●序 ――凪聖四郎(なぎ・せいしろう)の自室。 佐伯天正(さえき・てんしょう)は迷彩服を纏い、ひとつの小さな箱を和服姿の聖四郎に差し出した。 聖四郎が箱を開けて中から手にとったのは、赤く不気味な輝きを放つ宝石――『賢者の石』だ。 しばらくジッと石を見つめながら、彼は「……被害は?」と天正に返す。 天正から「全員無事だ」と聞いて表情を明るくした聖四郎は、彼の肩を軽く手で叩いた。 「そうか。本家の命令とは言え、いつも面倒な頼み事を押し付けてすまないな」 彼の謝辞に丁寧な礼で応じたものの、天正は怪訝そうな表情で視線を『賢者の石』を見つめている。 「石は、このまま本家へ?」 その問いに聖四郎は目を細め、手の中の石を懐に仕舞うとしばし考え込む。 恐らく彼はこれを手中にして、何かに利用するつもりなのだろう。 魔術に疎い天正には分かるはずもないし、聖四郎が無闇矢鱈に虐殺や崩界の為に使う人間でもないと彼は知っている。 (蛇の道は蛇。だな) 天正はそれ以上の考えを打ち切る。 そう言えば彼がこの部屋に入った時、聖四郎は何か文を書いている最中だった。 普段は魔術以外で筆など滅多に取らない男なので、少しばかり気になっていたのだ。 立ち上がった天正は、視線を手紙に向けてそれとなく尋ねてみる。 「それは……?」 和服の若者は合わせて手紙へ視線を送り、小さく笑みを浮かべながら本気とも冗談とも付かない返答をする。 「ただの、恋文さ」 ●承前 ――逆凪本家。 「じゃあ何か、俺様の玩具は聖四郎の仕事の囮にされたと………そういうことかっ!?」 激高している逆凪邪鬼(さかなぎ・じゃき)は、報告に来たスーツ姿の家人の首を絞めあげている。 顔の右半分を仮面で覆い隠した彼の怒りは凄まじく、既に辺りの家具等は破壊され、血を流して倒れている部下もいた。 「も、申し訳ありません……ご命令で………」 首を絞め上げられた家人は、苦しげにジタバタと身体を動かしながら、邪鬼に許しを請う。 「チッ、クソジジイどもが謀りやがってっ!!」 力任せに家人を壁へと叩き付けるように放り投げ、唾を吐き捨てる。 「兄貴も兄貴だ……何かある毎に聖四郎、聖四郎と。俺様はヤツの兄で、ヤツはしかも分家筋だぞ!」 父親は同じでも妾の子である聖四郎は、正妻の実子である自分たちとは生まれ持った格式が違う。 それであるにも関わらず、当主の兄が自身より聖四郎を重宝しているのが、より気に入らなかった。 「ヤツめ………頭に乗りやがってぇっ!」 何とかして聖四郎への溜飲を下げたい邪鬼は、ふとテレビから流れていたあるニュースに注目する。 突然、何か閃いた様子で顔の左半分を歪な笑みで一杯にした。 倒れて震えている家人の肩を掴み、立ち上がらせると歪な笑みを向けたまま話し始める。 「おい、聖四郎に本家からの命令を出せ。 俺も本家の人間だから、分家のヤツに命令したって文句ねぇだろ?」 震えながらカクカクと肯く家人に対し、邪鬼は事細かに指示をしていく。 聞いていた家人はガダッと立ち上がり、見る見る顔を真っ青にして首を必死で横に振った。 「そんな……ご当主が知ったら………」 「いいから言う通りにしろ! オマエ、ここで死にたかぁねぇだろ?」 邪鬼に脅され、家人は泣く泣くその命令を持ち帰っていく。 「これで良し」 家人を見送った邪鬼は、満悦そうな表情を浮かべた。 これで少しは兄である自分を差し置いて、聖四郎も出過ぎた真似をするのは慎むだろう。 「兄より優れた弟なんてぇのは、いねぇんだよ」 ふと顔の仮面を抑えながら、虚空を睨みつけて呟く邪鬼。 ――凪聖四郎の自室。 和紙に書かれてある内容を確認し、しばし考え込んだ様子の聖四郎。 部屋へと招かれて入ってきた天正に、軽く頷いて返事をする。 「天正か。少しばかり、厄介な命令が来た」 小さく溜息を吐いた聖四郎は、和紙を向かいの天正へと放り投げた。 手にとって内容を確認する天正の顔色が、見る見る怒りを帯びた表情へと変化する。 「なっ……」 天正は和紙を机へと叩き付け、聖四郎に強い口調で言い切った。 「これはリベリスタと戦わせ、消耗させる為の罠だ」 「俺もそう思う……まったく困ったものだな、下の兄にも」 聖四郎はこの命令が誰から出ているのか、はっきり見透かした物言いを見せる。 邪鬼が何れこの様な対応をしてくると、既に前から想定していた様な口ぶりに気づき、天正はハッとなった。 「受けるのか?」 「『アーク本部と直接対決しろ』とか無茶苦茶な命令ではなく、むしろ助かった」 事もなげにさらりと言い切る聖四郎に、天正は驚きを隠さずに少しばかり逡巡してから言葉を繋ぐ。 「……どうするつもりだ?」 問いかけた天正に対し、聖四郎は無言のまま思考を進めている。 おそらく、神秘事件となれば間違いなくアークのリベリスタたちが現地に出張って来るだろう。 かつて聖四郎が帰国する以前、『逆凪』はフィクサードの各組織が徒党を組んで『相模の蝮』蝮原咬兵(nBNE000020)を中心にアークと争った経緯がある。 その際に彼等が『カレイドシステム』を駆使し、世界トップの情報収集力を有した組織であることは幹部たちにも知れ渡っていた。 聖四郎が帰国して直ぐ今の地位に就いたのは、この一件によって『逆凪』が実行部隊の中心人物だった咬兵を失い、急遽その後釜に充てられた所が大きい。 そして前回、邪鬼が巻き起こした戦車騒動。 影で本家に命じられ『賢者の石』を天正に奪取させたが、その際に妨害するリベリスタたちは誰もいなかったという。 聖四郎の脳内で様々な情報が組み合わされ、やがてあるひとつの結論を導き出す。 「……天正、当日はお前と部下たちの力を借りるぞ?」 考えがまとまった彼はそれだけ伝えると立ち上がり、肯いた天正を残したままで足早に部屋を出ていった。 ●依頼 アーク本部――ブリフィングルーム。 召集されたリベリスタたちだったが、集めた相手が『戦略司令室長』時村沙織(nBNE000500)だったのに少し驚く。 「今回俺が皆を集めた。今回の任務がかなり特殊な為だ」 沙織が映像で見せたのは、警護が付いたひとりの外国人である。 「ドイツの外交官アルフォンス=コルネリウス。 彼はこの数日間ドイツ大使館に滞在して政府要人との会談を予定しているんだが、『逆凪』から命令を受けた凪聖四郎たちが、今夜大使館への襲撃を仕掛けてくる」 アルフォンス氏はドイツ本国ではリベラル派で知られ自由貿易政策を推進している外交官僚だが、神秘界隈では有名な『ローエンヴァイス伯・シトリィン』と親密な関係を持ち、時村貴樹翁とも繋がりを持つ親リベリスタ派としても名が通っている。 「シトリィンが氏に護衛をつけて同行させている。それは確かだ。 万華鏡に映る運命が非常に不明瞭で、大使館内部に聖四郎が侵入した場合『どうなるか』は確実に把握出来ているレベルとは言い難いが……」 一旦間を置いた沙織は、今回の依頼が特別なものであり、かつ重要な問題なのだと強調する。 「この国はアークの縄張りだ。万が一にもこの日本で氏を暗殺させる訳にはいかない。 これは氏が殺されては困る重要人物であるのは言うに及ばず、日本の面子の問題でもある。極めて政治的に高度な状況なのだ」 アルフォンスがこの日本で暗殺されれば、それだけで表の社会にも神秘界隈にもその影響は計り知れないのだと沙織は言う。 「だが『表世界』に対する都合上、時村家の力をもってしても治外法権の存在する大使館内部にリベリスタを派遣する事は難しい。 故にお前達には、二重の守りとして水際で聖四郎を食い止めて欲しい」 情報によれば聖四郎に付き従うのは佐伯天正と、歴戦の傭兵フィクサードたちが6名。 ただし彼等は大使館入口まで聖四郎を護衛するのが役割で、大使館へは聖四郎一人だけが突入するらしい。 「我々にとって有利な点がふたつある。 ひとつは人目につかない館内への侵入方法が、大使館裏門からしかないこと。 表玄関側は人通りが常にあって、車も頻繁に行き交う通りに面している。 少しでも騒ぎを起こせば、警官や一般人も集まり間違いなく目立ってしまう」 つまり目立たずに暗殺を成功させるには、裏門から突入する以外選択の余地がない。 「それともうひとつ。聖四郎は大使館内に潜入するまで、自身の魔術を使わずに臨むことだ」 シトリィンのリベリスタたちとの戦いは聖四郎が単独で行う為、少なくても大使館に潜入するまでは自身の力を温存するつもりの様だ。 最も自身たちに危険が及ぶ事態ともなれば、その限りではないだろうが。 「我々にとって不利な点はふたつ。 ひとつは佐伯天正以下、傭兵のフィクサードたちは今の君たちを個々の能力では何れも上回っている。強敵だ。 そしてもうひとつ。凪聖四郎という男、非常に頭の回る得体の知れない相手だ。 つい最近まで海外にいて、この男の経歴や能力等詳しいことが未だ解っていない。 我々が迎え撃つと判っている上で襲撃するとなると、事前に相応の準備をしてきていると見て間違いない。 だからくれぐれも油断だけはするな……それでは、健闘を祈る」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月09日(土)00:06 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●推測 前夜――凪聖四郎(なぎ・せいしろう)の居室。 聖四郎が足早に部屋を出ていった後、佐伯天正(さえき・てんしょう)はしばらく一人きりで部屋に残っていた。 腕組みをして当日の護衛プランに頭を悩ませていた彼の脳裏に、突然聖四郎の声が響く。 『天正……声を出さず、自然に振舞え』 呼ばれた彼は気を取り直して視線をテーブルへと戻すと、トントンと軽くテーブルを指で叩き、再び考え込んだ表情を見せた。 聖四郎は時として天正や拓馬等の気心を置いた存在に、こうして直接心へ語りかけてくる事がある。 裏を返せばいつでも相手の思考を覗ける事に他ならないのだが、幸い聖四郎は人が触れられたくない個人的な領域には一切干渉しないタイプだった。 それもまたフィクサードらしからぬこの男らしい考え方だ。と、天正達は然して不快には感じていない様だ。 『アークのカレイドシステムは、どうやら俺達の行動を監視出来る様だ』 (何故、そう思う?) 表面上には何の声も発せず、心の中で問いかけた天正。 『下の兄とオマエに頼んだ案件が重なった時の彼等の対応を見て、そう確信した』 邪鬼の戦車騒ぎと天正のフィクサード襲撃。どちらも神秘に関わる事件だったが、その時アークは迷わず戦車への対応のみを主とした。 大を取り小を切り捨てる。これはある程度まで内情を確認した上でなければ、到底決断できない事だと聖四郎は考えたのだ。 『だからこれから、俺はオマエに今回の行動を逐一この場で指示しようと思う』 (……正気か?) 『彼等の監視はおそらく完全ではない。表面的には監視できていても、その内面までは予見し得ないと推測している』 (もし、違ったら……?) 『その時は……尻尾巻いて、逃げるさ』 苦笑混じりの声で聖四郎は告げると、矢継ぎ早に天正へと指示を出していく。 彼は何らおかしな素振りも見せる事なく、傍からはただ沈黙しているだけの時間が続いていた――。 東京都――ドイツ大使館、裏門前。 聖四郎率いるフィクサード達の襲撃に備え、待ち構えているリベリスタの数は10人。 何れも『戦略司令室長』時村沙織(nBNE000500)から選出された特務機関『アーク』の精鋭達である。 事は重大かつ深刻な内容だった事もあり、慎重に考えて選ばれた面々だった。 『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)は到着した時点から、表玄関を含め下水道や上空に至るまでを自身の千里眼を駆使して異常がないか確認していた。 だが特に不審な点は見つかっていない。ひとまず事前工作は行われていない様だと彼女は告げる。 「ペルソナ・ノン・グラータ、か」 瞳が呟いたのはラテン語で直訳すると「好ましからざる人物」。外交用語として使われる隠語では「歓迎されざる人物」を指す。 今回の侵入者――凪聖四郎は、正にそれだと言えるだろう。 『三高平の肝っ玉母さん』丸田富子(BNE001946)は瞳と一緒に後方へ控えている『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)へ向けて、安心させるように快活に笑顔を向けた。 「さてと正念場ってヤツかい? ここで止めておかないと後々厄介になりそうだねぇ」 頷いたウェスティアだったが、やはりその表情からは不安が拭いきれていない。 「一応表玄関で騒動があったら、教えてもらえるよう要請したけど……」 警察にはアーク本部から手を回してもらい、何かあれば直ぐに連絡が来るよう手配を済ませている。 用心に越したことはないと彼女は考えていた。 彼女達よりも前線に位置している『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は、『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)と『紅炎の瞳』飛鳥零児(BNE003014)に向け、自身の考えを話す。 「竜潜拓馬(りゅうせん・たくま)は……居ないのですね。……妙な不自然さ……あまりにも動きが単純過ぎる」 カレイドシステムの映像は不鮮明であったものの、襲ってきた聖四郎達があまりに正攻法すぎる上、片腕の拓馬が不在となっている点に引っ掛かりを覚えるリセリア。 「何処に陥穽があるのか。囮か、はたまた……」 リセリアと同様、ゲルトもまた聖四郎達の真意を測りかねていた。 「どうにも目的が読めんな……。ドイツの外交官を日本で傷つけられた、あるいは殺されたとなればアークに傷が付くのは確かだが……」 オルクス・パラストからの報復がある可能性も考えれば、あまりにもメリットとデメリットの釣り合いが取れないのではないかとゲルトは推察している。 「この少人数で仕掛けてきたのも気になるが、さて……」 今までの報告を見る限り、この男は余り危険な賭けに打って出るタイプには見受けられない。 ゲルトはそれだけに何故今回の様な行動に出てくるのか。余計に疑問を感じてしまう。 零児もまた敵の真意を探り当てきれておらず、リセリアやゲルトに同意したように呟く。 「考えすぎはよくないが、何か嫌な予感がするんだ。大きな神秘の裏では小さな事件に気づかない」 事前にアークを通じて大使館内に爆発物等ないか警戒を依頼したものの、それでも不安は拭いきれない。 聖四郎が突拍子もないことを考えている様な、零児には得体の知れない感情を抱いていたのだ。 そこへ『悪夢と歩む者』ランディ・益母(BNE001403)が会話を断ち切るようにして割って入る。 「政治の云々に興味は無ぇ。暗殺を防いで聖四郎ってのを倒せばいいんだろ」 まずはそこからだ。そう言い切る彼に同意するように頷いた『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。 彼もまた、零児と同様にある事件を隠れ蓑に万華鏡を逃れる手立てを聖四郎は考えていると踏んでいた。 飛車角の片翼である拓馬がこの場に居ない事が、その証左でもある。 「色々考えても、此処を止めなきゃ始まらない。絶対阻止だ」 快は仲間たちに決意するように告げ、最前線で出現を待つ『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)と『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)を見つめた。 「何を企んでいようと止めてみせる」 強い決意を持って、言い切ったノエル。 戦いの準備は整った。 後は相手がどう出ようとも、自分達の戦いを貫くだけ――。 ――ドイツ大使館、裏門付近。 車の中で待機する聖四郎、天正を始めとしたフィクサード達。 彼等は何れも歴戦の傭兵達であり、天正とは気心の知れた仲間同士である。 天正はちらりと聖四郎を見、そして視線を傭兵達へと移した。 「手筈通りに、行くぞ」 各々が天正の言葉に肯きを返し、車は間もなく目的地へと到着する――。 ●殺到 ――ドイツ大使館、裏門前。 既にリベリスタ達は自身の能力を高めるべく個々に集中を保ち、瞳からはその背に翼を託されている。 事前に快が自身の視覚を最大限に高めた上で物質透過する視界を用い、既に敵の車の来訪を確認できていたからだ。 急停止した車から聖四郎を中心に飛び出した天正達。その距離は裏門から凡そ20メートル。 彼を護りながら、真っ直ぐにリベリスタ達の待ち構える裏門へと殺到する。 この光景は間違いなくカレイドシステムで見た光景だ。 敵の布陣は前衛がソードミラージュ、覇界闘士、プロアデプト。その直ぐ後ろに聖四郎を挟むように天正とスターサージリーが中衛に入り、後衛には残りの2人が位置取っている。 聖四郎を中心に一塊になり、真っ直ぐに突進していた。 何れのフィクサードの背にも翼があり、リベリスタ同様にその加護を受けているのが判る。 しかしリベリスタは彼等の取った行動に驚きを隠せないでいた。 彼等は一塊で、尚且つ待ち構えたリベリスタを無視してまで全力で裏門へと移動を始めたのだ。 リベリスタの前衛達が事前に10メートル手前で布陣していなければ、即座に乱戦になっていただろう。 リュミエールは白い学生服、尻尾を丸め耳は帽子で隠していたものの、既に周囲に備えて固まった動きをしている様子だった。 仲間の行動を待ち、彼女は慎重に仲間の出方を待つ。 リセリアは正面の覇界闘士をブロックするように接敵し、これ以上の侵入を阻んでいた。 「裏門に来るならば……迎え撃つだけ」 前衛を抑えながら彼女は高角度で舞い上がり、ホーリーメイガスへと先制打撃を見舞う。 上空2メートル程度の低空飛行で射界を維持したウェスティアは、自身の血を黒き鎖の津波へと変貌させた。 「聖四郎さんはそれでいいの? ただ命令に従って大切な仲間を危険に晒すなんて……」 問いかけるよう尋ねた彼女に対し、沈黙を守った聖四郎。 彼を中心にフィクサード達を巻き込んだ津波は、目前の障壁によって悉く弾かれていく。 どうやら自身に『魔力の障壁』を纏わせているのは間違いないようだ。 他の者達までには流石に障壁は行き渡っておらず、それぞれに手傷を負っている様だ。 鎖の嵐を潜っても状態を変化させることなく、傭兵達の隊列には一切乱れがない。 快が津波の背後から一気に駆け寄り、敵の前衛を抜けて天正へと近づこうとした。 しかし、その突撃は前衛のソードミラージュによってしっかりブロックされる。 快はそれを引き剥がすべく破邪の光を帯びた砂蛇のナイフを振るった。 「狙いは何だ……?」 攻撃を受けても尚ブロックをしたまま動かない敵に対し、訝しげに感じる快。 ランディは前に出て快とリセリアの後方からグレイヴディガーを大きく旋回させる。 「行くぞ、倒れんなよ!」 激しい烈風が放たれて、快やリセリアごと敵の前衛や天正と聖四郎まで範囲に巻き込んで打ち抜いた。 やはり聖四郎だけは障壁に護られて烈風が通らず、その障壁も消えた様子は見当たらない。 ブロックを逃れている天正達は一旦バラけるとランディ達前衛を突破し、また一塊に戻って進軍する。 後衛の前に立ちはだかった富子が、最後の前衛であるプロアデプトをブロックした。 「どおおおおおっせぇぇぇぇっぇえいいい!!」 鬼のように形相で身を挺し、フライパンを相手に叩き付けてこれ以上の進軍を押し止める。 「なぁに大丈夫、後ろにはアタシがいる。思う存分暴れておいでっ」 一行に呼びかけた彼女だったが、敵がしっかり富子の視界を塞ぐようにブロックしていた。 その脇を次々と通り過ぎていく天正達。 ゲルトは敵より僅かに反応が遅れたものの、尚も裏門へと進もうとする聖四郎を背後から抑えに回る。 「随分と無謀な真似をするな。自分の力を過信しているようには見えないが?」 強い力の込められた十字の光を浴びせるが、障壁で防いだ聖四郎は背後からの声に対して反応を見せる。 「過信してはいないさ……ましてや、仲間を死なすつもりもない」 ゲルトへと同時に問いかけられたウェスティアにも言葉を返す聖四郎。 聖四郎の歩みをゲルトは止める事ができなかった。障壁に護られていた彼をブロックする事自体が叶わなかったのだ。 天正達はリベリスタ達の合間をすり抜け、一気に裏門への到達を目指す。 リセリアより反応が遅れた覇界闘士だったが、リセリアに接近して聖四郎への視界を塞ぐように立ちはだかってブロックする。 後衛の位置まで駆け抜けた唯一本物の翼を持つマグメイガスは、そのまま真っ直ぐに飛翔して後衛のウェスティアへと張り付いた。 その視界を大きく塞ぐように立ちはだかり、一対一の状態へと持ち込む。 瞳が聖四郎を確認すべくその視界を向けた先には、スターサージリーが現れていた。 直前まで彼を視界に捉えており、その情報を少しでも読み取ろうとする瞳。 しかし、障壁がその行為自体を阻んで読みきれないでいた。 『魔力の障壁』はそれに護られている者自体の干渉を許さないとでも言うように。 ノエルも突破しようとする天正たちのブロックを試みるが、反応が遅れて通り抜けられてしまう。 しかし後衛のホーリーメイガスがフリーになったのを確認し、振り返って直ぐ様突進した。 「ここを通しはしません!」 気合を爆発させた破滅的な槍の一撃を持って、敵を背中から大きく貫く。 するとやはりホーリーメイガスも、他のフィクサード同様にそれを無視するように態勢を崩さないでノエルへと振り返ってブロックする。 もはや聖四郎の近くには、天正以外は誰もいない。 零児も突破されたことに舌打ちしつつ、自身の裂帛の気合と共に全身の闘気を爆発させる。 「相変わらず無意味な戦いで出会うな。今回も退く気はないか?」 聖四郎目掛けて破滅的な一撃を叩き付けたが、やはり『魔力の障壁』によって弾き飛ばされていた。 障壁の状態を見て、軽く肩をすくめる聖四郎。 「今回は少しばかり、検証しなきゃならない事があってね」 だが鎖の津波、烈風、そして強烈すぎる一撃によって、早くも障壁には細かいヒビが刻まれ始めている。 リュミエールは敵が自身を無視して後方に駆け出したのを追いかけるようにして、聖四郎に狙いをつけた。 完全に敵の狙いが見えた今、躊躇している時間はない。 「テメェ等ニ私ガ負ケテランネーンダヨ」 放たれた光の飛沫が聖四郎を襲い、更に障壁を大きくヒビ割らせていく。 フィクサード達がリベリスタの迎撃を無視し、彼等の攻撃をすべて受けた上で尚も前進した。 結果、互いの位置は混在した滅茶苦茶の状態になっている。 引き換えに手にしたのは、天正と聖四郎が裏門の壁へ到達する事。 この時点で誰もが聖四郎の狙いに気づいている。 彼は小細工を弄さず、目的達成だけを優先した最短戦術を選択したのだと。 ●爆破 ――ドイツ大使館、裏門前。 事前にブロックしようにも反応速度が僅かでも相手が上回れば、すべてが思うようには叶わない。 それは敵も味方も同様である。 ただ一点だけ違ったのは、リベリスタ側は相手を選んでブロックしなければ成り立たない戦術だったのに対し、フィクサード側は誰が誰をブロックしても一向に構わなかった。 まさか自分達への対応を捨ててまで戦線を突破してくるとは予期できなかったリベリスタに、もう時間の猶予は殆ど残されていない。 リュミエールは威力を最重視し、その身を翻して神速の飛沫を聖四郎の障壁へ浴びせ続ける。 「コノ私ノ速サニ耐エラレルカ?」 間もなく彼は自身のタイミングで、裏門を突破してしまうだろう。 その前に何としても障壁だけでも破壊しなければ、リベリスタ達の勝機は絶望的となる。 彼女はありったけの力を込めて、六八を振りかざして再度連撃を見舞った。 光の飛沫は普段の倍の量となって障壁を襲い、徐々に障壁の壁を傷つけ大きく砕いていく。 「テメェ等ノ事情ハ知ラン。私ニデキルコトヲヤッテヤル!」 流石にこれ以上の連撃は無理だったが、これで聖四郎への大きな障害がひとつ消え去った。 それと同時に聖四郎が感嘆の声を上げる。 「流石リベリスタの精鋭達……ここまで早々と障壁が壊されるとは」 後に続きたいリセリアだったが、目の前に自身がブロックした覇界闘士が立っており、聖四郎達への視界を防がれていた。 彼女は一旦後退するように下がることで自身の視界を広げ、左右に身体を振って覇界闘士を翻弄すると角度をつけて飛び立つ。 「大使を殺させなど、絶対にさせない」 そのまま一気に前方まで躍り出てセインディールを聖四郎へ繰り出すも、目の前の天正が割って入ることでそれを庇った。 一方の快もソードミラージュによってブロックされていて、聖四郎達への視界もしっかり塞がれている。 こちらは速度に上回るフィクサードがしっかりと行く手を阻み、リセリアの様に先へは進ませてくれない。 鮮烈な光を帯びた破邪の一撃を持って対抗するも、敵にリベリスタを攻撃する意図は感じられなかった。 「これ以上、先へ行かせないつもりか」 各々がしっかりとガードを固め、相手の攻撃への対応だけに専念しているようだ。 徹底した防御戦術を駆使され、近づくことも許されない。 飛行し続けているウェスティアも、同じく飛行して動きを封じようとするマグメイガスに聖四郎達の視界を阻まれている。 相手は自身の攻撃を捨て、完全に防御とウェスティアのブロックだけに意識を集中している様だ。 「それも本当に意味の有る命令じゃないんでしょ? 仲間を無為な危険に晒すような人に──私は負ける訳にはいかない!」 それでも速度に勝るウェスティアは目の前のマグメイガスを交わし、聖四郎を含むフィクサード達へ黒き津波を襲わせた。 津波が襲いかかる瞬間、背中の翼を駆使して大きく反転する。 「言ったはずだ……俺は今回、誰も死なせたりはしない。と」 鎖が先程まで彼がいた箇所を貫き、聖四郎はそのまま飛翔する体勢へと入った。 マグメイガスはそれに怯むことなくウェスティアへと再度張り付き直す。 フリーとなっていたランディは大きく息を吐くと、一気に聖四郎へと踏み込んだ。 既に障壁の破壊に相対していたリュミエール、ゲルト、零児ごと聖四郎を薙ぎ払いにかかる。 「悪いが必要なら味方ごと斬るのも躊躇わないんでな!」 旋風が反転した聖四郎の体を強かに傷つけ、彼は傷を確かめると小さく溜息を吐く。 「流石に、すべてを交わすのは無理か……天正、後は任せる」 直後、彼は身を挺していた天正を足場にして跳び上がり、一気に裏門の壁を飛び越えてリベリスタ達の視界から消え去った。 旋風により傷つけられた身体を払うようにした天正は、去っていく聖四郎には視線を向けず敵を注視し続けている。 プロアデプトの接敵を受けていた富子だったが、敵がただ張り付くだけで防御に徹する様子を悟って打って出た。 「この若造がっ! 倍以上生きてるアタシに本気で敵うと思ってるのかい?」 挑発するように武器を振るうが、敵はそれを交わして尚もブロックを続けている。 ゲルトはこの時点で、何故彼等が少人数にも関わらず仕掛けてきたのか理解した。 おそらく聖四郎はリベリスタを撃破する事等、最初から考えていなかったのだ。 自分に対してブロックや直接攻撃しようとする相手のみ、足止めをすれば充分だった。 それなら彼等がただ自身の防御だけに専念しているのも頷ける。 「……やってくれたな」 だとしてもこの人数を相手にして、まともに撤退できる気でいるのだろうか? と、ゲルトは不審に思う。 ひとまず唯一フリーである天正目掛けて十字の光を放ち、聖四郎への援護にだけは行かせない様試みた。 天正はそれを正面から受け、振り払う仕草を見せる。 瞳は孤立せずに全体が見通せる位置にいて、状況が見通せるように勤めていた。 だがそれも目の前のスターサージリーが組み付きでもするかのような位置取りでブロックに回り、視界を封じられている。 やはりそれでも攻撃は仕掛けてこない。単純に防御を固めて行動を封じるのが目的の様だ。 ノエルもやはり張り付いていたホーリーメイガスへの対処を急ぐ。 「そこをどいてもらいます」 今は一人でも多くの敵を屠るのが先とばかりに破滅的な一撃を重ね、その手傷を更に大きく広げる。 流石に防御に集中しているとはいえこの一撃は強烈だったらしく、見事にくの字に折れ曲がるフィクサード。 零児は大使館へと飛び去った聖四郎が、果たして本物かそうかの判別を付けかねていた。 言葉は発したものの、まったく手の内を見せなかった事が一層引っかかったのだ。 だがどちらにしても聖四郎が突破してしまった以上、これ以上此処で争っても無意味なのは理解できている。 一気に天正へ詰め寄った零児が気合と共に爆裂した一撃を見舞わせながら、彼へ問いかけた。 「ここから簡単に退くのは難しいよな。しかも右腕となる存在を失ったならどうだ?」 鉄槌で衝撃を和らげたものの、破滅的な一撃は天正の予測を超えたダメージを叩き出している。 「相変わらず切り出し方の上手い奴だ……確か、前に借りがひとつあったな」 両者が思い返していたのは、三ツ池公園での決戦。 その時はこの交渉で天正達は戦場を去り、戦闘は終結したのだ。 「今回の命令は戦力を割く為なんだろ? 天正、あんたが投降すれば聖四郎は退く口実ができる」 零児の提案に、軽く笑って受け流す天正。 「少し話すのが遅かったな。聖四郎はもう此処には戻って来ない」 その言葉を聞き、リュミエールは瞬時に突然反転してホーリーメイガスに襲いかかった。 「ナラ……コレデ従ッテモラウ!」 彼女は倒れ込むホーリーメイガスの背へ、瞬時に加速して刺突を叩き込む。 虚を突かれたフィクサードはその場に崩れ落ちる様にして動かなくなった。 「無駄だ……もう遅い」 リュミエールの行動を制するように首を横に振った天正が、静かに後ろの夜空を指さす。 直後に巨大な爆発音が響き渡り、壁越しにも何かが炎上する音が聞こえてくる。 大使館が、爆破されたのだ。 ●逆転 リベリスタ達はその場から直ちに飛び立って、大使館内へと向かおうとする。 裏門で戦闘の成り行きを見守っていた警官達が制止しようとするのを、ランディは一喝した。 「馬鹿が、面子より仕事を果たすのが優先だろ」 「しかし……」と言い淀む警官に、快が強い口調で言い切った。 「大事なのは人命。始末書なら幾らでも書く!」 迷う警官を振り切って、そのまま次々と大使館へ向かうリベリスタ達。 一方でウェスティアは、大使館へと移動するフリをしながら天正達の行動に注目していた。 傭兵達はリベリスタ達のブロックを既に解いていて、長居は無用とばかりに後衛から次々と撤退を始めていた。 (裏の裏を狙う……という事はなさそうね) これ以上何もないと判断した彼女も、また大使館へと移動する。 天正は傭兵の前衛3人と残り、他の者が撤退するまでその場に残っていた。 零児は奥歯をグッと噛み締め、燃える赤い右目でジッと相手を見つめている。 不意に視線を反らす天正が、零児に向けて一言だけ語った。 「……間に合うかもしれん」 「何がだ……?」 天正の突然の発言に、不審な表情を見せた零児。 だが一瞬の沈黙の後、突然何かに思い至って大使館へ一目散に駆け出した。 天正は小さく口元を綻ばせ、踵を返すように傭兵達を後詰に残して去っていく。 「……借りは返したぞ。飛鳥零児」 ――ドイツ大使館。 リベリスタ達の視界にまず飛び込んできたのは、まるで何かが天から地上にでも堕ちてきたかの様に大使館の二階部分が半分程吹き飛ばされ、館全体が炎に包まれる凄惨な光景だった。 直前まで二階の部屋にいた人間は、まず無事では済まないだろう。 そして、上空からそれを見下ろす聖四郎の姿。その右手には『賢者の石』が握られている。 リセリアは上空を見据え、そのまま一気に聖四郎へ飛びかかろうとしていた。 「オルクス・パラストと……その名の下に在る養父と姉の名誉に懸けて――凪聖四郎、貴方を決して許さない!」 だが上空へ飛び上がった快が、それを制する。 今ここで更に戦えば、更に大使館が深刻な事態に陥りかねないのはリベリスタの誰もが気づいていた。 大使館の人々を救う方が先だと、リセリアに言って聞かせたのだ。 ランディは忌々しそうな表情で、聖四郎に声を張り上げる。 「ズタズタになりたく無ぇならとっとと退きな!」 「そうさせてもらうとしよう。見事な連携だ、まさか手傷を負わされるとは思わなかった」 聖四郎はランディに答えると、そのまま翻して飛び去っていく。 去りゆく彼にノエルはConvictioを向け、きっぱりと宣言した。 「……いつかその首、必ず貰い受けます」 自身の『正義』を貫く為。決して避けては通れない敵なのだと彼女は認識する。 だとしても、リベリスタ達に聖四郎を悠長に見送る猶予はない。 急いで燃え盛る大使館に突入し、残った人々の救助活動を行わなくてはならなかったのだ。 零児は現場に飛び込むと、仲間と手分けして館内を捜索し始めていた。 「生存者を探すんだ!」 しかし火の周りは思ったより早く、急がなければ助かる命も危うくなるだろう。 急げばまだ救助できる人間がいるはず――天正の言葉でそう確信した零児。 速度を生かして火を潜りながら先へと進んだリュミエールは、廊下奥で傷だらけの状態でグッタリとしている人々を発見した。 それぞれの脈に手をやる。何れも気絶していたり、怪我をしていたりで、特に命には別条ない様だ。 だが直ぐにここから連れ出さなくては、危険な状況に変わりはない。 「大使タチハ見ツケタ。無事ダゾ!!」 駆けつけたゲルトが合流し、リュミエールから大使を受け取って運び出す。 「なんとしても、ここから救出せねばならん」 大使を庇うようにして炎から守りながら、彼は窓を突き破って外へと飛び出した。 次々と快達リベリスタによって救出される人々。 外では警察が救護班を待機させていて、彼等によって運び込まれた怪我人の処置に当たっている。 ウェスティアは救護班に加わり、天使を召喚した歌を持って怪我人を治療していた。 「絶対に誰も死なせやしないんだよ……!」 だが、彼女は思った程の重傷者が現れていない事にひとまず安堵する。 怪我人を励ましながら救助を手伝っていた富子もまた、救護班に怪我人を引き渡す。 「死んで花実が咲くもんか、生きてこそ。生きてこそなんだよっ!!」 もはや背の翼の加護を失っていた為、リベリスタ達は必死で走りながらそれぞれ対応に当たっていた。 翼の加護の再対応を頼もうと周囲を見回し、瞳の姿が何処にも見当たらないことに気づく富子。 「瞳??」 一緒についてきてはいなかったと気づき、ハッとなった表情で裏口へと駆け出す。 駆けつけた彼女が目にしたのは、血を吐き壁にもたれ掛かる様にして倒れている瞳。 慌てて抱きかかえた富子だが、彼女は意識が既になくピクリとも動かない。 「おおおおおおぉおぉぉぉぉぉぉおおおお!!」 声にならない声を上げ、一人慟哭する富子。 後詰に残っていた傭兵達は、リュミエールによって仲間を倒された報復を済ませてから去っていったのだ。 今回の結末へ至った理由は、幾つもの要因が絡み合い事を成している。 もしウェスティアが事前に警察との交渉をスムーズにする下地を作っていなければ、今回迅速な事態収拾は難しかっただろう。 しかもリベリスタ達の連携攻撃で聖四郎がかなりの手傷を負わされていなければ、彼は大使館への潜入を決行したかもしれなかった。 また快とランディが大使館の敷地内に飛び込む決断をしていなければ、火災によって死者は必ず出ただろう。 そして零児が戦闘中に天正と交渉していなければ、全員で大使館へ即座に移動する事は叶わなかったはずだ。 リベリスタ達の的確な判断が幾多も重なり、それが事件の被害を最小限にまで食い止めている。 その結果、ギリギリの段階で彼等は逆転に成功したのだ。 ――ドイツ大使館、別邸。 間もなく意識を取り戻した大使は事情を知り、礼を述べたいとその場にいたリベリスタ達を集めていた。 アルフォンス=コルネリウスはまだ四十前の若い外交官である。一般人ではあるが、シトリィンとの繋がりからリベリスタの理解も深い存在だ。 彼は最初に一人ずつの手を取って感謝の意を現していき、次いで通訳も交えずに流暢な日本語で話し始める。 「本来大使館は治外法権であり、そこを許可なく日本の者が入ればそれこそ国際問題になりかねない。 だがそこをあえて人命優先で行動してくれた君達のおかげもあって、この事件は一人の死者も出さずに済んだと言えよう……」 黙して大使の演説じみた長口上を耳にしていた快は、不意に「一人の死者も出さず」という単語からあらぬ推測を思いつく。 (「誰も死なすつもりはない」……これこそが、あの男の本当の狙いだったとしたら?) 結局裏門の突破は許したが、寸での所で大使達を救出できて面目躍如となったアークと日本。 大使館は爆破されたが大使を護りきり、ひとりの死者も出さずにこのまま帰国する使節団。 そして大使暗殺は失敗したものの、アークを出し抜いて大使館を爆破した事で自身の手腕を見せつけた聖四郎。 結果誰もが何らかの被害を受けているにも関わらず、それぞれ評価を上げる要素がきちんと用意されている。 一瞬底知れぬ恐怖感を覚え、思わず想像の世界から我に返った快。 (それこそ考え過ぎ、だよな……) 苦笑しながら邪推を振り払い、気を取り直した快の耳に届いたのは大使からの感謝の言葉。 「……是等は全て、君達リベリスタ諸君の活躍によってこそだ。 君達は私達の命の恩人だ。心から感謝している。本当に、ありがとう」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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