● 異世界から来た蛹 ある雨の日の昼下がり、そいつは突然現れた。 いつからそこにあったのか、いつそこに現れたのか、誰も気がつかないうちに、そいつはこの世界に現れて、気がついたら小さな公園の真ん中に根を張っていた。 根、と呼んでいいものか。 灰色がかったプラスティックのような質感の楕円球体。そこから伸びるのは、同じような質感の根。四方八方に伸び、地面や遊具、木の幹などに潜行し、這い回る。 かなりの大きさがある。高さにして2、3メートル程だろうか? 大きさと質感さえ除けば、そいつはまるで昆虫の作った繭のようにも見える。 「なんだこりゃ?」 第一発見者は、偶然通りかかった学生だった。見た事のない物質を前に、好奇心を刺激され落ちていた木の枝を手に繭へと近寄っていく。 恐る恐るといった様子で、繭を突く。表面は見た目通りプラスティックのような感触。ただ、少し固いように感じる。 繭の表面を雨が滑り落ちる。どうやら水分を弾くようだ。 「もしかしてこれ、UMAとか言うやつか?」 少年が思い出したのは、映画でみたエイリアンの卵か何かだった。もし彼の予想が当たっているとすると、こいつはつまり何か未確認生物の蛹と言う事になる。 「中身を暴いてやる」 木の枝を捨て、代わりに落ちていた鉄パイプを手に取った。大きく振りかぶって、鉄パイプを繭に叩き付ける。ガツン、という衝撃。少年の腕がしびれる。 繭には傷一つつかなかった。 その代わり……。 「う……、い、いてえええ!?」 少年の腕には、黒い痣。見る間に晴れ上がっていく。 それはまるで、鉄パイプで叩いたような痣だった。 キリキリキリ、と繭の中で何かが鳴いた。 ● 未確認生物討伐指令 「こいつの正体は(ダミー)と呼ばれる胃世界の昆虫、らしいわ」 と、『リンク・カレイド』真白イヴ((nBNE000001))は言う。 うさぎを模した鞄を胸に抱き、嫌そうな顔。どうやらモニターに映るこの生物が苦手らしい。 「現在は繭に篭った蛹の状態。繭は固く、一定量のダメージを受けないと壊れないし、孵化もしない。ただし、自身の受けた攻撃を稀に跳ね返す性質を持っている」 少年の腕に痣が出来たのは、この能力が原因らしい。 「それから、孵化する生命体の形状は決まっていないのが最大の特徴」 どういうこと? と、質問の声があがった。イヴは小さく頷くと、その問いに答え始める。 「中にいるダミーの蛹は、現在質量を伴っていない。学習中、といった感じ。外からの衝撃を吸収し、学んでいるの。一定量のダメージを受けて繭が破壊された時点で、中のダミーは形を得る。その際、今まで受けた攻撃をいくらか学んで、それを使用できる形状を得る」 打撃を加えれば、打撃重視の姿に。 斬激で傷つければ、鋭い刃を持ったの姿に。 炎で焼けば、炎に適合した姿を。 複数の攻撃を加えれば、複数の特徴を持った姿、或いは、そのうちいくつかの特徴を得た姿で生まれてくるという。 「過酷な環境にも適応できる生命体。生まれた場所に最適な姿を得る」 そういう特徴。そういう能力。 「このままディメンションホールに帰したい所だけど、既にホールは消滅した後。というわけで、みんなにはこの生命体を繭から引きずり出して、殲滅してきてもらいたいの」 幸いにして、相手は1体のみのようだ。 とはいえ、油断して相手できる生命体ではない。 「きっちり始末してきてね。気をつけて」 そう言って、イヴは小さく手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月06日(水)00:09 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●繭 昼下がりの公園。程よい日差しと、涼しい風。錆ついた遊具が、キイと甲高い音をたてて軋む。 どこか遠くで、車のクラクションの音がする。人気のない公園からは程遠い場所での出来事だ。とはいえ、人通りが0、というわけでは決してないわけで……。 「気休めかもしれませんが、結界を活性化させている方達全員でこの辺りに結界を」 そう言ったのはアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)というアルビノの男であった。 彼の視線の先には、プラスティックにも似た質感を持つ巨大な楕円形の繭がある。 異世界から現れた、アザ―バイドの蛹である。 「蛹というのは究極の引き籠りモードなのです。大人になることもなく引き籠って微動だにしない。それでも許される特権階級なのに……。あぁ、この繭はどうして出てこようとしてしまうのでしょーか。大人しく引き籠っていればいーですのに」 なんて、ぼやきながら「止まれ」と書かれた標識で繭をぶん殴っているのは『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)である。背中に背負った布団が示す通り、大層な怠け者のようだ。 「神秘攻撃でチクチクアタックするのです」 と、スローンダガ―を投げるのは『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)だ。 「どんなアザ―バイドが生まれてくるんですかね? 少し楽しみです」 育成ゲームを思い出して、ミリィは少しだけ笑う。 繭に向かって、それぞれ神秘を使って攻撃を加える。その度に、繭の表面が小さく波打ち、それを吸い込んでいく。実際、ほとんどダメージは通っていないのだろう。日暮の振りまわす標識ですら、繭にぶつかると同時にその衝撃を吸い込まれて、手ごたえを感じない。 「またこういう手合いのアザ―バイドなのね! ホント、我が物顔でこの世界に居座るアザ―バイドの多いこと」 と、力一杯繭を殴りつけたのは『雷を宿す』鳴神・暁穂(BNE003659)だ。 ガツン、と握った拳が繭に当たる。 繭は、一度小さく光ったかと思うと、鳴神目がけ、受けた衝撃をそのまま弾き返した。自分の攻撃とほぼ同等の衝撃を受け、鳴神が後ろによろける。 「うわ、っとと」 それなりにセーブして殴ったのだろうが、それでも多少のダメージは受けたのか、鳴神は顔をしかめ、小さく呻いた。 「ん……。大丈夫ですか? 反射のダメージを代わりに受けて行きたいところですが」 『knight of Down』ブリジット・プレオベール(BNE003434)がよろけた鳴神を受け止める。 「うぅ、硬い! 痛い! でも大したことありませんわ!」 彼女自身も、攻撃を反射されたのか、頬と首元にかすり傷を負っていた。それでも、武器を構え、果敢に繭へと攻撃を加える。 「魔術弾は不得手なのだけど……そうも言ってられないわね」 サイレンサーを付けたマスケット銃で、光弾を打ち出しているのは『鋼脚のマスケティア』ミュゼ―ヌ・三条寺(BNE000589)だ。こちらの攻撃を吸収、稀に反射してくるという繭の性質。それから、回復役がいないことがリベリスタ達の脅威となっている。 このまま時間をかけても埒が明かないと考えたのか、ミュゼ―ヌは自身がダメージを負うことも厭わず、攻撃の手を増やす。 「虫の蛹ってつつくと結構激しくもぞもぞ動くのよな。ちとあれは気持ち悪いんだが……。こいつはあんまりうごかねぇな」 と、光弾を撃ち出しながら雪白 音羽(BNE000194)は軽口を叩く。足場が濡れていることに考慮し、自前の翼で飛行状態を維持しているようだ。 「異世界の昆虫かぁ……。どんな形になるかは分からないけど、きっとどう転んでも虫々しいんだろうなぁ……」 なんて、実に嫌そうな顔で『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)は、眼前の繭に意識を集中させる。すっ、と腰を下ろし構えをとった。 その時……。 パキ、と小さな音を立てて繭にひびが入った……。 ●蛹から成体へ パキ、と音をたててひびが入る。 次の瞬間、まるで爆発するかのように勢いよく繭は周囲に飛び散った。プラスティック状の欠片がリベリスタ達を襲う。 繭を割って飛び出してきたのは、人より少しだけ大きな黒い生き物。節くれだった脚が2本と、同じように腕が4本。虫と人を混ぜ合わせたかのような醜悪な姿。複眼を備えた仮面のような顔と、その中心にある口蓋。涎を垂らしながら、そいつは2枚の羽で飛び上がった。 じじじじ、と羽音を響かせる。 濡れた身体を乾かすように、勢いよく空中で旋回したそいつは、飛行状態だった雪白を4本の腕で掴む。 「ん……なぁ!?」 繭の欠片から自身の身を庇うような姿勢だった雪白は、そのまま異世界の昆虫(ダミー)に掴まれ、地面に叩きつけられた。 泥が飛び散って、彼の翼を汚す。 「回復手段が無いのですから、ダメージには慎重に対応しませんと」 と、アルフォンソが光弾を放る。空中で旋回していたダ三ーの眼前で弾け、眩い閃光を撒き散らした。フラッシュバン、という技である。ダ三ーが鉄を擦り合わせるような叫び声を響かせた。 「出てきてしまったからにはキッチリとる仕留めねーとですね」 「育成ゲームの次は狩猟ゲームなのですか。なんだか奥が深いですね」 強い光によって動きの止まっているダミーに向かって、日暮とミリィが真空の刃を投げつける。空気を切り裂きながら、刃はダミー目がけ、まっすぐに飛んだ。 しかし……。 「キシャァァァァァァ!!」 ダミーが叫ぶ。と、同時にダミーの身体中から複数の光弾が撃ち出される。それらは、1発1発に大した威力はないように見えた。 しかし、数が多い。 無数の光弾は、ダミーに迫る刃と激突し、相殺する。真空の刃は、ダミーに届くことなく消え去った。 「うわ……きゃァ!」 光弾は、ダミーに向かって駆け寄っていた鳴神の身体も掠めていく。切れた皮膚から血が溢れた。地面に当たった光弾は、一瞬で泥水を蒸発させる。 「このっ……。わたしの本気、見せてあげるわよ!」 鳴神が拳を握りしめる。バチ、という音と共に、彼女の拳に雷が宿った。地面を蹴りあげ、ダミーに向かって跳ぶ。ダミーが次の光弾を放つより早く、鳴神の拳がダ三ーの腹部を撃ち抜いた。 「当たりましたわ!」 後方に下がり、光弾から仲間を庇っていたブリジットが嬉しそうな声を上げる。 「目立った武器はありませんし、まずは羽をブイ攻撃ね」 鳴神に殴り飛ばされ、落下途中のダミー目がけ、弾丸を発射するミュゼ―ヌ。撃ちだされた弾丸は、まっすぐ宙を駆け、ダミーの羽を撃ち抜く。 ダミーは落下し、地面を数度転がった。しかしすぐに羽を震わせ飛び上がる。銃弾で射ぬかれたとはいえ、まだ飛行は可能なようだ。 しかし、先ほどまでと比べると、かなり速度も高度も低下しているように見える。 「やっぱり羽付きの姿で孵化したか。けど、それくらいの速度なら十分狙えるな」 泥にまみれた雪白が起きあがる。掲げたガントレットの周りに、四色の魔方陣が展開された。そこから放たれるのは、四色の魔光。渦を巻くようにして、ダミーに迫る。 咄嗟に、身を捻って回避するダミー。しかし、完全には回避しきれない。翼の端と、腕を一本、撃ち落とされ、再び地面に落下する。 そんなダミーに迫るのは、日暮とミリィが再び放った真空の刃だ。落下途中のダミーの身体を、何度も空中に弾き上げ、切り裂く。とはいえ、神秘属性に対し耐性があるのか、さほどダメージは受けていないようだ。 地面に降り立ち、再び光弾を放つ用意を始めたダミーに、アナスタシアが迫る。 「叩いて! 折って! 潰して! また繭の中に戻してあげるよぅ!」 握りしめた拳がダミーに迫る。ダミーの頭部を捕らえ、勢いのまま地面に向かって叩きつけた。地震にも似た衝撃が公園の遊具を揺らす。地面は大きく陥没し、その中心でダミーがもがく。 「キ、キキ……ァァァァァ!!」 泥を吐きだしながら、ダミーが吠えた。瞬間、ダミーの腕が淡いオーラに包まれる。オーラを纏った腕をダミーが振るう。攻撃直後の隙を突かれ、アナスタシアが攻撃をまともに食らってしまい、その場に膝を突いた。 「う……いたァ……」 当たり所が悪かったのか、アナスタシアの身体が小さく痙攣する。ダミーは、腕を振りあげ、それをアナスタシアの首目がけ降り下ろした。 黒い甲殻に包まれた、鈍器のような腕が迫る。震える手足で、アナスタシアが防御の姿勢をとった。その時、ダミーとアナスタシアの間に、漆黒の騎士が滑り込む。 「防御はわたくしに任せて欲しいですわ」 震えながらも、そう口にしたブリジットは、盾を構え、ダミーの腕を受け止める。剣と盾が、ダミーの腕とぶつかり、小さく火花を散らした。 「状態異常付与を維持させましょう!」 と、アルフォンソが叫び、再び光弾を放る。弾け、強い光を巻き散らす。その間に、ブリジットはアナスタシアを連れて後退した。アルフォンソが、2人をかばうように前へ出る。 攻撃の為ではない。敵の様子を窺い、作戦を立てる為だ。意識を集中させ、技の制度をあげることに専念する。状態異常の維持が、勝利の鍵だと判断したのだ。 「神秘系の攻撃は効きにくいみてーですね。攻撃方法の変更推奨です」 泥を巻き上げながら「止まれ」の標識が唸る。振りまわすのは、布団を担いだ少女、日暮であった。ガツン、と鈍い音をたてて、標識がダミーの胴に食い込んだ。 「戦闘指揮で援護します。上手くいけば幸いなのですが……」 と、ミリィが後方から声をかける。 標識に飛ばされ、ダミーの身体が地面を転がっていった……。 ●ダミー討伐 ダミーは地面を数回転がって、滑り台に激突し止まる。黒い甲殻は泥に塗れ、緑がかった体液を溢れさせている。すでに満身創痍。繭の時、チマチマと弱い攻撃を続けていた成果とも言える。その代わり、手数が多ければそれだけ、リベリスタ達も反射のダメージも受けている。 相手は数と距離で攻撃してくる特性を持ったようだ。故に、長期戦は不利と判断したのだろう。 アナスタシアと鳴神が、地面を蹴って前に飛び出す。接近戦で一気に片付けようとしたのだ。 しかし……。 「下がって!! 防御を!」 後方で戦況を分析していたミリィがそう叫んだ。咄嗟に、2人は防御の姿勢をとる。 と、同時にダミーの全身から、無数の光弾が射出された。ダガ―ナイフのような形状の光弾だ。攻撃方法は同じでも、先ほどのものより速度が増しているように感じる。 「遊具を障壁にしてやり過ごせたりしません!?」 ミリィとアルフォンソを背後に庇いながらブリジットがそう言う。彼女の言葉に従って、雪白と日暮は、近くにあったシーソーの後ろに飛び込んだ。 「あっぶね……!」 雪白の肩を、光弾が掠めていく。 「早いけど、威力は低いみたいだねぇ」 腕から血を流しながら、アナスタシアが唸るように言う。 「目的は、攻撃じゃないんじゃない?」 額を怪我したのか、流れる血を拭いながらそう言ったのは鳴神だ。彼女の視線の先には、傷ついた羽をはばたかせ、よろよろと飛んでいくダミーの姿があった。 「逃げるつもりじゃねーですか!?」 標識を振り回しながら日暮が叫んだ。そんな日暮にむかって光弾を撃って、ダミーは空中で旋回する。雪白が、咄嗟に日暮の身体を引いて光弾から回避。 「俺が追う!」 翼を上下に大きく振って、雪白が遊具の影から飛び出した。空中で旋回し、速度を増していたダミーの前に回り込む。ダミーに目がけ、一筋の雷が走る。宙を駆け、ダミーに迫る青雷。一瞬、ダミーの動きが止まった。 しかし、動きを封じるには至らない。全身から黒い煙をあげながら、ダミーが吠える。 ダミーは、オーラを纏った腕を振り回し、雪白を叩く。 「お、っと!」 防御の姿勢をとるが間に合わない。雪白の身体が地面に向かって叩き落される。地面に激突する寸前でなんとか空中に留まるが、ダミーの正面から退いてしまった。その隙に、ダミーが公園を後にしようと、羽音を響かせ、再び移動を開始する。 雪白が後を追おうと、体勢を立て直しにかかった、その時……。 「逃亡なんてさせないわ」 なんて、囁くような声が聞こえた。空中で体勢を立て直していた雪白の真横を、鉛の弾丸が疾駆する。風を切り、空気を掻き混ぜ、弾丸は正確にダミーの羽、その根元を撃ち抜いた。緑の体液を噴き出して、ダミーの翼が折れる。 「羽虫風情が、生まれて来た所悪いけど……駆除させてもらうわ」 ダミーの逃亡を阻止したのは、いつの間に移動したのか、ジャングルジムの上でマスケット銃を構えたミュゼ―ヌであった。 落下するダミーの眼前で、光弾が弾ける。視界を焼き尽くすような閃光が、公園を覆う。 「クリーンヒット」 と、呟いたのは、この時の為に攻撃のタイミングを図っていたアルフォンソだ。両の腕を前に掲げ、視線は真っすぐダミーに向ける。 「硬直してます! 即座に決めてください!」 ミリィの指揮の元、真っ先に動いたのは日暮だった。遊具の影から飛び出して、真空の刃をダミーへと放つ。 同様に、ブリジットも剣を振るう。黒いオーラを纏った斬撃。 「受けた分、返させていただきますわ!」 ダミーの身体に裂傷が生まれ、体液が溢れた。悲鳴をあげるダミーの元に、アナスタシアと鳴神が接近する。地面を蹴って、勢いをつけ前へ跳んだ。 腕を大きく振りあげて、ダミーの頭部に振り下ろす。 力任せに、アナスタシアの拳がダミーの頭部を地面目がけ叩きつける。 そこへ、鳴神の雷を宿した拳が叩きこまれ、紫電を散らす。 昼下がりの公園に、地面を揺らすような轟音が響く……。 ●異世界の昆虫 「こんなもん? ま、これが本気なら仕方ないけどねっ!」 なんて、血まみれの鳴神が強気に勝利を宣言する。事実、彼女の眼前には、黒焦げになり、動かないダミーの姿があった。 ふふん、と得意げに鼻を鳴らす鳴神。そんな彼女の足元に、ダミーの繭の欠片が転がっていた。鳴神は、それを拾って眺める。 「ダミーについて、レポートに纏めてみるのも面白いかもしれませんね」 繭の欠片に目をやって、アルフォンソが言う。大学教授らしい発言だった。 「害が無かったら、育成ゲームの要領で育ててみたかったのですが……」 と、残念そうにミリィが言った。 「流石に蛹のまま移動するってのは普通無いと思うが……。どうやってこっちに来たんだろうな」 首を傾げる雪白であった。結局、芋虫の状態のダ三―を見たことはないので、余計気になるのだろう。 「なにはともあれ害虫退治は終わりでしょ?」 マスケットを担いで、ミュゼ―ヌはそう言った。泥にまみれた脚を布で拭いている。 「む、虫なんかに負けてたら、今後出会う強敵に糧やしないからねぃ!」 と、アナスタシアもミュゼ―ヌに同意。 「そろそろ撤退しません? 誰か来るかもですし……。誰か来たら、人払い……どなたかお願いできます?」 公園には戦闘の跡が色濃く残っている。流石にこのまま人目に晒すわけにはいかないと、ブリジットは心配しているのだ。 「早く帰って眠りてーのです」 既に興味を失ったのか、布団を背負った日暮が公園から出て行ってしまった。 日暮の金髪が、湿気を含んだ風に吹かれ、揺れている。 本日は快晴。 人知れず、彼らはこの町の平和を守ることに成功したのだ。 そのことを知る者は、少ない……。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|