとアルコルっていう、フィクサードが居る。双子。姉と弟。
 でも、どっちが姉でどっちが弟かは分からない。見た目は一緒。声も一緒。因みに、どっちもナイトクリーク。
 実力としても厄介な奴らなんだけど、こいつらのどっちかが、裏野部所属だった鍛冶師刃金が作った武器、『悪意の伴星』を持ってる。
 詳細は資料に添付しといたけど、……まぁ、凶悪よね。『刃金の七つ武器』とか、そんなもん持ち出して来る位には、向こうも本気なのかもしれないけど」
「で、現場には他にも、敵が居る。
 まず、爆弾であるE・ゴーレムを護ってる……『砂人形』『石人形』が5体ずつ。――幽霊でも見たみたいな顔してるわね。
 あたしは良く知らないんだけど。……この2つの敵、あんたらは馴染みがあるのかしら。
 これを作れる『砂潜りの蛇』黄咬砂蛇は、確かに死んだ筈なのよね。あたしも、報告書は読んでる。
 ……でも、現に動いてる。まぁ、そっちの真相に関しては、あたし担当じゃないからさ。……生きて帰って来て、確認して頂戴。
 次、双子の所持するアーティファクトが生み出す、爆弾エリューションが居る。
 気分悪くなっても我慢してね。……そのアーティファクト、『生命導火線』は、エリューション1体と、作りたい数だけの一般人を取り込む事で効果を発動する。
 エリューションの増殖作用を促進させた上で、一般人をエリューションの胸へと埋め込むの。勿論、一般人は生きてるわ。意思もある。喋れる。
 で、所有者の設定したタイミングに従って、アーティファクトは爆弾を排出し続ける。
 ……一般人が生きている状態で、一定の時間が経過すると、エリューションは爆発するわ。威力は高い。
 でも、逆に言えば、一般人さえ殺せば、それはただのエリューションになる。……まぁ、精密射撃で殺す他無いけどね。助けたいなら考えても良いけど、結果は保証しないわ」
 これぐらいかしら。深い溜息混じりに話を切ったフォーチュナの後ろから。
 静かに控えていた『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016)は、その銀月の瞳に冷ややかな色を乗せて口を開く。
「今回は、私もご同行致しましょう。……状況はあまり良く無さそうですが、最善を」
 宜しく。そう頷いたフォーチュナが、丁寧に揃えた資料を人数分、彼らの前へと差し出す。
「詳細は全て、こっちに乗ってる。……双子に関しては情報が少なかったけど、分かってる範囲で。
 油断はしないで。あんたらが無事に帰って来る事を、願ってる。……頑張って来て頂戴」




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:麻子  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月11日(月)22:35
お星様は素敵ですよね。
お世話になっております、麻子です。黒です。
らるとST、ガンマST、黒歌鳥STと連動です。狩生同行、命懸け。

以下詳細。

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。

 また、このシナリオと連動する他のシナリオへの同時参加は不可です。

●成功条件
巨大爆弾の爆破阻止

●場所
地方都市の地下空洞。
開けた箇所での戦闘です。大型爆弾は敵陣奥の柱の様な部分に据え付けてあります。
灯りは十分。狭さによるペナルティもありません。

●『二連星』ミザール・アルコル
姉弟。姿形声、そして、その精神性まで完全に同一の双子です。
揃いの白いフード付きマントを被っています。
ジーニアス×ナイトクリーク。
アーティファクト『悪意の伴星』『生命導火線』そして、爆弾の起爆スイッチの所有者はどちらか一切不明です。
彼らは『リベリスタが撤退した』場合と『自分達と戦うに値しない』と判断した場合に起爆スイッチを押します。
所持スキルに関しても下記だけが判明していますが、どちらがどちらか一切不明。
どちらかがミザール、どちらかがアルコルです。


バットムーンフォークロア、シャドウサーヴァント、ブレイクフィアー
P:ブラッティロア、ダブルアクションLv3

B:バットムーンフォークロア、シャドウサーヴァント、ライアークラウン
P:ブラッティロア、ダブルアクションLv3
非戦:ワールドイズマイン(強化版。その効果はリベリスタにも及びます)

●E・ゴーレム『巨大爆弾』
戦場最奥、天井に繋がる柱部分に備え付けてあります。
爆発条件は下記
・攻撃を受ける(範囲攻撃・全体攻撃含む)
・ミザールかアルコルが起爆スイッチを押す

●砂人形・石人形
初期配置5体ずつ。爆弾の周りに居ます。爆弾に近付く敵や、自分達への攻撃へ反応します。
彼らの自爆等でも爆弾は爆発します。
加えて、2T目から随時各2体ずつ、戦場へやって来ます。此方は爆弾の周りに居るものとは違い、通常の戦闘行動を行います。

砂人形:麻痺と毒系統のBS無効。半径10m内を吹き飛ばす自爆が可能です。
石人形:石の鎧を身に纏った砂人形。砂人形よりも速度に劣り、攻撃力と防御力に優れます。
麻痺と毒系統のBS無効。
石の鎧を炸裂させる事で20m範囲内の敵全体に対しての攻撃を仕掛けることが出来、石の鎧炸裂後はノーマルの砂人形と同じデータに変化します。

●アーティファクト『悪意の伴星』
左右2本の短剣型アーティファクト。左右で合わせて2回の攻撃を可能にします(常時DA)。
右の短剣での攻撃を喰らった場合、○○無効等のBS無効の能力を持つ者は其の効果の恩恵を受ける事が出来なくなります。
左の短剣での攻撃を喰らった場合、呪いのバッドステータスに加え、虚弱、圧倒、鈍化、猛毒、流血、業炎、氷結、雷陣、麻痺、不吉、混乱、致命、怒りの中から3つまでのバッドステータスをランダムに付与します。

●アーティファクト『生命導火線』
取り込んだ一般人とエリューションを組み合わせ、爆弾を作成するアーティファクトです。
既に、十分な数の一般人と、増殖させる為のエリューションを取り込んでいます。
初期配置6体。2T目から随時3体ずつ追加されます。
代償として、所有者はエリューション排出の度、古いものから記憶をどんどん削られていきます。

●エリューション『爆弾』
『生命導火線』によって産み出された爆弾エリューション。胸の真ん中に一般人が植え込まれています。
彼らの爆発条件は
・一般人が生きている状態で倒される
・一般人が生きている状態で3T経過する
上記2つです。一般人を引き摺り出す、若しくは殺すことで彼らはフェーズ1相当のエリューションになります。
彼らの爆発に巻き込まれた場合も、巨大爆弾は爆発します。

●配置図
地下空洞は、

 A   B
   +
 C   D


の様に4ブロックに分かれており、麻子の担当はCです。
爆弾が爆発すると、該当地区の上の街が被害を受けます。また、隣接地点両方が爆破された場合は街の半分が
斜め地点(A-D、B-C)が両方爆破された場合は街全てが沈みます。
3つ以上爆破されれば即座に街が地に沈みます。

●同行NPC
竜牙 狩生 (nBNE000016)が同行します。
指示が無ければ、エリューション狙いで動くと思われます。
【狩生】と付いた最新の発言と、皆様のプレイングを参照します。
スキル等はプロアデプトのもののみです。

情報量も多く、厳しい戦いになるかと思います。
ご縁ありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
参加NPC
竜牙 狩生 (nBNE000016)
 


■メイン参加者 10人■
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
プロアデプト
★MVP
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ホーリーメイガス
ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)


「ああ楽しいねぼく、わたしとぼくのためにこんなに沢山来てくれたよ!」
「そうだねわたし、今日はとっても楽しい一日になりそうだよ!」
 くすくすくす。笑う回数まで全く一緒。
 そんな双子が影を纏い戦闘準備を整える中、リベリスタ達は立てた作戦の甘さに唇を噛む事となっていた。
 源 カイ(BNE000446)や『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の千里眼で見通せたのは、敵の詳細な配置のみ。
 幾ら遠方を見据える目であろうと、神秘の固まりは見通せない。恐らくは纏うマントの奥に隠されているであろう物品は、彼らの瞳には映らなかった。
 そして、武器もまたアーティファクト。双子の両手に1本ずつ、デザインの変わらぬ短剣を握られてしまえば、区別などつけようが無い。
 立ち位置だけは迷わず確保出来たが、それ以外は全く捗っていない。
 既にその集中を限界まで高め切った『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は、少しでもその状況を打破せんとその紅の瞳を細めていた。
 確実に、効率的に。今必要なのは甘さではない。良い子優しい子では、勝てないのだ。
 迷いも躊躇いも動揺も、行動の邪魔になるだけ。ただ冷徹に、やるべき事を為せばいい。
 光も弾かぬ程の漆黒の弓を握った彼女の瞳には、揺らぎの欠片も存在しなかった。
 巨大爆弾とは距離を置いた位置に立つ双子へと。駆け寄ったのは『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)。
 思わず目を引かれる片方。迷わずそちらへと瞳を向けながら、彼女は全身のギアをただ一点へ特化したものに引き上げる。
「私は貴方たちを許さない。一般人を捕らえて、爆弾にして……その上都市一つを滅ぼそうとする」
 許せなかった。姉がそうだったように。否、姉がそうだったからこそ。セラフィーナは護れぬ事を是としない。
 どうか、見守っていて。そう心の中で祈って此方を見据える彼女を、双子は僅かに視線を傾けただけで目を逸らす。
 けれどそれでも。彼女は言葉を止めなかった。
「これが遊びだって言うなら付きあうよ。だから約束して。私達が勝ったら巨大爆弾は爆発させないって。そして覚悟して。貴方達の敗北を!」
 そんな彼女に続く様に、カイもまたもう片方の双子を相手取るように構え、己が影に力を与える。
「貴方達が満足ゆくまで死合うとしましょうか」
 とん、とその背にぶつかるのはセラフィーナの背中。
 背中合わせ。不意を突かれぬ様、視覚を補い合う彼らが狙うは、双子の分断。
 しかし、身体ひとつで人間を遮り切る事など叶う筈も無い。隣り合わせ、動きを見せぬ双子は、彼らの狙いを読んだ様に面白そうに笑い出した。
「ねぇねぇわたし、ぼくらを引き離そうとしてるみたいだよ」
「そうだねぼく、離れる訳無いって言うのに可笑しいね」
 無理矢理割り込む様な技があったなら、話は別だっただろう。
 しかし、カイもセラフィーナも、彼らを弾き飛ばすような技を持っては居ない。遮ろうにも、向こうが離れるつもりが無ければそれは、意味を成してはくれなかった。
 続いて戦場を吹き抜けたのは、宙を舞う加護を与える『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)の魔術。
 砂人形と戦った時から、分かっていた。
 『彼』が再び蠢いている事。地獄から引き摺り戻された事。
 目の前に居るのは『彼』ではない。しかし、この、多くの命のかかった場を遊び場にするようなフィクサードなのだ。
 こんな非道、絶対に許さない。
「犠牲を出さないために全力を尽くします!」

 双子とは少し離れた位置。
 決意に満ちた凛子の声に応える様に、宙に浮き上がった『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は、愛用の火縄銃を構え、狙いをつける。
 対象は複数。一般人とエリューションが交じり合う奇形の、だらしなく飛び出した一般人。
 更に絞って。呻きを上げる一般人にとって致命傷になりうる部分を確りと視認した龍治は、躊躇い無くその引金を引いた。
 光弾がばら撒かれる。そのずば抜けた射撃の腕はひとつも違える事無く、一瞬で一般人の息の根を止めていた。
 巨大爆弾が爆発すれば、被害は甚大。その危険を未然に防ぐ為『不本意ながら』、彼は一般人を撃つ役目を請け負っているのだ。
「せめて、苦しまずに逝かせてやろう」
 それが慈悲だ。ざっと目を走らせてから、狙撃手は次の爆弾排出に向けて集中を高めていく。
「あんた達にこの遊び場を用意してくれたのは誰?」
 呼び寄せるのは無数の鴉。敵の全身を喰らい尽くす様に飛び掛ったそれを見遣りながら、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は問いかける。
 答え次第では、その記憶の欠損を見出せるかもしれない。そんな彼女の思惑を知ってか知らずか、双子は再び同時に笑い出した。
「知っているのに聞くんだね、とっても面白いね!」
「ぼくとわたしの大好きな彼だよ。彼。あっちはどうなってるのかな、楽しみだね!」
 話したい言葉を、二つの口に分けて紡ぐ様に。彼らの会話の調子は狂わない。
 微かに眉を跳ね上げた綺沙羅からも目線を外した双子が次に目を向けるのは、爆弾付近の人形達。
 彼らはリベリスタの予想通り、初期配置から微塵も動かなかった。
 それが意味する事は、つまり。
 レイチェルの表情が険しくなる。距離的には恐らく、少し前に出れば届く範囲。しかし、仕留め切れなければどうなるかが読めない。
 そんな懸念に思案する彼女の答えが出る前に、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は星屑煌めく日傘をくるりと回す。
 街一つ人質にした、過激派らしい招待状。
 まるで構って欲しい子供の悪戯の様だと目を細めた彼女は小さく、溜息を漏らして。
「ごきげんよう。招待状が届いたから遊びに来たわ」
 余りに不似合いな挨拶をひとつ。
 砂蛇の遠隔爆破を警戒し、人形を処理せんとした彼女の思惑に気付いたのだろう。レイチェルは即座に声を上げた。
「駄目です、下手に手を出して自爆されれば……!」
 死なば諸共なんて笑えない冗談だ。元々、巨大爆弾を攻撃範囲から外せば全てを巻き込む事は不可能。
 ならば、と氷璃の唱えるまじないを切り替える。高められる魔力。
 そんな彼女を含め、戦場全体を共に来た相棒と共に見渡してから。
『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)は、一般人を失ったエリューションをきつく睨み据える。
 汲み上げるのは駆け巡る思考の奔流。
 圧倒的なそれは、顕現すれば途端に物理的な圧力となって、目前の敵全てを薙ぎ払った。
 弾き飛ばされた敵の胸から垂れ下がる、一般人の顔が目に入る。
 かける言葉など無い。犠牲を強いた。それは決めた事だ。しかし、吐き出せぬ激情が彼の喉を詰まらせる。
「っ……それでも!」
 やらねばならない。崩界を防ぐ為ならば。人間だろうと――享楽に道を踏み外す輩を人間と呼ぶのなら、だが――排除、するのだ。
 胸元に収めた書が、淡く光を帯びる。覚悟を決めた主人に応えんとするそれに、雷慈慟は手を押し当てる事で応えてみせる。
「全く裏野部ちゃんは派手好きだよねぇ~」
 良い趣味した演劇だ。演目はグランギニョル。演者は双子にリベリスタ、そして沢山の一般人。
 けらけら、笑う彼が漆黒の瘴気を練り上げる。
 頭に響く、生命を削る音。そんなもの一つも気に留めず、葬識は一般人を失ったエリューションの始末に尽力する。
 ぐらり、倒れる2体。微かに笑みを浮かべた彼は、ぎちぎち、嫌な音を立てる鋏を開き首を傾けた。
「人形劇の終わりが、爆破オチだなんて喜劇にしかならないねぇ~」
 ゆらり、見上げるのは天井。千里を見通す瞳が映す少し慌しい人々の営みは、未だこれから起ころうとしている非日常を微塵も感じさせない。
 仕事をしよう。命は地球より重いんだし? 護ってやらなきゃ寝覚めが悪いじゃないか。
 ばちん。鋏を閉じる。不敵に笑う彼の背後では、待機していた『鋼鉄魔女』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)がぴん、とその指を伸ばした。
「やれやれ、あの小僧と戯れる事が出来なんだは惜しいが、良い」
 貴様らで我慢してやるのだから、精々楽しませろ。
 金属の爪に灯る燐光が、力有る光を呼び寄せる。危険は避けて、それ以外の敵全てを巻き込んだ彼女の攻撃にも、双子は楽しげに笑い声を上げるだけだった。
「いいねいいね、やっぱり誘いに乗ってよかったね」
「そうだねそうだね、じゃあもっと楽しくしようよ」
 再び響く、完全に重なった笑い声。握られた短剣が、鈍く煌めいた。


 戦況はやはり、芳しくないものとなっていた。
 龍治の一般人処理、そして、レイチェルや『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016)によるエリューション処理。
 葬識、雷慈慟による増援の人形対応は、兎も角。
 一番に気を回さねばならぬ筈の双子は、ほぼ自由に動ける状態でその凶刃を振るっていた。
「ごめんねお姉さん、とっても痛いと思うよ」
 するり、カイの横を抜けた片方が、氷璃に肉薄する。
 まず呼び寄せたのは、破邪の閃光。目の前の女性によって呪縛された相棒が、自由を取り戻す。
 続いて、振るわれたのは左手。庇う者などいない、そんな状況で深々と脇腹を抉り取った一撃に、華奢な膝がぐらつく。
 駆け巡るのは呪詛。氷璃の予想通り。ブレイクフィアーを持つ目の前の子供こそ、悪意の伴星を握る者。
「――貴方達にとって“遊び”とは他人の命を弄ぶ事かしら?」
 ねぇアルコル。傷口を押さえる。伝い落ちる冷や汗を感じながら紡がれた言葉に、目の前の『少年』がくすくす笑う。
 お姉さんは鋭いね。そう、小さく囁いてから。双子は楽しげに笑い声を立てた。 
「人の命なんてスパイスみたいなものじゃないか、どうしてそんなに怒るんだい?」
「どうせ何時か死ぬって言うのに面白いね、リベリスタって皆そうなの?」
 セラフィーナの目の前。自由の身となった『少女』が、幾度目かの魔力を拡散させる。
 産み出すのは血色の満月。たった今伴星に呪われた氷璃だけではなく、既に攻撃を受けたカイにとって、最も恐れるべき一撃が、戦場全体を照らし出す。
 呪いのまじない。それは、攻撃も相俟って、容赦なく氷璃の膝を折った。
 華奢な身体が、己の血の中に沈みかける。けれどその心は倒れる事を是としない。
 折れる訳には行かないのだ。運命に抗わずに生きる何て事は、プライドが許さない。
 響くのは運命を燃やす音。冷ややかな色合いにはあまりに不似合いな紅を頬から拭って、彼女はその凍てつく蒼に光を取り戻す。
 即座に、回復の手を差し伸べるのは凛子。呼び寄せた高位存在の癒しは傷を癒したものの、カイを蝕むまじないを取り除くには至らない。
 しかし、それに歯噛みする事無く。凛子は氷璃の目の前の少年へと声をかける。
「それは使用するだけ過去の記憶は消える。それは大切な思い出もなくし、最後は大切な彼女の記憶もなくす」
 それを全て受け入れて、使用しているのか。そう問う言葉にも、双子は表情一つ動かさなかった。
 そもそも、わたしが持っているかどうかも分からないのに。けらけら、笑い声を立てて。
「ねぇ、分からないみたいだから教えてあげる」
「ぼくとわたしにとって、記憶の有無なんて瑣末な事だよ」
「ぼくはわたしで、わたしはぼく。それ以外なんてわたしとぼくには必要ない」
 生まれなど始まりに過ぎず、名前など識別以外の何物でもなく、過程など記録以外の何物でもない。
 そんなものなど無くったって。互いが存在する限り、そのアイデンティティは揺らがない。
 きっときみたちにはわからないね。再びの唱和。血を血で洗う戦いに、終わりの気配は全く見えなかった。

「……僕らに無関係な人達の命を奪わせた報い、必ず受けてもらう」
 冷ややかな激昂に呼応して、破滅を告げる漆黒のオーラが、再び目の前で相対した少年の頭を掠める。
 飛び散る鮮血。隠されていた顔が顕になれば、少年は硝子球の様な瞳でじぃ、とカイを見上げた。
「人を殺させた? 人聞きが悪いね」
 その声に応える様に。セラフィーナの前で、少女もまた、そのフードを下ろす。
 全く同じ二つの顔。角度すら違えず首を傾げて、心底愉快と彼らは続ける。
「彼らを殺すと決めたのも、現に殺しているのも」
「全て君達じゃないか。助ける事も出来るのに。それを選んだのは間違い無く君達だ」
「割り切れないなら手を尽くせば良かったんだよ。それすらしないでぼくとわたしを責めるのは、お門違いだね」
 10の為に1を切り捨てる。その選択は、正しいものだ。全てを守ろうなんて言うのは御伽噺。現実はそんなに甘くない。
 けれど。その選択肢は。
 事後の覚悟無しに選んでいいものでは、無いのだ。
 言葉に詰まる。思わず力を込めた義手が、軋みを上げる。
 そんな彼の想いを汲み取る様に。辛うじて癒えた状態を保っている傷を押さえた氷璃も、冷ややかな視線を双子へと投げた。
「……例え直接手を下さなくても、それを容認した時点で同罪よ」
 双子も、そして、龍治達に処理を任せた、自分自身も。
 そんな感情を秘めて。投げ掛けられた言葉にも、双子はなんら動じない。
 角度さえ違える事無く、心底不思議と首を傾けて。
「同罪かぁ。それがどうしたの?」
「正義だって悪だって、手を血塗れにしたら同じ人殺しだ。それがどんな理不尽や、優しさからの選択でもね」
「戦場に立つってそういうことでしょ? ぼくとわたしはそんなこと、とっくの昔から覚悟しているよ」
 おねえさんはそれもわかっているんだろうけれど。
 恐らくは少年の方が、楽しげに告げる。
 姿こそ子供。しかし、何処か老成し切ったその態度は、戦闘の激しさの中でもぶれる様子を見せなかった。


「嫌だ、いや、殺さないで止めて、たすけてぇ……!」
 悲痛な絶叫が、天井に反響する。
 追加の3体。少々散ってはいるが、彼なら問題は無いだろう。
 確認を終えて。狙撃組の片方、レイチェルはその照準を双子へと合わせ直す。
 狙うは背後を護る漆黒の影。しなやかに引き絞られた宵闇の猫が、離される。
 寸分違わず。恐らくは少女の方であろう子供に突き立てられた矢が、その影を見事に消し去る。
「いたいなぁ、まったく困っちゃうよ、ねぇぼく」
「そうだねわたし、怪我は大丈夫?」
 少しだけ。けれど同時に、彼らの瞳が見開かれる。
 しかし、レイチェルはその表情ではなく、彼らの動作のみを注視していた。
 もしもの為に。常に動きを把握し続けようとする彼女の目には、明らかに苦戦する仲間の姿も共に映り込んで来る。
 手を貸せるなら。そう思いかけて、けれど彼女は思い留まる様にアーチェリーを握り締める。
 為すべき事を為すと、決めたのだ。揺らぎかけたその決意を抱き直した彼女の横では、龍治の火縄銃が再び正確無比な光弾をばら撒いていた。
 その手はぶれない。その心もぶれない。
 罵詈雑言など掃いて捨てるほど投げられた。命乞いなどもう幾度耳を塞いだ事か。
 多くを救う為なら仕方が無い。その大義名分と共に己が心を割り切る術を、龍治は持っていた。
 もう慣れた。この程度で、躊躇いなど生じない。一瞬で絶命したそれの、どろりと濁った瞳に見詰められようと。
「――好きなだけ泣き喚け」
 そして、好きなだけ自分を恨めばいい。小さく。漏れた言葉は、一番近くに居たレイチェルでさえ聞き逃しそうなもの。
 その程度、甘んじて受けよう。それが覚悟だ。どれだけの怨嗟を受けようと、自身の選んだ選択の結末は自身が負う。
 再び構え直された銃身が、灯された灯りを鈍く反射する。

「はいはーい、酒呑ちゃん、そっち行ったからよろしくねぇ~」
 じょきんっ。暗黒の煌めきと共に、砂人形の1体を始末した葬識が声を張り上げる。
 増援処理。葬識が千里眼で凡その増援出現位置を確認した状況で、2人は只管に戦場に雪崩れ込まんとする敵を押し留めていた。
 ダメージの大きいものを葬識の鋏が処理し、雷慈慟が前進して来た多くを巻き込み跳ね飛ばす。
 彼らの善戦により、次から次へと列を組んで現れるそれらが戦場に与えている被害は、敵の想定より恐らくずっと少ないものとなっていた。
 しかし、それでも。押し留め続ける限り、彼らが猛攻を受ける事は避けられない。
 振るわれる硬い腕。時折混じる人形の自爆。自爆すれば数こそ減るが、その一撃は容赦無く、此方の体力を削り取っていく。
 同時に自爆に巻き込まれない様に。気を払い続けては居たものの、偶然は時に無慈悲。
 にたぁ、と。人形が嗤った気さえした。危ない、と声を上げる間も無く炸裂したそれに巻き込まれ、二人の膝が折れ掛かる。
 しかし。やはり彼らも、その侭地に伏す事を良しとはしなかった。
「この状況で我が身震わせずして……!」
 がんっ、と地を踏み締める。がりがりと、己が意志で運命を削り捨てる。
 折れてはならない。此処で折れてしまえば、顔向けが出来ないのだ。競り上がる、鉄錆味の激情を吐き捨てて。
 雷慈慟はその身を踏み止まらせ、傍らの仲間へと手を伸ばす。
 白い三つ編みは、気付けば紅混じりの斑模様。返り血所か自分の血なんて、気分が悪いだけだよねぇ。微かに、その眉が寄る。
 運命は燃やそう。だから未だ、膝を折る事なんて出来やしない。
「ほら、俺様ちゃんってばセイギノミカタだし~?」
 鋏を持たぬ手で、雷慈慟の腕を掴んで。彼も再び、確りとその足で地を踏み締める。
 此処で敵の進路を断てるのは、自分達しか居ないのだから。
「悪くないぞ、その侭しっかり立っておれ」
 傷なら全て癒してやる。そう言わんばかりに、ゼルマの爪が詠唱と共にまじないを描き出す。
 吹き荒れる、遥か高位の癒しの力。膨大な精神力を削り取っていくそれに、微かに頭痛を覚えた。けれど、この程度で音を上げてはいられない。
 柄じゃない。嗚呼本当に、全くもって似合わない。自分が死力を尽くして誰かを癒し続けるなんて。
 けれど。それを止めようなんて考えは、微塵も沸き上がって来なかった。
 彼女自身が知らない変化。それが、今彼女の背を押し続ける。
 ほんの少しだけ、楽しげに口角を上げた彼女へと、狩生が素早くその精神力を分け与える。
 持久戦にさえ持ち込めれば、癒しを齎し続けられる此方にも転機が有るかもしれない。
 明らかな劣勢の中で。そう信じる以外、出来る事など今は無かった。

「ねぇぼく、やっぱり戦うのは楽しいね」
「そうだね――」
「ねぇあなた?」
 楽しげな会話に割り込むように。口調を真似た綺沙羅が笑いを含んだ声を発する。
 鳥葬の如く、片割れの身体を食いつくし呪いを残しながら発されたそれに、双子はその日初めて、不愉快げに眉を跳ね上げた。
「ああいやだなぁ、せっかく楽しいのにそういうことするんだね」
「不愉快だね、なんにもしらないのに、ぼくとわたしの間に入って来るなんて」
 だからと言って、何の問題も無いのだけれど。苛立ちだけを吐き捨てて。彼らは再び、興味を失った様に彼女から目を逸らした。
 氷璃の鮮血が舞い上がる。荒れ狂う漆黒の鎖が、一気に敵を薙ぎ払っていく。
 ぴしり、と。恐らくは少女の方の動きが止まる。好機だ。しかし、手番を消費し切った仲間は、彼女を集中して叩く術が残っていない。
 否、そもそも。双子に相対する人員が圧倒的に少ないのだ。
 幾ら熟練のフィクサードであろうと、彼らとてリベリスタと同じただの革醒者。数に勝れば恐らく、叩き潰す事も可能だっただろう。
 双子さえ、始末できれば。巨大爆弾の爆発も、エリューションの排出も止まるのだ。
 けれど、それには手が足りない。足りなさ過ぎる。氷璃の握る傘が、握り締められて軋みを上げる。
 レイチェルが放った矢が、少年の分の影さえ打ち払う。しかし、それでも届かないのだ。
 幾度目かの破邪の閃光。続いて叩き込まれる、右の刃。
 カイの表情が、歪む。この後に来るのは唯一つ。もう幾度繰り返されたか分からない――
 呪力を撒き散らす、紅い月。それを目にした直後、既に運命を削られたカイの意識はぶつりと途切れた。


 不意に。
 双子の片方。伴星を握り締める少年であろう子供の腕が、漆黒の鴉に切り裂かれる。
 反射的に庇ったのだろう。その手は失われる事こそなかったが、多量の鮮血を滴り落としていた。
 戦況が転じない。それを見極めていた綺沙羅は、集中を高め続けていたのだ。
「ねぇ、同じで無くなったね」
 それでいいの? そう、挑発して彼らの心を揺らそうとする。
 ゆらり、此方に向く硝子球。かかった、そう確信した彼女は、嘲り混じりに言葉を続ける。
「遺伝子や精神性がどれ程近かろうが男女の性差が出ない筈がない」
 肉体年齢を止め、髪をこまめに切り、食事で体のラインを調整し、対話と言う名の確認で精神性を調整し……
 やっと同一であると錯覚できる。恐らくはそんなものだろう。告げれば告げるほど、硝子球の様な瞳が細められる。
「生まれる前からあんた達は別人なんだよ」
 違うの? 面白そうに首を傾げてその瞳を見返した時。
 綺沙羅は漸く、己の挑発が迂闊だった事を悟った。
 苛立ちを通り越して、呆れと冷ややかさのみが残った硝子球が、ぐるりと彼女だけを見詰める。
「わたしとぼくは最初ひとつだったよ」
「数奇な運命がぼくとわたしを別々にしただけ」
 数奇な運命の代償は大きいけれど。そう、2人が唱和する。
 同じでありたい。同じでなくてはいけない。そう願っているのだと思った。
 だからこそ、その点を指摘した綺沙羅の言葉はしかし、双子にとって苛立ちの対象でしかなかったのだ。
「同じであろうとする必要なんてないよ。外見を似せたのは、言葉を交すのは、ぼくがぼくを、わたしがわたしを忘れないようにってだけ」
「例え確認し合わなくたって、わたしとぼくの心は常に同じ。……見くびっているの?」
 さっきから、嫌な事ばかりして。
 するり、肉薄したのはどちらだったろうか。
 後衛の綺沙羅が挑発をすると言う事は、その侭自身の身の危険にも繋がりかねなかったのだ。
 それも、前衛が枯渇した、この状況では尚の事。
「――そのおしゃべりなお口、もういらないよね」
 先ずは一撃。その喉を、深々と短剣が抉り取る。続けてもう一撃。奇しくも先程、綺沙羅が狙い撃ったのと同じ右腕が、皮一枚残して骨ごと切り落とされる。
 ぐらり、傾ぐ身体。致命傷にならなかったのは、一重に運命の加護があったからこそ。
 力無く己の血の海に沈んだ彼女の身体を冷ややかに見詰める姉をちらりと見てから。弟は、入れ替わる様にやってきた雷慈慟を見上げる。
「今度の相手はお兄さん?」
 そんな問いに、彼は答えない。
 ただ冷ややかに此方を見詰める視線に面白そうに口角を上げた少年はしかし、不意に背後から掛かった声にその目を瞬かせた。
「人の痛みが分からないなら、今ここで貴方たちに刻み込む!」
 此処は、姉が護った世界。命を賭けて。最期の最期まで愛して護った仲間が存在する、世界なのだ。
 セラフィーナは決めていた。ならば、自分もそれを愛すのだ。そして、護るのだ。
 責任は重い。背負った記憶が重い。不安が胸を占めていた。けれど、今は違う。
 やらねばならない。今、此処に立っているのは、姉ではなく、セラフィーナ・ハーシェルなのだから。
 そんな彼女に興味を示す様に、少年は押さえに回った雷慈慟の手をすり抜ける。
 左手が叩き込まれる。一気に走る、身体を蝕むまじないに吐き気がする。けれど、此処で終わらないのは勿論、知っていた。
 右手の刃が煌めく。拡散する魔力が産み出す、紅の月。
 血を吐いた。一瞬、意識がブラックアウトする。けれど無理矢理運命を削って引き戻して。
 刺し違えたって良い。そう言わんばかりに、夜明けを齎した刀を力一杯、振り抜く。
 きらきら、七色に煌めく光の飛沫が辺りに散る。辛うじてその刃で受けた少年はしかし、止まらぬセラフィーナの動きに微かに目を見開いた。
 返しの太刀。光と鮮血を散らしたそれが、少年の脇腹を深々と抉った。
 荒い息。立っているのもやっとの彼女と、少年の視線が交わる。
「悪くないと思うよ、ねぇ、わたし」
「そうだねぼく、怪我は大丈夫?」
 言葉を交わす双子が同じ様に、痛みに顔を歪める。そんな彼らを横目に、凛子が即座に癒しの息吹をセラフィーナへと齎した。

 敵の増援も、終わりが見えない。
 辛うじて、葬識の押さえと氷璃やレイチェルの全体への魔術により数は減っているものの、既に戦場にも多数、雪崩れ込んできていた。
 数の暴力。後衛の多いリベリスタにとって最も対処し辛い状況に、凛子の膝が折れる。
「運命だからと諦めるわけにはいきません!」
 声を張り上げる。運命を削ってその膝を支えようと、敵の攻撃は終わらないのだ。
 一つかわして、けれど続いたもう一つをかわす事は、叶わない。傾いだ身体がその侭ざらつく地面へと沈んでゆく。
「……ヌシらはこの程度の遊戯を楽しいと感じるのか?」
 精神力の限界を感じながら。ゼルマは不意に、双子へと言葉を投げ掛ける。
 答えがあるかは分からないが。今しか、この言葉を投げ掛ける事は出来ない気がしていた。
 こくり、頷く二つの頭。話を聞く気はあるのだろう。ゆっくりと息を吐いて、魔女は言葉を続ける。
「ヌシらは物知らずにも程がある。世には遥かに楽しめる事が多く転がっている」
 知らぬなら教えてやってもいい。自分についてくるのなら、だが。
 投げ掛けるのは提案。恐らくは楽しみだけを求める彼らが、どう出るか。そう瞳を細める彼女に視線を投げながら。
 双子はほんの少しだけ、硝子球に揺らぎを見せて、呟く様に口を開いた。 
「お誘いはとっても素敵だよ、ねぇ、わたし」
「ついていくのも悪くないかもしれないね、ぼく」
「でもね」
「わたしとぼくには」
 もうそんな時間が残っていないんだ。
 硝子球の瞳は、笑みも何も浮かべていない。読み取れない感情、しかしそれを告げた彼らは何かを振り切る様に武器を翳して駆け出していた。


「……もう飽きちゃったね、わたし」
「……もう飽きちゃったよ、ぼく」
 激化する戦闘の終わりは、唐突だった。
 淡々と告げられた台詞に、リベリスタの表情が凍りつく。
 直後、ぐらりと崩れ落ちたのは葬識。その直傍には、セラフィーナも倒れ伏していた。
 少ない前衛と癒し手を削られていたリベリスタの戦線は、既にぎりぎり均衡を保っていたのだ。
 けれど、敵の増加は止まらない。回復が追いつかなくなれば、前衛が倒れるのもまた、必然だった。
 敵の逃亡。それは即ち、未だ握られたままのスイッチが押される事を意味している。
「アルコルです、スイッチは彼の方にあります!」
 只管に動きを注視し続けたからこそ。レイチェルの直観が、スイッチの在り処を見抜く。
 酷く傷付いた、伴星持ち。彼の眉が微かに動く。
 壊しても、攻撃をされれば同じ事。けれど、今彼らに出来るのは、そのスイッチを壊すか、双子を倒すかの二択だったのだ。
 氷璃の漆黒の鎖が、ゼルマの閃光が、スイッチごと薙ぎ払わんと振るわれる。
 しかし、届かない。倒せない。後一歩、届かない。
 短剣を一振り仕舞って取り出したスイッチが見える。その指が、押し込まれるのが、コマ送りの様に見えた。
 氷璃が目を閉じる。運命に抗う力を己を愛する運命に望むだなんて、面白い位の矛盾だ。
 けれど、それでもと伸ばす指は、運命の手を掴めない。
 そんな彼女の目の前で、雷慈慟もまた、運命に抗わんと駆け出していた。
 守るべき世界。
 その中で守るべき一般人にすら、助ける事は不可能だと、犠牲になる事を強いたのだ。
 それなのに。多数の為に少数を、切り捨てたのに。
 多数すら守れないなんて事、許される筈が無い。無いのだ。
 その犠牲に応えなくては。その犠牲に意味を与えねば。その怨嗟に、解答せねば、ならないのだ。
 己が身を振り絞って応えられるならば、躊躇う必要が何処にあるのか。だから、だからどうか。
 駆け寄る。手を伸ばす。運命は応えてくれない。けれど、諦める訳にはいかないのだ。
 指先が、スイッチに触れる。同じく狙いを定めた龍治の弾丸が、スイッチを跳ね飛ばす。
 しかし。
「……危なかったね、わたし」
「……そうだね、ぼく」
 コンマ一秒早く。押し込まれていたスイッチが、からん、と地に転がる。
 遠くに聞こえる爆発音。何処かで、スイッチが押されたのだろうか。そんな事を考える余裕も無く、目の前の爆弾が揺れ始める。
「爆破までは少しだけ時間があるよ、リベリスタ」
「だから早く、仲間と一緒に逃げた方がいいよ」
 傷付きふら付く弟を、姉が背負い上げる。
 せめて倒すべきか。そんな考えが頭を擡げるも、即座に打ち払った。
 今立っている者も、龍治とレイチェルを除く全員が、一度己の運命を削り取られていた。
 そんな事をしていれば、此処で全員、死ぬ事になるのだ。動けぬ仲間も居る今。撤退する以外の選択肢は残っていない。
 歯噛みする。悔しさが込み上げる。けれど、止まっている暇は無い。
 素早く、仲間を背負い上げる。手負いの狩生が脚を引き摺りながらも、使えるであろう通路の位置を示した。
「ねぇリベリスタ」
「飽きたって言うのは訂正するよ」
 揺れが、大きくなる。爆発が近いのだろう、地響きに紛れて、双子の声も遠ざかっていく。
 またあおうね。そんな囁きだけ残して、その姿は地底の何処かへと消えて行った。


「ねぇぼく」
「なぁにわたし」
「爆発したね。一個前はあの人のところだね」
 通路もほぼ終わり。背中から聞こえる、ほんの少し弾んだ声に、姉も同じく笑みを浮かべた。
「そうだね。あ、今のは、あの、ええと……あげはちゃんとろんちゃんの所だね」
 3つ目。再び聞こえた爆音に、少しだけ歩調を速めた。
 出口を通る。その後ろで、街が一気に崩れ去っていく音がした。
 何だか少し、記憶が混濁する。今日は少し、力を使いすぎたのかもしれない。
 ……でも、力ってなんだったっけ?
 幾ら手繰り寄せても、その先の記憶は存在しない。
 嗚呼どうしようかなぁ。少しだけ不安になって、首元に埋まる弟の頭に頬を寄せた。
 背中に乗る身体は温かい。それならきっと、自分の身体も温かい。
 ぼくはわたし。わたしはぼく。
 この子がアルコルなら、私はミザールだ。
 笑みが戻る。歩き出す。さぁ次は何処に行こう。疲れちゃったし、少し休んで、それから誰かと合流したらいいかなぁ。
「ねぇわたし」
「なぁにぼく」
「今日は楽しかったねぇ」
「そうだねぇ、またこんな日が来るといいね」
 何時もの調子で言葉を交わす。
 傷付いた身体を引き摺って。双子は楽しげに、その姿を消した。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
お疲れ様でした。

判定理由は、リプレイにある通りです。
メインを潰せば残りも潰れます。そうも行かない時は確かに有りますが。
加えて、ひとつ気になったので。
非戦は万能ではありません。手番を使うものも多く、戦闘中は得られる効果も限定的です。
勿論有効な時もありますが、少しだけ気になったので。

MVPは迷いましたが、その心情と全体を支え様としていた貴方に。

ご参加ありがとう御座いました。ご縁がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。