● 小さな小鳥は黒く染まった。 太陽は沈み、闇が空を覆い、月明かりは何処かへと消える。 沈む夕日は、未だに帰ってこない。 海の流れは、時が止まったように静止した。 「うわああ!? なんだ!? ここら辺一帯黒く染まってるぞ!!?」 「自然災害かぁ……? なんか不気味な光景だな」 船に乗る、一般の船員が見たのは黒く染まった海だった。まるでそこだけが、削り取られたかのように、ぽっかりと黒く染まっているのだ。 「これはぁ……どうしようか」 「とりあえず、写真でも……」 そう船員の一人がカメラを構えた瞬間だった。 バチャッ 黒い水面から、何かが飛んできた。 レンズの向こうから見えたそれは、上半身は金髪の綺麗な女だった。だが、白目をむき、牙を見せ、下半身は魚のそれだった。 「え!? にんぎょ、あれ、う、うわあああああああああああああああああああ!!」 一瞬だった。飛んできた人魚に噛みつかれ、千切られ。 二つの下半身だけが、船の上で力無く倒れた。 スターチスは枯れたのだ。 首飾りは、ひび割れた。 指輪はもう、壊れそうだ。 リボンだけはまだ、髪についている。 ● 「お急ぎの、お仕事です。神奈川近海のある場所が黒く染まりました。 原因ですがアザーバイドの人魚が、呪いの水を此方に流し込んだためです。 凶暴な人魚達を放っておくことはできません。どうか、止めてください」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は、モニターを見ながらそう言った。 映されていたのは、凶暴な形相で黒の海を泳ぐ人魚。目は白めをむき、爪は長く伸び、口からは牙だろうか、それが見えていた。 海上にはDホールが穴を開けていた。おそらく其処から海水が流れ出ていたのだろう。 「……レヴィアタン。彼女の名前です。 彼女は今や、黒い海の女王。現在進行系で汚染されながら、姿を変えています。最終的には、全ての呪いの水を吸い込んで、龍の姿になると解析されています。 それまで、黒い水の中でじっとその時を待っているようでして……」 彼女は待っていた。呪いを自らへ集めて、倒される時を。 黒く染まった部分は一部ではあるが、それが未だに一般人に見つかっていないことは幸運であった。しかし、それも時間の問題。 「前回、人魚の姫が託してくれた秘薬がありまして、これを今回上手く使ってください」 杏里が取り出したのは、貝殻の形をした入れ物。中には丸薬が十一個入っていた。 「おもしろいことに、これは飲めば水中に入っても抵抗が無くなる丸薬。とはいえ……時間の制限は勿論あります」 人魚の言葉『いつかそれが役に立つ日がくる』とはこのことだろう。 杏里はその貝殻をリベリスタへと託す。どうか、良き旅になるようにと祈りを込めて。 「遥かな海の旅に終幕を。それでは、いってらしゃいませ」 ● 『あァァ……ぅぅうウウウウ』 レヴィアタンという名の人魚の女は、頭を抱えながら沈んでいた。 『わたシが、秘薬を作っタから、こんなこトに……』 思い返すのは、かなり以前の己の失態。陸に憧れて、足がはえる禁忌の薬を作ったのが全ての始まりだった。 それは海のエメラルドを全て吸い尽くし、黒くし、大きな呪いを海に残した。 ――海の生物の、理性を奪い、凶暴化させる呪い。 そして、こうするしかなかった。己の世界の黒く染まったのを、たまたま見つけた下界の世界に流し込むしか解決法が無かった。 黒を流すのを知らぬふりをして帰る事もできた。だが、罪悪感からできなかった。 薬も、渡してしまった。けれど未だ人になる望みは捨てられない。 触れすぎた黒は、彼女の全てを奪う。 優しすぎた世界、ゴメンナサイ。 ――憎い。 ニクイ。ニクイ!!! 陸がニクイ!! この世界が憎イ!!! 憎いイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月29日(日)22:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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空色のキャンバスに、黒色を落としてしまった。 削り取る? それとも、塗りつぶす? ●再び終わり行く物語 二艘の船が、海原を渡って行く。 ぽっかりと空いた黒を見つけるには、長い時間は必要無かった。 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は仲間達に同じ飛行の能力を与え、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は先般よりスターチスの花を巻く。 くるり、くるり。 風の流れるままに、花達は舞踊りながら落ちて行くが、それを爪の長い手が握り潰した。 「おいでなさったようだぜ」 『闇狩人』四門 零二(BNE001044)はその狂気を見つける。 『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が潜水するよりも早く、レヴィアタン(以降レヴィ)は、思い出に狩られて出てきたのだ。 間も無く、それは水面を荒々しく揺らす。 千里眼はそれを全て視ていた。『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が、飛び上がったレヴィの曲線の先に、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が居る事を悟った。 かつて、透き通る歌を歌う彼女の姿は消えていた。 『ら゛ぃ、オ ん゛?』 『レヴィアタン!!』 狙いは秘薬こそ持ちし雷音。いや、秘薬こそが目的。捨てられない人への望みが、無意識にも薬を所望するのだ。 零二は雷音の身体を引っ張り、貫通の直線から遠ざける。だが、己はレヴィの攻撃に軽く吹き飛ばされ、壁に背中を強打してしまう。 「零二! すまない、助かったのだ」 「いや、いい、それよりも……」 咄嗟に雷音は零二に駆け寄り、その傷を癒す。零二と雷音は言葉は交わせど、眼だけはレヴィを見ていた。 『レヴィアタン、朱鷺島雷音だ、君に会いにきた。 君がやったことは、ボクらにとっても許せることじゃない。けど、それでも、君の願いを叶えたい』 此方の世界を犠牲にしたくせに、見捨てることができなかった優しさを信じて救う。 無様に船上を這いずり、雷音の目の前までレヴィアタンは近づいた。手の中、その花は。 『コんなモノ!!!』 スターチスを、払い、切り落とし、人魚は両腕を広げて請う。 『このときを待っていた。私はもう、戻ることはできない!! さあ、殺せ!!』 雷音は口の中で歯を噛み締める。返答は 『嫌だ!!』 ● 「魚達が、上がってきます」 悠月の眼には、水面のスターチスに反応して上がってくる魚達が見えていた。そして船は一瞬にしてそれらに囲まれる。 だが、悠月は焦りの色さえ見せなかった。むしろ余裕の表情。なぜならば、このリベリスタ達はごみ掃除に長け過ぎているからだ。 自身も詠唱から陣を紡いでは雷電を迸らせる。 『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は咥えていたタバコを吐き出し、豪快な音楽を奏でると共に、痺れる雷光を見える限りの魚へと放った。 二色の雷光に続く、綺沙羅の氷の雨が降る。はぁと息を吐き出し、レヴィアタンを見据えた。 「結局どちらも選べなかったのか。仕方ない奴」 突如、レヴィは叫び声をあげた。 かつての自分を忘れているようなら、思い出させるだけ。 『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)が、自分が見てきたレヴィアタンの姿を、今の彼女へ送り込む。直接叩き込まれた映像に、雷音と零二の眼前で頭を抱えてレヴィは叫び苦しんだ。 それだけでなく、言葉でも。千切れんばかりに叫んでは、伝える。何より、自己犠牲になろうってのは大ッ嫌いだ。 「呪い程度に負けるんじゃねーッスよ。捨て切れない望みなら、人任せにして逃げてんじゃねーッス!」 戻ってきてと何重にも願いを込めた。 『やめて、やめて、にくい!』 レヴィアタンの叫びに反応した魚達の協奏曲か。一斉に飛び上がり、リベリスタの肌を傷つけるための牙を剥き出す。 その攻撃は特にリルに集中し、次に見えたのはレヴィの牙だった。寸前でアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)のドクトリンがリルを守っていたのは幸だっただろう。 『その呪い、祓って、ハッピーエンドにしてみせます』 次いで、放つは攻撃の力を上げるドクトリン。仲間のため、人魚のため、アルフォンソは効率動作を瞬時に共有させる糸を繋ぐ。 願わくば、それが人魚を助けるための護りとなれ。後方から見える景色はなんとも痛ましいく、アルフォンソの頬に汗が流れる。 リルはレヴィにど突かれて、船から落とされて海へと落ちる寸前で、テレパスで叫んだ。 『勝手に消えるなんて』 ……許さないッス!! ――だれ? !? 此処は心の奥底。深海と同じくらいに静かで暗い。そんな所にレヴィの心は堕ちていた。 テレパスの力か、リルの頭にレヴィの声が聞こえた。それをアルフォンソに翻訳してもらえば話しも可能かもしれない。 そう気づいたリルだが、今のリルは黒の水によって自身を失っている。フツの光が頼りだ。 ――もういいよ。私のために、そんなことしなくても リルの混乱は思ったよりも治すのに時間がかかった。そこからだ。 人魚へと語りかけるため、リルが軸となった。 ――もういい。 その声を聞いた悠月が立ち上がる。 『甘えるのも、いい加減にしなさい』 ● 聞こえた声は、綺麗に澄んでいた。笑ってしまいそうだ、今の汚れた自分とはまるで正反対。 『在るべきものは在るべき場所へ。それは貴女が生きてやるべき事でしょう?』 違いますか?と問われたレヴィの心は耳を塞いだ。 提示された選択を、今更選び変えることなどレヴィにはできない。 罪を背負って死ぬのだ。かつて救世主が、この世の全ての罪を背負って消えたときのように。 レヴィの住んでいた海の色はエメラルドに輝いていた。 だが、彼女が薬を作り、海のエメラルドこそ材料にしたために、黒くなってしまった。 それを返さないといけない。そういうこと、でしょう? 「返しに……来た。海の……色」 エリス・トワイニング(BNE002382)の聖神が吹き荒れた。 リルを癒し、自身も癒し、このまま人魚も癒せたらどれだけいいだろうか。それができないからこそ、癒し続ける仲間を信じて。 「誰一人として……倒れないよう……癒す」 それがエリスの、意地。 船上から降りた人魚は海面下へと落ちていく。 水上に足を置く天乃は、人魚の腕を掴み、水面へと引き上げることを欠かさないのだ。 それが雷音達の想いを果たす、助けになると信じて。 噛み付かれた、腕から血が止まらない。それでも天乃は立ち上がった。 それを支えるのはフツの光。あんまり無理しなさんな、と声をかければ天乃は無言で首を振った。 発光が照らす、黒き舞台の上で、彼女は人魚を止め続ける。 「赦せよ」 ぽろっと出た、零二の言葉。伝わるかは解らないが、それでも魚の無念は拾っていた。 魚を技が貫くその時、零二の後方から真っ黒の光が輝く。 振り返ってみれば、天乃の眼前で人魚が姿を変えているのだ。腹部には、黒光りする大鎌が刺さっていた。おそらく悠月の一撃。 『ゥウ、うぁああぎゃああああああ!』 見える人魚は、人魚として姿をおかしくさせていく。角がはえ、爪は更に伸び、背には悪魔を思わす翼が広がった。 『苦しいおおおおクルシい、ああああああああ!!!』 小鳥遊・茉莉(BNE002647)の直感が響く。そう、これは形態変化だと。 あまりの高音にリベリスタ達は耳を塞いだ。耳を貫く、音の爆弾。 海は荒ぶり、レヴィアタンを中心に波を起こすほどの衝撃が起こった。 即座に『白の祝福』ブランシュ・ネージュ(BNE003399)が叫びながら回復を行った。 「貴女の願い、まだ叶っていないのでしょう? 私達が呪いを解放しますから…どうか闇に囚われないで下さい!」 身体が重い、本来の力が出ない。大きな身体的呪いを受けたリベリスタ達。 だがここで幸がある。それは第二形態へ移った人魚を見れば解る。傷が癒えていないのだ。 (致命が、効いてる) そう気づいた瞬間に天乃の手は出ていた。この形態では能力は強化されない。ならば。 最速で動いた天乃に続いて、雷音の氷の雨が降り注ぐ。それと共に、悠月たちの雷の閃光が降り注いだ。 もはや敵はレヴィのみとなっている状態だ。 『薬、薬、にくい、人がニクイ! 海は暗い、暗い!!』 白目向く彼女が狙うのはやはり薬だった。エリスの回復が厚く零二を守り、その零二が雷音を守っていた。 邪魔だと突撃した零二の身体は海へと落ち、混乱にかかってしまえば、仲間を傷つけてしまう。 横からアルフォンソの閃光がレヴィを射抜いた。だが、麻痺させるまでには至らず、零二から牙を離させるきっかけにしかならず。歯噛みしたアルフォンソがレヴィに話す。 『レヴィアタン、この薬は、海の色。これを海に返せば戻る、そうでしょう?』 『それは十一個で全と成ス!! 分裂した呪いを一にしない限り、無駄だ!!』 それでアルフォンソは納得した。事前に綺沙羅が見た深淵とほぼ合致したのだ。薬は秘薬であり、禁忌の薬。大きなパンドラの箱であることには変わりは無い。 考えた、倒す以外の方法で、人魚を救う方法を。だが、やはり思い浮かぶは。 「呪いを集めて、それを薬で中和する。これしか無いみたいだぜ」 フツは仲間へと呪いを祓う光を放つ。 もうそれしか無いのなら、それをするしかない。それでも救えるって、きっとどこか。心の奥底で信じているから。 『まだ、聞こえるッスか?』 き えます。 ぎれ、とぎれですが リル 『あんたを助けたいって人が居るっす、もう少しだから頑張って欲しいっす』 そう すか……でも、も 眠い はっとした。 リルが話しかける外際で、狂った人魚をリベリスタは攻撃をしている。 続ければ、続けるほど、彼女の声が聞こえなくなっていくのだ。 ――ぶつんっ 見れば、天乃の植えた爆弾がトドメか。 海が荒れ、空には暗雲が集う。次こそ、最後の形態。 「駄目っす、自分を見失ったら駄目っす!!」 リルがテレパスで映像を送り続けてみたが、彼女は反応を示さなくなった。それは彼女が彼女で無くなった事を示していて、同時に呪いの化身となった事を示していた。 横からの大きな衝撃に、リルの小さな身体は吹き飛ばされ、海へと沈んだ。 広範囲までに及ぶ龍――リヴァイアサンの尾は、全てのリベリスタを払い、後退させ、船を転覆させる。 海上での戦闘に、望みはフツの翼の加護。 戦闘前に聞いた、フツの落ち着いて飛ぼうという言葉を頼りに、リベリスタは海上に浮き上がるが、浮き上がったときには龍が水面下へと潜り始める。 このまま逃がしてなるもんか。 一番近くに居た天乃がその行く手を遮るが、大きすぎる図体を一人で押えるには無茶だ。 一人海上に足を置く天乃は、仲間を見た。 「此処に連れて来る。だから、皆待ってて」 天乃は一人で撒き餌となるために潜った。気をつけてと、癒すエリスの声が最後に聞こえた。 しんっと静まった海上、運命の力で立ち上がった、リルと零二。 「これで最後だ。奴は致命で体力は回復していないはずだろう。殺すか、救うかだ」 「彼女、まだ心の奥で生きているっす。皆で目覚めさせてあげるっす」 救うことに、誰一人異論は無い。 「皆、ボクの我儘に着いて来てくれて、感謝するのだ」 ● 「……連れて来た」 龍の鱗でも引き抜いたか。身体中、更に傷を作った天乃の背後から、海龍が出でる。 杏が四色の音色を放つのが再びの宣戦布告。 とは言え、薬を飲ませるのが目的だ。 戦闘不能にまで追い込む手もあるが、それは体力の少ない龍と、リベリスタの、どっちが先に倒れるかは読めない勝負。 回復が目障りとなったか。 巨大な顎はエリスを襲う、その寸前でアルフォンソが盾となった。 顎の圧力に、身体がミシミシ潰される感触が気持ち悪い。それに相応して、一瞬にして体力がほぼ削れていく。エリスが傷をぎりぎりで癒すものの、失血が止まらず、回復量も追いつかない。 吐き出され、水面でなんとか浮遊したアルフォンソ。それと交差するようにして悠月が唱えた詠唱が大鎌を形成し、飛んでいく。 「龍の、口さえ開けばいいのですが」 「それって、火を吐いたときとかっすかね」 迅雷が海上を走る中で、リルは分身を作る。 分身は、龍の死角を射抜く。衝撃に揺れた龍は、口の中に炎を溜めた。 「炎だ!! くるぞ、雷音!!」 フツは雷音に叫んだ。だが、その瞬間、尾がフツ、アルフォンソ、悠月、リル、杏、天乃を吹き飛ばしていく。エリスが詠唱し始めるが、おそらくリルとアルフォンソはもう立ち上がらない。 更に迫ってくる炎の渦。雷音の眼に恐ろしく映ったか、咄嗟に眼をぎゅっと閉じた。 秘薬を持つ手が震え、もう駄目かと悟った。だが、その間に入って彼女を守り続けたのは零二だ。 「最終形態となった……今を、待っていたんだろう?」 花が枯れても、その身を黒く染め、魂が反転していようと まだ、彼女の心は其処に在る! カッと見開いた雷音の両目。そして、飛び上がった。炎の渦を超え、焦げた翼で身体を宙へと持ち上げる。これで投げれば、入る位置を取った。 離脱した瞬間か、零二の身体は炎に巻かれて水上へと落ちる。もはや、庇ってくれる者はいなくなった。 『レヴィアタン、聞いてくれ!! 君はまだ其処に居るのだろう!?』 炎を吐いた今こそ、チャンスだ。その大きな龍の口に薬の入った貝殻こそ飲ませれば、きっときっと――!! 悠月の大鎌が切り裂き、フツの式符が龍の意識を逸らそうとした。天乃が龍の身体を縛らんと糸を巻く。 それから剥き出しの薬壷を、口の中へ――茉莉の声が聞こえる。 「雷音さん! 狙いは、薬です!! 危ない!!!」 パンッ 『レヴィアタン』は薬を欲していたが、『リヴァイアサン』となった彼女は薬が脅威と成る。 ――それは十一あって全と成す。 ――呪いを集めて、中和する。 リベリスタの推測、深淵の情報はあっていた。 冷や汗を流しながらも雷音は飛んだ薬を回収した。だが、その背後、龍の炎が背中から包み込まれてしまう。消える体力に視界が霞む、だが。 「雷音さん、そのまま!!」 ブランシュの天使の歌が、寸前で雷音を守った。 「オウ、いってこい!!」 続いて、雷音に纏わり着く炎をフツの光が浄化していく。そして。 「返してあげて……海の色」 エリスの聖神が高らかに響き渡った。 こくりと頷いた雷音が、龍の口の中へと飛び込む。龍が少女一人飲み込むことなんて、容易い。 『レヴィアタン、呪いに君自身が奪われるな!!』 ● 迷子の迷子のお姫様。 遥か大海から落っこちてきた、陸に焦がれた人魚姫。 彼女は心優しいリベリスタと楽しい一時を過ごしました。 けれど彼女は大きな呪いを捨てるゴミ箱を探していた。そして落っこちた場所へ呪いを落としました。 助けてもらった二度の恩から罪悪感が生まれ、帰れない迷子のお姫様は、呪いそのものになりました。 それから。 真っ黒。 何も見えない龍の中で、雷音は一人貝殻の薬壷を握り締めていた。 だが、変化はすぐに現れる。目を瞑っていても、眩しいほどの閃光が薬から放たれたのであった。 ――リベリスタ、ごめんなさい。 いつかこうなると解っていた。 その光は浄化の光。これで呪いが終わるのだ。ただし、呪いとなったレヴィアタン自身も一緒に消える。 ――リベリスタ、ありがとう。 罪を作った姫の、愚かな末路。リヴァイアサンと、レヴィアタンを元に戻すのであれば、奇跡レベルの力が必要だろう。ただ一人、運命に呼びかけたが、応えてはくれなかった。 『君は』 尾が消え、胴が消え、頭が消えていくリヴァイアサン。 鱗が剥がれては、泡となってDホールへと吸い込まれていくのだ。 『リヴァイアサンなんかじゃない、レヴィアタンだ!』 嬉しい、その言葉、今はとても心地良いよ。 辛いことをさせてしまいましたね、でも……どうか、気に病まないで、リベリスタ。 雷音が、消えいく光に手を伸ばす。消えないでと、かき集めても手から零れていく。その手が握り締めたのは、あげたリボン。それを抱きしめて、空中でただ一人蹲った。 「在るべきものは、在るべき場所へ、ですか」 転覆した船の上、悠月は静かに消えるDホールを見送った。 その在るべき場所へ戻った。ただ、それだけに過ぎない――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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