●犬の気持ち 確かに僕は、毎日吼えていた。 その度にご主人が困っていたのは知っていたけど、止められなかった。 それがいけなかったのかな。 僕は遠く、遠く、ご主人の匂いのしない土地に連れて来られてしまったんだ。 ここでは思い切り走っても良いし、吼えても良いんだって、知らない人が言う。 ――でも僕はご主人に会いたい。 ――あの人の傍が良いんだ。 だから僕は鎖を千切って走り出した。 ご主人に会いたいんだ。 ●犬のお話 「犬は良いね。真っ直ぐな所がとっても可愛い」 集まったリベリスタ達を迎えた椅子の背中。その間からちょろりと犬が顔を出していた。 否、違う。それはぬいぐるみだった。黒地をベースに、鼻面から白い線をまっすぐ伸ばした、円らな瞳の――犬のぬいぐるみ。そして言葉を発するのは聞きなれない声。 声の主がくるりと向き直る。 「初めまして。僕はハル。ハル・ウルジカ・柳木。こないだフォーチュナとしてアークに入ったんだ。よろしくね」 まだ顔にあどけなさを残した『あにまるまいすたー』ハル・U・柳木(nBNE000230)はそこまで言って会釈を寄越す。 それを簡単な紹介とすると、ハルは早速説明に入った。 「今回は犬の話。ある事情で遠くの人に預けられた――いや、譲られた犬がね、元の飼い主の所へ戻ろうとしてる」 それだけなら何とも感動する話になる。 しかし運命は悪戯に手を加えてしまったらしい。 「けどその犬が帰る事は決して出来ない。許されないんだ。もう――エリューションと化してしまってるから」 犬は元々グレーハウンドという種だとハルは言う。 狩猟犬であるその犬は飼い主を非常に愛する。だから彼にとって住み良い筈の新天地を棄てて、彼は戻ろうとしている。 手に余ってしまった犬へせめてもの償いか、広大な土地のある遥か遠くにやったのに、彼は向かう。 幸か不幸か、それとも犬が望んだのか、エリューション化により嗅覚も脚力も強化され、もう迷う事も疲れる事もない。後は家に戻るだけ。 戻るだけ――だったのだ。 ハルは瞳を伏せて首を振る。 「君達が彼に出会うのはここ、夜中の山道のカーブ。流石にスピードを緩めるから、そこで立ち塞がって欲しい」 猛スピードで走る犬を止めるのは難しいが、その時を狙うとハルは告げた。 緩めたその時なら、立ち塞がる人間を認識して足を止めるだろう、と。ただし、見知らぬ人間には警戒を抱くだろうから、友好的にはいかないだろうけどと言う。そもそも、今回はそういう穏やかな話じゃないけど、と、苦笑も乗せて。 そしてもう一つ付け加えられた。 画面を見るように促すと、そのカーブで事故を起こしたのか、乗り捨てられたのか、朽ちたバイクが数台転がっているのが見える。 「戦闘となるとこのバイクも二台、犬に呼応してエリューションとなる。……猛スピードの彼を止めるにはこの場しかなかったんだ。手間を増やす事になっちゃうけど、頼まれてくれるかい」 出向けないフォーチュナはリベリスタ達を送り出す事だけ。ハルは小さく頭を下げた。 「どちらにせよ帰れなかったんだ、なんて、言いたくないけどね」 その犬のデータには『アンデッド』と書かれていた。ハルは最後にそれを告げる。彼の旅路が一度、何処で終わっていたのか解らない。 新しい飼い主にも、かつての飼い主にも知られない。 そんな彼の名前は、『ハッピー』。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:琉木 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月07日(木)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●それぞれの想い 見上げる月は道標のように輝いていた。 遠い道のりを走る犬が、やがて通るだろう山道にリベリスタ達は居た。 「よく聞く美談ですね。遠く離れた主人を思い、戻ろうとする」 アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)は結界を広げながら言った。 無論、今回はそれでハッピーエンドとはいかない、そんな話を承知の上。 「帰りたい。ただ、それだけなんですよね」 『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)はきゅっと胸に手を抱いて呟いた。気弱そうに見える壱和だが、その胸に秘める想いは決まっていた。 ――彼の事を送り届けたい。それは無理だから、せめてその想いを、預かりたい。 その心情を汲んでか、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は緩く首を振る。 もし、彼がエリューション化をしなければ。もし、生きたまま会えていたら……そんな、考えても仕方の無い『もし』が駆け巡って仕方ない。分かっていても、思わずにはいられない。 「あたしも、一途なわんこのハッピーの気持ちはわからないでもないです」 『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)はふっと後ろ手を組んで、夜空を見上げた。 「あたしだってさおりんには一直線ですし。あ、あたしはわんこではないのですけど」 言いながら、ぴこぴこと尻尾が揺れるそあら。ふっと微笑むミリィ。本来はこういう美談で終わればよかった話だと、まだ少し引きずってしまう。 「何にせよ、この狭い国じゃ尚更、生き物を飼うってのは難しいもんだねぇ」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)は口から紫煙を吐いて呟いた。 ただ旅路を終わらせる事を決意している『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)は、ハッピーの姿を見逃すまいと瞳を細める。 足が速い相手が立ち止まるのが此処だと指定された以上、その時間は差し迫っていると言う事。そのタイミングを逃してはいけないと言う事――なのだが。 「ん? そういえば、一人どうした?」 ハーケインは視界の中に、仲間が一人足りない事に気付く。 「真名さんは来る途中で寄り道してくるって言ってたのです。間に合わせてくれるとは思うのです」 「寄り道……?」 尻尾の揺れるそあらの言葉に、同じく犬の尻尾を持つ壱和は鸚鵡返しに呟いた。 直後、ヴォンとバイクの音が響き、思わず警戒するリベリスタ達。しかしそれはハーケインがアクセス・ファンタズムから取り出した自前のバイクだと知る。 そのバイクが光源となり辺りを照らせば、遠くに小さな影が見えた。 「来たようだ……あれが、ハッピーか」 肥大化した身体は元々のフォルムを更に強化していて、早く、速く。走る事に特化した犬は、リベリスタ達が視認してから対峙するまで、瞬く程の時間しか要しなかった。 ●わんわん、わん! ――君達は誰? 何で僕の前に立つの! ――僕は帰るんだ。ご主人の元に、帰るんだ! ハッピーは崖の前にスピードを緩め、立ち塞がるように並ぶ七人を瞳に収める。甲高い鳴き声は、吼えたてられれば頭に響く。 「知っているよ、なぁ、ハッピー」 今の今まで黙っていた『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は、ハッピーに近づいた。 それはまるで犬を飼っていたようでいて、興奮する犬を宥めるような口調と動き。 「キミは……キミ達は、人を傷つけたくてその牙を向ける訳じゃない。主人の為に、もしくは、自分の気持ちを伝える手段のひとつとして、だと」 「零二さん!!」 そっと手を伸ばそうとした。その零二の手を、ハッピーは思い切り咬もうとする。ミリィが叫んで引き留めて、その牙は空を咬んだ。今の自分達に出来る事を、そう思ってミリィは唇を噛む。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 その手にはスローイングダガー。 ――わんわん、わん! ――何で邪魔をするの? 僕を苛めるの? 嫌だよ、負けないよ! わん。 ハッピーの声は何処までもただ『家』を求める泣き声。 その声に呼応して、リベリスタ達の耳を劈くバイクの音。放置されていたバイクがハッピーの声に呼応して、朽ち果てた機体を立たせた。 「ハッピーさん……行きます!」 その気持ちを預かる。言葉に強い意志を宿して壱和は言う。そあらがそれに倣い魔方陣を展開しようとするも、ハッピーはそれよりも速い。誰よりも早く、その大きな声でリベリスタ達へと吠えたてた。 ハッピーを囲うべく立ち塞がっていた壱和、ハーケインにその声は衝撃波となり襲い掛かる。 「さすがドッグレースでも活躍するグレーハウンドです。スピードはピカイチ過ぎるのです。でも、あたし達も負けません!」 「ええ、皆さん。行きますよ――!」 一歩遅れて魔方陣を展開したそあらがハッピーの身体を穿つ。次いでミリィが指揮棒を振るように指を動かし、流麗な動きは味方を鼓舞する。効率動作を瞬時に味方に浸透させ、その力を増した。 アルフォンソと壱和が動くよりも先に、今度は朽ちたバイクが稼働する音を立てる。二体がハッピーと同じように爆音を響かせた。バイクを抑える零二の向こう、絶壁側に立っていた烏にも襲い掛かる。 「……もう一人はまだ来ないのか?」 戦いとなり、じっとしない犬の、しかもその細い脚を狙い撃つのは難しい。しかし正確さをもってぶれずに後脚を射抜き、様子を伺う烏が怪訝に言った。その時に、ふわりと背後から白い和服を夜風に流してしれっと一人現れた、『夢幻の住人』日下禰・真名『夢幻の住人』(BNE000050)。 「あら、私はここよぉ。ちょっと遅れちゃったわねぇ」 「遅れちゃったわ……じゃない。作戦通り、バイクを抑えてくれ!」 「はいはい」 語気の強い言葉は気合を入れた証。構えるバスタードソードにエネルギーを篭めて、バイクを吹き飛ばしながら零二は言うも、真名は聞いているのかいないのか、余りに無関心を装っていた。 ただ、その手には薄汚れたタオルが一枚。 零二は怪訝にしながらそれを見た。意図はまだ解らない。ハッピーが僅かに鼻面を向けた、気がした。 「――ッ、キャゥン!?」 その真横から、既に死したハッピーの血を啜るのはハーケインのブロードソード。 ハッピーは抗議するようにただ吠える。 アンデッドとなった身は痛みすら消えてしまったのだろう、怯まない彼の身はそう見えるには充分だった。 帰る為に邪魔なモノ――疲労感も、苦痛も、今のハッピーには必要無い。 ●近くて遠い、僕の家 「烏さん、だめなのです。わんこにはもう、それで動きは鈍らないみたいです」 そあらが合間を縫ってハッピーの状況を解析する。それで得た確かな情報を、執拗に脚を狙い続ける烏に告げた。 烏は小さく舌打ちをする。それで鈍ってくれれば良かったのだが、ハッピーがそうなってしまった執念に。 「バイクは……まだ壊れないか!?」 ハッピー、そしてバイクをも巻き込む瘴気を放ちながら、ハーケインが問う。直後、再びバイクの二台を包み込むのは零二が高速で叩き付ける残像。 「まだだな。朽ちたとはいえ、バイク。少々硬いか」 ミリィとアルフォンソが的確に味方を鼓舞し、また、自分自身の視認性も上げる。傷がつけばそあらが回復を促し、ボロボロになっていくバイクは決して脅威にはならなかった。ただ、立ちはだかる壁に等しい。 その間にまだまだ余裕があるハッピーはリベリスタ達に牙を向け続ける。 「……っ、痛!」 「壱和さん! ……アルフォンソさん、私が出ます!」 バイクごとをターゲットにせず、ハッピーだけを的に絞る壱和を、ハッピーは思い切り咬みついた。ぱっと散る鮮血に、壱和は恐怖する。夜も、牙も、苦痛も。 庇った身を察して、後衛に控えていたミリィは飛び出した。 「回復はそあらに任せるのです!」 そしてそあらが歌を紡ぎ始める。 大きく裂かれた傷に息を荒げながら、壱和はハッピーを見続ける。 負けない。怖くても、それ以上に今は胸が痛いから。 直後、砕け散る音がその感傷を吹き飛ばす。 「ほらほらぁ、まず一台よぉ」 遅れを取り戻す様に連続して機体に爪を喰い込ませて、真名が笑う。ガソリン一つ乾ききったバイクは爆発を起こす事もなく、ただカタカタと震えて――元の動かない朽ち果てたバイクへと戻っていく。 もう一台のバイクも今はなす術が無い。 アルフォンソが大きな閃光弾をもって動きを封じていた為、ガタガタと揺れるまま叩き壊される二台目のバイク。 そのバイクをハッピーは仲間と思う事は無く、ゆえに怒る事は無かった。だが、八人が揃って敵対したと知れば、毛を逆立てる。 ――オオォォン! 「!! 遠吠えか!」 喚くように吠えず、細く長い犬の声。 帰りたい。帰りたい。そう聞こえるのはリベリスタ達の心情だろうか。 だがそれにより確実に、ハッピーは、ハーケインの剣を、復帰した壱和の拳を躱し始める。 じり、と、その脚は僅かリベリスタ達から逃れるように引かれたのを見て、振り向いたそのハッピーの口内へショットガンが突き付けられた。烏の二四式・改だ。それが、ガゥンと音を立てる。 驚いたハッピーのその隙を逃さず、背後に立つのは零二。 グルルル……と、唸るように威嚇するハッピーをものともせず、踏み込んだ。その強引な気合は、ハッピーが自分を奮い立たせた全て事吹き飛ばしてしまう。 ハッピーは疲れることは無い。 ばたんと地面に倒れ、それでも尚立ち上がる。 しかし重なるダメージで身体の機能が低下してきているのは、自分が一番解っていた。だから、低く唸り、そして、駆けた。 「!! ハッピーさん、だめです!」 誰よりもハッピーの近くに居続けて、その変化に気付いたのは壱和。 走る先は絶壁。そこを飛び越えてでもハッピーは行こうとする。それを、全身をもって抱きとめた。 ――どうして邪魔するの? 僕は帰りたいだけなのに! わんわんわん。 ハッピーは吠える。その声はただの鳴き声には、もうならない。 気持ちを伝えたくて吠えても、その声は最早破壊力を持った波動となって壱和に直撃する。 「はっ、……!」 「壱和さん!」 そあらが癒す歌を響かせる。もし、この対象が一般人だったなら、唯では済まされない。 「……だからこそ、ここでお前を倒す事が俺達にとっての慈悲だ」 ハーケインが苦々しく剣を取る。それでもハッピーは行こうとする。壱和を引き摺って、崖へ、崖へと。 「ハッピー」 「―――!!」 ハッピーが勢いよく振り向いた。その先は、真名。その手には、ずっと握っていたタオルが一枚。それをひらひらとさせている。 「日下禰……?」 今の今まで問わなかった問いを、零二はかけた。 「飼い主の家から拝借してきたのよぉ。ハッピー、おいでなさいな?」 「家から……? じゃあ、真名さんが寄り道したのは――」 ハッピーの気を逸らせるそれを取って来る為に。本当ならば飼い主から情報収集もしようとしていたが、余りにも時間が無かった。だから、犬小屋に放置されいたタオルを持ってくるのが精一杯。それをひらりとした、その時に。 「――いけねぇ、日下禰君!!」 「ハッピーさん! 真名さん!」 ハッピーが抱きとめていた壱和を振りほどく。猪突猛進に似て、真名に襲い掛かった。正確には、その、タオル。 薄汚れたそれには飼い主の思い出と、ハッピーの思い出が詰まっていた。 だから目論見通り、ハッピーは崖に向かうのを止めた。 しかしその代償――奪い取るように圧し掛かられて、真名は動く事が出来ない。迫りくる牙を避ける事は出来なかった。 妖艶に微笑む口端からこふっと小さく血を吐き出して、真名は戦う力を失った。じわりと広がる血に、最早ハッピーを止める事に一刻の猶予もない事をリベリスタ達は知る。 「非情ですが、リベリスタとはそういうものですから」 集中していたアルフォンソが溜め込んだ気を真空刃として打ち出した。真名からよろめくハッピーは、死した身体からぼたぼたと死臭を振りまいていく。 ハーケインがすまない、と、その身を削りながらその身を更に切り裂いた。 ハッピーの力はもう、僅かも無い。在る筈の無い息を、生きているようにヒュウヒュウと立てて、ハッピーは足を絡ませた。どうっと倒れ込む。 ――ああ、嫌だ。身体が動かないよ。 ――ご主人に会いたいのに。ご主人、僕、今、 起き上がれないままばたばたと足を動かすハッピーの頭を、優しく撫でる手が、ひとつ、ふたつ。 「ハッピー。すまねぇな。お前さんの旅路はここでお終いだ」 烏の言葉。 (お休み、ハッピー。もし叶うのなら、いつか天国で主人と再会できますように) ミリィの思い。 「……すまない、ハッピー」 そして零二が、動けない真名に代わって、奪おうとしたタオルをかけてやる。 「天国で寂しがり屋の雑種のオスと会ったら、いつかオレが逝く迄、彼と遊んでやってくれないか……なあ、ハッピー」 ――ねえ、僕、眠いんだよ。 ――どうしてかな。周りの人達は僕の邪魔をしたのに、 ――ご主人みたいに優しく、僕を撫でてくれる だ …… ●『ただいま』 ハーケインは一人、ハッピーの亡骸を抱いて三高平市へと帰って行った。 アークの管轄下にあるそこならば、神秘世界の一環となってしまったハッピーもまた弔える。 残りのリベリスタ達は朝方の近くにハッピーの家を訪れた。 一軒家の庭にはまだ犬小屋が置かれたまま、彼の名前が掠れている。見渡せば住宅街。この中で、毎日のように吠える犬は、飼う事が出来まい。 「貴方達は……?」 眠い瞳と、見知らぬ男女の来訪に顔を出したのは若い女性。 その手にアルフォンソから首輪が渡された。見覚えのある首輪に飼い主は一瞬戦慄する。紛れもなく、犬小屋と同じ名前が刻まれたその首輪。 「ハッピーは交通事故で死んだ。俺達はそれを伝えにな」 びくりとしながらも、責任を逃れようと視線を逸らす女性に、そあらはきっぱりと告げる。 「わんこは一番大好きな御主人の元へ帰りたい一心だったのです。自分の都合で手放した結果がこうなった、生き物の責任をきちんと知ってくださいです」 「でも、ハッピーは……」 言い淀んだ女性を、壱和はじっと見ていた。土に汚れた服は、ハッピーが崖を飛び越えてまで飼い主を求めた証。それを、身体を張って止めた証。 それを言いたかった。 けれど、それはもう言えない。ハッピーは秘匿すべきエリューションになってしまったから、『交通事故で死んだ』事にしておかなくてはならなかったから。 そんな壱和の肩を零二は優しく触れて、女性を見据えた。 「犬小屋にでもいい。花でも添えてやるんだな。彼との思い出が、確かに幸せであったものとして在り続ける事を、俺はただ願う」 犬を飼って、都合で手放して、その現実を突きつけられて逃げようとしていた女性は今度こそ膝を折って泣き崩れた。 今更後悔しても遅い犬の名前を散々呼んで。 「またわんこを飼う事があるのでしたら、その所をきちんと理解して責任もって飼ってあげてほしいのです」 ハッピーの旅路を終わらせなければなら無かったリベリスタからの、そあらの言葉は重く、浅はかな飼い主に圧し掛かる。 「ハッピー……ごめんなさい」 首輪にぽつりと落ちた涙に、抱き締められた首輪に、アルフォンソは家に帰れたと思う事にした。 きっと想いは届いたのだと、ハーケインも思う事が出来た。 あの甲高い吼え声が、わん、と、聞こえた気がした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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