● 「ぼく、赤いタヌキー!」 「おいら、緑のキツネー!」 男は自分の目を疑った。 ぬいぐるみが二体、ふよふよと空を飛んでいる。 どこかから吊るされているのだとしたら真上に何かがありそうなものなのだが、見当たらない。 子供番組の司会をやっているキャラクターをディフォルメした、二頭身のぬいぐるみ。 今年幼稚園に入った娘の部屋で見たことがある。名前はなんて言ったっけか。 いや、今はそんなことはどうでもよくて。 すいっと滑るように近づいてきたぬいぐるみは、何かを後手に隠して、見上げるように話しかけてくる。 「おじさんおじさん」 おじさんって、俺のことか。まだ35だ。 「開いていい?」 何をだ。 ● 「はい」 まずはこれ、とばかりにモニターに映しだされた映像に、リベリスタたちは息を呑む。 その反応を予測していたのだろう『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、ひとつ頷いた。 「凶器は鈍器」 死体――サラリーマンらしき男の頭蓋は陥没し、抉るように開かれている。 それはいいんだ。 「犯人は、そのぬいぐるみ。エリューション・ゴーレム」 うん、そんな予感がしたんだ。 だって写真に写ってるぬいぐるみ、赤い狸と緑の狐のニ体、どう見ても中に浮いてるんだもん。 どうみても狐が持ってるのはハンマーで、狸が持ってるのはバールによく似た物なんだもん。 「この未来は今から行けば防げる。 世界の神秘を秘匿するためにも――ううん、子供の夢を守るためにも、行ってきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月08日(金)23:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ぼく、赤いタヌキー!」 「おいら、緑のキツネー!」 名乗りを上げる二体のぬいぐるみ。 『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は、その傍で無表情に腕を上げた。 「ルカ、ピンクのひつじー」 ――えっ。 「ルカ、あなたたちの仲間よ。第二期から、どんきっき入したのよ? 知らない?」 初めて聞いたよ!? とばかりに顔を見合わせるタヌキとキツネ。 「お父さんのハートをつかむために着ぐるみシスターらびなんたらよ。 スズキルカルカで、アムロなねーちょんは今日は休みなの」 そういえばあったねそういうの。 ぬいぐるみたちはちょっと考えた後、納得した様子でルカルカを暖かく迎え入れた。 リベリスタたちにもよくわからない状況に、もっと事情がよくわからない人物が一人いた。 おじさん(35)である。 「なんだ? 君たち、いやそのまえに、ぬいぐるみ、え?」 混乱するのも無理はないおじさんの、その袖にひしと抱きつく『骸』黄桜 魅零(BNE003845)。 「おじさま! おじさまのためにえんやこらぁぁああ!!! そこの素敵なおじさまー! あ、いえ、おにいさーん!!」 そんなことしたらお胸がおじさんの腕にジャストフィットですよっ。 「35歳! いやー、Niceな歳よ! 年上好きが唸るよねッ!」 「そ、そりゃどーも……」 まだおにーさんだと言いたいおじさん、もごもご。 「こんな素敵なおじさまを殺させてたまるもんか!! 絶対に、黄桜が守り抜いてあげるんだから!!」 「えっ俺殺されるの!?」 魅零はぎょっとするおじにーさん(仮称)の正面に立ち、手をとって。 「あのですね、好きです、付き合ってください――じゃなくて。 今ですね、あそこのぬいぐるみみたいな中の人がいる変なぬいぐるみてきな着ぐるみが見えるっしょ? いや、聞いてくださいよ、私たち実は………」 そこで一旦言葉が止まる。 もしかして、ソレ以上考えてなかったとか? 「昔ながらの遊びを現代に甦らそう、ついでに現代っぽくウケルように、改良版を考えよう会なんですッ!」 良かった、考えてた。でもけっこう手荒な嘘。 だけどおじにーさんは、それに納得した顔を浮かべた。 「な、なるほど。つまりあれは、パペットの新しい操り方とか、そういうのなんだな」 訂正。おじにーさんは無理やり自分を納得させた。 ――超常の、とんでもないことに巻き込まれてると思うよりは、まだ納得できたらしい。 ● 「じーちゃんにいろいろと昔の遊びは教わったのじゃ!」 黒狐の尾を揺らし、超次元アイドル『白面黒毛』神喰 しぐれ(BNE001394)の振りかざすロッドはなんというか、ひじょーにあれっぽい。あれだよあれ。変身したり必殺技使ったりするんだよ。 「メンコにベーゴマに竹馬とかのれるのじゃー! おばーちゃんには、お手玉とかあやとりとかならったのじゃー! 一緒に、きつねとたぬきと遊ぶのじゃ!」 「遊んでくれるの?」 守護の印を結ぶしぐれに、タヌキ(赤い方)が首を傾げて確認するように繰り返す。 そいつを見て、妙な対抗心(?)を燃やしているのがいた。『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)だ。コマ送りの視界の中で、タヌキとキツネを捕捉する。 「市民の平和を守るため、世界の崩界を防ぐため。エリューションは倒さねばなりませんな。 特に雪男……じゃない、たぬきは私とちょっとキャラが被ってるんですよ。 消えて頂きませんとな、くっくっくっく」 彼はおじさんが来る前に撃退できないかと、早めから周囲をうろついていた。 その結果として後日この辺りに、彷徨うマント仮面なる噂が立つのだが、それは別の話。 『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)は、子供の頃の記憶はあまりないという。 「……断片的に朝、TVで赤いきぐるみと緑のきぐるみが出ている子供番組を見ていたような気もします」 そう呟いて、はたと気づく。 「そういえばなぜワタシは日本の子供向け番組の記憶があるのでしょう……小さい頃……ワタシは……日本にいたことがある……?」 魔力を活性化させながら、思考に意識を向ける。はっきりしたものは、見えないまま。 「ひらけ、鈍器ッ鬼ーズ! とりあえず赤いキツ……タヌキと緑のタヌキツネを見て、こう、ものすごくもやもやしますっ!」 「私はうどんのやつが好きです」 唸る『エアリアルガーデン』花咲 冬芽(BNE000265)と、どこかあさっての方を向いて何か言い出した雪白 桐(BNE000185)。 うん、また出落ちなんだ、すまない。でも、この単語の並びを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。そう思って、あのオープニングを作ったんだ。 「まぁ戯言は置いといて。どこかで見たことあるよーななんとなく愛嬌がある二体ですが、手に持ってるものがいただけない。子供がないちゃうですよ、夢ぶち壊しですよ。 子供が夢に見ないうちに倒してしまいましょう」 「このもやもやを解消するには二匹をからっと揚げますっ! さぁ、お覚悟っ!」 桐の肉体の制限が外され、冬芽自身の影が意思を持ってうごめき始める。 「緑と赤のコンビも大好きだったぞ。様々な挑戦に心躍らせた物だ。 今も変わらぬ緑派だが、良く考えてみれば赤い方にも味があるな……うむ……」 どっちがより好きか悩み始めた『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)。 子供の頃は緑派が多いと思うけど、大人になると赤も良いなあって思うようになったりするよね。 ● 「紅と翠の無邪気な饗宴。 遠い昔の思い出連れて 招くは理不尽 唄うは悲鳴。 さあさ一緒に死の抱擁 後ろの正面だぁれ? そっと死を招く遊戯……」 ルカルカの言葉は常と変わらず、歌うように紡がれる。 「というわけで。 つまり、今日のルカも悪ふざけだからリベリスタの敵よ! 魔王ごっこなの」 それをセルフで台無しに。 「ま、魔王ごっこ?」 おじにーさんが、ぎょっとした声を上げる。 「ルカの家では先に魔王って言ったものが命令できるルールの遊びが基本だったの。 いつもねーちょんが先に命令するから、ルカは速度を上げたのよ」 ルカルカの理由(リーズン)、なんか切ない。 「あぁ……俺も兄貴いるからなんとなくわかるよ……」 「おじさまもなにか、昔の遊び、なにかしてました? けんけんぱとか、缶けりとか!」 同情の後、遊びかあと妙にしみじみと呟いたおじにーさん(@なんか異変が起きてるっぽいことに気がついてしまったのを必死に無視しているなう)に、魅零が話しかけ、興味を逸らさせようとする。 「教えてください! 是非、あなたのことが知りたい!」 ……訂正。魅零の目は、いいなと思った男の子に興味津々の少女の瞳である。 おじにーさんとしても、そんな目で見られたら鼻の下がやんわり伸びないでもない。 聞かれただけだから、いいよね、これくらい。なんて嫁さんと子供に心のなかで断りを入れつつ、まあね、なんて気取ってみせるおじにーさん。 「石蹴りだっタら、得意だね」 声が裏返った。 「うむ……子供の頃の思い出、か」 あと缶ぽっくりは自作派だった、などのおじにーさんの話を聞き流しつつ、自分の子供の頃を思い返してベルカが回想に浸る。シンプルな遊びが好きだった様に思う。たとえば「投擲物の描く放物線とその落下地点予測、並びに敵地からの重要物資回収」――すなわち、「よーし、とってこーい!」遊び。 「マスターが投げたボールやら木の枝やらを回収し、無事に持ち帰るとだな……なんと! 褒めて貰えるのだ! これほど嬉しい事は無かったな」 尻尾がぱたぱた、涎がだぁ。 「ただ、物を渡す時に「もう二度と帰ってこないんじゃないか」という不安に苛まれる事もあった。 素直に渡せば良いだけの話なのだがな……」 尻尾がしょんぼり、涎ぴたり。 取ってこい、それは絆の確認。また投げてもらえる、また褒めてもらえるという確信を持てるようになって初めて、ワンコは素直にボールを渡してくれるようになります。(ミンメイ書房刊『犬と絆と球体と』より) ● 「もういーい?」 キツネが首を傾げて聞いてくる。律儀に待ってたらしい。 ルカルカがおお、という顔をして、びしり、と三高平公園前バス停の看板――引っこ抜いたという噂――で他のリベリスタを指し示した。 「さあ、こい、リベリスタなの、うどんとそばじゃなくて赤いのと緑の! やぁっておしまいなの」 「じゃあおいら、キツネだからうどんー!」 「じゃあぼく、そば?」 あらほらさっさい、とばかりにキツネとタヌキが飛び回る。 それを見るやいなや、九十九が即座にショットガンを抜いた。 「――子供の頃どんな遊びをしていたかですか? そうですのう、かくれんぼや鬼ごっことかですかな」 昔のことを思いつつ、貫通力を高める魔力を付与した弾丸を撃ち放つ。 「かくれんぼは結構得意でしてなー。見つからないよう草むらとかに、よく潜んだものですよ。 捜している人間が近くを通った時の緊張感とかたまりません」 べう、とタヌキ(仮称・そば)が変な声を上げた。 「……でもですな、夜近くになって誰も探しに来ないんでどうしたのかと表に出たら、皆帰っていた悲しみは忘れられません。終ったなら、終ったって言えー! 空しいでしょうがー!」 ――それ、本当にかくれんぼだったのか、ってことはきっと言ってはいけない一言なのだろう。 「……すいません、取り乱しました」 涙も流れないのに目尻を拭く、赤いの(ちょっと綿出てる)。 九十九の話を聞いていたベルカが大きく頷いて、懐に手を入れて何かごそごそし始めた。 「うむ、良し! 昔を振り返って、ひとつ投げてみるか! フラッシュバンを!」 「えっ」 「ちょっ!?」 どうしてそういう結論に陥ったのか、ベルカは周囲が慌てて止める間もなく、閃光弾を投擲した。 「たーっ!! わーい、ボールだー♪」 自分で投げて、自分で取りに行く。 「きゃっきゃ……ぎゃん!?」 耳をつんざく轟音、激しい光。 難を逃れたのはしぐれと九十九、リサリサに、魅零にかばわれたおじにーさん。 誰も麻痺したりなどはしていないようだったが、びっくりはする。 「ボールが光ったぁ」 「おっきな音がしたよお」 「ええい、だらしのないやつらだねっ」 キツネとタヌキ、くらくら、ふらふら。 ルカルカはちゃっかり避けていて、二匹を何故か妙に棒読みの発音で罵倒する。 「かみなり、雷がっ! 眼の前でっ!!」 一番びっくりしてるのは、投げた本人。 「おーにさん、缶蹴りしましょ?」 桐の言葉に、首を傾げるキツネとタヌキ。 「いきますよー、ていっ」 「わあっ!?」 掛け声とともに蹴られた缶(石封入)が、雷気を放ちながら近くにいた緑色の腹に食い込んだ。 「鬼は当然貴方たち、だって人数少ないし」 「さーべーつー」 「この缶、石いっぱいー」 「人じゃないですし。それに空き缶ですよ? 石は詰め物だから別物なのです」 二匹が丸い手をバタバタさせてオブジェクションするも、桐はしれっと受け流す。 「……怒ったー!」 緑のキツネはその缶を置くとハンマーをゴルフクラブの容量で振りかぶり、桐へと飛ばし返す。 「5ばんアイアーン!」 別名、駅のホームで傘ゴルフは危険だよ攻撃! 実質ハンマーのままだけど。 「びっくりの、お返しー」 ベルカの足に、タヌキのバールのようなものがざくりと突き刺さる。 しぐれがさすがに怪我の大きいベルカを治癒の符で癒しながら、タヌキたちを睨んだ。 「ええい、あのタヌキどもめ。 必ず、あやとりしながら呪印封縛でむっちむちぎっちぎちにボンレスハムみたいに縛ってやるのじゃ! おばーちゃんが言っていたのじゃ。あやとりとは、殺獲り、なのじゃと……!」 「まずは色んな順番を決めなきゃだよね」 冬芽が手をワキワキしながら、じゃんけんでいいよね? と、にっこり笑う。 「さーいしょーはグーっ! チョキ! パーっ!」 名状しがたいじゃんけんのようなブラックジャック的オーラが、名状しがたいキツネのぬいぐるみの頭のような何かあたりで炸裂する。だいたい(」・ω・)」→(/・ω・)/な感じで。 もうそのあたりを見ないふりしてたおじにーさんの肩を、不安そうに魅零が揺する。 「え、あ。ああ、モデルガンとかだよね? あれ、全部、遊びだよね?」 意識はかなり別世界旅してた。 「缶ぽっくりとかも良いですけど、缶けりも楽しいですよね、こうやって、ドーーーーん!!!」 きつねしっているか 黄桜はぎゃっきょうのときに つよい 缶を蹴りつけながら魔閃光を放つと、絶句しているおじにーさんの顔を見て、てへっと舌を出した。 「え? 閃光でた? おじさまなにいってるんですかーもー! 次の話を聞かせてねッ!」 リサリサが、桐、冬芽、魅零に残る傷を癒すための福音を呼びかける。 「次ハ 竹馬トカ ドウデショウカ?」 現実逃避のおじにーさん。 「あいつら予想以上につよいなー!」 「まったくだねー、どうする?」 「どうするって、開かなきゃ」 「そうだね、開こうか」 キツネとタヌキが、相談と呼ぶにもよくわからない言葉を言い合っている後ろに、ルカルカが立った。 「おしおきだべー」 「どうしたのルカルぶッ」 光の飛沫が散るようなバス停による連撃に、キツネが吹っ飛ぶ。 「いわゆるどくろなんたらごっこね。失敗したらお仕置きなの」 「そんなことさっき言ってなかったよー?」 「さあ、次はちゃんとリベリスタをたおしてくるのよ、いいわね。 次失敗したら頭をちぎっても飛べるかどうか試すわよ」 がくぶるしながら質問するタヌキに、ルカルカは無表情気味の女王様モードで指図する。 「おいらたちトンボじゃないよー……」 ぬいぐるみが情けない抗議の声を上げた。 ● 「ええと、次はおにごっこの話ですな。 足が遅かったので、おにごっこは余り得意ではなかったんですよ。 まあ、そこはかくれんぼの要領で見つからないようにしていたんですが」 すでにその時点でおじにーさんに悲しそうな目を向けられた九十九は、いやいや、と手を振ってかくれんぼと同じ展開を否定し。 「流石に前回と同じ目にはあいたくないので、出て行った訳ですよ。 そしたら……他の参加者全員で追って来やがった!」 もうひとつ酷いオチだった。 なあそれ友達なのか、本当に友達といえるのか。 「いやだー ボールを取りに行くんだー……はっ。童心に帰り過ぎたか……!!」 再びフラッシュバンを投げたベルカ、さすがにまた爆心地なうされると大変なので、待て。 桐が、じゃあ次は鬼ごっこで、と告げて、九十九の肩がびくりと揺れる。 「基本ルールは普通どおりですよ。ただ鬼役でタッチする時にギガクラで全力でタッチするだけで」 「それ、さっきの私の話で思いついたんじゃ、ありませんよね?」 リボンいっぱいの服に似合わぬロケット花火を取り出して、しぐれがにっと笑う。 「緑キツネのチャレンジとか見てみたいのぉ! 緑の方はアクティブなのじゃ! ちょうど花火を持ってきたのでロケット花火打ち込むので避けるチャレンジするのじゃ!」 「花火を人に向けちゃ、いけないよー!?」 「緑は人じゃないので大丈夫なのじゃ! 式符・鴉も一緒にぶっ放して試すのじゃー!」 おろおろするキツネに、しぐれの鴉が突き刺さる。 ぐったりと動かなくなるキツネに、赤いタヌキが慌てて寄り添い、肩を揺さぶる。 「わー、どうしよう、うどん(仮称)が動かなくなっちゃったー!」 やっぱり涙は出ないのに泣き真似をするタヌキに、冬芽が近づき、今度は指をわきわきさせる。 「最後はお医者さんごっこ! さぁ、お腹の調子を見ますねー」 「ぼくは健康だよ、うどん(仮称)を見てあげてー」 「病は気から、でも病魔は気付かない内に忍び寄るっ!」 大鎌"Aletheia"がざっくりとお腹の縫い目を切りほどき、その中に手を突っ込んで、冬芽は叫ぶ。 「腸――もとい、腹綿をぶちまけろっ!」 >ワ< ハイアンドロウが炸裂し、赤いタヌキは文字通りハラワタをぶちまけた。 ● 「ただいま……」 「おかえりなさい、大丈夫だった?」 帰宅した男を、妻が気遣う。 最近は物騒だ、さっきも大きな音と光がして、思わず通報しようかどうか悩んだくらいなのだから。 「え? あ、ああ……うん、無事、生きて帰ッテ来レタよ」 不自然に上ずった夫の声も、本当は何か危ない目にあったからなのかもしれない。 「ところでさ、あの子は、寝てる?」 不意に男が、真剣な顔でそう聞いてきた時、やっぱり何かあったんだ、と彼女は確信した。 「あなた――もしかして、あなたね? あの子のぬいぐるみ、どっかにやっちゃったの!」 「え、ええっ!?」 「何よソレ、知らなかったの? ……まって、じゃああなた、何があったの! 教えなさい!」 『君たち、一体何なんだ……? 本当に、遊びの、わけ、ないだろ!?』 『――これでお別れですね。刹那の会瀬……楽しかったです』 男の頭の中の混乱は、もうしばらくの間続きそうだった。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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