●凶鳥・来る。 そいつは突然、訪れた。 子供たちの騒ぐ声と、夏の気配を感じさせる太陽の光、湿気を含んだ風が吹き抜ける。 そんな、穏やかな時間の流れる公園。 しかし、平和な時間は唐突に終わりを迎える。 強風が吹いた、とそう思った。 次の瞬間、公園に影が差す。子供たちは空を見上げた。彼らは一瞬、自分の目を疑った。 何故なら、公園に影を落としていたのは、巨大な黒い鳥だったからだ。 恐らく、鴉だろう。だが、その大きさは規格外。翼を広げれば、全長は6メートルから8メートルになるだろうか? そんな巨大か鴉が合わせて4匹。 強風を起こしながら翼をはためかせ、公園に舞い降りた。 子供たちは、我先にと公園を逃げ出す。鴉は、そんな子供たちを黒い瞳でじっと見送る。興味はないのだ。逃げるなら逃げればいい、とそう言っているようだった。 鴉達の目的は、単なる巣作りであるらしい。 子供たちが放り出していった、バットやボール、自転車などを嘴で集め、公園の真ん中に集めていく。 その中に……。 赤ん坊の乗ったベビーカーが混ざっている事に気付いたものは、まだいない。 ●リベリスタ。出動。 「大きくなりすぎたから、巣をつくるのに広い場所が必要だったみたい」 困ったと呟いて、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は首を振る。 モニターに映るのは、広い公園。芝生広場の真ん中に噴水があり、その傍に鴉たちが巣の材料を集めている。 ガラクタだったり、木材だったり、ベビーカーだったり、だ。 「翼を広げれば、その大きさは6メートルを超える巨大な鴉が今回のターゲット。フェーズは2。敵の殲滅以外にも、ベビーカーに乗っている赤ん坊の回収もお願いね」 巣の材料にされているから、とイヴは言う。 「鳥の割には、賢いみたい。連携攻撃をする程度の頭はあるから、分散させて叩く事を推奨するよ。足の爪と嘴、それから羽ばたいた時の風圧に注意」 大きいから、当たると洒落にならない、らしい。 モニターに映る鴉の黒い瞳からは、なんの感情も窺えない。 「鴉達は巣を守るように行動するみたい。例えば、近くによるとか、攻撃を仕掛けるとか、じっと様子を窺うとか、そう言う行為を嫌って攻撃を仕掛けてくる」 ベビーカーの回収の為には、鴉をなんとか巣から離した方がよさそうだ。 「場所は遮蔽物のないだだっ広い公園。思いっきり戦っても問題ないけど、くれぐれもベビーカーと赤ん坊を傷つけないようにね。野次馬が現れる可能性もあるし……」 鴉を公園から逃がさないように、と注意される。 「向こうは遠距離攻撃の手段を持っていないから、攻撃する際は地上近くに降りてくるはず。風圧に気をつければ、飛行せずとも戦闘は可能。飛んで追いかけていってもいいけど」 大きいから危ないよ? と、イヴがそう締めくくって、作戦会議は終了した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月01日(金)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●公園に巣食う鴉。 晴れた日の昼下がり、和やかな空気に満ちていた市民公園が、巨大な鴉たちの襲われてから暫く。憩いの場を追い出された人々は、公園から、かなりの距離をとって鴉の動向に気を配る。しかし、距離が離れているため、公園の中は覗くことが出来ない。 そんな中に、蹲ったまま泣き崩れる女性の姿があった。 彼女は、鴉が襲来した際に、赤ん坊の乗ったベビーカーを、鴉達に持ち去られてしまったのだ。赤ん坊を助けに向かったものの、鴉の攻撃を受け、足を負傷。公園にいた他の人間により、連れ出された。 そんな泣き崩れる女性を横目に、公園に立ち入る8人の男女の姿。 エリューションと化した鴉を討伐に訪れた、アーク所属のリベリスタ達であった。 穏やかな風が『犬娘咆哮中』尾上・芽衣(BNE000171)の黒髪を揺らす。 「赤ちゃんが巻き込まれちゃったの? 早速助けにいかなきゃ―」 鴉に気付かれないよう声を押さえ、そう言う。彼女の視線の先には、鴉達が集めたガラクタの類が山と積まれていた。恐らく、その中に赤ん坊の乗ったベビーカーがあるのだろう。 「赤ちゃんを無事に助け出したいですね」 双眼鏡を目に押し当て『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が鴉の様子を窺う。ガラクタを集め、巣の用意をしているようだ。2人がいるのとは反対方向の公園入口には、仲間達がスタンバイ完了しているのが見てとれた。 『準備完了しました。任務を開始します。それにしてもカラスというものは、本当に色々なものをどこからでも収集するのですね』 AFを通して『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)の声が聞こえる。真っ先の公園に飛び込んできたのは、爆音を響かせる一台のオートバイだった。 ●救出作戦開始 「始祖鳥か!? プテラノドンなのかー!? って感じやねー」 バイクのライトを鴉に向けて、芝生を撒き散らしながら『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)が公園を疾走する。興味を持ったのか、それとも鬱陶しいと感じたのか、鴉が一羽、甚内に向かって飛び立つ。巣から引き離すべく、阿久津は一定の距離を保って鴉を誘導するよう走る。 阿久津同様に、トップスピードで飛び出した『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)も、巣に向かって駆けよった。鴉がけたたましい鳴き声を上げて、災原を威嚇する。鴉の鳴き声に驚いたのか、ガラクタの中から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。 「あたし鴉って嫌いなのよね……煩いし」 どうでもいいわよね、と呟いて小太刀を構えた。巣に残っていた鴉のうち、2羽が災原へ向かっていく。とはいえ、警戒しているのかある程度の距離を保ったままそれ以上近くには寄ってこない。 そんな鴉に向かって『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)が飛びかかった。そのまま掌打を叩きこむ。短く呼気を吐きだす。と、同時に鴉が後方に飛んで、地上に落下する。 「こんなところに巣を作ってしまう迷惑かつ危険な鳥となれば、駆除してあげなければなりませんね」 三島が、落下した鴉に向かって駆け寄っていった。 「鴉は頭ええし執拗やから、敵に回すと厄介やでぇ。ま、害獣退治もお仕事ならがんばりまひょ」 なんてことを言いながら、鏡で反射させた光を巣に残った鴉に向けて照射する『√3』一条・玄弥(BNE003422)と、隣で様子を窺う石動。 光りものに興味を持ったのだろう。鴉は巣を離れ、一条の元へ飛んでくる。 「でかっ! 鴉でかっ!」 そう叫ぶのは『歩くような早さで』櫻木・珠紀(BNE003776)だ。ピンクの髪が、鴉の巻き起こす風に吹かれ、乱れる。 漆黒の闇で作った武具を身に纏い、一条が前へ出る。手につけた鉄の爪を打ち合わせ、キンと甲高い音を鳴らした。 鴉が迫る。戦闘の邪魔にならないよう、石動と櫻木は後方へ下がる。 いつでも一条のサポートが出来るように、石動は光の矢を、櫻木は真空の刃を放つ用意を整える。そんな2人に、チラと視線をやって、一条はにやりと笑う。 鴉が地上に向かって急降下。嘴を突き出し、一条に襲い掛かる。敵意を感じ取ったのか、或いは、身の危険を感じたのかもしれない。 翼を合わせれば6,7メートルはくだらない巨大な鴉だ。風圧に押され、背の低い石動が踏鞴を踏む。 一条が飛んだ。鴉の嘴と、一条の爪が交差する。 「弱点の鼻が近いでぇ!」 空気を切り裂きながら、一条の爪が鴉目がけて降り下ろされる。 「やっぱりガラクタの山の中みたいですね」 と、イスタルテが双眼鏡を覗きながら言う。尾上は頷いて、トンファーを握り直した。 「赤ちゃんんを助けにいくよー!」 「はい!」 地を蹴って飛び出す尾上と、その傍を飛ぶイスタルテは、一目散に巣へ向かう。幸い、公園にいた4羽の鴉は、他の仲間達が引きつけてくれている。 最速、最短距離で巣へ向かって駆ける。巨大な鴉たちが集めて来た、大量のガラクタの山が近づいてくる。近くで見ると、公園のベンチや、木材、バット、鉄骨など、ガラクタは実に多種多様。赤ん坊の泣き声は、ガラクタの山の奥の方から聞こえてくる。 「自転車とか、色々ありますね。取り除かないと」 と、イスタルテがガラクタの山に腕を突っ込んだ。尾上もそれに続く。鼻を動かし、赤ん坊の位置を探っているようだ。木材を持ち上げ、鉄骨を引き抜き、ベンチをずらす。 「いた! 抱っこして離脱するんだよー」 そうやって、ガラクタを片づけているとそのうちベビーカーを見つけることに成功。タイヤが曲がってしまっている。赤ん坊だけ連れて逃げることに決め、赤ん坊を抱き上げる。 持ってきていたリボンで、赤ん坊を自身の身体に巻きつける尾上。よし! と、満足げにイスタルテが顔を上げる。 彼女の眼鏡に、太陽の光が反射し、キラリと光る。 「カぁぁ!!」 阿久津が引きつけていた鴉が、イスタルテ達の存在に気付き鳴き声を上げる。傍を飛んでいた、もう1羽も、巣を漁る2人の存在に気付く。 「へぇえーい! こっちへおいでよカモンカモン!」 再び鴉の気を引こうと阿久津が叫ぶが、鴉の意識は既に巣を漁る2人に向いていた。バイクに乗ったまま阿久津が矛を振るう。鴉は鬱陶しそうに、それを嘴で弾いて、空へ飛び上がった。風に押され、バイクが倒れる。 「い、いけね……。にげて~」 横転したバイクから投げ出され、芝生の上を転がる阿久津が仲間に注意を促す。そんな阿久津の上を、鴉がもう1羽、飛び去っていった。 会わせて2羽の鴉が、尾上とイスタルテの元へ向かっていく。 「注意をこちらに引きつけませんと!」 阿久津の横を、返り血に濡れた三島が駆け抜けていった。起きあがった阿久津も、それに続く。しかし、相手は空を飛ぶ鴉だ。追いつけない。苦し紛れに矛を投げるが、ひょいとかわされてしまった。 「来ましたよ! 逃げましょう!」 「回避と防御に専念するよー」 赤ん坊を助け出した2人が、鴉に背を向け逃げ出した。2羽の鴉が迫る。イスタルテが宙に舞い上がった状態で、鴉に向けて弾丸を放つ。鴉は、弾丸を回避すると、イスタルテに向かって嘴を叩きこむ。 咄嗟に、防御するイスタルテだったが、地面に叩き落されてしまった。地面に転がるイスタルテ目がけ、もう1羽が襲いかかる。風圧で地面に押し付けられたイスタルテに鉤爪が迫る。 と、その時、巣の傍で光の弾が弾け、周囲を真白く染め上げた。鴉の動きが止まる。 「今のうちに逃げてっ!」 そう叫んだのは、櫻木だった。鴉の動きを止めたのは、彼女の放ったフラッシュバンだ。 「逃げるよー」 イスタルテを助け起こし、尾上は再び戦線を離脱。強い光に気をとられていた鴉が、1羽、2人の逃走に気付き追いかけてくる。鋭い嘴が、尾上に迫る。 「赤ちゃんを守るよー」 無理に避けることはせず、尾上は背中に嘴による一撃を受ける。鮮血が飛び散ったが、倒れない。倒れかけた身体を気合いで起こし、そのまま公園の外に向かって駆ける。 「もうやらせませんよ!」 と、イスタルテが手を鴉に向ける。眩い閃光が、鴉の身体を焼いた。それを確認し、イスタルテは尾上に続いて戦線を離脱。 「追いつきました。羽を切り落としてあげます」 イスタルテの神気閃光に焼かれる鴉に向かって、三島が素早く脚を振りあげた。真空の刃が空気を切り裂き、鴉の翼を根元から切り落とした。血が飛び散る。芝生が紅く染まった。 「はいさい、遊んだげてねー!」 櫻木の放った光弾にやられ、動けないでいた方の鴉の傍に、阿久津が駆け寄った。手には矛を握っている。キラリと、怪しく矛が光った。 阿久津の接近に気付いた鴉が、飛び上がるべく羽ばたいた。風圧に押され、阿久津の身体が僅かに後ろへ。しかし、矛を地面に突き刺すことで、吹き飛ばされることを防ぐ。 風が弱くなったのを見計らって、鴉に向かって矛を投げた。狙いは翼の根元。ピンポイントで翼を貫く。片翼の機能を失って、地面に落ちた。 「ほらほら、邪魔してんのはこっちだよ?」 鴉が起きあがって、阿久津に跳びかかった。阿久津は回収した矛を構え、迎撃態勢を整える。 嘴と矛が交差し、甲高い音が響く。鴉の嘴が阿久津の肩に突き刺さり血が溢れる。阿久津が笑った。脂汗を垂らしながら、矛を引き抜く。鴉の眉間に突き刺さった矛は、血で紅く濡れていた。鴉の巨体が地面に倒れ、落ち葉を巻き上げた。 「こっちは終わりかな?」 「こっちも、終わりです」 阿久津の独り言に、小さな声で返事が返ってくる。声がした方向に視線を向ける。そこには、炎を纏った拳で鴉の首を撃ち抜く三島の姿があった。炎に包まれた鴉が巣の上に転がる。炎は木材やベンチに燃え移り、黒い煙が上がった。 鴉が動き出さないのを確認し、三島は拳の炎を消す。 「……私を傷つければ、相手も傷つくのですから」 そう呟いて、辺りを見回す。 尾上とイスタルテは既に公園から離脱し終えただろうか……。 赤ん坊の救出は、これにて完了。パチンと、ハイタッチを交わし、阿久津と三島は大きくため息を吐いた。 ●鴉・激戦。 「あっちはそろそろ終わりそうやのぅ」 額から血を流しながら、一条は独りごちる。序盤に纏った闇は、すでに消失していた。鴉の爪が迫る。一条は、後ろに飛んでそれを回避。代わりに、櫻木の放った真空の刃が鴉を襲う。 「赤ちゃんが脱出したから、結界を張るね」 公園内から、赤ん坊を連れた尾上とイスタルテが離脱したのを確認し、櫻木が後方に下がって結界を形成し始める。そんな彼女を庇うように、石動が前に出た。 「回復は任せてください」 と、石動が言う。 「ひゃっは!」 石動の声が聞こえているのか、いないのか。一条は、鴉の背に飛び乗り、爪を突き立てた。鴉が宙に舞い上がり、一条を振り落とす。地面に落下した一条目がけ、急降下。鉤爪が光る。一条を押さえつけ、鉤爪で握りつぶそうとする鴉。 「握ったらそれ以上は離さんとできんやろがっ!」 鴉の足首に爪を突きさし、抉る。鴉は悲鳴を上げ、再び宙へ。風圧で一条の身体が後方に吹き飛ばされた。毒を受けたのか、顔色が悪い。 「治療します。珠紀ちゃん、時間稼ぎを!」 石動が駆け寄った。一条に向けた手の平に淡い光が集まっていく。一条と入れ替わりに、結界を張り終えた櫻木が前へ。ピンクの髪が風に舞う。 「了解! 普通の鴉でも色んな被害が出るっていうのに、こんな大きいとたまんないね」 なんて、軽口を叩きながらも、真空の刃を投げつける。怯んだ隙に、一気に駆けよって、鴉の顔へ向かってスローインダガ―を放った。 「カぁぁぁぁぁ!!」 鴉が鳴き喚く。ダガ―が鴉の片目に突き刺さったのだ。闇雲に、嘴が突き出され、櫻木の細い身体を捕らえる。肩を突かれ、櫻木の身体が地面を転がった。 「あ、うぅ……」 櫻木が呻く。そんな彼女に向かって、鴉が急降下。風が渦巻く。 「銭の為ならえんやこりゃ、っと」 鴉が地上に迫る。風の音がうるさい。そんな強風に、灰色の髪をそよがせながら、治療を終えた一条が前へ出る。爪を構え、にやりと笑う。 一条の爪が、紅く染まった。それは、まるで血に濡らしたかのような紅い色。怪しく、鈍く、血のように輝く、鉄の爪。 「銭が貰えればそれで満足でさぁ」 だから倒されてくれ、とでも言うかのような不敵な笑み。鴉に向かって飛びかかる一条。宙に、紅い軌跡が走る。一瞬の交錯。鴉の嘴と、紅い爪が擦れ違う。 一条は、鴉の勢いに弾かれ地面を転がっていった。 そして……。 一瞬で、その命を奪われた鴉は、首から血を吹きだしながら、鈍い音をたてて地面に倒れたのだった。 時間は少し巻き戻る。 這うようにして地面を駆ける災原に、巨大な影が重なった。ちっ、と舌打ちして地面に転がる災原。一拍遅れて、風が渦巻き、地面が揺れる。災原目がけ降りて来たのは、小さな傷を無数に負った、手負いの鴉だ。 もっとも、手負いなのは災原も同様。体中に擦り傷や打撲が目立つ。 高速で地上を駆け、時には残像が出来るほどの速度で移動する災原相手に、鴉は致命傷を負わせることが出来ないでいる。 災原も、上空から迫り、巨体と風で圧倒してくる鴉相手に致命傷は与えられていない。 幾度も交戦し、その度に少しずつ互いの体力を減らしていくだけだ。 「赤ん坊は上手く救出できたみたいだし、後はこいつ等潰すだけよね?……」 チラ、と周りの様子を窺う。巣を守りに向かった2羽は、たった今阿久津と三島に討たれた所だ。その反対側では、一条、櫻木、石動の3人が鴉と交戦中。あちらもそう時間はかからず、決着がつくだろう。 「悪いけど、あんたの相手はあたしだから……。大人しく切り刻まれてなさいな?」 上空に迫る鴉に向け、災原が言う。 災原目がけ、爪が迫る。それを盾で受け止め、小太刀を振るう。刃が足首を切り裂くが、浅い。直ぐに上空に飛び上がっていく鴉。翼によって風が巻き起こる。風圧に押され、弾き飛ばされた。鴉は、空高く飛び上がる。 鋭い瞳で、災原に狙いをつけ、鴉が急降下。嘴から地上に向かって突撃してくる。 黒い矢が迫る。迎え撃つか、回避するか。迷ったのは一瞬。災原は、地面を蹴って前へ飛ぶ。今まで彼女がいた場所に、鴉の巨体が突き刺さる。地面が抉れ、土くれが飛び散る。巻き起こった風の隙間を縫うように、災原が鴉に迫る。その黒い背に向かって小太刀を突き立てた。 鴉が鳴き声を上げた。黒い翼を羽ばたかせる。風と共に、辺りに散っていた木片や小石が宙を舞う。シールドでそれらを弾きながら、災原が後退。 「あんた邪魔よ……」 虚ろな目で、黒い翼を睨む。再び空へ。災原の攻撃が届かぬ空へ鴉が舞い上がる。 その時……。 「カァァ!!?」 鴉の翼に、矛が突き刺さる。空中でバランスを崩す鴉。突然の出来事に対応できないのだろう、鴉は首を左右に巡らせ、敵を探す。 「撃退させてもらっちゃーうよ!」 矛を投げたのは、傷だらけの阿久津だった。いつも通りの細い目で、災原に合図を送る。 「余計なお世話よ……」 なんて、悪態をつきながらも災原は地を蹴って、落下途中の鴉に接近する。動きを邪魔する盾を投げ捨て、小太刀を構えた。 次の瞬間、小太刀が消える。 否、消えたのではない。見えないだけだ。目で捕らえきれぬほどの速度の斬撃。風を切る音が聞こえる。空中に飛び散る鴉の血。 やがて……。 重たい音をたて、地面に落下した鴉は、二度と動くことはなかった……。 ●赤ん坊返却。 『鴉の殲滅終了です。そちらはどうですか?』 イスタルテのAFから、石動の声が聞こえる。それを聞いてイスタルテは安堵のため息を吐いた。 「回復は後ほど分担で構いませんか?」 と、石動に確認をとって、イスタルテは尾上に視線を向ける。尾上は、自身の傷のことなど忘れたかのように、赤ん坊にかかりきり。 鳴き喚く赤子をあやしにかかっている。 「よしよし……。いい子いい子。もう大丈夫だよー?」 と、赤ん坊を左右に揺らしながら、語りかけている。 「哺乳瓶の中にミルクとか詰めて持ってくるんだったぁ」 「早くお母さんの所に連れて行ってあげた方がいいんじゃないですか?」 その方が、赤ん坊もすぐに泣き止むことだろう。 2人は急ぎ足で公園の外周を進む。 泣き喚く赤ん坊を、母親の元に送り返すために……。 母親の喜ぶ顔を想像し、自然と2人の口元は優しく緩むのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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